共有持分を所有し続ける5つのリスク
共有持分は、持っているだけで直ちにトラブルになるわけではありません。しかし、共有状態が長期化するほど問題が表面化しやすくなるのも事実です。
イエコン編集部が共有持分を所有している方152名を対象に「共有持分を持っていて実際に困ったこと」についてアンケートを実施したところ、以下のような結果になりました。
「共有持分を持っていて困ったこと」アンケート結果(複数回答可)
| 困りごと |
回答割合 |
| 売却や活用について共有者の同意が得られない |
62.7% |
| 固定資産税や維持管理費の負担が不公平 |
51.3% |
| 相続が重なり共有者が増えて収拾がつかない |
43.3% |
| 他の共有者が持分を第三者に売却した、またはされそう |
28.0% |
| 共有者が無断で物件に住み着いた |
16.7% |
集計期間:2026年4月~2026年5月
集計方法:インターネット
ここからは、それぞれのリスクについて法的な根拠や実務上の注意点を詳しく解説していきます。
他の共有者の同意がないと全体売却や活用ができない
共有名義の不動産では、どのような行為にどれだけの同意が必要かが民法で細かく定められています。
共有不動産で必要な同意の範囲
| 行為の種類 |
具体例 |
必要な同意 |
| 変更行為 |
売却、建替え、大規模な増改築 |
共有者全員の同意(民法251条) |
| 管理行為 |
賃貸借契約の締結・解除(※)、軽微な修繕 |
持分の過半数(民法252条) |
| 保存行為 |
雨漏りの応急修理、不法占拠者への明渡請求 |
各共有者が単独で可能 |
※賃貸借契約のうち、持分の過半数で決定できるのは「短期の賃貸借(建物は3年以内、土地は5年以内など)」に限られます。これを超える長期の賃貸借契約は「変更行為」にあたり、共有者全員の同意が必要になります。
ここで注意したいのは、「全員の同意」とは文字通り1人の例外もなく全員ということです。共有者が3人いて2人が売却に賛成していても、残り1人が反対すれば売却はできません。共有者が10人いれば10人全員の合意が必要であり、1人でも連絡が取れない・判断能力を欠いている状態であれば、それだけで手続きが止まってしまいます。
また、見落としがちなのが「不動産を担保にした借り入れ(抵当権の設定)」にも全員の同意が必要になる点です。
たとえば、共有不動産に住んでいるあなたが、老朽化を理由に大規模なリフォームをしたいからといってローンを組もうとしても、他の共有者が同意してくれなければ融資を受けることはできません。
先ほどのアンケートでも、共有持分で困ったことの第1位は「売却や活用について共有者の同意が得られない」(62.7%)でした。回答者からは「相続した実家を売りたいが、兄弟のうち1人が『思い出のある家を手放したくない』と言って応じてくれない」「共有者の1人が海外に移住しており、連絡が取れずに何年も放置している」といった声が寄せられています。
なお、2023年4月に施行された民法改正により、これまで「変更行為」として全員の同意が必要とされていた行為のうち、「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」は管理行為として持分の過半数で決定できるようになりました。たとえば砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水の大規模修繕工事などがこれに該当する可能性があります。
ただし、売却や建替えといった重要な変更行為については改正後も全員の同意が必要であり、この点は変わっていません。
参照:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し | 法務省
固定資産税や維持管理費の支払い義務が生じる(連帯納付義務)
共有不動産にかかる固定資産税は、共有者全員が「連帯して」納付する義務を負います。
ここで理解しておきたいのが「連帯納付義務」の意味です。これは「持分に応じた金額だけ支払えばよい」という意味ではなく、各共有者が税額の全額について支払い責任を負うということです。たとえば共有者が3人で固定資産税が15万円の場合、各自が5万円ずつではなく、3人それぞれが15万円の全額について納付義務を負います。
実務上、自治体から共有者の代表者1名に対して納税通知書が一括で送付されるのが一般的です。代表者が立て替えて支払い、後から他の共有者に持分割合で請求するケースが多いですが、この立て替え分の回収が困難になることも少なくありません。
さらに深刻なのは、誰も立て替えをせずに滞納してしまった場合です。連帯納付義務があるため、自治体は特定の共有者の給与や預貯金を差し押さえることができます。「自分は住んでいないから」「自分の持分は少ないから」という言い訳は通用しません。連帯納付義務とは各共有者が税額全額に対して責任を負うという意味であり、納付がなければどの共有者に対しても滞納処分が行われ得ます。
