共有名義の不動産の建て替え・取り壊しは可能だが勝手にはNG
共有名義の不動産であっても、建て替えや取り壊し自体は可能です。しかし、他の共有者の意見を聞かないまま勝手に進めることは認められません。
共有者の同意を得ずに共有名義不動産へ大きな変更を加えると、権利侵害として不法行為に該当する可能性があります。
共有名義不動産の建て替え・取り壊しを検討する際は、以下の点に注意しましょう。
- 建て替え・取り壊しは共有者全員の同意が必要
- 住宅ローンがある場合は金融機関の承諾が必要
ここでは、実務的な観点もふまえてそれぞれについて詳細を解説します。
建て替え・取り壊しは共有者全員の同意が必要
共有名義不動産の建て替え・取り壊しは、民法上の「変更行為(処分行為)」です。
建て替え・取り壊しの他には、以下のような「形状や効用を大きく変える行為」も変更行為とされています。
民法上では、「共有名義不動産に変更を加えるときは、他の共有者の同意を得なければならない」と定められています。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
e-Gov法令検索 民法
各共有者の共持分割合の大小にかかわらず、全共有者の同意がなければ建て替え・取り壊しはできません。
なお民法上における共同不動産に対する行為には、変更行為の他に「管理行為」「保存行為」があります。
| 管理行為 |
賃貸契約や改良・リフォームといった、財産の有効活用や性質を変化させない価値の増加行為などのこと |
| 保存行為 |
建物の修繕や相続登記といった、管理行為のうち財産を維持するための行為のこと |
管理行為には共有者の過半数の同意が必要になる一方、保存行為は原則として共有者の同意は必要なく単独で行えます。
実務上の肌感としても、「どこまでが変更行為にあたるのか」で認識が食い違うケースは非常に多い領域です。
たとえば「外壁の全面改修」や「間取り変更」を伴うリフォームは、管理行為として扱えるか微妙なラインになることがあり、共有者間で見解が分かれることも珍しくありません。
一方で、建て替えや取り壊しについては、ほぼ例外なく変更行為として扱われるのが実務の一般的な理解です。
なお、共有者の同意は書面・書面のいずれでも問題ありません。
しかし、口頭での同意だと、後から撤回されたり「言ってない」と主張されたりなどのトラブル防止の観点から、合意内容を書面で残しておくことを推奨します。
実際のご相談でも、「口頭では了承していたはずなのに、後から否認されて話が振り出しに戻った」というケースは一定数見受けられます。
とくに相続で共有になっている場合、関係性が希薄な共有者が含まれることも多く、認識のズレがそのままトラブルに直結しやすい傾向があります。
取り壊しについての共有者の同意の事実を書面で残すときは、以下の事項について明記しておくと、トラブルを回避しやすくなります。
- 解体費用の支払金額および支払割合(誰がいくら支払うのか)
- 一括支払いか、一旦立て替えて後から請求するか
- 解体費用の精算日や精算が遅れた場合の対応
勝手に取り壊すと損害賠償請求されたり犯罪になったりするリスクがある
共有者の同意を得ずに勝手に共有名義不動産全体の立て直し・取り壊しを行うと、他の共有者の財産や権利を侵害したことになります。
その結果、不法行為をしたものとして、与えた損害や権利侵害分の損害賠償請求の対象となる可能性があります。
さらに、状況によっては刑事責任が問われる可能性もあります。
たとえば、勝手な取り壊しなどは犯罪行為になるかもしれません。例えば、「建造物等損壊及び同致死傷」で5年以下の懲役が科される可能性があります。
(建造物等損壊及び同致死傷)
第二百六十条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
e-Gov法令検索 刑法
弊社に寄せられるご相談の中でも、「一部の共有者が先行して解体を進めてしまい、その後に費用負担や責任の所在をめぐって紛争化した」というケースは少なくありません。
特に多いのが、「自分が固定資産税を負担しているから問題ないと考えていた」という認識違いです。固定資産税の負担と、共有物に対する処分権限は別の論点であるため、この点が誤解されやすいポイントといえます。
また取り壊し以外でなくても、勝手に共有名義不動産を丸ごと売って金銭を全額受け取った者は、横領罪になる可能性があります。
