共有不動産の売却は単独名義の物件よりも難航しやすくなる場合がある
共有名義不動産の売却は、単独名義の物件よりも難航しやすくなる場合があります。複数人の所有者のうち1人でも売却に反対する人がいると、売却が法的に認められないからです。
まずは、単独名義と共有名義の違いについて簡単におさらいしましょう。
通常の物件の場合、「1つの不動産に1人の名義人」という単独名義とするのが一般的です。ただし、同じ不動産を2人以上で所有することは法的に認められています。
「1つの不動産に2人以上の名義人」という状態が、共有名義です。登記簿にも、実際に名義人となる人が全員登記されています。同じ不動産を共有することで、共有名義不動産の名義人は「共有者」と呼ばれることが多いです。
要するに、共有名義不動産においては、共有者全員が正式な不動産の持ち主です。
共有者がそれぞれ持つ所有権の割合を、共有持分と呼びます。たとえば共有持分の割合が40%なら、「共有名義不動産のうち40%は自分のもの」という認識で問題ありません。
さて、ここで共有名義不動産の売却がなぜ難航しやすいのか、具体的な例を見ていきましょう。
3人兄弟が親から実家を相続し、全員が共有者になったとします。そのうち2人が「実家を売りたい」と主張する一方、1人は「実家を売らずに残したい」と反対したらどうなるでしょう。
答えは、「1人でも反対者がいたら実家は売却できない」です。仮に実家を売りたい共有者2人の共有持分が合計99%、反対する人がわずか1%であっても結果は同じになります。
理由は至ってシンプルで、共有持分の大小にかかわらず、共有者は全員不動産の正式な所有者だからです。正式な所有者を1人でも無視して売却できてしまうと、明確な権利侵害が起きることになります。
確かに単独所有ではないとはいえ、非がないのに自分の持ち物を無断で処分されるのはおかしな話です。民法第249条でも、「共有持分に応じた使用ができる」と明記されており、共有持分の大小は関係ないことがわかります。
(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
e-Gov法令検索 民法第249条
では、どうやって共有名義不動産を売却すればよいのかというと、反対する共有者を説得して売却に同意してもらうのが基本です。
詳しくは後述しますが、共有名義不動産全体を売るためには、共有者全員の同意が必要になります。しかし、共有者全員の同意を集めるには、以下のような問題が生じやすくなります。
- 売りたい人と売りたくない人で意見が対立する
-
「共有者と連絡が取れない」「どこにいるかわからない」など、そもそもコンタクトが取れない可能性がある
- 同意が揃わないと不動産会社への相談や広告掲載などの具体的な売却活動が進められない
この共有者同士の意見のすり合わせこそが、共有名義不動産の売却が難航する理由になる場合があるのです。
共有不動産を売却するには共有者全員からの同意が必要になる
共有名義不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。
共有名義不動産の売却は、民法上の「変更行為」に該当します。変更行為とは、共有物の主要な性質・用途・形状などを変更することです。
共有名義不動産を売却すると、まず所有権が買主に移転します。移転に際し、管理したり運用したりする人も変更になります。つまり売却すると、「誰がこの不動産を持ち、誰が責任を負うのか」という根本的な部分が大きく変わるのです。
このように、共有名義不動産の本質的な部分に大幅な変化が伴うことから、売却は変更行為に当てはまります。
共有名義不動産の変更行為を行うには、共有者全員の同意が必要であると民法第251条に定められています。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
e-Gov法令検索 民法第251条
実務上、共有名義不動産の変更行為に該当するものは次の通りです。
- 売却
- 取り壊し・建て替え
- 増改築
- 軽微な変更に該当しないリフォームなど
- おおむね3年超の長期賃貸借契約の締結
- 宅地から農地への変更などの用途変更
- 共有名義不動産全体に対する抵当権の設定
ワンポイント解説
他の共有者の同意が必要な行為には、変更行為の他に「管理行為」が挙げられます。管理行為とは、共有物の主要な性質や形状などを変更しない程度で、共有物を利用したり改良したりすることです。民法第252条に定められています。
管理行為を行うには、共有者の共有持分割合の過半数の同意が必要です。たとえば共有者4人で共有持分をそれぞれA40%、B30%、C20%、D10%所有している場合、AとCが同意すれば70%で管理行為を実施できます。一方でBとDの同意のみだと40%で過半数にはならないため、管理行為をおこなえません。
管理行為に該当するものは、以下の通りです。
・変更行為には該当しない軽微なリフォームや改装
・おおむね3年以内の短期賃貸借契約の締結
一方で、共有名義不動産の現状を維持するための「保存行為」は、共有者の同意なしでも自分の意志だけで実施できます。修繕行為、不法占拠者への明け渡し訴訟などが保存行為に該当します。
共有持分だけなら単独で売却できる
共有持分のうち、自分が持っている自己持分の範囲なら、他の共有者の同意なしで売却できます。
共有持分とは、不動産全体ではなく「その不動産に対する一定の割合の権利」を指します。
そのため、単独名義の不動産のように物件全体を自由に処分できるわけではありませんが、自己の持分については独立した財産として扱われます。
民法第206条でも、「(不動産や動産の)所有者は、法令の制限内でなら所有物を自由に使用や処分ができる」と明記されています。
(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
e-Gov法令検索 民法第206条
共有持分を売却すると、その持分に対応する権利は買主へ移転するため、売主は共有関係から離脱することができます。一方で、不動産自体の共有状態は継続し、買主が新たな共有者となる点には留意が必要です。
共有者との関係性や管理負担などに課題を感じている場合には、こうした共有持分の売却も選択肢の一つとして検討されることがあります。
