共有持分とは?譲渡の可否や同意が必要なケースについて
共有不動産とは、1つの不動産を複数人が共有して所有している状態の不動産です。共有持分は、共有者がそれぞれ所有している共有不動産の所有権割合を表します。
面積や施設数といった物理的な区分けではなく、あくまで所有権の割合です。
例えば1,000万円の土地を2人で500万円ずつ出して購入したときは、実際の土地の活用状況にかかわらず、1人あたりの共有持分は1/2となります。共有持分の価値も、原則として1人あたり500万円です。
しかし共有持分は単独名義の不動産と異なり、使用や処分に関する制限が民法にて定められています。
民法 |
概要 |
民法第249条 |
共有者は共有物のすべてについて、共有持分に応じた使用ができる権利がある |
民法第251条 |
共有者は、他の共有者の同意がないと共有物に変更を加えられない
変更とは、第三者への売却、取り壊し、増改築、宅地への造成、共有不動産全体への抵当権設定、その他処分など
軽微な変更は除く |
民法第252条 |
共有物の管理に関する事項は、他の共有者の持分の価格の過半数で決定する
管理とは、共有物の改装、共有宅地の整地、第三者への共有不動産の賃貸など
保存行為(修繕、不法占有への明渡請求、無権利者の抹消登記請求など)は、単独に実施できる |
参考:e-Gov法令検索「民法」
上記の法令をまとめると、不動産における変更行為(不動産の売却や増築など大きな変更)、管理行為(賃貸契約といった不動産の性質を変えない利用・改良)、保存行為(修繕といった現状維持を目的とした行為)によって、譲渡の必要同意数や行えることが変わります。
行為の種類 |
同意 |
具体的な内容 |
変更行為 |
共有者全員の同意 |
売買
登記申請
大きな改築 |
管理行為 |
共有者の過半数の同意 |
賃貸借契約 |
保存行為 |
同意なしで可能 |
修繕・手入れ |
では、共有持分を何かしらの方法で譲渡(売却や贈与など)するときは、どのような扱いになるのでしょうか。以下で共有持分の譲渡について詳細を見ていきましょう。
自分の共有持分は自由に譲渡が可能
自分の共有持分の範囲内でなら、共有持分は第三者へ自由に譲渡が可能です。他の共有者への通知や、他の共有者の同意は必要ありません。
民法第206条では、所有権を持つ人は法律の制限内において、所有物を自由に使用、収益、処分する権利を有すると定められています。
共有持分とは所有権のことですから、共有持分の範囲における所有権に関して、自由に譲渡が可能です。
とはいえ、共有持分の譲渡を行うときは、単独名義の不動産のときとは異なるトラブルの発生に注意が必要です。
例えば共有持分を第三者に譲渡する場合、他の共有者にとって「知らない人が自分の不動産の一部を持っている」という状態になります。
また、財産分与や相続時に共有不動産が対象になるときは、共有持分の権利を巡って複雑化するリスクも考えられるでしょう。
共有持分の譲渡を検討する際は、譲渡の方法や共有者への説明などを、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
不動産全体にかかわる譲渡は他共有者の同意が必要
共有不動産に対するそれぞれの持分はそれぞれの共有者に帰属していますから、他の共有者の持分を勝手に処分できないのは当然のことです。
また、共有不動産の全体の譲渡は、大きな変更を加えることと同義です。そのため、共有持分を譲渡するには民法第251条に従う形で共有者全員の同意が必要です。
例えば譲渡以外の不動産全体にかかわる変更については、共有者全員の同意が必要だという判例が出ています。
最高裁判所昭和42年2月23日の判決では、「共有不動産自体の抵当権を設定するには共有者全員に同意が必要」とされています。
また最高裁判所平成10年3月24日の判決では、「宅地造成行為という物理的に共有物に変更を加える行為は、他の共有者の共有持分権を侵害するので同意がない限り許されない」とされました。
このように、共有不動産全体を第三者に譲渡する場合には、共有者全員の同意を得なければなりません。
