共有物分割請求訴訟とは
共有物分割請求訴訟とは、裁判所に対して共有状態の解消を求める訴訟のことです。共有状態の解消について、共有者と話し合いができない場合や話し合っても解決が望めないケースなどで利用されます。
裁判所は共有者それぞれの言い分を聞きながらも、あくまでも中立公正な立場で分割方法を判断し、決定します。その決定には共有者全員が従わなければならないため、確実に共有状態を解消できる手段として非常に有効です。
その一方で時間や費用がかかる、希望どおりの結果になるとはかぎらないといった側面もあるため、慎重に検討する必要があります。
参照:電子政府の総合窓口e-Gov「民法第256条」
共有物分割請求訴訟を起こす条件
共有者として不動産の権利を有していても、突然共有物分割請求訴訟をおこなうことは基本的に不可とされています。
まず、共有者間で共有物分割協議をおこない、協議で解決できないなら調停、調停でもまとまらない場合は訴訟という流れで進行します。ただし、調停に関しては必須ではありません。
ここでは、訴訟を申し立てるための具体的な条件について解説します。
- 共有物分割協議をおこなっていること
- 共有物分割協議が不調に終わったこと
それぞれ解説します。
共有物分割協議をおこなっていること
裁判所に共有物分割請求訴訟を申し立てる前に、共有者の間で協議をおこなう必要があります。民法でも、以下のように定められています。
(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。引用:民法|e-Gov法令検索「民法第258条」
つまり、はじめから訴訟を起こせるというわけではなく、「話し合いがまとまらないときにはじめて裁判所に訴訟が提起できる」ということです。
なお、共有状態を解消するための話し合いである「共有物分割協議」は、共有者全員が同席していなくても成立するとされています。つまり、共有者のうち誰かが全く話に応じない場合であっても、「協議が調わないとき」に該当します。
協議は電話やメールなどを利用しても良い
共有者が遠方に居住していて会うことが難しい、病気やケガで入院しているなどの理由で全員が集まれないケースであれば、電話やメール(手紙)などを利用して協議をおこなっても問題ありません。
ただし「共有物分割協議をおこなった事実」を証明できなければ、共有物分割請求訴訟を受理してもらえない可能性があります。
協議の内容を手紙でやりとりするのであれば、「内容証明郵便」を利用するとよいでしょう。「いつ・誰が・誰に・何を送ったか」といった情報を郵便局に保管・証明してもらえます。
この制度を利用することで、訴訟を阻止したい共有者に「協議に関する手紙はもらっていない」と主張されたり、郵送事故が起きて手紙が紛失してしまうトラブルに見舞われたりすることを回避できます。
共有物分割協議が不調に終わったこと
協議をおこなうことを共有者に通知したにもかかわらず、無視や拒否されてしまうケースもあります。また、分割する期日を設けていたとしても、その期日までに分割してもらえないことも考えられます。
このような状況は「協議が不調に終わった」といえるため、共有物分割請求訴訟が受理される可能性は高いでしょう。
ただし「協議は電話やメールなどを利用しても良い」でも説明したように、訴訟を提起するためには協議が調わない事実を証明する必要があります。そのため、内容証明郵便の利用や「分割協議書」を作成し、協議をおこなった証拠を残しておくことが大切です。
なお、共有物分割請求訴訟を起こす前に、裁判所の調停委員などが間に入って話し合いをおこなう「共有物分割調停」もあります。ただし、この共有物分割調停は、訴訟の前に必ず行わなければならないものではありません。
実情としては、調停では結局は当事者による話し合いになるため共有物分割調停をおこなっても解決しないケースが多く、利用される機会は多くありません。
裁判所が決定する分割方法は3パターン
共有物分割請求訴訟では和解が成立した場合を除き、裁判所の判決によって分割方法が決定します。裁判所が決定する分割方法は以下の3パターンです。