共有持分の売却先については、「共有不動産の売却以外に共有状態を抜け出す方法」にて詳しく解説します。
共有不動産の全体を全員で売却する流れ
共有名義不動産を売却するまでの一般的な流れは、以下の通りです。
- 共有者全員の同意を得る
- 不動産会社に売却の仲介を依頼して媒介契約を結ぶ
- 共有者全員が契約に立ち会う
- 売却代金を共有者で分割する
1. 共有者全員の同意を得る
共有名義不動産の売却における、最初のハードルは共有者全員の同意を得ることです。
まずは、法務局で「登記事項証明書(登記簿謄本)」を入手し、共有者が誰なのかを確認します。共有者は、登記事項証明書の「権利部(甲区)」の欄に共有持分割合と一緒に載っています。
東京都 都市整備局 参考 登記事項証明書(登記簿)の参考例とその見方
共有者が確定したら、共有者全員と連絡を取り、売却について同意するかを確認します。売却に反対する人がいた場合は、下記の「売却に納得してもらうための交渉のポイント」を参考に話し合ってみてください。
- 売却に反対する理由を確認し、具体的な解決方法を提示する
- 「高く売れる」「相続トラブルや管理トラブルを防げる」など、共有名義不動産を売却するメリットを具体的に解説する
- 「いくらで売れるのか」「いくら手元に入るのか」などお金の部分を濁さずに伝える
- 不動産会社に客観的な市場データや将来の維持コストの試算を依頼し、共有者間で判断材料を共有できるようにする
同意を得られたときは、その旨を同意書として書面に残しておきましょう。同意書があれば、不動産会社や買主側に「すでに全員の同意を得ているのでスムーズに売却できます」と証明できます。また、後日の認識の相違によるトラブルの防止にもつながります。
同意書を作成する際は、不動産に強い弁護士のサポートやリーガルチェックを受けておくと後の手続きがスムーズです。
2. 不動産会社に売却の仲介を依頼して媒介契約を結ぶ
一般の人が不動産を売却する場合、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。依頼する際に結ぶのが、「媒介契約」です。
媒介契約とは、不動産会社による販売活動の方法や条件等を定める契約をいいます。売却活動の方針やサポートの範囲、報酬など、仲介業に関するさまざまな取り決めをおこないます。
媒介契約は、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」のいずれかから選びます。それぞれの違いを、表にまとめました。
|
他社との契約 |
自分で買主を探せるか |
売主への販売活動の報告 |
レインズ(※)への登録 |
契約期間 |
| 一般媒介契約 |
他の不動産業者へも依頼可能 |
探して取引できる |
規定なし |
不要 |
規定はないが3か月以内が一般的 |
| 専任媒介契約 |
1社のみ |
探して取引できる |
2週間に1回以上報告を受ける |
契約締結翌日から7日以内 |
3か月以内 |
| 専属専任媒介契約 |
1社のみ |
探せない |
1週間に1回以上報告を受ける |
契約締結翌日から5日以内 |
3か月以内 |
※ 国から指定を受けた「不動産流通機構」が運営するコンピューターネットワークシステム
どの媒介契約が有利になるかは、売主の意向や物件の状態などによって変わります。
「不動産自体の需要が高い」「売却先の見当がある」などの場合は一般媒介契約、「業者の営業力・販売力の力を借りたい」「積極的に販売活動を進めてほしい」などの場合は専任媒介契約・専属専任媒介契約を選ぶ傾向です。
媒介契約を締結した後は、契約内容を必ず書面にして不動産業者から売主に渡すよう宅地建物取引業法にて定められています。
(媒介契約)
第三十四条の二 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約(以下この条において「媒介契約」という。)を締結したときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない。
(以下、略)
e-Gov法令検索 宅地建物取引業法第34条
媒介契約の詳細については、以下の関連記事にて詳しく解説しています。
3. 共有者全員が契約に立ち会う
不動産業者に売却を依頼したあと、具体的な売却活動は担当者の方で進めます。そのため、売却活動で不動産の所有者が行うことはほとんどありません。内覧希望があったときに希望者を案内したり、質問があれば回答したりする程度です。
内覧時の立ち会いは不動産業者に任せることもできますが、物件の魅力を伝えて購入を後押しするためにも、共有者のうち1人は立ち会うとよいでしょう。内覧を受け付けるときは、あらかじめ共有不動産内の清掃や物品の移動を済ませておき、よい状態の不動産を隅々まで見てもらえるようにしておきます。
買主が決まれば売買契約を結びます。売買契約書は不動産業者が作成したものを使用するので、自分で作成する必要はありません。
ただし、契約書の内容に自分の認識と異なる条項がないか、あいまいな文言がないか確認する必要があります。契約締結後に「そのような認識はなかった」と主張しても、原則として受け入れられない可能性があります。逆に買主側から「契約内容と違う」と後からいわれると、売主は「契約不適合責任」によって修繕対応や損害賠償などの負担を負う可能性も出てきます。
共有不動産における売買契約でのポイントは、契約締結時には共有者全員が立ち会い、署名・捺印する必要がある点です。
共有者全員が同時に立ち会うことが難しい場合には、代理人を選任して手続きを行うことも可能です。代理人による契約手続きを行う際には、実印を押印した委任状と、発行から3か月以内の印鑑証明書が必要になります。本人確認書類の写しを求められることも多いため、不動産会社に必要書類を早めに確認しましょう。なお委任状の様式に法令上の統一された定めはありませんが、具体的な記載内容や形式については、不動産会社や関係専門家に確認しながら進めると安心です。
4. 売却代金を共有者で分割する
共有者全員で売却した後に売却代金が振り込まれたら、その金額をそれぞれの持分割合に応じて分割します。