倒壊といった危険があると単独取り壊しが可能な場合がある
老朽化によって倒壊・破損の危険がある建物については、例外的に単独での取り壊しが認められる場合があります。
なぜなら、倒壊・破損の危険がある建物の取り壊しは、「保存行為」に該当すると考えられるからです。
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
出典:民法第252条
ただし、単独で対応できる場合であっても、他の共有者への事前連絡や事後報告を行うことが実務上は重要です。
他の共有者に黙って取り壊しをおこなってしまうと、後からトラブルになる可能性も否定できません。
実際には、「危険性の程度について共有者間で認識が一致せず、後から『本当に解体が必要だったのか』と争点になるケースも見受けられます。
行政から是正指導が入っているか、第三者の専門家による劣化診断があるかなど、客観的な根拠を揃えておくことが、その後のトラブル回避につながります。
なお、老朽化によって取り壊した場合でもその後「建て替え」をおこなう場合は、共有者全員から同意を得る必要があります。
住宅ローンがある場合は金融機関の承諾が必要
共有名義不動産に住宅ローンが残っている状態で建て替え・取り壊しを行う場合、金融機関の承諾が必要となります。
特に抵当権(金融機関が当該建物を担保とする権利)が設定されている場合、担保となっている建物を毀損する行為は契約違反と評価される可能性があります。
また民法第137条における「期限の利益」を失うことから、金融機関は失った権利について取り壊した人へ責任を追及することになります。
住宅ローンと抵当権が残った共有名義不動産を取り壊した際のリスクは、次の通りです。
- 住宅ローンの一括返済を求められる
- 損害賠償請求をされる
弊社が聞いた中でも、「解体後に金融機関へ報告したところ、期限の利益喪失を理由に一括返済を求められた」という話は一定数あります。
特に、建物が担保価値の中心になっている場合は、金融機関側の判断が厳しくなる傾向があるようです。
ただし、住宅ローンが残っている場合でも、必ずしも現金で一括返済しなければならないわけではありません。
実務上は、金融機関へ事前に相談したうえで、既存の住宅ローン残債と新築費用をまとめた「建て替えローン」に借り換えることで対応できるケースもあります。
そのため、住宅ローンや抵当権が残っている共有名義不動産を取り壊す際は、独断で進めるのではなく、金融機関と事前協議を行い、返済方法や借り換えの可否を含めて調整しましょう。
共有名義不動産の建て替え・取り壊しの費用や税金
共有名義不動産の建て替えや取り壊しを検討する際は、工事費用だけでなく、税金や付随費用まで含めて全体像を把握しておくことが重要です。
実際のご相談でも、「解体費用は把握していたものの、その後の税負担や細かな諸経費まで想定できておらず、結果的に想定外の出費が発生した」というケースは少なくありません。
共有名義の場合は費用負担が複数人に及ぶため、事前整理の有無がそのまま合意形成のしやすさに影響します。
以下では、建て替え・取り壊しにかかる費用の相場や、建て替え・取り壊しに関する税金関係について解説します。
建て替え費用は持分に応じて決まる
有名義不動産に関する費用は、民法上、共有持分に応じて負担するのが原則です。
(共有物に関する負担)
第二百五十三条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
e-Gov法令検索 民法
そのため、共有名義不動産の建て替え・取り壊しの費用も、登記されている共有持分に応じて計算するのが一般的です。
とはいえ必ずしも共有持分割合で負担する必要はなく、共有者全員の合意があれば柔軟な取り決めも可能です。
なお共有名義不動産の共有持分は、原則として共有名義不動産の取得費の負担割合によって決まります。
例えば共有者ABCの共有名義不動産の取得が5,000万円で、A2,000万円、B2,000万円、C1,000万円ずつ支払ったとすると、共有持分はA40%、B40%、C20%です。
弊社の実務でも、「利用予定のある共有者が多めに負担する」「売却を前提に一時的に一人が立て替える」といった調整が行われた事例は複数あります。
特に相続で共有状態になった不動産では、利用意向に差があるケースが多く、持分割合と実際の負担割合が一致しないケースも珍しくありません。
