共有持分の売買契約書とは?
共有持分の売買において、取引条件を明確に証明するためには「売買契約書」が欠かせません。
特に不動産会社を介する場合は、宅地建物取引業法で作成が義務付けられており、契約内容や物件情報を正確に記載する必要があります。個人間取引だと、法律上、必ずしも付けられているわけではありませんが、後のトラブルを防ぐためには売買契約書の作成が望ましいです。
契約書には、持分割合や自己持分のみの売却である旨を盛り込むことで、後々「契約内容が違った」「売却対象が誤解されていた」といった認識の食い違いを防止できます。
特に共有者間は親族関係であるケースが多いため、売買契約書を作成せずに進められることも少なくありません。
実際に弊社が関与した案件では、契約書を作成せず口頭で合意した結果、「売却額の一部を後で支払う」という取り決めが曖昧になり、後に売主側が「最初に合意した額と違う」と主張したことでトラブルになった結果ご相談をいただいたケースもあります。
このようなケースでは、契約書がなければ売却する持分割合や金額が「口約束のみ」となり、言った言わないの水掛け論になりかねません。
そのため、共有持分を売却する際には、たとえ身内であっても最初からしっかりと契約内容を整理し、確実に記録に残すことが肝心です。ここでは、共有持分の売買契約書がどのようなもので、誰がどのように作成するのかについて解説します。
不動産売買契約書は基本的に不動産業者が作成するもの
不動産売買の現場では、多くの場合、仲介に入る不動産会社が売買契約書を作成します。これは単なる代行ではなく、取引のプロとして物件の権利関係や法令上の制限を調査し、安全な取引を担保するために行われます。
法律上も、宅地建物取引業法第37条において、不動産業者が契約を成立させた際は、遅滞なく契約内容を記した書面(37条書面)を当事者に交付しなければならないと定められています。実務上、この「37条書面」が売買契約書そのものとして扱われます。
宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。出典:e-gov 宅地建物取引業法 第三十七条
この売買契約書(37条書面)には以下の重要事項が記載され、双方が署名・押印することで法的な拘束力を持ちます。
- 物件の特定(所在地、地番、家屋番号など)
- 売買代金の額、支払日、支払方法
- 物件の引渡し時期と所有権移転の時期
- 契約不適合責任(不具合があった場合の補償)の取り決め
- 契約解除に関する条件
不動産会社が作成を担当することで、登記簿上の情報と契約内容の整合性が取られ、スムーズに所有権移転登記まで進めることができるのです。
共有持分の不動産売買契約書と通常の契約書の記載内容に大きな違いはない
共有持分の売買契約書といっても、使用するひな形や基本的な条項は、一般的な不動産の売買契約書とほとんど変わりません。
たとえば、所在地や面積による物件の特定、売買代金、手付金の有無、引渡し日、契約解除のペナルティなど、取引の骨子となる部分は共通しています。
ただし、実務上で決定的に異なるのが、売買の対象を「不動産そのもの」ではなく「持分という権利」に限定して記載する点です。
通常の売買では「土地・建物の所有権」が対象ですが、共有持分売買では登記簿に基づき「持分2分の1」といった具体的な割合を明記し、「自己の持分のみを売却する」旨を条文に入れます。
ここの記載が曖昧だと、買主が「不動産全体を使える権利を買った」と誤解したり、他の共有者から「勝手に全体を売った」とクレームが入ったりするリスクがあります。そのため、対象物件の表示と移転する権利の範囲については、誤解の余地がないよう細心の注意を払って記載しなければなりません。
つまり、形式は同じでも、記載内容で「権利の範囲」を厳格に限定することが、共有持分取引における契約書作成の肝となります。
共有持分の売買契約書のひな形
共有持分の売買契約書には、法律で定められた統一のテンプレートは存在しません。そのため、実務では一般財団法人 不動産適正取引推進機構が公開している「標準的売買契約書のひな形」などをベースにしつつ、「共有持分取引」特有の条項へ書き換える作業が必要です。
ただ、よく誤解されがちなのですが、「持分割合を記載すればよい」というわけではありません。
単に割合を書くだけでなく、「他の共有者との交渉義務を負わないこと」や「完全な状態での引き渡しを保証しないこと」も明記しなければ、売却後に買主から損害賠償を請求される恐れがあるからです。
以下に、実務で実際に使われる条項を盛り込んだ「共有持分専用の売買契約書ひな形」と、その解説を記載します。
【ひな形】共有持分の売買契約書(見本)
