共有不動産のトラブルで弁護士に依頼できること
共有不動産のトラブルが起きたとき、弁護士に依頼できるのは以下の業務です。
- 他の共有者との交渉
- 戸籍や住民票などの職務上請求
- 訴訟に関する手続きや書類作成
- 「弁護士会照会」の利用
それぞれ解説します。
他の共有者との交渉
弁護士には、他の共有者との交渉を依頼できます。
たとえば他の共有者との関係が悪く、会話すらままならない場合やトラブルになってしまっているときでも、弁護士が代わりに交渉してくれます。嫌な思いをしてまで自分で対応する必要がありません。
弁護士以外にも、「士業」には司法書士や行政書士などが存在しますが、相手との交渉を任せられるのは弁護士だけです。
もちろん、「弁護士に依頼すればどのようなケースでも解決できる」というわけではありませんが、交渉のプロとしてスムーズに進めてくれるでしょう。
また、相手に「弁護士が出てきた」というプレッシャーを与えられるため、当事者同士では頑なに話をしようとしない共有者でも、弁護士が介入することで態度が軟化し、話し合いに応じてくれるようになる可能性があります。
戸籍や住民票などの職務上請求
弁護士は、戸籍や住民票などの職務上請求が可能です。
【職務上請求とは】
受任した業務を遂行するために、職権で戸籍や住民票などを取得すること。弁護士をはじめ、司法書士や行政書士にも認められている。
共有不動産トラブルで戸籍や住民票が必要になるのは、以下のようなケースです。
- 登記上の住所から引っ越してしまい、所在がわからない共有者がいる
- 共有者が亡くなったため相続人と連絡を取りたいが、どこにいるか(場合によってはいるのかすら)わからない
たとえば共有者の所在がわからない場合、登記上の住所で住民票を取得し、引っ越し先の住所を確認する必要があります。共有者の相続人がわからないときも、共有者の戸籍をたどって相続人を1人ずつ調査しなければなりません。
しかし住民票や戸籍は、原則世帯員や配偶者・直系血族など、取得できる人が決まっており、他人が取得するには委任状が必要です。
正当な理由があるときは第三者でも委任状なしで請求できるとされていますが、「共有者が他の共有者の相続人を調査するため」という理由が正当であると認められるとは限りません。
どちらのケースも、本人から委任状をもらうことは通常不可能であるため、自分で対応しようとするとつまずくでしょう。
また、正当な理由と認められて住民票や戸籍を取得できたとしても、権利関係が複雑なケースでは、大量の戸籍を取得しなければならないこともあります。戸籍の収集に慣れていない人がすべての相続人を調査することは困難です。
弁護士であれば委任状なしで請求でき、戸籍の扱いにも慣れているため、共有者の所在調査も相続人調査もスムーズに行えるでしょう。
訴訟に関する手続きや書類作成
弁護士は、合意書や遺産分割協議書などの書類はもちろん、訴訟に関する手続きや書類作成も可能です。訴訟代理人として訴状の提出や裁判所への出頭も行えるため、訴訟手続きに慣れない依頼者にとって大きな支えとなるでしょう。
共有者間で取り決めたことを書面化したいだけであれば、行政書士に合意書の作成を依頼したほうが費用を抑えられる可能性があります。しかし行政書士は、訴訟に関する手続きや書類作成は行えません。
また、簡易裁判所で扱う訴額140万円以下の事件であれば司法書士も代理できますが、それ以上の事件となると、弁護士しか代理人になれません。
不動産の評価額が140万円以内ということはあまり考えられないため、共有不動産関連でトラブルが起きた場合の相談先は、弁護士が適しているといえるでしょう。
「弁護士会照会」の利用
弁護士は「弁護士会照会」が利用できます。
【弁護士会照会とは】
弁護士が受任している事件に関して、弁護士会から官公庁・企業などに照会をかけ、電話番号から共有者の住所を調べたり、銀行口座や残高を確認したりできる制度のこと。弁護士が事件を処理する際、証拠を得るための手段として活用される。
