共有不動産を占有する人に明け渡し請求が認められない理由
結論から先に述べると、共有不動産が1人の共有者に占有されていても、持分割合に関わらず明け渡し請求は原則認められません。
順を追って説明していきますが、占有している共有者にも共有不動産を使用する権利があるため、強制的に退去させることは原則として認められていないことが理由です。
そもそも明け渡し請求は、その建物から強制的に追い出すための請求のことです。明け渡し請求が認められた場合、裁判所からの判決による強制執行が行われることで、建物から対象者を退去させられます。
ただし、裁判所から明け渡し請求を認めてもらえるのは、対象者に違法性が認められる場合です。
共有不動産を共有者の1人が占有するのは、民法で認められた行為ともいえるため、直ちに違法とは判断されず、原則として明け渡し請求は認められません。
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
引用元 e-Gov「民法」
極端にいえば、共有持分を少しでも持っていれば、共有不動産のすべてを使う権利があるということです。使い方が独占使用であったとしても、この権利を無視することはできないため、原則明け渡し請求は認められないのです。
「自分は持分の過半数を持っているので退去させられるはず」と考えている方は少なくありませんが、占有している共有者にも使用権がある以上、すぐに排除できるケースは多くないのが実情です。
特に相続をきっかけに共有状態となった不動産では、特定の相続人がそのまま住み続けるケースが多く、弊社へのご相談でも体感として6〜7割程度はこのパターンに該当します。こうしたケースでは、法的に明け渡しを求めるハードルは想定以上に高くなる傾向があります。
実際に裁判所が公表する判例でも、共有持分の過半数を超えていたとしても占有している人に対して明け渡し請求はできないと判断されています。
共有物の持分の価格が過半数をこえる者は、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡を請求することができない。
引用元 裁判所「最高裁判所判例集」
共有の不動産を1人で使用しているのは不公平だと感じるかもしれませんが、共有者である以上は占有行為が違法といえないのが実情です。
そのため、基本的には明け渡し請求以外の方法で問題を解決するように検討してみてください。
例外的に共有不動産の明け渡しが認められるケースもある
ほとんどの場合、占有者に対する明け渡し請求は認められません。しかし、最高裁判所の判例からも分かるように、「明け渡しを求める合理的な理由」を主張・立証できる場合には、例外的に明け渡し請求が認められます。
多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
引用元 裁判所「最高裁判所判例集」
共有不動産は共有者全員に所有権があるため、占有自体が問題となるわけではありません。
ただし、その態様や経緯によっては、他の共有者の権利を不当に侵害していると裁判所から判断される場合もあり、そのようなケースでは明け渡しが認められる可能性があります。
明け渡しを求める理由が正当だと判断されるケースについては、下記が挙げられます。
- 共有者で決めた使用方法を無視して単独で占有している
- 実力行使で共有不動産を占有している
- 使用方法の協議を拒否して占有を続けている
- 他共有者の合意を得ずに建物を建築している
なお、上記に該当しない場合、共有不動産の明渡請求は原則認められません。
弊社の経験上も、「単に住んでいるだけ」では認められず、「他の共有者が使えない状況を意図的に作っているか」が争点になるケースが多く見られます。
このまま占有状態が続いてしまうのを避けるためにも、後述する協議の提案を検討してみてください。
共有者で決めた使用方法を無視して単独で占有している
共有不動産の使用方法は、共有者間での協議のうえ、全員から同意を得ることで決定されます。
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない
引用元 e-Gov「民法」
決定した内容を無視して1人の共有者が単独で共有不動産を占有した場合、明け渡し請求が認められやすいでしょう。
たとえば、「特定の共有者が居住し、他の共有者には賃料相当額を支払う」といった取り決めをしていたにもかかわらず、一方的に支払いをやめて占有を続けているケースでは、権利の範囲を逸脱していると判断される可能性があります。
このように、合意内容に反した利用が継続している場合には、明け渡し請求が認められる余地があります。
実力行使で共有不動産を占有している
占有の過程で他の共有者を排除するような強引な行為があった場合には、その占有は適法とは評価されにくくなります。
