共有物分割請求訴訟とは共有状態の解消を裁判所に求める手続き
共有物分割請求訴訟とは、共有者間の話し合い(協議)がまとまらない場合に、裁判所に分割方法を決めてもらう訴訟手続きです(民法258条)。
そもそも共有とは、1つの不動産を複数人が持分割合で所有している状態です。共有不動産は、売却や建て替えなどに共有者全員(または持分の過半数)の同意が必要で、意見が対立すると何も決められなくなってしまいます。この「動かせない共有状態」を強制的に解消する最終手段が、共有物分割請求訴訟です。
各共有者はいつでも共有物の分割を請求できる権利を持っており(民法256条)、他の共有者はこれを原則として拒否できません。なぜ拒否できないかというと、民法は「共有は一時的で不安定な状態であり、解消を望む人はいつでも抜けられるべき」という考え方を前提にしているためです。共有関係から離脱する自由が各共有者に保障されている、というのが分割請求権の背景にあります。
また、共有物分割請求訴訟では、訴えられた人(被告)が裁判の呼び出しを無視したり、話し合いを拒否したりしても、裁判所の判断だけで財産の分け方を決めることができます(これを「形成訴訟」といいます)。「無視していれば今までどおり共有のままでいられる」という考えは通用しない点に注意が必要です。
共有のトラブルは当事者だけで解決しづらく、最終的に法的手続きへ進むケースが少なくありません。
共有物分割請求訴訟の仕組みと協議との違い
共有状態を分割で解消する方法には、「協議による分割」と「訴訟による分割」があります。
協議による分割と訴訟による分割の違い
| 項目 |
協議による分割 |
訴訟による分割 |
| 必要なもの |
共有者全員の合意 |
協議が調わない・できない状況 |
| 分割方法 |
当事者が自由に決められる |
裁判所が決定する |
| 費用・期間 |
低コストで早い |
高額・長期になりやすい |
協議による分割は、共有者全員が合意できれば分割方法を自由に決められます。裁判所を通す手続き(調停や訴訟)と比べて費用や時間を大幅に抑えられるため、合意さえできれば、スムーズで負担の小さい解決方法といえます。
一方で、1人でも反対すると成立しないという弱点があります。
ここで見落とされがちなのが、共有物分割請求訴訟には「調停前置主義」が適用されない点です。つまり、先に調停を経る必要はなく、協議が不調であれば直接訴訟を提起できます。ただし実務上は、いきなり訴訟を起こすのではなく、内容証明郵便で協議を申し入れ、「話し合いを試みた証拠」を残してから訴訟に進むのが一般的です。
共有物分割請求訴訟を起こすための要件
共有物分割請求訴訟は、誰でも無条件に起こせるわけではありません。訴訟はあくまで話し合いで解決できない場合の手段であり、提起するには次の2つの要件を満たす必要があります。
- 協議を試みている、または協議ができない状況であること
- 協議が不調に終わったこと(合意できなかった、または相手が応じなかった)
いきなり訴訟を起こすのではなく、まずは共有者間での話し合いが前提になるという点を押さえておきましょう。ここからは、それぞれの要件を詳しく見ていきます。
協議を試みている、または協議不可能な状況であること
訴訟を提起できるのは、民法258条が定める「協議が調わないとき」または「協議をすることができないとき」です。
「協議をすることができないとき」とは、たとえば共有者が行方不明で連絡が取れない、過去のトラブルで関係が断絶して着信拒否されている、何度連絡しても応じてくれないといった状況を指します。話し合いの土俵にすら乗らないケースでも、訴訟に進めるということです。
逆にいえば、相手が行方不明であるなど特殊な事情がない限り、まったく話し合いを試みないまま、いきなり訴訟を起こすことは想定されていません。ただし、上記のように客観的に見て明らかに協議が不可能な状態であれば、話し合いを経なくてもすぐに提訴が認められることがあります。