たとえば、共有者3人が1/3ずつ共有持分を持っていた場合、売却代金が3,000万円なら1,000万円ずつ分配します。
このとき、不動産売却にかかった費用も持分割合に応じて負担するのが一般的なので、その分を計算して分割しなければいけません。
上記の例で不動産業者へ仲介手数料を支払う場合なら、「(3,000万円×3%+6万円)×1.1=仲介手数料105万6,000円」を3人で1/3ずつ分けるので、共有者1人あたり35万2,000円の支払いになります。
どの項目にどのくらいの費用がかかったかを証明するために、各領収書は残しておくようにしましょう。売却時に発生する各種費用の詳細は、以下の関連記事や当記事「共有不動産を売却する場合にかかる費用・税金」をご覧ください。
なお、買主は住宅ローンを組んで不動産を購入することがほとんどなので、売買契約を結んだ日は手付金だけ受け取るのが一般的です。手付金は、売却代金の5~20%以内が慣例となっています。そのため、引き渡しも後日になります。
参考:国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」
共有不動産をスムーズに売却するためのポイント
共有名義不動産を売却する場合、共有者全員の同意のもとで不動産全体を売却できれば、実務上は単独名義の不動産と同様の形で取引が進められるケースが一般的です。
そのため、権利関係や物件条件に特段の問題がなければ、売却価格についても一般市場の水準での成約が期待できる場合があります。また、共有持分のみの売却とは異なり、一般の買主からの需要も見込まれます。
一方で、売却に至るまでの過程においては、共有名義不動産特有の調整や確認事項が発生します。
共有名義不動産をスムーズに売却するためには、以下のポイントを事前に整理しておくことが重要と考えられます。
- 相続した場合は共有不動産の相続登記を済ませておく
- 共有者の人数とそれぞれの持分割合を確認しておく
- 共有不動産の売却でかかる経費を誰が負担するのかを決めておく
- 他の共有者とともに最低売却価格を決めておく
- 共有不動産に住宅ローンが残っていないかを確認しておく
相続した場合は共有不動産の相続登記を済ませておく
共有名義不動産を相続によって取得した場合は、相続登記が済んでいるかを確認しましょう。相続登記とは、被相続人(亡くなった人)の不動産を相続する際に、相続人の名義に変更する手続きです。
相続登記は、令和6年4月1日より義務化されており、期限は「所有権の取得を知った日から3年以内」、または「遺産分割が成立した日から3年以内」です。もし相続登記をしていない状態で共有名義不動産を売却しようとすると、以下の問題が発生します。
- 売主と登記簿上の名義人が異なると、売却できない可能性がある
- 期限内に相続登記が終わっていないと、10万円以下の過料が科される可能性がある
- 管理や費用負担を巡って共有者間で認識の相違が生じる要因になる
なお、相続登記の申請方法は個別の事情によって異なり、相続人の状況や遺産分割の有無に応じて手続きが進められます。実務上は、司法書士などの専門家に依頼して手続きを行うケースも多く見られます。
売却を検討している場合には、売却スケジュールや登記期限も踏まえ、あらかじめ手続きの進捗を確認しておくことが重要です。
共有者の人数とそれぞれの持分割合を確認しておく
共有名義不動産を売却する際には、事前に共有者の人数とそれぞれの共有持分割合を確認しておきましょう。
「共有者が誰かわからない」「いくら分配すればよいのかわからない」といった状態だと、不動産を売却しても、代金の分配についてトラブルが生じる可能性があります。もし「共有持分割合が10%の妻に、50%分の売却代金を渡した」など本来の割合とあきらかに違う分配にすると、贈与税の対象になる可能性があります。
上記の例で共有名義不動産の売却価格が3,000万円だった場合、本来受け取るべき売却代金は300万円のはずが、実際には1,500万円と1,200万円の差が出ています。税務上、差額部分について贈与があったとみなされる可能性があり、贈与税の課税対象となる場合があります。
共有持分割合は、後述した通り登記事項証明書の権利部を見れば確認できます。共有持分割合がどのように決まるかは、以下の関連記事をご覧ください。
共有不動産の売却でかかる経費を誰が負担するのかを決めておく
共有名義不動産の売却を不動産業者に依頼する場合、仲介手数料や印紙税などがかかります。売主から買主へ所有権を移転させる手続きである「所有権移転登記」にかかる費用は、実務上は買主が負担するケースが多いものの、当事者間の合意によって定められます。
共有名義不動産の売却にかかる費用・経費は、誰が負担するかをあらかじめ話し合って決めておきましょう。
費用・経費の負担は、共有持分割合に応じるのが基本です。ただし、共有者同士の合意があれば割合を自由に決められるため、経済的に豊かな人や不動産の利用頻度が高い人に多めに負担してもらうのも1つの選択肢です。
他の共有者とともに最低売却価格を決めておく
共有名義不動産の最低売却価格は、他の共有者とともに事前に決めておきましょう。
最低売却価格を決めておけば、購入希望者から値下げ交渉があっても「値下げは〇〇万円までです」とあらかじめ方針を共有しておくことで、値下げ交渉時の判断をスムーズに行いやすくなります。相手からの提案の度に、他の共有者に連絡して確認する必要がありません。
最低売却価格は、共有名義不動産の実際の相場価格を参考に設定するケースが一般的です。おおまかにでも相場を知っておけば、相場よりも安値で取引するという失敗を防ぎやすくなります。
共有不動産に住宅ローンが残っていないかを確認しておく
共有名義不動産に住宅ローンが残っていないかを、あらかじめ確認しておきましょう。
共有名義不動産に住宅ローンが残っていると、売却条件によっては、買主が見つかりにくくなる場合があります。住宅ローンが残っている不動産には原則として「抵当権」が設定されており、買主側にとって購入するリスクが大きいからです。
抵当権とは、民法第369条などに規定された、住宅ローンにおけるいわゆる担保のことです。住宅ローンが支払えなくなると、融資している金融機関などが、抵当権が付いた不動産の担保権を実行し、不動産が競売等に付される可能性があります
