共有名義から単独名義に変更するメリット
共有名義の不動産を単独名義に変更する大きなメリットは、不動産を自由に活用できるようになり、将来的な相続の負担を軽減できる点にあります。
共有名義のままでは、不動産を売却したりリフォームして賃貸に出したりする際に、原則としてすべての共有者の同意を得なければなりません。
下記は共有名義不動産に関する行為と権利についての表です。
このように、共有名義不動産は、法律上の制約によって単独で行えることが制限されています。(民法251条・252条)。
そのため、たとえ家族や親族であっても意見が食い違えば話が進まず、場合によっては深刻なトラブルに発展することもあります。
さらに、共有者の誰かが亡くなるたびにその持分は相続人に引き継がれ、世代を重ねるごとに共有者の数が増えていきます。その結果、売却や管理などの意思決定に必要な合意を取り付けることがますます難しくなり、不動産の取り扱いが複雑になってしまいます。
単独名義に変更すれば、こうした問題を避けられます。
所有者が一人で利用や処分について意思決定できるようになるため、不動産を売却したり、リフォームや賃貸などの活用を迅速に進めることが可能になります。また、相続が発生した場合も、名義が一本化されていれば手続きが格段にシンプルになり、残された家族の負担を大きく軽減できます。
もっとも、単独名義にする際には登記にかかる費用が発生するほか、これまで共有者全員で分担していた固定資産税や維持管理費を一人で負担しなければならないといったデメリットもあります。
それでも、将来にわたるトラブルを未然に防ぎ、不動産を自在に扱えるようになるという点で、総じてメリットの方が大きいといえるでしょう。
共有名義から単独名義に変更する主なケース
有名義から単独名義への変更を検討するきっかけはさまざまですが、ここでは、よくある3つのケースについてみていきます。
離婚によって夫婦の共有名義を解消したい
夫婦の共有名義でマイホームなどを購入した場合、離婚に際して財産分与として共有状態を解消する必要が出てきます。このケースでは、主に以下の2つの選択肢が一般的です。
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不動産を売却して財産を分ける
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・最もシンプルで公平な解決策
・ローンが残っている場合は、売却代金でローンを完済する
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夫婦どちらか一方の名義に変更する
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・どちらか一方が住み続ける場合の選択肢
・名義を譲り渡す側に対して、不動産の価値に見合った代償金を支払うことが一般的
・住宅ローンが残っている場合は、名義変更にあたり金融機関の承諾が必要
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親子で共有している不動産を子の名義にしたい
二世帯住宅の建設や、親から子への生前贈与などで、共有名義になっている不動産を子の単独名義に変更したいケースです。
この場合、贈与や売買(譲渡)によって名義変更を行います。
無償で譲り渡す贈与では、高額な贈与税が発生する可能性があり、有償で譲渡する売買では、売却益が出た場合に譲渡所得税がかかることがあります。
税金対策を考慮しながら、どの方法を取るか慎重に検討する必要があります。
兄弟で相続した不動産を単独所有にしたい
兄弟で不動産を共有名義で相続したものの、後から単独名義に変更したいケースです。
共有名義の不動産は、将来的に売却やリフォームを行う際に兄弟全員の同意が必要となり、意見の食い違いからトラブルに発展しやすくなります。
とくに、次なる相続が発生して共有者が増えれば増えるほど権利関係が複雑になり、不動産の管理や処分が難しくなるという問題も抱えています。
兄弟で共有名義になっている不動産は、後から代償分割などの方法を使って、特定の兄弟の単独名義に変更することが可能です。
所有している共有名義不動産を単独名義に変更する5つの方法
共有名義の不動産を単独名義に変更する方法として、以下5つが挙げられます。
それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、かかる費用や手続きの流れも異なります。
各方法について、詳しくみていきましょう。
共有者間で持分を売買する
共有者のうち、単独名義にしたいと考えている人が、他の共有者からその共有持分を買い取ることで、所有権を全て集めて単独名義にする方法です。
この方法は、共有者間で話し合い、売買価格に合意する必要があります。不動産鑑定士に価格査定を依頼して適正な価格を決定することが、後々のトラブルを防ぐ上で重要です。
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メリット
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・評価額より極端に安い金額で売買しない限り贈与税が発生しない
・手続きが比較的シンプル
・買取希望者がいれば話がまとまりやすい
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デメリット
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・買い取る側の資金力が必要
・売却した側に譲渡所得税が発生する可能性がある
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向いているケース
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・資金に余裕がある
・持分を現金化したい
・共有者間での合意形成が容易
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共有者間で売買する際の手続きの流れは、以下の通りです。
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①売買価格の決定
