
相続で不動産を取得した場合や夫婦で自宅を購入した場合など、1つの不動産が他の相続人や夫婦で共有名義となっているケースが多くあります。
共有名義のままにしておくと、その不動産を売却する、再度相続がある、または夫婦が離婚したときなどにトラブルとなることも多く、早めに共有名義を解消しようと考えている人もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、不動産の共有名義を解消する方法について、一般的なものからレアなケースまで詳しく解説していきます。
目次
共有名義を解消する5つの方法
共有名義を解消する方法はいくつかあります。ここではまず代表的な方法から見ていきましょう。
1.持分売却・買取
不動産の共有名義を解消する方法として、最も簡単なのが持分の売却・買取です。
持分とは、「その人が共有名義の不動産に対して、どれだけ所有権を持っているか」という割合を示したものです。持分の割合は不動産登記簿などに記載されています。
持分は所有権であるため、売買が可能です。
自分の持分を他の共有者に売却する(持分移転)もしくは、他の共有者の持分を自分が買い取ることで、単独名義となり共有名義が解消されます。
ただし、持分の売買の場合には、住宅ローンなど金融機関からの融資を受けられないため、通常、購入者が現金などの自己資金を用意する必要があります。
持分の売却で利益が出た場合は、所得税の確定申告が必要です。

2.持分放棄
持分放棄とは、不動産を共有している人が自分の持分を放棄することをいいます。離婚後、その不動産に居住していない場合などに行うことが多い方法です。
放棄した持分は他の共有者に帰属することになるので、一人以外の共有者が持分放棄をすれば、単独名義となり共有名義が解消されます。
持分の売却・買取と異なる点は、持分放棄には代金の支払いが発生せず、無償で行われることです。持分放棄が行われれば、名義が変更になるため、所有権移転登記を行う必要があります。
通常、持分放棄による所有権移転登記は、共有者全員で法務局に申請する必要があります。
持分放棄で注意しなければならないのが、所有権を譲り受けた人に贈与税がかかる可能性があるということです。
持分放棄は無償で所有権を譲り渡す行為で、金銭や不動産などの贈与と同じと考え、贈与税がかかります。不動産の価値が高いと贈与税の金額も高くなるので注意が必要です。

3.共有物分割請求訴訟
共有物分割請求訴訟とは、裁判所の裁定により不動産の共有名義の解消をする訴訟のことです。
金銭による解消など、共有者間で合理的な共有名義解消を裁定してくれるため、共有者同士でトラブルが起こった場合や起こりそうな場合に有効な方法です。
不動産所有者の1人が裁判所に訴訟することで、開始されます。

4.土地の分筆
共有名義の不動産が土地の場合は、分筆という方法で共有名義の解消をすることができます。分筆とは、1つの土地を共有者の数に応じて、2つ以上の土地に分けることです。
分筆が完了すると、共有名義が解消され、共有者の各人が分割した土地それぞれの単独所有者となります。
分筆は持分に応じて土地を分けますが、ここで注意したいのが持分は土地の面積を示すわけではなく所有権の割合ということです。
分筆する際は土地の面積ではなく、持分に応じた価値で分ける必要があります。
同じ面積でも、道路に面している土地とまったく道路に面していない土地では、利便性の観点などから土地の価値が変わります。
そこでトラブルにならないためにも、持分に応じた価値に相当する土地を分ける必要があります。
5.第三者への売却
手もとに不動産は残りませんが、不動産を第三者に売却し、現金を持分に応じて分けることで、共有名義を解消する方法もあります。
例えば3人の共有者が持分1/3ずつ所有している不動産を2,400万円で売却した場合は、その代金を800万円ずつ3人で分けます。
ただし、第三者への売却は共有者全員の同意が必要となります。共有者が1人でも反対している場合は売却できないので注意が必要です。