また、民法第252条において、短期の貸し出しや建物のリフォームなどの管理行為は、共有持分における過半数の同意が必要とされています。
参照:e-Govポータル「民法第251条、第252条」
共有持分を共有者に譲渡する4つの方法
共有持分は各共有者が自由に処分できます。有償か無償か、譲渡する相手が共有者か第三者かによって、その方法は変わります。
相手が共有者と想定した際、自分の共有持分を譲渡する方法は以下4つです。
- 売買による譲渡
- 贈与による譲渡
- 共有持分の放棄による譲渡
- 共有物の分割による譲渡
それぞれの詳細を見ていきましょう。
1.売買による譲渡
共有持分の所有者は、持分割合について自分の意思で自由に売却できます。通常の不動産取引と同じく、金銭などを売却の対価として得ることが可能です。
売却で得た対価には、所得税と住民税がかかります。
ただし共有持分の買取価格は、市場価格の50~80%程度に下がるケースがほとんどです。共有持分特有のリスクがあり、買手からの需要が低いからです。
物件の所在地、交通アクセス、共有者の干渉度合いなどによっては、さらに価格が下がる可能性があります。
共有持分の売却価格が安くなる具体的な理由は次の通りです。
- 購入しても自由に不動産を活用するのが難しい
- 活用や売却に関して他の共有者の同意を得るのに手間がかかる
- 権利関係で他の共有者とトラブルになる可能性がある
上記の理由から、一般の市場で第三者に共有持分を売ることは非常に珍しいケースだと言えます。共有持分を第三者へ売り出されたときのトラブルや対処法は、以下の記事にて詳しく解説しています。
第三者に共有持分を譲渡するなら買取業者への売却がおすすめ
共有持分を譲り受けた者は、先の項目で解説したとおり不動産の「変更・処分・管理」において制限を受けます。共有物分割禁止の特約が登記されていた場合、その取り決めも引き継がなければなりません。
これらの理由から、共有持分の購入を希望する第三者は少ないため、なかなか売れずに売却相場も低くなりやすいです。
手放す手間や所有権という強い権利の割に、得られる利益が少なくなる可能性があります。
そこで、第三者へ共有持分を譲渡するなら、共有持分を専門とする買取業者への売却がおすすめです。共有持分を専門とする買取業者へ売却するメリットは次の通りです。
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- 業者の査定に納得できればすぐに売却できる
- 周辺の人に知られずに売却できる
- 売却の仲介手数料がかからない
ただし、買取業者へ売約するときも事前に他の共有者に話しておかなければ、予期せぬトラブルに発展する可能性があります。そういったトラブルを防ぐには、弁護士や税理士と連携している買取業者への相談がおすすめです。
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2.贈与による譲渡
贈与であれば、金銭などの対価が発生しない無償譲渡で相手に共有持分を渡すことが可能です。
ただし無償で共有持分を贈与したとしても、受贈者側は共有持分に応じた利益を得たと解されるので、受贈者側に贈与税が課せられる可能性があります。
また、売買によって共有持分を譲渡しても、譲渡の対価が相場よりも著しく低いときは、実質的な贈与として贈与税の対象になります。
「無償譲渡だと自分が損するのでは?」と思われるかもしれませんが、共有持分の管理や共有者とのトラブルリスクを簡単に手放せると考えると、無償譲渡にもメリットがあると言えるでしょう。売買契約や分割などよりも、話し合いや手続きが簡単な点は無償譲渡ならではの特徴です。
また贈与によって共有持分を譲渡するメリットの1つに、生前贈与といった「相続税対策」が挙げられます。
1年ごとに110万円の基礎控除がある贈与税の制度を利用し、財産を分散贈与して非課税にする「暦年贈与」という方法です。例えば1,100万円の不動産について、毎年110万円分の共有持分を、10年に分けて贈与するなどが考えられます。