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共有者間で話し合い、市場価格や類似物件を参考に売買価格を決定し、合意形成を行う
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②売買契約の締結
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売買契約書を作成し、署名捺印する
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③法務局での登記申請
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法務局に登記申請書と必要書類を提出し、所有権移転登記を申請する
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持分の売買にかかる費用・税金は、以下から詳しくチェックできます。
持分の売買にかかる費用・税金
共有者間で持分を贈与する
共有者のうち、自分の持分を無償で譲渡したい人が、他の共有者にその共有持分を贈与することで、単独名義にする方法です。
売買のようにまとまった資金を用意する必要がなく、手続きが簡潔に進む場合があります。
ただし、贈与する持分の評価額が高い場合、贈与税が高額になる可能性に注意しましょう。
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メリット
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・金銭のやり取りが不要
・売却益がないため譲渡所得税が発生しない
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デメリット
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・高額な贈与税がかかる場合がある
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向いているケース
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・売買に必要な資金がない
・贈与する持分の評価額が年間110万円以下の場合
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共有者間で持分を贈与する際の手続きの流れは、以下の通りです。
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①贈与契約書の作成
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共有者間で話し合った内容をふまえ、贈与契約書を作成する
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②法務局での登記申請
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法務局に登記申請書と必要書類を提出し、所有権移転登記を申請する
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③税金の確認
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贈与された共有持分の評価額が110万円以上の場合は、確定申告で贈与税の申告を行う
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持分の贈与にかかる費用・税金は、以下から詳しくチェックできます。
持分の贈与にかかる費用・税金
共有持分を放棄する
共有持分の放棄とは、自分の持分を手放し、それを他の共有者に帰属させる方法です。根拠は民法第255条にあり、共有者は持分を放棄できると規定されています。
よく「共有持分の放棄は他の共有者の同意が不要」といわれますが、これは放棄そのものの成立に関してのことです。放棄の効力は一方的な意思表示によって生じ、他の共有者の承諾を必要としないためです。したがって、誰かに承諾を得なければ放棄できないということではありません。
ただし、不動産の場合は現実に登記簿へ反映させなければ権利関係が動きません。放棄によって持分を取得するのは他の共有者ですが、その名義に移転登記をするには放棄者と他の共有者が共同で申請する必要があり、実務上は相手の協力が不可欠です。
つまり「放棄の効力」と「登記の手続き」は切り分けて理解する必要があります。
なお、下記は共有持分の放棄に関するメリットとデメリット、向いているケースの表です。
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メリット
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・手続きが比較的シンプル
・他の共有者の同意が不要
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デメリット
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・贈与税が発生する可能性がある
・現金化できない
・他の共有者の協力が必要
・一度放棄したら取り戻せない
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向いているケース
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・管理や維持費の負担から解放されたい
・金銭のやり取りを避けたい
・他の共有者が単独名義になることを望んでいる
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また、共有持分を放棄する際の手続きの流れは、以下の通りです。
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①放棄の意思表示
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持分を放棄する意思を他の共有者に伝える
