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成年後見人が不動産を売却する方法!家庭裁判所での手続きを踏まえた流れも解説

もし親が認知症を患い、判断能力が低下してしまった場合、「空き家になっている実家を売却したい」「介護費用を捻出するために不動産を現金化したい」と考えるご家族も少なくありません。

結論から言えば、「成年後見人制度」を利用して代理人を選任することで、不動産売却を代行することが可能です。

ただし、成年後見人は本人の意思を尊重したうえで、不動産などの財産を管理しなければなりません。そのため、成年後見人に選任されたからといって、自由に不動産を売却できるわけではありません。

実際に、「介護施設へ入所したので空き家になった実家を売却したい」「老人ホームの費用を確保したい」といった理由でご相談いただくケースが多いです。ただし、家庭裁判所が「本人保護の観点」を重視するため、売却理由や必要性を丁寧に整理することが重要になります。

成年後見人による不動産売却では、その不動産が「本人の生活拠点になっているか」が重要な判断ポイントになります。

具体的には、本人が現在住んでいる自宅はもちろん、現在は老人ホームや病院に入っていて空き家になっていても、「将来的に自宅へ戻る可能性がある」と判断される場合には、居住用不動産として扱われるケースがあります。

居住用不動産を売却する場合には、成年後見人だけの判断では進められず、家庭裁判所の許可が必要です。

一方で、本人が今後住む予定のない空き家や、賃貸に出しているアパート、使っていない土地などは「非居住用不動産」と判断されることがあり、原則として家庭裁判所の許可なしで売却できます。

実務上は「本当に本人のためになる売却なのか」が重視されるため、非居住用不動産であっても、売却理由や必要性を整理したうえで家庭裁判所へ事前相談するケースもあります。
成年後見人として不動産売却を進める際には、まず「家庭裁判所の許可が必要なケースか」を確認したうえで、売却理由や今後の生活状況を整理しながら進めることが重要です。

当記事では、成年後見人制度の概要から、成年後見人として不動産を売却する方法や家庭裁判所から許可を得るための手順などまで解説していきます。成年後見人として不動産売却を検討している場合には参考にしてみてください。

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成年後見人制度で不動産売却における代理人に認められる権限は?

そもそも成年後見人制度(せいねんこうけんにんせいど)とは、認知症や障がいなどによって判断能力が低下した人の代わりに、様々な契約や手続きを代行するための制度のことです。

成年後見人制度には、「任意後見」「法定後見」の2種類があります。これらには下記のような違いがありますが、簡単にいえば本人の意思が選任に反映されるのかどうかが異なります。

任意後見制度 判断能力があるうちに本人が後見人を選任する
法定後見制度 本人ではなく家庭裁判所が法定後見人を選任する

成年後見人として選任されるために必要な資格はなく、信用がある人であれば原則的には成年後見人になることが可能です。そして、成年後見人として選任された場合には財産の管理も行えるため、不動産の売却も代行が可能です。

後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
引用元 e-Gov「民法」

ただし、成年後見人は本人の意思を尊重することを前提として、財産の管理などを行わなければなりません。そのため、成年後見人として選任されたからといって、本人の不動産を自由に独断で売却することはできません。

つまり、成年後見人には不動産売買を代行する権限は認められていますが、その手続きは本人の意思を尊重しつつ行う必要があります。

そのため、成年後見人であっても、本人の意思や生活状況を無視して独断で不動産を売却することは認められていません。

成年後見人の種類にかかわらず不動産売却は自由に行えない

成年後見人には「任意後見」「法定後見」の2種類があると説明しました。法定後見も「後見人」「保佐人」「補助人」の3種類にわかれます。

これは、本人の判断能力の程度に応じて家庭裁判所で選任されます。端的にまとめれば、本人の判断能力の低下の度合いが大きい順に後見人、保佐人、補助人となり、権限は後見人が1番大きく、補助人がもっとも小さくなります。