とはいえ、何年も話し合いを続ける必要はなく、「協議をしても合意できる見込みがない」と言える状態であれば足ります。ただし、一度も申し入れをしないまま提訴すると、相手から「協議の要件を満たしていない」と反論されるおそれがあります。そのため、少なくとも一度は内容証明郵便などで分割を申し入れておくと安心です。
なお、共有者が認知症などで判断能力を欠いている場合も、本人と有効な話し合いができないため「協議をすることができないとき」にあたり得ます。ただし、その場合は訴訟の前提として成年後見人の選任が必要になるなど別の手続きが絡むため、早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。
協議は電話やメールなどを利用しても良い
協議は、必ずしも対面で行う必要はありません。電話やメール、手紙などを利用しても「協議を試みた」と認められます。遠方に住んでいる共有者や、顔を合わせたくない相手とのやり取りでも問題ありません。
ただし、後から「本当に協議をしたのか」が争点になることもあるため、やり取りの記録を残しておくことが大切です。確実に証拠を残すなら、内容証明郵便で協議を申し入れる方法が有効です。内容証明郵便は「いつ・誰が・どんな内容を送ったか」を郵便局が証明してくれるため、協議を試みた証拠として強い効力を持ちます。
共有物分割協議が不調に終わったこと
協議を申し入れたものの合意に至らなかった、または相手が応じなかった場合に、訴訟へ進めます。「分割方法で折り合えない」「そもそも返事がない」といったケースが該当します。
注意点として、5年以内の「不分割特約」がある場合は、その期間中は分割を請求できません。これは共有者間で「一定期間は分割しない」と取り決める契約で、たとえば二世帯住宅や共同事業のために期間を定めて共有を続けるようなケースで結ばれます。
相続で共有になった不動産(遺産共有)は原則として対象外
被相続人から相続した不動産が共有状態にある場合(遺産共有)は、原則として家庭裁判所の「遺産分割」手続きで解消し、共有物分割請求訴訟は使えません。2023年4月施行の民法改正により、通常の共有と遺産共有が混在しているケースでは、相続開始から10年が経過すれば共有物分割請求訴訟で一括して解決できるようになりました。ただし、親が単独で所有していた家を兄弟が相続したまま放置しているような「全部が遺産共有」のケースは、10年が経過しても共有物分割請求訴訟は使えず、家庭裁判所の遺産分割手続きによります。自分のケースがどちらにあたるか判断が難しい場合は、弁護士に確認しましょう。
なお、相続から10年が経つ前でも、相続人全員が遺産分割に合意できれば、訴訟によらず共有を解消できます。訴訟は、あくまで話し合いがまとまらないときの手段です。
共有物分割請求訴訟を起こすメリット
費用や時間がかかる一方で、共有物分割請求訴訟には話し合いだけでは得られないメリットがあります。何より大きいのは、相手が応じなくても共有状態に決着をつけられることです。
共有のまま放置すると、相続が重なって共有者が増え、解決はますます難しくなります。訴訟は、こじれた共有関係に確実な「出口」を用意する手段だといえます。主なメリットは、次の2つです。
- 話し合いが不調でも、最終的に共有状態を解消できる
- 鑑定によって不動産の客観的な価格が算出される
それぞれ詳しく見ていきましょう。
話し合いが不調でも共有状態の解消が可能
最大のメリットは、相手が反対していても、最終的に共有状態を解消できる点です。協議による分割は全員の合意がなければ成立しませんが、訴訟であれば裁判所が分割方法を決定します。
たとえば「兄弟3人で相続した実家を売りたいが、1人が頑なに反対していて何年も話が進まない」というケースでも、訴訟であれば「話し合いが平行線のまま塩漬け」という状態から抜け出せます。
共有状態を放置すると、さらに相続が重なって共有者が増え、解決がより困難になるため、早めに動くことが重要です。
不動産の客観的な価格が算出される
訴訟の過程で評価額に争いがある場合は、不動産鑑定士による鑑定で客観的な時価が算出されます。これにより、代償分割の代償金や換価分割の分配額が公正に決まりやすくなります。