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②書類の作成と通知
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放棄の旨を記載した書類を作成し、内容証明郵便で正式に通知する
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③法務局での登記申請
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放棄した後に単独名義になる方と共同で、法務局に登記申請書と必要書類を提出し、所有権移転登記を申請する
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④税金の 確認
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放棄された共有持分の評価額が110万円以上の場合は、確定申告で贈与税の申告を行う
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持分の放棄にかかる費用・税金は、以下から詳しくチェックできます。
持分の放棄にかかる費用・税金
なお、他の共有者が登記に協力しないときは、登記引取請求訴訟を提起することができます。訴訟であるため時間や手間がかかりますし、弁護士に依頼すれば数十万円以上の費用がかかりますが、どうしても共有状態から抜け出したいという方には有効な手段の一つと言えるでしょう。
土地の場合は分筆する
分筆とは、登記上ひとつの土地を複数の区画に分け、それぞれを個別に登記することを指します。共有名義の土地を分筆することで、各共有者が自分の区画を単独で所有できるようになります。
ただし、分筆が選択できるのは土地が共有名義の場合のみです。建物は分筆できません。さらに、分筆を行うには共有者の過半数の同意が必要です。正確な測量や法的手続きが必要となるため、土地家屋調査士への依頼と、法務局での「分筆登記」手続きが不可欠です。この分筆登記にはもともとの共有者がそれぞれ行わなければなりません。
そのため、法的に分筆自体は共有者の過半数の同意があればできることになっていますが、登記まで行うとなれば実質的には全員の同意が必要です。
また、分筆は一見明快な解決方法に思えますが、費用・期間ともに負担が大きく、分け方によっては資産価値が下がるリスクもあります。そのため、狭い土地や利用価値の低い土地では現実的でない場合も少なくありません。
こうしたことから、分筆は土地がある程度広く、各共有者がそれぞれの区画を独立して利用したい場合に限り、有効な選択肢といえます。
| メリット |
・各共有者が自由に土地を利用・処分できるようになる |
| デメリット |
・費用と時間がかかる ・土地の分け方によって資産価値が下がるおそれがある ・共有者の過半数の同意が必要 ・分筆後、それぞれの名義で登記が必要 |
| 向いているケース |
・土地が広く、各共有者が物理的に分割して利用を希望している ・分筆後も道路や通路の確保が可能である |
下記は分筆の一般的な手続きの流れです。
| ① 専門家への相談・依頼 |
土地家屋調査士に相談し、分筆の可否や概算費用、スケジュールを確認する |
| ② 必要書類の準備 |
登記記録、地積測量図、公図などを法務局で取得 |
| ③ 現地調査・測量 |
土地家屋調査士が現地調査を行い、境界を確定させる |
| ④ 分筆登記の申請 |
確定した境界をもとに登記申請書を作成し、法務局で分筆登記を行う |
持分の分筆にかかる費用・税金は、以下から詳しくチェックできます。
持分の分筆にかかる費用・税金
共有物分割請求をする
共有物分割請求は、不動産の共有状態を解消するために、他の共有者に対して不動産の分割を求める手続きです。協議による解決が基本ですが、話し合いがまとまらない場合には、最終手段として訴訟を提起することも可能です。
ただし、裁判による分割方法は裁判所の判断で決まるため、必ずしも希望通りになるわけではありません。また、弁護士費用や裁判費用、手間や時間がかかるほか、共有者全員を相手に訴訟を起こすため、人間関係が悪化する可能性もあります。そのため、共有物分割請求は最後の手段として慎重に検討することが重要です。
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メリット
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・問題を強制的に解決できる
・法的に公平な結果を得られる
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デメリット
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・時間と費用がかかる
・希望通りの結果にならない可能性がある
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向いているケース
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・他の共有者と話し合いがまとまらない
・他の共有者と連絡が取れない、または意思表示が困難
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共有物分割請求の手続きの流れは、以下の通りです。
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①事前協議
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共有者間で協議し、話し合いがまとまらなかったことを証明する(協議の様子を録音したり、結論を内容証明便で送るなどして内容や結論を形に残しておく)
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②弁護士に相談
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共有物分割請求の実績が豊富な弁護士に相談する
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③裁判所に訴訟の申し立て
