共有持分の放棄とは他の共有者全員に無償で帰属させること
共有持分の放棄とは、自分が持つ共有持分を放棄し、他の共有者全員に無償で帰属させることを指します。私の担当した現場でも、相続や離婚をきっかけに「持分だけを整理したい」という相談で利用されることがあります。
<基本的な用語についておさらい>
共有持分とは、同じ不動産を複数人で所有する「共有名義不動産」における、1人あたりの所有権の割合を意味します。たとえば共有持分割合が30%であれば、その不動産全体の30%を所有していることになります。共有者とは、この共有名義不動産を持分ごとに所有している人を指します。
本来、相続や購入で取得した単独所有の不動産は放棄できません。もし単独所有の不動産まで放棄が認められると、管理者のいない不動産が増え、固定資産税の滞納や空き家の放置といった深刻な問題が発生してしまうためです。
一方で共有持分は、単体で放棄することが認められています。これは、1人の所有者が権利を放棄しても、残りの共有者が管理者として残る仕組みになっているからです。
その根拠は民法第255条に定められています。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
e-Gov法令検索 民法第255条
共有持分放棄の特徴は、次のとおりです。
共有持分放棄の特徴 |
概要 |
放棄した共有持分は他の共有者が取得する |
放棄された共有持分は、他の共有者の持分割合に応じて帰属します。 |
他の共有者の同意なく実施できるが登記時には協力してもらう必要がある |
放棄は所有者の意思表示だけで可能ですが、登記を行う際には他の共有者と共同で申請する必要があります。 |
共有者が最後の1人になると放棄できなくなるので「早いもの勝ち」になる |
すべての共有者が放棄すると、不動産は最後に残った1人の単独所有となるため、その時点で放棄はできません。 |
以下では、共有持分の放棄についてさらに詳しく解説していきます。
放棄した共有持分は他の共有者が取得する
放棄した共有持分は、他の共有者全員がそれぞれ取得します。取得の方法や割合について法律上の明確な規定はありませんが、実務では各共有者の持分割合に応じて按分し、贈与扱いとして帰属させるのが一般的です。
厳密には民法上の贈与ではありませんが、相続税法上は「みなし贈与」として取り扱われ、贈与税の課税対象になります。
そのため、放棄された共有持分を取得した共有者には、取得した分に応じて贈与税が課せられます。
<共有持分を放棄したときの流れの例>
- 共有持分割合:A50%、B30%、C10%、D10%の不動産がある
- Bが持分30%を放棄すると、残るA・C・Dの持分割合に応じて、Aに約21.43%、CとDにそれぞれ約4.29%ずつ帰属
- A・C・Dは、取得した持分評価額に応じて贈与税の課税対象となる
他の共有者の同意なく実施できるが登記時には協力してもらう必要がある
共有持分の放棄は、本人の意思表示だけで成立し、他の共有者の同意を得る必要はありません。これは、民法第206条に「所有者は法令の範囲内で自由に所有物を処分できる」と規定されているためです。つまり、自己の共有持分についてであれば放棄や売却は自由です。
(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
e-Gov法令検索 民法第206条
ただし、放棄の意思表示だけでは手続きは完結しません。
放棄された共有持分は他の共有者へ移転し、その権利関係を公的に確定させるためには「持分移転登記(所有権移転登記)」を行う必要があります。
この登記は、登記義務者(元の所有者)と登記権利者(新しい所有者)が共同で申請するのが原則です。したがって、放棄した後の登記を進めるには、他の共有者全員の協力が不可欠です。
しかし、実際は他の共有者が嫌がらせや抗議を目的に登記申請に応じないケースも少なくありません。その場合は「登記引取請求訴訟」という法的手段を取る必要が出てきます。
なお、登記や訴訟の対応には専門的な知識が必要となるため、共有持分を放棄する際は弁護士や司法書士へ依頼するのが一般的です。
登記義務者=登記によって所有権を失う側(不利益を受ける側)。
登記権利者=登記によって所有権を得る側(利益を受ける側)。
持分移転登記はこの両者による共同申請でなければ認められません。
共有者が最後の1人になると放棄できなくなるので「早いもの勝ち」になる
