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成年後見人が不動産を売却する方法!家庭裁判所での手続きを踏まえた流れも解説

もし親が認知症を患ってしまい、判断能力が不十分になった場合、「使っていない不動産は売却できるのか」のように考える人もいるかもしれません。

結論から言えば、「成年後見人制度」を利用して代理人を選任することで、不動産売却を代行することが可能です。

ただし、成年後見人は本人の意思を尊重したうえで、不動産などの財産を管理しなければなりません。そのため、成年後見人に選任されたからといって、自由に不動産を売却できるわけではありません。

そして、売却する不動産が居住用なのか非居住用であるかどうかによって、家庭裁判所から許可を得る必要性が変わります。

端的にいえば、今後も居住の可能性がなければ家庭裁判所からの許可は必要ありませんが、「今後本人がその物件に住む可能性がある」という場合は家庭裁判所からの許可が必須となります。

許可の必要性に応じて売却手続きが変わるため、成年後見人として不動産を売却する場合、まずは自身の状況で許可を取る必要があるのかを確かめてみましょう。

当記事では、成年後見人制度の概要から、成年後見人として不動産を売却する方法や家庭裁判所から許可を得るための手順などまで解説していきます。成年後見人として不動産売却を検討している場合には参考にしてみてください。

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成年後見人制度で不動産売却における代理人に認められる権限は?

そもそも成年後見人制度(せいねんこうけんにんせいど)とは、認知症や障がいなどによって判断能力が低下した人の代わりに、さまざまな契約や手続きを代行するための制度のことです。

成年後見人制度には、「任意後見」「法定後見」の2種類があります。これらには下記のような違いがありますが、簡単にいえば本人の意思が選任に反映されるのかどうかが異なります。

任意後見制度 判断能力があるうちに本人が後見人を選任する
法定後見制度 本人ではなく家庭裁判所が法定後見人を選任する

成年後見人として選任されるために必要な資格はなく、信用がある人であれば原則的には成年後見人になることが可能です。そして、成年後見人として選任された場合には財産の管理も行えるため、不動産の売却も代行が可能です。

後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
引用元 e-Gov「民法」

ただし、成年後見人は本人の意思を尊重することを前提として、財産の管理などを行わなければなりません。そのため、成年後見人として選任されたからといって、本人の不動産を自由に独断で売却することはできません。

つまり、成年後見人には不動産売買を代行する権限は認められていますが、その手続きは本人の意思を尊重しつつ行う必要があるということです。

「売却する必要性がないのに不動産を売却する」「本人に残したい意思があるのに不動産を売却する」といった行為は、成年後見人であっても認められません。

成年後見人の種類にかかわらず不動産売却は自由に行えない

成年後見人には「任意後見」「法定後見」の2種類があると説明しましたが、法定後見も「後見人」「保佐人」「補助人」の3種類にわかれます。

これは、本人の判断能力の程度に応じて家庭裁判所で選任されます。端的にまとめれば、本人の判断能力の低下の度合いが大きい順で後見人、保佐人、補助人となり、権限は後見人が1番大きく、補助人がもっとも小さくなります。

そのため、「後見人であれば自由に不動産を売却できるのか」「補助人だと不動産を売却できないのか」などと考えるかもしれませんが、成年後見人の種類にかかわらず不動産売却は自由に行うことができません。

そもそも成年後見人制度は、判断能力が低下した人をサポートするための制度です。そのため、種類にかかわらず成年後見人は本人の意思のもとで不動産売却をしなければなりません。

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
引用元 e-Gov「民法」

このように民法で定められているため、成年後見人として不動産を売却する際には、本人の意思を考慮して手続きを進めるようにしましょう。

成年後見人が不動産売却を代行する際には家庭裁判所に相談するのが無難

成年後見人が不動産売却を代行する際には、家庭裁判所から許可をもらわなくてはならないケースがあります。家庭裁判所から許可をもらう必要があるかどうかは、売却する不動産が居住用か非居住用であるかが基準になります。

