未登記のまま未登記建物の共有持分を売却することは可能?
未登記建物であっても、その共有持分を登記せずに売却することは可能です。
しかし、未登記建物は担保として利用できないため、買主が住宅ローンを組めないというデメリットがあります。また、登記の手間や費用が買主側にのしかかるため、購入のハードルが高くなりがちです。
さらに、「未登記」かつ「共有状態」という複雑な条件が重なると、買い手が見つかりにくく、実際の売却先は他の共有者や訳あり物件を専門とする不動産買取業者に限定されることが多くなります。法的には売却可能でも、実務面では困難を伴うケースが多いのが実情です。
なお、売却時する際は下記のような流れで進めます。
1.所有権を証明する書類を準備
登記簿がないため、購入契約書や固定資産税の納税通知書などで所有権を証明する必要があります。
2.共有者との合意形成
他の共有者には優先購入権があるため、まずは譲渡の意思を伝え、共有者の購入の可否を確認します。購入しない場合は、放棄書をもらうと安心です。
3.売却価格の設定
未登記・共有状態は価値が下がる要因になるため、不動産会社や司法書士などの専門家に相談して適切な価格を決めましょう。
4.売買契約の締結
価格や引渡し時期などを明記した契約書を作成します。弁護士や司法書士に内容を確認してもらうとトラブル防止になります。
5.譲渡後の対応
買主が登記を希望する場合、元所有者として必要書類の提出を求められることがあります。
未登記建物の共有持分の売却方法
法務局に登記されていない「未登記建物」かつ、複数人で不動産を所有している「共有名義不動産」であっても売却は可能です。
具体的な売却方法は下記のとおりです。
- 建物を解体して土地を売却する
- 建物を登記してから売却する
それぞれの売却方法について詳しく解説していきます。
未登記建物を解体して土地を売却する
建物が古く、買い手がつきにくい場合には、未登記建物を解体して更地にし、土地として売却する方法があります。未登記建物は売却の障害になりやすいため、これを撤去してしまうことで、売却がスムーズになる可能性が高まります。
ただし、建物の解体には共有者全員の合意が必要です。また、解体費用としては一般的に100~200万円程度かかる点も考慮しなければなりません。
解体後に更地全体を売却する場合も、共有者全員の合意が必要です。一方で、更地にしたうえで自分の共有持分のみを売却するのであれば、単独で手続きが可能です。
なお、建物を解体した際は消失登記を行いますが、未登記建物は消失登記をするための登記簿がありません。そのため、市区町村に家屋消失届を提出します。家屋消失届を提出しないと、解体した建物に対して固定資産税が課される可能性があります。
建物の解体費用については、下記の記事も参考にしてみてください。
登記してから売却する
未登記建物は、買主が自ら登記手続きを行う必要があるため敬遠されやすく、売却価格も相場より下がってしまう傾向があります。
なかなか売却が進まない場合には、あらかじめ登記を済ませてから売却することも検討しましょう。登記を行うことで、建物の所在や所有関係が明確になり、買主に安心感を与えられるため、売却がスムーズに進む可能性が高まります。
ただし、登記には建物図面の作成や登録免許税の支払い、さらに固定資産税の課税といった手間やコストがかかります。共有者間で費用の負担について話し合いながら進める必要があるでしょう。
登記後に建物全体を売却する場合は、共有者全員の同意が必要です。一方で、共有持分のみを売却する場合は、他の共有者の同意がなくても単独で行うことが可能です。
なお、登記から売却までの流れについては、「未登記建物を登記して共有持分を売却する流れ」で詳しく解説します。
未登記建物についての詳しい概要は、下記の記事も参考にしてみてください。
未登記建物のデメリット
未登記建物とは、不動産登記簿に記録されていない建物です。不動産の詳細な情報や所有権に関する記録がないため、下記のようなデメリットが生じます。
- 建物を第三者に奪われる可能性がある
- 賃貸契約においてもトラブルが発生する可能性がある
- 未登記でも固定資産税など維持費はかかる
- 未登記建物は融資の担保対象外となる
- 未登記のままでは売却しにくい
- 未登記によって過料を科される場合がある
それぞれのデメリットについて詳しく解説していきます。
建物を第三者に奪われる可能性がある
未登記建物は、不動産の情報や所有者が記録されていない建物です。所有者が誰なのかが明らかでない状態であるため、第三者が所有権を主張すれば、不動産を奪われるおそれがあります。
所有権を主張し、第三者に対抗するためにも、不動産を取得した際には登記が必要といえます。
賃貸契約においてもトラブルが発生する可能性がある
未登記建物で賃貸契約を結んだ場合、登記がないことでトラブルが生じる可能性があります。例えば、借主に賃料を請求する「賃料債権」が行使できない、第三者が建物の所有権を主張してきて立場が弱くなるなどのトラブルが考えられます。
未登記であることが枷となるため、賃貸契約を結ぶ前に登記を済ませるのが得策といえます。
未登記でも固定資産税など維持費はかかる
各市町村は、実地調査や航空写真によって不動産の現況を把握しているため、未登記であっても固定資産税は課されます。
なお、現在まで固定資産税を課されていなくても、建物があると発覚すれば、過去に遡って固定資産税を請求されるおそれがあります。
また、土地の固定資産税のみを支払っている場合は、損をしているケースもあります。
土地の固定資産税には、住宅用の土地の税金を軽減する「住宅用地特例」があります。しかし、市区町村が建物を把握していない未登記建物の場合は特例措置を受けられないため、高い固定資産税を支払うことになります。
未登記であっても固定資産税の支払いは発生し、さらに税金の軽減措置を受けられない可能性もあるため、速やかに登記を進めることをおすすめします。