アンケートでは「固定資産税や維持管理費の負担が不公平」と回答した方が51.3%にのぼりました。「自分は住んでいないのに毎年20万円近い固定資産税を払い続けている」「他の共有者に立て替え分を請求しても『お金がない』と言われて回収できない」といった声が目立ちます。
さらに、固定資産税だけでなく建物の修繕費や庭木の剪定費用、火災保険料といった維持管理費も共有者間で分担する必要があります。これらの費用を誰がどの割合で負担するかは法律で一律に決まっているわけではなく、共有者間の話し合いで決めるのが原則です。話し合いがまとまらなければ持分割合に応じた負担を求めて訴訟を起こすことも可能ですが、裁判には時間と費用がかかるため、結局は1人が負担し続けるという状態に陥りがちです。
他の共有者が自分の持分を第三者(業者など)に売却する恐れがある
共有持分は、各共有者が単独で自由に売却・贈与などの処分をすることができます。他の共有者の同意や事前の通知は法律上必要ありません。つまり、ある日突然、見知らぬ第三者や不動産業者が「共有者の1人から持分を買い取りました」と名乗り出てくる可能性があるということです。
アンケートでは「他の共有者が持分を第三者に売却した、またはされそう」と回答した方は28.0%でした。割合としては他のリスクより低いものの、実際にこの事態が起きた場合の影響は非常に大きいと言えます。
ワンポイント解説
そもそも、不動産業者はなぜ自由に活用できない共有持分をわざわざ買い取るのでしょうか。その目的は、持分を買い取った後、他の共有者に「全体の売却」や「持分の買い取り」「共有物分割請求」を持ちかけ、最終的に市場価格で現金化して利益を得ることにあります。
こうした事態を避けるためには、共有者同士で日頃からコミュニケーションを取り、売却の意向がある共有者がいれば早めに話し合いの場を設けることが重要です。「持分を売却する場合はまず他の共有者に打診する」というルールを取り決めておくのも有効ですが、法的な拘束力を持たせるには書面での合意が望ましいでしょう。
共有者の誰かが勝手に住み着いて退去させられないトラブル
共有者の1人が他の共有者に無断で共有不動産に住み始めてしまうケースがあります。「空き家になっているなら自分が住んでもいいだろう」という感覚で始まることが多いですが、一度住み始めると退去を求めるのは法律上も非常に困難です。
なぜなら、民法249条1項では「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」と定められているからです。つまり、持分を持っている共有者には不動産を使用する権利があり、「勝手に住んでいる」とは一概に言えない法的構造になっています。
アンケートでは「共有者が無断で物件に住み着いた」と回答した方は16.7%と少数でしたが、回答者からは「一度住み着かれると手の打ちようがない」「退去してほしいと言っても『自分にも権利がある』と言い返される」など、精神的な負担を訴える声が多く寄せられました。
2023年4月施行の民法改正では、共有物を使用する共有者について持分を超える使用に対する対価償還義務(民法249条3項)が明文化されました。これにより、他の共有者は「持分割合を超えた使用分」について金銭の支払いを請求できるようになっています。
ただし、これはあくまで「金銭で補償させる」制度であり、居住している共有者を退去させる直接的な根拠にはなりません。この状態を根本的に解決する(買い取ってもらう、あるいは不動産全体を売却する)には、共有物分割請求によって共有状態そのものを解消するなど、より踏み込んだ法的手続きが必要になります。
放置すると相続が重なり権利関係がさらに複雑化する
共有状態を放置した場合のリスクとして見落とされやすいのが、相続の連鎖による共有者の増加です。
たとえば、兄弟3人で共有している不動産があるとします。そのうち1人が亡くなると、その持分は配偶者や子に相続されます。さらにその相続人の1人が亡くなれば、その持分がまた次の相続人に分散します。こうした「数次相続」が繰り返されると、数十年後には共有者が10人、20人と膨れ上がり、全員の所在を把握すること自体が困難になります。
アンケートでも「相続が重なり共有者が増えて収拾がつかない」と回答した方は43.3%にのぼり、売却・活用の制限に次いで2番目に多い結果でした。「祖父の代から放置していた不動産の共有者を調べたら、面識のない親戚が十数人いた」「相続登記がされておらず、誰が現在の共有者なのかすら分からない」といった深刻な事例もあります。
こうした問題を受けて、2024年4月からは相続登記が義務化されました(不動産登記法76条の2)。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければ、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される可能性があります。