たとえば特定の共有者が共有不動産を他の共有者に黙って貸し、賃料を独占していたケースを例に考えてみましょう。この場合、弁護士会照会を利用し賃料を独占している共有者の銀行口座を調査すれば、賃料として誰からいくら受け取っていたかがわかります。
ただし、弁護士会照会の利用には以下の点に注意する必要があります。
- 弁護士に依頼しないと利用できない
- 照会をかけても、弁護士会や問い合わせ先が拒否すれば調査できない
弁護士会照会は、弁護士が事件を受任している際に利用できる制度です。
上記の、他の共有者が賃料を独占していたケースでいうと、たとえば賃料の返還を求める「不当利得返還請求」を弁護士に依頼していれば利用できますが、「弁護士会照会だけ」の依頼はできません。
また、照会をかけても、弁護士会が「適当な申出ではない」と判断したときや、問い合わせ先が合理的な理由によって照会を拒否したケースなど、回答を得られないこともあります。
弁護士に依頼したほうがよいケース
共有不動産に関するトラブルでも、「どのようなケースでも弁護士に依頼すべき」というわけではありません。
弁護士に依頼したほうがよいのは、以下のようなケースです。
- 他の共有者と不動産の利用方法について意見が合わない
- 同意が得られず売却・賃貸できない
- 相続によって権利関係が複雑化している
- 特定の共有者が賃料を独占している
- 所在のわからない共有者がいる
- 共有者が認知症になった
それぞれ解説します。
他の共有者と不動産の利用方法について意見が合わない
他の共有者と共有不動産の利用方法について意見が合わないときは、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。共有者間で意見が合わない場合、当事者だけではどうしようもないケースが多いためです。
当事者だけで解決しようとして、余計に溝を広げてしまう可能性もあります。また、意見が対立している間は共有不動産が適切に利用できません。
状況を悪化させないためには、共有不動産のトラブルに精通している弁護士に間に入ってもらい、冷静に話し合うことをおすすめします。
ただし、弁護士が介入することによって相手がさらにへそを曲げるケースもあります。弁護士に共有者の性格を伝え、慎重に進める必要があるでしょう。
同意が得られず売却・賃貸できない
他の共有者の同意が得られず、売却や賃貸ができない場合も弁護士に依頼したほうがよいケースの1つです。
共有不動産の売却や長期的な賃貸は、共有者全員の同意を必要とする「変更行為」に該当し、共有者全員の同意を得ない限りいつまで経っても売却や賃貸ができないためです。
なお、共有者の同意が必要かどうかは、行為によって以下のように定められています。
行為の種類 |
同意の要不要 |
具体例 |
変更行為 |
必要(共有者全員) |
・不動産全体の売却・贈与
・長期の賃貸借契約
・不動産全体への抵当権設定 |
管理行為 |
必要(持分の過半数) |
・短期の賃貸借契約
・賃貸借契約の解除 |
保存行為 |
不要(単独で行える) |
・修繕
・不法占拠者への明渡請求
・法定相続分どおりの相続登記 |
共有不動産全体を売却したくても、共有者のうち誰か1人でも反対していると売却できません。
この場合、以下のような「共有関係から抜け出す方法」を検討する必要があるでしょう。
- 自分の持分だけを売却する
- 「共有物分割請求」を行う
自分の持分だけの売却であれば、共有者の同意は不要です。他の共有者で持分を買い取ってくれそうな人がいればその共有者に譲ったり、共有持分専門の買取業者に買い取ってもらうとよいでしょう。
共有関係から抜け出すもう1つの方法は、「共有物分割請求」を行うことです。
【共有物分割請求とは】
不動産の共有状態の解消を求める手続きのこと。協議・調停・訴訟の3段階があり、協議・調停では話し合いによる解決を目指すが、訴訟では裁判所の判断に委ねられる。訴訟を行うには「共有者全員での協議が整わない」「協議すら行えない」といった状況が必要。
自分の持分を売却するなら弁護士に依頼しなくてもできますが、共有物分割請求を行うなら弁護士への相談をおすすめします。
