共有名義の不動産は相続トラブルを招きやすい
共有名義の不動産は、相続トラブルを招きやすい傾向にあります。現在共有者同士の関係が良好でも、相続によって代が変わったあと、同じように良い関係を築けるとは限らないためです。
各共有者が亡くなり相続が発生すれば、これまで面識のなかった人同士が共有者になる可能性があります。
ケースによっては不動産の利用方法でもめたり、管理費や税金の負担方法でもめたりと、大きなトラブルに発展することもあるでしょう。そのため共有名義の不動産を所有しているときは、相続トラブルを想定して生前に対策しておくことが重要です。
すでに共有名義で相続している場合は、共有不動産全体の売却や共有者同士で持分を売買するなど、共有状態を解消する方法を検討することをおすすめします。
相続で不動産が共有名義になるケースとは?
相続によって不動産が共有名義になるケースには、以下の2パターンがあります。
- もともと共有名義だった不動産を相続した
- 1つの不動産を複数の相続人で相続した
不動産がもともと共有名義だった場合、一部の持分だけを相続することでそのまま共有状態が継続します。
たとえば不動産をAとBが共有している状態で相続人CがBの持分を相続すれば、所有者はAとCになるため結局共有状態のままです。
もしCがAの推定相続人でもあるケースなら、Aに相続が発生したときもCが相続すればCは不動産を単独所有できます。しかしAとCが他人なら、不動産全体を売却したり、どちらかがもう片方の持分を譲り受けたりしない限り共有状態は解消されません。
一方、もともとは単独で所有されていた不動産でも、複数の相続人で相続すれば共有名義になります。
たとえば、Aが単独所有していた不動産をBが1人で相続すれば、その不動産はBの単独所有です。しかし、BとCが2人で相続すれば、不動産は相続をきっかけに共有不動産になります。
共有不動産を相続した際に起こりやすいトラブルと対処法
共有不動産で相続が発生した場合に起こりやすいトラブルは以下のとおりです。
トラブル |
対処法 |
権利関係が複雑化する |
弁護士・司法書士などの専門家に相続人調査を依頼する。 |
不動産の利用方法で意見が割れる |
自分の持分を共有者や第三者に売却するなどして、共有関係からの脱出を検討する。 |
管理費や税金をどのように負担するかでもめる |
弁護士に相談する。支払わない共有者がいる場合は「求償権」を行使することで強制執行が可能。 |
特定の共有者が不動産を独占する |
不法占有なら「建物明渡請求」を申し立てる。そうでない場合は家賃を請求し、支払ってくれないときは「不当利得返還請求」を行う。 |
占有者が賃料を支払ってくれない |
占有者に家賃を請求し、支払ってくれないときは「不当利得返還請求」を行う。 |
他の共有者が行方不明になる |
「所在等不明共有者の持分取得の申立て」または「持分譲渡の権限付与の申立て」を検討する。 |
他の共有者が認知症になる |
成年後見制度を利用し「成年後見人」を選任する。 |
他の共有者が持分を売却したことで面識のない人が新たな共有者になる可能性がある |
管理費や税金を支払わない・不動産を独占するなどの問題があれば弁護士に相談する。 |
それぞれ解説します。
権利関係が複雑化する
相続によって、権利関係が複雑化する可能性があります。
共有者が亡くなると、その共有者の持分が各相続人に引き継がれるためです。相続人が単独で相続すれば人数は変わりませんが、複数の相続人が共有で相続すればその分共有者が増えてしまいます。
たとえば現在2人で共有しているケースでも、それぞれ5人の相続人に相続すれば共有者は一気に10人になります。その状態で不動産全体を売却しようと思ったら、10人全員が売却に合意しなければなりません。
また、亡くなった共有者の相続人と他の共有者に面識がある場合や、存在を知っているならよいですが、実際はそのようなケースばかりではありません。
「相続人がいるのかどうかすらわからない」「いるとは聞いているが連絡先がわからない」というときは、弁護士や司法書士などの専門家に相続人調査を依頼することをおすすめします。
弁護士や司法書士は、職権で戸籍や住民票が取得できます。経験豊富な専門家なら、素人では解読するのが難しい古い戸籍の扱いにも慣れているため、スムーズに漏れなく調査してくれるでしょう。
不動産の利用方法で意見が割れる
相続が原因で、不動産の利用方法について意見が合わなくなる場合があります。亡くなった共有者と意見が合っていたからといって、その相続人とも意見が合うとは限らないためです。
たとえば、他の共有者が共有不動産の価値を上げるためにリフォームを希望していても、新たな共有者が「管理したくないから売却したい」と言い出した場合、どちらも共有者全員の同意が必要な「変更行為」に該当するためできません。