共有者間の話し合いでは、「もっと高いはずだ」「いや、そんな価値はない」と評価額でもめることが少なくありません。第三者である鑑定士が出した金額を基準にできるため、「相手の提示する金額が妥当かわからない」という不安を解消できるのもメリットの1つです。
共有物分割請求訴訟を起こすデメリット
ただし、訴訟にはデメリットもあります。特に「起こせば自分の希望どおりになる」とはかぎらない点は、提起する前に必ず理解しておきたいところです。費用や時間の負担も決して小さくありません。主なデメリットは、次の3つです。
- 希望どおりに分割できるとはかぎらない
- 解決までに多くの時間がかかりやすい
- 費用が高額になる可能性がある
希望どおりに分割できるとはかぎらない
分割方法は最終的に裁判所が決定するため、自分が希望する方法(単独で取得したいなど)が認められるとはかぎりません。
たとえば「自分が住み続けたいので代償金を払って単独取得したい」と主張しても、代償金を支払うだけの資力がないと判断されれば、その希望は認められません。その結果、最も避けたかった競売(換価分割)が命じられ、住んでいた家を出ていかざるを得なくなることもあります。
訴訟は「起こせば自分の思いどおりになる」ものではない、と理解しておく必要があります。
解決までに多くの時間がかかりやすい
共有物分割請求訴訟は、解決までに半年〜2年程度かかるのが一般的です。不動産鑑定が必要になったり、共有者が多数いて全員への手続きに時間がかかったりすると、さらに長期化します。
その間も固定資産税などの維持費は発生し続けるため、「時間がかかること自体がコスト」であることも意識しておきましょう。
費用が高額になる可能性がある
弁護士費用に加えて、不動産鑑定費用がかかると、総額で数十万円〜200万円超になることもあります。特に鑑定費用は数十万円単位で発生するため、「訴訟で得られる金額」と「かかる費用」のバランスを見極めることが大切です。費用の内訳は後ほど詳しく解説します。
共有物分割請求訴訟のメリット・デメリット
| メリット |
デメリット |
| 相手が反対しても共有状態を解消できる |
希望どおりの分割になるとはかぎらない |
| 鑑定で客観的な価格が算出される |
解決まで半年〜2年と時間がかかる |
| 放置されていた問題に決着をつけられる |
費用が数十万〜200万円超になることがある |
メリット・デメリットを踏まえると、訴訟が向くのは「話し合いの余地がなく、かつ得られる金額が費用を十分に上回るケース」です。解決額が小さい場合や競売になりそうな場合は、訴訟前に持分売却など他の方法を選んだほうが、結果的に手元に残るお金が多くなることもあります。
共有物分割請求訴訟の手続きの流れ
共有物分割請求訴訟は、大きく①協議 → ②訴訟提起 → ③審理 → ④判決または和解の4ステップで進みます。前述のとおり、全体の所要期間は半年〜2年程度が目安です。
手続きの流れと期間の目安
STEP1:共有者間で分割協議(数週間〜数か月)
↓ まとまらなければ
STEP2:地方裁判所へ訴訟を提起(訴状の準備に数週間)
↓
STEP3:審理・口頭弁論(月1回程度/鑑定が入ると長期化)
↓
STEP4:判決または和解で分割方法が決定
この4ステップのうち、実際に時間がかかるのは③の審理です。とくに不動産鑑定が入ると、その分だけ期間も費用も大きく膨らみます。
①共有者間で分割協議を行う
まずは話し合いで分割方法を決められないか試みます。ここで合意できれば、訴訟は不要です。協議の段階で「誰が取得するのか」「いくらで分けるのか」を整理しておくと、その後の手続きもスムーズになるでしょう。
協議がまとまらない見込みでも、内容証明郵便で協議を申し入れ、「協議を試みた証拠」を残しておくことが重要です。その際、「分割を求める旨」と「希望する分割方法(例:自分が取得して代償金を払う/売却して分ける)」を明記しておくと、相手も検討しやすく、訴訟になった場合の主張の軸にもなります。なお、前述のとおり5年以内の不分割特約がある場合は、期間中は分割請求できません。