なお、共有物分割請求訴訟の流れについては、「弁護士に共有物分割請求訴訟を依頼する際の流れ」で解説しています。ぜひチェックしてください。
相続によって権利関係が複雑化している
相続によって共有者の権利関係が複雑化しているときも、弁護士に依頼すべきです。相続関連のトラブルに自分たちで対応するのは困難であるためです。
たとえば、相続によって以下のような問題が起きるケースも珍しくありません。
- 遺産分割でもめている
- 相続人同士の仲が険悪
- 共有者と付き合いが浅く、その相続人がどこの誰なのかわからない
- 共有者が離婚と再婚を繰り返しており、相続人が大勢いる
このような問題をクリアするには、弁護士の力が必要です。前述のとおり相続人調査は簡単ではなく、相続人が判明していたとしても、面識のない一般人からの連絡は無視されることが多いためです。
対応が難しいと感じたら、迷わず弁護士に相談しましょう。
税金や管理費用の負担方法でもめる
固定資産税・都市計画税などの税金や管理費用の負担方法でもめる場合も、弁護士に依頼したほうがよいかもしれません。
基本的に、税金関係や共有不動産の維持にかかる費用は、それぞれの持分に応じて負担すべきです。
しかし、中には「仕方なく相続したが、好きで共有しているわけではない」「自分が居住していないから」といった理由で負担しようとしない共有者がいるケースもあり、トラブルになりやすい傾向にあります。
とくに固定資産税・都市計画税は代表者のみに納付書が送られ、代表者が支払ってから他の共有者に請求できる仕組みになっています。そのため、何度請求しても支払いに応じない共有者もいるでしょう。
このようなケースでは、「求償権」を行使して請求するのが一般的です。
【求償権とは】
他人の債務を立替えた際に、立替えた分を返還するよう求められる権利のこと。
まずは口頭や電話、書面などで請求し、それでも支払われないときは「内容証明郵便」を用いて請求する。最終的には支払督促や訴訟によって回収する。
注意点は、立替えた分を請求する目的で弁護士に依頼すると、弁護士費用のほうが高くつく可能性がある点です。立替えた金額と弁護士費用を天秤にかけ、よく考えてから依頼するようにしましょう。
なお、税金や管理費用が1年を超えて支払われないときは、「共有持分買取権」を行使することで相当の償金と引き換えに支払わない共有者の持分を取得できます。
第二百五十三条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
引用元: 民法第二百五十三条|e-Gov法令検索
共有者が固定資産税を払わないときの対処法や、共有持分買取権による買取請求については、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。
特定の共有者が賃料を独占している
特定の共有者が賃料を独占しているケースも、弁護士への依頼をおすすめします。
自分たちだけで解決できればよいですが、口頭や書面で余分に得た賃料の返還を求めても相手が応じない場合、「不当利得返還請求訴訟」を提起しなければ解決できない可能性があるためです。
【不当利得返還請求とは】
不当に得た利益を返還するよう求める手続きのこと。特定の共有者が賃料を独占しているときは、他の共有者から返還請求が行える。
不当利得返還請求を行うには、賃料を独占していたことを証明する証拠が必要です。
証拠には、たとえば賃料が入金されている通帳や口座の取引履歴などが該当します。振り込んだ側・振り込まれた側のどちらのものであっても、自分で通帳の写しを入手するのはハードルが高いでしょう。
しかし「弁護士会照会」の利用でも解説したとおり、弁護士には弁護士会を通じて銀行口座の情報や履歴を調査する権限があります。
また、訴訟に発展した場合、手続きには専門知識が必要であり自分で対応するのが難しくなります。「自分たちで解決できない」とわかった時点で弁護士を頼るのがベターでしょう。
所在のわからない共有者がいる
