相続が起こると、相続人たちで遺産の分割方法を話し合い、被相続人の遺産内訳とその分割方法を記載した「遺産分割協議書」を作成します。
共有持分を相続するときは「誰が何割の持分割合を相続するのか」まで、遺産分割協議書に記載しましょう。
共有持分を相続で細分化すると、共有者の数が増えてしまい、管理・処分に必要な共有者の同意を得るのが大変になり、顔も知らない遠縁の親戚と共有状態になるリスクもあります。
そのため、可能であれば相続を機に共有持分を一本化できないか、相続人同士で話し合うとよいでしょう。
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共有持分を相続する際の問題点
被相続人(亡くなった人)が残した財産のなかに不動産があり、相続登記(相続によって所有権が移転したときにおこなう登記)をせずに放置した場合、その不動産は「法定相続人全員による共有」という状態になります。
被相続人がその不動産を他者と共有している状態(=共有持分)であっても同様です。
そして、複数の相続人が共有持分を引き継ぐと、さまざまな問題点が生じます。
権利の細分化によって利害関係者が増える
不動産を共有することは、不動産から得ている収入や固定資産税、売却に関わる人間が増えることを意味します。
たとえば、被相続人が他者と1/2ずつ持分を有していた投資用のマンション1棟を、3人の相続人が相続した場合、そのマンションを共有している人間は4人となります。
マンションから得られる賃料収入や経費の配分、マンションの管理や処分などは4人で話し合わなければなりません。固定資産税を支払う際も、4人で分担する必要があります。
不動産を共有する4人の関係が良好なときは問題ありませんが、そうでない場合は、意見がまとまらずトラブルに発展する可能性があるでしょう。関わる人間の数が増えるほど、そのリスクは高くなります。
1つの不動産に関わる人間の数が増えるほど、不動産の活用は難しくなっていくという側面もあります。
世代がくだると共有者の把握が困難になる
上記の例では、1人の権利者が持っていた共有持分を、相続により3人の相続人で共有する状態になりました。
次世代以降も同様の相続がおこなわれると、共有持分はどんどん細分化されて共有車の数も増えることになります。
被相続人が持つ共有持分を最初に相続した3人は連絡が取り合える状態にあったとしても、その下の世代になると交流も疎遠になる可能性があります。
不動産の管理や売却、固定資産税の支払いなどにおいて、共有人同士の意思疎通を図るのが困難になることが予想できます。また、不動産の処分や共有状態の解消をしたくなっても、行方不明の共有者がいて話がまとまらない事態も起こりえます。
共有持分を誰か一人が相続するには?
被相続人が持っていた共有持分を複数の相続人が相続し、相続人全員による共有状態にしておくと、さまざまな問題が生じます。
こうした事態を回避するには、相続人のうちの誰か一人が相続し、権利の細分化を防ぐことが望ましいでしょう。
次の項目では、共有持分を一人の相続人に相続させる方法を説明します。
遺産分割協議をして相続人を一本化
被相続人の共有持分が相続人全員による共有状態となるのを防ぐためには、遺産分割協議をおこない、共有持分の所有者を一人に決める必要があります。
遺産分割協議は相続人全員で遺産の分け方を決めるものです。ここで決めた内容を、相続する意思があるすべての法定相続人が合意すれば、遺産分割協議は成立します。
遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議書を作成し、合意した内容の証拠として残しておきます。遺産分割協議は時間がかかりますので、相続が発生したらすぐに準備をはじめましょう。
遺産分割協議に時間を要するのは、被相続人の出生から死亡までの戸籍を集めて確認して法定相続人を確定したり、相続財産の調査や財産目録の作成をしたりする必要があるからです。
また「相続の意思があるか」「遺産分割協議の内容に合意できるか」など、法定相続人全員の意向を確認しなければならない場面がしばしばあり、法定相続人のなかで遠方に住んでいる人がいると、連絡を取り合うのも手間がかかります。
このようなことから、遺産分割協議はハードルが高いと感じられがちです。しかし、トラブルを回避するためにも手間は惜しまないようにしましょう。
相続人を一本化できない場合は家庭裁判所へ
遺産分割協議がうまくまとまらず、相続人を一本化できない場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停または審判の手続きをおこないます。
遺産分割調停とは、裁判所に間に入ってもらい問題を解決する方法です。調停委員が各当事者の主張を聞き、提出された資料を確認して解決案を提示します。
遺産分割調停の成立までにかかる期間は、6割以上は1年以内に成立するとされています。1か月以内に終わることもあれば、成立まで3年を超えるものもあるようです。
なお、調停がうまくいかず不成立だった場合は、遺産分割審判に進みます。審判とはいわゆる「裁判」のことです。裁判官が間に入り、各当事者の主張などを考慮したうえで、共有持分を誰が相続すべきか審判します。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成して内容を文書に残しておきましょう。
遺産分割協議書は書式・用紙に決まりはなく、手書きでもパソコン作成でもかまいません。ただし、押さえておくべきポイントがいくつかあります。自分で作成するのが不安であれば、弁護士や司法書士に依頼するとよいでしょう。
下記の画像を参考に、書き方をわかりやすく解説していきます。
1.タイトル、被相続人の情報
「遺産分割協議書」という表題と、被相続人(亡くなった人)の氏名・死亡日・本籍地・亡くなる直前の住所地を記載します。
引っ越しを繰り返した結果、本籍が最終住所とまったく違うことがよくあるので、住民票や戸籍からしっかりと確認しておきましょう。