※本ひな形はあくまで一例(参考)です。実際の契約に際しては、個別の事情に応じて内容を調整し、必ず弁護士や司法書士等の専門家によるリーガルチェックを受けてください。
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不動産共有持分売買契約書
売主(以下「甲」という)と買主(以下「乙」という)は、別紙物件目録記載の不動産(以下「本物件」という)について、甲が保有する「共有持分」の売買に関し、以下のとおり契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(売買の目的・持分の特定)
甲は、本物件のうち甲が保有する持分(〇分の〇)を現状有姿のまま乙に売り渡し、乙はこれを買い受ける。
第2条(売買代金)
売買代金は金〇〇〇〇円とし、乙は本契約締結と同時に全額を甲に支払い、甲はこれを受領した。
第3条(持分権の移転および登記)
本物件の持分権は、乙が売買代金の全額を支払い、甲がこれを受領した時に甲から乙に移転する。甲は、乙の請求があるときは、遅滞なく所有権移転登記申請手続に必要な書類を乙に交付し、手続に協力しなければならない。
第4条(引渡し・使用収益の開始)
甲は、本物件を現状有姿の状態で乙に引き渡すものとする。なお、本物件は共有不動産であるため、現実の引渡し(鍵の交付や占有の移転等)は行わないものとする。
第5条(契約不適合責任の免責)
乙は、本物件が共有物であり、甲が管理等の権限を単独で有しないことを了承の上で買い受けるものである。したがって、本物件に物理的な欠陥や法律上の瑕疵(権利の不備等)があった場合でも、甲は乙に対し、修補請求、代金減額請求、損害賠償請求および解除権等、一切の契約不適合責任を負わない。
第6条(他の共有者との協議)
所有権移転後における他の共有者との協議、管理・使用に関する調整、分割請求等は、すべて乙の責任と負担において行うものとし、甲は一切関与しない。
【物件目録】
所在:〇〇県〇〇市〇〇町一丁目
地番:〇〇番〇〇
地目:宅地
地積:100.00㎡
売買対象となる持分:〇分の〇
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契約書作成時に「絶対に外せない」3つのポイント
上記のひな形において、一般的な不動産売買契約書と異なるポイントは以下の3点です。ここが曖昧だと、売却後にトラブルに巻き込まれる可能性が高くなります。
- 対象が「持分」であることを明記(第1条)
登記簿上の住所などを書くだけでは不十分です。「所有権の売買」ではなく「持分〇分の〇の売買」であることを明記し、売却対象を限定します。
- 現実の引渡しを行わない確認(第4条)
通常の売買では「鍵を渡して空室にして引き渡す」ことが義務ですが、共有持分のみを売る場合、他の共有者が住んでいる状態では物理的な引渡しができません。「現実の引渡しは行わない」「鍵の交付はしない」と明記することで、引渡し義務違反を問われるリスクを回避します。
- 他の共有者とのトラブルに関する免責(第6条)
最も重要なのがこの条項です。持分の買主が、その後他の共有者と揉めたとしても、売主(あなた)に苦情が来ないようにする必要があります。「売却後の他の共有者との交渉はすべて買主の責任で行う」と定めておくことでトラブルを回避しやすくなります。
共有持分の売買契約書の作成は専門家に依頼した方がいい
共有持分の売買契約書を不備なく作成するには、民法や不動産登記法の専門的な知識が不可欠です。ご自身で作成することも不可能ではありませんが、条項の記載漏れによる将来的な紛争リスクや、作成にかかる膨大な手間を考えると、専門家に依頼して安全かつ迅速に進めることが合理的でしょう。
依頼先としては、主に以下の3つの士業が挙げられます。
それぞれの専門家が得意とする領域と、自身の状況に合った選び方について解説します。
共有者間でトラブルがあるなら弁護士
| 依頼できる内容 |
対応の可否 |
| トラブル解決・交渉代理 |
〇(得意) |
| 売買契約書作成 |
〇 |
| 権利関係調査 |
〇 |
| 登記申請手続き |
〇(司法書士と連携するケースもある) |
| 重要事項説明書作成 |
×(※不動産業者の独占業務) |
| 測量・税務申告 |
×(各専門家への窓口対応は可) |
弁護士への依頼における最大のメリットは、法律の専門家として、共有者間の対立や交渉を代理で行える点です。
弁護士は、単に契約書を作るだけでなく、「他の共有者が売却に反対している」「条件面で折り合いがつかない」といった紛争状態にある案件について、依頼者の代理人として交渉の矢面に立つことができます。