所在のわからない共有者がいるときも、弁護士に依頼したほうがよいケースです。共有不動産全体の売却やリフォーム、長期的な賃貸など、共有者全員の同意を得る必要のある行為を検討している場合、所在のわからない共有者を探す必要があるためです。
前述のとおり、共有者の所在がわからないときは、住民票を取得するなどして調査しますが、自力では難しい可能性があります。
所在がわからない共有者の持分をする「所在等不明共有者持分取得申立て」や、第三者に譲渡する権限を他の共有者が取得する「所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立て」を行う際にも、弁護士に手続きを依頼したほうが賢明でしょう。
参照:所在等不明共有者持分取得申立てについて|裁判所
参照:所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて|裁判所
共有者が認知症になった
共有者が認知症になったときも、弁護士に依頼すべきでしょう。認知症を発症し、「判断能力がない」状態になった人が行った法律行為は無効になるためです。
つまり、認知症の共有者が同意していても、その同意は無効ということです。
認知症の共有者がいる状態で売買や長期的な賃貸を行いたいなら、「成年後見制度」を検討する必要があります。
【成年後見制度とは】
認知症や知的障害、精神疾患などによって判断能力が不十分な人の財産を管理したり、法律行為を行ったりする制度。判断能力が低下してから家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」と、元気なうちに自分で後見人を決めておく「任意後見」がある。
成年後見制度を利用する場合、まずは家庭裁判所に成年後見制度の申立てを行います。弁護士に依頼すると、申立書の作成や家庭裁判所とのやりとりを代理してもらえるほか、家庭裁判所での面談に同行してもらうことも可能です。
なお、成年後見人の候補者を親族に指定することもできますが、実際には弁護士や司法書士といった専門家が選任される傾向にあります。
ただし成年後見制度は一度開始されると、成年被後見人の判断能力が回復するか亡くなるまで続く点には注意が必要です。親族ではなく専門家が後見人に選任されたときは、専門家に対して毎月2〜6万円程度の報酬が発生するため、費用面も含めて検討すべきでしょう。
成年後見人のメリット・デメリットは以下の記事で解説しています。あわせて確認してください。
【関連記事】成年後見人のメリットとデメリットは?必要な手続きや費用を紹介|ツナグ相続
参考:成年後見人等の報酬額のめやす|大阪家庭裁判所・大阪家庭裁判所堺支部・大阪家庭裁判所岸和田支部
弁護士に依頼しなくてもよいケース
弁護士に依頼しなくてもよいケースは以下のとおりです。
- 共有者との話し合いの余地がある
- 不動産を所有しなくてもいいのでとにかく共有状態から抜け出したい
それぞれ解説します。
共有者との話し合いの余地がある
共有者との話し合いの余地があるなら、弁護士に依頼するのはまだ早いかもしれません。話し合いで解決できる可能性がある場合、弁護士を投入することで不信感を与え、かえって関係性が悪くなるおそれがあるためです。
弁護士への依頼は、話し合いを試みて、「どうしても話がまとまらない」「一部の共有者が話し合いに参加してくれない」といった事態になったときに検討することをおすすめします。
不動産を所有し続けるよりもとにかく共有状態から抜け出したい
「不動産を手放してでも、とにかく共有状態から抜け出したい」というときも、弁護士への依頼は待ったほうがよいでしょう。
不動産を所有することにこだわらないのであれば、わざわざ費用をかけて弁護士に依頼しなくても、以下のような方法で共有状態から抜け出す選択肢もあるためです。
- 自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう
- 自分の持分だけを第三者に売却する
