共有持分の放棄に関する基本ルール
まずは共有持分を放棄する際の基本的なルールを押さえておきましょう。
前提として、共有持分を放棄すれば、すぐに共有関係を解消できるわけではありません。放棄後は、その割合を登記簿に反映させる「持分移転登記」が必要です。
この持分移転登記は原則として放棄した人と持分を取得した人が共同で申請する必要があります。つまり、共有持分の放棄には、他の共有者の協力が欠かせません。
もし、共有者が登記に協力しない場合は、最終的に登記手続請求訴訟を提起しなければならないこともあります。このように、共有持分を放棄するまでにはいくつかのルールがあるので、必ず確認しておきましょう。
共有持分を放棄する際の基本ルールは以下のとおりです。
共有持分を放棄するルール
| ルール |
概要 |
| 共有持分は単独の意思表示で放棄できる |
共有持分は、他の共有者の同意がなくても自分の意思だけで放棄できる。ただし、放棄後の所有権移転登記は、原則として他の共有者との共同申請が必要となる。 |
| 放棄した共有持分は他の共有者に持分割合に応じて帰属する |
放棄した共有持分は、民法第255条に基づき他の共有者へ持分割合に応じて自動的に帰属する。 |
| 放棄後は原則として撤回できない |
一度有効に行った共有持分の放棄は、原則として一方的に撤回や取消しはできない。 |
| 共有者に税負担が生じる場合がある |
共有持分を取得した他の共有者には、持分の評価額などによって贈与税が課税される可能性がある。 |
| 共有持分の放棄と相続放棄は別の制度 |
共有持分の放棄は不動産の持分だけを手放す制度であり、相続放棄は相続権そのものを放棄する制度である。 |
ひとつずつ詳しく解説していきます。
共有持分は単独の意思表示で放棄できる
前述した通り、共有持分は民法第206条により、個人の意思で自由に放棄できます。
(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
引用元 e-Gov法令検索 民法第206条
たとえば、相続によって共有名義になった不動産を所有しており「固定資産税や維持管理費を負担したくない」というケースでも、自分の判断で放棄できます。
ただし、放棄の意思表示だけで手続きがすべて完了するわけではありません。放棄後に所有権移転登記を行うには、原則として他の共有者と共同で登記申請を行う必要があります。
つまり、共有者の同意なしに、持分を放棄して共有関係から完全に抜け出すことは難しいです。そのため、共有持分を放棄する際は、事前に共有者へ放棄の意思を伝えたうえで手続きを進めるケースが一般的です。
また、共有者が登記手続きに協力しない場合は、最終的に登記手続請求訴訟を提起し、判決を得たうえで登記を行う必要があります。
そのため、「放棄すること」と「登記を完了させること」は別の問題である点に注意しましょう。詳しくは「意思表示後の登記には共有者の協力が必要」にて説明しています。
放棄した共有持分は他の共有者に持分割合に応じて帰属する
放棄した共有持分は、他の共有者へ持分割合に応じて自動的に帰属します。これは民法第255条で定められており、放棄した持分を放棄者が自由に帰属先を指定したり、他の共有者が話し合いで取得者を決めたりすることはできません。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
引用元 e-Gov法令検索 民法第255条
たとえば、A・B・Cの3人がそれぞれ3分の1ずつ共有持分を所有しており、Aが持分を放棄した場合、Aの持分はBとCへ帰属します。この場合、BとCはそれぞれ2分の1ずつの持分を取得し、共有者は2人になります。
なお、放棄した共有持分は民法第255条の規定によって当然に他の共有者へ帰属するため、他の共有者が取得するかどうかを自由に選択できる制度ではありません。そのため、持分の評価額によっては、持分を取得した共有者に贈与税が課税される可能性があります。
共有持分を放棄する際は、自分だけでなく他の共有者にも税務上の影響が生じる可能性があることを理解したうえで、事前に話し合っておくことが望ましいでしょう。
共有持分の放棄と相続放棄の違い
共有持分の放棄は、不動産の持分だけを手放す手続きです。預貯金や有価証券など他の財産には影響しません。
一方、相続放棄は被相続人の財産や、負債を含めた相続権そのものを放棄する制度です。相続放棄において、共有持分だけを放棄することはできません。
「遺産は相続したいけれど、共有名義の不動産だけはいらない」という場合は、相続放棄ではなく、遺産分割協議で取得する財産を相続人同士で調整する必要があります。
たとえば、他の相続人に不動産を取得してもらい、自分は預貯金などの財産を取得する方法が考えられます。すでに共有名義で相続してしまった場合は、その後に共有持分を放棄することも可能です。
共有持分の放棄の注意点
共有持分は自分の意思だけで放棄できますが、実際に共有関係を解消するまでには下記のように注意すべきポイントがあります。
- 意思表示後の登記には共有者の協力が必要
- 最後の一人になると共有持分放棄ができない
- 住宅ローンが残っている共有持分は実質的に放棄できない
- 他の共有者に贈与税や不動産取得税が発生する
- 放棄した年の固定資産税の支払い義務はある
- 共有持分の放棄が認められないことがある
- 現金は得られない
また、放棄の条件や税金面で見落としやすいポイントもあるため、事前に全体の流れや注意点を理解しておくことが重要です。
ここからは、共有持分を放棄する際に押さえておきたい7つの注意点について詳しく解説します。