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必要書類を揃えて、不動産の所在地、熱いは被告の住所を管轄する地方裁判所に申立を行う
【必要書類】
・収入印紙
・訴状の正本及び副本
・不動産の固定資産評価証明書
・不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
・切手代
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④裁判の開始
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被告に訴状や呼び出し状が送付されたのち、呼出状に記載された第1回口頭弁論日に主張・立証を行う
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⑤判決
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裁判所が判決を言い渡し、不服がある場合には2週間以内に控訴を申し立てる
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⑥判決確定と登記手続き
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確定判決の内容に従って共有物を分割し、その内容を法務局にて登記申請を行う
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持分の共有物分割請求にかかる費用・税金は、以下から詳しくチェックできます。
持分の共有物分割請求にかかる費用・税金
共有名義から単独名義に変更する登記手続きの流れ
共有名義不動産を単独名義に変更するには、法務局での登記手続きが不可欠です。
登記手続きは、主に以下3つのステップで進めていきます。
- 必要書類を収集する
- 登記申請書を作成する
- 法務局に申請する
不備なく手続きを完了させるためにも、事前に流れを把握しておくことが重要です。
ステップ1|必要書類を収集する
まずは、必要な書類を収集します。単独名義に変更する登記手続きに必要な書類は、以下の通りです。
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書類名
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取得場所
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・登記申請書
・登記原因証明情報
・登記済権利証または登記識別情報
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法務局
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・登記権利者の住民票(単独名義になる人)
・印鑑登録証明書(3ヶ月以内に発行したもの)
・固定資産評価証明書
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・市区町村役場の窓口
・コンビニ(固定資産評価証明書以外)
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また、名義変更の方法によっては、上記書類に追加して以下の書類も必要です。
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名義変更の方法
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必要書類
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取得方法
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売買
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・売買契約書
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不動産業者
個人間売買の場合は自分で作成
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贈与
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・贈与契約書
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自分で作成
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離婚
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・離婚協議書
・調停調書、判決書など(裁判手続きによる場合)
・戸籍謄本など離婚がわかる書類
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離婚協議書:自分で作成
調停調書:家庭裁判所
戸籍謄本:役所
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なお、自分で作成が必要な書類は、弁護士や司法書士、行政書士に依頼することも可能です。司法書士であれば、そのまま登記申請の手続きまで任せられます。
ステップ2|登記申請書を作成する
必要書類を揃えたら、登記申請書を作成します。
法務局のWebサイトには、不動産登記の申請書様式が公開されており、雛形をダウンロードして利用できます。
法務局:不動産登記の申請書様式について
登記申請書の書き方の例
登記の目的には、「持分全部移転」または「持分一部移転」と記載します。
【記載例】
※上部は約5cmほど開けておく
登記申請書
登記の目的:◯◯(持分を手放す人の氏名)持分全部移転
原因:令和◯年◯月◯日◯◯(売買、贈与、放棄など該当の原因を記載)
権利者:単独名義になる人の住民票記載の住所を記載
義務者:持分を手放す人の住民票記載の住所を記載
添付情報:登記識別情報・登記原因証明情報・印鑑証明書・住所証明書・代理権証書(委任の場合)