端的にいえば、成年後見人が居住用不動産を売却するのであれば、家庭裁判所からの許可が必須であり、非居住用不動産であれば原則不要です。

とはいえ、成年後見人が不動産を売却する際には、許可の必要性にかかわらず家庭裁判所に相談をしておくべきといえます。その理由について、下記2パターンで解説していきます。

  • 居住用不動産を売却する場合:許可が必須なため
  • 非居住用不動産を売却する場合:許可は不要でも後見人としての適正を疑われる可能性があるため

居住用不動産の売却ではすべてのケースで家庭裁判所から許可をもらう必要がある

民法で定められているように、成年後見人が居住用不動産を売却する場合には、家庭裁判所に申し立てをしたうえで許可を得る必要があります。

成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
引用元 e-Gov「民法」

居住用の不動産を売却するために家庭裁判所の許可が必要とされている理由は、成年後見制度の対象である本人を保護するためです。

まず、本人にとって居住用の物件が確保されていることは生活していくうえで非常に重要なことです。成年後見人の行為だからといって、単に委任状などで居住用の家屋を勝手に処分されてしまっては、家がなくなった際に非常に困ることになります。

次に、居住用の家屋が生活に必要であるだけでなく、本人にとっては居住環境が急激に変化しないことも重要になってきます。急に住環境が変化することは認知症の進行原因となる可能性があるため、それを防止する必要があります。

なお、居住用不動産に該当する例としては、下記が挙げられます。

  • 現時点で本人が居住している物件
  • 一時的に入院や施設への入居をしているが、本人が将来居住する可能性のある物件

当然現在住んでいる物件を売却するには、家庭裁判所の許可が必要です。また、現時点では物件に住んでいなくても、将来的に本人が住む可能性がある物件だと、家庭裁判所の許可がなければ売却できません。

家庭裁判所から許可を得ずに居住用不動産を売却すると契約無効になる

成年後見人が家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を売却した場合、その売買契約は無効になります。法律における無効とは、その法律行為がはじめから効果がないことを意味するものです。

例えば、家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を500万円で売却したとしても、売買は無効になるので買主はその不動産の所有権を取得することはできません。

売り主は受け取った500万円を買主に返すことになります。居住用不動産を同意なしに売却した場合の不利益は、売買が無効になるだけに留まらない可能性があります。また、家庭裁判所に成年後見人の義務をきちんと果たしていないと判断されて、解任されてしまうこともあります。

成年後見人として居住用不動産を売却する場合には、必ず家庭裁判所に申し立てをして許可をもらうようにしてください。

非居住用不動産の売却で許可は不要でも家庭裁判所に事前相談しておくべき

前提として、成年後見人が非居住用不動産を売却する場合、家庭裁判所に許可を得る必要はありません。成年後見人の居住用でなければ、生活の本拠として特別に保護する重要性はなくなることから、居住用の不動産と異なり家庭裁判所の許可までは要求されないということです。

とはいえ、非居住用不動産を売却する前には、家庭裁判所に相談しておくのが無難です。

成年後見人といえども本人の意思を無視して、不動産を売却することはできません。民法で定められているように、成年後見人が不動産を売却する際には、本人の意思を尊重したうえで、身上を配慮する必要があります。

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
引用元 e-Gov「民法」

そのため、成年後見人が非居住用不動産を売却するには、その物件を売却しなければならない理由が必要です。売却が認められる例としては、「本人の生活費を確保する」「本人の医療費を捻出する」などの理由が挙げられます。

売却の理由が正当ではない場合、成年後見人に課されている身上配慮義務に反すると家庭裁判所に判断される場合があります。そのため、成年後見人が非居住用不動産を売却する際には、事前に売却理由が適切なものであるかを家庭裁判所に相談しておくのが良いでしょう。