- 1つの土地を物理的に分ける「現物分割」
- 取得した人が共有者に金銭を支払う「代償分割」
- 競売で得た金銭を分配する「換価分割」
訴訟を提起しても、和解が成立するなら裁判所の決定によらずに解決できます。共有者同士の話し合いがうまくいかなかったため訴訟に発展したという経緯はあるものの、実際には和解で解決するケースも多く存在します。
裁判所の決定は不本意な結果になる可能性があるため、ケースによっては積極的に和解に応じたほうがよいこともあるでしょう。ここからは、それぞれの分割方法について詳しく解説します。
1つの土地を物理的に分ける「現物分割」
1つ目は、1つの土地を物理的に分ける「現物分割」です。3つの分割方法のうち、この「現物分割」が原則であるといわれています。
共有不動産が土地であれば、共有持分に応じて「分筆」することが可能です。分筆とは、1つの土地を複数に切り分け、それぞれの土地を登記し直す作業のことです。
分筆によって複数に分けた土地を共有者それぞれの名義にすれば、共有状態は解消され、すべての土地が単独名義になります。今後はそれぞれが自分の土地を好きに利用でき、売却する際も自分の意思のみで決定できます。
ただし、現物分割ができるのは土地だけである点に注意が必要です。建物は物理的に分けられないため、現物分割ができません。そのため、分割対象の共有不動産に建物が含まれている場合、現物分割の判決が下されるケースはほとんどありません。
価格の過不足を調整する「部分的価格保証」
現物分割で土地を分筆する際、道路の位置や土地の形状などによってはまったく同じような土地に分割できないこともあります。
例えば、以下の条件の土地を「現物分割」する場合を例に考えてみましょう。
・土地の評価額:3,000万円
・AとBが持分1/2ずつで共有
・分筆後の割合がA→6割:B→4割
分筆後の土地の価格を単純計算すると以下のとおりです。
Aの土地価格:3,000万円×0.6=1,800万円
Bの土地価格:3,000万円×0.4=1,200万円
上記のケースでは、Aはもともとの持分で計算した金額(1,500万円)よりも300万円多く、逆にBは持分よりも300万円少なくなってしまいます。この価格差を調整するために、AがBに300万円を支払います。
なお、このように、現物分割をする際に価格の過不足を調整することを「部分的価格保証」と呼ぶのに対し、後述する「代償分割」で持分と金銭を交換することを「全面的価格保証」と呼びます。
取得した人が共有者に金銭を支払う「代償分割」
2つ目は取得した人が共有者に金銭を支払う「代償分割」です。1人が単独で不動産を取得する代わりに、他の共有者に対して代金を支払う分割方法です。
例えば、3,000万円の不動産をAとBが持分2分の1ずつ共有しているとします。Aが不動産の所有権をすべて取得する代わりに、1,500万円をBに支払うことで共有状態が解消されます。
ただし代償分割をおこなうためには、共有者に代償金を支払えるだけの資力が必要です。資力のある共有者がいなければ、後述する「換価分割」で決まる可能性が高くなるでしょう。
競売で得た金銭を分配する「換価分割」
3つ目は、競売によって得た金銭を共有者の持分に応じて分配する「換価分割」です。
以下のケースでおこなわれることが多いです。
- 共有不動産が建物である
- 現物分割をおこなうことで著しく資産価値を損ねてしまう
- 代償分割に必要な資力をどの共有者も持っていない
不動産を手放さなければならないため、分割後に活用を考えている場合は要注意です。また、競売の落札相場は一般的な不動産売買の価格相場より著しく低いのが一般的です。換価分割になるくらいなら、通常の不動産売却をするほうが高額で売却できるでしょう。
「現物分割や代償分割ができない場合の最終手段が換価分割」と考えておいてよいでしょう。
共有物分割請求訴訟をおこなうメリット
共有物分割請求訴訟をおこなうメリットは以下のとおりです。
- 共有状態を確実に解消できる