②協議がまとまらなければ裁判所に訴訟を提起する
協議が不調に終わったら、裁判所に訴状を提出して訴訟を提起します。
- 管轄:原則として不動産の所在地を管轄する地方裁判所
- 被告:原告(訴える人)以外の共有者全員。全員を当事者にする必要がある「固有必要的共同訴訟」です
- 印紙代:固定資産税評価額をもとに算定。一般的なケースで3〜5万円程度
- 郵便切手代:当事者の人数に応じて6,000円〜1万6,000円程度
ワンポイントアドバイス|はじめから地方裁判所へ申し立てる
訴額(対象となる自分の持分の価格をもとに算定した額)が140万円以下の場合は、簡易裁判所の管轄になることもあります。ただし、共有物分割は専門性が高く、簡易裁判所から地方裁判所へ移されるケースも多いため、はじめから地方裁判所に申し立てておくとスムーズです。
共有者の1人でも欠けると訴訟が成立しないため、事前に共有者全員を正確に把握しておく必要があります。相続が絡んで共有者が増えている場合は、戸籍をたどって全員を確定させる作業から始めることになります。
なぜ全員を被告にする必要があるかというと、分割の判決は共有者全員の権利関係をまとめて変動させるものだからです。1人でも当事者から漏れると、その持分について判断できず判決が成立しません。たとえば相続で共有者が10人いる土地なら、原告以外の9人全員を被告にする必要があります。
③裁判所での審理・口頭弁論
訴訟が始まると、月1回程度のペースで期日(口頭弁論)が開かれます。共有関係の確認、各共有者の意向、不動産の利用状況、評価額などが順番に整理されていきます。具体的には、「誰がその不動産を取得したいのか」「取得する場合の代償金はいくらが妥当か」「そもそも分筆して分けられるのか」といった点が主な争点になります。
評価額に争いがある場合は不動産鑑定が実施されることがあり、その分だけ期間と費用が増えます。また、裁判所が和解を勧告するケースが多く、実務上は判決まで行かずに和解で決着する割合が高い傾向にあります。お互いに譲歩できる余地があれば、判決を待たずに早期解決できることもあります。
④判決または和解で分割方法が決定する
和解が成立すると和解調書が作成され、これは確定判決と同じ効力を持ちます。和解に至らなければ判決となり、内容に不服がある場合は判決の送達を受けてから2週間以内に控訴できます。
なお、2023年4月施行の民法改正により、判決と同時に「代償金の支払」や「登記手続き」などの給付を命じることができるようになりました。これにより、判決後に改めて別の手続きを起こす必要が減り、解決までの手間が軽くなっています。
共有物分割請求訴訟に必要な書類
訴訟には主に以下の書類が必要です。ケースによって追加の書類を求められることもあります。
共有物分割請求訴訟の主な必要書類
| 書類 |
主な役割 |
| 訴状 |
請求の内容や希望する分割方法を記載する |
| 全部事項証明書(登記簿謄本) |
共有者や持分割合、抵当権の有無を示す |
| 固定資産評価証明書 |
印紙代の算定や不動産の評価の基礎となる |
| 公図・地積測量図・建物図面 |
不動産の位置・形状・面積を示す |
| 協議不調を示す資料 |
内容証明郵便の控えなど、協議を試みた証拠 |
相続によって共有になった不動産の場合は、戸籍謄本など相続関係を示す書類が必要になることもあります。
共有物分割請求訴訟で裁判所が命じる3つの分割方法
裁判所が命じる分割方法には、現物分割・代償分割・換価分割の3つがあります。2023年4月施行の民法改正で検討の順序が明文化され、「現物分割」または「代償分割」を優先し、いずれも難しい場合に「換価分割(競売)」という順序で判断されます。
3つの分割方法の概要
| 分割方法 |
どんな方法か |
| 現物分割 |
土地などを物理的に分けて、それぞれが単独所有する |
| 代償分割 |
1人が取得し、他の共有者へ持分に応じた代償金を支払う |
| 換価分割(競売) |
売却して代金を持分割合で分配する(最終手段) |