ただし、相続登記の義務化はあくまで「登記の放置を防ぐ」制度であり、共有状態そのものを解消するものではありません。登記をしても共有者が多数いるという問題は残るため、権利関係が複雑化する前に共有状態の解消に向けた話し合いを進めておくことが大切です。
なお、2023年4月施行の民法改正では「所在等不明共有者の持分取得制度」(民法262条の2)も新設されています。連絡の取れない共有者がいる場合に、裁判所の手続きを通じてその持分を取得できる制度ですが、申立てから取得までに一定の期間と費用がかかるため、万能な解決策とは言い切れません。共有者が増える前に手を打つことが、結果的にコストも時間も最小限に抑えられます。
参照:不動産を相続したらかならず相続登記! | 法務省
共有持分を所有したことで実際に起こったトラブル
ここまで5つのリスクを解説しましたが、「自分にはまだ関係ない」と感じた方もいるかもしれません。しかし、共有持分のトラブルは本人が予想していないタイミングで突然発生するのが特徴です。
ここでは、イエコン編集部が共有持分の所有経験者に実施したインタビューの中から、特に多かったトラブル事例を5つ紹介します。
※本記事に掲載しているインタビュー内容は、個人のプライバシー保護および特定を避けるため、本来の趣旨を損なわない範囲で一部情報を変更して記載しております。
【事例1】兄が反対して相続した実家が5年以上空き家のまま
Aさん(50代・女性)の父が2019年に他界し、兄と2人で実家の土地・建物を2分の1ずつ共有することになった。Aさんは売却を希望しているが、兄は「父との思い出がある家だから」と一貫して反対しており、5年以上にわたって空き家のまま放置されている。
Aさんはこれまで何度も売却の話し合いを試みましたが、兄は「自分が住むかもしれない」と言うだけで具体的な計画はなく、議論は毎回平行線のまま終わっています。
空き家の状態でも固定資産税は毎年約18万円かかり、Aさんが全額を負担しています。それに加えて、庭木の剪定や雨漏りの応急修理といった維持管理費も発生し、5年間の累計出費は100万円を超えました。兄に費用の分担を求めても「お金がない」と応じてもらえないとのことです。
「兄との関係を壊してまで裁判を起こす気にはなれず、かといってこのまま毎年お金だけ出ていく状態をいつまで続けるのか……。どうすればいいのか分からず、ずっとモヤモヤしています」(Aさん)
この事例で発生したリスク:
共有者の1人が反対するだけで不動産全体の売却はできません(民法251条)。放置している間も固定資産税や維持管理費は発生し続け、負担が一方に偏ったまま固定化してしまいます。このケースでは、早い段階で共有物分割請求や持分売却といった選択肢を専門家に相談しておけば、出費を抑えられた可能性があります。
【事例2】離婚後も共有名義のまま放置し、元夫がローンを滞納
Bさん(40代・女性)は、婚姻中に夫婦でペアローンを組んでマンションを購入し、離婚後もそのまま住み続けていた。名義変更やローンの借り換えをしないまま数年が経った頃、金融機関から「ローンの返済が3ヶ月間滞納されている」と連絡が入る。
元夫が負担していた分のローン返済が止まっていたのです。ペアローンの場合、それぞれが独立した債務者ですが、連帯保証の形態によっては一方の滞納がもう一方に波及します。Bさんのケースでは連帯保証が設定されており、最悪の場合は競売にかけられるリスクがありました。
Bさんはすぐに弁護士に相談し、元夫との交渉を経てマンションを売却して残債を清算しました。しかし、売却額がローン残高を下回ったため、差額の約200万円を自己負担することになりました。
「離婚のときは精神的に余裕がなくて、名義やローンのことまで頭が回らなかった。『住み続けられるならこのままでいい』と思っていたのが間違いでした」(Bさん)
この事例で発生したリスク:
離婚後に共有名義を放置すると、元配偶者のローン滞納によって自宅が競売にかけられるリスクがあります。離婚時に名義変更・売却・ローンの借り換えのいずれかを済ませておくことで、こうしたリスクは回避できます。
【事例3】共有者が持分を業者に売却し、突然「共有物分割請求」が届いた
Cさん(60代・男性)は、亡くなった父から相続した土地を弟と2人で共有していた。弟とは以前から折り合いが悪く、ほとんど連絡を取っていなかったところ、ある日突然、見知らぬ不動産業者から「弟様の持分を当社が取得しました」という内容証明が届いた。
Cさんが弟に確認したところ、「お金が必要だったから売った。お前に相談する義務はない」と言われました。共有持分は各共有者が自由に処分できるため、法律上は弟に落ち度はありません。
その後まもなく、業者から「共有物分割請求訴訟を提起する」という通知が届きました。Cさんは慌てて弁護士に相談しましたが、分割請求は拒否できない権利(民法256条)であるため、応じざるを得ません。
最終的にCさんは業者側に代償金を支払って持分を買い取る形で和解しましたが、弁護士費用や不動産鑑定費用を含めた総コストは約200万円にのぼりました。