そのため、「後見人であれば自由に不動産を売却できるのか」「補助人だと不動産を売却できないのか」などと考えるかもしれませんが、成年後見人の種類にかかわらず不動産売却は自由に行うことができません。

そもそも成年後見人制度は、判断能力が低下した人をサポートするための制度です。そのため、種類にかかわらず成年後見人は本人の意思のもとで不動産売却をしなければなりません。

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
引用元 e-Gov「民法」

このように民法で定められているため、成年後見人として不動産を売却する際には、本人の意思を考慮して手続きを進めるようにしましょう。

成年後見人が不動産売却を代行する際には家庭裁判所に相談するのが無難

成年後見人が不動産売却を代行する際には、家庭裁判所から許可をもらわなくてはならないケースがあります。家庭裁判所から許可をもらう必要があるかどうかは、売却する不動産が居住用か非居住用であるかが基準になります。

端的にいえば、成年後見人が居住用不動産を売却するのであれば、家庭裁判所からの許可が必須であり、非居住用不動産であれば原則不要です。

ただし、実務上は、非居住用不動産であっても事前に家庭裁判所へ相談しておくケースが少なくありません。

というのも、成年後見人には「本人の利益のために財産を管理する義務」があるため、「なぜ売却が必要なのか」を合理的に説明できないと、後から後見事務の適切性を問われる可能性があるためです。

実際にご相談いただくケースでも、「空き家の維持費が負担になっている」「固定資産税や管理費の支払いが難しい」「介護施設費用を確保したい」といった事情から売却を検討されるケースが多く見られます。

こうした事情が客観的に整理されているほど、実務上も手続きを進めやすくなる傾向があります。

  • 居住用不動産を売却する場合:許可が必須なため
  • 非居住用不動産を売却する場合:許可は不要でも後見人としての適正を疑われる可能性があるため

居住用不動産の売却ではすべてのケースで家庭裁判所から許可をもらう必要がある

民法で定められているように、成年後見人が居住用不動産を売却する場合には、家庭裁判所に申し立てをしたうえで許可を得る必要があります。

成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
引用元 e-Gov「民法」

居住用の不動産を売却するために家庭裁判所の許可が必要とされている理由は、成年後見制度の対象である本人を保護するためです。

まず、本人にとって居住用の物件が確保されていることは生活していくうえで非常に重要なことです。成年後見人の行為だからといって、単に委任状などで居住用の家屋を勝手に処分されてしまっては、家がなくなった際に非常に困ることになります。

次に、居住用の家屋が生活に必要であるだけではなく、本人にとっては居住環境が急激に変化しないことも重要になってきます。急に住環境が変化することは認知症の進行原因となる可能性があるため、それを防止する必要があります。

なお、居住用不動産に該当する例としては、下記が挙げられます。

  • 現時点で本人が居住している物件
  • 一時的に入院や施設への入居をしているが、本人が将来居住する可能性のある物件

当然現在住んでいる物件を売却するには、家庭裁判所の許可が必要です。また、現時点では物件に住んでいなくても、将来的に本人が住む可能性がある物件だと、家庭裁判所の許可がなければ売却できません。

家庭裁判所から許可を得ずに居住用不動産を売却すると契約無効になる可能性がある

成年後見人が家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を売却した場合、その売買契約は無効となる可能性があります。法律における無効とは、その法律行為がはじめから効果がないことを意味するものです。

たとえば、家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を500万円で売却したとしても、売買は無効になるので買主はその不動産の所有権を取得することはできません。

売り主は受け取った500万円を買主に返すことになります。居住用不動産を同意なしに売却した場合の不利益は、売買が無効になるだけにとどまらない可能性があります。

また、成年後見人としての財産管理が不適切だと判断された場合には、家庭裁判所から後見人の解任や、損害賠償責任を問われる可能性もあります。

実務上も、不動産会社や司法書士が「家庭裁判所の許可書」を確認してから決済へ進むケースが一般的です。そのため、居住用不動産を売却する際には、事前に家庭裁判所へ相談し、必要な許可を得たうえで手続きを進めることが重要です。