また、費用負担の取り決めを曖昧にしたまま工事を進めてしまい、後から精算をめぐってトラブルになるケースも一定数見受けられます。
このため、着手前に負担割合や精算方法を明確にしておくことが重要です。
建て替えや取り壊しにかかる費用の相場
建て替えや取り壊しにかかる費用の相場
建て替えや取り壊しをするには、新しい建物の建設費用や共同不動産の解体工事などにかかる費用を考えておく必要があります。
相場を知っておけば、共有名義不動産の建て替え・取り壊しについて共有者に相談する際に、数値を使った具体的な話がしやすくなります。
共有名義の場合、「誰がいくら負担するのか」という点が争点になりやすいため、相場をベースに具体的な金額感を共有しておくことが実務上は重要です。
以下では、建て替えの相場と解体費用の相場を見ていきましょう。
解体費用の相場は1坪あたり3万~8万円
解体費用は建物の構造や条件によって変動しますが、一戸建てを取り壊す場合の工法および1坪あたりの解体費用目安は以下の通りです。
| 工法 |
1坪あたりの解体費用の相場 |
| 木造 |
4~5万円 |
| 軽量鉄骨造 |
6~7万円 |
| 鉄筋コンクリート造 |
7~8万円 |
| 工法 |
20坪あたりの相場 |
30坪あたりの相場 |
40坪あたりの相場 |
| 木造 |
80万~100万円 |
120万~150万円 |
160万~200万円 |
| 軽量鉄骨造 |
120万~140万円 |
180万~210万円 |
240万~280万円 |
| 鉄筋コンクリート造 |
140万~160万円 |
210万~240万円 |
280万~320万円 |
なお、実務上とくに注意が必要なのが「アスベスト」の存在です。
2022年4月の大気汚染防止法改正により、建物の解体前には「アスベストの事前調査」が原則義務化されました。
特に古い家屋では、外壁材・屋根材・吹付材などにアスベスト含有建材が使用されているケースがあります。
アスベストが確認された場合は、通常とは異なる除去工事や特別な処分対応が必要になるため、解体費用が数十万〜数百万円単位で上振れする可能性があります。
実務では立地条件による影響が大きく、同じ延床面積でも費用が大きく異なるケースがあります。
たとえば、前面道路が狭く重機が入れない場合や、隣地との距離が近い場合には手作業が増え、費用が上振れする傾向があります。
当社に寄せられるご相談でも、「当初100万円程度を想定していたが、実際の見積もりは150万円を超えた」というケースは珍しくありません。
特に道が狭い都市部では、このような乖離が起こりやすい傾向があります。
建て替えの相場は4,500万円前後が一つの目安
国土交通省の調査によると、住宅の建て替えにかかった住宅建築資金(建築費、付帯工事費、諸経費)の平均は4,487万円となっていました。
建て替え後の平均延床面積は、約42坪(138.8㎡)です。1坪あたりの金額にすると、4,487万÷42坪=約106.8万円となります。
近年は建築資材や人件費の上昇により、1坪あたり100万円を超える水準が一般的になりつつあるため、建て替えを行う場合は、1坪あたり100万円ほどかかると見込んでおきましょう。
参考資料として、首都圏における建築費単体(注文住宅)の1坪あたりの金額も記載しておきます。
| 調査年度 |
平成30年 |
令和元年 |
令和2年 |
令和3年 |
令和4年 |
| 建築費 |
3,558万円 |
3,301万円 |
3,510万円 |
4,077万円 |
5,050万円 |
| 延床面積 |
約35.36坪
(116.9㎡) |
約35.45坪
(117.2㎡) |
約34.21坪
(113.1㎡) |
約37.81坪
(125.0㎡) |
約43.38坪
(143.4㎡) |
建築費単価/坪
(建築費単価/㎡) |
約100.6万円
(30.4万円) |
約93.1万円
(28.2万円) |
約102.6万円
(31.0万円) |
約107.8万円
(32.6万円) |
約116.4万円
(35.2万円) |
なお、住宅を建て替えるときは、ZEH補助金や木造住宅の耐震改修・建替に関する補助制度などが使える場合があります。
また、住宅を建てるための資金を直系尊属から受け取ったときは、非課税制度を使える可能性があります。
建て替える前には、何かしらの補助や減税が受けられないかを自治体に確認してみましょう。