たとえば、不動産を共有者A・Bの2名で共有しているとします。AはBとの明確な合意はなかったものの長年平穏に不動産を占有していたとします。
しかし、後からBが一方が鍵を交換して締め出したり、物理的に立ち入りを妨げたりした場合には、明け渡し請求が認められる可能性があります。
弊社が聞いた話でも、「突然鍵を変えられて家に入れなくなった」というケースは一定数見られ、このような事情がある場合には、裁判上も占有の正当性が否定されやすくなります。
このように、一方的かつ強制的な行為を働いた場合、それは実力行使と捉えられる可能性が高いです。
実力行使に該当する行為例としては、以下のようなものが挙げられます。
- ほかの共有者が反対しているのに、それを聞かず強引に不動産に入居した
- ほかの共有者の生活用品を一方的に家から持ち出した
- 家の鍵をほかの共有者に無断で変更して、帰宅できないようにした
- バリケードを設置してほかの共有者が入れないようにした
占有の方法自体に問題がある場合には、権利行使の範囲を逸脱していると評価され、明け渡しが認められる方向で判断されることがあります。
使用方法の協議を拒否して占有を続けている
前述の通り、共有不動産の使用方法は共有者間の協議によって決定されます。仮に占有者が合意をしていなくても、実務上は持分割合の過半数が合意すれば協議の内容は決定されます。
そのため、占有者の持分割合が少なく、その占有者を退去させたい共有者の持分割合が過半数になっていれば、使用方法について占有者の意見が採用されることはありません。
しかし、話し合いに応じないことで、占有状態を維持しようとする」ケースも一定数見られます。
「使用方法の協議がおこなわれなければ、使用方法の決定ができず追い出されることもない」という考えから協議を拒否するというケースですが、このような行為は認められません。
協議を拒否したとしても、持分割合で過半数の同意によって、「別の共有者が使用する」などの適法な管理方法が決定されれば、結果として現在の占有者に明け渡しを求めることが可能になります。
他共有者の合意を得ずに建物を建築している
共有状態の土地に新たに建物を建築するのは、民法251条で定められている「変更」に該当する行為であるため、建築する前にほかの共有者全員からの合意を得なければなりません。
弊社の経験上、「共有者に無断で建築が進められている」というケースは珍しくなく、トラブルに発展しやすい典型例の一つです。
1人の共有者が他共有者の合意を得ずに共有状態の土地に建物を建築するのは法律で認められない行為であるため明け渡し請求が認められると考えられます。
この場合、現在行われている建築工事の差し止めと原状回復を請求し、建築途中の建物を撤去させることができます。
ただし、 裁判所が公表する判例を考慮すると、明け渡し請求が認められるのは「建築途中のみ」と推測されます。
この判例を要約すると、下記のようになります。
- 共有名義の土地を相続した人が建てた建物に対して、明け渡し請求などの訴訟を起こした
- 建物の収去および建物敷地部分の明け渡しは認められなかったが、占有者に対して、共有者の持分割合に応じた賃料相当額の不当利得金や損害賠償金の請求が認められた
参考: 裁判所「最高裁判所判例集」
つまり、占有状態で共有している土地に建物が完成してしまうと、たとえその共有者が独断で工事を進めたとしても、明け渡し請求は認められない可能性が高いです。代わりに賃料相当額の請求などで調整される場合があります。
そのため、占有者が共有している土地に建物を建てている場合、その建物が完成する前に明け渡し請求を行うのがよいでしょう。
占有者に対しては共有不動産の使用方法に関する協議の提案をするべき
1人の共有者が共有不動産を占有している背景として、共有者間で使用方法について明確な合意が形成されていないケースが多いのが実情です。
「誰がどのように居住する」などの共有不動産の使用方法は、共有者間で協議をすることで決定できます。
明け渡し請求が認められにくい以上、まず占有者を含めた共有者間で、使用方法について改めて話し合いの場を設けることが現実的な対応といえます。
実際の相談でも、「相続後に特定の相続人がそのまま住み続けているが、使用ルールを決めていなかった」というケースが多く見られます。
このような場合、いきなり退去を求めるのではなく、「居住を認める代わりに賃料相当額を支払う」「一定期間後に売却する」といった条件整理から入ることで、合意形成に至るケースが一定数あります。
協議によって共有不動産の使用方法を明確に定めることで、1人の共有者が占有している状態を解消できる可能性があります。
なお、民法で上も共有者が所有する持分割合の過半数の合意があれば、共有不動産の使用方法を決定できるとされています。
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
引用元e-Gov「民法」