「弟が持分を売ること自体、止められなかった。でも事前に一言でも相談してくれていれば、自分が弟の持分を買い取るなり、一緒に売却するなり、もっとお互い損のない方法があったはずです」(Cさん)
この事例で発生したリスク:
共有持分は他の共有者の同意なく第三者に売却でき、事前通知の義務もありません。持分を取得した第三者から共有物分割請求を起こされると、裁判費用や代償金の負担を避けられなくなります。共有者間で日頃からコミュニケーションを取り、「売却する場合はまず他の共有者に打診する」という取り決めを書面で交わしておくことが予防策になります。
【事例4】共有者が認知症になり、売却手続きが一切進まない
Dさん(50代・男性)は、母と2人で共有している実家の売却を考えていたが、売却の話を進めようとした矢先に母が認知症と診断された。認知症により判断能力が不十分とみなされると、本人の意思で売買契約を結ぶことができなくなる。
Dさんは家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てましたが、申立てから選任までに約4ヶ月かかりました。さらに、共有不動産が母の居住用財産に該当したため、売却には家庭裁判所の許可(民法859条の3)も必要となり、手続き全体で1年以上を要しています。
成年後見人には弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多く、その場合は後見人に対して毎月2〜6万円程度の報酬が発生します。この報酬は母が亡くなるか後見が終了するまで継続的にかかるため、売却が完了するまでの間だけでも数十万円の負担です。
「認知症になる前に名義を整理しておけばよかったと心から後悔しています。家族信託という方法があることを知ったのも、すべてが遅くなった後でした」(Dさん)
この事例で発生したリスク:
共有者が認知症になると、成年後見制度を利用しなければ売却手続きが進みません。後見人の選任には時間と費用がかかり、居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可も必要です。共有者が高齢の場合は、判断能力があるうちに家族信託や遺言書で事前に備えておくことが重要です。
【事例5】相続を3代放置し、共有者が15人に膨れ上がった
Eさん(40代・男性)は、祖父名義のまま放置されていた土地を活用しようと、相続関係を調べ始めた。戸籍を取り寄せて調査した結果、祖父の代からの相続が一度も登記されておらず、法定相続人が15人にまで増えていることが判明した。
15人のうち面識があるのは5人だけで、残りの10人は住所すら分からない状態でした。Eさんは司法書士に依頼して全員の所在を調査しましたが、戸籍の収集と住所の特定だけで約半年を要し、費用は30万円以上かかりました。
所在が判明した相続人に遺産分割協議書を送付しましたが、面識のない親戚からは「なぜ今さら」「自分にも権利があるなら相応の金額をもらいたい」と返答があり、全員の合意にはさらに1年以上かかる見通しです。
「祖父が亡くなった時点で相続登記をしていれば、共有者は父の兄弟3人だけで済んだはず。3代にわたって放置した結果、時間もお金も精神的な負担も、想像をはるかに超える規模になってしまいました」(Eさん)
この事例で発生したリスク:
相続登記を放置すると、数次相続で共有者が雪だるま式に増えます。共有者が増えるほど全員の合意を取ることは困難になり、費用も膨らみます。2024年4月から相続登記は義務化されており、3年以内に登記しなければ10万円以下の過料の対象です。相続が発生したら速やかに登記を済ませましょう。
参照:不動産を相続したらかならず相続登記! | 法務省
共有持分のリスク度チェックリスト
ここまで共有持分のリスクと実際のトラブル事例を見てきましたが、「自分の場合はどの程度危険なのか」を客観的に把握しておくことが大切です。
以下のチェックリストは、共有状態の深刻度を簡易的に判定するためのものです。該当する項目の★を合計してください。★の数が多いほど、トラブルが発生する可能性が高い状態です。
共有持分のリスク度チェックリスト
| チェック項目 |
リスク度 |
| 共有者が3人以上いる |
★ |
| 共有状態になってから10年以上経過している |
★★ |
| 相続登記が完了していない |
★★ |
| 相続が2回以上重なっている(数次相続) |
★★ |
| 固定資産税や維持管理費を1人で負担している |
★ |
| 共有者との関係が悪化している、または対立している |
★★ |
| 不動産が空き家のまま放置されている |
★★ |
| 共有者の中に連絡が取れない人がいる |
★★★ |
| 共有者の中に認知症など判断能力に不安がある人がいる |
★★★ |
| 共有者が持分の売却を検討している(またはすでに第三者に売却された) |
★★★ |