そのため不動産を有効に活用できず、結局放置されてしまう可能性があります。
このようなケースでは、以下の方法で共有関係から抜けることを検討したほうがよいかもしれません。
- 自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう
- 自分の持分を第三者に売却する
- 自分の持分を放棄する
それぞれの方法については、「すでに共有名義で相続したあとにできる対策」で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
管理費や税金をどのように負担するかでもめる
相続が発生したことで、管理費や税金の負担割合についてもめる可能性があります。
原則として、共有不動産にかかる維持管理費や固定資産税・都市計画税などの税金は、共有者全員がそれぞれの持分割合に応じて負担します。
(共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
引用元 民法第二百五十三条|e-Gov法令検索
第十条の二 共有物、共同使用物、共同事業、共同事業により生じた物件又は共同行為に対する地方団体の徴収金は、納税者が連帯して納付する義務を負う。
引用元 地方税法第十条の二|e-Gov法令検索
しかし、新たな共有者が「好きで相続したわけでもないのに、なぜ管理費や税金を支払わなければならないのか」という不満を持ったり、管理負担の大きい共有者が「負担割合が持分どおりなのは納得できない」と言い出したりすることも考えられます。
お金の絡むトラブルを、当事者だけで解決することは困難です。トラブルになったら、迷わず弁護士に相談しましょう。
なお、税金に関しては、代表者あてに納付書が届きます。そのため代表者がまとめて納付しますが、あとから他の共有者に対してそれぞれの持分割合に応じた金額を請求できることになっています。
管理費や税金を請求しても共有者が支払わない場合は、「求償権」の行使が可能です。
【求償権とは】
立て替えた管理費や税金を請求できる権利のこと。まずは口頭や書面で請求し、支払わなければ内容証明郵便で請求する。それでも支払わない場合は支払督促や訴訟を行い、最終的に強制執行を申し立てて財産を差し押さえる。
共有者が固定資産税を支払わないときの対処法については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてチェックしてみてください。
特定の共有者が不動産を独占する
特定の共有者が、共有不動産を独占してしまうケースも少なくありません。たとえば兄と弟が2人で共有している不動産に、弟だけが住んでいるようなケースです。
この場合、弟は権利を独り占めし、兄の権利を侵害しているともいえますが、弟を追い出すことは原則としてできません。民法で定められているとおり、弟にも共有不動産を使用する権利があるためです。
(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
引用元 民法第二百四十九条|e-Gov法令検索
そのため、たとえ「建物明渡請求」を申し立てても、弟の占有は適法であると判断されて終わる可能性が高いでしょう。
【建物明渡請求とは】
建物の占有者を強制的に退去させるための手続き。裁判所に申立てが認められれば、強制執行によって占有者を追い出せる。
ただし、その占有が違法なものであるときは、共有者への明渡請求も認められることがあります。
たとえば以下のようなケースです。
- 共有者間で定めた利用方法を無視して勝手に占有している
- 利用方法を決めるための協議を拒否して占有している
- 他の共有者に無断で建物を建築している・またはしようとしている
- 共有者の私物を勝手に共有不動産の外に出したり処分した
- 共有不動産の鍵を勝手に変えた
必ずしも認められるとは限りませんが、上記に該当するなら明渡請求を検討してみてもよいかもしれません。
なお、占有者を追い出すことはできなくても、占有者に対して家賃を請求することは可能です。この場合、賃貸借契約の締結は必要ありません。
家賃の計算方法については、次項で詳しく解説します。
占有者が賃料を支払ってくれない
共有不動産を占有している共有者が賃料を支払ってくれない、ということもよくあるトラブルの1つです。
前述のとおり、共有不動産の占有者は、他の共有者に対して家賃を支払う必要があります。そのため占有者が家賃を支払ってくれない場合、他の共有者は占有者に家賃を請求できます。
家賃の計算方法は以下のとおりです。
1カ月分の家賃=家賃相場×自分の持分割合×占有した期間
