相続が発生したとき、相続人全員が納得のいくように遺産分割をするために、遺産分割協議をおこないます。
しかし、遺産分割協議で相続人たちが同意できずない場合、裁判所に届け出て解決を図ります。
遺産分割審判は、裁判所が強制力をもって遺産の分割方法を決定する手続きです。
遺産分割審判に発展すると、自分の希望どおりに遺産を分割できるとは限りません。加えて、弁護士費用として相続財産の5~10%程度を支払う必要があります。
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遺産分割審判とは家庭裁判所が遺産分割を決定する手続き
遺産分割審判とは、協議や調停で遺産分割がまとまらなかったとき、家庭裁判所に訴え出る手続きです。
通常、相続人は協議(話し合い)で遺産分割を決定しますが、意見が対立したときは「遺産分割調停」を申し出ます。調停も家庭裁判所での手続きですが、この時点では「調停委員を挟んだ話し合い」です。
しかし、調停でも和解できないときは自動的に審判手続きへ移行し、家庭裁判所が「適切と思われる遺産分割」を決定します。
審判は、遺産分割を終了させるための最終手段といえます。
原則として調停を経てから審判に移行する
遺産分割審判は、調停を経ずに申し立てることも可能です。しかし、実際は家庭裁判所の方から、まずは調停をおこなうよう促されるケースがほとんどです。
裁判所としては「和解できるならそのほうがよい」という考えが基本なので、特別な事情がなければ調停からはじめるのが一般的です。
ちなみに、令和元年度の司法統計を参照すると、遺産分割事件のうちの1/4が審判にもつれ込んで争っています。遺産分割争いの解決が、いかに難しいかわかるでしょう。
参照:裁判所「司法統計 令和元年度家事事件編 遺産分割事件数」
遺産分割審判の手順と流れ
遺産分割審判は、次の流れで進行します。
- 調停から移行する
- 各自の主張や資料提出をおこなう
- 審判が確定する
調停の段階から弁護士に依頼している場合、必要な手続きは同じ弁護士に聞いてみましょう。
次の項目から、各段階の詳しい解説をしていきます。
1.調停から移行する
調停が不成立となれば、審判手続の移行は自動的におこなわれます。あらためて審判の申し立てをする必要はありません。
指定された審判期日に、家庭裁判所へ出頭します。
調停では当事者同士が顔を合わせる機会はほとんどありませんが、審判では他の相続人と一堂に会し、対面しながら審判手続きが進んでいきます。
また、審判は1人の裁判官のみが担当します。
2.各自の主張や資料提出をおこなう
各相続人が、証拠を提出して自分の主張を重ねていきます。
裁判官はそれを踏まえ、遺産分割における争点の整理と、争点を客観的に判断するためにどのような調査が必要になるか検討します。
また、並行して当事者同士による和解の可能性も模索します。審判に入っても、途中で和解となる可能性があるのです。
和解が成立した場合は、審判ではなく調停が成立したものとみなされ、調停調書が作成されます。
事実調査の一環として、家庭裁判所の調査官による調査や、調査嘱託がなされる場合もあります。
3.審判が確定する
審判中にも和解できなかった場合は、最終手段として裁判官が遺産の分割方法を決定します。裁判官の判断基準は、遺産の種類や金額のほか、相続人の年齢・職業、心身の状態や生活状況などです。
審判で分割方法が決まると、各相続人に告知されます。告知日の翌日から数えて2週間が経過すると、審判結果が正式に確定します。
相続人が複数いる場合には、それぞれ告知を受ける日が異なる可能性もあります。その場合、もっとも遅く審判の告知を受けた人が基準です。
審判が確定すると、その内容は法的な強制力を持ったものとなります。審判内容について相続人全員の合意があるかどうかにかかわらず、遺産分割の方法が最終決定するのです。
審判の結果は、審判書という書面に起こされます。審判書は、調停調書と同様、審判によって得る遺産の名義変更などで提出が求められます。
遺産分割審判を欠席すると自分の主張ができず不利になる
遺産分割協議では、その進行を妨害しようとして故意に欠席する相続人もいます。では、遺産分割審判も、同じような抗議行動によって影響を受けるのでしょうか?