成年後見監督人が選任されている場合には不動産の居住にかかわらず同意が必要

民法で定められているように、成年後見監督人が選任されている場合には、原則その人から同意を得る必要があります。

後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない。
引用元 e-Gov「民法」

成年後見監督人とは、主に家庭裁判所が必要と判断した場合に選任される人物で、成年後見人をサポートする立場になります。通常は弁護士が監督人を務めるのが一般的です。

成年後見監督人が選任されている場合、不動産に居住する可能性にかかわらず、その人からの同意が必要になります。

そのため、居住用不動産であれば、成年後見監督人から同意を得てから家庭裁判所に許可をもらう必要があり、非居住用不動産であれば、売却前に成年後見監督人からの同意が必要になる流れです。

つまり、成年後見監督人が選任されているのであれば、成年後見人が独断で不動産を売却することはできません。

成年後見人が不動産売却を代行する流れ

成年後見人が不動産売却を代行する場合、家庭裁判所や成年後見監督人からの同意を得る必要性を除けば、通常物件を売却する流れと基本的には変わりません。

成年後見人が不動産売却を代行するおおまかな流れをまとめましたので、参考にしてみてください。

  1. まずは家庭裁判所で成年後見申立ての手続きを行う
  2. 不動産会社と媒介契約を結ぶ
  3. 買い手と不動産の売買契約を結ぶ
  4. 家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする
  5. 決済・引き渡しを行う

ここからは成年後見人が不動産売却を代行する流れについて、それぞれ詳しく解説していきます。

1. まずは家庭裁判所で成年後見申立ての手続きを行う

まずは、成年後見申立ての手続きを行う必要があります。成年後見の申し立ては、成年後見の対象となる本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申請します。

成年後見の申立てができる人物は以下のとおりです。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族
  • 市区町村長

4親等内の親族には、本人からみた親・祖父母・子・孫・ひ孫・兄弟姉妹・いとこ・叔父・叔母・甥・姪などが該当します。

成年後見の申立てが受理されると、「申立書類の内容」「本人に関係する様々な事情」などを考慮したうえで、家庭裁判所から後見人が選任されます。

成年後見人が選任されるまでの期間については、ケースによりますが、3か月程度かかるのが一般的です。

なお、裁判所に申立てをする際は、後見人の候補者を推薦できますが、必ずしも推薦した人物が後見人に選ばれるとは限りません。後見人を誰にするかは最終的に裁判所が決めることになり、親族以外の弁護士や司法書士などの有識者が選任されることもあります。

また、申立て後は裁判所の許可がなければ、申請を取り下げることはできません。希望した候補者が後見人に選ばれなくても、申請は取り下げられないため、申請は慎重におこないましょう。

成年後見申立ての手続きで不明点があれば弁護士に相談しよう

家庭裁判所で成年後見申立てをする際には事前に書類作成をしたり、裁判所への申告したりする必要があります。そして、成年後見制度の利用には法律の知識が必要になります。

家庭裁判所で成年後見申立ての手続きを正しくできるか不安な人や、最初になにから手をつけるべきか迷ってしまうという人も多いでしょう。

そのような人は、弁護士に相談しながら成年後見申立ての手続きを進めたほうが確実かつスムーズです。

とくに、不動産問題に詳しい弁護士に相談すれば、成年後見制度の申立てからその後の不動産売却まで、一貫したアドバイスがもらえるためおすすめです。

成年後見申立ての手続きで不明点がある場合には、まずは弁護士事務所の無料相談を利用して、具体的になにをすべきかアドバイスをもらうとよいでしょう。

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2. 不動産会社と媒介契約を結ぶ

成年後見人が選任された後は、物件売却を依頼する不動産会社を探しましょう。そして、不動産会社を決めた後には、その業者と媒介契約を結び、不動産の買い手を探すための売却活動を進めてもらいます。

3. 買い手と不動産の売買契約を結ぶ

不動産の買い手が見つかった際には、売買契約を結びます。基本的には仲介をしてくれる不動産会社が主体となって売買契約を進めます。

なお、成年後見人が不動産の売買契約をする際には、停止条件をつけて契約を締結する必要があります。

成年後見人が不動産を売却する場合、家庭裁判所から許可がおりないケースもあります。その時に不動産の売買契約が無効になるようにするため、売買契約には停止条件をつけなければなりません。