抵当権が付いているかどうかは、登記事項証明書にて確認可能です。
住宅ローンが残った共有名義不動産を売却したいときは、あらかじめ住宅ローン残債をすべて返済して抵当権を抹消しましょう。もし現在の手持ちでは住宅ローンの完済が難しい場合でも、「共有名義不動産の売却益>住宅ローン残債」の状態であるアンダーローンなら、売却できる可能性が上がります。
「住宅ローン残債>共有名義不動産の売却益」の状態であるオーバーローンでも、足りない分を自己資金でまかなって完済できるのであれば、売却は可能です。
住宅ローンが完済できれば、「抵当権抹消登記」をおこない、抵当権を抹消します。
なお、住宅ローンが返済しきれなくても住み替えローンや任意売却などで対応できます。しかし、確実ではないうえにさまざまな制限もあるため、住宅ローンを完済のうえで抵当権を抹消するのが一般的です
共有不動産を売却するときによくあるトラブルと対処法
共有名義不動産の売却には、単独名義不動産を売るときとは異なるさまざまなトラブルが存在します。ここからは数々の不動産取引にかかわってきた筆者が実際にお受けした相談の中から、共有名義不動産の売却でよくある以下のトラブルと対処法について解説します。
| よくあるトラブル |
対処法 |
| 途中で売却の意思を変える共有者が現れる |
反対した理由を確認したうえで説得したり問題を解決したりが基本だが、共有者同士の話し合いでは解決しないときは弁護士などの専門家の協力を得るのも有効 |
| 売却価格に合意が得られない |
共有名義不動産がいくらで売れるのかをあらかじめ調査しておき、「いくらなら売却するのか」の意見を統一しておく |
| 売却代金を受け取った代表者からお金が分割されない |
協議や裁判で支払いを求めていくか、買主へ共有者それぞれの口座へ直接代金を振り込んでもらえないかを事前に確認してみる |
| 共有者が所在不明で連絡が取れない |
民法上の共有物の管理・処分に関する制度の活用、登記事項証明書での共有者の連絡先確認、不在者財産管理人や相続財産清算人(相続財産管理人)などの専任などを行う |
| 共有者が認知症で同意が得られる状態ではない |
成年後見制度や家族信託を利用する |
途中で売却の意思を変える共有者が現れる
共有不動産の売却に同意したはずなのに、売却活動が長引くうちに共有者が「やっぱり売却に反対だ」といいだす可能性もあります。
事前に同意書を作成していたとしても、同意者はあくまで「同意があったかどうかを争うときに、同意した事実を証明する証拠」として使うものです。その内容や作成経緯によっては法的な評価が異なる場合があります。
同意書を作成していても、売買契約の締結前であれば原則として同意の撤回は可能ですが、すでに測量費用等の経費が発生していた場合など、他の共有者に損害を与えた際には損害賠償を請求されるリスクが生じます。
売買契約を締結した後なら、すでに契約が成立しているため、共有者が同意を撤回するには法的根拠が必要になります。
もし同意の事実が覆らなくても、売買時の立ち会いに応じないなど反対者が非協力的なままなら、売却を進める際の障害になります。
途中で売却に反対された場合、対処法としてはその共有者への説得になります。最初は売却に同意していたのに反対に変わったのであれば、なにか理由があるはずです。その理由を具体的に聞いてみましょう。
筆者がこれまで遭遇した事例では、以下の理由で売却の意思を変えた方がおられました。
- 後からあらためて相場を確認したら、設定した売却価格が相場とかけ離れていた
- 介護が必要になったなど、住居として共有名義不動産を利用したい理由ができた
- 共有名義のアパートで入居者の増加や家賃の値上げなどが見込める情勢になった
- 代表者が売却代金を公平に分配しないのではと疑いの眼差しを持つようになった
共有者同士での解決が難しい場合、弁護士など専門家に相談して代わりに交渉してもらう方が、迅速に解決する可能性もあります。話が複雑化している共有不動産の売却については、不動産に強い弁護士や法的問題に対応できる不動産会社などへ相談してみるのもよいでしょう。
売却価格に合意が得られない
売却の意思は一致していても、売却価格で意見が割れる事例もよくあります。
「もっと高く売れるはずだから、その価格では売却できない」「価格はいいから、とりあえず早く売りたい」など、共有者によって考えが異なることも珍しくありません。
そこで、売却活動をはじめる前に「どの金額だったら売却するか」の意見を統一させておくことが大切です。
実際にどれくらいの価格で売れるか知りたい場合は、不動産会社に査定を依頼するのがおすすめです。
不動産会社では、不動産の査定を無料で対応してくれる可能性があります。複数の不動産会社へ査定を依頼すれば、より正確な査定価格が確認できるでしょう。
不動産会社には「仲介業者」と「買取業者」の2種類があります。
仲介業者は一般的に査定額が高い傾向にありますが、買い手がつかないケースもあります。
一方、買取業者は業者が直接買い取る仕組みで比較的短期間で売却できます。ただし、査定額から各種経費やリスク負担分が差し引かれるケースもあるため、仲介業者よりも低くなるのが一般的です。
共有名義不動産自体の需要が高いのであれば、仲介業者を利用した方が高額で売却できる可能性があります。一方で、「長年空き家になっていた」「耐震強度や構造など物理的な欠陥がある」などなかなか買い手が見つからない場合は、買取業者を検討するのもおすすめです。
どちらが適しているかは、物件の状況や売却条件によって異なるため、それぞれの特徴を比較したうえで検討するとよいでしょう。
ご自分で相場を調べたいときは、国が公開する路線価などの公的データを参考に、おおよその価格水準を把握する、国土交通省が運営する不動産ライブラリを見る、不動産ポータルサイトにて類似不動産を確認するなどの方法があります。
売却しようとする共有不動産の売却相場を事前に調査し、ほかの共有者が納得できる金額を提示できることが大切です。
売却代金を受け取った代表者からお金が分割されない
共有名義不動産の売却代金の決済時には、代表者の口座へ売却代金を振り込んでもらい、その後にほかの共有者へ分割する方式が一般的です。