ただし、贈与をすればそのたびに登記を行う必要があり、その都度登記費用の負担が生じます。相続税対策として採用されるためには、登記費用よりも相続税の減少額のほうが大きくなくてはいけません。
暦年贈与は「贈与契約を毎年結ぶ場合」に認められるものであり、最初からまとまった金額を分散して贈与する契約になっていると、贈与税が発生するので注意が必要です。
贈与をする方と受ける方で「1,100万円を贈与するために毎年110万円ずつ、10年にわけて贈与する」という契約書があると、その契約を結んだ年に贈与全額の1,100万円が課税対象になります。これでは、贈与税の基礎控除も1回しか使えませんし、後述する贈与税の累進税率も高くなってしまいます。。
贈与税については他にも節税に使える制度がありますが、個々の状況に応じて使えるものが変わります。詳細は税理士に相談するとよいでしょう。
なお、無償譲渡であっても、売買と同じく契約行為に該当します。相手との合意なく、一方的に共有持分を渡すことはできません。最初は他の共有者や親族等へ譲渡を打診してみて、無理であれば第三者への譲渡を検討してみてください。
3.共有持分の放棄による譲渡
共有持分を放棄することで、他の共有者へ共有持分を譲渡できます。
共有持分を放棄したときは、その共有持分は他の共有者全員へ帰属すると民法第255条にて定められています。
贈与との違いは、次の通りです。
|
放棄 |
贈与 |
他の共有者の同意 |
他の共有者への意思表示のみ |
贈与者と受贈者の契約合意が必要 |
共有持分移転登記の申請 |
贈与者と受贈者の共同申請 |
他の共有者との共同申請 |
共有持分の譲渡先 |
他の共有者の共有持分割合に応じて分配 |
指定した贈与先 |
発生する可能性がある税金 |
贈与税 |
贈与税 |
売却時の取得費の計算 |
取得時期と取得費は引き継がれない |
取得時期と取得費は引き継がれる |
共有持分の放棄の決定には他の共有者の同意が必要ない一方で、移転登記の際は他の共有者の協力が必要です。
また放棄された共有持分の受け取りを共有者は拒否できないので、事前に話し合いがなければ「突然押し付けられたうえに、税金まで支払うはめになった」と、トラブルが発生する可能性があります。
4.共有物の分割による譲渡
共有持分の分割とは、共有状態の解消のために共有物を単独者の所有物にするための方法です。
「共有していた土地を分ける」「現金化してから、現金として分配する」といった方法で、実質的に共有持分を手放すという形になります。
共有物の分割は、まず共有者同士での協議にて方法や内容を決定するのが一般的です。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
e-Gov法令検索 民法
もしも協議で決まらないとき、または協議ができないときは、「共有物分割請求」という形で裁判所に訴訟を提起できます。共有物の分割請求する権利は、共有者全員が持っています。
(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
e-Gov法令検索 民法
ただし民法第256条にある通り、共有者間の合意があれば、分割請求を5年間しない旨を契約できます(共有物分割禁止特約)。
5年を超えて分割禁止の契約を継続したいときは、都度共有者全員の同意の下で契約を更新します。
また共有物分割禁止特約を定めるときは、その旨を登記をしなければ第三者に対抗できません(不動産登記法第59条第6項)。分割を禁止するときは、登記を忘れないようにしましょう。
以下では、共有物の分割方法として「現物分割」「換価分割」「代償分割」の3つを解説します。
現物分割
現物分割とは、共有不動産となっている土地を、分筆するなどしてそれぞれを単独で所有させる分割方法です。共有不動産が土地のときに有効な方法で、建物だと原則として採用できません。
現物分割の例
1,500㎡の土地を3人、共有持分割合A50%・B25%・C25%で共有しているときに、現物分割によって750㎡、375㎡、375㎡で分け、それぞれを単独名義にする。