4. 家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする

売却する不動産が居住用である場合のみですが、買い手と売買契約を結んだ後には、家庭裁判所から許可を得る必要があります。そのため、本人の住所を管轄する家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをしましょう。

家庭裁判所に不動産売却許可を得るには、以下の要素が重要です。

  • 売却の必要性
  • 本人や親族の意向
  • 本人の帰宅先の確保
  • 本人の生活状況
  • 売却条件や金額
  • 代金の保管方法

なお、家庭裁判所から売却許可がおりなければ、停止条件がついているため、買い手との売買契約は無効になります。

5. 決済・引き渡しを行う

最後は契約内容に沿って決済と不動産の引き渡しが行われます。

決済や引き渡しの日程は、売買契約を締結させる際に決定されます。売買契約の際には、引き渡しの都合がつきそうな日程をあらかじめ決めておき、その日に引き渡しができるようにスケジュールを調整しておくとよいでしょう。

成年後見人が不動産売却を代行するにはさまざまな書類が必要になる

成年後見人が不動産売却を代行する場合、さまざまな書類が必要です。成年後見人が書類提出をするタイミングとしては、「成年後見申立て」「家庭裁判所への不動産売却許可の申し立て」が挙げられます。

ここからは、これらのタイミングで提出が求められる必要書類について解説していきます。

成年後見申立ての手続きをする際に必要な書類

成年後見申立てに必要になる書類については、主に以下のようなものがあります。

必要書類 概要
申立書 申立人の住所、氏名、職業、本人との関係、本人の本籍、住所、氏名などを記載した申立書。
申立書付票 申立書に関連する事柄について詳しく確認するための書類。裁判所との連絡方法、申立ての主な目的、本人の親族が申立てに賛成しているか、本人の生活状況などについて記載する。
後見人等候補者身上書 後見人等の候補者の身上について記載する書類。氏名、住所、本人との関係、破産した経験の有無、職業、収入、経歴などを細かく記載する。
親族関係図 配偶者、父母、兄弟姉妹、子や孫などの本人の親族関係を記入する書類。氏名や生年月日などを記入する。
本人の財産目録 本人の財産を一覧で把握するための書類。

記載する内容としては、土地や建物などの不動産、現金、預貯金、債権、保険、株式、投資信託、住宅ローン等の負債などが挙げられる。
本人の収支予定表 本人の年間の収入と支出の金額の予定表。

事業、年金、賃料などの収入、住宅費や光熱費などの日常生活費、税金や社会保険などの公租公課、債務弁済や扶養家族の生活費などを記載する。
本人の診断書 本人の名義で主治医に作成してもらう診断書。判断能力に影響する診断名や所見、認知症や脳の損傷などの各種検査の結果、判断能力についての医師の意見などが確認される。
本人に成年後見等の登記がされていないことの証明書 本人が既に成年後見等の対象として登記されていないことを証明する書類で、一般的には東京法務局に郵送請求して入手する。
本人の財産等に関する資料 本人の財産である不動産、預貯金、株式、保険、収入、支出、負債などに関する資料。

例としては、不動産全部事項証明書、預貯金通帳、株式の残高報告書、保険証書、年金額決定通知書、納税通知書、返済明細書などが挙げられる。
その他の必要書類 本人と後見人等候補者の戸籍謄本、後見人等候補者の住民票の写し、本人の健康状態についての資料(精神障害者手帳、身体障害者手帳、療育手帳など)が挙げられる。

なお、上記の必要書類は一般的なものです。成年後見の申立てに必要な書類はケースによって異なる場合が多いため、申立ての際には管轄の家庭裁判所に確認することが大切です。

家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする際に必要な書類

成年後見人が居住用不動産を売却する際には、本人の住所地を管轄する家庭裁判所で申立てが必要です。その際には、下記のような必要書類の提出が求められます。

  • 不動産の全部事項証明書
  • 不動産の売買契約書の案
  • 不動産の評価証明書
  • 不動産会社が作成した査定書
  • 800円程度の収入印紙や郵送用の郵便切手
  • 【本人や成年後見人の住所に変更がある場合】住民票の写しまたは戸籍附票
  • 【成年後見監督人がいる場合】意見書