たとえば以下の条件なら、請求できる家賃の目安は96万円です。
・物件周辺の家賃相場:6万円
・兄の持分は3分の2
・弟の持分は3分の1
・弟の占有期間:2年間
6万円×2/3×24カ月=96万円
ただし、上記の家賃はあくまでも目安です。共有者全員が納得しているなら、上記の金額より多くても少なくても問題ありません。
注意点は、ケースによっては家賃を請求できない点です。以下に該当する場合は家賃を請求できません。
- 使用貸借契約を結んでいる
- 被相続人と同居していた相続人がそのまま共有不動産に居住している
- 不動産を共有していた内縁の夫婦のうち片方が死亡した
無償でものを貸し借りする契約「使用貸借契約」を結んでいる場合は、家賃請求ができません。
また、被相続人と同居していた相続人が、被相続人が亡くなったあともそのまま共有不動産に居住しているケースでは、「被相続人との使用貸借契約が成立している」と考えられるため家賃は請求できないとされています。
不動産を共有していた内縁の夫婦のうち片方が死亡した場合も、亡くなった夫(妻)の相続人は生存している妻(夫)に対して家賃請求できません。
上記に該当しない場合で共有者が家賃を支払わないときは、以下の対処法を検討しましょう。
- 不当利得返還請求をする
- 共有物分割請求をする
- 自分の持分を売却・放棄する
「不当利得返還請求」は、他人のせいで得られなかった利益を返してもらう手続きです。方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
共有物分割請求、自分の持分の売却・放棄については「すでに共有名義で相続したあとにできる対策」で後述します。ぜひ参考にしてください。
他の共有者が行方不明になる
他の共有者が行方不明になり、連絡が取れなくなるリスクがあります。相続によって関係が希薄な者同士が共有者になり、行き先を告げずに引っ越す・連絡先が変わっても知らせないといったことが起こる可能性があるためです。
連絡が取れなければ、不動産を利用したくても同意を得られません。共有不動産を適切に管理できなくなったり、管理費・税金の請求がままならなくなったりするおそれもあります。
さらに、連絡がつかない状況で共有者が亡くなると、そこでまた相続が発生します。自力では相続人を把握することも難しいでしょう。
他の共有者が行方不明になった場合の対処法には、たとえば以下のものがあります。
- 「所在等不明共有者持分取得申立て」を行う
- 「所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立て」を行う
それぞれの概要は以下のとおりです。
【所在等不明共有者持分取得申立てとは】
他の共有者やその所在がわからないときに、不明共有者の持分を申立人が取得するための手続き。裁判所に申立てが認められた場合、申立人はその持分の時価相当額を供託すればその持分を取得できる。
【所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てとは】
他の共有者やその所在がわからないときに、申立人が不明共有者の持分を第三者に譲渡する権限を得るための手続き。「不明共有者以外の共有者の持分すべてを第三者に譲渡すること」が条件。
上記の制度を利用すれば、申立人が不明共有者の持分を取得したり、他の共有者の持分も含めて第三者に売却したりといったことが可能です。
ただし、持分を取得するには「持分の時価相当額」が必要であり、譲渡する権限を得るには「不動産全体」を第三者に売却しなければならない点をよく理解して行う必要があります。
ほかにも、不明者の財産を管理する「不在者財産管理人」を選任する方法や、行方不明の人を法律上亡くなったことにする「失踪宣告」などを行う方法もあります。どのような方法を選択するにしても、まずは弁護士に相談しましょう。
参照:所在等不明共有者持分取得申立てについて|裁判所
参照:所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて|裁判所
他の共有者が認知症になる
他の共有者が認知症になるケースもあります。その場合、売却や賃貸といった「変更行為」にあたる行為ができなくなるおそれがあります。
変更行為を行うためには共有者全員の同意が必要です。しかし認知症が進み「意思能力がない」と判断されるレベルになると、売却や賃貸に同意すること自体ができなくなります。
意思能力のない人が法律行為を行うと、その法律行為は無効になります。
第二節 意思能力
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
引用元 民法第三条の二|e-Gov法令検索