もし他の共有者全員が先に持分を放棄し、自分だけが最後に残った場合、その時点で放棄は認められません。
民法第255条では「放棄した持分は他の共有者に帰属する」と規定されていますが、この条文が適用されるためには「他の共有者」が存在していることが前提です。
全員が放棄して1人だけが残ると、その不動産は単独所有となり、単独所有不動産は放棄できないというルールが適用されます。
そのため、共有持分の放棄は「早いもの勝ち」と言われるのです。
ただし、放棄によって残る共有者に過度な負担がのしかかる場合、裁判所が「権利の濫用」と判断して放棄を無効とする可能性もあります。
実際、東京地方裁判所令和3年7月14日の判決では、土地の管理体制が整っていない状況で「自分だけ役割から解放されたい」という目的で放棄した事案について、著しく相当性を欠くとして放棄を認めませんでした。
民法第239条には「所有者のいない不動産は国庫に帰属する」と規定されています。ただしこの適用は、所有者が死亡し相続人も存在しない場合など、法的に所有者がいなくなったケースに限られます。
共有持分の放棄と「相続放棄」「贈与」との違い
共有持分の放棄と似た言葉に、「相続放棄」と「贈与」があります。いずれも所有する共有持分を手放すという意味では同じですが、実施タイミングや内容が大きく異なります。
相続放棄は、「受け取る予定だったものを受け取らない」というイメージです。贈与は、「自分が渡したい相手を選んで渡す」というイメージです。以下では、共有持分の放棄と、相続放棄・贈与それぞれの違いを解説します。
共有持分の放棄と相続放棄の違い
相続放棄とは、遺産を相続する権利をすべて放棄し、「始めから相続人ではない」という扱いにする手続きです。同じ放棄という言葉を使っていますが、放棄の流れや手続き方法などはまったく異なります。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
e-Gov法令検索 民法第939条
相続放棄で手放した共有持分は、民法第255条に基づいて他の共有者へ帰属します。
相続放棄を選ぶと、共有持分以外の相続財産もすべて放棄しなければなりません。現金や貴金属などのプラスの財産だけでなく、借金や滞納金などのマイナスの財産もすべて放棄します。「現金だけ受け取りたい」といったように、相続する財産を自分で選ぶことはできません。
一見デメリットが多い手続きに見えますが、「遺産分割協議などに巻き込まれなくなる」「遺産のなかに莫大な借金があっても相続せずに済む」などのメリットがあります。
たとえば、相続時に共有持分の放棄によって持分を手放した場合でも、遺産分割協議でマイナスの財産を押し付けられたり、相続人同士の口論に巻き込まれたりなどのリスクを完全に避けることはできません。相続財産を柔軟に選びやすい反面、相続にまつわるさまざまなトラブルに備える必要があります。
相続放棄ができるのは、「相続開始を知った日から3か月以内」です。この期間内に、家庭裁判所にて申述をおこないます。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
e-Gov法令検索 民法第938条
期限や手続き方法も、共有持分の放棄と明確に異なる点です。
なお、「すでに相続財産を使ったり処分したりなどして法廷単純承認が認められる」「書類に不備があった」などのケースだと、相続放棄はできなくなります。
<相続放棄が向いているケース>
- 相続人同士の関係が悪く争いから外れたい
- 共有持分以外にマイナスの財産が多く、相続したくない
共有持分の放棄と贈与との違い
贈与とは、自分が所有する財産を他の人に無償で与える契約行為です。財産を渡す人を贈与者、受け取る人を受贈者と呼びます。贈与者と受贈者の間には、贈与契約が結ばれます。
共有持分の放棄も実務上は贈与扱いですが、共有持分を渡す相手や合意形成などのプロセスに大きな違いがあります。贈与と共有持分の放棄について、以下の表で比較しました。
|
贈与 |
放棄 |
根拠条文 |
民法第549条など |
民法第255条など |
共有持分の帰属先 |
贈与者が指定した相手 |
他の共有者全員 |
相手に渡す共有持分の割合 |
贈与者が自由に決められる |
所有する共有持分をすべて手放す必要がある |
他の共有者の同意 |
受贈者が他の共有者なら受贈者の同意が必要 |
不要 |
手続き |
贈与契約を締結してから持分移転登記 |