意思表示後の登記には共有者の協力が必要
繰り返しにはなりますが、共有持分の放棄を意思表示した後は持分移転登記が必要です。
放棄による持分移転登記は、放棄する共有者(登記義務者)と、持分を取得する他の共有者(登記権利者)が共同で申請するのが原則です。たとえば、自分以外に3人の共有者がいる場合は、その3人全員が登記手続きの当事者となります。
もし、共有者と連絡が取れない場合や登記への協力を拒否された場合、法律上は持分を放棄していても登記簿を書き換えられず、登記名義が放棄前のまま残ってしまいます。
もし「共有者の協力が得られない」「疎遠になっているので連絡を取りたくない」などの場合は、次のような選択肢があります。
| 方法 |
有効なケース |
特徴 |
| 弁護士に依頼する |
・共有者と連絡が取れない
・疎遠で自分ではやり取りしたくない
・交渉に不安がある場合 |
共有者への意思表示や登記手続きの交渉を代理してもらえる。 |
| 登記引取請求訴訟を提起する |
共有者が正当な理由なく登記への協力を拒否している場合 |
裁判所に登記への協力を求める訴訟。勝訴判決が確定すれば、その判決をもとに持分移転登記を申請できる。 |
なお、登記引取請求訴訟も裁判所で行う法的手続きなので、弁護士に依頼して進めるケースが一般的です。もし共有持分の放棄において共有者との間に問題がある場合、まず弁護士に相談して最適な方法を模索するのも選択肢のひとつです。
最後の一人になると共有持分放棄ができない
共有持分の放棄は、放棄した持分が「他の共有者」に帰属することを前提とした制度です(民法第255条)。そのため、他に共有者がおらず、自分が最後の一人となる場合は持分の帰属先が存在しないため、この制度を利用することはできません。
共有持分の放棄は、放棄する当事者以外にも共有者が複数いることを前提とした制度です。つまり、他に共有者がおらず、自分が最後の一人になる場合は持分の帰属先が存在しないため、この制度を利用できません。
もし、他の共有者全員が先に持分を放棄し、結果として自分だけが所有者になった場合は、売却や贈与など別の方法で不動産を処分することになります。
住宅ローンが残っている共有持分は実質的に放棄できない
住宅ローンが残っている共有持分は、実質的に放棄することができません。
まず、一般的な住宅ローン契約には、担保となっている不動産の所有権を移転する際に、金融機関の承諾を必要とする条件が設けられています。そのため、もし無断で共有持分を放棄して名義変更を行ってしまうと契約違反と判断され、残債の一括返済を求められる危険性があります。
また、共有名義で住宅ローンを組んでいる場合、共有者同士が連帯債務者や連帯保証人になっているケースがほとんどです。住宅ローンの返済義務は金融機関との契約に基づくものであるため、共有持分を手放したからといって、返済義務が免除されることはありません。
このように、住宅ローンが残っている状態では、共有持分を放棄して関係を断ち切ることは不可能です。
解決策としては、まず金融機関へ相談して、契約内容と現在のローン残高を把握することが重要になります。そのうえで、放棄ではなく、他の共有者へ持分を売却して単独名義ローンを借り換えてもらう方法や、共有持分を専門の買取業者へ売却するといった方法を検討しましょう。
他の共有者に贈与税や不動産取得税が発生する
共有持分を放棄すると、持分を取得する他の共有者に贈与税や不動産取得税が発生する可能性があります。
共有持分の放棄は民法上、贈与には該当しません。しかし国税庁によると、共有者が持分を放棄した場合、その持分を取得した他の共有者は「贈与により取得したもの」として取り扱うこととされています。
(共有持分の放棄)
9-12 共有に属する財産の共有者の1人が、その持分を放棄(相続の放棄を除く。)したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする。
引用元 国税庁 第9条《その他の利益の享受》関係
そのため、取得した持分の価額によっては贈与税が課税される可能性があります。
たとえば、固定資産税評価額3,000万円の不動産を3人で3分の1ずつ共有しており、そのうち1人が持分を放棄したとします。
放棄された3分の1の持分(評価額1,000万円)は残り2人に500万円ずつ帰属し、各共有者が取得した500万円分については贈与税の課税対象となる可能性があります。
ここで注意したいのが、放棄した側にも贈与税の連帯納付義務が生じる可能性があることです。
贈与税は原則として、持分を取得した共有者が納税義務者です。一方、相続税法では持分を放棄した人(贈与者)にも、贈与した財産の価額を限度として連帯納付義務が定められています。
財産を贈与した者は、当該贈与により財産を取得した者の当該財産を取得した年分の贈与税額に当該財産の価額が当該贈与税の課税価格に算入された財産の価額のうちに占める割合を乗じて算出した金額として政令で定める金額に相当する贈与税について、当該財産の価額に相当する金額を限度として、連帯納付の責めに任ずる。
引用元 e-Gov法令検索 相続税法第340条
共有持分の放棄が税務上「贈与」として取り扱われ、受贈者が贈与税を納付しない場合などには、放棄した人に対して納付を求められる可能性があるのです。
また、不動産取得税についても、都道府県が「不動産を取得した」と判断した場合には課税されることがあります。課税の有無は取得原因や自治体の判断によって異なるため、事前に税理士や自治体へ確認しておくとよいでしょう。