★の重みについて補足すると、★★★の3項目(連絡不通・認知症・第三者への売却)は、一度発生すると自力での解決が極めて難しくなる項目です。いずれか1つでも該当する場合は、他の項目に関係なく早めの対応を検討してください。
判定結果
| ★の合計 |
判定 |
| 0〜4 |
低リスク |
| 5〜9 |
中リスク |
| 10以上 |
高リスク |
低リスク(★0〜4)
今すぐ深刻なトラブルに発展する可能性は低い状態です。ただし、共有状態は時間が経つほどリスクが高まる性質を持っています。今のうちに共有者同士で「将来この不動産をどうするか」を話し合い、売却・分割・持分の買い取りなどの方向性を共有しておきましょう。相続登記が済んでいない場合は、義務化(2024年4月〜)に対応するためにも早めの手続きをおすすめします。
中リスク(★5〜9)
放置を続けるとトラブルが拡大する可能性がある状態です。特に「共有者との関係悪化」「空き家の放置」「数次相続」が該当している場合は、時間が経つほど選択肢が減っていきます。弁護士や司法書士に一度相談し、自分が取れる選択肢を把握しておくことが重要です。相談だけであれば初回無料の事務所も多いため、まずは現状を整理するところから始めてみてください。
高リスク(★10以上)
すでにトラブルが発生している、または近い将来に深刻化する可能性が高い状態です。共有者の認知症や行方不明は自然に解決することがなく、放置するほど法的手続きの難易度とコストが上がります。また、共有者が持分を第三者に売却した(またはされそうな)場合は、共有物分割請求によって競売に至るリスクもあります。できるだけ早く弁護士・司法書士などの専門家に相談し、具体的な解消方法の検討に入ることを強くおすすめします。
共有状態を解消して共有持分のリスクを回避する方法
共有持分のリスクを根本的になくすには、共有状態そのものを解消する必要があります。解消方法は7つありますが、それぞれ費用・期間・条件が異なるため、自分の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
まずは全体像を把握しましょう。
共有状態の解消方法と特徴
| 解消方法 |
特徴 |
| 持分のみ売却(第三者) |
他の共有者の同意不要。数週間〜数ヶ月で完了。ただし売却価格は全体売却より低くなる |
| 共有者に買い取ってもらう |
相手の合意が必要。市場価格×持分割合が目安。みなし贈与に注意 |
| 他の共有者の持分を買い取る |
相手の合意+購入資金が必要。単独名義にできる |
| 全体を売却 |
全員の同意が必要。市場価格で売却でき、手取りが最も大きくなりやすい |
| 贈与 |
受贈者の合意が必要。受贈者に贈与税が課される |
| 放棄 |
持分放棄自体は単独で可能。ただし登記に相手の協力が必要 |
| 共有物分割請求 |
相手の同意不要。裁判所が分割方法を決定。費用と時間がかかる |
以下では、各方法の詳細と費用を解説します。
自分の共有持分のみを第三者に売却する
自分の持分だけであれば、他の共有者の同意なしに売却できます。共有者間の関係が悪化していて話し合いが難しい場合や、早く共有状態から離脱したい場合に選ばれることが多い方法です。
ただし、先述の「他の共有者が自分の持分を第三者に売却する恐れがある」で触れたように、あなたが持分を第三者に売却すれば、残された共有者にとっては見知らぬ人物や業者が新たな共有者として加わることになります。こうした事態が共有者との関係悪化やトラブルにつながる可能性を完全にゼロにすることは、正直なところ難しいのが実情です。
そのため、共有者との関係がまだ破綻していないのであれば、売却前に「持分を手放すことを考えている」と一言伝えておくのがおすすめです。そこで共有者に買い取る意思があれば、第三者に売却するより高い価格で合意できる可能性もあります。
一方で、すでに共有者間の関係が深刻に悪化しているケースでは、事前の連絡がかえって交渉を複雑にすることもあります。この判断は共有者との関係性次第であり、一概に「必ず伝えるべき」とは言い切れません。連絡が取れる状態で、関係が完全には崩れていないのであれば、一言伝えておくのが吉です。
売却先としては、共有持分専門の不動産買取業者に直接売却するか、仲介会社を通じて買い手を探す方法があります。ただし、共有持分は単独では不動産全体を自由に使えないため、仲介で一般の個人に売却するのは現実的に難しいケースがほとんどです。買取業者への直接売却であれば、数週間〜1ヶ月程度で現金化できることが多い一方、売却価格は全体売却と比べると低くなります。
売却価格は、物件の立地・状態・共有者の人数・共有関係の複雑さなどによって大きく異なります。「市場価格の○割が相場」と一律に言い切ることはできないため、複数の業者に査定を依頼して比較検討するのが現実的です。
主な費用:
- 仲介手数料(仲介の場合):売買価格×3%+6万円+税(400万円超の場合)。なお、800万円以下の物件は上限33万円(税込)に引き上げられました(2024年7月施行済み)