放棄の意思表示をしてから持分移転登記 |
贈与税 |
受贈者が負担 |
共有持分を受け取った共有者全員が負担 |
不動産の取得費 |
贈与者の取得日・取得費を引き継ぐ |
贈与者の取得日・取得費は引き継がず新しいものになる |
どちらのほうが優れているといった話ではないため、状況に応じた方法を選択するのがよいでしょう。
<贈与が向いているケース>
- 共有持分を渡す相手を自分で選びたい
- 共有持分を渡す相手の同意が取れる
- 受贈者が共有持分の購入資金をすぐに準備できない
共有持分を放棄で手放す際の注意点
共有持分の放棄は、他の共有者の同意が必要ないなど持分を手放しやすい方法です。しかし、ある意味で一方的な手段であるため、放棄ならではの注意点がいくつか存在します。共有持分を放棄で手放す際の注意点は、次の通りです。
- 売却と異なり得られる金銭的対価が一切ない
- 他の共有者とのトラブルに発展する可能性がある
- 他の共有者が登記に協力してくれないと「登記引取請求訴訟」が必要になる
売却と異なり得られる金銭的対価が一切ない
共有持分の放棄は、売却と異なり得られる金銭的対価が一切ありません。
共有持分の市場価格は、通常の不動産よりも低い傾向があるのは事実です。とはいえ、実際には数百万~数千万円、立地や状態によっては1億円以上で取引されるケースも存在します。売却しても大した金額にならないと勝手に判断した結果、実は収入を得るチャンスを逃していたというケースもゼロではないでしょう。
また、放棄に伴う費用の支払いに売却益を充てられない点も、放棄を選ぶ際の注意点になります。
放棄を選択した場合、放棄した年の1月1日~放棄した日までの固定資産税・都市計画税の支払いが必要です。持分移転登記に必要な登録免許税も、放棄した人が負担するケースが多いです。
他の共有者とのトラブルに発展する可能性がある
共有持分の放棄は、言い換えれば「他の共有者の意思に関係なく、共有持分を一方的に引き渡す」との見方もできます。そのため、事前の意見調整がなかったり共有者との関係性が悪かったりする場合は、トラブルに発展する可能性があります。
共有持分の放棄に伴う、他の共有者とのトラブル例は次の通りです。
- 贈与税が発生することを他の共有者が知らず、相手から抗議がくる
- 共有状態から勝手に抜け出したことをよく思わず、さらなる関係悪化や嫌がらせ行為につながる
- 最後の1人になった共有者に不動産管理や税金の支払いが集中してしまう
- 他の共有者が登記に協力せず、いつまでも手続きが進まない
上記のトラブルを防ぐには、放棄する旨をあらかじめ他の共有者に伝えておきましょう。事前に話しておけば、他の共有者も気持ちの整理や準備が進めやすくなり摩擦も少なくなります。とくに、帰属する共有持分の割合や贈与税の負担など、他の共有者が直接関係する内容は話しておくことを推奨します。
他の共有者が登記に協力してくれないと「登記引取請求訴訟」が必要になる
共有持分を放棄した後、持分移転登記に他の共有者が協力しない可能性もゼロではありません。登記が進まないと法律上は共有持分を手放したことにならず、固定資産税などの納税義務や管理義務は消えずに残り続けます。
他の共有者が登記に協力しない場合は、裁判所で「登記引取請求訴訟」を提起し、法的な解決を求めることができます。
登記引取請求訴訟とは、共同申請が必要な登記手続きにおいて、登記に協力しない相手に対して起こす裁判です。勝訴判決を得られれば、共同申請ではなく単独申請で登記できます。
しかし、登記引取請求訴訟は判決が出るまで数か月以上を有するうえに、100%勝訴判決を勝ち取れるわけではありません。また、対応を依頼する弁護士への依頼料や、裁判手続きの費用なども発生します。登記引取請求訴訟はあくまで最終手段として、できるだけ話し合いでの解決を目指すことを推奨します。
登記引取請求訴訟を起こす際は、「内容証明郵便などで共同申請が必要な旨を相手に伝えておく」「訴訟を提起するに足りる理由や立証に必要な証拠を揃えておく」などの準備を進めておきましょう。相手共有者との交渉や訴状の作成、法廷での弁論には専門知識が必要になるため、基本的には弁護士に対応を依頼します。
共有持分の放棄で自分と他の共有者に発生する費用・税金
共有持分の放棄を進めた場合、自分と他の共有者双方に金銭的負担が発生します。発生する費用や税金について、以下の表にまとめました。
発生する費用・税金 |
かかる費用 |
負担する人 |
登録免許税 |