答えは「いいえ」です。審判の場合、欠席者がいたとしても、審判手続きの進行が影響されることはありません。
審判は、欠席すると自分の主張を一切できなくなり、圧倒的に不利な立場に置かれます。
例えば、被相続人への介護に対する寄与分などは、当人からの主張がなければ裁判官に考慮してもらえません。他の相続人が自分に不利になる主張をおこなっても、反論すらできないのです。
このように、審判の欠席は不利に働く可能性が高いので、原則として欠席しないように注意しましょう。
審判結果に不服がある場合は2週間以内に即時抗告を申し立てる
先ほども述べた通り、遺産分割審判は結果告知の翌日から2週間で確定します。確定した場合には審判内容に基づき、強制力に遺産分割をしなければいけません。
しかし、確定までの2週間以内であれば「即時抗告」によって不服を申し立てられます。
即時抗告をすると高等裁判所の抗告審にあげられ、正当な理由があるかどうかを審理されます。抗告の内容が認められた場合、審判結果は破棄され新たな判決が下されます。
即時抗告の手順と流れ
即時抗告の流れは、次のように進みます。
- 1.即時抗告の申し立て
- 2.高等裁判所の抗告審での審理
- 3.判決に不服があれば最高裁判所へ申し立て
即時抗告は期間も限られるため、申し立てには速やかな判断が必要です。
1.即時抗告の申し立て
即時抗告するには、審判をした家庭裁判所へ高等裁判所宛の抗告状を提出します。
即時抗告は、申し立ては家庭裁判所、実際に審理を行うのは高等裁判所となるため、間違えないよう注意しましょう。
受理されたら抗告審の審理にはいりますが、申し立て理由によっては棄却されることもあります。
2.高等裁判所の抗告審での審理
抗告審では、正当な理由があっての申し立てかどうかが審理され、正当な理由と判断された場合は抗告の相手方へ抗告状と抗告理由書が送付されます。その後、相手方の反論を聞きながら、審理が継続していきます。
抗告審で争われるのは「家庭裁判所の審判に間違いがあるかどうか」です。
つまり、高等裁判所も認めるような「家庭裁判所の審判に間違いがある証拠」を、新しく提出しなければいけません。審判での主張をただ繰り返すだけでは、棄却される可能性が高いでしょう。
すでにかなりの時間をかけて調停と審判を行った上での抗告審なので、審判を根底から否定するような新証拠でもない限り、審判の結果は変わらないと考えましょう。
重大な誤りがあったと認められた場合、家庭裁判所の審判を取り消され、高等裁判所の判決にしたがって遺産分割を進めることとなります。
3.判決に不服があれば最高裁判所へ申し立て
高等裁判所の判決にも不服がある場合は、さらに最高裁判所へ特別抗告・許可抗告の申し立てをすることも可能ではあります。
しかし、実際には最高裁判所へ申し立てても判決が変わる可能性は限りなくゼロに近く、結果として骨折り損になる確率が高いでしょう。
状況次第ではありますが、抗告は高等裁判所までにしたほうが無駄なコストもかかりません。
即時抗告の費用と必要書類
即時抗告の申し立て費用は、収入印紙代として1,800円分と、連絡用の切手が必要です。
また、必要書類として、抗告状と即時抗告の理由を証明する書類も用意します。
これらの費用と書類を提出して受理されると、高等裁判所での抗告審が始まります。
ちなみに抗告状は、抗告を申し立てる側が相手方用の写しも用意しなければいけません。
参照:裁判所「即時抗告」
遺産分割審判にかかる弁護士費用は平均で相続財産の5~10%
遺産分割審判を依頼するための弁護士費用の相場は、審判によって取得できる相続財産のうち、5~10%程度です。
この他にも必要に応じて、出張費や交通費、手数料などの実費もかかってきます。
負担に感じる人もいるかもしれませんが、弁護士に頼んだほうが審判でより多く相続財産を得られる可能性があるため、必要経費と考えましょう。
弁護士に相談するメリット
遺産分割審判において、弁護士に対応を依頼した場合のメリットは次のとおりです。
- 書類作成や提出を任せられる
- 自分の代わりに出頭してもらえる
- 法的な見落としがなく適切な主張をしてもらえる
審判では、当事者同士がお互いの顔を見ながら争います。非常に張り詰めた空気の中で行われるため、発言や主張が上手くできなかったり、思わず余計なことを口走ってしまうこともあり得るでしょう。
そんな時、弁護士という強い味方が自分に助言してくれたら、これほど頼もしいことはありません。
遺産分割審判で有利な結果を得るには、弁護士に相談し対応を依頼することが得策です。
書類作成や提出を任せられる
弁護士に依頼をすると審判に提出する証拠書類や、即時抗告する場合の抗告状など、難しい書類の作成や提出を正確におこなってもらえます。
裁判に関する書類の作成は法的な知識が必要なものも多くいです。
また、不備があると自身が不利になってしまう恐れもあります。
そのため、書類作成や提出を法律のプロである弁護士へ任せられるのは大きなメリットといえるでしょう。
自分の代わりに出頭してもらえる
弁護士は当事者の代理人として出頭できるため「時間の都合がつけられない」「裁判所が遠隔地」といった理由で自分が出頭できなくても、欠席扱いにはなりません。
また、妊娠中や子育て中といった事情がある場合も、弁護士が代わりに出頭してくれるので安心です。
法的な見落としがなく適切な主張をしてもらえる
弁護士なら法的な見落としもなく、自分の利益を最大限引き出すために必要な主張をしてもらえます。
多くの人にとって、裁判所への出頭や答弁は慣れたものではなく、不安が大きいのではないでしょうか。
その点、弁護士なら適切な主張や法的観点からの反論も可能です。
まとめ
審判は、調停よりもさらに過酷な争いになる場合がほとんどです。当事者同士が一触即発状態になり、冷静さを保つことが極めて難しい局面もあることでしょう。
そんな中で1人孤独に闘っていても、思うような結果を得られないかもしれません。
体力と精神を消耗する審判ですから、せめて結果くらいは有利な方に導きたいものです。そのためには、法律の専門家を頼る以上によい方法はないでしょう。