たとえば、占有者以外の共有者全員が占有状態の解消を望んでおり、共有不動産の持分割合が過半数を超えている場合、占有者が単独での居住を希望していたとしても、占有状態は解消できます。
まずは占有者に対して、共有不動産の使用方法の協議をすることを提案してみてください。
もっとも、現場では持分割合だけで機械的に解決できるケースばかりではなく、親族間の関係性や居住実態が強く影響するのが実情です。弊社の相談傾向としても、協議が感情面で停滞しているケースは少なくありません。
こうした場合には、弁護士などの専門家を交えた調整によって、法的整理と感情面のバランスを取りながら進めていくことが現実的といえます。
共有不動産の明け渡し請求が否定された場合の対処法
ここまで解説してきたとおり、共有不動産を1人で占有している方に対する明け渡し請求は原則認められません。
万が一、明け渡し請求が否定されてしまい、そのうえ協議をしても占有状態が解消されない場合には、「占有を前提に条件を整理する」か「共有関係そのものを解消する」かのいずれかに軸を移して検討するのが実務上の基本的な進め方です。
具体的な対処法は、以下の通りです。
- 占有者に持分割合に応じた使用料を請求する
- 占有者に持分を買い取ってもらう
- 買取業者に自分の持分のみを売却する
- 共有物分割請求をおこなう
弊社へのご相談でも、明け渡しが難しいと判断された段階で、「無償利用を見直したい」「共有状態から離れたい」といった目的に応じて、これらの方法に切り替えていくケースが大半を占めます。
ここからは、共有不動産の明け渡し請求が否定された場合の対処法について解説していきます。
占有者に持分割合に応じた使用料を請求する
占有者がいるために不動産を使用できない他の共有者は、持分に応じた不動産の使用料を請求できます。
そのため、占有状態が解消されないのであれば、自分の持分割合に応じた賃料相当金を占有者に請求するのも一つの手です。
たとえば弊社に寄せられたご相談では、「相続後に兄が実家に住み続けているが、自分は一切使えない状態が10年以上続いている」というケースがありました。このような場合、いきなり退去を求めるのではなく、まずは賃料相当額の支払いを求める形で調整を図ることがあります。
この使用料は一般的な賃貸物件の家賃に相当し、実務上は近隣の賃料相場や不動産会社の査定をベースに算定されることが一般的です。
具体的な金額は不動産会社に相談するとよいでしょう。
しかし、これまで長期間無償で使用していた場合には、使用貸借と評価される可能性があります。使用貸借とみなされれば、使用料の請求も認められません。
そのため、使用料を請求するのであれば、共有者の1人が占有をはじめてから早いタイミングで手続きを進めるようにしてください。
実際の現場でも、「親が存命中に無償で住むことを認めていた」といった事情があるケースでは、過去分の請求が認められないこともあり、途中から有償に切り替える形で合意する例も見られます。
占有者に自分の共有持分を買い取ってもらう
共有関係そのものを解消する方法として、占有者に持分を買い取ってもらう形は、実務上も比較的選択されやすい手段です。
「不動産が使用できないなら共有持分を手放してもよい」と考えるのであれば、占有者に持分を買い取ってもらう方法を検討しましょう。
たとえば、「居住している本人は住み続けたいが、他の相続人は現金化を希望している」というケースでは、占有者が他の共有者の持分を取得する形で解決に至ることがあります。
弊社が実務で対応してきた中でも、当事者間の関係性が比較的良好なケースでは、現実的な解決策として選ばれることがあります。
というのも、持分の売買は以下ように占有者と自分の両方にメリットがあるためです。
| 立場 |
検討ポイント |
実務上のポイント |
売る側 (他の共有者) |
得られるメリット |
共有状態から離脱でき、まとまった現金を得られる |
| 価格の考え方 |
不動産全体の評価額 × 自分の持分割合が目安 |
買う側 (占有者) |
得られるメリット |
持分割合が過半数となり、使用方法を正式に決定できる |
| 注意点 |
他共有者の持分を買い取るため、相応の資金力が必要 |
| 共通の注意点 |
交渉面 |
共有者間の関係性が悪いと交渉自体が難航しやすい |
| 実務上のハードル |
金額・感情面で折り合いがつかず成立しないことも多い |
占有者が他の共有者の持分を買い取って持分割合が過半数になれば、共有者間の協議で正式に「自分(占有者)が使用する」と決定できます。
共有持分を売る側のメリットは、複雑な権利関係からも解放され、まとまったお金を得られることです。
なお、価格の目安は「不動産全体の評価額 × 持分割合」とされますが、実際の交渉では「長年無償で使用していた事情」や「今後の関係性」などが影響し、相場どおりに決まらないケースも多く見られます。