固定資産税評価額×共有持分割合×2% |
原則として放棄者 |
司法書士費用 |
1件あたり3万~10万円 |
原則として放棄者 |
固定資産税など |
【固定資産税】
固定資産税評価額×共有持分割合×1月1日から放棄する日までの日数÷365日×1.4%
【都市計画税】
固定資産税評価額×共有持分割合×1月1日から放棄する日までの日数÷365日×0.3% |
放棄者 |
贈与税 |
{(固定資産税評価額×共有持分割合)-110万円} × 税率 - 控除額 |
共有持分を受け取る共有者 |
不動産取得税 |
固定資産税評価額×共有持分割合×3% |
共有持分を受け取る共有者 |
以下では、共有持分の放棄をみなし贈与扱いとする場合に、発生する費用を解説します。なお、共有持分の放棄は手放す際に売却益が発生しないため、譲渡所得税や住民税は発生しません。
金額計算に使用する「固定資産税額」とは、各市区町村が算定した基準額です。固定資産税の納税通知書に付いている課税明細書や、市区町村役場などで取得できる固定資産税評価証明書などで確認できます。
【自分】登録免許税:持分移転登記の際に発生
登録免許税とは、登記手続きの際に国へ納める税金です。
<持分移転登記の登録免許税の計算式>
固定資産税評価額×共有持分割合×税率
登録免許税の税率は、次の通りです。
参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
たとえば、固定資産税評価額3,000万円の土地で共有持分30%の場合、登録免許税は「3,000万円×30%×2%=18万円」となります。
登録免許税を支払うのは、共有持分を放棄する側になるケースが多いです。受け取る側の意思に関係なく放棄できるため、放棄する側が負担したほうが他の共有者との摩擦が少ないからだと考えられます。なお、共有持分が帰属する相手との合意があれば、負担者を自由に決められます。
登記を司法書士に依頼するときは追加で司法書士費用がかかる
持分移転登記手続きを司法書士に依頼するときは、1件あたり3万~10万円の司法書士費用がかかります。共有持分の放棄の場合は2件以上の登記が必要になるため、共有者の数だけ支払いが必要になる可能性があります。
司法書士費用を支払うのは、登録免許税と同じく放棄者になるケースが多いです。ただし登録免許税と同じく、共有持分を受け取る人が代わりに支払うことも可能です。
詳細な金額は司法書士事務所ごとで異なるため、依頼前に事務所へ直接確認しておくのがよいでしょう。
【自分】固定資産税など:1月1日から手放すまでの分が発生
固定資産税とは、毎年1月1日時点で不動産を所有している人へ課せられる税金です。地域によっては、都市計画税も課せられます。
共有持分の放棄者は、その年の1月1日から放棄する日までの日数に応じた固定資産税や都市計画税の支払いが必要です。
<固定資産税の計算方法>
固定資産税評価額×共有持分割合×1月1日から放棄する日までの日数÷365日×1.4%(※)
<都市計画税の計算方法>
固定資産税評価額×共有持分割合×1月1日から放棄する日までの日数÷365日×0.3%(※)
市区町村ごとによっては異なる場合あり
たとえば、固定資産税評価額3,000万円の土地で、共有持分30%、放棄するまでの日数73日だった場合、固定資産税は「3,000万円×30%×73日÷365日×1.4%=2万5,200円」となります。都市計画税は、3,400円になります。
参考:総務省「固定資産税」
参考:総務省「都市計画税」
【他の共有者】贈与税:贈与扱いになるため発生
贈与税とは、個人から何かしらの財産を一定以上もらったときに課せられる税金です。課税方法は、「暦年課税」と「相続時精算課税」からどちらかを選択します。本記事では、主に暦年課税のケースを解説します。
放棄された共有持分を受け取った共有者には、その分の贈与税が課せられます。受け取った共有持分が高額であるほど、税率が上がって贈与税が高額になります。
<暦年課税での贈与税の計算方法>
{(固定資産税評価額×共有持分割合)-基礎控除110万円}×贈与税率-控除額
贈与税率は、父母や祖父母などの直系尊属から贈与されたときは「特例税率」、それ以外の人から贈与されたときは「一般税率」の適用です。共有持分の放棄の場合、原則として一般贈与財産用の税率になります。
基礎控除後の課税価格 |
一般贈与財産の税率 |
一般贈与財産の控除額 |
200万円以下 |
10% |