非居住用不動産の売却で許可は不要でも家庭裁判所に事前相談しておくのが無難

前提として、成年後見人が非居住用不動産を売却する場合、家庭裁判所に許可を得る必要はありません。本人の居住用でなければ、生活の本拠として特別に保護する重要性はなくなることから、居住用の不動産と異なり家庭裁判所の許可までは要求されません。

とはいえ、非居住用不動産を売却する前には、家庭裁判所に相談しておくのが無難です。

成年後見人といえども本人の意思を無視して、不動産を売却することはできません。民法で定められているように、成年後見人が不動産を売却する際には、本人の意思を尊重したうえで、身上を配慮する必要があります。

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
引用元 e-Gov「民法」

そのため、成年後見人が非居住用不動産を売却するには、その物件を売却しなければならない理由が必要です。売却が認められる例としては、「本人の生活費を確保する」「本人の医療費を捻出する」などの理由が挙げられます。

実際に、弊社へご相談いただく方の中にも、「親族から勝手に売却したと責められている」「後見人の判断が問題視されている」といったケースは一定数あります。
実務上は許可が不要だから何もしなくてよいではなく、売却理由や査定根拠を整理したうえで、家庭裁判所や専門家へ事前相談しておくことがトラブル防止につながります。

売却の理由が正当ではない場合、成年後見人に課されている身上配慮義務に反すると家庭裁判所が判断する場合があります。そのため、成年後見人が非居住用不動産を売却する際には、事前に売却理由が適切なものであるかを家庭裁判所に相談しておくのが良いでしょう。

成年後見監督人が選任されている場合には不動産の居住にかかわらず同意が必要

成年後見監督人が選任されている場合、成年後見人が重要な財産行為を行う際には、監督人への事前相談や同意が必要になるケースがあります。

後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない。
引用元 e-Gov「民法」

成年後見監督人とは、家庭裁判所が必要と判断した場合に選任される立場で、成年後見人による財産管理や後見事務を監督する役割を担います。実務上は、弁護士や司法書士などの専門職が選任されるケースが一般的です。

不動産売却は本人の財産や生活に大きな影響を与える重要な行為であるため、成年後見監督人が選任されている場合には、居住用・非居住用を問わず、事前に監督人へ相談しながら進めるのが通常です。

とくに居住用不動産を売却する場合には、

  • 成年後見監督人への事前相談・同意
  • 家庭裁判所への「居住用不動産処分許可」の申立て

が必要になるケースが一般的です。

一方、非居住用不動産については家庭裁判所の許可までは不要な場合が多いものの、成年後見監督人が選任されている以上、後見人だけの判断で売却を進めることは実務上難しいと考えておいたほうが良いでしょう。

実際の実務でも、売却価格の妥当性や売却理由、売却後の資金管理方法などについて、成年後見監督人から確認を求められるケースは少なくありません。

そのため、成年後見監督人がいる場合には、「後見人が単独で自由に処分できる」と考えるのではなく、監督人や家庭裁判所と連携しながら慎重に進めることが重要です。

※成年後見制度の運用は個別事情によって異なるため、具体的な手続きについては家庭裁判所や弁護士・司法書士などの専門家へ確認しましょう。

成年後見人が不動産売却を代行する流れ

成年後見人が不動産売却を代行する場合、家庭裁判所の許可や成年後見監督人の同意が必要になる点を除けば、通常物件を売却する流れと基本的には変わりません。

ただし、成年後見制度では「本人の利益を守ること」が最優先となるため、通常の売却とは異なり、家庭裁判所や成年後見監督人への確認・許可が必要になるケースがあります。

とくに居住用不動産の売却では、家庭裁判所の許可が必要になるため、通常の不動産売却よりも手続きに時間を要する傾向があります。

成年後見人が不動産売却を代行するおおまかな流れをまとめましたので、参考にしてみてください。

  1. まずは家庭裁判所で成年後見申立ての手続きを行う
  2. 不動産会社と媒介契約を結ぶ
  3. 買い手と不動産の売買契約を結ぶ
  4. 家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする
  5. 決済・引き渡しを行う