令和◯年◯月◯日申請 ◯◯法務局
代理人:(申請を委任する場合に代理人の住所・氏名・印鑑・電話番号を記載)
課税価格:移転した持分の価格 金◯◯万円(固定資産課税明細書または固定資産課税明細書で確認)
登録免許税:金◯円
不動産の表示:(不動産登記事項証明書の情報)
持分を取得する人が登記権利者、持分を譲渡する人が登記義務者です。それぞれに、対象者の住所と持分割合・氏名を記入しましょう。
課税価格の項目には、固定資産評価証明書に記載された金額のうち、持分に応じた価格を記入します。
登録免許税は、課税価格に税率をかけることで算出可能です。
ステップ3|法務局に申請する
書類の収集と作成が完了したら、不動産が所在する地域を管轄する法務局に申請します。
申請方法は、直接窓口に持参するか、郵送、またはオンライン申請のいずれかとなります。
法務局での審査にかかる期間は、混雑状況によって異なりますが、一般的には1週間から2週間程度です。
無事に申請が通ると、法務局から登記識別情報通知書が発行されます。この書類を受け取れば、単独名義への変更が完了です。
なお、登記識別情報通知書は以前の「権利証」に代わるもので、単独名義への変更が完了したことを証明する重要な書類であるため、受け取ったら大切に保管しましょう。
【方法別】名義変更にかかる費用・税金
共有名義不動産を単独名義に変更する際には、方法によってさまざまな費用や税金が発生します。
ここでは、名義変更の各方法別に、どんな費用や税金がかかるのか、そしてその計算方法や相場について詳しく解説します。
売買にかかる費用・税金
共有持分を売買によって単独名義に変更する場合、主に以下の費用や税金が発生します。
譲渡所得税とは、共有持分を売却して利益が出た場合に発生する税金です。
税率は不動産の所有期間によって異なり、5年以下で売却した場合は短期譲渡所得として高い税率が適用されます。
印紙税は、売買契約書に貼付する収入印紙代で、契約金額によって以下のように税額が異なります。
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契約金額
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本則税率
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軽減税率
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10万円を超え 50万円以下のもの
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400円
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200円
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50万円を超え 100万円以下のもの
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1千円
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500円
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100万円を超え 500万円以下のもの
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2千円
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1千円
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500万円を超え1千万円以下のもの
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1万円
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5千円
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1千万円を超え5千万円以下のもの
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2万円
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1万円
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5千万円を超え 1億円以下のもの
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6万円
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3万円
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1億円を超え 5億円以下のもの
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10万円
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6万円
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5億円を超え 10億円以下のもの
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20万円
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16万円
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10億円を超え 50億円以下のもの
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40万円
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32万円
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50億円を超えるもの