共有者の中に、持分を買い取れるだけの資力があり「持分を増やして有利な状態にしたい」「持分をすべて買い取って単独で所有したい」と考えている人がいるなら、買い取ってくれる可能性があります。
買い取る意思のある共有者がいない場合やいても資力がないときは、第三者への売却を検討するとよいでしょう。
共有持分は一般的な不動産会社では取り扱ってないケースが多いため、「共有持分専門の買取業者」に相談するのがおすすめです。
信頼のおける弁護士を見極める方法
信頼のおける弁護士を見極めるなら、以下の点を重視しましょう。
- 共有不動産トラブルに関する実績が豊富
- 対応が速い
- こまめに状況を報告してくれる
- 相談しやすい
- 料金体系が明確で説明が丁寧
- 他士業とのつながりがある
まず、共有不動産トラブルに関する実績が豊富な弁護士を選びましょう。すべての弁護士が共有不動産に精通しているとは限らないためです。共有不動産トラブルへの対応に長けている弁護士であれば、安心して任せられるでしょう。
対応の速さも重要です。共有問題は解決までに半年〜1年程度、ケースによってはそれ以上時間がかかる可能性があります。弁護士の対応が遅ければ、手続きがスムーズに進みません。
こまめに状況を報告してくれるかどうかや、相談のしやすさも大切です。放置されると「今どうなっているのか」「きちんと対応してくれているのか」と不安になるため、進捗を報告してくれる弁護士への依頼をおすすめします。
また、相談しにくいと疑問や不安が解消されず、信頼関係が築きにくいです。そのため、話しやすさや親しみやすさを重視するのもよいでしょう。
料金体系が明確で、費用について丁寧に説明してくれるかどうかも、弁護士を見極める方法の1つです。料金体系がわかりづらく、説明もあまりしてくれないような弁護士はやめておいたほうがよいでしょう。
そのほか、他士業とのつながりの有無も重要なポイントです。たとえば、法律上弁護士は不動産登記も扱えますが、対応していない事務所も多く存在します。
共有状態を解消する際は、「持分移転登記」や「抵当権抹消登記」といった登記の申請が必要になります。
依頼した弁護士が登記に対応しておらず、他士業とのつながりもない場合、登記を引き受けてくれる司法書士を探して依頼する手間が発生しますが、司法書士と提携している弁護士であれば、ワンストップで手続きしてもらえるでしょう。
弁護士に共有物分割請求訴訟を依頼する際の流れ
弁護士に共有物分割請求訴訟を依頼する際は、以下の流れで進められます。
- 共有者全員で共有物分割協議を行う
- 弁護士に相談・依頼する
- 共有物分割調停を申立てる
- 共有物分割請求訴訟を提起する
- 裁判所から判決が下る
- 判決に不服があるときは2週間以内に「控訴」する
【共有物分割協議とは】
共有者全員で、共有関係を解消するための方法を話し合うこと。
【共有物分割調停とは】
裁判所の調停委員を間に挟んだ状態で、共有関係の解消方法について話し合うこと。一度に全員が話し合うのではなく、それぞれが個別に調停委員と話をする。
【共有物分割請求訴訟とは】
裁判所に対して、共有状態の解消を求める訴訟。共有者の意向に関係なく、裁判所がもっとも適切と判断した分割方法が判決として下される。
ただし、必ずしも協議→調停→訴訟と段階を踏む必要はありません。共有物分割請求について、民法は以下のように定めています。
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
引用元: 民法第二百五十八条|e-Gov法令検索
話し合いの余地があるなら協議から始める必要がありますが、「共有者が話し合いに応じてくれない」「仲が険悪で協議どころではない」というように、協議ができない状態であればはじめから訴訟を提起できます。
調停は、行っても行わなくても自由です。
協議が難しい場合は無理に行おうとせず、はじめから訴訟を提起することも視野に入れましょう。
なお、訴訟には法的な知識が必須です。自分で対応するのは困難であるため、弁護士への相談をおすすめします。
1.共有者全員で共有物分割協議を行う
まずは共有者全員で共有関係を解消する方法について話し合います。