対処法は、「成年後見制度」を利用し成年後見人を選任することです。成年後見人を選任すれば、認知症の共有者に代わって成年後見人が法律行為を行えるため、共有者の中に認知症の人がいても売却や賃貸が可能になります。
【成年後見制度とは】
認知症や知的障害、精神障害などが原因で判断能力が不十分な人のために、財産を管理したり身上監護を行ったりするための制度。
成年後見制度には、認知症になる前に本人が後見人を選んでおく「任意後見」と、認知症になってから裁判所に後見人を選任してもらう「法定後見」があり、法定後見では弁護士や司法書士といった専門家が後見人に選任されることが多い。
ただし、成年後見制度を一度利用すると、途中でやめられない点に注意が必要です。成年被後見人の財産を管理してくれる人がいなくなってしまうためです。そのため、「売買が終わったら制度の利用をやめたい」ということは認められません。
また、専門家に後見人を依頼する場合は報酬を支払わなければならないため、制度をよく理解してから利用する必要があります。
報酬の目安は以下のとおりです。
管理財産額 |
報酬の目安(月額) |
1,000万円以下 |
2万円 |
1,000万円超5,000万円以下 |
3〜4万円 |
5,000万円超 |
5〜6万円 |
参照:成年後見人等の報酬額のめやす|大阪家庭裁判所・大阪家庭裁判所堺支部・大阪家庭裁判所岸和田支部
たとえば月額2万円でも、20年間制度を利用するとトータルで480万円かかります。
成年後見人が不動産を売却する方法については、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。
他の共有者が持分を売却したことで面識のない人が新たな共有者になる可能性がある
他の共有者が持分を売却したことで、不動産投資家などの面識のない第三者が新たな共有者になる可能性があります。
良識のある人ならよいですが、共有不動産を無断で利用し始めたり税金を支払わなかったりなど、他の共有者とトラブルになるリスクもあります。また、知らない間にまた別の第三者に売却することも考えられるでしょう。
新たな共有者とトラブルになった場合や共有者の行いに困ったときは、こじれてしまう前に弁護士に相談することをおすすめします。
生前にできる共有不動産の相続トラブル対策
ここまで共有不動産を相続したときに起きやすいトラブルについて解説してきましたが、実際にトラブルが起きてしまう前に以下のような対策をしておいたほうがよいでしょう。
- 共有状態を解消しておく
- 共有不動産を売却し現金化しておく
- 共有状態にならないよう遺言書を作成しておく
それぞれ解説します。
共有状態を解消しておく
相続が開始する前に、共有状態を解消しておくことが理想です。そうすれば、相続人が共有不動産特有の問題に巻き込まれずに済むためです。
共有状態を解消する方法は以下のとおりです。
- 他の共有者の持分を買い取る
- 他の共有者の持分を贈与で受け取る
ただし、買い取る際は市場価格相当の資金が必要です。他の共有者に売却の意思がなければ成立しない点や、相場に比べて安すぎる金額で取引すると、贈与税の課税対象になる可能性があることにも注意しなければなりません。
贈与の場合も、他の共有者の意思が必要です。また、買取費用こそかかりませんが、贈与税がかからない「基礎控除額」は年間110万円以内であるため、一度に贈与を受けると多くのケースで贈与税が発生するでしょう。
そのほか、共有状態を解消し単独名義にしたとしても、複数名で相続すればまた共有状態に戻ってしまうという問題もあります。心配であれば、共有状態を解消したうえで遺言書も作成しておくか、不動産の現金化を検討することをおすすめします。
共有不動産を売却し現金化しておく
共有不動産を売却し、現金化しておくことも有効な対策です。現金化しておけば、共有問題とは無縁になるためです。また、現金であれば公平に分配しやすいでしょう。
ただし、売却によって利益が発生すると「譲渡所得税」がかかります。生前にまとまった現金が手に入るため老後の備えにはなりますが、現金化しないケースよりも税金面で損をする可能性がある点には注意が必要です。
なお、共有者の同意が得られれば共有不動産全体を売却できますが、同意を得られなければ現金化できません。その場合は、自分の持分のみの売却を検討するとよいでしょう。
参照:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)|国税庁
共有状態にならないよう遺言書を作成しておく
生前に共有状態を解消したり現金化したりするのが難しければ、共有状態にならないよう遺言書を作成しておきましょう。遺言書を作成しておけば、共有不動産以外の財産についても分割方法を指定できます。