参考:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査報告書」
参考:国土交通省「令和5年度 住宅経済関連データ(<3>建築費及び地価の現状 (2)注文住宅の建築費(首都圏))」
参考:国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
実際のご相談でも、「数年前の相場で資金計画を立てていたため、見積もりとの差に対応できなかった」というケースが増えています。
特に2021年以降は建築コストの上昇が顕著であり、最新の相場を前提にした検討が必要です。
また、条件によっては補助金や減税制度が利用できる場合があります。
ただし、補助制度は年度や自治体によって内容が変わるため、「使える前提」で計画を立てるのではなく、事前確認を行ったうえで判断することが実務上は安全です。
その他諸経費
共有名義不動産の建て替えや取り壊しには、以下のような諸経費がかかります。
- 印紙税:解体工事の契約書1枚につき200~1,000円程度
- 建物滅失登記費用:1,000~3,000円
- 共有持分移転登記費用:固定資産評価額×2%
- 司法書士等への登記依頼:5万円程度
- 火災保険・地震保険料:3万円程度(初年度)
実務では、「本体工事費に意識が向きすぎて、これらの諸経費を見落としていた」というケースも少なくありません。
特に登記関連については、手続き内容に応じて費用や必要書類が変わるため、事前に整理しておくことが重要です。
固定資産税や都市計画税の金額に注意
共有名義不動産を取り壊す際は、固定資産税や都市計画税が高くなる可能性があるので注意しましょう。
住宅が建っている土地には「住宅用地特例」が適用され、固定資産税と都市計画税が軽減されていますが、建物を取り壊すとこの特例が適用されなくなります。
その結果、土地にかかる固定資産税が最大6倍、都市計画税が最大3倍程度まで増加する可能性があります。
| 区分 |
要件 |
固定資産税 |
都市計画税 |
| 小規模住宅用地 |
住宅用地で住宅1戸につき
200㎡までの部分 |
価格×1/6 |
価格×1/3 |
| 一般住宅用地 |
小規模住宅用地
以外の住宅用地 |
価格×1/3 |
価格×2/3 |
固定資産税・都市計画税は、1月1日時点での不動産の状態を判断して金額を決定する税金です。
つまり、1月1日時点で土地や建物を持っていなければ(建物滅失登記を終えていれば)固定資産税や都市計画税はかかりません。逆に1月1日時点で不動産が存在していれば、固定資産税や都市計画税が発生します。
そして注意したいのが、「住宅だけ取り壊し、土地がまだ残っている状態で1月1日を迎えた場合」です。住宅がなくなって住宅用地特例が使えなくなった状態で、土地に対する固定資産税や都市計画税が計算されます。
住宅用地特例がなくなると、土地にかかっていた固定資産税が最大6倍、都市計画税が最大3倍になる可能性があります。
弊社へのご相談でも、「解体後の税額が想定より大幅に上がり、保有を続けるか売却するかで再検討が必要になった」というケースは一定数あります。
特に空き家の解体後に更地として保有する場合、この税負担の増加が意思決定に大きく影響します。
1月1日の課税額決定に合わせてスケジュールを作る
固定資産税・都市計画税は、毎年1月1日時点の状況を基準に課税額が決まるため、解体のタイミングによって税負担が変わる可能性があります。
そのため、住宅用地となっている共同不動産を取り壊すとき、1月1日の課税額決定に合わせてスケジュールを作るとよいでしょう。
実務上も、「年内に解体するか、年明けまで待つか」で年間の税額が変わるケースは多く、スケジュール設計が重要な検討事項となります。
例えば、1月1日時点で建物が残っていれば住宅用地特例が適用され、その年の税額は軽減されたままとなります。
一方で、年内に取り壊してしまうと、更地として評価され税負担が増加する可能性があります。
実際には、「解体工事の都合だけで年内に更地化した結果、翌年の税負担が大きく増えた」というご相談も見受けられます。
このように、解体時期は工事スケジュールだけでなく、税務面も踏まえて判断することが重要です。
共有名義不動産の建て替え・取り壊しの流れ
共同不動産の建て替え・取り壊しを検討する場合は、共同不動産の建て替え・取り壊しが終了するまでのおおまかなスケジュールを知っておきましょう。