注意点は、「共有者全員で」協議を行う必要があることです。1人でも話し合いに応じない共有者がいるなら、無理に参加させようとせず訴訟を検討したほうがよいでしょう。
ただし、訴訟に発展すると費用や時間がかかるため、話し合いで解決することが理想です。
「第三者が間に入ってくれれば話し合えそう」という場合は、調停に進んでもよいかもしれません。
共有物分割請求については、以下の記事でも解説しています。ぜひ参考にしてください。
2.弁護士に相談・依頼する
協議がまとまらないときは、弁護士に相談・依頼しましょう。当事者だけではまとまらなくても、弁護士を交えて話し合うことで解決に向かう可能性があります。
また、調停や訴訟に進むなら、専門知識をもつ弁護士の力が必要です。わからないことや不安なことを相談しながら進められるため、精神的な負担も減らせるでしょう。
ただし弁護士に依頼すると、当然ですが費用がかかります。思いがけず高額な費用がかかる可能性もあるため、協議だけで解決した場合や訴訟まで進んだケースなど、相談の時点でパターン別に確認しておくとよいでしょう。
弁護士費用については、次章で解説します。
3.共有物分割調停を申立てる
協議で解決しなかった場合でも、「第三者が間に入ってくれればまとまりそう」であれば、共有物分割調停を申立てるとよいでしょう。
申立先は、「共有不動産の所在地または訴訟の相手方の住所地を管轄する地方裁判所」です。
前述のとおり、調停では当事者だけでなく、裁判所の「調停委員」を交えて話し合います。
【調停委員とは】
問題解決を目指し、当事者それぞれの言い分を聞いたりアドバイスしたりしながら手続きを進める裁判所の非常勤職員。弁護士や税理士、土地家屋調査士といった専門家や会社の役員などが選任される。
話し合いがまとまれば調停は成立し調停調書が作成されますが、まとまらなければ調停は不調に終わります。引き続き問題解決を目指すなら、訴訟に進む必要があります。
調停を申し立てる際の注意点は、調停委員が必ずしも共有物分割請求に関する専門知識を有しているとは限らない点です。そのため適切なアドバイスが難しく、結局それぞれの言い分を伝えるだけに終わってしまう可能性があります。
無意味な話し合いにならないよう、調停に進む前に弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けながら臨むことをおすすめします。
4.共有物分割請求訴訟を提起する
話し合いで解決しない場合、「共有不動産の所在地または訴訟の相手方の住所地を管轄する地方裁判所」に共有物分割請求訴訟を提起します。
前述のとおり、共有物分割請求訴訟は裁判所の判断によって共有状態の解消方法を決める手続きです。
裁判所は、以下の3つのうちいずれかの方法を決定します。
現物分割 |
1つの土地を分筆し、物理的に分ける方法。対象が土地の場合のみ行える。 |
代償分割 |
特定の共有者が取得する代わりに、他の共有者に相当の金銭を支払う方法。 |
換価分割 |
共有不動産を競売にかけ、それによって得た金銭を持分割合に応じて分配する方法。 |
「現物分割」は物理的に不動産を切り分ける方法であるため、共有不動産に建物が含まれているときは選ばれないケースがほとんどです。
「代償分割」は、特定の共有者が不動産を取得し、他の共有者に金銭を支払います。たとえば、AとBが2人で3,000万円の不動産を共有しておりAが代償分割によって不動産を取得する場合、AはBに対して1,500万円を支払います。
そして「換価分割」は、共有不動産を競売にかけ、売却益を分ける方法です。
たとえば、共有不動産を3,000万円で売却したとします。A・B・Cがそれぞれ3分の1ずつ所有している場合、それぞれ1,000万円ずつ分配します。
注意点は、訴訟を行うことによって、共有者同士の関係がこれまでよりも悪くなるおそれがあることです。また、あくまでも裁判所が適切と思う方法が判決として下されるため、誰も望んでいない結果になる可能性があります。