ただし、あまりに偏った内容にすると、よかれと思って作成した遺言書がトラブルの種になってしまいます。
たとえば、子どもが3人いるにもかかわらず「不動産も現金もすべて長男に相続させる」という内容にしてしまっては、ほかの子どもは納得しない可能性が高いです。自分の希望を含めながらも、「大切な家族がもめないこと」を第一に考えることが重要でしょう。
なお、遺言書には以下の3つの種類がありますが、中でも「公正証書遺言」で作成することをおすすめします。
公正証書遺言 |
・国の機関「公証役場」で作成してもらう
・原本を公証役場で保管してもらえる
・無効になりにくく紛失・改ざんのリスクがない
・費用がかかる |
自筆証書遺言 |
・自分で手書きで作成する
・原本を自分で保管する必要がある(法務局に預けるシステムもあり)
・簡単に作成できるが、ミスによって無効になるリスクがある
・費用をかけずに作成できる |
秘密証書遺言 |
・内容を誰にも知られない
・パソコンでも作成できる
・公証役場で封紙に署名をするため改ざんされる心配がない
・遺言者以外中身を確認しないため不備によって無効になるおそれがある
・遺言書の有無は公証役場で調べられるが、遺言書そのものが発見されない可能性がある |
公正証書遺言は、公証人が作成してくれる分自筆証書遺言・秘密証書遺言よりも確実性の高い遺言書です。財産額に応じて作成手数料はかかりますが、遺言書を作成する際は公正証書での作成を検討するとよいでしょう。
参照:公証事務|日本公証人連合会
遺産分割の際にできる共有状態を避けるための対策
以下のとおり、遺産分割の際にも共有状態にならないようにする方法があります。
- 「現物分割」による分割を試みる
- 現物分割で納得できないなら「代償分割」を検討する
- 代償金を支払えないなら「換価分割」で分割する
- 遺産分割協議がまとまらないなら「遺産分割調停」を申立てる
- 法定相続分どおりに相続したあと自分の持分を売却する方法もある
- 共有不動産だけでなく相続財産が一切いらないなら「相続放棄」も選択肢の1つ
それぞれ解説します。
「現物分割」による分割を試みる
遺産分割の際に共有状態を避ける方法として、「現物分割」というものがあります。まずは、現物分割ができないか検討してみましょう。
【現物分割とは】
不動産を特定の相続人が1人で相続し、不動産以外の相続財産を他の相続人で分割する方法。建物は物理的に分けられないが、不動産が土地であれば土地を切り分ける「分筆登記」を行い、各相続人がそれぞれの土地を相続できる。
例を見てみましょう。
・相続人:長男・次男・三男の3人
・相続財産:2,000万円の不動産・3,000万円の預貯金・1,000万円の自動車
・相続割合:3分の1ずつ
上記の相続財産を、兄弟3人で公平に分割します。
・長男:2,000万円不動産
・次男:1,000万円の預貯金+1,000万円の自動車
・三男:2,000万円の預貯金
このように、一般的には公平になるよう分割します。
相続人全員が納得していれば、どのような分け方でも構いません。しかし、たとえば相続人が複数名いるにもかかわらず相続財産が建物1棟しかないケースなど、公平に分割できる財産がない場合は、相続人全員が納得できる結果にならない可能性が高いでしょう。
現物分割で納得できないなら「代償分割」を検討する
現物分割で納得できない場合やうまく分けられないときは、「代償分割」を検討するのも1つの方法です。
【代償分割とは】
特定の相続人が不動産などの分けにくい相続財産を現物で取得し、現物で取得した相続人が他の相続人に対して金銭を支払う方法。主に、現物分割ができないときに利用される。
例を見てみましょう。
・相続人:長男・次男・三男の3人
・相続財産:3,000万円の不動産
・相続割合:3分の1ずつ
上記の相続財産を、兄弟3人で分割します。
・長男:3,000万円の不動産を取得し、次男・三男に代償金を1,000万円ずつ支払う
・次男:長男から代償金1,000万円を受け取る
・三男:長男から代償金1,000万円を受け取る
上記のケースでは、長男が1人で3,000万円の不動産を取得しましたが、次男・三男に1,000万円ずつ代償金を支払っているため、取得した財産額は1,000万円です。
この場合、それぞれが1,000万円分の財産を相続したことになるため、3分の1ずつ公平に分割したといえます。
代償金を支払えないなら「換価分割」で分割する
「現物分割はできないが、かといって代償分割をする費用もない」という場合は、「換価分割」を検討してみましょう。
【換価分割とは】
不動産を売却し、売却で得た金銭を各相続人が相続割合に応じて分ける方法。
例を見てみましょう。
