共有持分の放棄は単独で行うことができますが、放棄後に所有権が他の共有者へ移転したことを証明する登記(持分移転登記)には、共有者の協力が必要です。しかし、実際には登記手続きに協力してくれない共有者もいます。
弊社へのご相談でも「感情的な対立から協力を拒否されている」といったご質問を受けることがあります。その場合に有効なのが、裁判所に対して単独で登記できるよう主張する「登記引取請求訴訟」です。
これが認められれば、他の共有者の同意や協力がなくても持分移転登記できます。
登記引取請求訴訟の主な手続き方法は以下のとおりです。
登記引取請求訴訟の流れと注意点
| 手順 |
内容 |
注意点 |
| 1. 放棄の通知 |
共有持分を放棄する旨を共有者へ通知する |
証拠を残すため内容証明郵便の利用が望ましい |
| 2. 訴訟の準備 |
共有者が持分移転登記の手続きに協力しない場合、提訴の準備を行う |
登記事項証明書や内容証明郵便の写しなどを取得する必要がある |
| 3. 持分移転登記 |
判決確定後に持分移転登記を申請する |
単独申請できるのは判決確定後 |
登記引取請求訴訟の注意点としては、訴訟から持分移転登記までをできるだけ速やかに行うことです。
登記引取請求訴訟の結果が出るのは、事案次第ですが数カ月〜1年以上かかるケースもあります。なお、判決確定から持分移転登記が完了するまで、持分にかかる固定資産税の負担が続く可能性があります。
そのため、できるのであれば共有者との話し合いで同意してもらい、共同で持分移転登記を行うのが理想です。登記引取請求訴訟を行うと、共有者との関係性が悪化するケースも少なくないので、あくまで最終手段という認識で検討するのが望ましいでしょう。
登記引取請求訴訟とは
登記引取請求訴訟・・・放棄によって持分が帰属した共有者が登記申請に協力してくれない場合、持分放棄した人が「登記引取請求権」に基づき、単独で持分移転登記を申請できるように主張する訴訟です。
この訴訟が認められた場合、他共有者の協力がなくても単独で持分移転登記を実施できます。これにより、共有持分に関する固定資産税等の負担について、実体関係と登記を一致させることが可能です。
理解を深めるために、登記引取請求訴訟を認めた実際の判例を以下で解説します。
■最高裁判所 昭和36年11月24日
真実の権利関係に合致しない登記があるときは、その登記の当事者の一方は他の 当事者に対し、いずれも登記をして真実に合致せしめることを内容とする登記請求権を有するとともに、他の当事者は右登記請求に応じて登記を真実に合致せしめることに協力する義務を負うものというべきである。出典:裁判所「最高裁判所 昭和36年11月24日」
実情として、共有者との関係性が悪化しているケースほど、登記協力を拒否されることは珍しくありません。特に、相続で共有状態になった不動産では、感情的な対立が背景にあることも多く、任意での登記手続きが進まずに長期化するケースもあります。
弊社でも「持分放棄することを伝えて以降、連絡自体を拒否されている」といったご相談を伺うことがあります。そのときは、単独でも持分移転登記できる「登記引取請求訴訟」という制度についてご説明しております。
なお、法的業務に不安がある方には、弊社と連携している弁護士を紹介することもあります。
ただし、民事裁判において訴訟を起こしてから判決が下るまでの平均期間は平成30年では約9カ月であると裁判所の調査で明らかになっています。
つまり、すぐに持分移転登記を実行できるとは限らないというわけです。
もしなるべく早く持分を放棄したいのであれば、共有者と話し合って協力を得ることが最善だといえるでしょう。
「交渉・説得できるか不安」という人などは不動産問題に詳しい弁護士に相談することが大切です。
過去の判例や法律などを根拠に持分の持分移転登記の手続きを協力してもらえるように共有者との交渉をスムーズに進めてくれるでしょう。
参照:裁判所「第2 審理期間 p.75」
登記引取請求訴訟の流れ
登記引取請求訴訟を起こす場合、一般的には以下の手順にそって手続きを進めていきます。
- 放棄の通知は内容証明郵便を利用する
- 登記引取請求訴訟の準備をする
- 判決が確定したら持分移転登記をおこなう
基本的な流れを把握しておけばスムーズに手続きをおこなうことができるでしょう。
①放棄の通知は内容証明郵便を利用する
共有持分の放棄を共有者に通知するとき、口頭だけでなく文書を送付しておくことで「言った・言わない」のトラブルを防ぐことが可能です。
持分放棄の同意や持分移転登記の協力など重要な内容を送付するのであれば「内容証明郵便」を利用するとよいでしょう。
内容証明郵便・・・「差出人・日付・内容」などの情報を郵便局に保管・証明してもらえる制度です。