契約書の作成にあたっても、将来の訴訟リスクを見越した「自分に有利な条項」や「紛争回避のための防衛策」を盛り込んだ高度なリーガルチェックが期待できます。
費用面では、一般的に10万〜30万円程度の「着手金」に加え、経済的利益に応じた「成功報酬(売却額の数%〜16%程度)」が必要です。他の士業に比べて高額にはなりやすいものの、「もめている状態」を解決しつつ売却を進めるには、弁護士への相談がおすすめです。
売買契約書作成以外の必要書類がそろっているなら司法書士
| 依頼できる内容 |
対応の可否 |
| トラブル解決・交渉代理 |
×(※原則非対応) |
| 売買契約書作成 |
〇 |
| 権利関係調査 |
〇(登記簿に基づく調査) |
| 登記申請手続き |
〇(専門・得意) |
| 重要事項説明書作成 |
× |
| 測量・税務申告 |
× |
特にトラブルもなく、単に手続きを進めたい場合の相談先として一般的なのが司法書士です。司法書士は不動産登記のスペシャリストであり、最終的なゴールである「所有権移転登記(名義変更)」を確実に行うために必要な契約書を作成します。
特に不動産取引では、契約書の内容が登記法上の要件を満たしていないと、法務局で名義変更が却下されるリスクがあります。司法書士に依頼すれば、「登記ができない」という致命的なミスを防ぐことができます。
一方で、司法書士はあくまで「登記と書類作成」の専門家です。「価格交渉をしてほしい」「相手を説得してほしい」といった交渉業務は法律上行えません(非弁行為となるため)。
費用相場は、売買契約書の作成のみであれば2〜5万円程度ですが、通常は決済の立会いと登記申請をセットで依頼するため、登録免許税(実費)を除いた報酬総額で8~15万円程度を見込んでおくとよいでしょう。
リーズナブルに済ませたいなら行政書士
| 依頼できる内容 |
対応の可否 |
| トラブル解決・交渉代理 |
× |
| 売買契約書作成 |
〇 |
| 権利関係調査 |
△(簡易的な調査のみ) |
| 登記申請手続き |
×(※司法書士の独占業務) |
| 重要事項説明書作成 |
△(※説明書の「原案作成」まで) |
| 測量・税務申告 |
× |
行政書士は、「官公庁に提出する書類」や「権利義務に関する書類」の作成を専門としています。紛争や複雑な登記手続きが絡まない、親族間などのシンプルな売買契約書の作成代行であれば、依頼可能です。
注意点として、行政書士は「登記申請の代理」ができません。そのため、契約書を作った後、法務局への登記申請は自分で行うか、別途司法書士に依頼し直す必要があります。
また、宅地建物取引業法上の「重要事項説明書(35条書面)」の作成・交付は宅建業者の独占業務です。行政書士ができるのは、あくまで契約内容を補足するための「物件状況説明書」等の原案作成に留まります。
費用は他の士業に比べてリーズナブルで、売買契約書の作成のみであれば1万5千円〜5万円程度が相場です。「登記は自分でやるので、とにかく安く契約書という形だけ整えたい」という限定的なケースに向いています。
共有持分の売買において売買契約書以外に必要な書類
共有持分の売買では、売買契約書のほかにも下記のような書類が必要になります。
| 必要書類 |
概要 |
入手方法 |
| 重要事項説明書 |
不動産取引に関する物件情報や契約条件などを詳細に記載した書類 |
宅地建物取引士の資格を持つ不動産会社が作成 |
| 登記識別情報(もしくは権利証) |
不動産の所有者であることを証明する書類 |
登記時に交付済み |
| 地積測量図及び境界確認書 |
土地の所有範囲や、隣地との境界を明確に示すために必要な書類 |
地積測量図:法務局に申請する
境界確認書:なければ土地調査家屋士に依頼する |
| 実印及び印鑑登録証明書 |
実印が本物であることを公的に証明する書類 |
印鑑登録後であれば役所やコンビニで発行可能 |
| 身分証明書・住民票 |
・運転免許証
・マイナンバーカード
・パスポート |
住民票は役所やコンビニで発行可能 |
以下ではそれぞれの書類について説明します。
重要事項説明書
重要事項説明書は、不動産取引に関する物件情報や契約条件などを詳細に記載した書類です。売買契約書と並んで、取引の安全性を確保するうえで重要な役割を持ちます。
買主や借主が物件や契約条件について十分に理解し、納得した上で契約を進められるようになるため、後に「こんな話は聞いていなかった」といったトラブルを未然に防ぐために重要です。
宅地建物取引業法35条に基づき、不動産会社が関与する取引では宅地建物取引士が記名した重要事項説明書を交付し、重要事項の説明を行うことが義務付けられています。
なお、重要事項説明書の作成作業については、必ずしも宅地建物取引士が自ら行う必要はありません。行政書士や不動産会社側で書面を作成し、宅地建物取引士が最終確認して記名・説明するという業務手順でも可能です。