共有持分の放棄を検討する際は、他の共有者にも税負担が発生することを説明し、必要に応じて税理士へ相談してから手続きを進めることをおすすめします。
放棄した年の固定資産税の支払い義務はある
共有持分を放棄しても、その年の固定資産税の支払い義務はあります。
固定資産税は、毎年1月1日時点で登記簿上の所有者として登録されている人に課税されます。年の途中で共有持分を放棄し、所有権移転登記が完了したとしても、その年の納税義務は原則として1月1日時点の所有者が負担します。
たとえば、6月に共有持分を放棄した場合でも、その年の固定資産税は放棄前の共有者として負担する必要があります。
なお、不動産の売買では引渡日を基準に固定資産税を日割りで精算する習慣があります。しかし、共有持分の放棄では共有者同士の関係が悪化しているケースも多く、日割り精算で合意に至ることは困難なケースが一般的です。
共有持分の放棄が認められないことがある
共有持分は原則として放棄できますが、すべてのケースで認められるわけではありません。前述したように、自分が最後の共有者となる場合や、住宅ローン契約によって金融機関の承諾が必要な場合は、共有持分の放棄ができません。
ほかにも、共有持分の放棄が民法第1条第3項「権利の濫用」に該当するような事情がある場合は、放棄の効力が問題となる可能性があります。
たとえば、自分が負担すべき修繕費や損害賠償責任などを免れることだけを目的として持分を放棄し、他の共有者へ著しい不利益を与えるケースや、他の共有者に不利益を与えることだけを目的として放棄を行うケースなどが挙げられます。
もっとも、共有持分の放棄が権利の濫用に当たるかどうかは、放棄の目的や経緯、他の共有者に与える影響などを踏まえて個別的に判断されます。単に他の共有者が迷惑を受けるというだけで、直ちに権利の濫用になるわけではありません。
共有持分の放棄によって他の共有者へ大きな不利益が生じる可能性がある場合は、事前に弁護士へ相談したうえで手続きを進めるのが現実的です。
現金は得られない
共有持分の放棄は、自分の権利を無償で手放す手続きです。持分が他の共有者へ帰属しても、持分の評価額に応じた金額が支払われることはありませんので、資産を現金化したい人には適していません。
共有持分に一定の価値がある場合は、他の共有者や共有持分専門の買取業者へ売却する方法であれば、共有状態を解消しながら現金化できる可能性があります。
「共有関係を解消すること」を優先するのか「持分を現金化すること」を優先するのかを整理したうえで、自身に合った方法を選択することが重要です。
共有持分の放棄を検討すべきか
共有持分の放棄は共有状態を解消する有効な方法のひとつですが、すべてのケースで最適な選択肢とは限りません。
共有持分を放棄をすると、共有関係からは抜け出せますが、持分を無償で手放すことになるため、現金は一切受け取れません。また、他の共有者に贈与税などの税負担が生じる可能性もあります。
そのため「共有者との関係を断ちたい」「維持費の負担をなくしたい」のか、それとも「共有持分を現金化したい」のかによって、適した解決方法は異なります。
ここでは、共有持分の放棄が向いているケースと、他の方法を検討したほうがよいケースを解説します。
共有持分の放棄を検討すべきケース
共有持分の放棄は売却や贈与による処分が難しく、共有持分を手放して維持費や管理負担から解放されたい場合に適した方法です。現金を得ることはできませんが、共有関係を解消することで継続的な負担を解消できます。
具体的には、次のようなケースが挙げられます。
- 相続で取得したものの、利用する予定がなく資産価値も期待できない
- 共有持分を売却しようとしても買い手が見つからない
- 他の共有者へ売却や贈与を提案したが、応じてもらえなかった
- 現金を得ることよりも、共有関係や管理負担から解放されたい
また、共有持分を売却しようとしても買い手が見つからず、他の共有者にも売却や贈与を断られている場合も、共有持分の放棄を検討すべきケースのひとつです。
ただし、共有持分を放棄する場合は、持分移転登記において他の共有者の協力が必要です。また、一度放棄した持分を取り戻すことはできず、他の共有者に税負担が生じる可能性もあります。
放棄によるメリット・デメリットを十分に理解したうえで、慎重に判断しましょう。
共有持分の放棄以外の方法を検討すべきケース
共有持分に資産価値がある場合や、できるだけ高く現金化したい場合は、共有持分の放棄以外の方法を検討することをおすすめします。
繰り返しにはなりますが、共有持分の放棄は無償で権利を手放す制度です。共有関係から解放される一方で、持分の評価額に見合った対価を受け取ることはできません。
具体的には、次のようなケースだと放棄以外の方法が適しています。
- 共有持分を現金化したい
- 他の共有者が持分の買取りに応じる意思を示している
- 共有者全員で不動産全体を売却できる可能性がある
- 共有者と売却や持分の譲渡について話し合える状況にある
特に、共有持分専門の買取業者であれば、他の共有者の同意を得ることなく自分の共有持分だけを売却できます。共有関係を解消しながら現金化を目指せるため、持分に一定の価値がある場合は有力な選択肢となるでしょう。
また、共有者全員が売却に前向きなのであれば、不動産全体を売却した方が市場価格に近い金額で売却できる可能性があります。共有者と建設的にコミュニケーションが取れる状況である場合は、まず売却の意思を確認することも検討してみましょう。
「現金化を優先したい」「現金を得られなくてもいいので早く手放したい」など、目的を整理したうえで自分に合った方法を選択しましょう。
共有持分を放棄する手順