ただ、訴訟を行えば、何らかのかたちで共有問題は解決します。「どうしても共有問題を解決できないときの最終手段」と思っておきましょう。
共有物分割請求訴訟の手続きの流れは、以下の記事でも詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
5.裁判所から判決が下る
それぞれの主張や立証を踏まえ、裁判所が判決を下します。判決の内容は判決書に記載され、各共有者に郵送されます。
なお、訴訟を提起したあとでも和解することは可能です。裁判所から和解をすすめられる場合もあります。
前述のとおり、共有物分割請求訴訟は申立人の望む結果にならない可能性のある訴訟です。和解できるのであれば、和解の方向に持っていったほうがよいでしょう。
6.判決に不服があるときは2週間以内に「控訴」する
裁判所の判決に納得いかないときは、判決書を受け取ってから2週間以内であれば高等裁判所に対して「控訴」が可能です。
【控訴とは】
一審の判決に納得できない場合に、判決を下した裁判所の上級裁判所に対して不服申立てを行うこと。
2週間の期限を過ぎてしまうと判決が確定してしまうため、控訴を検討しているなら早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ただし、「控訴をすれば必ず希望どおりの判決が出る」とは限らない点に注意しましょう。むしろ、「一審よりも納得いかない結果になる可能性もある」と理解したうえで行う必要があるでしょう。
また、控訴の際は、他の共有者全員を控訴の相手方である「被控訴人」にしなければなりません。控訴するなら「他の共有者も巻き込むはめになる」ことを念頭に置いておきましょう。
不動産の共有状態を解消する際にかかる弁護士費用
不動産の共有状態を解消する際にいくら弁護士費用がかかるかは、ケースごとに異なります。
ここでは、交渉で解決した場合と訴訟まで依頼した場合の費用を紹介します。
なお、ここで紹介する費用はあくまでも一例です。報酬体系や金額は依頼する事務所によって異なります。実際にいくらかかるかは、正式に依頼する前に確認しておきましょう。
交渉で解消した場合の費用
他の共有者への交渉で共有状態を解消できた場合にかかる弁護士費用は以下のとおりです。
相談料 |
30分5,000円〜(無料の場合もあり) |
着手金 |
20万円程度 |
報酬金 |
共有状態の解消によって得た「経済的利益」の5%程度 |
日当 |
・半日:3万〜5万円程度
・1日:5万〜10万円程度 |
実費 |
通信費・郵送料・調査費用・住民票や戸籍の取得費用など |
【経済的利益】
弁護士に交渉を依頼したことによって得た利益を金銭に換算したもの。
例を見てみましょう。
・相談料:無料
・着手金:20万円
・共有持分の時価:1,000万円
・日当:3万円(交渉1回)
・実費:5,000円
上記のケースでは、73万5,000円かかります。
20万円+1,000万円×5%+3万円+5,000円=73万5,000円
訴訟まで依頼した場合の費用
協議では解消できず、訴訟まで依頼した場合にかかる弁護士費用は以下のとおりです。
相談料 |
30分5,000円〜(無料の場合もあり) |
着手金 |
30万円程度 |
報酬金 |
共有状態の解消によって得た経済的利益の5%程度 |
日当 |
・半日:3万〜5万円程度
・1日:5万〜10万円程度 |
実費 |
訴訟費用(印紙代・郵便切手代)・通信費・郵送料・調査費用・住民票や戸籍の取得費用など |
例を見てみましょう。
・相談料:1万円
・着手金:30万円
・共有持分の時価:1,000万円
・日当:15万円(裁判所への出廷3回)
・実費:訴訟費用6万円(印紙代+郵券代)+その他5,000円
上記のケースでは、102万5,000円かかります。
1万円+30万円+1,000万円×5%+15万円+6万5,000円=102万5,000円
なお、交渉から依頼し途中で訴訟に発展した場合、着手金が二重に発生することもありますが、事務所によっては訴訟手続き依頼時に訴訟と交渉の差額分を支払えば済むケースもあります。