どの方法になるかは、「住んでいる人がいるか」「土地か建物か」で大きく変わります。建物がある不動産は物理的に分けにくく現物分割が難しいため、実際には代償分割か換価分割が中心になります。
現物分割|不動産そのものを物理的に分ける
裁判所がまず検討する原則的な方法です。土地であれば分筆して、各共有者がそれぞれの区画を単独所有します。
ただし、分筆後の各区画が独立して利用できる広さがあるかが重要です。特に宅地の場合、建築基準法の接道義務(原則として幅4m以上の道路に2m以上接していること)を満たさない形に分けると土地の価値が著しく下がるため、裁判所はそのような現物分割を原則として認めません。狭い土地を細かく分けると、かえって使いにくい土地になってしまうこともあります。
また、建物の現物分割は構造上ほぼ不可能で、マンションの専有部分も同様です。土地と建物がセットの不動産では、現物分割が選ばれにくいのが実情です。各区画の価値に差が出る場合は、差額を金銭で調整する「一部価格賠償」を併用することもあります。
たとえば、兄弟2人で相続した広い更地であれば、半分ずつに分筆してそれぞれが単独所有する、といった現物分割が成立しやすいケースです。一方、1棟の建物や、分けると狭くなりすぎる土地では現物分割は難しく、代償分割や換価分割が検討されることになります。
代償分割(全面的価格賠償)|1人が取得し他の共有者に代償金を支払う
共有者の1人が不動産を単独で取得し、その代わりに他の共有者へ持分に応じた代償金を支払う方法です。2023年4月施行の民法改正で明文化されました(民法258条2項2号)。
適用には、取得を希望する共有者に代償金の支払能力があることが要件となります。代償金の額は「不動産の時価×他の共有者の持分割合」が目安で、時価は不動産鑑定で算定されることが多いです。たとえば時価3,000万円の不動産を持分2分の1ずつで共有している場合、取得する側は相手に1,500万円程度の代償金を支払うイメージです。
その不動産に住み続けたい共有者がいるケースで選ばれやすい方法です。
イエコン編集部に寄せられた声
「父から相続した実家に私が住んでおり、共有者である弟から共有物分割請求訴訟を起こされた。弟は『現金で分けたい』、私は『住み続けたい』と希望が対立。鑑定で出た評価額をもとに、私が弟へ代償金を支払って単独所有とする和解が成立した。競売になっていたら自宅を失っていたと思うと、早めに弁護士へ相談してよかった」(50代・女性)
このように住み続けたい共有者がいる場合は、早めに資金準備と評価額の把握を進めておくことが重要です。代償金を用意できないと、希望しても代償分割は認められず、競売に進んでしまうからです。
換価分割(競売)|不動産を売却して代金を分配する
現物分割も代償分割もできない場合の最終手段です。不動産を競売で売却し、代金を持分割合に応じて分配します。
注意したいのは、競売の落札価格は市場価格の6〜7割程度になるのが一般的で、共有者全員の手取りが目減りする点です。競売は内覧ができないことや、立ち退きの手間を買主が負うことなどから、通常の売却より価格が下がりやすいのです。
そのため、競売に進む前に裁判所が「任意売却(通常の市場での売却)で合意できないか」と和解を勧めるケースも多く見られます。全員が「競売より任意売却のほうが手取りは増える」と理解できれば、和解で任意売却に合意するのが合理的です。
あなたのケースで選ばれやすい分割方法がわかる判定チャート
自分のケースではどの分割方法になりそうか、以下のフローで確認してみましょう。あくまで簡易的な目安であり、実際の判断は事案ごとに異なります。
分割方法 かんたん判定チャート
Q1:対象は土地のみ?(建物がない、または取り壊し前提)
→ YES:Q2へ / NO:Q3へ
Q2:分筆後も各区画が独立して使える広さ・接道がある?
→ YES:【現物分割】の可能性 / NO:Q3へ
Q3:単独取得を希望する共有者がいて、代償金の支払能力がある?
→ YES:【代償分割】の可能性 / NO:Q4へ
Q4:共有者全員が手放してよい?