・相続人:長男・次男・三男の3人
・相続財産:3,000万円の不動産
・相続割合:3分の1ずつ
上記のケースでは、不動産の売却で得た3,000万円を兄弟3人で均等に分けるため、それぞれが1,000万円の金銭を取得します。
遺産分割協議がまとまらないなら「遺産分割調停」を申し立てる
どうしても話し合いがまとまらず相続財産の分割方法が決まらないときは、「遺産分割調停」を申し立てるのも1つの手段です。
【遺産分割調停とは】
裁判官と調停委員に間に入ってもらい、あくまでも話し合いで解決を目指す手続きのこと。当事者が直接顔を合わせることはなく、裁判官や調停委員のアドバイスを受けながら話し合いを進めていくため、当事者だけで話し合うよりも冷静に話し合える可能性がある。
調停でも話し合いがまとまらない場合は、「遺産分割審判」の申立てが可能です。
【遺産分割審判とは】
話し合いではなく、家庭裁判所が「相続財産をどのように分けるか」を決める手続き。法定相続分を基準にしながらも、各相続人の言い分や資料などから総合的に判断し、以下のうちいずれかの方法を決定する。
・現物分割
・代償分割
・換価分割
審判が確定すると、相続人は全員その内容に従わなければなりません。そのため、結論はどうあれ決着はつきます。
ただし遺産分割の問題については解決しても、相続人同士の関係がこじれてしまい、別の問題が発生する可能性があります。
また、期間も半年〜数年程度かかる場合があるうえ、弁護士に対応を依頼すると費用がかかる点にも注意が必要です。できれば、ほかの方法で解決するのが望ましいでしょう。
法定相続分どおりに相続したあと自分の持分を売却する方法もある
共有状態を避けたいなら、法定相続分どおりにいったん相続したあと、自分の持分を売却する方法もあります。相続人の間で意見が合わず、これまでに紹介した「現物分割」「代償分割」「換価分割」を選択できないときは、検討してみてもよいでしょう。
法定相続分どおりに相続するメリットは、相続人のうち1人が単独で相続登記を申請できることです。つまり、法定相続分どおりに登記することについて、他の相続人の同意を得る必要はありません。
相続登記完了後は、自分の持分だけであればいつでも自由に売却できるため、他の共有者や第三者に売却すれば共有状態から抜け出せます。
自分の持分を売却する方法については、次章で解説しています。あわせてチェックしてください。
共有不動産だけでなく相続財産が一切いらないなら「相続放棄」も選択肢の1つ
共有不動産だけでなく相続財産が一切いらないなら、「相続放棄」をするのも選択肢の1つです。
【相続放棄とは】
はじめから相続人でなかったことにする手続き。相続権を失うため、プラスの財産・マイナスの財産にかかわらず、すべての相続財産を引き継げなくなる。相続放棄を行うには、「自分のために相続が発生したことを知ったときから3カ月以内」に手続きする必要があり、それを過ぎるとすべて無条件に相続する「単純承認」を選択したことになる。
ただし、共有不動産のほかにも多くの相続財産がある場合、相続放棄をすることで損をする可能性があります。
また、相続放棄の申述書が家庭裁判所に受理されると、原則取り消しができません。そのため、相続放棄をするかどうかはよく検討してから選択することをおすすめします。
実際、相続放棄が選択されるのは「プラスの財産よりも借金のほうが圧倒的に多い」「どうしても相続トラブルに巻き込まれたくない」といったケースです。
ただ「共有不動産を相続したくない」「共有関係に巻き込まれたくない」というだけなら、相続したあとで自分の持分だけを売却する方法も検討してみてください。
共有名義で相続したあとにできる対策については、次章で詳しく解説します。
すでに共有名義で相続したあとにできる対策
すでに共有名義で相続したあとにできる対策は以下のとおりです。
- 共有者全員で合意のうえ不動産全体を売却する
- 共有者同士で持分を売買する
- 土地を分筆しそれぞれが単独で所有する
- 「共有物分割請求訴訟」を行う
- 自分の持分を放棄する
- 自分の持分を第三者に売却する
これまで解説してきたとおり、共有名義にはさまざまなリスクがあるため、上記の方法を用いて共有状態を解消することをおすすめします。
それぞれ解説します。
共有者全員で合意のうえ不動産全体を売却する
共有者全員で合意のうえ不動産全体を売却することで、共有状態を解消できます。
売却で得た金銭は、持分割合に応じて各共有者に分配します。そのため、公平でもめにくい解消方法であるといえるでしょう。
また、共有持分だけの売却となると需要が限られるため、相場どおりの価格で売却することは難しいですが、不動産全体を売却する場合は市場価格に近い金額で売却できます。
例を見てみましょう。