実務上も、「何から手を付ければよいかわからないまま進めてしまい、途中で手続きが止まる」というご相談は少なくありません。
特に共有名義の場合は関係者が多く、1つの工程でつまずくと全体が停滞しやすいため、段取りの整理が重要になります。
共有名義不動産の建て替え・取り壊しは、以下の流れで進んでいきます。
- 共有名義不動産の同意を得る
- 解体業者を選ぶ
- 共有名義不動産を解体し更地にする
- 建物滅失登記を1ヶ月以内に行う
- 建て替えのときは新しく建物を建てる
- 建物を新築して1ヶ月以内に表題登記を行う
実務の観点も踏まえて、共有不動産の建て替え・取り壊しの流れを解説していきます。
共有者全員の同意を得る
共同不動産の建て替え・取り壊しは、まず共有者全員の同意を得ることが前提となります。
同意を得ないまま勝手に進めるとトラブルや損害賠償請求などに発展する可能性があります
弊社に寄せられるご相談でも、「話し合いが不十分なまま一部の共有者が解体を進め、他の共有者と関係が悪化してしまった」というケースは一定数見受けられます。
とくに相続で共有状態になっている場合、感情的な対立が表面化しやすい傾向があります。
とはいえ、共有者の状況によっては同意を得るのが難しいケースがあります。以下では、ケース別に対応策を見ていきましょう。
共有者が故人なら相続人から同意を得る
共有者がすでに亡くなっている場合、その持分は相続人に引き継がれています。
したがって、同意は相続人全員から取得する必要があります。相続人がわからないときは、相続登記によって登記された内容から相続人の確認が可能です。
実務では、「相続人の調査」に想定以上の時間がかかるケースも少なくありません。
たとえば、被相続人が複数回の転籍や婚姻・離婚をしている場合、戸籍を遡って収集する必要があり、数ヶ月単位で手続きが止まることもあります。
もし相続登記が完了していないときは、相続登記が終わってから建物の取り壊しを進めましょう。
共有者と音信不通なら不在者財産管理人から同意を得る
共有者の中には、音信不通で連絡が付かない人がいる可能性もあります。
この場合は、「不在者財産管理人」を選任して、不在者財産管理人から同意を得ます。
不在者財産管理人とは、家庭裁判所が選任する「不在者の財産について、裁判所の許可を得て不在者の代わりに売却・分割等ができる人」のことです。
家庭裁判所が選任した管理人が、不在者に代わって財産管理や一定の手続きを行います。
不在者財産管理人を選任するには、まず家庭裁判所での申立が必要です。必要書類の提出、収入印紙800円分・連絡用の郵便切手代の支払いを行いましょう。
申立人として認められるのは、利害関係者(不在者の配偶者、相続人、債権者など)です。共有名義不動産の共有者であれば、利害関係者として認められます。
不在者財産管理人は、不在者との関係や利害関係の有無などを考慮して決められます。ケースによっては、弁護士や司法書士が選ばれることもあるようです。
参考:裁判所「不在者財産管理人選任」
実務上も、「1人だけ連絡が取れない共有者がいることで、数年間手続きが進んでいない」というケースは珍しくありません。
早期に法的手続きを視野に入れるかどうかが、全体の進行スピードに影響します。
所在等不明共有者の持分取得制度を使う
所在が不明な共有者がいる場合、「所在等不明共有者の持分取得制度」の利用が検討されます。
所在等不明者共有者の持分取得制度とは、共有者が他の共有者を知ることができず、または所在を知ることができないときに、当該不明者が持つ共有持分のこちらが取得できるよう申し立てられる制度です。
2023年4月から施行された新しい制度で、こちらを利用して不在者の共有持分を取得する方法があります。
第二百六十二条の二 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按あん分してそれぞれ取得させる。
e-Gov法令検索 民法
参考:裁判所「所在等不明共有者持分取得申立てについて」
なお、この制度を利用する場合でも、無償で共有持分を取得できるわけではありません。
実務上は、裁判所が算定した持分の時価相当額を法務局へ供託(お金を預ける)する必要があります。
そのため、制度を利用する際は、あらかじめ共有持分を買い取るための資金を準備しておく必要があります。
2023年の制度改正以降、この制度を活用して共有関係を整理するケースは徐々に増えています。
従来よりも選択肢が広がった点は、実務上の大きな変化といえます。