- 共有者の同意がなくても提起できる
- 裁判所が分割方法を決定するため納得しやすい
- 言い値ではなく適正な価格で現金化できる
それぞれ解説します。
共有状態を確実に解消できる
共有物分割請求訴訟をおこなうことで、共有状態を確実に解消できます。裁判所が決めた分割方法には強制力があり、共有者全員が従う必要があるためです。
例えば共有不動産全体を売却したい場合、「変更行為」にあたるため共有者全員から同意を得なければなりません。
そのため共有者同士で意見が対立している場合や、共有者同士の関係がこじれていて話し合いすら難しいようなケースでは、いつまでも処分できず固定資産税だけがかかり続けてしまうことがあります。そのような場合でも、訴訟によって共有問題に決着がつけられます。
ただし、たしかに共有状態は解消されますが、自分にとって望んでいた結果になるとはかぎらないことを覚えておきましょう。
共有者の同意がなくても提起できる
共有物分割請求訴訟は共有者の同意がなくても提起できます。共有不動産の共有者には、持分にかかわらず分割請求をおこなう権利を持っているためです。
他の共有者が反対していても、自分の意思ひとつで訴訟を起こせる点は大きなメリットといえるでしょう。
「共有物分割請求」を起こされると、他の共有者は被告となり、裁判を拒否できません。そのため共有者のうちの誰かが共有物分割請求をおこなえば、どのようなかたちであれ最終的には共有状態が解消できるのです。
裁判所が分割方法を決定するため納得しやすい
裁判所が分割方法を決定するため、相手が納得しやすい点もメリットのひとつです。これが共有者間の交渉なら、自分の意見をまったく譲らないケースもあるでしょう。関係がこじれてしまい、話し合い自体ができなくなることもあるかもしれません。
しかし裁判所はあくまでも公正な立場です。そのため共有者の中で極端に損得が分かれるとは考えにくく、他の共有者も裁判所の決定を冷静に受け止めてくれることが予想されます。
言い値ではなく適正な価格で現金化できる
適正な価格で現金化できるところも、共有物分割請求訴訟のメリットとして挙げられます。共有者間の交渉で代償金額を決める場合、適正とはいえない言い値になることは少なくありません。
しかし訴訟では、不動産鑑定のプロである「不動産鑑定士」によって不動産の価値が適正に評価されます。そのため、共有者から適当でない金額を請求される心配はありません。
また、訴訟の際に評価をおこなう不動産鑑定士は、裁判所が選定します。共有者間でやりとりする場合のように、大きく損をする可能性は低いでしょう。
共有物分割請求訴訟をおこなうデメリット
前述のとおり、共有物分割請求訴訟をおこなうメリットはたくさんあります。しかし、その分デメリットも存在するため、訴訟を提起したほうがよいかどうかはよく検討する必要があるでしょう。
共有物分割請求訴訟をおこなうデメリットは以下のとおりです。
- 共有者同士の関係がさらに悪化する可能性がある
- 解決までに多くの時間がかかる
- 費用が高額になる可能性がある
- 希望どおりに分割できるとはかぎらない
それぞれ解説します。
共有者同士の関係がさらに悪化する可能性がある
共有物分割請求訴訟をおこなうことで、共有者同士の関係がさらに悪化する可能性があります。共有状態の解消に反対していた共有者から、そこまでする必要があるのかと反感を買うこともあるでしょう。相手が身内であるなど、関係が近ければなおさらです。
訴訟は共有状態を解消するには非常に有効な手段ですが、訴訟となると公の場で争うことになります。そのため、訴訟を通して共有者同士の溝がさらに深まるおそれがあります。
とはいえ、すでに関係が修復できないところまで悪化しているなら、訴訟による方法でないと解決できない可能性が高いです。話し合いによる解決が望めるうちは調停など他の手段で解決を目指し、話し合いでは解決できない場合の最終手段として訴訟を検討するとよいでしょう。
解決までに多くの時間がかかる
共有物分割請求訴訟を提起してから解決までには、多くの時間がかかります。