・共有者:長男・次男・三男
・共有不動産の価格:5,000万円
・持分割合:長男が5分の3、次男・三男は5分の1ずつ
上記の条件で売却した場合、長男に3,000万円、次男・三男に1,000万円ずつ分配します。
注意点は、「共有者全員が売却に同意している」ことです。共有者のうち1人でも反対していると実行できません。
もし反対している共有者がいるなら、その共有者に持分を買い取ってもらったり持分だけを第三者に売却したりなど、ほかの方法を検討しなければなりません。
共有者同士で持分を売買する
共有者同士で持分を売買することでも共有状態を解消できます。
たとえば他の共有者の持分を買い取りすべての持分を取得すれば、不動産を単独で所有できます。反対に、自分の持分を他の共有者に買い取ってもらえば、不動産自体が共有のままでも共有関係から抜け出せます。
例を見てみましょう。
・共有者:長男・次男・三男
・持分割合:長男が5分の3、次男・三男は5分の1ずつ
上記の条件で長男が次男・三男の持分を買い取れば、長男はすべての持分を所有することになり、不動産は長男だけのものになります。
ただし、共有者の持分を買い取る場合も自分の持分を買い取ってもらうケースでも、他の共有者が売買に応じてくれなければ成立しない点に注意しましょう。いくら「単独で所有したい」と思っていても、他の共有者に売却の意思がなければ買い取れません。
また、買い取る場合は当然資金が必要です。価格のことでもめる可能性もあります。共有者間での売買がうまくいかなければ、自分の持分を第三者に売却することも検討してみてください。
土地を分筆しそれぞれが単独で所有する
共有不動産が土地なら、分筆した土地を各共有者が単独所有することで共有状態を解消できます。また、その土地に建物を建築したり第三者に売却したりなど、各共有者が自分の土地を好きに活用できます。
【分筆(分筆登記)とは】
1つの土地を複数の土地に分け、不動産の情報を書き換える手続き「登記」を法務局に申請すること。
例を見てみましょう。
・共有地の面積:300㎡
・共有者:長男・次男・三男
・持分割合:3分の1ずつ
共有地を100㎡ずつに分け、各共有者がそれぞれの土地を単独で所有します。
注意点は、共有者の過半数の同意がなければ分筆できない点です。
「共有者の過半数」とは、人数ではなく持分割合のことです。たとえば、上記の例で長男が分筆をしたい場合、次男・三男のうち片方から同意を得る必要があります。
しかし長男が5分の3、次男・三男が5分の1ずつ所有しているケースでは、長男が分筆を希望すれば分筆が可能です。
また、分筆によって土地の価値が下がる可能性がある点にも注意しましょう。土地が極端に狭くなったり道路に接しない「袋地」になったりすると土地が利用しづらくなり、価値が下がりやすくなります。
なお、土地の分筆は、不動産登記の専門家である「土地家屋調査士」に依頼することをおすすめします。分筆登記の際に地積測量図の提出を求められるほか、境界が確定していない土地であれば境界確定や境界標の設置が必要になるなど、高度な専門知識が必要であるためです。
分筆後の土地の価値や、分筆にかかる費用などを考慮したうえで検討するようにしましょう。
共有名義の土地を分筆して売る方法については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてチェックしてみてください。
【関連記事】共有名義の土地を分筆するには?流れや費用、分筆できない時の対処法|株式会社クランピーリアルエステート
「共有物分割請求訴訟」を行う
他の共有者から共有不動産全体の売却や共有持分の買取り、分筆の同意が得られないときは、「共有物分割請求」を行う選択肢もあります。
【共有物分割請求訴訟とは】
共有状態の解消を裁判所に求める手続きのこと。共有者は裁判所が決めた分割方法に従う必要があるため、強制的に共有状態を解消できる。
ポイントは、「強制的に共有状態を解消できる」点です。他の共有者ともめていても関係ありません。
ただし、必ずしも申立人の希望が通るとは限らないことを理解したうえで行う必要があります。裁判所はあくまでも、裁判所が最善であると判断した分割方法に決定するためです。
共有分割請求訴訟は、「どうしても共有状態を解消できないときの最終手段」と思っておきましょう。
共有物分割請求訴訟の要件や手続きの流れについては、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。
自分の持分を放棄する
自分の持分を放棄することでも共有状態は解消できます。
持分の放棄は、相続する前に相続権を放棄する「相続放棄」とは異なり、いったん相続したあとに行う手続きです。持分を放棄することについて共有者の同意は必要なく、他の共有者に放棄の意思を示せば共有状態から抜け出せます。