2.相続人全員で遺産分割協議をした旨の記載
相続人全員の氏名と、その人員で遺産分割協議がおこなわれたことを記載します。また、その協議の詳細を遺産分割協議書に余さず示す旨(下記のとおり遺産を分割したという文言)を記載します。
3.財産の内容と相続する人の氏名
相続財産のうち、どの財産をだれが相続するのか明記しておきます。財産としてよく挙げられるのが、預貯金・不動産・有価証券です。
不動産の表記は登記簿謄本(または登記事項証明書)の「表題部」に書かれているとおりに「所在」「地番」「地目」「地積」を記載します。
また、今回はこの土地の1/2が被相続人の共有持分であるので、そのことがわかるように「A持分2分の1」と書いておきましょう。
預貯金や有価証券については、金融機関・支店名・口座番号・具体的な金額などを記載しておきます。
どの財産をだれが相続するかを示したら、最後に遺産分割協議が成立したことを証明するために遺産分割協議書を作成した旨を記載しておきます。
なお、遺産分割協議書を作成後、新たに相続すべき財産・債務が判明したときにどう対処するのかも書いておくと、いざというときのトラブルを防げるのでおすすめです。もう一度分割しなおすのか、後から見つかったものは特定の人に相続させるのか、あらかじめ決めておきましょう。
4.協議が成立した日付、相続人全員の氏名・住所・押印
協議が成立した日付、相続人全員の住所と氏名(署名が望ましいが記名でも可)を記載します。また、それぞれの実印を押印しましょう。
作成した遺産分割協議書は、相続人全員が各自1通ずつ所持します。
遺産分割協議書作成後は不動産の相続登記をおこなう
遺産分割協議書を作成したら、不動産については法務局で相続登記(名義変更)をおこないます。不動産の相続登記にはいくつか書類が必要です。
先ほどの「被相続人Aの共有持分をAの長男Cが相続した」という例を使って説明します。
相続登記に必要な書類と注意点
相続登記をする際、法務局に提出する書類は下記のとおりです。
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本または除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(所有者の住所が異なる場合)
- 被相続人の戸籍の附票(登記簿上の所有者の住所と被相続人の住民票の除票が一致しない場合)
- 相続人の住民票の写し(住民票コードを申請書に記載すれば提出不要)
※4、5は被相続人の死亡日以後の発行であること。
※5で被相続人の戸籍謄本などと重複するものがある場合は、重ねて提出する必要はありません。
相続登記は、申請する不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。持参・郵送のいずれでも申請可能です。
また、オンライン申請も可能ですが、相続登記申請書に添付する書類(2~7)を持参または郵送する必要があります。オンライン申請については、法務局のHPを参照してください。
上記の提出書類のほかに、登記申請書を書いたり、登録免許税(登記する際に法務局に納める)を計算したりするために、下記の書類が必要となります。
・固定資産税評価証明書
また、印鑑証明書や戸籍謄本など、役所で取得する書類には手数料がかかります。
登記申請書記載例
登記申請書はA4用紙を使い、添付資料とともに左側をとじて提出します。手書き、パソコン作成のどちらでもかまいません。それでは、上述の例にしたがって記載例を見てみましょう。
1.登記の目的
登記の目的は、今回の場合はAが持っていた共有持分の相続なので「A持分全部移転」記載します。「原因」に記載する日付は被相続人が死亡した日です。
2.相続人の氏名と住所
住民票の写しに書かれているとおりに、不動産を相続する人の氏名・住所を記載し、末尾に押印します。押印は認印で問題ありません。今回の場合、Aの共有持分(1/2)をCが相続するので、氏名の前に「持分2分の1」と記載しておきます。
3.添付情報
今回の申請の場合、申請書に添付する書面は「登記原因証明情報」と「住所証明情報」です。ちなみに「登記原因証明情報」は上述の添付書類1~6、「住所証明情報」は7を指します。
登記識別情報の通知を希望しない場合は□にチェックを入れます。申請は不動産の所在地を管轄する法務局です。
4.課税価格
4.課税価格は固定資産税評価証明書に「本年度価格」「評価額」などと書かれているものです。Aの共有持分は1/2なので、証明書に書かれている金額の1/2を記載します。1,000円未満は切り捨てられます。
登録免許税の税額は「上記の課税価格×税率」で計算され、税率は登記の種類によって異なります。今回のように、土地の所有権を移転する場合の税率は0.4%です。
登録免許税は原則、現金で納付しますが、金額が3万円以下なら収入印紙を「登録免許税納付用台紙」(A4用紙で代用可)に貼り付けて提出できます。3万円を超える場合でも収入印紙で納付することはあるので、詳細は法務局で確認しましょう。
5.不動産の表示
「不動産の表示」は、登記簿謄本(または登記事項証明書)に記されているとおりに記載します。
まとめ
共有持分を相続する際は、のちにトラブルとなるのを防ぐために、1人の相続人が相続することをおすすめします。
妻と複数の子どもといったケースのように、相続人が複数人いる場合は遺産分割協議をおこない、1人の相続人に共有持分を相続するよう取り決めます。
遺産分割協議で決まったことは、遺産分割協議書に記載しておきましょう。
不動産の所有者が変わったら、法務局に相続登記の申請をして不動産の名義を変更します。その際、登記申請書とともに遺産分割協議書も添付する必要です。
遺産分割協議から相続登記まで独力で行うことも可能ですが、役所での書類の取得や相続人間の調整、申請書の作成など、手間がかかります。
スムーズに相続を終えるには、弁護士や司法書士など専門家に相談するほうがよいでしょう。