一方で、代表者からの分配が円滑に行われないケースもあるため注意が必要です。当社に寄せられた相談の中には、「代表者から支払いを一定期間待つよう求められ、その後も支払いが行われない」といった事例や、相続時の取り決めどおりに売却が進まなかったとするケースも見受けられます。
代表者が受領した売却代金については、共有持分などに応じて分配されるのが一般的ですが、その具体的な取扱いは事前の合意内容によって異なります。
代表者による分配方法に不安がある場合には、あらかじめ買主や仲介業者と調整のうえ、各共有者の口座へ直接振り込む方法が可能かを確認しておくことも一つの対応策といえます。
共有者が所在不明で連絡が取れない
共有者全員の同意を得られない原因として、「共有者のうち所在がわからない不明者がいる」「共有者が亡くなっている」というケースがあります。原則として、連絡が取れない共有者がいたとしても、その共有者の同意をあったものとして勝手に売却を進めることはできません。
また、共有者が1人でも連絡がつかない場合には、そのままでは全員の同意が得られたとはいえず、売却を進めることが難しくなります。
共有者に不明者がいるときは、以下の方法で対処します。
- 裁判所の手続きを通じて、不在者財産管理人の選任や所在不明共有者に関する制度を利用する
- 登記簿などで不明者の情報を見て連絡できないかを確認する
- 共有者が亡くなっているときは共有者の相続人から同意を得る
- 不在者財産管理人や相続財産清算人(相続財産管理人)などを専任する
不明者がいるときの対処法は、以下の関連記事にて詳しく解説しています。
共有者が認知症で同意が得られる状態ではない
たとえ共有者と連絡が取れる状態であっても、その共有者が認知症だと同意を得るのは困難になります。認知症になった人は「意思能力がない」と判断される場合があり、「意思能力がない人がおこなった法律行為は無効」という、民法第3条の2が適用されるからです。
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
e-Gov法令検索 民法第3条の2
仮に認知症の人が売却に同意しても、有効な同意と認められない可能性が高く、売却が成立しないおそれがあります。
実務上、共有者が認知症となることで売却が進められなくなるケースも見られるのです。
認知症の共有者がいるときに共有名義不動産を売却したいときは、「成年後見制度」を利用します。成年後見制度とは、認知症などになった人の代わりに、財産の管理や法的手続きを行う人を選任する手続きです。つまり、後見人が本人に代わって財産管理や売却の可否について判断を行うことになります。
共有者が家族や親戚なら、認知症になる前にあらかじめ「家族信託」の契約を締結しておくのも有効です。成年後見制度や家族信託については、以下の記事にて詳しく解説しています。
共有不動産の売却について全員の同意を得るための交渉のコツ
共有不動産全体の売却を成功させるには、いかに共有者全員から同意を得るかが大きなポイントになります。共有不動産の売却について、全員の同意を得るための交渉のコツは次の通りです。
- 全員で売却するのが比較的高額で売却できる可能性が高いと伝える
- 共有名義のまま不動産を所有し続けることのリスクを説明する
- 売却後の各種手続きを自分が中心に対応することも視野に入れる
- 共有者同士で揉めているなら弁護士を入れて話すのも選択肢の一つ
全員で売却するのが比較的高額で売却できる可能性が高いと伝える
共有不動産全体を売却すると、売却価格は市場価格に近い水準で取引されることが一般的です。
共有名義不動産全体を売却する際、他の共有者から「全体を売らなくても、共有持分だけを売却すればいい」と主張される場合があります。しかし、共有持分単独だけで売ると市場価格よりも面積あたりの単価が相対的に低い価格での取引となる傾向があります。
そのため、交渉のときには共有者全員で売却した方が得られる現金が高額になることを、説明の一つの材料として活用することが考えられます。
共有名義不動産や共有持分の売却相場については、「共有不動産の売却相場は市場価格に近くなるのが基本」の章にて詳しく解説します。
共有名義のまま不動産を所有し続けることのリスクを説明する
不動産を共有名義のままで持ち続けると、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。共有不動産の所有でよくあるトラブル例は次の通りです。
- 共有不動産の使用方法、運用の方向性、税金・管理費用負担などで言い争いになる
- 共有持分の相続や売却時に権利関係が複雑になり話がこじれやすくなる
- 共有者の1人が物件を占有したり家賃を分配しなかったりするリスクが想定される
- 共有者が音信不通になって同意を得られず売却やリフォームが進められなくなる
- 他の共有者が自分の共有持分を知らない人へ売却し、知らない人から強引な交渉やトラブルに発展する可能性がある
上記以外にも共有不動産を売却するときによくあるトラブルと対処法にて解説した、トラブル事例と同じことが起こる可能性もあります。
冷静に共有状態の課題を共有することが、合意形成の一助になります。
売却後の各種手続きを自分が中心に対応することも視野に入れる
「売却したいけど手続きが面倒」「ちゃんと売却代金の振込があるか不安」といった共有者がいるなら、売却手続きや売却代金の分配を自分が中心で対応すると伝えると、同意を得られる可能性が上がります。ただし、売却契約や重要な意思決定については、必ず共有者全員の同意を得たうえで進める必要があります。
交渉材料として使えそうな、自分が担当する対応範囲の例は次の通りです。
- 不動産会社や買主との交渉
- 広告掲載や内覧対応などの販売活動全般
- 売却代金の振込確認や分配の計算・対応
- 住宅ローン残債が残っている場合の売却対応や抵当権抹消登記など
ただし契約時には共有者全員の関与(または委任)が必要となるため、その部分は協力をあらかじめお願いしておきましょう。
共有者同士で揉めているなら弁護士を入れて話すことも選択肢の一つ
「特定の共有者が不動産を占有している」「権利関係が複雑で把握しきれない」といった、すでに発生した共有者関係のトラブルが原因で話し合いが困難なときは、弁護士を入れての交渉も選択肢の一つです。