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60万円
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48万円
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引用:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」
贈与にかかる費用・税金
共有持分を贈与によって単独名義に変更する場合、主に以下の費用や税金が発生します。
贈与税が、贈与された側の人が負担することになる税金です。無償で持分を受け取っても、持分の評価額が基礎控除の110万円を超える場合に課税されます。
税率は累進課税のため、贈与額が大きいほど税率も高くなります。
そして、贈与契約書に貼付する印紙代は、契約金額にかかわらず一律200円です。司法書士費用についても、売買登記時より報酬が安くなる傾向にあります。
放棄にかかる費用・税金
共有持分を放棄して他の共有者に所有権を移す場合、法的には贈与とみなされるため、贈与の場合と同様の費用や税金が発生します。
贈与税は必ずしも発生するわけではありませんが、それ以外の費用が発生する点については押さえておきましょう。
分筆にかかる費用・税金
共有名義の土地を分筆して単独名義にする場合、主に測量費用や土地家屋調査士への報酬が発生します。
土地の分筆にかかる費用は、登記依頼の有無や確定測量の要否などによって変わってきます。
土地家屋調査士への報酬は、境界が確定しているか、角地であるか、隣接地所有者の数が多いかどうかによっても金額が大きく変わる点を押さえておきましょう。
共有物分割請求訴訟にかかる費用・税金
共有者間の協議がまとまらず、裁判になった場合に発生する費用は主に以下の3つです。
費用相場には幅があり、全体的な費用相場は、50万円〜150万円ほどとなります。
最も費用がかかるのが弁護士費用で、その中でも「着手金」と「報酬金」が多くの割合を占めます。
共有名義から単独名義に変更する際の注意点
共有名義の不動産を単独名義に変更する際は、いくつかの注意点があります。
- 共有者の同意が必要(※放棄・訴訟を除く)
- 登記申請書の書き方が一般的な移転登記と異なる
- 名義変更の方法によって税金の種類や課税額が異なる
これらの注意点を理解しておくことで、スムーズに手続きを進めることができるでしょう。それぞれ詳しく解説していきます。
共有者の同意が必要(※放棄・訴訟を除く)
共有名義不動産を単独名義にするためには、下記のように放棄や訴訟を除き他の共有者の同意が必要です。
分筆では過半数の合意が必要なうえに、測量の際には隣地所有者の立会いが必要となります。共有者間売買の際でも、もちろん売り手と買い手の双方の合意なしには売買は成立しえません。また、どの手段を取るにしても、最終的に登記するにはそれぞれの(元)共有者に登記をしてもらわなければなりません。
そのため、不動産を誰かの単独名義にするという行為自体、全ての共有者の合意が必要になると言えるでしょう。
なお、もし話し合いがまとまらない場合は、自分の共有持分のみを第三者に売却し、共有状態から抜け出すという選択肢もあります。自己持分を売却するのみにおいては、他の共有者の同意は不要であると民法において保障されているからです。自己持分を売却するのであれば、第三者の買い手には持分移転登記をしてもらう必要がありますが、他の共有者の権利状態はかわらないため、他の共有者に移転登記を依頼する必要はなくなります。他の共有者に登記をしてもらうのが煩わしいという方には、有効な手段と言えます。
登記申請書の書き方が一般的な移転登記と異なる
共有持分を単独名義に変更する登記申請書は、一般的な不動産の所有権移転登記とは登記申請書の「登記の目的」欄の書き方が異なります。
また、持分を取得する人(権利者)の住所・氏名だけでなく、持分を譲渡する人(義務者)の住所・氏名も正確に記載する必要があります。
名義変更の方法によって税金の種類や課税額が異なる
名義変更の方法によって、かかる税金の種類や金額が大きく変わってくる点にも注意が必要です。
たとえば、売買では売却益が発生するため譲渡所得税がかかります。また、贈与・放棄の場合は不動産の評価額に応じて贈与税が発生します。
とくに、贈与税は高額になるケースも珍しくありません。単独名義への変更を検討する際は、どの方法が最も税負担が少ないか、税理士に相談して税金対策を立てることがおすすめです。
共有者と意思疎通が取れない場合の対応
共有名義不動産の単独名義化を進める際、共有者の中に行方不明の人や、認知症などにより意思表示が困難な人がいる場合があります。
このようなケースでは、通常の話し合いでの解決が難しいため、法的な手続きが必要となります。
ここでは、以下2つのケースにおける対応についてみていきましょう。
- 所在不明共有者の持分を取得したい場合
- 共有者が認知症で意思表示ができない場合
所在不明共有者の持分を取得したい場合の対応
共有者の一部が長期間にわたり行方不明・連絡不能である場合、通常の売買や贈与といった方法での名義変更はできません。
このようなケースに対応するため、2023年4月に施行された改正民法では「所在等不明共有者の持分取得制度(民法第255条の2)」が新設されました。
この制度は、裁判所に申し立てを行うことで、所在不明の共有者の持分を他の共有者が取得できるようにするものです。
申し立てが認められると、裁判所が定めた時価相当額を供託することで、持分を取得できます。
共有者が認知症で意思表示ができない場合の対応
共有者が認知症などにより、すでに意思能力を失っている場合も、その人との間で売買や贈与の契約を締結することはできません。
このような場合、成年後見制度の利用を検討することになります。
成年後見制度は、家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任してもらうことで、本人の財産管理や契約締結などを代行してもらう制度です。
成年後見人が選任されれば、その人が代理人として、認知症の人の持分を買い取ることや、不動産全体を売却する手続きを進めることが可能になります。
ただし、成年後見制度は本人の利益になる場合でなければ承認されないため、必ずしも持分の買取が可能とは限らない点に注意が必要です。
【ケース別】相続や離婚で共有名義を単独名義にするには?