- 買取業者への直接売却:仲介手数料は不要
- 譲渡所得税:所有期間5年超→約20.315%、5年以下→約39.63%(所得税+住民税+復興特別所得税)
- 印紙税:売買契約書に貼付(売買価格に応じて数百円〜数万円)
共有持分を他の共有者に買い取ってもらう
自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう方法です。共有者は持分を取得することで不動産全体の支配力が高まるため、第三者に売却するよりも高い価格で合意しやすい傾向があります。
価格の目安は「不動産全体の市場価格×自分の持分割合」が出発点になりますが、最終的には共有者間の交渉で決まるため一律の相場はありません。
ここで注意が必要なのがみなし贈与です。時価と比べて著しく低い価格で売買した場合、税務上は差額分が贈与とみなされ、買主側に贈与税が課される可能性があります。「著しく低い」の明確な基準は法令では定められておらず、個々のケースで税務署が判断します。親族間での売買は特にチェックが入りやすいため、価格の妥当性について事前に税理士に確認しておくことをおすすめします。
主な費用:
- 売主側:譲渡所得税(売却益に対して約20.315% or 約39.63%)
- 買主側:購入代金、登録免許税(土地は軽減税率適用時1.5%/建物は2%)、不動産取得税(土地・住宅は軽減税率適用時3%)
他の共有者の持分を買い取り、単独名義にする
自分が他の共有者の持分を買い取り、不動産を単独名義にする方法です。不動産を引き続き使いたい場合や、単独名義にしたうえで市場価格での売却を目指したい場合に有効です。
最大のハードルは資金面です。他の共有者全員の持分を買い取るだけの資金を用意する必要がありますが、共有持分の買い取りに住宅ローンを使えるケースは限られています。金融機関は親族間売買に対して融資に消極的であり、その理由は「住宅ローンの低金利を利用した実質的な資金融通」と見なされるリスクがあるためです。自己資金での購入が基本になると考えておきましょう。
また、相手にも売却の意思がなければ成立しないため、まずは共有者の意向を確認するところから始める必要があります。
主な費用:
- 購入代金(不動産全体の市場価格×相手の持分割合が目安)
- 登録免許税(土地は軽減税率適用時1.5%/建物は2%)
- 不動産取得税(土地・住宅は軽減税率適用時3%)
共有者全員で協力して、不動産全体を売却する
共有者全員の合意があれば、不動産全体を通常の市場価格で売却できます。手取り額が最も大きくなりやすい方法であり、共有者間の関係が良好で全員が売却に前向きであれば、最初に検討すべき選択肢です。
ただし、共有者が1人でも反対すれば成立しません。また、売買契約書には共有者全員の署名・捺印が必要であり、全員分の本人確認書類・印鑑証明書・実印を揃える必要があります。共有者が遠方に住んでいたり、高齢で手続きが難しかったりすると、書類の準備だけでも時間がかかります。
売却代金は持分割合に応じて各共有者に分配するのが原則です。ただし、固定資産税を1人で負担してきたケースなど立替費用がある場合は、売却代金から精算するのが実務上は一般的です。こうした精算方法は売却前に書面で合意しておくと、後のトラブルを防げます。
主な費用:
- 仲介手数料(売買価格×3%+6万円+税。800万円以下の物件は上限33万円)
- 譲渡所得税(各共有者の売却益に対して約20.315% or 約39.63%)
- その他:印紙税、測量費用、建物の解体費用(必要に応じて)
共有持分を贈与する
対価を受け取らずに自分の持分を他の共有者や第三者に譲り渡す方法です。「お金はいらないから共有関係を解消したい」という場合や、親族間の相続対策として持分を移転したい場合に利用されます。
贈与者側に譲渡所得税はかかりませんが、受贈者(もらう側)に贈与税が課されます。贈与税は所得税や相続税と比べて税率が高く、不動産の評価額によっては数十万〜数百万円の負担になることもあります。
贈与税の負担を抑える主な方法は以下の2つです。
- 暦年贈与:年間110万円の基礎控除を活用し、複数年にわたって少しずつ持分を移転する方法
- 相続時精算課税制度:累計2,500万円の特別控除に加え、年間110万円の基礎控除(2024年1月から導入済み)を利用する方法。ただし一度選択すると暦年贈与には戻れない
どちらの制度が有利かは贈与額や将来の相続の見通しによって異なるため、税理士に相談したうえで判断するのが安全です。
主な費用(受贈者側):
- 贈与税(評価額から基礎控除110万円を差し引いた額に税率10〜55%)
- 登録免許税(評価額の2%。贈与には軽減税率の適用なし)
- 不動産取得税(土地・住宅は軽減税率適用時3%)
共有持分を放棄する
自分の持分を放棄し、共有関係から離脱する方法です。放棄した持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。対価は得られませんが、固定資産税や維持管理費の負担から解放されたい場合に選択肢となります。