文書を差し出す場合は郵送用の文書と文書のコピーを2通用意し、郵便局で内容証明の手続きをおこなうことで持分放棄における通知の事実を証明しやすくなるでしょう。
②登記引取請求訴訟の準備をする
共有者が登記に協力しない場合は、登記引取請求訴訟を提起することになります。訴訟を起こすためには以下のような必要書類や訴訟にかかる費用などを用意する必要があります。
訴状・・・裁判所提出用と被告(訴えられる側)送付用を用意します。
手数料・・・訴えにかかる手数料が法律で定められており、収入印紙で納めます。
郵便費用・・・裁判所から原告や被告に書面を送るためのものです。現金か切手のいずれかで納めます。
添付書類・・・不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書
証拠書類の写し・・・内容証明郵便など、訴訟の際の証拠書類がある場合は、裁判所用1通・被告人分の通数のコピーを提出します。
上記の必要書類等が準備できれば、訴額に応じて「地方裁判所」または「簡易裁判所」に提訴します。不動産に関する登記請求訴訟では、地方裁判所が管轄となるケースが多くなるのが実情です。
法律上、被告(訴えられる側)の住所地を管轄する裁判所に提訴するのが原則です。ただし特例として、不動産に関する訴訟の場合は、対象となる「不動産の所在地」を管轄する裁判所へ提訴することも法律で認められています。
実務上は、共有不動産の所在地を管轄する地方裁判所へ提訴されることが比較的多い印象です。
また、登記請求訴訟は法的主張や証拠整理が重要になるため、弁護士へ依頼するのも選択肢のひとつです。必要に応じて司法書士と連携しながら、登記手続きまで進める流れになります。
③判決が確定したら持分移転登記をおこなう
裁判所から登記引取請求訴訟で登記手続を命じる判決が確定すると、共有持分を放棄した人が単独で登記申請できるようになります。
登記申請のときも必要書類や費用を準備した上で共有不動産の所在地を管轄している法務局で手続きしましょう。基本的な必要書類と費用は以下の通りです。
- 登記申請書
- 登記原因証明情報(判決書正本)
- 固定資産評価証明書
- 印鑑証明書・実印
- 本人確認書類(運転免許証やパスポートなど)
- 登録免許税
- 委任状(司法書士などに委任する場合)
登録原因証明情報である「判決書正本」は裁判所から交付され、登記手続を命じる確定判決が存在することを証明するためのものなので大切に保管しましょう。
なお、実際に必要となる書類は事案によって異なるため、事前に法務局や司法書士へ確認しておくと安心です。
登録免許税は「不動産の固定資産税評価額×持分割合×税率」で算出します。共有持分の「放棄」は、税務上「贈与に準じるもの」として扱われます。持分の贈与における税率は国税庁「登録免許税の税額表」によると2%です。
参照:国税庁「登録免許税の税額表」
共有持分を放棄するときの手続き
結論から申し上げますと、共有持分の放棄は持分移転登記を完了することで、登記上の共有関係から離脱できます。もっとも、共有持分の放棄は「放棄する」と伝えればすぐに全て終わるわけではありません。
実際は共有者への通知や登記協力の有無によって、その後の手続きの難易度が大きく変わります。特に共有者との関係性が悪化しているケースでは、登記協力を得られず手続きが長期化することも少なくありません。
そのため、共有持分を放棄する際は以下の流れを意識しながら進めることが重要です。
持分放棄を共有者に通知する
持分放棄自体は単独で可能な行為とされているため、本来であれば共有者に前もって通知しておく必要はありません。ただし、放棄した持分は「他の共有者に帰属する」ことが民法第255条で定められており、原則として放棄者と持分を取得する共有者による共同申請でおこないます。
持分を放棄してスムーズに登記手続きをおこなうには、事前に共有者から協力を得ておくと今後の手続きがスムーズです。弊社にも「話を切り出した途端に関係が悪化した」という経緯でご相談をいただくことがあります。
ここで大切なのは「同意を取ること」よりも、少なくとも共有者に事情を説明し、突然第三者的に手続きを進める印象を避けることです。なお、通知方法に決まりはありませんが、後日のトラブル防止という観点からは、内容証明郵便を利用して通知内容を残しておくのが確実な方法です。
参照:電子政府の総合窓口e-Gov「民法第255条」
持分移転登記をおこなう
共有持分を放棄したとしても登記簿上の所有者が変更されていない場合、第三者に対して権利関係を主張できません。また、登記が残ったままだと、固定資産税の納税通知や管理上の連絡が引き続き届くこともあります。
そのため、共有持分を放棄したら速やかに持分移転登記をおこないましょう。登記の申請先は共有不動産の所在地を管轄している法務局です。管轄の法務局を調べる際は以下のホームページを参考にしてください。