現物分割ならそれぞれが単独名義で土地を所有することになるので、譲渡や活用などがやりやすくなるメリットがあります。
ただし、土地は面積で単純に分割するのは難しいのが現状です。土地の形状、建設基準法の関係、分割箇所ごとの土地の価値の変化などを考慮し、トラブルがないように分割する必要があります。
また、土地を分筆すると地形・接する道路・路線価などが変わり、面積当たりの土地の価値が下がるリスクがあることにも注意が必要です。
換価分割
換価分割とは、共有不動産をすべて売却して金銭に換価し、得られた金銭を共有持分に応じて分配する分割方法です。金銭を得た共有者には、譲渡所得に対して所得税と住民税が課せられます。
換価分割の例
共有不動産である建物を3人、共有持分割合A50%・B25%・C25%で共有しているときに、換価分割によって3,000万円で共有不動産が売れたら、A1,500万円、B750万円、C750万円ずつ支払う。
換価分割のメリットは、共有不動産を比較的簡単に売却できる点です。不動産全体を売却するため、相場通りの価格で第三者に売却しやすくなります。
また非常にシンプルな分割方法であるため、分配時のトラブル発生のリスクを抑えやすいです。
換価分割は、「共有人全員の合意を基に売却する方法」と「裁判所の手続にて競売にかける方法(形式的競売)」の2つがあります。
共有者全員の合意の下での売却は、任意の金額で売却しやすい反面、話し合いがまとまらないと実行できないのがデメリットです。
一方で形式的競売は、反対する共有者にも売却を止められない反面、売却価格が安くなる傾向にあるデメリットがあります。
代償分割
代償分割とは、共有者の1人が他の共有者から共有持分を買い取り、共有持分を売った共有者へ持分に応じた金銭を渡す分割方法です。
共有者全員から共有持分を買い取ったときは、共有不動産を買い取った共有者の単独所有となります。共有者が得られた利益には、所得税と住民税が課せられます。
代償分割の例
時価3,000万円の共有不動産の建物を3人、共有持分割合A50%・B25%・C25%で共有しているときBを最終所有者とする代償分割を行うと、共有持分をAから1,500万円、Cから750万円で買い取り、Bが3,000万円の建物を単独所有することになる。
換価分割とは異なり、第三者ではなく現在の共有者の1人に単独所有してもらえるのが代償分割の特徴です。共有不動産の買手がつかず、なかなか売れないといったケースも防げます。
ただし、共有持分を買い取るための資金力がなければ実施が難しいのがデメリットです。
共有持分を譲渡する際に発生する費用
共有持分を譲渡する際には、たとえ無償譲渡であっても何かしらの費用がかかります。共有持分を譲渡する際に発生する主な費用は次の通りです。
- 移転登記などで発生する登録免許税
- 仲介業者に支払う仲介手数料
- 譲渡に関する税金
- 印紙税
かかる費用 |
おおまかな金額 |
登録免許税 |
固定資産税評価額×2% |
仲介手数料 |
売買金額の3.3~5.5% |
譲渡に関する税金 |
売買:譲渡所得×20%または39%
贈与:(贈与財産の時価-110万円)×10~55% |
印紙税 |
200~60万円 |
それぞれ見ていきましょう。
移転登記などで発生する登録免許税固定資産評価基準×2%など
自分の共有持分を他の人へ譲渡する場合、所有権の移動に伴う移転登記が必要になります。共有持分の移転登記も、他の不動産の移転登記と同じく登録免許税の支払いが必要です。
共有持分を売却したときにかかる、主な登記費用は次の通りです。
共有持分売却時にかかる費用 |
金額 |
移転登記の登録免許税 |
固定資産税評価額×2%
土地は2026年8月31日まで1.5% |
抵当権抹消登記の登記免許税 |
不動産1筆につき1,000円 |
氏名住所変更登記の登録免許税 |
不動産1筆につき1,000円 |
登記関係を司法書士や弁護士などの専門家に登記を依頼するときは、さらに20万〜30万円ほど追加でかかります。