共有持分の放棄自体は単独の意思表示で成立しますが、その後は持分移転登記を行う必要があり、必要書類の準備や法務局での登記申請などの手続きを進める必要があります。
また、登記には原則として他の共有者の協力が必要となるため、事前に話し合いを行っておくことも重要です。
共有持分を放棄する際の基本的な流れは以下のとおりです。
- 共有者に持分を放棄する意思を伝える
- 共有持分の移転登記に必要な書類を集める
- 他の共有者と共同で持分移転登記を行う
- 共有者の協力を得られない場合は登記引取請求訴訟を起こす
共有者に持分を放棄する意思を伝える
共有持分を放棄する場合は、事前に共有者へ事情を説明し、放棄する理由や今後の手続きについて話し合うのが一般的です。共有持分の放棄は自分の意思表示だけで成立しますが、放棄後は持分が他の共有者へ帰属し、持分移転登記を共同で申請する必要があるためです。
もし何の連絡もなく一方的に放棄すると、登記手続きへの協力を得られず後々トラブルになる可能性があります。
放棄の意思表示は口頭でも可能ですが、共有者から「聞いていない」といわれるリスクを防ぐためにも、内容証明郵便で通知しておくのが確実です。
なお、「共有者と連絡を取りたくない」「直接やり取りをしたくない」という場合は、弁護士へ依頼する方法もあります。弁護士に依頼すれば、共有者との交渉や意思表示の代理、必要に応じた訴訟対応まで任せられるので、精神的な負担を軽減しながら手続きを進められます。
持分移転登記が必要になった際は、弁護士が司法書士と連携して対応するか、司法書士を紹介してもらえるのが一般的です。
共有持分の移転登記に必要な書類を集める
共有持分を放棄したあとは、持分移転登記を行うために必要な書類を準備します。一般的に必要となる書類は、以下のとおりです。
| 必要書類 |
提出する人 |
内容 |
取得方法 |
| 登記申請書 |
放棄する人・他の共有者(共同) |
共有持分の所有権移転登記を申請するための書類 |
法務局のホームページから様式をダウンロードして作成するか、司法書士へ作成を依頼する |
| 登記原因証明情報 |
放棄する人・他の共有者(共同) |
共有持分の放棄によって持分が移転したことを証明する書類 |
当事者が作成するか、司法書士へ作成を依頼する |
登記識別情報 (または登記済証) |
放棄する人 |
放棄する共有者が登記名義人であることを証明する書類 |
不動産を取得した際に法務局から交付されたものを用意する |
| 印鑑証明書 |
放棄する人 |
実印が本人のものであることを証明する書類 |
市区町村役場またはコンビニ交付(対応自治体のみ)で取得する |
| 住民票 |
他の共有者 |
新たな登記名義人となる共有者の住所を証明する書類 |
市区町村役場またはコンビニ交付(対応自治体のみ)で取得する |
ケースによっては、上記以外にも書類の提出を求められることがあります。
登記申請は法務局で行い、持分が他の共有者へ帰属したことを登記簿へ反映します。なお、登記申請書や登記原因証明情報の作成は自分で行うことも可能ですが、専門的な知識が必要です。不備があると補正や再提出を求められ、手続きが長引く原因になります。
一般的に、登記に関する専門的な手続きは司法書士へ依頼するケースが多いです。専門家へ相談することで、必要書類の収集や書類作成、法務局への申請までスムーズに進められます。
他の共有者と共同で持分移転登記を行う
必要書類を揃えたら、他の共有者と共同で所有権移転登記を行います。共有持分の放棄における持分移転登記は、原則として持分を放棄した人(登記義務者)と、持分を取得する共有者(登記権利者)が共同で申請します。
登記申請の際は、申請者が登録免許税を事前に計算・納付したうえで、その納付を証明する書類を添えて法務局へ申請します。(登録免許税法 第21条)
登録免許税の計算方法については「共有持分の放棄にかかる費用・税金|登録免許税」にて詳しく解説しています。
また、登記申請は法務局の窓口で行うほか、郵送やオンライン申請にも対応しています。ただし、共有持分の放棄による持分移転登記は、放棄する人だけで完結する手続きではありません。
共同申請が原則となるため、持分を取得する他の共有者の情報や必要書類も準備しなければならず、手続きは複雑になりがちです。
そのため、一般的には司法書士へ依頼するケースが多く見られます。司法書士へ依頼すれば、必要書類の確認や登記申請書・登記原因証明情報の作成、法務局への申請まで一括して任せられるため、手続きをスムーズに進められます。
所有権移転登記が完了すると、登記簿上も共有持分が他の共有者へ移転し、共有持分の放棄に関する一連の手続きは完了します。
参照:登記・供託オンライン申請システム
共有者の協力を得られない場合は登記引取請求訴訟を起こす
共有者が所有権移転登記に協力してくれない場合は、登記引取請求訴訟を検討します。
登記引取請求訴訟とは、本来は共同で行うべき持分移転登記に相手方が協力しない場合に、裁判所へ登記手続きへの協力を求めるための訴訟です。
たとえば、共有者と連絡が取れない場合や「持分は受け取りたくない」と登記申請を拒否された場合には、手続きが進まず登記簿上は放棄前の状態が残ってしまいます。
このようなケースでは、裁判所へ登記引取請求訴訟を提起し、共有者に登記手続きへの協力を求めることができます。裁判所が登記引取請求を認める判決を下した場合は、その判決が共有者の協力に代わるため、相手方が登記を拒否していても単独で所有権移転登記を申請できます。