案件ごとの事情や裁判所の予定にもよりますが、半年〜1年程度かかることが一般的です。共有者同士で意見が分かれたり事実確認が必要になったりすると、何度も口頭弁論が行われるためその分裁判が長期化します。
さらに控訴審、上告審と発展すると、数年必要になることもあります。訴訟を提起した場合、たしかに共有状態は解消されますが、短期間での解決は難しいことを念頭に置いておいたほうがよいでしょう。
訴訟が長期にわたると、その間訴訟のことばかり考えなければならず、大きな精神的負担にもなります。早急に解決したいなら、訴訟まで持ち込まず協議の段階で解決できるようにするか、共有状態の解消は諦めて自分の持分だけを売却するというように、訴訟以外の方法を考えたほうがよいでしょう。
費用が高額になる可能性がある
訴訟となると、協議だけで解決したケースと比べて費用が高額になる可能性があります。裁判費用自体はそれほど高額ではありませんが、不動産の価値を評価するための「鑑定費用」や弁護士に対応を依頼した場合の弁護士費用など、トータルすると100万円以上の費用がかかることも珍しくありません。
また、弁護士費用の報酬形態は依頼する事務所によって異なりますが、訴訟が長引けば長引くほど費用が高額になることもあります。そのため費用についてのリスクを知り、備えておく必要があるでしょう。
訴訟の費用については、「共有物分割請求訴訟にかかる費用」で詳しく解説します。
希望どおりに分割できるとはかぎらない
共有物分割請求訴訟を起こしたからといって、希望どおりに分割できるとはかぎりません。裁判所は申立人の希望を叶えるのではなく、あくまでも中立の立場でさまざまな事情を考慮し、裁判所が適正だと考える分割方法を決定するためです。
例えば、1つの土地を物理的に分ける「現物分割」を望んでいても、裁判所の決定が競売によって得た金銭を共有者間で分配する「換価分割」であれば、その不動産は競売にかけられてしまいます。
裁判所の決定に納得がいかなければ控訴も可能ですが、共有物分割請求訴訟に関しては「控訴審では原審よりも控訴人に不利な判決ができない」という民事訴訟のルールが適用されません。そのため控訴したとしても希望どおりの判決になるとはかぎらず、かえって不利な結果になる可能性もあります。
訴訟を提起する際は、望んだとおりの結果にならない可能性があることを承知のうえで実行する必要があるでしょう。
共有物分割請求訴訟を起こしたほうがよいケース
共有物分割請求訴訟を起こしたほうがよいケースはあるのでしょうか?ここでは、訴訟を起こしたほうがよいケースについて解説します。
- 話し合いに応じない共有者がいる場合、不動産を有効に活用できない可能性があるため訴訟を検討するとよい
- 一部の共有者が不動産を独占している場合、訴訟によって共有状態を解消すれば共有問題が根本的に解決できる
共有者が共有解消の話し合いに応じない
共有者が共有解消の話し合いに応じない場合、共有物分割請求訴訟を検討したほうがよいかもしれません。話し合いに応じない共有者が1人でもいると以下のような「変更行為」が行えず、不動産を有効に活用できない可能性があるためです。
- 不動産全体の売却
- 共有建物の増改築・取り壊し
- 抵当権の設定
- 土地改良
「変更行為」とは共有物の形状や用途を変更する行為のことをいい、おこなうには共有者全員の同意が必要です。また、賃貸契約の締結や解除といった「管理行為」であれば持分の過半数の同意があれば可能ですが、2分の1ずつ持分を所有している場合、片方が反対していれば管理行為も行えません。
このようなケースでは、不動産を所有している意味がありません。訴訟を起こして共有状態を解消することを検討してもよいでしょう。
参照:民法第251条|e-Gov法令検索
参照:民法第252条|e-Gov法
一部の共有者が不動産を独占している
共有不動産を一部の共有者に独占されている場合、共有物分割請求訴訟を提起することで問題の解決を図れます。共有状態が解消されることで、不動産の独占をやめさせられるためです。