仲介業者に支払う仲介手数料は売買金額の3.3~5.5%
共有持分の売却を不動産仲介会社を通じて行ったときは、不動産仲介会社へ仲介手数料を支払う必要があります。
不動産仲介会社へ支払う仲介手数料は、宅地建物取引業法および国土交通省の規定によって上限が決まっています。
不動産の取引金額 |
上限額の計算式(税込) |
200万円以下 |
売買金額×5.5% |
200万円超400万円以下 |
売買金額×4.4% |
400万円超 |
売買金額×3.3% |
上限を超える仲介手数料を要求されたときは、違法行為である可能性があります。
参考:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」
参考:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」
譲渡に関する税金は譲渡方法によって変わる
共有持分を譲渡するときは、売買、贈与、放棄、分割いずれの方法においても、発生する経済的利益に応じた税金が発生します。
譲渡などに伴って発生する税金の種類は次の通りです。
- 所得税・住民税:売買によって得た譲渡所得に課せられる税金
- 贈与税:贈与された共有持分の時価に応じて課せられる税金
- 不動産取得税:共有持分を取得した者に課せられる税金
- 固定資産税:保有中の共有持分の価額に応じて課せられる税金
税率は、売買による所得税・住民税の合計で20%または39%、贈与税の場合は受贈者が得た利益の金額に応じた累進課税10~55%です。
なお、共有持分の売買や贈与ではなく相続による承継が発生するときは、相続税が課せられます。
ケース別の税金に関しては、記事内見出し「【ケース別】共有持分の譲渡に関係する税金の種類」にて詳しく解説しています。
印紙税は200円~60万円
不動産の売買契約書や贈与契約書を作成するときは、収入印紙による印紙税の支払いが必要です。
収入印紙は、法務局や郵便局で購入できます。コンビニでも購入できるものの、原則として200円の収入印紙しか取り扱っていないため、高額の収入印紙が必要になるときは法務局や郵便局で購入しましょう。
必要な印紙税の金額は次の通りです。(令和9年3月31日まで軽減措置が適用されます)
- 1万円未満:非課税
- 1万円超~10万円以下:200円
- 10万円超~50万円以下:200円
- 50万円超~100万円以下:500円
- 100万円超~500万円以下:1,000円
- 500万円超~1,000万円以下:5,000円
- 1,000万円超~5,000万円以下:1万円
- 5,000万円超~1億円以下:3万円
- 1億円超~5億円以下:6万円
- 5億円超~10億円以下:16万円
- 10億円超~50億円以下:32万円
- 50億円超~:48万円
- 契約金額に記載がないもの:200円
参考:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
贈与契約書を作成する場合、無償譲渡であれば支払う印紙税は200円です。
受贈者が一定の負担を負う負担付贈与の場合は、売買と同じく取引金額に応じた印紙税の支払いが必要です。
【ケース別】共有持分の譲渡に関係する税金の種類
共有持分の譲渡でとくに確認しておきたい費用は、譲渡に関係して発生する税金です。譲渡の方法や状況によって発生する税金の種類が異なるので、あらかじめ確認しておきましょう。
ここからは、共有持分の譲渡を受けた場合も含めた、以下のケース別に共有持分の譲渡に関する税金の種類を解説します。
譲渡方法 |
税金の計算方法 |
売却したとき
売った側が所得税・住民税
|
長期譲渡所得なら20%
短期譲渡所得なら39%
(いずれも所得税と住民税の合計税率)
|
共有物分割をしたとき
受け取った側が所得税・住民税、または贈与税 |
所得税・住民税:20%・39%
贈与税:(受贈財産額-基礎控除110万円)×10~55%
上記のいずれか |
共有持分を取得したとき
取得した側が不動産取得税 |