ただし、持分を放棄するための「共有持分移転登記」を共有者全員で申請しなければならない点には注意が必要です。前述のとおり、放棄すること自体は自分の意思で決められますが、登記の際には他の共有者の協力を得なければなりません。
他の共有者に協力してもらえないときは、持分を放棄したい人が単独で登記できるようにするための訴訟「登記引取請求訴訟」を検討する必要があるでしょう。
また、持分を放棄した場合、一銭にもならない点についても理解しておく必要があります。ただ持分を失うだけの放棄より、他の共有者や第三者への売却を検討したほうがよいかもしれません。
共有持分の放棄よりも売却がおすすめな理由については、以下の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】共有持分の放棄はもったいない!持分の放棄よりも売却がおすすめな理由|株式会社クランピーリアルエステート
自分の持分を第三者に売却する
自分の持分を第三者に売却すれば、共有状態から抜け出せます。共有不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要ですが、自分の持分だけであればいつでも自由に売却できます。
ただし、仲介での売却は難しいでしょう。自由に活用できない共有持分をわざわざ購入する一般の顧客はほとんどいないためです。仲介業者によっては、取引してくれない場合もあります。
おすすめは、共有持分専門の買取業者に買い取ってもらうことです。
他の共有者との交渉やリフォーム費用などのコストがかかるため、買取価格が市場価格よりも安くなりやすいというデメリットはありますが、他の共有者とトラブルになっているケースでもスピーディに買い取ってもらえます。
また、「仲介手数料が発生しない」「契約不適合責任を負わずに済む」といったメリットもあります。
【仲介手数料とは】
買主との取引が成立したことに対する成功報酬のこと。不動産を仲介業者経由で売却したときに発生する。
【契約不適合責任とは】
売却した不動産に契約内容と異なる問題が発生したときに、売主が負う責任のこと。契約を解除されたり、損害賠償を請求される可能性がある。
以下に該当する場合は、買取業者への売却を検討しましょう。
- 他の共有者に内緒で持分を売却したい
- とにかく共有状態から抜け出したい
- 多少安くなってもいいから早く現金化したい
共有持分の売却相場については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてチェックしてみてください。
共有名義不動産の相続トラブルは弁護士に相談しよう
共有不動産に関するさまざまな相続トラブルについて解説してきましたが、共有不動産の相続トラブルは、弁護士への相談をおすすめします。共有不動産に関する問題は複雑化しやすく、自力での対応が難しいためです。相続の問題も絡むとなればなおさらです。
もちろん、正式に依頼すれば費用がかかるため、「できればお金をかけずに解決したい」と思っている人も多いでしょう。
費用が気になる場合は無料相談を活用して複数の事務所を比較し、費用を抑えられそうな事務所に依頼したり分割払いができる事務所を選択するのも1つの方法です。
収入が少なく、弁護士費用を支払えそうにないときは、「法テラス」の利用を検討することをおすすめします。
【法テラスとは】
法律トラブルの解決を目的とした国の機関。経済的な理由から法的サービスを受けられない人を対象に、無料相談や弁護士・司法書士費用の立替えなどを行っている。
なお、法テラスの利用には「収入・資産が一定基準以下であること」などの条件があります。条件については、公式サイトで確認してください。
参照:弁護士・司法書士費用等の立替制度のご利用の流れ|法テラス
まとめ
共有名義不動産にありがちな相続トラブルの対処法について解説しました。
不動産は、もともと共有名義の不動産を相続したり、単独だった不動産を複数の相続人で相続することで共有名義になります。とくに「とりあえず法定相続分どおりに相続しておこう」という考えから、なんとなく共有名義にしてしまうケースは少なくありません。
しかし、共有不動産にはさまざまなトラブルが起きるリスクがあります。そのため、できるだけ早いうちに共有状態を解消することをおすすめします。
共有不動産の相続トラブルに困ったら、迷わず弁護士に相談しましょう。収入が少なく弁護士への依頼が難しい場合は、法テラスの要件を確認したうえで利用してみるとよいでしょう。
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