なお、共有持分の固定資産税について詳しく知りたい場合は、下記の記事を参考にしてみてください。
未登記建物は融資の担保対象外となる
未登記建物は、金融機関から融資を受ける際の担保にできません。
不動産を担保にする場合、金融機関は返済が滞った際に備え、不動産に抵当権を登記します。しかし、未登記建物は登記簿がなく、抵当権を示せないため、担保にできないのです。
不動産を担保に融資を受けたい場合は、登記の手続きをする必要があります。
未登記のままでは売却しにくい
未登記建物は所有権が明確でない不動産であるため、買い手から敬遠されやすく、売却しづらいといえます。
また、先述したとおり、未登記建物は融資の担保にできないため、住宅ローンを利用することが難しくなります。現金一括で購入できるような買主が見つからない限り、第三者への売却は叶いません。仮に買い手が見つかったとしても、買い手に登記の手間や費用がかかる分、買い叩かれる可能性もあります。
現実的な売却先となるのは親戚などの近親者、不動産の買取業者などになるでしょう。
未登記によって過料を科される場合がある
下記の不動産登記法の第47条でも定められているように、未登記不動産の所有者には表題登記が義務付けられています。
新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。
引用元 不動産登記法 第47条1項
表題登記とは、不動産の所在や地番、家屋番号、種類、構造、床面積といった物理的な状況を記録する登記を指します。表題登記を怠った場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
実際に過料を科されたケースはほとんどありませんが、2024年に相続登記が義務化された動きから、未登記建物の取り締まりも強まる可能性があります。義務とされている登記であるため、原則従うことが望ましいでしょう。
なお、不動産の所有権に関する権利登記に関しては、登記義務はありません。しかし、権利登記がなければ所有権を主張できないため、表題登記とともに手続きするのが良いでしょう。
未登記建物を登記して共有持分を売却する流れ
先述したとおり、未登記建物は権利関係が曖昧であるため、売却しづらいといえます。相続によって共有者が複数いる場合はなおさらです。売却先が見つからない場合は、登記してから売却することも検討しましょう。
相続した未登記建物を登記して、売却する流れは下記のとおりです。
- 未登記建物の所有者を確認する
- 遺産分割協議を行う
- 登記を行う
- 売却する
- 売却益がある場合は確定申告を行う
売却の流れについて詳しく解説していきます。
未登記建物の所有者を確認する
相続の場合は、被相続人が本当に未登記建物の所有者であったかを確認しなければ、相続人は未登記建物を相続できません。
また、被相続人の他に未登記建物の共有者がいた場合は、不動産全体の相続ではなく持分の相続となり、過去に遡って相続をやり直すなど、より複雑化する可能性があります。
そのため、登記を行う前に未登記建物の所有者を確認しましょう。
被相続人が生前、固定資産税を支払っており、納税通知書に被相続人の名前が記載されているのであれば、被相続人が未登記建物の所有者であるとみなされます。
納税通知書が手元にない場合は、市区町村の家屋補充課税台帳で確認できます。ただし、家屋補充課税台帳を閲覧できるのは相続人、同居の親族、委任状をもつ代理人といった制限があります。
なお、市区町村が把握していない未登記建物の場合は課税されておらず、所有者の特定が難しいとされます。建築時の書類、売買契約書など、所有者を確認できる書類を別途探す必要があります。
遺産分割協議を行う
未登記建物を相続する際は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が相続するのか、共有するなら持分はどうするのか、相続後に売却するのか使用するのかなどを決める必要があります。
遺産分割協議が成立したら、内容を書面にまとめた「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員の署名と押印を行います。未登記建物に関しては、固定資産税評価証明書などを参考に物件情報を記載し、未登記であることも明記します。
登記を行う
所有者の確認や遺産分割協議が済んだら、まずは「建物表題登記」を行い、建物の物理的な情報を登記簿に記載します。続いて「所有権保存登記」により、相続人の名義で所有権を登記します。それぞれの登記について詳しく解説していきます。
建物表題登記
「建物表題登記」とは、建物の所在や構造、床面積などを記録する登記です。自分で登記を行うことも可能ですが、専門知識が必要なうえ、図面が残っていない場合は新たに作成する必要があるため、土地家屋調査士に依頼するのが良いでしょう。
建物表題登記を行う際は、下記のような書類を準備します。
- 登記申請書
- 所有権証明書
- 建物図面
- 各階平面図
- 住民票などの住所証明書
- 土地家屋調査士に依頼する場合は委任状
所有権証明書とは、下記のような書類を指します。場合によっては2つの書類の提出を求められる場合もあります。
建築確認済証
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建物を建てる際の建築確認申請が認められた証拠として、自治体から発行される書類です。
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検査済証
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建物の工事完了後の完了検査に合格した際に発行される書類です。