共有持分専門の買取業者に自分の持分だけを売却するなら弁護士に頼らずできる
自分の持分だけを、共有持分専門の買取業者に売却する方法もあります。その場合、弁護士に依頼する必要はありません。
万が一売却後に共有者とトラブルになったとしても、弁護士と連携している業者を選べば安心です。
ここでは、自分の持分を共有持分専門の買取業者に売却する際のメリットを紹介します。
- 「売りたい」と思ったときにすぐ売却できる
- 仲介手数料がかからない
- 他の共有者や近隣住民に内緒で手続きを進められる
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「売りたい」と思ったときにすぐ売却できる
共有持分専門の買取業者に持分を売却するメリットの1つは、「売りたい」と思ったときにすぐ売却できることです。仲介のように、買主が現れるのを待つ必要がないためです。
ケースにもよりますが、数日〜1週間程度、遅くとも1カ月あれば現金化できるため、現金化を急いでいるときに適しています。
すぐに売却したいなら、買取業者への売却を検討することをおすすめします。
仲介手数料がかからない
仲介業者のように、仲介手数料がかからないというメリットもあります。買取業者に売却する場合、買取業者が買主になるためです。
仲介手数料は、不動産の売却金額に応じてかかる費用であり、上限が以下のように決まっています。
売却金額 |
上限 |
200万円以下 |
5%+消費税 |
200万円超400万円以下の部分 |
4%+2万円+消費税 |
400万円超の部分 |
3%+6万円+消費税 |
たとえば売却金額1,000万円の共有持分を仲介で売却し、上記の上限どおりの仲介手数料を支払う場合、以下の金額がかかります。
400万円×4%+2万円+消費税=19万8,000円
600万円×3%+6万円+消費税=26万4,000円
合計:46万2,000円
売却先に買取業者を選択した場合は、上記の費用が節約できます。
他の共有者や近隣住民に内緒で手続きを進められる
他の共有者や近隣住民に内緒で売却手続きを進められる点も、買取業者に売却するメリットです。
たとえば仲介業者なら、買主を探すために広告を出します。広告を他の共有者や近隣住民が目にすれば、売却しようとしていることが知られてしまいます。
しかし買取業者なら一般への広告を出さないため、内緒で手続きを進められるでしょう。
登記の情報や固定資産税の納税通知書などから将来的に知られる可能性は高いため、永久に内緒にしておくことは難しいですが、手続き中に知られると都合が悪いときは買取業者への売却を検討することをおすすめします。
まとめ
共有不動産のトラブルで弁護士に依頼できることや、依頼したほうがよいケースなどについて解説しました。
弁護士には、他の共有者への交渉や訴訟に関する手続き・書類作成、「弁護士会照会」の利用などを依頼できます。
戸籍・住民票の職務上請求は他士業でもできますが、上記3つは弁護士にしかできない業務であるため、共有不動産トラブルの相談先には弁護士が適しているといえるでしょう。
ただし、「どのようなケースでも弁護士に依頼すればよい」というわけではありません。たとえば、「他の共有者の同意が得られない」「特定の共有者が賃料を独占している」といったケースでは、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
一方、共有者と十分話し合いができる場合や、不動産を所有し続けることにこだわりがなく、とにかく共有状態から抜け出したいと思っているときは、費用をかけてまで弁護士に依頼しなくてもよいかもしれません。
なお、自分の持分だけを共有持分専門の買取業者に売却するなら、弁護士に依頼しなくても手続きが可能です。弁護士と提携している買取業者であれば、もしものときに弁護士を手配してもらえるため、安心して取引できるでしょう。
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