固定資産税評価額の3%(住宅・土地)
固定資産税評価額の4%(上記以外) |
共有持分を取得して保有しているとき
保有している側が固定資産税 |
固定資産税評価額×共有持分割合×標準税率1.4% |
贈与や放棄によって共有持分を受け取ったとき
受け取った側が贈与税 |
(受贈財産額-基礎控除110万円)×10~55% |
売却した人に所得税と住民税
共有持分を他の人へ売却したとき、売却によって譲渡所得を得た人に所得税と住民税が課せられます。
所得税は、給与所得などとは分離して計算する分離課税です。
まず売却した際の譲渡所得の計算式は次の通りです。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除(一定の場合)
取得費とは、売却した不動産の購入代金(減価償却した分は控除した金額)、仲介手数料、改良費・設備費など、その不動産を取得したときにかかった費用です。
もし取得費がわからないときは、売却金額の5%を取得費として計算できます(取得費が売却金額の5%を下回るときも5%で計算可能)。
譲渡費用とは、不動産を売却したときにかかった仲介手数料、印紙税、測量費用、立ち退き料、建物の解体費用などを合計した数値です。
特別控除とは、「マイホームを売ったときの特例(控除額3,000万円)」といった、売却時に適用できる特別な控除です。
これらを計算して算出した譲渡所得に、「不動産を売却した年の1月1日時点での所有期間に応じた税率」を乗じれば、所得税と住民税が算出できます。
所有期間 |
譲渡所得税率 |
住民税率 |
長期譲渡所得
(1月1日時点で5年超) |
15% |
5% |
短期譲渡所得 |
30% |
9% |
※復興特別所得税を考慮したときの所得税は、長期譲渡所得15.315%、短期譲渡所得30.63%
以下では、共有持分を売却したときの簡単な計算を行いました。
- 所有期間:売却した年の1月1日時点で7年
- 売却価格:1,000万円
- 取得費:500万円
- 譲渡費用:100万円
- 特別控除:なし
1,000万円-500万円-100万円=譲渡所得400万円
400万円×20%=80万円(所得税60万円、住民税20万円)
参考:国税庁「土地や建物を売ったとき」
参考:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
参考:国税庁「No.3308 共有のマイホームを売ったとき」
共有物分割にて利益を得た人に所得税と住民税
共有不動産を分割したとき、現物分割かつ共有持分に応じた分割であれば課税はありません(所得税基本通達33-1の7より)。
共有持分に応じない現物分割の場合は、金額差に応じた所得税・住民税や贈与税が生じる可能性があります。
換価分割や代償分割の場合だと、売却したときと同じく「売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除(一定の場合)」の計算で譲渡所得が生じるときは、譲渡所得に応じた課税が行われます。
参考:国税庁「法第33条《譲渡所得》関係」
共有持分を取得した人に不動産取得税
共有持分を新たに取得した人は、取得した共有持分の価格(原則として固定資産税評価額を基に算出)に応じた不動産取得税の支払いが必要です。
不動産取得税=(固定資産税評価額×共有持分割合)×税率
不動産取得税の税率は、2024年現在だと住宅・土地は3%、それ以外は4%となっています。
原則として、共有不動産の不動産取得税は民法第253条に基づき、共有持分割合に応じて共有者全員で負担します。ただし、不動産取得税の納付書が送られるのは、共有不動産における代表者のみです。
そのため、「代表者が不動産取得税を一旦全額納めた後、支払った分を共有者へ請求する」または「あらかじめ共有者から各自負担分を集めて納付する」という流れになります。
参考:総務省「不動産取得税」
共有持分を取得して持ち続ける人に固定資産税