不動産を共有している状態のままでは、独占している共有者にも不動産を利用する権利があるため「不動産を明け渡せ」とは言えません。
「不当利得返還請求」をおこない金銭の支払いを要求することも可能ですが、この方法では根本的な解決にならず、かえって「お金を支払っているのだから独占してもよい」という言い分を与えてしまうことにもなります。
しかし訴訟によって分割方法が決定すれば、共有問題を根本的に解決できます。
共有物分割請求訴訟の手続きと流れ
協議が調わない場合、共有物分割請求訴訟の申し立てが可能です。訴訟を申し立てる際は、所定の手続きをおこなう必要があります。
共有物分割請求訴訟は、以下のような流れで進められるのが一般的です。
- 地方裁判所に訴訟を申し立てる
- 裁判所から呼出状が送付される
- 口頭弁論期日に出廷または答弁書を提出する
- 裁判所から審理と判決が下される
流れに沿って、共有物分割請求訴訟の手続きを詳しく解説していきます。
①地方裁判所に訴訟を申し立てる
まずは訴訟を申し立てます。申立先は共有不動産の所在地、または被告の住所地を管轄する地方裁判所です。申し立てる際は主に以下の必要書類などを提出しなければなりません。
・訴状の正本および副本
・収入印紙
・郵便料
・固定資産評価証明書
・全部事項証明書(登記簿謄本)
訴状の正本には収入印紙を貼り付けます。副本は自分以外の共有者全員(被告)に送付しなければなりません。いずれも記名押印、各ページの余白に捨印を押印したうえで提出しましょう。
収入印紙と郵便料の金額については法律の規定や裁判所によって異なるため、申立先の裁判所に問い合わせて確認することが大切です。
また、固定資産評価証明書と全部事項証明書の入手方法については以下の記事でわかりやすく解説しているので、参考にしてみてください。
参照:裁判所「民事訴訟 訴え提起時に提出すべき書類等」
②裁判所から呼出状が送付される
申し立てをおこなったあと、裁判所から呼出状が送付されます。裁判の混雑状況によっても異なりますが、訴訟を起こして1カ月程度で裁判所から共有者全員に対して口頭弁論期日の呼出状が送付されます。
【呼出状とは】
民事訴訟で原告や被告などに期日を知らせ、出頭を命じる旨が記載されている書面のこと。
呼出状は原則書面で通達されます。呼出状には、訴訟に関する意見や認否を記載して返送する書類「答弁書」も添付されています。
他の共有者は、呼出状が届いてはじめて訴訟を起こされたことを知るケースがほとんどです。口頭弁論期日に出席するか、出席できなければ答弁書に必要事項を記載し、期日の1週間前までに裁判所に提出しなければなりません。
③口頭弁論期日への出廷または答弁書を提出する
口頭弁論期日に出席するか、答弁書を提出します。
口頭弁論期日に裁判所へ出頭しない場合は、答弁書に記載された内容のまま審議が進められます。そのため、答弁書の記載された内容に異議がなければ裁判所に出頭しなくても問題ありません。
ただし反論や主張したいことがあるときは、複数回にわたって裁判がおこなわれることもあります。口頭弁論期日に出席せず答弁書の提出もおこなわない場合、裁判所に「訴訟への主張」を放棄したとみなされ、原告の請求がそのまま認められるケースもあります。
なお、訴訟代理人として弁護士に依頼しているなら、弁護士に出席してもらうことが可能です。自分も出席したければ、弁護士とともに出席しても構いません。
④裁判所から審理と判決が下される
裁判所は口頭弁論や答弁書での共有者それぞれの主張を審理し、適切な分割方法を決定します。
裁判所はあくまでも裁判所が適切と考える分割方法で決定するため、訴訟を起こした原告が望んだとおりの結果になるとはかぎりません。共有状態は解消されるものの、全員が損をする結果になる可能性もあることを念頭に入れておきましょう。
また、判決が下される前に裁判所から和解を提案されるケースもあります。各共有者が和解に応じれば、「裁判上の和解」が成立し訴訟は終了します。
和解するにしても判決で決定されるにしても、訴訟によって分割方法が決定した場合、共有者はその決定に従わなければなりません。従わない共有者がいるときは、強制執行をおこなうことも可能です。