→ YES:任意売却での和解が有力 / NO:【換価分割(競売)】の可能性
実際には、「その不動産に住み続けたい人がいるか」で結論が大きく変わります。誰も住んでいなければ換価分割(売却)、住み続けたい人がいて代償金を払える資力があれば代償分割、というのが典型的な落ち着きどころです。最終的な見通しは弁護士に確認しましょう。
共有物分割請求訴訟にかかる費用
共有物分割請求訴訟にかかる費用は、大きく次の3種類です。
- 弁護士費用(着手金・成功報酬)
- 裁判所に支払う費用(印紙代・郵便切手代)
- 不動産鑑定費用(評価額に争いがある場合)
このうち弁護士費用が最も大きな割合を占め、不動産鑑定費用が加わると総額はさらに膨らみます。項目ごとに見ていきましょう。
弁護士費用(着手金・成功報酬)
弁護士費用は事務所によって異なりますが、目安は以下のとおりです。
- 着手金:22〜33万円程度(税込)。依頼時に支払う費用で、結果にかかわらず原則返金されません
- 成功報酬:得られた経済的利益の5.5〜11%程度(税込)。取得した不動産の価値や受け取った代償金などが「経済的利益」にあたります
たとえば代償金として1,500万円を受け取れた場合、成功報酬はその5.5〜11%にあたる約82万〜165万円が目安になります。法律上は弁護士をつけない「本人訴訟」も可能ですが、分割方法の立証や鑑定への対応など専門性が高いため、弁護士に依頼するのが一般的です。
弁護士費用はあくまで目安です
弁護士費用は事務所の料金体系によって大きく異なり、対象不動産の価値や解決の難易度によっても変わります。着手金を無料にしている事務所もあれば、上記の幅を超える事務所もあります。多くの事務所が初回無料相談を設けているので、依頼前に見積もりを取り、費用体系をしっかり確認しましょう。
裁判所に支払う費用(印紙代・郵便切手代)
裁判所に納める費用は、印紙代が3〜5万円程度、郵便切手代が6,000円〜1万6,000円程度で、合計5〜7万円程度が目安です。印紙代は固定資産税評価額をもとに算定されるため、不動産の評価額によって変動します。弁護士費用に比べれば小さい金額です。
不動産鑑定が必要になった場合の費用
評価額に争いがある場合や、代償分割で代償金の額が争点になる場合は、不動産鑑定が必要になります。費用の目安は数十万円〜100万円程度で、裁判所が選任する鑑定では高額になる傾向があります。
費用は原則として申立人がいったん予納し、最終的に判決で当事者間の負担割合が決まることもあります。鑑定が入るかどうかで総額が大きく変わるため、評価額で争いになりそうなケースでは、あらかじめ費用を見込んでおきましょう。
モデルケースで見る共有物分割請求訴訟の費用シミュレーション
市場価格3,000万円・持分2分の1ずつのAさん・Bさんを例に、解決方法ごとの手取り(1人あたり)の目安を比較します。訴訟を選ぶ場合の費用は、弁護士費用と鑑定費用を含めおおむね143〜228万円程度を想定しています。
解決方法別・手取りと期間の目安(持分2分の1・1人あたり)
| 解決方法 |
手取りの目安 |
解決までの期間 |
| ①訴訟 → 競売(換価分割) |
約670〜900万円 |
1〜2年以上 |
| ②訴訟 → 代償分割(相手が取得) |
約1,270〜1,360万円 |
半年〜1年半 |
| ③訴訟前に自分の持分のみ売却 |
約750〜1,050万円 |
数週間〜1か月 |
※上記は一定の前提に基づく目安であり、実際の金額・期間は物件や共有者の状況によって異なります。
このように、競売(換価分割)は手取りが最も少なくなりやすく、訴訟は費用と時間の負担も大きいのが実情です。一方で、訴訟前に自分の持分のみを売却すれば、費用も期間も抑えられます。
なお、分割の結果によっては譲渡所得税や不動産取得税などの税金がかかる場合があります。とくに換価分割(売却)では売却益に譲渡所得税がかかるため、最終的な手取りを正確に把握したいときは税理士に確認しておくと安心です。
次の章で訴訟以外の解決方法も確認しておきましょう。
共有物分割請求訴訟を起こされた場合の対処法
ここまでは訴訟を「起こす側」の視点で解説してきましたが、共有物分割請求訴訟は「起こされる側」になることもあります。ある日突然、裁判所から訴状が届いて驚く方も少なくありません。慌てて不利な対応をしないよう、対処法を整理しておきましょう。起こされた側が押さえておくべきことは、次の3つです。
- 分割請求そのものは拒否できない