ここからは成年後見人が不動産売却を代行する流れについて、それぞれ詳しく解説していきます。

1. まずは家庭裁判所で成年後見申立ての手続きを行う

まずは、成年後見申立ての手続きを行う必要があります。成年後見の申し立ては、成年後見の対象となる本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申請します。

成年後見の申立てができる人物は以下のとおりです。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族
  • 市区町村長
  • 未成年後見人
  • 未成年後見監督人

4親等内の親族には、本人からみた親・祖父母・子・孫・ひ孫・兄弟姉妹・いとこ・叔父・叔母・甥・姪などが該当します。

成年後見の申立てが受理されると、「申立書類の内容」「本人に関係する様々な事情」などを考慮したうえで、家庭裁判所から後見人が選任されます。

成年後見人が選任されるまでの期間については、ケースによりますが、3か月程度かかるのが一般的です。

なお、裁判所に申立てをする際は、後見人の候補者を推薦できますが、必ずしも推薦した人物が後見人に選ばれるとは限りません。後見人を誰にするかは最終的に裁判所が決めることになり、親族以外の弁護士や司法書士などの有識者が選任されることもあります。実際には、親族間に対立があるケースや財産額が大きいケースでは、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任されることも少なくありません。

また、申立て後は裁判所の許可がなければ、申請を取り下げることはできません。希望した候補者が後見人に選ばれなくても、申請は取り下げられないため、申請は慎重に行いましょう。

(参考:成年後見制度の手続きの流れとは?必要書類や費用も徹底解説

成年後見申立てで不安がある場合は専門家へ相談する方法もある

家庭裁判所で成年後見申立てをする際には事前に書類作成をしたり、裁判所への申告したりする必要があります。そして、成年後見制度の利用には法律の知識が必要になります。

そのため、「何から始めればよいかわからない」「必要書類を正しく準備できるか不安」という人も少なくありません。

そのような場合には、弁護士や司法書士などへ相談しながら進める方法もあります。

とくに、不動産売却を予定している場合は、後見開始後の売却手続きまで見据えて準備を進めることが重要です。

なお、不動産会社が法律判断や代理申請を行うことはできません。実務上も、法的判断が必要になる場面では、弁護士・司法書士などの専門家と連携しながら進めるケースが一般的です。

2. 不動産会社と媒介契約を結ぶ

成年後見人が選任された後は、不動産会社へ査定や売却相談を行います。

不動産売却には、主に「仲介」と「買取」の2つの方法があります。

  • 仲介:一般市場で買主を探す方法
  • 買取:不動産会社が直接購入する方法

仲介は高値売却を目指しやすい一方、売却まで時間がかかる場合があります。反対に、買取は価格が相場より低くなる傾向があるものの、早期売却しやすい点が特徴です。

実際のご相談でも、「施設入所費用を早急に確保したいので早期売却を優先したい」というケースもあれば、「時間をかけてもできるだけ高く売却したい」というケースもあります。

そのため、どちらが正解というより、本人の生活状況や資金状況に応じて売却方法を検討することが大切です。

売却を依頼する不動産会社が決まったら、媒介契約を締結して売却活動を開始します。

なお、成年後見人による売却では、家庭裁判所へ提出する資料として査定書や販売状況の説明を求められるケースがあります。

そのため、成年後見案件の実務経験がある不動産会社へ相談したほうが、手続きをスムーズに進めやすい傾向があります。

3. 買い手と不動産の売買契約を結ぶ

買主が見つかった後は、不動産売買契約を締結します。

ただし、居住用不動産を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要になるため、通常の売買契約とは異なる点があります。