不動産の売買契約書の案とは、売却を予定している居住用不動産の買い手候補と相談し、あらかじめ契約書の案を作成しておくものです。許可が得られるかについては様々な要素が考慮されます。

なお、必要書類の詳細は家庭裁判所によって異なる場合があります。家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする際には、事前にどのような書類が必要なのかを相談しておくのが良いでしょう。

成年後見人に選任された場合のトラブル事例!事前にトラブル回避策を把握しておこう

成年後見制度トラブル

成年後見人制度は本人の利益を保護するために後見人に様々な権限が付与されるものですが、それを後見人が濫用した場合や本人の家族と利害が一致しない場合などにトラブルが生じることがあります。

成年後見制度に関して発生することが多い代表的なトラブル、それを回避するためのポイントについてご紹介します。

後見人によるお金の使い込み

成年後見人は本人の財産を管理する立場になりますが、就任した当初は本人のためにきちんと管理していても、月日の経過によって管理の姿勢に緩みが生じることがあります。

気持ちの緩みによって管理している財産が自分のもののように感じることに加えて、後見人の私生活等における金銭トラブルが重なることで、後見人が本人の財産を使い込んでしまうという事件も発生しています。

本人と後見人が親子関係にある場合は、親の財産といっても他人のものであるという感覚が薄れてしまいがちです。

一方、本来は客観的な立場にある弁護士や司法書士が後見人になった場合でも、横領が発覚して事件になった例があります。

後見人によるお金の使い込みを防止するには、本人との関係が良好で責任感が強い親族や古くからの付き合い等によって信頼性の高い専門家などに任意後見を依頼する方法が有効です。

複数人が関与する組織になっていることで不正が起こりにくい弁護士法人などに依頼する方法もあります。

配偶者の財産を受け取れない

法定後見人の判断によって、本人の配偶者が必要な金銭を受け取ることを拒否されてしまうトラブルです。

具体的なケースとしては、長年一緒に暮らしてきた老夫婦の夫が認知症となったところ、妻は家庭裁判所からの通知によって知らない弁護士が法定後見人に選任されたことを知りました。

長年専業主婦だったこともあり、妻はそれまで夫の年金で生活のやりくりをしていたところ、年金が振り込まれる金融機関の預金通帳やキャッシュカードは、後見人の弁護士が財産管理をすることになりました。

年金がなければ生活に必要な費用が捻出できないため、後見人の弁護士に年金を引き出すように頼んだところ、本人の財産を減少させるわけにはいかないという理由で拒否されてしまいます。

それまでの生活の支えであった夫の年金を引き出せなくなったことで、妻の生活は非常に苦しくなってしまいました。

成年後見人制度は本人の財産等を保護するための制度なので、本人の年金などの財産が配偶者の生活の支えであった場合、必要だと主張しても後見人の判断によって断られるリスクがあります。

経済的に必要な家族にとっては困ってしまいますが、本人の財産を保護するという観点からは一概に否定できないため、後見人の主張を崩すことは難しくなっています。

法定後見人は最終的には家庭裁判所が選任するため、申立人の立候補や推薦があっても、必ずしも後見人になれるとは限りません。

確実に後見人になるには、認知症になって本人の判断能力が低下する前に、本人との合意によって任意後見契約を締結し、資産の管理を家族に任せる家族信託などの制度を活用することが重要です。

約束の金銭が支払われない

本人が贈与や支払いを約束してくれたので安心して待っていたところ、約束後に本人が判断能力を喪失して後見が始まり、約束の支払いを求めたら法定後見人に拒否されたというトラブルです。

具体例としては、子どもが大学に進学する際に必要な学費について、入学金や4年分の授業料を支払ってくれることを、祖父である本人が判断能力を喪失する前に約束してくれました。

その後、祖父が判断能力を喪失して後見開始となった後、子どもが大学に合格したので入学金や授業料の支払いをお願いしたところ、本人のために管理している金銭なので入学金や授業料を支払うことはできないと法定後見人に断られてしまいました。