ー |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
3,000万円超 |
55% |
400万円 |
基礎控除後の課税価格 |
特例贈与財産の税率 |
特例贈与財産の控除額 |
200万円以下 |
10% |
ー |
400万円以下 |
15% |
10万円 |
600万円以下 |
20% |
30万円 |
1,000万円以下 |
30% |
90万円 |
1,500万円以下 |
40% |
190万円 |
3,000万円以下 |
45% |
265万円 |
4,500万円以下 |
50% |
415万円 |
4,500万円超 |
55% |
640万円 |
参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
以下では、共有持分の放棄によって発生する贈与税のシミュレーションをおこないました。
<シミュレーションの条件>
・一般贈与財産用の税率を適用
・固定資産税評価額3,000万円の土地
・放棄する共有持分割合30%
・他の共有者の共有持分割合A50%、B25%
<シミュレーション>
(3,000万円×30%)=900万円
共有者Aの贈与税={(900万円×50/75)-110万円}×30%-65万円=82万円
共有者Bの贈与税={(900万円×25/75)-110万円}×10%=19万円
【他の共有者】不動産取得税:放棄によって共有持分を取得したことで発生
不動産取得税とは、不動産を贈与や購入などで取得した場合に、取得者へ課せられる税金です。共有持分の放棄はみなし贈与扱いであるため、共有持分を受け取った人へ不動産取得税が課せられます。
<不動産取得税の計算方法>
固定資産税評価額×共有持分割合×税率3%(※)
※本来の税率は4%だが土地と住宅に関しては軽減税率3%が適用されている
以下では、共有持分の放棄によって発生する贈与税のシミュレーションをおこないました。
<シミュレーションの条件>
・軽減税率3%
・固定資産税評価額3,000万円の土地
・放棄する共有持分割合30%
・他の共有者の共有持分割合A50%、B25%
<シミュレーション>
(3,000万円×30%)=900万円
共有者Aの不動産取得税=(900万円×50/75)×3%=18万円
共有者Bの不動産取得税=(900万円×25/75)×3%=9万円
参考:総務省「不動産取得税」
共有持分の放棄手続きの具体的な流れ
共有持分の放棄手続きの具体的な流れは、以下の通りです。
- 他の共有者に対して放棄の意思表示をおこなう
- 共有持分に関する持分移転登記を申請する
- 他の共有者が登記に協力しないときは登記引取請求訴訟を提起する
他の共有者に対して放棄の意思表示をおこなう
共有持分の放棄に関する意思表示は、実務上、他の共有者が分かるようにおこないます。意思表示の方法は、口頭のみでも法律上問題ありません。
しかし、万が一登記引取請求訴訟になったときに証拠として使えるよう、内容証明郵便を使って意思表示の記録を残しておくのがよいでしょう。いきなり内容証明郵便を送って混乱させるより、口頭で伝えてから内容証明郵便を送るほうがスムーズです。
なお、登記手続きを司法書士や弁護士に依頼する場合は、内容証明郵便の作成も併せて依頼するとよいでしょう。
共有持分に関する持分移転登記を申請する
共有持分の放棄の意思表示をした後は、他の共有者と協力して共同申請で持分移転登記を進めます。登記の申請場所は、共有名義不動産の所在地を管轄する法務局です。
持分移転登記の申請に必要な書類を、放棄者・他の共有者別にまとめました。
放棄者が準備する書類 |
入手場所 |
登記申請書 |
法務局の窓口や公式サイト |
登記原因証明情報 |
・自分で作成する、または司法書士に作成を依頼する
・放棄の目的、原因、日付、当事者などの情報を記載 |
固定資産評価証明書 |
不動産の所在地を管轄する市区町村役場の窓口や市税事務所 |
放棄者の印鑑証明書 |
放棄者が住む地域の市区町村役場の窓口やコンビニ |
実印 |
本人所持 |
代理人申請の場合は委任状 |
自分で作成 |
他の共有者に準備してもらう書類 |
入手場所 |
他の共有者の住民票 |
市区町村役場やコンビニ |
本人確認書類 |
他の共有者の運転免許証やマイナンバーカードなど |
認印 |
他の共有者が所持 |