共有者が認知症なら成年後見制度を利用する
共有者が認知症であり、判断能力に問題がある場合、成年後見制度の利用が必要になることがあります。
成年後見制度とは、認知症などで本人の意思能力が認められなくなったとき、家庭裁判所が選任した人(後見人)が代わりにさまざまな判断を行う制度です。
後見人が選任されることで、本人に代わって意思決定が可能になります。
成年後見制度とは、認知症などで本人の意思能力が認められなくなったとき、家庭裁判所が選任した人(後見人)が代わりにさまざまな判断を行う制度です。
ただし成年後見制度の手続きには時間がかかるため、共有者が高齢である場合は、あらかじめ共有持分の取得しておくなど対策を講じておきましょう。
実際のご相談でも、「後見人選任までに3〜6ヶ月程度かかり、その間は何も進められなかった」というケースは複数あります。
高齢の共有者がいる場合は、早めの検討が重要です。
解体業者を選ぶ
共有者の同意を得て建て替え・取り壊しに取りかかれるようになったら、建物の取り壊しをお願いする解体業者を選定します。
解体業者を選ぶときは、複数の業者へ相見積もりを行い、対応内容と費用内訳を比較検討することが大切です。
実務では、「最安値のみで判断した結果、追加費用が発生してトータルコストが上がった」というケースが一定数あります。
見積書の内訳や説明の透明性も重要な判断材料となります。
また、解体業者が実施する現地調査には、一緒に立ち会うことをおすすめします。現地調査での作業内容、判断、態度、費用算出などをチェックし、依頼すべきかを見極めるのがよいでしょう。
悪質な解体業者に依頼してしまうと、以下のトラブルが発生するリスクがあります。
- 不明瞭な追加工事が増えて予算オーバーする
- 廃棄物を適切に処理せずゴミが散乱する
- 工期通りに作業が進まない
- 近隣住民へ迷惑がかかる
- 契約書などの必要書類を一切掲示しない
- 解体工事に関する損害を補償する保険に入っていない
- そもそも解体業の免許を持っていない
悪質な解体業者と当たらないためにも、以下に示した解体業者の選び方のポイントを意識しておいてください。
- 解体工事に関する免許を持っているか
- 損害賠償保険に加入しているか
- 窓口の担当者や現場作業者が信頼できるか
- 下請けへの再委託ではなく自社施工で対応してくれるか
- 複数の解体業者を比較検討すること
共有名義不動産を解体し更地にする
解体業者を選定してスケジュールが決定したら、実際に共有名義不動産を解体して土地を更地にするフェーズに移ります。
解体の着工前には、以下の点を再度チェックしておきましょう。
- すべての共有者からの同意を得ているか
- 住宅ローンの残債や抵当権は残っていないか、金融機関の承諾を得たか
- 解体にかかる費用はいくらか
- 固定資産税・都市計画税の決定日である1月1日を意識しているか
弊社の経験上、「同意内容が曖昧なまま工事を進めてしまい、途中で共有者間の認識が食い違った」というケースも見受けられます。
着工前の最終確認がトラブル回避につながります。
建物滅失登記を1ヶ月以内に行う
共有名義不動産を取り壊した後は、共同不動産がなくなったことを登記する「建物滅失登記」の手続きが必要です。
この手続きは保存行為に該当するため、単独で申請が可能であり、取り壊しから1ヶ月以内に行います。
建物滅失登記を忘れてしまうと、以下のデメリットが生じます。
- 固定資産税・固定資産税が課税され続ける
- 10万円以下の過料に処される
- 土地の売買ができなくなる
- 建て替えができない
- 残った土地を担保にした融資が受けられない
とくに注意したいデメリットは、固定資産税の課税についてです。
建物滅失登記をしないと、登記簿上は共同不動産が存在し続けることとなり、登記簿の内容に応じた固定資産税・都市計画税が課税されてしまいます。
建物滅失登記に必要な書類は次の通りです。
- 建物滅失登記申請書
- 建物滅失証明書(建物取壊証明書)
- 解体に対応した会社に印鑑証明書や代表者事項証明書
- 登記簿謄本など解体した建物を証明する書類
弊社が対応した中でも、「登記を失念していたことで売却手続きが進められなかった」というケースがあります。
また、登記がされていないと課税関係にも影響が出るため、早期対応が重要です。
新しく建物を建てる
取り壊しだけでなく建て替えをするときは、更地になった土地に建物を新築していきます。