登記引取請求訴訟の管轄裁判所は、原則として訴額(請求の対象となる共有持分の価額)によって決まります。訴額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が第一審の管轄となります。
(普通裁判籍による管轄)
第四条 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
引用元 e-Gov法令検索 民事訴訟法 第4条
訴訟は原則として被告(訴えられる側)の住所地を管轄する裁判所へ提起します。ただし、登記引取請求訴訟は不動産に関する訴訟にあたるため、対象となる不動産の所在地を管轄する裁判所へ提起することも法律で認められています。
なお、民事訴訟法によると、登記引取請求訴訟は不動産の権利関係が争点となることから、訴額が140万円以下であっても事案によっては簡易裁判所から地方裁判所へ移送されるケースがあります(民事訴訟法 第19条2項)。管轄裁判所の判断に迷う場合は、事前に弁護士へ相談しておくと安心です。
登記引取請求訴訟に必要な書類及び費用は以下のとおりです。
| 必要書類・費用 |
内容 |
| 訴状 |
裁判所へ提出する分と、被告(訴えられる相手方)へ送付する分を作成します。 |
| 手数料 |
訴訟に必要な手数料を、収入印紙で納付します。 |
| 郵便費用 |
裁判所が当事者へ書類を送付するための費用で、現金または切手で納付します。 |
| 添付書類 |
不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書などを提出します。 |
| 証拠書類の写し |
内容証明郵便などの証拠書類がある場合は、裁判所提出用1部と被告の人数分の写しを提出します。 |
訴訟には上記のような必要書類の収集や訴状の作成、裁判手続きなどの専門的な知識が求められます。また、訴訟によって共有者との関係がさらに悪化する可能性もあるため、まずは話し合いによる解決を目指すことが大切です。
それでも解決できない場合は、弁護士へ相談したうえで登記引取請求訴訟を検討するとよいでしょう。
共有持分の放棄にかかる費用・税金
共有持分の放棄自体に手数料はかかりません。しかし、所有権移転登記を行うための必要書類の取得費用や登録免許税、司法書士へ依頼する場合の報酬などが発生します。
また、前述のとおり放棄した共有持分を取得する他の共有者には、贈与税や不動産取得税が課税される可能性があります。
共有持分の放棄にかかる主な費用は以下のとおりです。
- 登記手続きに必要な書類の取得費用
- 登録免許税
- 司法書士・弁護士への依頼費用
- 贈与税・不動産取得税
登記手続きに必要な書類の取得費用
登記申請では登記原因証明情報や印鑑証明書、固定資産評価証明書などを提出する必要があります。これらの書類は市区町村役場や法務局などで取得します。
主な必要書類と取得費用の目安は、以下のとおりです。
| 必要書類 |
取得先 |
費用の目安 |
| 印鑑証明書 |
市区町村役場・コンビニ(対応自治体のみ) |
200~500円程度 |
| 住民票 |
市区町村役場・コンビニ(対応自治体のみ) |
200~500円程度 |
| 固定資産評価証明書 |
不動産所在地の市区町村役場(東京23区は都税事務所) |
300~500円程度 |
| 登記事項証明書(必要な場合) |
法務局・オンライン |
500~600円程度 |
※自治体によって具体的な手数料は異なります。
なお、登記原因証明情報や登記申請書を司法書士へ依頼する場合は、別途依頼料も発生します。
登録免許税
共有持分の放棄による所有権移転登記では、登録免許税を納付する必要があります。
登録免許税とは、不動産の所有権移転登記などを法務局へ申請する際に国へ納める税金です。共有持分の放棄による持分移転登記でも課税され、登記を申請する人(または代理人)が税額を計算して申請時に納付します。
登録免許税は、次の計算方法で算出します。
登録免許税=放棄する共有持分の固定資産税評価額 × 2%
たとえば、不動産全体の固定資産税評価額が3,000万円で、3分の1の共有持分を放棄する場合は、次のように計算します。
放棄する共有持分の評価額:3,000万円 × 1/3 = 1,000万円
登録免許税:1,000万円 × 2% = 20万円
税額が高額になるケースもあるため、事前に固定資産税評価額を確認し、必要な費用を把握しておくことが大切です。なお、登録免許税とは別に、司法書士へ登記手続きを依頼する場合は報酬も必要になります。
参照:国税庁「登録免許税の税額表」
司法書士・弁護士への依頼費用
共有持分を放棄する際の交渉や登記手続き、法的業務を専門家へ依頼する場合は依頼費用が発生します。弁護士や司法書士に依頼する際の一般的な費用相場は以下のとおりです。
弁護士報酬の目安
| 依頼内容 |
旧日弁連報酬基準での位置付け |
費用の目安(旧基準) |
| 法律相談のみ |
法律相談 |
30分あたり5,000~1万円程度 |
| 共有者への通知・交渉 |
示談交渉事件 |
民事の訴訟事件と同額。ただし、3分の2まで減額可能(着手金の最低額は10万円) |
| 内容証明郵便の作成 |
内容証明郵便作成 |
・弁護士名なしの場合:1~3万円程度
・弁護士名ありの場合:3~5万円程度 |
| 登記引取請求訴訟 |
訴訟事件 |
・着手金:請求額の5%+9万円(24万円~159万円程度)
・報酬金:10%+18万円(48万円~318万円程度) |
| 裁判所への出廷など |
日当 |
・半日:3~5万円
・1日:5~10万円程度 |
※上記は旧日本弁護士連合会報酬等基準をもとにした目安であり、実際の弁護士費用は法律事務所ごとに異なります。