「家庭裁判所の許可取得を条件として契約が有効になる」という停止条件付き契約にするケースが一般的です。

これは、万が一家庭裁判所から許可が下りなかった場合に備えるためです。

実務では、不動産会社や司法書士から「家庭裁判所の許可書が確認できるまで決済は進められない」と案内されるケースが一般的です。そのため、通常の売却よりもスケジュールに余裕を持って進める必要があります。

4. 家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする

売却する不動産が居住用である場合のみですが、買い手と売買契約を結んだ後には、家庭裁判所から許可を得る必要があります。そのため、本人の住所を管轄する家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをしましょう。

家庭裁判所では、主に以下のような事情を総合的に確認します。

  • 売却の必要性
  • 本人や親族の意向
  • 本人の帰宅先の確保
  • 本人の生活状況
  • 売却条件や金額
  • 代金の保管方法

なお、家庭裁判所から売却許可がおりなければ、停止条件がついているため、買い手との売買契約は無効になります。

実際の実務でも、「介護施設費用の捻出」「空き家管理負担の軽減」「老朽化による維持困難」などは、比較的説明しやすい事情として挙げられます。

一方で、家族が相続前に現金化したいといった家族側の事情だけでは、許可理由として不十分と判断される可能性があります。

5. 決済・引き渡しを行う

家庭裁判所の許可取得後、売買契約の内容に沿って決済・引き渡しを行います。

決済当日は、売買代金の支払いと所有権移転登記を同時に行うのが一般的です。

なお、成年後見人が管理する売却代金は、本人の財産として適切に管理する必要があります。

そのため、実務上も、後見人個人の口座ではなく、本人名義口座で管理されるケースが一般的です。

また、後見開始後は家庭裁判所へ定期的な財産報告が必要になるため、売却代金の使途や通帳管理についても記録を残しておくことが重要です。

不動産を売却すると、数千万円単位の売却代金が本人名義の口座に入ることがあります。しかし、成年後見制度では本人の財産を守ることが最優先となるため、親族後見人であっても売却代金を自由に管理できるとは限りません。
実務上は、まとまった資産がある場合、家庭裁判所の判断により「後見制度支援信託」や「後見制度支援預金」の利用を検討するよう求められるケースがあります。

これは、本人の日常生活費や施設利用料などに必要な資金は手元に残し、それ以外の資金を信託銀行や金融機関で管理する仕組みです。そのため、不動産の売却代金がそのまま後見人の管理口座に置かれるとは限らず、資金の一部については引き出しに一定の手続きが必要になる場合があります。

成年後見人が不動産売却を代行するには複数の書類が必要になる

成年後見人が不動産売却を代行する場合、複数の書類が必要です。成年後見人が書類提出をする場面としては、「成年後見申立て」「家庭裁判所への不動産売却許可の申し立て」が挙げられます。

ここからは、これらの場面で提出が求められる必要書類について解説していきます。

成年後見申立ての手続きをする際に必要な書類

成年後見申立てに必要になる書類については、主に以下のようなものがあります。

必要書類 概要
申立書 申立人の住所、氏名、職業、本人との関係、本人の本籍、住所、氏名などを記載した申立書。
申立書付票 申立書に関連する事柄について詳しく確認するための書類。裁判所との連絡方法、申立ての主な目的、本人の親族が申立てに賛成しているか、本人の生活状況などについて記載する。
後見人等候補者身上書 後見人等の候補者の身上について記載する書類。氏名、住所、本人との関係、破産した経験の有無、職業、収入、経歴などを細かく記載する。
親族関係図 配偶者、父母、兄弟姉妹、子や孫などの本人の親族関係を記入する書類。氏名や生年月日などを記入する。
本人の財産目録 本人の財産を一覧で把握するための書類。