弁護士に交渉のサポートを依頼するメリットは次の通りです。
- 共有者相手にこちら側の本気を伝えやすい
- 複雑な権利関係でも専門知識や実務経験を基に解決へ導いてくれる
- トラブルの当事者となっている共有者と話したくないときに交渉の代理をお願いできる
とはいえ、大きなトラブルに至っていない段階で弁護士を通じて交渉を行うと、相手に心理的な距離を感じさせてしまう場合もあります。一方で、専門家を介することで冷静な話し合いが進むケースもあるため、状況に応じた判断が重要です。
弁護士への依頼は、法的トラブルが生じている場合に限らず、話し合いが難航している場合やトラブルを未然に防ぎたい場合にも検討するとよいでしょう。
なお、弁護士に依頼する際には、着手金や成功報酬などの費用が発生し、一般的には数十万円程度となるケースが多いものの、事案の内容や依頼範囲によって異なる点にも留意が必要です。
共有不動産の売却相場は市場価格に近くなるのが基本
共有者全員の合意のもとで売却が行われる場合、売却価格は通常の物件と同様に市場価格に近くなるのが一般的です。共有者全員の所有権が移動して買主の完全所有権になるため、買主側から見ると通常の物件を購入したときと変わらない可能性があるからです。
市場価格は、実際に不動産市場で取引される価格を意味します。
買主側から見ると、完全所有権で不動産が手に入ることになります。共有名義不動産特有のトラブルや制限も存在しないため、評価が通常の物件と比較して下がる理由がなく、市場価格に近い相場で取引されます。
一方で、共有持分単体で売却する場合は、売却相場および需要が大きく下がるケースがあることに注意が必要です。
一般的には、共有持分の売却価格は「共有名義不動産の市場価格×持分割合に対して、2分の1~3分の1程度」になるケースが多いとされていますたとえば、共有持分30%の人だと、5,000万円の共有名義不動産の売却において、全体と共有持分単体では以下の差が出てきます。
- 全体を売却したときの分配金額:5,000万円×30%=1,500万円
- 共有持分を第三者へ売却したときの受取金額:5,000万円×30%×1/2~1/3=500万~750万円
- 両者の差:750万~1,000万円
共有持分単体の売却だと安くなる傾向にある理由は、共有持分単体だけを購入しても、共有名義不動産全体の活用に制限がかかるからです。たとえば活用を考える際には、売却や建て替えには全員の同意、軽微なリフォームでも共有持分割合の過半数の同意が必要になります。また、他の共有者との言い争いや他の共有者の支払いの肩代わりなどのトラブルリスクが上がる可能性もあります。
一般の個人からの需要は限定的であり、主に専門の不動産会社や投資家が買主となるケースが多いとされています。
なお上記で解説した内容は実務上の傾向の話であり、実際にいくらで売れるかは、不動産の立地、状況、周辺施設などさまざまな要素を見て総合的に判断されます。
共有不動産を売却する場合にかかる費用・税金
共有名義不動産の売却には、以下3種類の費用・税金が発生します。
| 共有名義不動産売却時にかかる費用・税金 |
かかる金額 |
| 仲介手数料 |
一般的には、売却価格×3%+6万円+消費税(400万円超の場合) |
| 譲渡所得税 |
所有期間に応じて税率が異なり、5年超の場合は約20.315%、5年以下の場合は約39.63%が目安 |
| 印紙税 |
売買契約書に記載された金額に応じて、200円~60万円程度 |
なお、売却時の費用とは異なりますが、別途引っ越し費用、ハウスクリーニング代、抵当権抹消登記に関する司法書士費用などがかかる可能性があります。
仲介手数料│一般的には、売却価格×3%+6万円+消費税(400万円超の場合)
仲介手数料とは、不動産の売却を仲介業者に依頼した際に発生する、仲介業務に対する支払いです。成約した売却金額に応じ、法律で定められた金額を上限として発生します。
実際に上限額で設定されているかは、仲介業者によって変わります。法律で決まっているのはあくまで上限であるため、売却金額や交渉次第では仲介手数料の値引きが受けられるかもしれません。
仲介手数料の支払いは、実務上は仲介手数料は、売主・買主それぞれが自身の依頼した不動産会社に対して支払うのが原則です。
以下では、仲介手数料の上限額の計算式を紹介します。
| 売却金額 |
仲介手数料の計算式 |
| 200万円以下の部分 |
売却金額×5%+消費税 |
| 200万円超~400万円以下の部分 |
売却金額×4%+消費税 |
| 400万円超の部分 |
売却金額×3%+消費税 |
| 売却金額が800万円超のときの速算式 |
(売却価格×3%+6万円)+消費税 |
※上記は売却価格を区分ごとに分けて計算します。
売却価格が8,000万円だった場合、仲介手数料は「(8,000万円×3%+6万円)×1.1(消費税10%)=270万6,000円」です。買主と折半した場合は、135万3,000円になります。
共有持分割合に応じて共有者全員で負担する場合なら、共有持分割合1/3ずつの共有者3人だと、1人あたり45万1,000円です。
なお、買取業者に共有名義不動産を買い取ってもらう際は、仲介がないので仲介手数料は発生しません。
譲渡所得税│所有期間に応じて税率が異なり、5年超の場合は約20.315%、5年以下の場合は約39.63%が目安
譲渡所得税とは、不動産を売却した際に、その売却益に対して課せられる税金です。正確には、売却益に対してかかる「所得税」「住民税」「復興特別所得税」の3つをまとめて譲渡所得税と表しています。
譲渡所得税が発生したときは、原則として自分で譲渡所得税を計算し、確定申告および納税をしなければなりません。譲渡所得税を計算するには、以下のステップを踏んでいきます。
- 譲渡所得を計算し共有持分割合に応じて按分する
- 譲渡所得に共有名義不動産の所有期間に応じた税金を乗じる
以下では、共有名義不動産の譲渡所得税の計算の流れを簡単に見ていきましょう。
譲渡所得を計算し共有持分割合に応じて按分する
<譲渡所得税の計算式>
不動産の売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除(※)
※ マイホームを売った場合の3,000万円の特別控除の特例などがある場合は、ここで計算する