相続や離婚といったライフイベントにおいて、共有名義の不動産が発生することがあります。
将来的なトラブルを防ぐためにも、早めに単独名義に変更することを検討しましょう。
ここでは、それぞれのケースでどのように名義変更を進めるべきかを解説します。
遺産相続時に共有名義を防いで相続する方法
親が亡くなり、実家を兄弟姉妹で相続する際などに共有名義にすると、将来的にトラブルに発展する可能性があります。
この場合、相続の話し合い(遺産分割協議)の段階で、共有名義を避ける方法を検討しましょう。
遺産相続時に共有名義を防いで相続する方法として、以下の3つが挙げられます。
| 分割方法 |
内容 |
典型例 |
| 現物分割 |
財産を現金化せず、物理的または種類ごとに分ける方法 |
土地を分筆して兄弟で分ける/不動産はA、預金はBが取得 |
| 代償分割 |
1人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法 |
長男が家を相続し、他の兄弟に相応の金額を支払う |
| 換価分割 |
財産を売却して現金化し、その代金を分配する方法 |
家を売って兄弟でお金を分ける |
現物分割│財産を現金化せず、土地を分筆したり、不動産・預貯金などを現物のまま分ける
現物分割は、相続財産を現金化せず、土地を分筆したり、不動産・預貯金などをそのままの形で相続人に振り分ける方法です。それぞれが異なる財産を取得することで、共有名義を避けられます。
一方で、1人が不動産を取得し、他の相続人に金銭で調整する場合は「代償分割」にあたります。
換価分割│不動産を売却して現金化し、それを分配
相続した不動産を第三者に売却し、得られた売却代金を法定相続分や遺産分割協議で決めた割合に応じて、相続人全員で分配する方法です。
不動産を所有しないため、将来の維持管理費や固定資産税の負担、意見の食い違いといった問題も解消できます。
とくに、相続人の中に不動産の利用を希望する人がおらず、公平に財産を分けたい場合に適している方法です。
代償分割│1人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う
相続人のうち1人が不動産を単独で取得し、その代わりに、自分の資金から他の相続人に対して、その持分に見合った金額(代償金)を支払う方法です。
この方法は、不動産を残したい相続人がいる場合に有効です。
代償金の金額は、不動産の評価額に基づいて相続人全員で話し合って決めます。代償金は現金だけでなく、他の相続財産で調整することも可能です。
離婚にともなう不動産の名義変更の進め方
離婚時に、夫婦共有名義の不動産を財産分与する場合、名義変更の手続きが必要になります。
離婚に伴う不動産の名義変更は、住宅ローンが残っているかどうかで、手続きの進め方が大きく異なります。
住宅ローンが残っていない場合の名義変更
住宅ローンを完済している場合、名義変更は比較的スムーズに進められます。
まずは、夫婦間で話し合い、どちらが不動産を取得するかを決め、財産分与の内容を定めた離婚協議書などを作成します。
その後、その協議書を根拠として、法務局で名義変更の登記手続きを実施。このとき、不動産を取得する側が単独名義になるよう、所有権移転登記を申請します。
住宅ローンが残っている場合は金融機関の承諾が必要
住宅ローンが残っている状態で名義変更を行う場合、必ず事前に金融機関の承諾を得る必要があります。
なぜなら、多くの住宅ローン契約に「担保不動産の名義変更禁止特約」が含まれているためです。
金融機関は、住宅ローン契約の際に、夫婦のどちらか一方、あるいは両方が返済能力を持つと判断して融資を行っています。
そのため、契約内容を変更して勝手に名義を変えることは、契約違反とみなされる可能性があります。
最悪の場合、ローン残高の一括返済を求められる恐れもあるため、無断での変更は厳禁です。
金融機関に相談した上で、「ローンの借り換え」や「名義人変更」といった手続きが可能かどうかを確認し、承諾を得たうえで名義変更を進めましょう。
金融機関が承諾しない場合は、不動産を売却してローンを完済するという選択肢の検討が必要です。
共有状態を解消するなら共有持分のみ売却する方法もある