記載する内容としては、土地や建物などの不動産、現金、預貯金、債権、保険、株式、投資信託、住宅ローン等の負債などが挙げられる。
本人の収支予定表 本人の年間の収入と支出の金額の予定表。

事業、年金、賃料などの収入、住宅費や光熱費などの日常生活費、税金や社会保険などの公租公課、債務弁済や扶養家族の生活費などを記載する。
本人の診断書 本人の名義で主治医に作成してもらう診断書。判断能力に影響する診断名や所見、認知症や脳の損傷などの各種検査の結果、判断能力についての医師の意見などが確認される。
本人に成年後見等の登記がされていないことの証明書 本人が既に成年後見等の対象として登記されていないことを証明する書類で、一般的には東京法務局に郵送請求して入手する。
本人の財産等に関する資料 本人の財産である不動産、預貯金、株式、保険、収入、支出、負債などに関する資料。

例としては、不動産全部事項証明書、預貯金通帳、株式の残高報告書、保険証書、年金額決定通知書、納税通知書、返済明細書などが挙げられる。
その他の必要書類 本人と後見人等候補者の戸籍謄本、後見人等候補者の住民票の写し、本人の健康状態についての資料(精神障害者手帳、身体障害者手帳、療育手帳など)が挙げられる。

なお、上記の必要書類は一般的なものです。成年後見の申立てに必要な書類はケースによって異なる場合が多いため、申立ての際には管轄の家庭裁判所に確認することが大切です。

成年後見の申立てでは、本人の財産状況を正確に把握することが重視されます。

たとえば、使っていない口座や少額の保険契約であっても、後から未申告の財産が見つかると、追加資料の提出を求められるケースがあります。

とくに不動産売却を予定している場合には、固定資産税の納税通知書や登記事項証明書、ローン残高資料などを早めに整理しておくと、その後の売却許可申立もスムーズに進めやすくなります。

家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする際に必要な書類

成年後見人が居住用不動産を売却する際には、本人の住所地を管轄する家庭裁判所で申立てが必要です。その際には、下記のような必要書類の提出が求められます。

  • 不動産の全部事項証明書
  • 不動産の売買契約書の案
  • 不動産の評価証明書
  • 不動産会社が作成した査定書
  • 800円程度の収入印紙や郵送用の郵便切手
  • 【本人や成年後見人の住所に変更がある場合】住民票の写しまたは戸籍附票
  • 【成年後見監督人がいる場合】意見書

不動産の売買契約書の案とは、売却を予定している居住用不動産の買い手候補と相談し、あらかじめ契約書の案を作成しておくものです。許可が得られるかについては様々な要素が考慮されます。

とくに重視されやすいのは、「なぜ売却が必要なのか」「売却価格が適正か」「売却後の本人の生活に問題がないか」といった点です。

たとえば、施設入所費用を確保する必要がある場合や、空き家管理の負担が大きい場合などは、売却の必要性を説明する事情として考慮されることがあります。

なお、売却価格が著しく相場より低い場合には、家庭裁判所から追加説明を求められるケースもあります。そのため、査定書を複数取得しておくと、価格の妥当性を説明しやすくなるでしょう。

なお、必要書類の詳細は家庭裁判所によって異なる場合があります。家庭裁判所に不動産売却許可の申し立てをする際には、事前にどのような書類が必要なのかを相談しておくのが良いでしょう。

成年後見人に選任された場合のトラブル事例!事前にトラブル回避策を把握しておこう

成年後見制度トラブル

成年後見人制度は本人の利益を保護するために後見人に様々な権限が付与されるものですが、それを後見人が濫用した場合や本人の家族と利害が一致しない場合などにトラブルが生じることがあります。

多くの成年後見人は適切に職務を行っており、すべてのケースで問題が生じるわけではありません。
ここでは、成年後見制度で起こり得る代表的なトラブル事例と、事前にできる対策について解説します。