不動産の売却価格5,000万円、取得費2600万円、譲渡費用400万円、特別控除なしの場合は、「5,000万円-(2,600万円+400万円)=譲渡所得2,000万円」になります。その後、全体の譲渡所得を、共有者の共有持分割合に応じて按分します。
共有者ABCがそれぞれ共有持分割合を50%、30%、20%だった場合、それぞれの譲渡所得は以下の通りです。
・共有者A:2,000万円×50%=1,000万円
・共有者B:2,000万円×30%=600万円
・共有者C:2,000万円×20%=400万円
譲渡所得に共有名義不動産の所有期間に応じた税金を乗じる
| 売却年の1月1日時点での所有期間 |
適用する税率 |
| 所有期間5年超 |
・譲渡所得税率:15%
・住民税率:5%
・復興特別所得税率:0.315%(※) |
| 所有期間5年以下 |
・譲渡所得税率:30%
・住民税率:9%
・復興特別所得税率:0.63%(※) |
参考:国税庁「土地や建物を売ったとき」
※ 正確には「基準所得税額の2.1%」ですが、ここではまとめて計算できるようわかりやすい税率に変換(15%×2.1%=0.315%、30%×2.1%=0.63%)しています。
不動産の所有期間が7年、譲渡所得が2,000万円だった場合、それぞれの全体の税金額は以下の通りです。
・譲渡所得税:2,000万円×15%=300万円
・住民税:2,000万円×5%=100万円
・復興特別所得税:2,000万円×0.315%=6万3,000円
・譲渡所得税の合計:300万円+100万円+6万3,000円=406万3,000円
共有名義不動産の場合、共有者ごとに所得税額を計算する必要があります。例にしたがい、譲渡所得がA1,000万円、B600万円、C400万円で計算していきましょう。税率は、15+5+0.315=20.315%を用います。
・共有者A:1,000万円×20.315%=203万1,500円
・共有者B:600万円×20.315%=121万8,900円
・共有者C:400万円×20.315%=81万2,600円
なお、所有期間の判定は共有者ごとに行われるため、取得時期が異なる場合には適用される税率が異なることがあります。
取得費・譲渡費用の種類や、適用できる特例などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
印紙税│売却金額に応じて200円~60万円
印紙税とは、日常の経済取引に伴って作成する契約書などに課税される税金です。不動産の売買契約書も、印紙税の対象になります。共有名義不動産の売買契約書の場合、売買契約書に記載された売却金額に応じた印紙税額の納税が必要です。
| 売却金額 |
印紙税額 |
| 1万円未満 |
非課税 |
| 1万円以上10万円以下 |
200円 |
| 10万円超50万円以下 |
400円 |
| 50万円超100万円以下 |
1,000円 |
| 100万円超500万円以下 |
2,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 |
1万円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 |
2万円 |
| 5,000万円超1億円以下 |
6万円 |
| 1億円超5億円以下 |
10万円 |
| 5億円超10億円以下 |
20万円 |
| 10億円超50億円以下 |
40万円 |
| 50億円超 |
60万円 |
| 契約金額の記載がない |
200円 |
参考:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
なお共有名義不動産の売却の場合、「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」の対象になります。たとえば売却金額が5,000万円なら、令和9年3月31日までは印紙税は2万円ではなく軽減措置適用後の1万円になります。
共有不動産を売却する場合に必要な書類
共有名義不動産の売却を進める際、不動産会社へ査定や売買契約をお願いする前には、あらかじめ必要書類を揃えておくのがおすすめです。事前に準備しておけば不動産会社とのやり取りがスムーズになり、より詳細な査定を期待できます。
必要書類は物件の種類や状況によって異なりますが、代表的なものは次の通りです。
| 査定や契約に必要な書類 |
入手場所 |
| 登記識別情報 |
・不動産入手時に書面かオンライン上で取得済み
・紛失した場合の再発行はできないため、紛失した場合は事前通知制度などで対応する |
| 固定資産税納税通知書・固定資産税評価証明書 |
・毎年4~6月に不動産が所在する自治体から代表者へ送付されている
・自治体の市区町村役場の固定資産税課などでも交付請求できる |
| 土地測量図 |
・法務局にて地積測量図として入手する
・土地家屋調査士に依頼して新たに測量図を作ることも可能 |
| 登記事項証明書 |
法務局の窓口での申請や「登記情報提供サービス」でのオンライン申請で入手する |
| 重要事項説明書 |
・不動産購入時に不動産会社から交付済み
・紛失時には購入時に利用した不動産業者などに問い合わせれば控えを入手できる可能性あり |
| 売買契約書 |
・不動産購入時に不動産会社から交付済み
・紛失時には購入時に利用した不動産業者などに問い合わせれば控えを入手できる可能性あり |
| 間取り図面 |
・不動産会社などから販売図面や設計図として交付済み
・紛失時には市区町村役場などで建築確認申請時の図面を請求が可能 |
| 住民票 |
・市区町村役場の窓口やコンビニなど
・登記上の住所と現住所が異なる場合に必要
・共有者全員分かつ発行から3か月以内のもの |
| 印鑑証明書 |
・市区町村役場やコンビニなど
・共有者全員分かつ発行から3か月以内のもの
・印鑑証明書に登録している実印も共有者全員分が必要 |
| 管理規約や使用細則 |
マンションの管理会社などから入手する |
上記以外に必要な書類がある場合は、各不動産業者へ直接確認しましょう。
共有不動産の売却以外に共有状態を抜け出す方法