共有持分を取得した人は、取得してから1月1日を迎えたときに所有する共有持分に応じた固定資産税(対象地域の人は都市計画税もあり)の支払いが必要です。
固定資産税の納付書が送られるのは、不動産取得税と同じく共有不動産における代表者のみです。納付の負担割合や方法も、固定資産税のときとほぼ同じになります。
共有持分の固定資産税は、「(固定資産税評価額×共有持分割合)×標準税率1.4%」で計算されるのが原則です(都市計画税は0.3%)。ただし、自治体の判断で1.4%以外の税率に設定できます。
また固定資産税は、免税点(土地30万円、家屋20万円、償却資産150万円)未満の課税標準額になるときは、固定資産税・都市計画税ともに課税されません。
参考:総務省「固定資産税の概要」
贈与や放棄によって共有持分を受け取った人に贈与税
贈与や放棄による共有持分の譲渡が行われたときは、共有持分を受け取った人に贈与税が課せられる可能性があります。
贈与税(暦年贈与)の計算式は次の通りです。
贈与税={(固定資産評価額×共有持分割合)-基礎控除110万円}×税率-課税価格に応じた控除額
贈与税の税率は、課税価格に応じて10〜55%で設定されます。通常は「一般贈与財産用」として計算しますが、直系尊属からの贈与だったときは「特別贈与財産用」の税率を適用します。
例えば固定資産評価額3,000万円(一般贈与財産)、共有者4人、共有持分割合は全員25%、共有持分の放棄のケースだと、贈与税は以下の金額になります。
共有持分の放棄を行うため、3,000万円×25%=750万円を他の共有者3人へ各250万円ずつ分配する
1人あたりの贈与税=250万円-110万円×税率10%-控除額0万円=14万円
参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
贈与で取得した持分を売るときの課税
例えば、AとBが1,000万円の土地を、それぞれ500万円ずつ負担して取得したとします。取得費を折半したので、持分もそれぞれ1/2です。
その後、Aは持分を時価1,000万円のときに贈与して、土地はBの単独所有となりました。Bはこの土地を2,000万円で売却できたとして考えてみましょう。
BはAの持分取得時に1,000万円を対象に課税されます。
土地を単独所有として売却した場合に、以下の式で出した譲渡所得を対象に課税されます。
■Aの贈与によりBが単独所有となった場合の譲渡所得の計算
譲渡所得=売却代金2,000万円-取得費用(A・B両者の持分取得費1,000万円)=1,000万円
Bは「Aからの取得した持分」について、贈与税と所得税の二重課税となります。
放棄で取得した持分を売るときの課税関係
上記と同じく、AとBが1,000万円の土地をそれぞれ500万円ずつ負担して取得したとします。
その後、Aは持分を時価1,000万円のときに放棄して、土地はBの単独所有となりました。Bはこの土地を2,000万円で売却できたとしましょう。
BはAの持分取得時に1,000万円を対象に課税されます。
土地を第三者に売却した場合の譲渡所得は、以下の式で出した譲渡所得を対象に課税されます。
■Aの持分放棄によりBが単独所有となった場合の譲渡所得の計算
譲渡所得=売却代金分2,000万円-取得費用(Bの持分取得費500万円+Aの持分放棄したときの時価1,000万円)=500万円
Bは「Aからの取得した持分」について、贈与税は課されますが、譲渡時の所得税は課されません。
このように、贈与と持分放棄では課税対象額が大きく変わります。
共有持分を譲渡する際の注意点
共有持分を譲渡するときは、単独名義の不動産を譲渡するときとは異なる以下の注意点があります。
- 他の共有者へ事前に相談しトラブルの発生を防ぐ
- 登記簿謄本で自分の持分割合を把握しておく
- 共有不動産の住宅ローンや抵当権を確認する
- 譲渡するときは持分移転登記を行う
- 譲渡で得た利益は確定申告を行う
それぞれの詳細を見ていきましょう。
他の共有者へ事前に相談しトラブルの発生を防ぐ
共有持分の譲渡を行う旨は、他の共有者へ事前に相談しトラブルの発生を防ぐようにしましょう。