参照:国税庁「登録免許税の税額表」
司法書士報酬の目安
| 依頼内容 |
費用の目安 |
| 所有権移転登記(共有持分の放棄) |
3万~4万円程度 |
| 登記原因証明情報の作成 |
約1万円程度 |
| 書類収集も含めて依頼する場合 |
3万~8万円程度 |
共有持分の放棄に関する手続きは自分で進めることも可能ですが、登記申請書や登記原因証明情報の作成、法務局への所有権移転登記の申請など、専門知識を求められる場面が少なくありません。手続きを確実に進めたい場合は、司法書士へ依頼するのが一般的です。
一方で、共有者が登記への協力を拒否している場合や、権利関係をめぐってトラブルになっている場合は、弁護士へ相談することも検討しましょう。
共有持分の放棄に関する問題は、登記だけでなく税務や共有者との交渉など複数の問題が関係することがあります。状況が複雑な場合は自分だけで判断せず、専門家へ相談したうえで手続きを進めるのが現実的な方法です。
他の共有者には贈与税・不動産取得税がかかる場合がある
共有持分を放棄すると、持分を取得する他の共有者に贈与税や不動産取得税が課税される可能性があります。
共有持分の放棄は、持分を無償で他の共有者へ帰属させる制度です。その性質から税務上は「財産を無償で取得した」と判断される場合があり、税金が発生することがあります。
特に注意したいのが贈与税です。放棄された共有持分の評価額が基礎控除額(年間110万円)を超える場合、持分を取得した共有者が贈与税の課税対象となる可能性があります。
贈与税の税率は、共有持分の評価額から基礎控除額を差し引いた課税価格に応じて次のように定められています。
一般贈与財産用(一般税率)の速算表
| 基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
| 200万円以下 |
10% |
― |
| 300万円以下 |
15% |
10万円 |
| 400万円以下 |
20% |
25万円 |
| 600万円以下 |
30% |
65万円 |
| 1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
| 1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
| 3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
| 3,000万円超 |
55% |
400万円 |
引用:国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」
【贈与税の計算方法】
贈与税額=(共有持分の評価額-110万円)×税率-控除額
たとえば、兄弟で2分の1ずつ共有する不動産について、兄が持分を放棄し、弟が取得した共有持分の評価額が500万円だった場合は、基礎控除額110万円を差し引いた390万円が課税価格となります。
390万円は「400万円以下」の区分に該当するため、税率20%・控除額25万円を適用すると、贈与税額は次のように計算されます。
(390万円 × 20%)-25万円=53万円
この場合、弟には53万円の贈与税が課される可能性があります。
また、贈与税については持分を放棄した側にも注意が必要です。贈与税の納税義務者は原則として持分を取得した共有者ですが、受贈者が贈与税を納付しない場合には、相続税法の規定により、持分を放棄した人が贈与税の連帯納付義務を負う可能性があります。
また、不動産取得税についても、共有持分を取得したことにより課税されるケースがあります。不動産取得税の課税対象となるかどうかは、取得原因や自治体の運用によって判断が異なるため、事前に自治体へ確認しておくと安心です。
このように、共有持分の放棄は「自分の権利を手放すだけ」の手続きではありません。他の共有者に税負担が発生する可能性があるため、放棄を進める前に共有者へ十分に説明し、必要に応じて税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
共有持分の放棄以外で共有持分を手放す方法
共有持分の放棄は共有関係を解消できる一方で、持分を無償で手放すことになります。もし共有持分に一定の価値がある場合は、売却や贈与を選択したほうが有利になるケースもあります。
ほかにも、放棄では他の共有者に贈与税や不動産取得税が課税される可能性がありますが、売却であれば持分を現金化できるメリットがあります。
共有持分の放棄以外で共有状態を解消する代表的な方法は以下の通りです。
| 方法 |
概要 |
| 他の共有者に売却する |
自分の共有持分を他の共有者へ売却する方法です。他の共有者が取得を希望すれば、比較的スムーズに共有状態を解消できます。 |
| 第三者に売却する |
自分の共有持分を共有者以外の第三者へ売却する方法です。売却価格も相場より低くなる傾向がありますが、共有者の同意を得ずに売却できます。 |
| 他の共有者に贈与する |
自分の共有持分を他の共有者へ無償で譲渡する方法です。なお、受け取る側には贈与税が課税される可能性があります。 |
| 共有物分割請求を行う |
他の共有者との協議がまとまらない場合に、裁判所へ共有物分割請求を行う方法です。判決や調停により、現物分割・代償分割・換価分割などの方法で共有状態の解消を目指します。 |
| 相続土地国庫帰属制度を検討する |
他の共有者から持分を取得して単独所有者になった場合は、一定の要件を満たせば相続土地国庫帰属制度を利用して土地を国へ引き渡せる可能性があります。土地のみが対象であり、建物がある土地などは対象外です。 |