予算の決定、建設業者への依頼、施工などの時間を考えると、建て替えには約8ヶ月の時間がかかります。
解体業者の選定と同じく、相見積もりや現地調査などで依頼する建設業者を比較検討するのがよいでしょう。
実務では、「共有者間で仕様や予算の認識が揃っておらず、着工までに時間がかかった」というケースも多く見られます。
仕様・費用・スケジュールを事前に明確にしておくことが重要です。
建物を新築して1ヶ月以内に表題登記を行う
建物を新築したときは、1ヶ月以内に表題登記を行いましょう。表題登記とは、建物の所在地・地番・構造、所有者の住所・氏名などの建物の物理的な情報を登記する手続きです。
建物滅失登記と同じく、1ヶ月以内に行わないと10万円以下の過料となる可能性があります。
建物表題登記を行うには、新築する建物に関するさまざまな情報を調査しなければなりません。
例えば法務局や役所での閲覧調査、測量や位置確認といった建物の現地調査、建物図面や各階平面図などの作成、必要書類の収集・作成などです。
表題登記は専門的な手続きがいくつも存在するため、原則として土地家屋調査士に代理を依頼するのが一般的です。
新しく建てた建物の共有持分割合は、新築にかかった費用の負担割合に応じます。合意があれば負担割合を自由に決められる反面、100:0といった極端な割合だと実質的な贈与として贈与税が発生する可能性があります。
弊社が聞いた話でも「費用負担と持分割合が一致していなかったことで、後から贈与とみなされる可能性が指摘された」というケースもありました。
この点は事前に整理しておくことが重要です。
共有者全員の同意を得られない場合の対処法
共有者の中には、どうしても共同不動産の建て替えや取り壊しに同意しない人が出てくるケースも一定数あります。
そのような場合は、無理に進めるのではなく、状況に応じて共有関係そのものを見直すことが現実的な選択となることがあります。
弊社に寄せられるご相談でも、「合意形成を続けていたものの、最終的には共有状態の解消に方針転換した」というケースは珍しくありません。
特に相続をきっかけとした共有では、利害や感情面の対立が長期化しやすく、建て替えの実行自体が難しくなる傾向があります。
もし共有者全員の同意を得られそうにないときは、以下の対処法を試してみてください。
- 共有状態を解除しておく
- 自分の共有持分を売却する
- 反対する共有者の共有持分を買い取る
それぞれの詳細を見ていきましょう。
共有状態を解消しておく
共同不動産の共有状態を解消すれば、単独で意思決定ができる状態へ整理できます。そのため、共有者の同意を得ずに建て替え・取り壊しを進められます。
実務上も、「建て替えの話し合いが平行線となり、先に共有関係を解消したことで、その後の活用や売却がスムーズに進んだ」というケースは多く見られます。
共有状態を解除する方法としては、分割が挙げられます。以下では、具体的な分割方法を見ていきましょう。
現物分割
現物分割とは、分筆するといった方法で共有物を物理的に分割し、それぞれを単独名義とする方法です。
私道を含む土地などの場合には、1筆の土地を分筆して、分割することも可能です。
ただし、戸建ての場合「戸建てを実際に分割する」ことは物理的に困難なため、実務上は土地に限定されるケースが一般的です。
建物の建て替え・取り壊しの場合は、他の分割方法がよいでしょう。
換価分割
換価分割とは、共有名義不動産を第三者に売却し、得られた金銭を共有持分ごとに分配する方法です。
物理的な分割が難しい場合でも、共有関係を解消できる点が特徴です。
ただし、原則として建物・土地ともに売却することになるので、土地の活用や建て替えができなくなるデメリットがあります。
また建て替え・取り壊しと同じく、売却について他の共有者が同意しなければ実行できない点にも注意しましょう。
そのため、実務上は、「誰も利用予定がなく、維持コストだけが発生している状態」で選択されるケースが多い傾向です。
また、「建て替えを巡って意見がまとまらず、最終的に売却して現金で分ける形に落ち着いた」というご相談も多く見られます。
協議が破断したときは裁判による分割
共有持分の分割についての協議が破断したときは、裁判所に申し立てて裁判所にて決着を付ける方法があります(共有物分割調停や共有物分割請求訴訟など)。
裁判所は各共有者の意見や利用状況などを踏まえ、分割方法を判断します。