共有者が「認知症」や「連絡が取れない」場合の共有持分の解消方法
ここまでは、一般的な共有名義を解消する方法について確認しました。
しかし、共有名義の解消には、一般的な方法では解決できないケースも多くあります。そこで、ここからはそうしたケースについて見ていきましょう。
共有者が認知症の場合
高齢化社会の現代において、認知症は身近な問題です。共有者が認知症になることも当然考えられます。認知症になった共有者は、自分で物事の判断をするのが難しい場合もあります。
このような場合は、成年後見制度を利用します。成年後見制度とは、認知症などさまざまな理由で、判断能力が不十分な人を法律的に支援・保護しようとして考えられた制度です。
簡単にいうと、代理人を選択し、預貯金の引き出しや不動産の売買などの事項で認知症の人の権利が侵害されないよう、法律的に守る制度です。
成年後見制度には、「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあります。本人の意思決定能力や判断力の度合いによって、どちらの制度を利用するのかが決まっています。

①任意後見制度
任意後見制度は、認知症になる恐れがある場合や、認知症になっていても本人に意思決定能力や判断力がある場合に利用する制度です。
あらかじめ、後見人を選び、どこまでの業務を委任するかの契約(任意後見契約)を結びます。その後、意思決定能力や判断力が低下したら、任意後見契約を結んだ代理人が、契約した業務を行います。
任意後見契約に、持分売却や土地の分筆など、共有名義を解消するための業務を盛り込むことで、認知症の共有者がいても共有名義を解消できます。
②法定後見制度
法定後見制度は、本人の意思決定能力や判断力が低下してから代理人を選び、さまざまな業務を代行する制度です。家庭裁判所が、法律で定められた後見人を選任します。
代行を必要とする人を意思決定能力や判断力の状態に応じ、症状の軽い順に「補助」「保佐」「後見」の3つのタイプに分けます。
各タイプの代理人をそれぞれ「補助人」「保佐人」「後見人」と呼びます。後見人となると、すべての業務を行えます。
後見業務の開始には家庭裁判所の審判が必要ですが、任意後見制度と法定後見制度では手続きが違うので注意が必要です。
成年後見制度を利用する場合には、弁護士などの専門家に相談したほうが良いでしょう。
所在は、はっきりしているが連絡が取れない場合
次に、共有者と連絡が取れない場合について見ていきましょう。共有者と疎遠になっていたり、離婚などのトラブルを抱えていたりすると、こちらから連絡しても返事がないことも多くあります。
話し合いができなければ、共有名義を解消できません。この場合の解決方法は、裁判所への訴訟となります。裁判所に共有物分割請求訴訟を提起し、裁定により共有名義を解消します。
行方不明で連絡が取れない場合
共有者と連絡が取れないもう1つのケースが、共有者が行方不明となっている場合です。しばらく連絡が取れず所在がわからない場合は、戸籍や戸籍の附票などから共有者の住所や居所を確認します。
それでも行方が分からない場合は、家庭裁判所に対して不在者財産管理人の選任を申し立てます。
不在者財産管理人とは、家庭裁判所の監督のもと、行方不明者のためにその人の代わりに財産を管理する人のことです。不在者の所在や居所が分かった場合は、管理している財産を引き渡します。
不在者財産管理人には、作成した財産目録を裁判所に提出したり、財産の管理状況を裁判所に報告したりする義務があります。
ただし、その財産の売却や処分などの権限はありません。そこで共有名義を解消するためには、不在者財産管理人選任の後、別途、裁判所に不動産の売却の許可を取り、共有名義を解消します。
また、行方不明者の生死が7年以上不明の場合は、家庭裁判所に失踪宣告の申し立てをするという方法もあります。
失踪宣告をすれば、不在者は死亡したものとみなされるので、相続(遺産分割)という形で共有名義を解消できます。