弊社の実務でも、「評価額どおりでは折り合わず、最終的にやや低めの金額で合意した」といった事例は珍しくありません。
一方で、資金面や関係性の問題により成立しないこともあります。
特に、相続人間で感情的な対立がある場合には、「価格以前に話し合いが進まない」というケースが多いのが実情です。
買取業者に自分の持分のみを売却する
「占有している共有者に持分の売買を拒否されてしまった」もしくは「占有者が持分を買い取るだけの資金力を有していない」などの理由で持分売買が成立しない場合には、第三者への売却として、共有持分を専門に扱う買取業者への売却も選択肢の一つです。
実務上、共有持分は「単独で自由に利用できない」という特性から、一般の仲介では買い手が見つかりにくい傾向があります。
実際に弊社へご相談いただく方の多くも、「仲介会社に相談したが取り扱いが難しいと言われた」という経緯をお持ちです。
共有持分・共有不動産を専門に扱う買取業者であれば、数日~数週間で相場に近い価格で買い取ってくれる可能性もあるため、有効な手段といえます。
共有物分割請求によって共有状態を解消する
共有物分割請求とは、他の共有者全員に対して共有財産の分割を求める手続きです。協議でまとまらない場合には、裁判所の判断に委ねることになります。
訴訟では裁判所に共有状態の解消方法を決定してもらえます。判決の内容に同意できなくとも、法的拘束力により、共有者全員が従わなければいけません。
実務上、占有者がいるケースでは、裁判所は次のいずれかの方法で共有状態を解消する判断を下すことが一般的です。
| 判断段階 |
分割方法 |
内容 |
結果・影響 |
| 裁判所の判断 |
全面的価格賠償 |
占有者が他の共有者全員の持分を買い取る |
占有者は居住継続可/他共有者は金銭を取得 |
| 換価分割 |
共有不動産を競売で第三者に売却 |
全共有者が持分割合に応じて売却代金を受領 |
たとえば、「占有者に資力があり居住継続の意思も明確な場合」は全面的価格賠償が選択されやすく、逆に資金的余力がない場合には競売による換価分割に至るケースが見られます。
「全面的価格賠償」は、わかりやすくいえば、占有者が他の共有者の持分をすべて買い取るというものです。
しかし、占有者の事情で買い取るだけの金銭を用意できないこともあります。そのような場合には「換価分割」となるでしょう。
換価分割は共有不動産を競売で第三者に売却し、その代金を共有者間で持分割合に応じて分配するものです。
共有状態は解消されますが、売却するので占有者は立ち退きを余儀なくされ、他の共有者も共有不動産に対する権利を失います。
弊社が聞いた話の中でも、「最終的に競売となり、想定より低い価格で売却された」というケースは一定数あり、当事者全員にとって必ずしも望ましい結果にならないこともあるため、訴訟は慎重に判断する必要があります。
共有物分割請求による共有状態の解消方法については以下の記事でもわかりやすく解説しているので、参考にしてみてください。
自分の共有持分を放棄して共有状態から抜け出す
共有持分は、自分の意思で放棄することも可能です。
「関係性が悪化しており関わりを持ちたくない」といった理由から、放棄を選択するケースも見られます。
なお、放棄された共有持分は、「帰属」という形でほかの共有者のものとなります。
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
引用:e-Gov「民法第255条」
ただし、実務上の注意点として、放棄の意思表示だけで手続きが完結するわけではなく、持分放棄に伴う名義変更には、他共有者の協力が必要となります。
実際の相談でも、「放棄はしたものの、他の共有者が手続きに応じず名義変更が進まない」というケースは珍しくありません。結果として、登記引取請求訴訟に発展するケースもあり、費用と手間がさらにかかってしまうため注意が必要です。
放棄はシンプルに見えて実務上の負担が生じる可能性がある点も踏まえ、他の選択肢と比較しながら検討することが重要です。
占有状態が続くとさまざまなトラブルが起きる可能性があるため放置はNG
「占有状態が解消されないならこのまま放置してしまおうか」のように考えるかもしれませんが、共有者1人による占有状態が続くと、下記のようなトラブルが起きる可能性があります。
- 管理費用や税金の負担によって共有者間に軋轢が生まれる可能性がある
- 占有権が認められて共有不動産の所有権が占有者に移る可能性がある
そのため、共有者1人による占有状態は放置せず、協議や法的手続きも含めて早期に対処することが重要です。
| トラブルの分類 |
発生する内容 |
法的・実務上のポイント |
放置した場合のリスク |
| 金銭面のトラブル |
管理費用・税金の負担 |
持分割合に応じて、使用していなくても負担義務がある |
占有者と他共有者の関係悪化・紛争化 |
| 費用負担の不公平感 |
実務上「使っていないのに支払う」不満が蓄積しやすい |
