登記費用の内訳と相場
不動産を取得したとき、必ず何らかの登記をする必要があります。
登記をしなければ、不動産の権利を公に主張できません。所有権や借地権などの権利を「だれがどのように持っているか」が証明できないのです。
登記費用の内訳は、大きく2つに分けられます。登記にあたって法務局に納める登録免許税と、登記申請の手続き代行を依頼する土地家屋調査士や司法書士へ支払う報酬の2種類です。
それぞれの費用の詳細と相場について解説します。
共有持分にかかる登録免許税は2%
共有持分の登記をする際は「登録免許税」を支払う必要があります。
登録免許税は「固定資産税評価額」に以下の税率を掛け合わせて求めることが可能です。
持分移転の原因 |
不動産の種類 |
税率 |
売買 |
土地 |
令和8年3月31日までの手続きに関しては1.5% |
売買 |
建物 |
2% |
相続 |
土地・建物 |
0.4% |
贈与 |
土地・建物 |
2% |
離婚(財産分与) |
土地・建物 |
2% |
固定資産税評価額とは?
固定資産税の課税基準となる土地・建物の評価額のことで、各市区町村が算定しています。公示価格の7割程度となるケースが一般的です。
さらに、共有名義の場合、持分権者それぞれにかかる登録免許税は、所有している持分によります。
たとえば、持分が2分の1だった場合に、その持分権者の登録免許税を計算するときには、固定資産税評価額に持分割合を掛けます。したがって、土地の所有権移転登記にかかる登録免許税は「固定資産税評価額 × 1/2 × 1.5%」です。
そのため、共有名義の不動産であっても、それぞれの持分割合の合計は当然「1」になるので、登録免許税の総額は単独名義の場合と変わりません。このように、固定資産税評価額とそれに対する税率が明確に定められているので、登録免許税について「相場」は存在しません。
参照:国税庁「登録免許税の税額表」
贈与や売買で取得した共有持分にかかる不動産取得税
贈与や売買で共有持分を取得した場合は、不動産取得税の支払いが必要です。
不動産取得税は、不動産価格に以下の税率を掛け合わせることで求められます。
不動産の種類 |
税率 |
土地 |
3% |
住宅 |
3% |
住宅以外の家屋 |
4% |
令和9年3月31日までの間に取得した宅地については、固定資産税評価額の2分の1を不動産価格として算定します。
離婚時の財産分与や相続に伴い共有持分を移転する際は、不動産取得税はかかりません。
司法書士への報酬相場は5万円~10万円
司法書士は不動産の「権利」に関する登記の専門家です。そのため、登記事項証明書の「権利部」に当たる部分を不動産の所有者に代わって申請できます。
※権利部・・・登記簿上で、所有権やその他不動産に関する権利が記載された項目
住宅ローンを組んで不動産を取得する場合、抵当権設定登記が必要になるため、金融機関が司法書士を指定することが多いです。
そして、司法書士に支払う報酬は登録免許税のように明確な基準があるわけではありません。
一般的な相場としては、5万円~10万円の場合が多いようです。ただし、これは単独名義の場合であって、共有持分の場合、持分権者の数だけ報酬の支払いが必要になることがあります。
とはいえ、共有持分の登記でも申請の手間に大きな違いはないため、単独名義でも共有名義でも報酬は同じに設定している司法書士も多いいます。
依頼する司法書士事務所の料金体系によるので、事前に確認しておきましょう。
土地家屋調査士への報酬相場は6万円~10万円
司法書士が「権利」に関する登記の申請を代行するのに対して、土地家屋調査士は「表示」に関する登記の申請を代行します。そのため、登記事項証明書の「表題部」にかかる部分の専門家です。
※表示・・・不動産の所在地や面積、建物の構造など
※表題部・・・登記簿上で、不動産の表示が記載された項目
表題部では、建物の所在地や構造、床面積などが登記されます。不動産の図面を作成する必要もあるため、調査のために現場の測量も行います。
土地家屋調査士は、不動産の測量から図面作成、表題部の登記申請まで可能な専門職です。
必要な報酬は土地家屋調査士によって異なりますが、相場は6万円~10万円です。
持分などの権利に影響されるものではないので、共有名義だからといって費用が多くなることはありません。
登記手続きの必要書類を取得する際にかかる費用
登記手続きをする際には、以下書類の取得費用も考慮する必要があります。
書類 |
1通あたりの手数料 |
固定資産税評価証明書 |
300円 |
住民票 |
300円 |
印鑑登録証明書 |
450円 |
戸籍謄本 |
450円 |