共有者間の話し合いがまとまらず、不動産を単独名義に変更するのが難しい場合、自分の共有持分のみを第三者に売却して共有状態から抜け出す方法があります。
この場合、自分の共有持分のみの売却となるため、他の共有者の同意は必要ありません。
共有持分を買い取るのは、複雑な権利関係にある不動産を専門に扱っている買取業者です。
買取業者への売却は、以下のようにさまざまなメリットがあります。
- 共有状態から早く抜け出せる
- スピーディーに現金化できる
- 手続きの手間や費用がかからない
- 共有者とのやり取りを代行してもらえる
共有者間のトラブルで名義変更が進まない場合でも、自分の共有持分を売却することで、迅速に共有状態から抜け出し、問題の解決を図ることが可能です。
対象の不動産を単独で所有する意思がなく、とにかく共有状態を解消したいという場合は、買取業者への売却も検討してみてください。
まとめ
共有名義から単独名義に変更することで、複雑な権利関係を解消し、不動産をより自由に活用できるようになります。
主な変更方法は売却、贈与、放棄などで、基本的には関係者間の話し合いで名義変更を進めます。
しかし、単独名義への変更には各種費用や税金がかかり、法務局での登記手続も必要です。とくに売買や贈与では譲渡所得税や贈与税が発生し、金額次第では高額な税負担となることがあります。
離婚や相続に伴う名義変更は手続きが複雑になりがちで、専門知識がない個人が単独で進めるのは困難な場合も少なくありません。
話し合いで合意が得られず、「共有状態から早く抜け出したい」、あるいは「手続きや交渉の煩雑さから解放されたい」場合は、共有持分だけを売却して共有状態を解消する方法が現実的な選択肢となります。
その場合、専門の買取業者に依頼し、売却金額に合意できれば迅速に現金化でき、共有状態を短期間で解消できます。また、登記手続や引渡しのサポートを含めて任せられる業者も多く、個別手続きの負担を軽減できます。
しかし、どの業者に依頼すればよいかわからない、あるいはどの程度の価格が妥当か判断に迷うこともあるでしょう。そのような場合、複数の買取業者の査定を一度にできる「イエコンの一括査定」が有効です。
一括査定を使うことで市場価格の目安がすぐに把握できるため、過小評価されるリスクを下げられ、より有利な条件での売却交渉が可能になります。また、査定依頼を個別に行う手間が省け、短期間で選択肢をそろえられるため、現金化を急ぐ方や時間的余裕がない方にも向いています。
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共有名義から単独名義に変更する際によくある質問
単独名義への変更手続きは自分でできますか?
共有名義から単独名義への変更手続きは、司法書士に頼まず自分自身で進めることも可能です。
法務局のWebサイトには、登記申請書の様式や記載例が公開されているため、これらを参考に自分で書類を揃え、申請することができます。
しかし、自分で手続きを行うことは、書類の不備による申請却下やそのやり直しの手間の発生、離婚や相続を伴う複雑なケースへの対応が困難など、いくつかのリスクが伴います。
そのため、基本的には専門家である司法書士に依頼することがおすすめです。
司法書士に依頼すれば、必要な書類の収集から登記申請書の作成、法務局とのやり取りまで、全てを代行してもらえます。
費用はかかりますが、無用なトラブルや手間を避け、スムーズに手続きを完了させることができます。
単独名義にするために取得時効の利用はできますか?
取得時効とは、一定期間、他人のものを自分のものとして占有し続けると、その所有権を取得できる制度です。
長期間にわたって不動産に住み続けていたなどのケースであれば、取得時効による名義変更が可能な場合もあります。
ただし、取得時効の要件は非常に複雑なため、取得時効が利用できるかは司法書士に確認するのがベストです。
共有者が死亡した場合の名義変更はどうなりますか?
共有者が死亡した場合、その人が持っていた共有持分は相続人の名義に変更されるケースが一般的です。
相続人全員が共有者になる場合もあれば、遺言書や遺産分割協議によって特定の相続人が単独で持分を相続するケースもあります。
将来的に権利関係が複雑になり、売却や管理が困難になる事態を回避するためにも、相続が発生した時点で、しっかりと話し合い、名義変更の手続きを進めることが重要です。