登録免許税の納付方法は、まず登録免許税に相当する金額を金融機関や税務署で支払います。その後、領収書を登記申請書に貼り付けて法務局に提出します。オンライン申請なら、電子納付も可能です。
他の共有者が登記に協力しないときは登記引取請求訴訟を提起する
他の共有者が登記に協力しないときは、登記引取請求訴訟を提起します。提起場所は、提起する人または協力しない共有者の住所地を管轄する地方裁判所、または家庭裁判所です。
登記引取請求訴訟の提起で準備するものは、次の通りです。
登記引取請求訴訟で必要なもの |
概要 |
訴状 |
裁判所に提出するものと、登記に協力しない共有者へ送る用を準備する |
手数料 |
・固定資産評価額の1/2を訴額として以下の手数料がかかる
・訴額100万円まで:10万円ごとに1,000円
・訴額500万円まで:20万円ごとに1,000円
・訴額1,000万円まで:50万円ごとに2,000円
・訴額1億円まで:100万円ごとに3,000円 |
郵便費用 |
・裁判所ごとに決められた金額の郵便切手
・訴状1枚あたり6,000~7,000円前後 |
添付書類 |
登記事項証明書や固定資産評価証明書など |
証拠書類の写し |
意思表示の内容証明郵便のコピーなど |
弁護士費用 |
弁護士事務所にもよるが着手金や成功報酬で合計数十万円 |
登記引取請求訴訟は、原告側が勝訴するケースが多いのが実情です。なぜなら、原告側が「共有持分の放棄の意思表示をした事実」を立証できれば、協力する必要ありとほぼ判断されるからです。
とはいえ、立証したとしても100%勝訴できるとは限りません。トラブルがこじれる前に、早い段階での共有者との話し合いや、弁護士への相談をおすすめします。
共有持分の放棄をトラブルなく進めるために知っておきたいポイント
共有持分を放棄する際にトラブルを避けるためには、あらかじめ次のポイントを理解しておくことが大切です。
- 共有持分の放棄が本当に適切な手段かどうかを見極める
- 放棄を進める前に他の共有者へ事前に相談しておく
- 分譲マンションでは専有部分や敷地利用権を単独で放棄できないことを理解しておく
共有持分の放棄が本当に適切かどうかを確認し後悔しないようにする
共有持分の放棄は、他の方法と比べて手続きが簡潔である反面、現金化できない・贈与税の負担を生じさせる・登記協力を得られずに訴訟になる可能性があるなど、リスクも多い方法です。
共有持分を手放して共有状態を解消する方法は、放棄以外にもいくつも存在します。放棄があなたにとって本当に適切な方法かどうかを事前に確認し、後悔しないように選ぶことが大切です。以下では、共有持分を手放して共有状態を解消する主な方法をまとめました。
共有状態を解消する方法 |
メリット |
デメリット |
共有持分の放棄 |
・他の共有者の同意なしで共有持分を手放せる
・時期を選ばずに実施できる |
・現金化できない
・共有持分を渡す相手を指定できない
・他の共有者全員に贈与税・不動産取得税の負担を強いることになる
・他の共有者が登記に協力せず登記引取請求訴訟に発展する可能性がある |
相続放棄 |
・他の共有者の同意なしで共有持分を手放せる
・相続争いやマイナスの相続を回避できる |
・共有持分以外の相続財産も手放すことになる
・相続時の限られた期間しか手続きができない |
共有持分の売却 |
・金銭が手に入る
・買取業者への売却なら数日~1週間程度で現金化できる
・買取業者への売却なら売却後のトラブル防止やそのままの状態での売却などができる |
・買い手が見つからないと成立しない
・悪質な第三者へ売却すると残った共有者とトラブルを起こす可能性がある |
共有持分の贈与 |
・相手が購入資金を準備できなくても渡せる
・贈与先を選べる |
・現金化できない
・贈与相手に贈与税・不動産取得税が発生する |
共有物分割請求 |
・現物分割、換価分割、代償分割のいずれかの方法で分割できる
・請求すれば必ず話し合いができる
・話し合いがまとまらないときは訴訟で法的に判断を仰げる |
・自分が望む分割方法になるとは限らない
・協議や訴訟に費用や労力がかかる |
分筆 |
・共有者全員が不動産を手放さず単独名義で所有できる
・分筆した土地の活用や売却がしやすくなる |
・共有者の共有持分の過半数の同意がなければできない
・不動産が土地ではなく建物の場合は現実的に分筆できない
・土地家屋調査士への依頼や役所の担当者の確認など準備に時間がかかる |
以下では、共有持分の放棄が適しているケースとそうでないケースを解説します。