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引渡証明書
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建物の工事完了後に渡される、施主に建物を引き渡したことを証明する書類です。
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譲渡証明書
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建売の場合に渡される書類です。
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敷地所有者の証明書
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借地の場合に必要な書類で、土地の登記事項証明書などが該当します。
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固定資産税納付証明書
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自治体から毎年4~5月に発送される書類で、過去3年分の証明書が必要です。
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その他
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火災保険証書や売買契約書、敷地の賃貸借契約書、遺産分割協議書、隣接所有者の証明書など
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なお、建物表題登記に関しては、登録免許税が発生しません。費用は必要書類の取得費用、現地調査や法務局への交通費などで5,000円~1万円ほどです。土地家屋調査士に依頼する場合は、8~12万円の費用が別途かかります。
所有権保存登記
続いて、所有権に関する記録をする「所有権保存登記」を行います。所有権保存登記に関しては、司法書士に依頼するとスムーズに進められるでしょう。
所有権保存登記の必要書類は下記のとおりです。
- 登記申請書
- 住民票などの住所証明書
- 遺産分割協議書や戸籍などの相続証明書
- 固定資産税評価証明書
- 司法書士に依頼する場合は委任状
所有権保存登記では、「固定資産税評価額×0.4%」の登録免許税が発生します。固定資産税評価額が2,000万円であれば、登録免許税は8万円です。なお、司法書士に依頼する場合は、2~4万円の費用が別途かかります。
売却する
登記が完了したら、いよいよ売却活動に進みます。建物全体を売却する場合は、共有者全員の同意を得て売却手続きを行う必要があります。共有持分のみを売却する場合は、他の共有者の同意は不要です。
また、買主が所有権移転登記を行う際には、売主としての協力が求められます。具体的には、以下の書類を準備する必要があります。
- 登記識別情報(所有権保存登記時に交付されたもの)
- 売主の住民票
- 印鑑登録証明書
- 委任状(司法書士に手続きを依頼する場合)
早めに書類を揃えておけば、スムーズに所有権移転登記を進められるでしょう。
共有持分のみを売却する場合
共有持分のみを売却する場合、他の共有者の同意は不要です。ただし、共有持分は不動産としての利用価値が限定されるため、買い手が見つかりにくいのが実情です。売却先として考えられるのは、他の共有者や共有持分を専門とする不動産買取業者となるでしょう。
同じ不動産を共有している親族や配偶者であれば、比較的売却がしやすいといえます。特に、 自分と共有者の2人で共有している不動産であれば、売却によって共有者の単独名義となるため、不動産の活用や売却の面でメリットが大きくなります。共有者に共有持分を買い取れる資金があるようなら、相談してみると良いでしょう。
一般の買主への売却、共有者への売却が難しい場合は、不動産買取業者に売却するのも検討してみましょう。共有持分などの訳あり不動産を専門としている業者であれば、スムーズに売却できる可能性があります。
相場よりも売却価格は安くなる傾向がありますが、直接不動産を買い取ってくれるため、手間や時間をかけずに共有持分を手放せます。
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売却益がある場合は確定申告を行う
共有持分を売却して利益が出た場合には、原則として譲渡所得として確定申告が必要です。譲渡所得は「売却価格 −(取得費+譲渡費用)」で計算され、取得費が不明な場合は売却価格の5%を取得費として扱う「概算取得費」も利用できます。
また、相続で取得した不動産については、被相続人の取得日や取得費を引き継ぐことができます。不明点がある場合は、税理士などの専門家に相談するのが安心です。
まとめ
未登記建物の共有持分であっても、未登記のまま売却することは可能です。ただし、未登記かつ共有持分といった条件では買い手が見つかりづらく、現実的には実現しづらい取引といえます。
未登記建物の共有持分を相続し、売却を検討しているのであれば、「建物を解体して土地を売却する」「建物を登記してから売却する」といった方法を検討するのが良いでしょう。
なお、未登記建物は登記がないことで所有権を主張しづらく、トラブルを招く可能性があります。また、登記不動産の所有者には表題登記が義務付けられており、未登記のままでは過料を科されるおそれもあります。
未登記のまま放置することはリスクが大きいため、未登記建物を相続したら、登記や売却などの対応をきちんととりましょう。
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