- 訴状が届いたらまず何をすべきか(答弁書の準備・弁護士相談)
- 和解で解決できる場合もある
共有物分割請求訴訟は拒否できない
前述のとおり、分割を請求する権利は民法256条で認められた権利であり、起こされた側がこれを拒否することはできません。「共有のままにしておきたい」という主張は、原則として認められないと考えておきましょう。
特に注意したいのは、訴状を無視すると、相手の主張がそのまま認められ、自分にとって不利な分割方法が命じられるリスクが高まる点です。届いた書類は必ず確認し、指定された期限内に対応してください。
訴状が届いたら、通常は第1回口頭弁論期日までに「答弁書」を提出する必要があります。答弁書とは、相手の主張に対する自分の言い分(どの分割方法を望むか、評価額をどう考えるかなど)を記載した書面です。期日は訴状の送達からおおむね1か月〜1か月半後に設定されることが多く、準備に使える時間は意外と短いため、できるだけ早く弁護士へ相談することが重要です。
起こされた側がまずやるべきこと
訴訟を起こされたら、次のことを早めに進めましょう。
- すぐに弁護士へ相談する(答弁書の提出には期限があり、放置は禁物)
- 自分がどの分割方法を希望するかを明確にする(取得したいのか、手放してよいのか)
- 不動産の適正な評価額を把握しておく
- 和解に応じるかどうかの方針を決める
特に「自分が取得したいのか、手放してよいのか」によって、取るべき戦略が大きく変わります。取得を希望するなら代償金の資金準備が必要ですし、手放してよいなら少しでも高く換価できる方法を探ることになります。
イエコン編集部に寄せられた声
「疎遠だった共有者から、突然『共有物分割請求訴訟』と書かれた訴状が届いて頭が真っ白になった。最初は『無視すればいい』と思っていたが、調べると放置は危険だと知り、すぐ弁護士に相談。私は不動産にこだわりがなかったため、任意売却で代金を分ける方向で和解でき、競売よりも高く売れた」(40代・男性)
この方のように不動産にこだわりがない場合は、競売を待たずに任意売却での和解を目指すと、より高く・早く解決できる可能性があります。逆に住み続けたい場合は、代償金を支払って取得する方向で早めに資金を準備しましょう。
訴訟中に和解で解決するケース
共有物分割請求訴訟では、裁判所が和解を勧告するケースが多いです。和解には次のようなメリットがあります。
- 分割方法や支払条件を柔軟に設定できる
- 競売を回避できる可能性がある
- 長期化を防げる
- 和解調書は確定判決と同じ効力を持つ
双方が手放してよいなら任意売却、一方が取得を希望するなら代償金の合意、というように和解が成立しやすいケースがある一方、評価額の争いや感情的な対立が深い場合は、和解が難しくなる傾向があります。
共有物分割請求訴訟をせずに共有状態を解消する方法
訴訟は費用・期間・精神的な負担が大きい手続きです。訴訟に進む前に、まずは話し合いベースの解決方法を検討するのがおすすめです。ここでは、訴訟以外の4つの方法を紹介します。
訴訟以外で共有状態を解消する方法
| 方法 |
特徴 |
| 自分の持分のみ売却 |
他の共有者の同意不要。早く解決できるが価格は低くなりやすい |
| 共有者に買い取ってもらう |
相手の合意が必要。第三者より高値になりやすい |
| 全体を売却 |
全員の合意が必要。手取りが最も大きくなりやすい |
| 持分の放棄 |
対価は得られないが、共有関係から離脱できる |
このなかで、他の共有者の同意なしに自分だけで実行できるのは「自分の持分のみの売却」だけです。関係がこじれて話し合いが難しい場合は、まずこの方法が現実的な選択肢になります。
自分の共有持分のみを売却する
自分の持分だけであれば、他の共有者の同意がなくても売却できます。共有者と対立していて話し合いが難しい場合や、早く共有状態から離脱したい場合に向いています。
売却先は共有持分を専門に扱う買取業者への直接売却が一般的で、仲介で一般の個人に売るのは難しいケースがほとんどです。交渉や裁判が不要で、最短数週間で現金化できるのがメリットですが、売却価格は全体売却より低くなる傾向があります。複数の業者に査定を依頼し、価格と対応を比較して選ぶとよいでしょう。
向いている人:共有者と対立している、訴訟の費用や時間をかけたくない、とにかく早く共有から抜けたい人。
他の共有者に持分を買い取ってもらう