共有物分割請求訴訟にかかる費用
共有物分割請求訴訟にはさまざまな費用がかかります。ケースによっては高額になることもあるため、費用のことも考慮したうえで訴訟を起こすかどうか決める必要があるでしょう。
ここでは、訴訟にかかる費用について解説します。
- 裁判費用:5万円〜
- 不動産鑑定費用:20〜100万円
- 弁護士費用:着手金30万円+報酬金5%
裁判費用(印紙代・郵便切手代):5万円〜
裁判費用として5万円〜の費用がかかります。内訳は手数料分の印紙代と、裁判所から共有者全員に書面を発送するための郵便切手代です。
手数料の金額は以下のとおり、不動産の固定資産税評価額によって異なります。
固定資産税評価額 |
手数料 |
500万円 |
3万円 |
1,000万円 |
5万円 |
1,500万円 |
6万5,000円 |
2,000万円 |
8万円 |
参照:手数料額早見表(単位:円)|裁判所
例えば不動産の評価額が1,000万円なら、5万円の手数料がかかります。また、郵便切手代は他の共有者が1人であれば6,000〜8,000円程度かかり、相手の人数が1人増えるごとに2,000円程度加算されます。
不動産の評価額が1,000万円で他の共有者が2人なら、6万円程度見ておくとよいでしょう。
不動産鑑定費用:20〜100万円
不動産鑑定が必要になった場合、不動産鑑定費用として20〜100万円程度かかります。
金額に幅があるのは、土地のみなのか建物も含むのかなど不動産によって事情が異なり、鑑定の難易度も変わってくるためです。また、鑑定士によっても異なります。
不動産鑑定はすべてのケースで必要になるわけではありません。不動産鑑定が必要になるのは、不動産を取得した人が他の共有者に金銭を支払う「代償分割」によって共有状態を解消する場合です。
ただしその場合でも鑑定が必要になるとはかぎらず、共有者全員が合意した金額を評価額とするのが一般的です。共有者間で合意できない場合は、裁判所の選任した不動産鑑定士によって不動産鑑定がおこなわれます。
鑑定費用には明確な基準がなく、不動産鑑定士の見積金額がそのまま鑑定費用になります。上記で解説したとおり20〜100万円程度が相場ですが、50万円前後になるケースが多いです。ケースによっては鑑定をおこなわず、不動産会社の査定書で代用できることもあります。
弁護士費用:着手金30万円+報酬金5%程度
共有物分割請求の手続きを弁護士に依頼した場合、別途弁護士費用がかかります。報酬額は依頼する事務所によって異なりますが、着手金は30万円程度、訴訟によって取得した金額の5%報酬金(成功報酬)と程度とするのが一般的です。
ひとつ例を挙げてみましょう。
・着手金:30万円
・報酬金:5%
・共有持分の時価:1,000万円のケース
着手金30万円+1,000万円×5%=80万円
上記のケースでは、弁護士費用として80万円かかります。費用を少しでも抑えたいなら、複数の法律事務所を比較することをおすすめします。
共有物分割請求訴訟の注意点
「共有者が協議に応じてくれない」「取り決めた分割を実行してくれない」などのケースであれば、共有物分割請求訴訟は有効な手段だといえるでしょう。
ただし、訴訟を起こす前に注意点をしっかりと理解しておくことが大切です。主な注意点は以下のとおりです。
- 共有者全員を当事者にする必要がある
- 相続財産は共有物分割請求訴訟ができない
- 共有状態を解消したいなら「持分放棄」や「共有持分の売却」といった他の方法もある
それぞれの注意点についてわかりやすく解説していきます。
共有者全員を当事者にする必要がある
不動産の取り扱いを決める話し合いをおこなう際、共有者が多ければ賛成する共有者・反対する共有者とさまざまでしょう。このような状況でも、共有分割請求訴訟を申し立てた場合、自分以外の共有者全員に当事者(被告)として裁判に参加してもらわなければなりません。
例えば、以下のケースを例に考えてみましょう。
・A・B・C・Dが不動産を共有している