共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
出典:民法258条
実務でも、「数年にわたり協議を続けたものの合意に至らず、最終的に裁判手続きへ移行した」というケースは一定数存在します。
ただし、裁判は時間・費用ともに負担が大きくなるため、他の選択肢と比較したうえで検討することが重要です。
自分の共有持分を売却する
建物や土地の活用をまったく考えず、ただ共有持分の権利を放棄したいときは、自分の共有持分を他の共有者や第三者へ売却する方法が有効です。
自分の共有持分の範囲であれば、他の共有者の同意を得ることなく自由に売却できます。
ただし、第三者へ勝手に売却すると他の共有者とトラブルになる可能性があるので、売却の場合も事前に共有者へ相談するのが一般的です。
弊社へのご相談でも、「事前に共有者へ説明したことでトラブルなく進んだケース」と、「説明が不十分だったため関係が悪化したケース」で、その後の展開が大きく分かれる傾向があります。
また共有持分は権利関係の複雑さから、買取価格が相場の50~80%になる、買手が見つかりづらいといったデメリットがあります。
共有持分の売却方法
価格面での伸びが期待できる一方、共有持分は権利関係の制約から買主が限定されやすく、成約まで時間を要するケースも見られます。
一方、買取は条件が合えば比較的スムーズに手続きを進めやすく、実務上も「早期に共有関係から離れたい」というケースで選択されることがあります。
弊社へのご相談でも、「仲介で一定期間売却活動を行ったものの成約に至らず、別の売却方法を検討することになった」というケースは一定数見受けられます。
このように、売却方法によって特徴が異なるため、状況に応じて選択することが重要です。
反対する共有者の共有持分を買い取る
反対する共有者の共有持分をすべて買い取り、共有者から外れてもらう方法があります。
共有者も対価として金銭を得られるため、相手からも納得してもらいやすく、単独名義となることで自由に建て替え・取り壊しがでるようになります。
共有者全員の共有持分を買い取り、共有名義から単独名義にすれば、自由に建て替え・取り壊しができます。
ただし、共有者が買い取りに応じるかは交渉次第です。¥
実務では、「価格条件の折り合いがつかず交渉が長期化するケース」や、「相続人が複数いて意思決定に時間がかかるケース」も少なくありません。
一方で、「現金化ニーズがある共有者がいたため、比較的スムーズに合意に至った」というケースもあります。
このように、相手の状況や意向によって難易度が大きく変わる点が特徴です。
まとめ
共有名義不動産の建て替え・取り壊しは法上「変更行為」に該当し、原則として共有者全員の同意が必要となる手続きです
共有者の同意を得ずに建物を取り壊してしまうと、損害賠償請求や刑事事件に発展するリスクがあります。
共有者が亡くなっているときは相続人、音信不通の場合は不在者財産管理人、認知症などで意思能力がない場合は成年後見人を通じて対応する必要があります。
実務上は、相続関係の整理や共有者間の意見調整に時間を要し、建て替え・取り壊しの検討自体が長期化するケースも少なくありません。
どうしても反対意見が出るときは、共有持分を買い取ったり共有状態を解除したりして対応することも検討してみてください。
早い段階で複数の選択肢を並行して検討しておくことが、その後の意思決定をスムーズにするポイントといえます。
共有不動産の建て替え・取り壊しでよくある質問
共有不動産の建て替え・取り壊しでよくあるトラブルは?
共有不動産の建て替えや取り壊しでよくあるトラブルは、以下のとおりです。
- 共有者に連絡がつかず、同意が得られない
- 共有者が死亡しており、相続人が誰かわからない
- 同意を得るための協議で他の共有者と言い合いになる
- 共有持分が悪徳業者に売却されており、悪徳業者とトラブルになる
- 建て替え・取り壊し費用の負担割合でトラブルになる
上記の解決方法については、いずれも本記事中で解説しています。
共有者が勝手に共有不動産を解体したらどう対処すべき?
もしも他の共有者が勝手に不動産を解体したときは、解体によって被った損失について損害賠償請求を起こせます。悪質な場合は、警察への被害届提出や刑事告発なども視野に入れましょう。
土地と建物の名義人が違うときの取り壊しはどうなる?
いくら土地の所有者であっても、建物の名義人でないときは、建物を勝手に取り壊すことはできません。