自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう方法です。共有者は持分を集約することで不動産全体の支配力が高まるため、第三者に売るより高い価格で合意しやすい傾向があります。
価格の目安は「市場価格×自分の持分割合」です。ただし、親族間の売買では、時価より著しく低い価格だとみなし贈与として贈与税が課される可能性があるため注意しましょう。相手に購入の意思と資力がなければ成立しない点もデメリットです。
向いている人:共有者と話し合いができる関係で、相手に買い取る意思と資金がある人。
共有者全員で不動産全体を売却する
共有者全員の合意が得られれば、不動産全体を市場価格で売却できます。手取り額が最も大きくなりやすい方法で、関係が良好で全員が売却に前向きであれば、最初に検討したい選択肢です。
ただし、共有者が1人でも反対すれば成立しません。売却代金は持分割合に応じて分配するのが原則で、立替えていた固定資産税などがある場合は、売却代金から精算するケースが一般的です。
向いている人:共有者全員と連絡が取れて、全員が売却に前向きな人。手取りを最大化したい人。
共有持分を放棄する
自分の持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。対価は得られませんが、固定資産税や維持費の負担から解放されたい場合の選択肢になります。
ただし、放棄の登記には他の共有者の協力が必要で、協力を拒否されると結局は登記引取請求訴訟が必要になることがあります。また、持分を受け取った側にみなし贈与として贈与税が課される可能性もあるため、「タダで手放せて終わり」とはいかない点に注意が必要です。
まとめ
共有物分割請求訴訟は、共有者間の話し合いで決まらない場合の最終的な解決手段です。
- 各共有者はいつでも分割を請求でき、相手は原則として拒否できない
- 分割方法は現物分割・代償分割・換価分割(競売)の3つで、裁判所が決定する
- 解決まで半年〜2年、費用は数十万〜200万円超かかることもある
- 2023年の民法改正で代償分割が明文化され、遺産共有も相続10年経過で訴訟が可能になった
訴訟は費用も時間もかかるため、まずは協議や和解での解決を目指し、それが難しい場合は持分売却なども含めて検討するのがおすすめです。訴訟を起こす場合も、起こされた場合も、まずは共有不動産の問題に詳しい弁護士へ相談し、方針を立てるところから始めてみてください。
共有物分割請求訴訟についてよくある質問
共有物分割請求訴訟は弁護士なしでもできる?
法律上は弁護士をつけない「本人訴訟」も可能です。ただし、分割方法の立証や不動産鑑定への対応など専門性が高いため、弁護士に依頼するのが一般的です。費用を抑えたい場合は、法テラス(日本司法支援センター)の法律扶助制度を利用できることもあります。
共有物分割請求訴訟の期間はどれくらい?
半年〜2年程度が目安です。不動産鑑定が入る場合や共有者が多数の場合は、さらに長期化します。和解で解決する場合は、判決まで進むより短期間で終わるケースが多くなります。
共有物分割請求訴訟で和解するメリットは?
①分割方法や支払条件を柔軟に設定できる、②競売を回避できる可能性がある、③長期化を防げる、④和解調書が確定判決と同じ効力を持つ、といったメリットがあります。
遺産分割と共有物分割請求訴訟の違いは?
遺産分割は、相続で生じた共有を家庭裁判所で解消する手続きです。共有物分割請求訴訟は、通常の共有を地方裁判所で解消する手続きです。2023年の民法改正により、通常の共有と遺産共有が混在するケースでは、相続開始から10年が経過すれば共有物分割請求訴訟でも解決できるようになりました(全部が遺産共有の場合は、10年経過後も遺産分割手続きによります)。
共有物分割請求訴訟で競売になった場合、市場価格で売れる?
競売の落札価格は、一般的に市場価格の6〜7割程度になります。内覧が制限されることや権利関係の複雑さから、市場価格より低くなるのが通常です。そのため、競売を避けて任意売却で合意する和解を目指すケースが多く見られます。
共有物分割請求訴訟を途中で取り下げることはできる?
原告は訴えを取り下げることができますが、被告が答弁書を提出するなど審理が進んだ後は、
被告の同意が必要になります。和解の見込みが立った場合などに取り下げることもありますが、判断に迷う場合は弁護士に相談しましょう。
参照:
所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し|法務省