共有持分の放棄を検討すべきケース
共有持分の放棄を検討すべきケースは、次の通りです。
- 他の共有者と意見が割れて話し合いが進まない
- 他の共有者と疎遠・不仲で連絡が取りにくい
- 資産価値が低く売却しても利益を期待できない
- できるだけ早く共有持分を手放したい
正直なところ、放棄は共有持分を手放せること以外に大きなメリットはほとんどありません。「とにかく、共有持分を売却したい」と思う人は、放棄を検討してみましょう。
放棄を進める前に他の共有者へ事前相談をする
放棄手続きを進める前に、他の共有者へ事前相談をすることを推奨します。登記時の共同申請や放棄後の人間関係などを踏まえると、法的に同意が不要であっても、あらかじめ他の共有者とも話し合っておいたほうがトラブルを防ぎやすくなります。
事前相談では、「放棄後の共有持分の帰属割合」「それぞれが負担する贈与税の金額」「共同申請の協力依頼」などを話しておくと、放棄後の混乱も抑えやすくなるでしょう。
分譲マンションの場合は専有部分や敷地利用権単体での放棄ができないと知っておく
放棄しようとしている共有持分が分譲マンションだった場合、専有部分や敷地利用権のみを単独で放棄することはできないため、注意が必要です。
専有部分とは、マンションにおける入居者が住む部屋のことです。次に敷地利用権とは、専有部分の所有権に付随している、マンションなどが建つ土地を利用できる権利を意味します。マンションの一室を所有している人は、敷地利用権によってマンションの共有部分を共同で利用できます。
専有部分の所有権と敷地利用権を別々に処分することは、1983年の法改正によって導入された「敷地利用権と専有部分の一体化」によって原則禁止されました。たとえば、専有部分の共有持分を放棄するときは、その専有部分とセットとなっている敷地利用権も一緒に手放さなくてはなりません。
要するに、「マンションの一室の所有権だけ手放す」「共有部分を使う権利だけ手放す」などはできません。これらは、建物の区分所有等に関する法律にて定められています。
(分離処分の禁止)
第二十二条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律第22条
法改正以前に建てられたマンションで専有部分の所有権と敷地利用権が別々に登記されている場合でも、上記の規定が適用されます。
共有持分を手放すなら放棄よりも専門の買取業者への売却がおすすめ
共有持分の放棄には、権利を手放す以外の直接的なメリットがありません。共有持分を手放すなら、共有状態を解消できるうえに現金化ができる売却のほうがおすすめです。
「共有持分は一般の人に売却するのが難しい」と聞いたことがあるかもしれませんが、共有持分を専門とする買取業者へなら、共有持分でも積極的な買取が期待できます。買取業者とは、依頼者から不動産を買い取った後、買い取った不動産を活用して利益を得る業者です。
共有持分専門の買取業者への売却を、放棄よりもおすすめする理由は次の通りです。
共有持分を専門の買取業者へ売却するメリット |
概要 |
一般的な不動産仲介では売却できない共有持分でも買い取ってくれる |
共有持分専門の買取業者なら、他の不動産会社や個人では取り扱えない共有持分でも買い取ってくれる |
放棄と同じようにスピーディーに手放しやすい |
数日~1週間程度で現金化できる |
共有持分であっても適切に査定してくれる |
共有持分に関する専門知識と経験を基に、他の不動産会社や個人では気づかない評価ポイントを適切に査定し、買取価格に反映してくれる |
放棄と同じようにほかの共有者の同意なしで手放せる |
共有持分単体の処分になるため、他の共有者の同意が必要ない |
持分移転登記の際は共同申請とする必要がない |
登記義務者が自分、登記権利者が買取業者になるため、他の共有者の協力がなくても持分移転登記が進められる |
買取業者へ売却する際の相場の目安は、「共有名義不動産の市場価格×共有持分割合×1/2~1/3」です。市場価格2,000万円、共有持分割合30%なら、200万~300万円が目安です。詳細な査定額は、不動産の立地、築年数、権利関係、周辺施設などを考慮して決定します。
一般的な不動産仲介では売却できない共有持分でも買い取ってくれる
共有持分は、一般の人が単体で持っていても「他の共有者の同意がないと不動産の活用に制限がかかる」「費用負担や管理方針について他の共有者と衝突する」など、さまざまなリスクを抱え込むことになります。そのため、不動産仲介で一般の買い手を探しても見つかる可能性は低いです。