他の共有者に売却する
他の共有者に共有持分を売却すれば、共有関係を解消しながら持分を現金化できます。
共有持分は自分の財産であるため、他の共有者へ自由に売却することが可能です。買主となる共有者に購入する意思と資金力があれば、共有持分の売買契約を締結して所有権移転登記を行うことで手続きは完了します。
ほかの共有者に売却する最大のメリットは、共有持分を無償で手放すのではなく対価を受け取れることです。持分を取得した共有者にとっても、持分割合が増えることで不動産を単独所有できる可能性が高まるので、お互いにメリットのある解決方法となるケースも少なくありません。
一方で、他の共有者に買取の意思がなかったり、価格について折り合いがつかなかったりすると売却は成立しません。
他の共有者への売却価格は、不動産全体の市場価格に持分割合を掛けた金額を基準として交渉されることが多いです。ただし、不動産の利用状況や共有者同士の関係、持分割合などによって価格は変動します。
共有者との関係が良好で、話し合いによる解決が期待できる場合は、まず他の共有者への売却を検討するとよいでしょう。
第三者に売却する
他の共有者が持分を買い取ってくれない場合は、自分の共有持分だけを第三者へ売却する方法もあります。売却方法は主に仲介と買取の2種類あります。
| 売却方法 |
概要 |
主な売却先 |
| 仲介 |
不動産会社に依頼して購入希望者を探してもらう方法です。希望価格で売却できる可能性がありますが、共有持分のみを購入したい人は少ないので買主が見つかるまで時間がかかる傾向にあります。 |
一般の個人や投資家・個人投資家など |
| 買取 |
共有持分の買取業者が直接買い取る方法です。短期間で現金化しやすい一方で、売却価格は市場価格より低くなる傾向があります。 |
共有持分専門の買取業者や不動産買取業者など |
第三者へ売却する際の特徴として、不動産全体の価格よりも安い価格で取引されることが一般的です。共有持分だけでは自由に利用・処分できず、建物全体を活用するには他の共有者との調整が必要になるためです。
なお、不動産業界の傾向として、一般の個人が共有持分だけを購入するケースは多くありません。仲介による第三者への売却では買主が見つかるまでに時間がかかることが多く、場合によっては売却に至らないこともあります。
共有持分を第三者に売却する場合、共有持分を専門に買い取る不動産会社へ売却するのが一般的です。専門の買取業者であれば、共有者との交渉や権利関係の整理を前提として買い取るため、数日から数週間程度で現金化できるケースもあります。
一方で、買取業者は他の共有者への売却や、共有状態の解消などを通じて収益を得ることを前提としています。そのコストやリスクを考慮した価格で買い取るため、仲介で売却する場合よりも安い価格になるのが一般的です。
他の共有者に贈与する
共有持分を無償で手放したい場合は、他の共有者へ贈与する方法もあります。
贈与とは自分の財産を無償で相手へ譲渡する契約です。共有持分を贈与する場合は、贈与契約を締結したうえで持分移転登記を行います。
共有持分の放棄と似ていますが、両者には大きな違いがあります。
共有持分の放棄は民法第255条に基づき、持分が他の共有者へ法律上当然に帰属する制度です。一方、贈与は契約になるので、相手が贈与を受けることに同意しなければ成立しません。
また、放棄では持分が他の共有者へ持分割合に応じて帰属しますが、贈与であれば持分を譲る相手を自由に指定できます。もし特定の共有者へ共有持分を譲りたい場合には、贈与を選ぶのが最適です。
ただし、贈与には税金や費用の負担が生じる可能性があります。具体的には持分を取得した共有者に贈与税が課税される可能性があるほか、持分移転登記に伴う登録免許税や不動産取得税が発生することもあります。
このように、贈与は譲渡先を自由に決められる一方で、税金や登記費用が発生する可能性があります。譲渡の目的や費用負担を踏まえたうえで、共有持分の放棄とどちらが適しているかを検討することが大切です。
共有物分割請求を行う
共有者との話し合いで共有状態を解消できない場合は、共有物分割請求を行う方法もあります。
共有物分割請求とは、共有状態を解消するために、共有者が他の共有者に対して共有物の分割を求める権利です。民法第256条により、共有者はいつでも共有物の分割を請求できると定められています(一定期間、分割しない旨の契約がある場合などを除く)。
共有物分割請求訴訟は裁判所が不動産の状況や当事者の事情を考慮したうえで、適切な分割方法を判断します。
主な分割方法は以下の3通りです。
| 分割方法 |
内容 |
| 現物分割 |
土地を分筆してそれぞれ単独所有にする方法 |
| 代償分割 |
一人が不動産を取得し、他の共有者へ代償金を支払う方法 |
| 換価分割 |
不動産全体を売却して売却代金を持分割合に応じて分配する方法 |
共有物分割請求のメリットは、他の共有者が共有状態の解消に反対していても、最終的には訴訟による裁判所の判決にて解決できることです。一方で、訴訟には時間や費用がかかる点には注意が必要です。判決が出るまで半年以上かかるケースもあり、弁護士費用や裁判費用、不動産鑑定費用などが発生することもあります。
そのため、共有物分割請求は話し合いや売却など他の方法で解決できない場合の最終手段として検討しましょう。
最後の一人になった場合は「相続土地国庫帰属制度」も検討する
共有持分を放棄できず、最終的に自分一人が所有者になった場合は、相続土地国庫帰属制度を利用できる可能性があります。