持分の放棄そのものは、共有者に対する一方的な意思表示で法的に効力が生じます。他の共有者の同意は不要です。
しかし、ここには実務上の大きなハードルがあります。放棄の事実を登記に反映するためには、他の共有者の協力が必要なのです。持分放棄による持分移転登記は「共同申請」が原則であり、相手が登記手続きに応じてくれなければ、法的には放棄が成立していても登記簿には反映されません。
相手が協力しない理由として多いのは、持分を受け取った側にみなし贈与として贈与税が課される可能性があることです。「なぜ自分が税金を払わなければならないのか」と反発されるケースも少なくありません。相手が登記に応じない場合は、最終的に登記引取請求訴訟を起こす必要があり、結局は時間と弁護士費用がかかります。
主な費用:
- 放棄者側:原則なし。ただし登記引取請求訴訟が必要な場合は弁護士費用が発生
- 受け取り側:登録免許税(評価額の2%)、不動産取得税(3%)、贈与税の可能性
共有物分割請求をする
共有者間の話し合いがまとまらない場合に、裁判所に共有状態の解消を求める手続きです(民法256条)。各共有者はいつでも分割請求をする権利があり、他の共有者はこの請求を拒否できません。
手続きの流れは以下の通りです。
- まず共有者間で分割協議を試みる(内容証明郵便で申し入れ、証拠を残す)
- 協議がまとまらなければ裁判所に訴訟を提起する(調停前置主義は不適用。直接訴訟が可能)
- 裁判所が審理・口頭弁論を行い、分割方法を決定(または和解で決着)
裁判所が命じる分割方法は3種類あります。
- 現物分割:土地を物理的に分ける方法。分筆後に各区画が独立して利用できることが条件
- 代償分割:共有者の1人が不動産全体を取得し、他の共有者に代償金を支払う方法。2023年4月施行の民法改正で明文化
- 換価分割(競売):不動産を売却して代金を分配する方法。現物分割も代償分割もできない場合の最終手段
競売の落札価格は市場価格の6〜7割程度になるのが一般的であり、共有者全員の手取りが大きく目減りします。裁判所も競売を回避するために和解を勧告するケースが多く、実務上は和解で決着する割合が高い傾向にあります。
共有物分割請求は費用が大きくなりやすい
弁護士費用だけでなく、不動産の評価額に争いがある場合は鑑定費用(50〜100万円以上)も発生します。また、期間は半年〜2年以上かかるのが一般的です。訴訟以外の選択肢も含めて、まずは弁護士に相談したうえで方針を決めることをおすすめします。
主な費用:
- 弁護士費用:着手金22〜33万円程度(税込)+成功報酬は経済的利益の5.5〜11%程度(税込)
- 裁判費用:印紙代3〜5万円+郵便切手代6,000円〜16,000円程度
- 不動産鑑定費用(必要な場合):30〜100万円以上
参照:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し | 法務省
共有名義になるリスクを事前に回避する方法
ここまでは「すでに共有状態になっている場合」の解消方法を見てきましたが、そもそも共有名義にならなければリスクは発生しません。不動産の取得や相続の場面で共有名義を避けるための予防策を4つ紹介します。
不動産の購入時は単独名義を原則とする
不動産を購入する際は、可能な限り単独名義にするのが最もシンプルな予防策です。
夫婦や親子でペアローンを組んで共同購入すると、出資割合に応じた共有名義になります。購入時は問題なくても、離婚や相続がきっかけでトラブルに発展するケースが多いのは、ここまで見てきた通りです。
どうしても共同で購入する場合は、出資割合と持分割合を必ず一致させてください。一致させないと、差額が贈与とみなされ贈与税の対象になります。
- 夫が3,000万円、妻が1,000万円を出資した場合 → 持分は夫3/4、妻1/4が正しい
- これを2分の1ずつにすると、500万円分が夫から妻への贈与とみなされる可能性がある
ペアローンで共有名義にする場合は離婚時のルールを取り決めておく
ペアローンで共有名義にする場合は、離婚した場合の取り扱いについて購入時に書面で取り決めておくことを強くおすすめします。
「離婚するかもしれない前提で取り決めをするのは気が引ける」と感じるかもしれませんが、事例2のように離婚後にローン滞納が発覚するケースは実際に起きています。万が一の備えとして合意書を作成しておくことは、双方の財産を守るための合理的な対策です。
取り決めておくべき主なポイントは以下の3つです。
- 不動産を売却してローンを完済し、残った金額を分配するのか
- どちらか一方が住み続け、ローンの借り換えにより単独名義に変更するのか
- どちらか一方が相手の持分を買い取り、単独名義にするのか
これらを離婚時にゼロから話し合うのは、感情的にも実務的にも非常に困難です。冷静に判断できるうちに方針を決めておくことが、最大の予防策になります。