・A・B・Cは共有不動産の売却に賛成している
・しかしDだけが売却に反対している
・AがDに対して共有物分割請求訴訟を申し立てた
上記のケースではAとDの2人が裁判で争うのではなく、BとCも含めた共有者全員で裁判に参加しなければなりません。B・Cも共有不動産の所有権を有しており、裁判で下された結果が彼らにも影響を及ぼすことになるためです。
もし賛否両論ある中で訴訟を申し立てるのであれば、訴訟を提起する前に賛成している共有者に対して訴訟を起こす旨を話しておくとよいでしょう。賛成しているからと話を通さずにいると、反感を買ってしまう恐れがあります。
相続財産は共有物分割請求訴訟ができない
相続財産に対しては、共有物分割請求訴訟ができません。相続問題は地方裁判所の管轄ではないためです。
複数の人が不動産を共有することになる原因の1つに相続があります。相続対象の不動産における分割方法について揉めてしまうこともあるでしょう。
しかし相続による分割方法は、「遺産分割協議で合意する」か「家庭裁判所の判断を仰ぐ」ことによって決定する必要があります。相続人全員で遺産分割協議をおこない、協議が整わない場合は、地方裁判所ではなく「家庭裁判所」で遺産分割調停・審判をおこないます。
共有状態を解消したいなら他の方法もある
不動産の共有状態を解消したいなら、共有物分割請求訴訟の他にも方法があります。
例えば以下の2つです。
持分放棄は、自分の持分を他の共有者に引き継ぐことで共有関係から解放される方法です。持分を「放棄」するため共有者でなくなる点はメリットといえますが、売却とは異なり金銭は得られず、ただ所有権だけを失います。
また、自分の意思だけで放棄することはできません。持分を放棄する際の「持分移転登記」をおこなうには、他の共有者に住民票を取得してもらったり法務局に出向いてもらったりする必要があります。
共有者の都合がつかない場合は実印を押印した委任状と印鑑証明書が必要になるため、他の共有者と折り合いが悪い場合はハードルが高いでしょう。
一方、共有持分の売却は自分の共有持分のみを他の共有者や第三者に売却する方法です。持分放棄とは異なり、自分の意思だけで売却できるため手続きに共有者を巻き込みません。
また、売却によって利益も得られます。共有持分は自由に活用しにくく、買主が見つかりにくいというデメリットはあるものの、共有持分専門の買取業者であればスムーズに買い取ってもらえる可能性があります。
共有状態を解消したいなら、共有物分割請求訴訟に踏み切る前に、共有持分の売却を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
共有物分割請求訴訟の手順や費用について解説しました。
不動産の取り扱いや分割方法が共有者間の協議でまとまらないときは、裁判所に共有物分割請求訴訟を申し立てることが可能です。
ただし、訴訟には「確実に共有状態を解消できる」というメリットがある一方で、「共有者の関係が悪化する」「時間や費用がかかる」といったデメリットが存在します。また、必ず訴訟を提起できるわけではなく、分割協議が調わない事実を証明しなければなりません。
裁判所の判決によっては自分が不利になってしまうこともあります。ケースによっては、和解での解決を検討したほうがよいこともあるでしょう。
共有物分割請求訴訟は専門知識や訴訟の経験が必要です。自分で対応するにはハードルが高いと感じるかもしれません。訴訟に関して疑問や不安がある人は、共有不動産の問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
共有物分割請求訴訟についてよくある質問
共有物分割請求訴訟は拒否できないのですか?
はい、拒否できません。共有者の誰かが訴訟を起こせば、共有者全員が分割方法について裁判で争うことになります。また、判決には強制力があるため、決定した分割方法には共有者全員がしたがわなければいけません。
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