参照:法務局「管轄のご案内」
移転登記は共同申請が原則
持分移転登記には「共同申請の原則」という規定が不動産登記法第60条によって設けられています。実際の条文が以下の通りです。
■共同申請
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。出典:e-Govポータル「不動産登記法第60条」
つまり、持分を放棄する人とそれを受け取る他の共有者が共同で登記申請する必要があります。そのため、持分放棄したことを通知して共有者から手続きを協力してもらいましょう。
しかし、ケースによっては登記手続きの協力を得られなかったり話し合いで決めた期限までに手続きをおこなってくれないことも考えられます。
このような問題を解決する方法が「登記引取請求訴訟」です。判決によって登記手続を命じてもらえれば、単独申請によって持分移転登記を進めることができます。
持分放棄における税金の注意点
共有持分を放棄する理由として「固定資産税の負担から解放されたい」というご相談は非常に多くあります。もっとも、持分放棄をしたからといってすぐに税金負担が完全になくなるわけではありません。
特に注意したいポイントは以下の2点です。
- 放棄した年の固定資産税を支払わなければならない
- 放棄がみなし贈与とされてしまう可能性がある
放棄した年の固定資産税を支払わなければならない
持分移転登記をおこなうことで登記上の持分関係が反映され、固定資産税を支払う義務はなくなります。
しかし、固定資産税の課税対象となるのは1月1日時点の所有者であるため、放棄した年の固定資産税は支払わなければいけません。
つまり、固定資産税の納税義務が失われるのは持分放棄した次年度です。
例えば、2026年中に持分放棄の手続きを始め、手続きを終えた時期が2027年1月を過ぎてしまったとします。すると、2027年度分までの固定資産税についても納税義務が発生し、納税義務の免除は原則として2028年からとなります。
ここは「放棄したのに請求書が届いた」と誤解されやすい部分なので、事前に理解しておきましょう。
放棄が「みなし贈与」とされてしまう可能性がある
共有持分の放棄によって、他の共有者は持分割合が増える利益を受けます。そのため、税務上は「利益を受けた共有者に対して贈与があった」とみなされ、贈与税の対象となる可能性があります。
このように、実際に贈与契約をしていなくても、税法上は贈与を受けたものとして扱われる考え方を「みなし贈与」と呼びます。
仮に共有持分の放棄を非課税にすると、贈与税の課税を不当に回避する手段として悪用されてしまうことが懸念されます。それを防ぐ目的として持分放棄を贈与とみなすわけです。
ただし、すべての贈与(みなし贈与)に対して贈与税がかかるわけではありません。
なぜなら、贈与において年間110万円までの基礎控除が設けられているからです。そのため、年間110万円以内の贈与であれば非課税ということです。
放棄した共有持分の評価額が110万円を超えるとしたら、評価額から基礎控除を差し引いた金額に対して贈与税が課せられます。
贈与税の税率と控除額は課税価格によって決まっています。税率と控除額については以下の記事でわかりやすくまとめているので参考にしてみてください。
まとめ
共有持分を正式に放棄するには持分移転登記を共有者と共同して申請しなければいけません。ただし、ケースによっては登記手続きに協力してもらえないことも考えられます。
もし共有者が登記手続きに協力してくれないのであれば、裁判所に「登記引取請求訴訟」を提訴することも検討しましょう。
登記引取請求訴訟の判決が確定することで、共有者の協力がなくても単独で持分の移転登記が可能となります。
しかし、訴訟を提訴してから判決が下るまで半年以上かかってしまうことも珍しくありません。
なるべく早く持分放棄するためには訴訟前に弁護士に相談して共有者に協力してもらえるように交渉・説得することが大切です。
登記引取請求訴訟についてよくある質問
なぜ持分放棄において登記引取請求訴訟が利用されるのですか?
持分放棄自体は本人の意思で自由におこなえますが、放棄した持分をほかの共有者に帰属させるには登記申請が必要です。共有者が協力してくれれば問題はありませんが、協力を拒否されたときに登記引取請求訴訟を提起して、申請を進めます。
持分放棄で登記申請を済ませないと、どんな問題がありますか?
持分放棄を公に証明できないため、共有不動産に関わるトラブルが起こったとき、巻き込まれてしまう恐れがあります。
訴訟を起こしてから登記できるまで、どれくらいかかりますか?
訴訟を提訴してから判決が下るまで、半年以上かかってしまうことも珍しくありません。そのため、登記引取請求訴訟はあくまで最終手段として、可能な限り当事者間の話し合いで解決することが望ましいでしょう。