共有名義での相続を避ける
相続は共有名義になる最も多いきっかけの1つです。被相続人(亡くなった方)が不動産を所有していた場合、遺産分割協議がまとまるまでの間は法定相続人全員の共有状態になります。
共有名義を避けるには、遺産分割協議の中で「不動産は相続人の1人が単独で取得する」という合意を目指すのが基本です。不動産の評価額と他の相続財産のバランスが取れない場合は、不動産を取得する相続人が他の相続人に代償金を支払う「代償分割」を活用しましょう。
「相続人が複数いるなら平等に共有すべき」と考える方もいますが、共有名義にした時点で将来のリスクの種を蒔くことになります。目先の公平さよりも、長期的に見て各相続人が自由に判断できる形(単独名義+代償金)の方が、トラブルを防ぎやすい選択です。
どうしても共有名義になりそうだったら相続放棄
遺産分割協議で合意が得られず、どうしても共有名義を避けられない場合は、相続放棄という選択肢もあります。
相続放棄をすると、最初から相続人でなかったものとみなされるため、共有者にはなりません。ただし、相続放棄はすべての相続財産を放棄する手続きです。「不動産だけ放棄して預貯金は受け取る」ということはできません。
- 期限:自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内
- 手続き先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 費用:収入印紙800円+郵便切手数百円。司法書士や弁護士に依頼する場合は3〜5万円程度
3ヶ月の期限は意外と短く、相続財産の調査をしているうちに過ぎてしまうこともあります。迷っている場合は、早めに弁護士・司法書士に相談してください。なお、期限内にどうしても判断がつかない場合は、家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申し立てることも可能です。
遺言書や家族信託を活用し、不動産の相続先を整理しておく
将来の相続で共有名義になることを防ぐには、生前に不動産の相続先を決めておく方法が最も確実です。
遺言書を作成すれば、「この不動産は長男に相続させる」と指定でき、遺産分割協議なしに単独名義で相続させることができます。形式不備で無効になるリスクを避けるためには、公正証書遺言の作成がおすすめです。作成費用は公証人手数料として数万円、弁護士に依頼する場合は10〜20万円程度が目安です。
家族信託は、不動産の管理・処分権を信頼できる家族に委託する制度です。たとえば、「父が元気なうちに長男を受託者として不動産を信託し、父が亡くなった後は長男が単独で処分できるようにする」といった設計が可能です。認知症対策としても有効であり、事例4のDさんのように「認知症になってから慌てる」事態を防げます。
ただし、家族信託にはまとまった初期費用がかかります。
- コンサルティング費用:信託財産の評価額の約1%(最低50万円程度)
- 公正証書作成費用:3〜11万円
- 信託登記の登録免許税:土地は評価額の0.3%、建物は0.4%
- 総額の目安:50〜100万円程度
遺言書も家族信託も、設計段階で弁護士や司法書士のサポートが必要になります。特に家族信託は契約内容が複雑になるため、信託に詳しい専門家への相談をおすすめします。
まとめ
共有持分を所有し続けることには、以下の5つのリスクがあります。
- 他の共有者の同意がないと売却・活用ができない
- 固定資産税や維持管理費の連帯納付義務が生じる
- 他の共有者が持分を第三者に売却するリスクがある
- 共有者が住み着いても退去させることが難しい
- 放置すると相続の連鎖で権利関係がさらに複雑化する
これらのリスクは、共有状態を放置するほど深刻化します。解消方法は7つありますが、どの方法が最適かは共有者の人数・関係性・不動産の状態・資金状況によって異なります。
状況別・まずやるべきこと
| あなたの状況 |
まずやるべきこと |
| 共有者と話し合いができる |
全体売却や持分の買い取りについて協議を始める。全員が合意できれば市場価格での売却が可能 |
| 共有者と連絡が取れない |
司法書士に所在調査を依頼。判明しない場合は「所在等不明共有者の持分取得制度」を検討 |
| 共有者と対立している |
弁護士に相談し、持分売却や共有物分割請求などの選択肢を把握する |
| 費用や時間をかけたくない |
自分の持分のみの売却を検討。他の共有者の同意不要で最も早く共有状態を解消できる |
| 相続登記が未了 |
司法書士に依頼して登記を完了させる(2024年4月に義務化済み。相続から3年以内) |
| これから不動産を取得・相続する |
単独名義にする。やむを得ず共有になる場合は遺言書・家族信託で備える |
共有持分のリスクは、早い段階で対策を取るほど選択肢が多く、コストも抑えられます。本記事のチェックリストで★5以上に該当した方は、弁護士・司法書士などの専門家への相談を検討してみてください。