しかし、共有持分専門の買取業者は、共有持分のうち権利関係が複雑なものや、共有者同士のトラブルリスクがあるものでも、買い取って収益化できる独自ノウハウを持っています。そのため他の人では活用が難しい共有持分でも、専門の買取業者なら買い取ってくれる可能性が高いです。
放棄と同じようにスピーディーに手放しやすい
買取業者へ売却する場合、相談、査定、契約締結、現金化まで、平均で数日~1週間程度で済みます。スピードに自信がある買取業者なら、即日査定・現金化が可能です。そのため、意思表示と登記で実施できる放棄と同じように、スピーディーに手放せるメリットがあります。
通常の不動産を仲介で売却する場合、現金化まで平均3か月~6か月、長いときは1年以上かかることも珍しくありません。共有持分だと、市場での需要の低さから現金化までさらに時間がかかる可能性があります。
共有持分であっても適切に査定してくれる
共有持分専門の買取業者なら、共有持分であっても適切に査定してくれます。理由は次の通りです。
- 共有持分に関する専門知識や取扱経験を基に共有持分の価値を正しく査定できる
- 買取後の活用によって得られる収益分を考慮してくれる
共有持分を取り扱っていない業者や一般の人では気付けないところを、専門の買取業者なら見逃さず評価してくれるでしょう。
放棄と同じように他の共有者の同意なしで手放せる
共有持分だけの売却なら、放棄と同じく他の共有者の同意なしで進められます。他の共有者の同意なく実施できるが登記時には協力してもらう必要があるにて解説した民法第206条の通り、自分の所有権の範囲でなら自由に使用・処分ができるからです。取引相手は買取業者のみであるため、他の共有者に贈与税や不動産取得税の負担を強いることもありません。
とはいえ、共有持分を手放すこと自体に反発する共有者とトラブルになる可能性はあります。放棄のときと同じく、売却する旨は他の共有者にあらかじめ相談しておくのがよいでしょう。
持分移転登記の際は共同申請とする必要がない
共有持分を買取業者へ売却し登記する場合、登記義務者は自分、登記権利者は買取業者の2者のみになります。そのため持分移転登記の際は、放棄のように他の共有者全員との共同申請とする必要がありません。登記に関して他の共有者へ協力を依頼することもなければ、登記引取請求訴訟を提起する機会も原則としてなくなります。
ただし、登記が完了すると共有持分の所有権があなたから買取業者へ移動するため、他の共有者にとっては「突然、知らない業者が共有者になった」と困惑する可能性があります。共同申請が必要なくても、所有者が代わる旨は他の共有者へ事前告知しておくことをおすすめします。
まとめ
共有持分の放棄は、自分の共有持分を他の共有者全員に帰属させることで、共有状態を解消する方法です。帰属させる割合は、他の共有者の共有持分割合に応じるのが基本です。放棄は自分の意思表示のみで実施できるため、他の共有者の同意を得る必要がないメリットがあります。
ただし、持分移転登記の際には他の共有者との共同申請になるため、他の共有者との協力が必要です。もし協力を得られないときは、登記引取請求訴訟を起こし、単独申請を認めてもらえるよう進めます。放棄によって共有持分を得た共有者には贈与税や不動産取得税が課せられるため、意思表示する前に他の共有者へ相談しておくと、トラブルを防ぎやすくなるでしょう。
ただし、共有持分の放棄では現金化ができないため、現金を得たいときは売却での処分をおすすめします。共有持分専門の買取業者への売却なら、さまざまな問題を抱える共有持分であっても、適切に査定し買い取ってくれるはずです。
当サイト「イエコン」では、全国各地の共有持分問題に強い買取業者を無料で検索できます。買取業者の得意分野や連絡先を調べられるので、検索後はすぐに査定をお願いできます。共有持分の処分についてお悩みであれば、ぜひ一度イエコンをご利用ください。
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共有持分の放棄に関するQ&A
農地といった特殊な不動産の共有持分も放棄できますか?
共有持分を他の人へ譲渡や売却する場合は、農地法で定められている農業委員会の許可が必要になります。
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