本人が判断能力を喪失する前に贈与や支払いを約束していた金銭の内容としては、授業料などの学費のほかにも借金の肩代わり、ローンの頭金、リフォーム代などがあります。

せっかく法定後見制度を利用したにもかかわらず、金銭の支払いについてトラブルになるケースは少なくありません。

お金を必要とする親族等の意向と本人の財産を保護するという法定後見人の仕事が噛み合わないことが主な原因です。

注意点として、法定後見人が金銭の支払いを断る理由が、必ずしも本人のためだけではないという場合もあります。

法定後見人の報酬は本人の財産から支払われるため、自分の報酬を確保するためにより多くの財産を確保しておこうとするケースも残念ながら存在します。

約束の金銭が支払われないことを防止するためには、単に口約束だけで済ませるのではなく、判断能力を喪失する前に実際に金銭を贈与してもらう方法が確実です。

親との面会を拒否される

認知症などで入居している本人(親)の施設に面会に行ったところ、施設や法定後見人から面会させることはできないと親に会うことを拒否されたトラブルです。

具体例としては、成年後見を開始した高齢の母親が入居している老人ホームを訪れた家長の長男が、受付で面会を希望したところ、後見人の弁護士に会わせるなと言われているという理由で面会を拒否されてしまいました。

長男が母親に会わせてほしいと交渉したところ、施設が警察を呼んだことで大きな騒ぎになってしまったというケースです。

親との面会を拒否される理由は様々ですが、子どもの間で親が所有する不動産の管理について争いがあり、自分が優位に立つために他の兄弟姉妹を親に会わせないように画策する場合があります。

本人の相続人である子どもたちの間で財産などについて対立がある場合、自分や親しい弁護士などを後見人にして、有利な立場になろうとします。

法定後見制度の特徴は、後見の対象となる家族全員の同意がなくても申請できる点です。

これを利用して自分や知り合いを法定後見人にし、後の遺産分割協議などに備えて他の家族を制限するという仕組みです。

成年後見制度は本人を保護するために後見人に権限が与えられていますが、本人に面会を希望する子どもを拒否して会わせないなどの行為が許される明確な法規等は存在しません。

もっとも、不当に面会を拒否されたからといって興奮したり激昂したりしてしまうと、怪我や事故などの思わぬトラブルにつながるおそれもありますので、冷静に対処する必要があります。

無用なトラブルを防止するためには、やはり任意後見制度を利用して予め権利関係をきちんと整理しておくことが重要です。

また、日頃から家族で話し合いの機会を設けるなど、争いを未然に防止する努力も大切でしょう。

まとめ

認知症などによって不動産所有者の判断能力が低下しても、成年後見人制度で後見人を選任すれば、代理で不動産を売却できます。

成年後見人制度には任意後見制度と法定後見制度の2種類がありますが、いずれの場合でも成年後見人が自由に不動産売却をすることはできません。また、居住用不動産の場合には家庭裁判所から許可がなければ、売却は認められません。

さらに、成年後見人が非居住用不動産を売却する場合であっても、その物件を売却しなければならない理由が必要です。そのため、成年後見人が不動産を売却する場合、基本的には家庭裁判所に相談しておくのが無難といえます。

なお、法定後見制度の場合、後見人は最終的に家庭裁判所の選任をするため、弁護士をはじめとする専門家の協力が必要になるケースもあります。

そのため、成年後見人が不動産売却を代行したい場合、まずは「弁護士と提携した不動産会社」などの専門家に相談することをおすすめします。成年後見人の選任から不動産売却まで、スムーズに進められるように協力してもらうとよいでしょう。

成年後見人が不動産を売却する際のよくある質問

成年後見人には、誰が選ばれますか?

信頼できる親族や、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。

どうすれば、成年後見人を選任できますか?

成年後見の対象となる人物の住所地を管轄する家庭裁判所に申請しましょう。

成年後見人が不動産を売却するには、どうすればよいですか?

成年後見人が不動産を代理で売却する場合、家庭裁判所の許可をもらいましょう。

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更新日 : 2024年05月23日
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