「共有状態から抜け出したいけど、共有名義不動産の売却に全員が同意してくれない…」と悩む方もいるのではないでしょうか。売却が難しい場合でも、状況に応じて他の方法により共有状態の解消を図ることが可能です。
具体的な方法は、以下の通りです。
- 共有持分を専門の買取業者に売却する
- 共有持分を共有者に売却する
- 土地を分筆する
- 共有物分割請求訴訟を起こす
なお、いずれの方法にも一定の条件や制約があり、状況によっては実現が難しい場合もあります。事前に専門家や不動産会社へ相談することが重要です。
共有持分を専門の買取業者に売却する
自分が持つ共有持分だけを、共有持分専門の買取業者へ売却して手放す方法があります。共有持分専門の買取業者へ売却するメリットは、以下の通りです。
- 一般の人から需要が低い共有持分でも買い取ってくれる可能性がある
- 共有持分の専門知識や取引経験を基にした査定が提示される
- 原則として売却後に問題が見つかっても契約内容によっては、契約不適合責任が免責される形で取引されるケースもある
- 士業と提携する買取業者なら共有者同士の協議のサポートができる場合がある
買取業者を選ぶときは、「共有持分の買取実績があるか」「査定価格は適正か」などのポイントを確認し、信頼できる買取業者なのかを見極めましょう。そのためには、1社だけはなく、複数の買取業者に査定を依頼して比較検討するのが見極めのコツです。
共有持分を共有者に売却する
共有持分の売却先として、買取業者以外にも同じ共有名義不動産の共有者が挙げられます。
「他の共有者が自分の共有持分をほしがるのか?」と思われるかもしれませんが、共有者にとって共有持分が増えることにはさまざまなメリットがあります。
たとえば、共有持分を買い取って共有持分割合が過半数であれば、軽微なリフォームなどの管理行為が自分の意志だけで実施可能です。他の共有者全員の共有持分を買い取れば、共有名義が解消されて単独名義不動産として自由に活用できるようになります。
上記のメリットにより、共有者が取得を希望するケースも見られます。筆者が経験した取引においても、共有者同士の共有持分の売買は何度もありました。一般的には、共有名義不動産の市場価格に持分割合を乗じた金額を目安に交渉されることが多く、第三者へ売却する場合と比べて高値での成約が期待できるケースもあります。
ただし、取引するには他の共有者に買取意思や買取資金があることが前提になります。
土地を分筆する
土地の分筆とは、登記簿上に土地を分け、分けた土地ごとに登記し直す手続きです。
共有持分割合を目安に分けることが多いものの、土地の形状や接道条件などによっては、その通りに分けられない場合もあります。たとえば土地の共有持分を3人で1/3ずつ持っている場合なら、土地を1/3ずつに分け、分けた土地にそれぞれの共有者の単独名義として登記をおこないます。分筆により、共有者の単独名義でもともとの土地を1/3ずつ所有することになります。
分筆するメリットは、共有者が単独所有した土地をそれぞれで自由に活用できる点です。売却、新築、貸付なども自由にできます。単独名義の土地として売却できるため、共有持分のまま売却するよりも高値での売却が期待できるケースがあります。
ただし、分筆後の形状によっては狭すぎて活用が難しかったり、資産価値が下がったりなどのデメリットもあります。不動産を分けるという手続き上、建物の分筆は実質的にできない点も注意しましょう。
共有地を分筆してそれぞれの単独名義にする手続きは、共有者全員での合意が必要になります。共有名義の土地の分筆については、以下の記事で詳しく解説しています。
共有物分割請求訴訟を起こす
「協議したけど共有者同士の話し合いがまとまらない」「そもそも共有者が話を聞いてくれない」といったケースなら、共有物分割請求訴訟を起こすのも1つの選択肢です。
共有物分割請求訴訟とは、共有名義不動産における共有状態の解消について、裁判所にて決着させる方法です。原告・被告双方の弁論を基に、裁判官が中立かつ公平に共有状態を解消する方法を判断します。なお実務上は、判決まで進むよりも途中で和解するケースの方が多いです。
共有物分割請求訴訟なら、自分が望む結果かどうかにかかわらず、最終的には裁判所の判断または和解により解決が図られます。共有者同士の話し合いでは解決が難しいときは、訴訟による解決を目指すのもよいでしょう。
共有物分割請求訴訟を提起するには、必ず事前に共有者同士で協議しておく必要があります。
(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
e-Gov法令検索 民法第258条
共有物分割請求訴訟では、以下3つのうちいずれかの分割方法を裁判所が決定します。
| 共有物分割請求訴訟による分割方法 |
概要 |
| 現物分割 |
不動産の分筆によって共有状態を解消する方法 |
| 代償分割 |
1人が他のすべての共有者の共有持分を代償金を支払って取得し、単独名義にする方法 |
| 換価分割 |
共有不動産すべてを任意売却や競売などで売却し、売却代金を共有持分割合に応じて分配する方法 |
共有物分割請求訴訟の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
共有名義不動産を売却するには、他の共有者全員の同意が必要になります。全員の同意が得られたら、通常の物件と同様に不動産会社へ依頼し、売却活動を進めていきましょう。売買契約締結時には、共有者全員の関与(立ち会いまたは代理人による対応)が必要です。
共有名義不動産をスムーズに売却するには、各共有者の人数や共有持分割合、相続登記の完了状況、費用の負担割合などを事前に確認しておくことが重要です。また、売却のメリットや所有リスク、売却手続きを主導する旨などをあらかじめ共有しておくことで、同意を得やすくなります。
「共有名義不動産の売却は難しそうだが、共有状態は解消したい」という場合は、共有持分のみの売却や土地の分筆、共有物分割請求訴訟といった方法も検討できます。
なお、訳ありの共有名義不動産や共有持分を売却したい場合には、専門の買取業者の利用も一つの選択肢です。ただし、買取は一般的な市場価格より低い価格での売却となるケースが多いため、条件を十分に比較・検討することが大切です。