相続による登記をする場合は、大量の戸籍謄本が必要になる場合もあります。また、自治体によって書類の取得費用は異なるため、事前に確認しておきましょう。
マイホームを共有名義で新築したときの登記費用の計算例
それでは実際に、マイホームを夫婦の共有名義で新築したときの登記費用を計算してみましょう。
前提条件は以下の通りです。
・土地は第三者から購入
・購入した土地の地目は「宅地」
・建物は新築
・土地の固定資産税評価額は2,000万円
・建物の固定資産税評価額は1,500万円
・夫婦ペアローンでそれぞれ1,500万円ずつ
・住宅用建物の軽減税率が適用される
この前提条件に基づいて計算をするとマイホームを共有名義で新築したときにかかる共有持分の登記費用の合計は約100万円~110万円です。
内訳を以下で詳しく解説します。
登録免許税
住宅ローンを組んでマイホームを新築したときに必要な登記と税率は下表のとおりです。
対象 |
登記 |
税率 |
軽減税率 |
土地 |
所有権移転登記 |
2% |
令和8年3月31日までの間に登記する場合は1.5% |
建物 |
所有権保存登記 |
0.4% |
令和9年3月31日までの間に登記する場合は0.15% |
土地・建物 |
抵当権設定登記 |
0.4% |
令和9年3月31日までの間に登記する場合は0.1% |
これらを例にあてはめると、
■土地の所有権移転登記にかかる登録免許税
2,000万円 × 1.5% = 30万円
■建物の所有権保存登記にかかる登録免許税
1,500万円 × 0.15% = 2.25万円
■抵当権設定登記にかかる登録免許税
1,500万円 × 0.1% × 2 = 3万円
となり、合計で35.25万円になります。
不動産取得税
マイホームを共有名義で新築したときにかかる不動産取得税は以下の通りです。
■土地にかかる不動産取得税
2,000万円 ×1/2 × 3% = 30万円
■建物にかかる不動産取得税
1,500万円×1/2 × 3% = 22.5万円
■合計の不動産取得税
30万円+22.5万円=52.5万円
司法書士への報酬
司法書士へは合計4件の登記申請の代行を依頼します。司法書士事務所によって費用は異なりますが、全部でおおよそ10万円~15万円になります。
土地家屋調査士への報酬
土地家屋調査士には、建物表題登記の申請を依頼します。そのため、支払う報酬は6万円~10万円です。
共有持分の移転登記が必要な場面
共有持分の移転登記とは、不動産の共有持分を他人に移転する際に必要な手続きです。この手続きは、不動産の所有権に関する法的な権利を明確にするために行われます。
共有持分の移転登記が必要になる主な場面は以下の通りです。
それぞれ詳しく解説します。
遺言や遺産分割協議により相続をした
遺言や遺産分割協議によって不動産を相続した場合、その共有持分を登記する必要があります。登記をせず放っておくと、自由に売却ができなくなったり、権利関係が複雑化したりするリスクがあります。
そもそも、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されたため、相続人は所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません.。正当な理由なく未登記の状態が続いた場合は、10万円以下の過料が課されるため、早めに手続きをしましょう。
生前贈与を受けた
生前贈与を受けた場合も共有持分の移転登記が必要です。例えば、親から子供に不動産の一部を贈与する場合、その持分を登記しておかないと、贈与者の死亡後に他の相続人が異議を唱える場合があり、贈与を受けた持分の権利が不明確となることもあるでしょう。
共有持分を売買した
共有の相手方から持分を買い取った場合など、共有持分を売買した場合には移転登記が必要です。売買が完了しても登記をしなければ所有権が移行せず、自由に管理・売却ができなかったり、固定資産税の請求が売主の方に届いてしまったりする可能性があります。
離婚をして財産分与を行った
夫婦がペアローンなどを組み共同で不動産を購入した場合、それぞれの自己負担割合に基づいて、持分を設定するケースが一般的です。しかし、離婚をした場合は、後々トラブルが起きることを避けるために財産分与によって、単独所有とするケースが多くなっています。共有状態を解消する場合は、財産分与を理由とする共有持分の移転登記が必要です。
ただし、金融機関の承諾を得ずに登記を変更すると、契約違反となり、ローン残債の一括返済を求められる可能性もあるため、確認をしてから手続きをしましょう。
不動産を取得したときに必要な登記
登記費用は登録免許税と司法書士・土地家屋調査士へ支払う報酬の合計額というのは、お伝えしたとおりです。