後見人によるお金の使い込み

成年後見人は本人の財産を管理する立場になりますが、就任した当初は本人のためにきちんと管理していても、月日の経過によって管理の姿勢に緩みが生じることがあります。

気持ちの緩みによって管理している財産が自分のもののように感じることに加えて、後見人の私生活等における金銭トラブルが重なることで、後見人が本人の財産を使い込んでしまうという事件も発生しています。

とくに、親族後見人の場合には、「家族のお金」という意識から管理が曖昧になってしまうケースもあるため注意が必要です。

一方で、親族以外の専門職後見人であっても、不適切な財産管理が問題となった事例は存在します。

後見人によるお金の使い込みを防止するには、本人との関係が良好で責任感が強い親族や古くからの付き合い等によって信頼性の高い専門家などに任意後見を依頼する方法が有効です。

複数人が関与する組織になっていることで不正が起こりにくい弁護士法人などに依頼する方法もあります。

配偶者の財産を受け取れない

法定後見人の判断によって、本人の配偶者が必要な金銭を受け取ることを拒否されてしまうトラブルです。

具体的なケースとしては、長年一緒に暮らしてきた老夫婦の夫が認知症となったところ、妻は家庭裁判所からの通知によって知らない弁護士が法定後見人に選任されたことを知りました。

長年専業主婦だったこともあり、妻はそれまで夫の年金で生活のやりくりをしていたところ、年金が振り込まれる金融機関の預金通帳やキャッシュカードは、後見人の弁護士が財産管理をすることになりました。

年金がなければ生活に必要な費用が捻出できないため、後見人の弁護士に年金を引き出すように頼んだところ、本人の財産を減少させるわけにはいかないという理由で拒否されてしまいます。

それまでの生活の支えであった夫の年金を引き出せなくなったことで、妻の生活は非常に苦しくなってしまいました。

成年後見人制度は本人の財産等を保護するための制度なので、本人の年金などの財産が配偶者の生活の支えであった場合、必要だと主張しても後見人の判断によって断られるリスクがあります。

ただし、本人の生活維持に必要な支出や、扶養義務の範囲内と考えられる支出については、事情を踏まえて認められる場合もあります。

法定後見人は最終的には家庭裁判所が選任するため、申立人の立候補や推薦があっても、必ずしも後見人になれるとは限りません。

確実に後見人になるには、認知症になって本人の判断能力が低下する前に、本人との合意によって任意後見契約を締結し、資産の管理を家族に任せる家族信託などの制度を活用することが重要です。

約束の金銭が支払われない

本人が贈与や支払いを約束してくれたので安心して待っていたところ、約束後に本人が判断能力を喪失して後見が始まり、約束の支払いを求めたら法定後見人に拒否されたというトラブルです。

具体例としては、子どもが大学に進学する際に必要な学費について、入学金や4年分の授業料を支払ってくれることを、祖父である本人が判断能力を喪失する前に約束してくれました。

その後、祖父が判断能力を喪失して後見開始となった後、子どもが大学に合格したので入学金や授業料の支払いをお願いしたところ、本人のために管理している金銭なので入学金や授業料を支払うことはできないと法定後見人に断られてしまいました。

本人が判断能力を喪失する前に贈与や支払いを約束していた金銭の内容としては、授業料などの学費のほかにも借金の肩代わり、ローンの頭金、リフォーム代などがあります。

せっかく法定後見制度を利用したにもかかわらず、金銭の支払いについてトラブルになるケースは少なくありません。

お金を必要とする親族等の意向と本人の財産を保護するという法定後見人の仕事が噛み合わないことが主な原因です。

注意点として、法定後見人が金銭の支払いを断る理由が、必ずしも本人のためだけではないという場合もあります。

法定後見人の報酬は本人の財産から支払われるため、自分の報酬を確保するためにより多くの財産を確保しておこうとするケースも残念ながら存在します。

約束の金銭が支払われないことを防止するためには、単に口約束だけで済ませるのではなく、判断能力を喪失する前に実際に金銭を贈与してもらう方法が確実です。

ただし、生前贈与を行う場合には、贈与税が発生する可能性があります。
また、相続開始前の一定期間内に行われた贈与については、相続財産に持ち戻して計算される場合もあるため、税理士などの専門家へ事前相談しておくと安心です。