相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺贈によって取得した土地を一定の要件を満たす場合に国へ引き渡せる制度です。 土地を国庫へ帰属させるには法務大臣(法務局)の承認を受ける必要があり、審査手数料や負担金を納付しなければなりません。
前述のとおり、共有持分の放棄は他の共有者へ持分を帰属させる制度です。自分が最後の一人になると共有状態ではなくなるため、共有持分を放棄できません。
しかし、その土地が相続または遺贈によって取得した土地で一定の要件を満たしている場合は、相続土地国庫帰属制度を利用して国へ土地の所有権を引き渡せる可能性があります。
ただし、どの土地でも利用できるわけではありません。たとえば次のような土地は原則として対象外となります。
また、制度を利用するには法務局へ申請し、審査を受ける必要があります。審査に通った場合でも、10年分の土地管理費相当額の負担金を納付しなければなりません。「不要な土地だからすぐ国へ引き取ってもらえる」という制度ではない点に注意しましょう。
自身の土地が制度の対象となるか判断に迷う場合は、法務局や弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。
まとめ
共有持分は民法第255条に基づき、自分の単独の意思表示で放棄できます。ただし、放棄した持分は他の共有者へ持分割合に応じて帰属するため、共有持分を放棄してもすべての手続きが完了するわけではありません。
実際には、所有権移転登記を行うために他の共有者の協力が必要となり、協力を得られない場合は登記引取請求訴訟を検討しなければならないケースもあります。
また、持分を取得した共有者には、贈与税や不動産取得税が課税される可能性があります。放棄した側にも贈与税の連帯納付義務が生じる場合があるため、税務上の影響にも注意が必要です。
共有持分の放棄は「固定資産税や維持管理費の負担から解放されたい」「共有者とこれ以上関わりたくない」といったケースでは有効な方法です。一方で、共有持分を無償で手放すことになるため、資産価値のある持分を現金化したい場合には適していません。
そのような場合は、他の共有者や第三者への売却、共有物分割請求なども含めて比較・検討することが大切です。状況によって最適な解決方法は異なるため、共有者との関係や不動産の価値、権利関係などを踏まえて判断しましょう。
共有持分の放棄に関するQ&A
共有持分を放棄するのは早い者勝ちなんですか?
共有持分の放棄は、基本的に「早い者勝ち」の制度ではありません。放棄された持分はその時点で共有者となっている人に対して、持分割合に応じて当然に帰属します。誰が先に放棄したかではなく「放棄した時点で誰が共有者だったか」が重要になります。
たとえば、A・B・Cの3人がそれぞれ3分の1ずつ共有している場合、Aが持分を放棄すると、Aの持分はBとCに帰属し、B・Cはそれぞれ2分の1ずつを取得します。その後、Bも持分を放棄すると、Bの持分は残る共有者であるCに帰属するため、最終的にCが不動産を単独所有することになります。
このように、放棄する順番によって最終的な持分割合は変わることがありますが「最初に放棄した人が有利になる」「早く放棄した人が得をする」というルールではありません。
農地といった特殊な不動産の共有持分も放棄できますか?
共有持分を他の人へ譲渡や売却する場合は、農地法で定められている農業委員会の許可が必要になります。
共有持分の放棄と「相続放棄」「贈与」との違いはなんですか?
共有持分の放棄と似た言葉として「相続放棄」や「贈与」があります。いずれも共有持分を処分できるという点では共有持分の放棄と共通していますが、それぞれ法律上の性質や発生する税金などが大きく異なります。
相続放棄とは、被相続人の財産を相続する権利を放棄し、最初から相続人ではなかったものとしてみなす法的な手続きです。共有持分の放棄と相続放棄には、以下の点に違いがあります。
| 項目 |
共有持分の放棄 |
相続放棄 |
| 放棄の対象となる財産 |
自分がすでに保有している特定の共有持分のみ |
被相続人のすべての財産を相続する権利 |
| 法的手続きの有無 |
不要 |
家庭裁判所での申述が必要 |
| 手続きの期限 |
いつでも好きなタイミングで可能 |
相続が発生したことを知った日から3ヶ月以内 |
| 共有持分の帰属先 |
他の共有者全員 |
他の法定相続人(他の共有者に帰属するのは、相続人が1人もいない場合のみ) |
贈与とは、特定の相手との贈与契約に基づき、自分の財産をその相手に無償で移転させる手続きです。「すでに保有している自分の共有持分を相手に無償で移転させる」という点においては共有持分の放棄と共通していますが、以下の点が大きく異なります。
| 項目 |
共有持分の放棄 |
贈与 |
| 共有持分の帰属先 |
自動的に他の共有者全員へ帰属する(相手は選べない) |
贈与者が指定した相手 |
| 成立要件 |
放棄者の一方的な意思表示のみで成立する |
贈与者と受贈者の双方の合意がなければ成立しない |
| 相手に渡す共有持分の割合 |
所有する共有持分をすべて手放す必要がある |
贈与者が自由に決められる |
| 贈与税の負担 |
他の共有者全員 |
受贈者のみ |
| 不動産の取得費 |
登記完了日を新たな取得日、贈与税の課税時点の時価を新たな取得費とする |
贈与者の取得日・取得費を引き継ぐ |
| 登記のタイミング
|
他の共有者全員に持分放棄の意思表示を示した後 |
贈与契約の締結後 |