続いて、不動産を取得したときに必要となる登記の種類について、主なものを説明します。
- 建物表題登記
- 所有権保存登記
- 抵当権設定登記
- 所有権移転登記
- 地目変更登記
ただし、ここで解説する登記がすべて必要というわけではありません。不動産をどのように取得したかによって、必要な登記も異なります。
(1)建物表題登記
建物表題登記は、建物を新築したときや、登記されていない建物を取得したときに必要な登記です。この登記では「建物の所在や用途」「構造」「床面積」など物理的な情報を登録します。
建物の所在は住所ではなく土地の地番で記載する点に注意してください。また、建物表題登記は、建物の所有者の「義務」と定められています。
期限は建物の完成後または、建物を購入後1カ月以内です。登記を忘れると、10万円以下の過料という罰則があります。建物表題登記は土地家屋調査士が代理で申請することが一般的です。
なお、建物表題登記に登録免許税はかかりません。したがって、建物表題登記に必要な費用は土地家屋調査士へ支払う報酬のみです。
(2)所有権保存登記
所有権保存登記は、対象の不動産に対して初めて所有権の登記をすることをいいます。そのため、建物を新築したときに行います。
所有権保存登記の税率は、土地・建物ともに0.4%です。一定の要件を満たすことで、0.15%または0.1%に軽減されます。
所有権保存登記は、建物表題登記のように義務化されているわけではありません。
しかし、登記しなければ、不動産の所有権を第三者に主張することができません。つまり、何かの事情で所有権を争って裁判となったときに、登記していなければ所有権を主張できないということです。
そのため、所有権保存登記は「対象の不動産はたしかに自分のものである」と証明し、自分の意思で自由に使用・収益・処分できることを確実にするために行う登記です。登記しないデメリットが非常に大きいため、一般的にはしっかりと登記をしておくのが基本です。
所有権保存登記は権利に関する登記なので、司法書士が代行します。
(3)抵当権設定登記
抵当権設定登記は、住宅ローンなどの融資を受けて不動産を購入する場合に行う登記です。
抵当権とは、万が一ローンの返済が滞り債務不履行となったときに、抵当権を設定した担保を差し押さえ、他の債権者よりも優先して弁済を受けられる権利です。
「土地や建物を担保に住宅ローンを借りる」というのは「土地と建物に抵当権を設定する」ことを指します。抵当権設定登記は他の登記と異なり、課税標準額は債権金額です。
たとえば
「固定資産税評価額が5,000万円」
「融資額が3,000万円」
だった場合、課税標準額は3,000万円となります。
税率は0.4%ですが、抵当権設定登記にも軽減税率の設定があり、一定の要件を満たすことで0.1%となります。
抵当権設定登記を行うと「設定の原因」「再見学」「利息」「損害金」「債務者」「抵当権者」の情報が登記簿に記載されます。抵当権設定登記も権利に関する登記なので、司法書士が代行します。
また、夫婦の共有名義でペアローンを組む場合、抵当権設定登記の申請は2つ必要です。
そのため、司法書士への報酬の支払いは単独名義に比べて多くなる可能性が高いので、事前に確認しておきましょう。
(4)所有権移転登記
所有権移転登記とは、すでに所有権が設定されている不動産を売買や相続・贈与などによって取得したときに行う登記です。名前のとおり所有権が移転したことを登録します。
所有権移転登記は所有権保存登記よりも重要です。なぜなら、所有権移転登記をしないままでいると、前の持ち主がそのまま不動産の所有権を第三者に主張できることになるからです。
通常の不動産業者を介して行われる中古住宅の売買では、代金決済前に必要な登記手続きを行うので、登記を忘れるということはまずありません。
しかし、個人間売買や相続・贈与の場合、所有権移転登記を忘れてしまうことも多いので気をつけてください。
また、所有権移転登記の登録免許税の税率は、その原因によって下表のように異なります。
原因 |
対象 |
税率 |
住宅用建物の軽減 |
売買 |
土地 |
1.5%
(令和3年4月1日以降2%) |
- |
売買 |
建物 |
2% |
令和4年3月31日までの間に登記する場合は0.3% |
相続 |
土地・建物 |
0.4% |
- |
遺贈・贈与 |
土地・建物 |
2% |
- |
(5)地目変更登記
地目とは土地の用途のことを指します。したがって、地目変更登記は、土地の用途を変更するときに行う登記です。
たとえば、農耕地の地目は「田」や「畑」として登記されています。この土地の上に住居を建てようとするときに、地目を「宅地」へと変更する登記が「地目変更登記」です。