共有者が死亡した場合の共有持分の取り扱い
相続の話が少し出てきたので、ここで共有者が死亡した場合の共有持分の取り扱いについて見ていきましょう。
共有者が死亡した場合、共有者が所有していた財産はすべて相続財産になります。共有不動産の持分についても、同じく相続財産です。そこで、相続人が共有持分を引き継ぐことになります。
相続のおおまかな流れ
ここで、共有者が死亡し、相続が起こった場合のおおまかな流れを確認しましょう。
①相続人の確認
相続が開始されたら、まず相続人(財産を引き継ぐ人)が誰かを確定する必要があります。相続人の確認は、戸籍謄本等を遡って調べます。
②被相続人の財産の確定
被相続人(亡くなった人)が、どのような財産をいくら持っていたかを確定します。通帳の流れや郵便物などから調査することが多いです。
③財産の評価と遺産分割協議
相続人と財産が確定したら、次にその財産をどのように分割するのかを協議します。分割方法を決めるためにも、不動産などがある場合はその価値を評価します。
相続人の全員が分割協議に合意すると、通常、遺産分割協議書を作成します。
④相続税の申告と納付
相続開始から10カ月以内に、相続税の申告書を作成し、相続税の申告と納付を行います。
⑤名義変更の手続き
必要に応じて、口座の名義変更や不動産の相続登記などの手続きを行います。

共有名義を解消するためには、遺産分割協議が重要
共有者が死亡した場合、共有名義を解消するためには、遺産分割協議が最も重要となります。
遺言書がない限りは、どのように遺産を分割するかは遺産分割協議によって決定することになっているからです。
共有名義を解消するためには、その持分を相続する必要があります。もし別の相続人がその持分を相続してしまうと、共有者が変わっただけで、共有名義は解消されません。
ただし、遺産分割協議は相続人の全員が合意しないと決定しません。トラブルなく遺産分割協議を終わらせるためには、持分の価値をきちんと評価し、他の遺産と合わせて平等に分割する必要があるでしょう。
不動産の評価について、建物は固定資産税評価額を、土地は路線価などを用いて評価額を計算します。
例えば、夫と妻で1/2ずつ所有している不動産があり、子1人の3人家族の場合、夫が亡くなれば相続人は妻と子です。それぞれ遺産を1/2ずつ相続する権利があります。
夫の財産が現預金1,000万円、評価した不動産の持分2,000万円の合計3,000万円の場合、妻と子はそれぞれ1,500万円ずつ遺産を相続する権利があります。
この場合、妻が共有持分2,000万円を相続すると、子は現預金の1,000万円しか相続できず、不平等が生じてしまいます。
不動産を妻の単独所有にするために、共有名義を解消するのには、妻から子へ差額の500万円をお金で支払う(代償分割)など、遺産分割を工夫する必要があります。
このように、共有名義を解消するためには、遺産分割協議が最も重要です。

相続税の納付額にも注意が必要
共有者が死亡した場合、共有持分は相続財産になります。相続財産を引き継ぐ場合には相続税がかかります。
実際には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があるため、この基礎控除を超えた場合にのみ相続税が課されます。
上記の例なら、法定相続人は2人のため、「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」の基礎控除があります。これに対し、相続財産は3,000万円のため相続税はかかりません。
もしも相続税が発生すると、遺産の金額に応じて10~55%の税金がかかってきます。遺産の金額によっては、考えていたより大きな金額の相続税を納付する必要が出てくることもあるので、注意しましょう。

まとめ
共有名義を解消する方法には、さまざまなものがあります。大事なのは、自分に合った方法を選択するということです。
しかし、共有名義の解消には多くの手続きや注意点があり、なかなか1人で良い方法を見つけることは難しいでしょう。そこで、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをオススメします。
弁護士や司法書士などの専門家に依頼するハードルの高さを感じていたり、費用が気になったりする方は、不動産会社に相談するという手もあります。
不動産会社の中には弁護士と連携し、他の共有者とトラブルにならない方法を提案してくれるところもあります。ぜひ相談してみてください。