協議が困難になり解決が長期化 |
| 権利面のトラブル |
占有権の成立 |
長期間・平穏かつ公然の占有で成立する可能性がある |
最悪の場合、所有権を失う可能性 |
| 取得時効のリスク |
10年〜20年の占有により所有権主張が認められることがある |
実際の相談でも、「最初は些細な問題だったが、数年放置したことで関係が悪化し、話し合いが困難になった」というケースは珍しくありません。初動の対応がその後の解決難易度に大きく影響する点には注意が必要です。
ここからは、占有状態によって起こり得るトラブルについて、それぞれ解説していきます。
管理費用や税金の負担によって共有者間に軋轢が生まれる可能性がある
共有不動産にかかる固定資産税や修繕費などの管理費用は、実際の利用状況にかかわらず、持分割合に応じて各共有者が負担する必要があります。
第二百五十三条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
引用元e-Gov「民法」
管理費用の支払いは、「不動産自体が処分される」「共有持分を処分する」といったことがない限り続きます。
そのため、占有していない共有者にとっては「利用できていないにもかかわらず費用だけ負担している」という状況が生じやすく、実務上もトラブルの火種になりやすいポイントです。
これによって占有者とほか共有者との関係性が悪化してしまうリスクがあるのも、占有状態が続くリスクといえます。
たとえば、「兄が実家に住み続けている一方で、固定資産税は他の相続人も負担している」といったケースでは、不公平感が積み重なり、最終的に紛争に発展する例も見られます。
弊社への相談でも、当初は費用負担の不満だけだったものが、徐々に感情的な対立へと発展し、売却や法的手続きに進まざるを得なくなるケースが一定数あります。
取得時効が成立し、共有不動産の所有権が占有者に移る可能性がある
1人の共有者による占有が長期間続くと、一定の要件を満たした場合に取得時効が成立し、共有不動産の所有権そのものが占有者へ移転してしまう可能性があります。
占有権とは、民法180条で定められた権利のことで、不動産を事実上支配できる権利といえます。
そのうえで問題となるのが、「所有権の取得時効」です。
「10年〜20年単独で所有している」「所有している意思がある」「暴行や脅迫などがなく、平穏かつ公然と占有している」といった条件を満たした場合、時効取得が認められる場合はあります。
より簡単にいえば、「共有している不動産であっても長年自分の家として使用しているため、この家は自分のもの」という主張が認められてしまう可能性があるということです。
つまり、占有状態の解消が難しいからといって、何も対処しないままでいると、占有者による「所有権の時効取得」が認められてしまうリスクがあります。
もっとも、直ちに時効取得が成立するわけではなく、「他の共有者の持分を排除して自己単独の所有とする意思」が外形的に認められるかどうかが重要な判断要素となります。
実務上も、「単に住み続けているだけでは足りず、他の共有者の権利を否定するような事情があるか」が争点となるケースが多いです。
とはいえ、長期間にわたり何の対応も取らない状態が続くと、占有者側に有利な事情が積み重なっていく可能性があるため注意が必要です。
実際の相談でも、「20年以上居住が続いており、名義は共有のままだが実態は単独所有に近い状態になっている」といったケースがあり、権利関係の整理が難航する要因となっています。
そのため、占有状態が継続している場合には、放置せず早期に対応方針を検討することが重要です。
まとめ
共有不動産を1人で占有している場合、たとえ占有について明確な合意がない場合でも、直ちに明け渡し請求が認められるわけではありません。
実力行使による排除や、協議内容に反した占有など、他の共有者の権利を著しく制限していると評価される事情がある場合に限り、例外的に明け渡しが認められる可能性があります。
そのため、実務上は明け渡し請求にこだわるのではなく、「使用方法の整理」や「金銭的な調整」を含めた現実的な解決策を検討するケースが多く見られます。
弊社の経験上、共有者間で使用ルールを定め直したり、賃料相当額の支払いで合意したりすることで、対立を回避できた事例は少なくありません。
また、占有状態が続く場合には、持分割合に応じた使用料の請求や、持分売却・共有物分割など、複数の対応方法が考えられます。
一方で、占有状態を長期間放置すると、費用負担をめぐる対立が深まるだけでなく、権利関係の整理がより難しくなる傾向があります。実務上も「早期に動いていれば円満に解決できた」と考えられるケースは多く見られます。
そのため、「話し合いが進まない」「関係性に配慮したい」といった事情がある場合でも、状況に応じて協議・金銭調整・共有関係の解消といった選択肢を整理し、早い段階で方向性を検討することが重要です。