例えば他の共有者が知らないうちに、第三者へ売却や譲渡を行うと、他の共有者は告知なく知らない人と不動産を共有することになります。
「赤の他人と一緒に不動産を所有している」という状態は、あまり好ましく思われないでしょう。
とくに売却先が悪質な買取業者だったときは、他の共有者の共有持分の強引な売却や、共有不動産の無許可の解体工事などを行うリスクも想定できます。
登記簿謄本で自分の持分割合を把握しておく
共有持分を譲渡する前に、登記簿謄本にて自分の持分割合を把握しておきましょう。持分割合を把握しておけば、売却時の査定や贈与時の交渉などがスムーズに進められます。
共有持分割合は登記事項の1つであるため、必ず登記情報に載せられているはずです。
共有不動産の住宅ローンや抵当権を確認する
共有不動産に住宅ローンや抵当権が残っていると、共有者全員の同意があっても共有不動産をスムーズに売却できない可能性があります。
住宅ローンは住宅ローンを組んだ金融機関への問い合わせ、抵当権は登記簿謄本にて確認が可能です。
住宅ローンが残っているときは、住宅ローンを債権者である金融機関の承認を受けて売却する必要があります。売却益は住宅ローンの返済に使い、それでも返済しきれないときは引き続き返済を続けなくてはなりません。
抵当権が残っているときは、何かしらの方法で抵当権を消すように動かないと、買手が見つからない可能性が高くなります。
抵当権が残っている不動産は、「住宅ローンの弁済の担保として競売にかけられるリスク」が常に存在するため、買手にとって非常に警戒すべき不動産と言えるからです。
抵当権を消すには、抵当権抹消登記が必要になります。抵当権抹消登記を進める方法は次の通りです。
- 住宅ローンを全額返済する
- 不動産の売却益を住宅ローン返済に充てて、完済する
- 金融機関の了承を経て抵当権を消してもらい、任意売却を行う(信用情報に登録されるリスクあり)
譲渡するときは持分移転登記を行う
共有持分を譲渡するときは、持分移転登記を行い共有持分に関する名義を変更しておきましょう。
いくら売買契約や贈与契約が成立しようとも、登記上の所有者があなたのままだと、あなたに対してさまざまな管理責任や税金が発生します。
持分移転登記を自分で進めるのは難しいため、司法書士などの専門家へ依頼するのが一般的です。
譲渡で得た利益は確定申告を行う
共有持分を売却した人、贈与で共有持分を得た人などのうち、課税所得や基礎控除額を超える受贈額が発生した人はその分の所得税もしくは贈与税の確定申告が必要です。
確定申告の申告は、課税所得等が生じた年の翌年にて、以下の期限内に行う必要があります。
- 所得税:2月16日~3月15日
- 贈与税:2月1日~3月15日
期限内に確定申告ができない場合は無申告加算税、本来の納付額よりも少ない金額で申告したときは過少申告加算税が、ペナルティとして課させる可能性があります。
まとめ
共有不動産の共有持分は、売却、贈与、放棄、分割(現物分割、換価分割、代償分割)の4つの方法で譲渡できます。
共有関係とは法律上「一時的な権利状態」であり、権利行使においてさまざまな制限が加わることから、できるだけ速やかに解消することが好ましいとされています。
共有持分を譲渡できれば、わずらわしい共有不動産の権利を手放せるうえ、共有持分の価値に応じた利益を得られるのがメリットです。ただし、共有持分ならではの譲渡に関する注意点は確認しておきましょう。
原則として売却や換価分割、代償分割には所得税、贈与や放棄、現物分割には贈与税がかかります。他にも、不動産取得税や登記費用などの負担があります。
税金の問題なども含めて、具体的にどのような形で共有関係の解消を図るのか、考える必要があるでしょう。
放置していますと、余計な税金を納めなければならないなど、不利益をこうむることになりかねません。
弁護士や税理士などの専門家、もしくは不動産会社に相談して、早期に共有関係を解消することをおすすめします。
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