親との面会を拒否される

認知症などで入居している本人(親)の施設に面会に行ったところ、施設や法定後見人から面会させることはできないと親に会うことを拒否されたトラブルです。

具体例としては、成年後見を開始した高齢の母親が入居している老人ホームを訪れた家長の長男が、受付で面会を希望したところ、後見人の弁護士に会わせるなと言われているという理由で面会を拒否されてしまいました。

長男が母親に会わせてほしいと交渉したところ、施設が警察を呼んだことで大きな騒ぎになってしまったというケースです。

成年後見人には本人保護の義務があるため、本人の体調や生活環境への影響を考慮して、面会方法について一定の調整が行われる場合があります。

ただし、成年後見人だからといって、正当な理由なく家族との面会を一律に禁止できるわけではありません。

本人の安全確保や施設運営上の事情など、個別事情を踏まえて判断されるのが一般的です。

そのため、感情的に対立するのではなく、施設や後見人と冷静に話し合いを行うことが重要です。
将来的な財産管理や介護方針について家族間で不安がある場合には、本人の判断能力が十分なうちに「任意後見契約」や「家族信託」を活用する方法もあります。

あらかじめ本人の意思を明確にしておくことで、後のトラブル予防につながる可能性があります。

まとめ

認知症などによって不動産所有者の判断能力が低下しても、成年後見人制度で後見人を選任すれば、代理で不動産売却の手続きを進められる可能性があります。

成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」がありますが、いずれの場合も、成年後見人が本人の利益を最優先に考えて財産管理を行う必要があります。そのため、成年後見人の判断だけで自由に不動産を売却できるわけではありません。

とくに、本人が生活している、または将来的に生活拠点となる可能性がある居住用不動産を売却する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。許可を得ないまま売却を進めると、契約が無効となる可能性もあります。
また、非居住用不動産であっても、本人の介護費用や施設入所費用の確保、空き家管理の負担軽減など、売却の必要性や合理性が求められるのが一般的です。

なお、法定後見制度の場合、後見人は最終的に家庭裁判所の選任をするため、弁護士をはじめとする専門家の協力が必要になるケースもあります。

そのため、不動産売却を伴う成年後見の手続きでは、成年後見制度に詳しい弁護士・司法書士や、不動産実務に精通した不動産会社へ早めに相談することで、手続きを円滑に進めやすくなります。

成年後見人が不動産を売却する際のよくある質問

成年後見人には、誰が選ばれますか?

成年後見人には、本人の親族が選任されるケースもありますが、事案の内容や財産状況によっては、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれる場合もあります。

最終的に誰を成年後見人に選任するかは、本人の利益を最優先に考慮したうえで、家庭裁判所が判断します。

どうすれば、成年後見人を選任できますか?

成年後見の対象となる人物の住所地を管轄する家庭裁判所に申請しましょう。

成年後見人が不動産を売却するには、どうすればよいですか?

成年後見人が本人に代わって不動産を売却する場合には、本人の利益になる売却であることが前提となります。

また、本人が居住している不動産や、将来的に居住する可能性がある不動産を売却する際には、家庭裁判所の許可が必要です。

一方で、空き家や賃貸物件などの非居住用不動産については、必ずしも許可が必要とは限りませんが、売却の必要性や合理性について慎重に判断されます。

そのため、成年後見人として不動産売却を進める場合には、事前に弁護士や司法書士、不動産会社などの専門家へ相談しながら進めると安心です。

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    更新日 : 2025年11月07日
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