建物表題登記と同様、地目変更登記もその登記申請が義務付けられています。期限は地目に変更が生じた日から1カ月以内です。家を建てるときには、造成工事が完了した時点が「地目に変更が生じた日」とみなされます。
期限内に申請しなければ、10万以下の過料に処される可能性があります。なお、地目変更登記に登録免許税はかかりません。
また、登記申請の代行をしてもらう場合、不動産の「表示」にかかる部分なので土地家屋調査士に依頼します。報酬額の相場は3万円~5万円です。
【手順を解説】費用を抑えたいなら自分で共有持分の登記をする
登記は、必ずしも司法書士や土地家屋調査士に依頼しなければならないわけではありません。
登記申請は自分で行うこともできます。
そして、自分で登記すれば、報酬の支払いもなくなるので、その分だけ登記費用を抑えることができます。自分で登記するときの手順は大きく3つあります。
- 必要書類を集める
- 申請書を作成する
- 申請する
手順1:登記申請に必要な書類を集める
住民票の写しは共有名義人全員分が必要です。
また、必須ではありませんが、住宅用家屋証明書も、軽減税率の適用を受けるために必要なので準備します。
所有権移転登記の場合、さらに登記識別情報または登記済証、売買契約書、売主の印鑑証明書が必要になりますが、これらは売主が準備するものになります。
手順2:申請書を作成する
登記申請書を作成します。申請書は法務局で直接作成してもいいですが、ホームページからダウンロードすることも可能です。
そして、手に入れた申請書に必要事項を記入していきます。
1つの登記につき申請書は1枚必要なので、融資を受けてマイホームを新築した場合
・所有権移転登記申請書
・所有権移転登記申請書
・抵当権設定登記申請書
の3通は最低でも必要です。
添付書類もそれぞれの申請書で必要になります。
参照:法務局「不動産登記の申請書様式について」
手順3:法務局に書類を提出して申請する
最後に、申請書と必要な添付書類を合わせて不動産の所在地が管轄区域の法務局へ提出して申請します。
申請は、法務局に持参する以外にオンラインや郵送でも可能です。
申請内容に問題なければ、登記完了証が届き、登記は完了です。
参照:法務局「不動産登記の申請書様式について」
参照:法務局「管轄のご案内」
自力での登記にはリスクあり!専門家に依頼した方が早くて確実
共有持分であっても手続きを自分で行えば、登記費用を抑えられます。
しかし、共有持分の移転登記は、単独所有の移転登記よりも手続きが複雑になりがちです。登記申請書の記入方法や登録免許税の計算を間違えてしまったり、複数の権利者から共有持分を買い取った場合は、印鑑登録証明書を全員分集めたりする必要があります。
申請内容に誤りがあれば、修正が求められ、かえって時間や手間がかかってしまうこともあるでしょう。もし、登記申請が完了する前に権利関係でトラブルになった場合、非常に不利な状況になることも考えられます。
そのため、不動産の登記手続きのためにある程度の時間を確保でき、勉強しながらでも自分でしたいという場合以外は、専門家に依頼したほうが早くて確実なのでおすすめです。
ただし、依頼する先によって費用は大きく異なるため、注意しましょう。とくに手続きの当事者が多くなりがちな共有持分移転登記については、高額な費用がかかってしまうケースもあります。複数の事務所に見積もりを依頼したうえで、条件の良いところを選びましょう。
まとめ
登記費用は共有持分だからといって大きく変わるわけではありません。特に、登録免許税は不動産の固定資産税評価額によって決まるため、単独名義でも共有名義でも同じです。
登記費用に差がでる原因は、司法書士や土地家屋調査士などの専門家へ支払う報酬の違いです。しかし、共有名義でも単独名と同じ報酬体系で受けているところもあります。
そのため、登記申請を司法書士に依頼するときには、共有名義で費用が変わるかを確認するようにしましょう。
登記費用についてよくある質問
登記にはいくらかかるの?
不動産の価額に「2%or0.4%」をかけた価格が登記費用になります。
登記はなぜ必要?
所有権や借地権などの権利を第三者へ示すために必要です。反対にいえば、登記をしない限り、不動産の権利を公に主張できません。
登記の手続きを代行してもらうことは可能ですか?
登記は専門家に依頼することで、早くて確実に終えられます。登記については、司法書士へ相談してみるとよいでしょう。
登記費用をできるだけ抑えたい・・・
登記の費用を抑えたいなら、登記手続きを自分でおこなうことも検討してみましょう。司法書士への報酬相場「5万円~10万円」を節約することができます。
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