第三十五条
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
引用元 宅地建物取引業法 | e-Gov 法令検索
具体的には以下の内容が記載されており、買主が契約内容を正しく理解し、納得した上で取引できるようにするための重要な資料となります。
| 項目 |
主な記載事項 |
記載内容 |
| 物件に関する重要事項 |
| 土地や建物の詳細 |
【物件】
・所在地
・面積
・構造
・用途など
【土地】
・登記簿
・測量図など |
| 権利に関する状況 |
・所有権
・抵当権・賃借権など権利の有無 |
| 法令制限 |
都市計画法や建築基準法に基づく制限
・用途地域 |
| 災害警戒区域に関する情報 |
・土砂災害警戒区域
・津波災害警戒区域 |
| 接道状況 |
前面道路の種類(公道・私道)
・接している道路の幅員
・接道距離 |
| インフラ状況 |
・水道・下水道の整備状況
・電気
・ガス |
| 管理・使用の制限 |
・利用目的や共有者間のルール
・使用制限の有無 |
| 共有者の同意状況 |
・合意の有無
・他の共有者への売却通知の有無
*自分の共有持分だけを売る場合は不要 |
| 取引条件に関する重要事項 |
| 契約不適合責任 |
売主が負う責任の範囲、免責特約の有無など |
| 登記関連費用 |
所有権移転登記の申請者名
・登記費用の負担者名 |
| 手付金と解約条項 |
・手付金の金額
・違約金が発生する条件と金額 |
| その他特記事項 |
公正証書の作成予定
・紛争解決方法 |
登記識別情報(もしくは権利証)
登記識別情報(もしくは権利証)は、不動産の所有者であることを証明する重要な書類です。2005年3月以降に共有持分を取得した場合、法務局から通知される12桁の英数字で構成された「登記識別情報」が発行されます。
それ以前に取得した場合は「登記済権利証」が交付され、所有権を示す証拠となります。これらは登記名義人にのみ交付され、売却時の登記申請に必須です。もし紛失した場合は再発行できないため、以下の代替手続きが必要になります。
| 項目 |
内容 |
| 事前通知制度 |
登記識別情報がないまま登記申請を行い、後日登記所から届いた事前通知に申出(回答)することで本人確認を行う。 |
| 本人確認情報 |
| 司法書士や弁護士に登記識別情報の代替書類となる本人確認情報を作成してもらう |
| 公証役場で公証人に立ち会ってもらい、司法書士や弁護士への登記申請の委任状に署名捺印する |
私たちのような買取業者の場合、弁護士や司法書士などの有資格者と提携しているケースが多いです。そのため、実務的には司法書士や弁護士に登記識別情報の代替書類となる本人確認情報を作成してもらい、本人確認情報の方法をとるケースが多くなります。
登記識別情報を提供できずに代替手続(本人確認情報の作成等)が必要となる場合は、別途弁護士や司法書士への報酬が発生することになります。そのため、登記識別情報は紛失しないように管理が必要です。
登記事項証明書の権利部(乙区)にも注目
共有持分の売買においては、他の共有者に「先買権」が設定されている場合があるため注意が必要です。
「先買権」とは、共有者が持分を売却する際に、他の共有者が優先的にその持分を取得できる権利です。共有者間の合意や特約によって個別に設定されるものであり、登記事項証明書の権利部(乙区)や契約書に記載されている場合にのみ効力を持ちます。
先買権が設定されている場合、売主は、先買権を有する共有者に譲渡の意向を通知し、一定期間内に取得の意思があるのか確認する必要があります。
先買権を有する共有者が取得を希望しない場合に限り、初めて第三者に売却できます。実際に、売却相談の際に自身の持分に先買権が設定されていることを知らずに、手続きを進めようとした方もいらっしゃいました。
もし、先買権者への通知を行わずに第三者に譲渡した場合、先買権者から売買契約の取消や損害賠償請求を受ける可能性があります。そのため、売却前に必ず登記事項証明書の権利部(乙区)を確認し、先買権や譲渡制限の有無をチェックしておくことが重要です。
土地測量図及び境界確認書
地積測量図および境界確認書は、共有持分の対象が土地である場合に重要となる書類です。どちらも土地の所有範囲や、隣地との境界を明確に示すために必要な書類となります。
境界が不明確なまま取引を進めると、売却後に「使用範囲が狭かった」「隣地の所有者に占有されている土地がある」などのトラブルが発生するおそれがあります。
こうしたリスクを避けるためにも、早めに地積測量図と境界確認書を整備しておくことが重要です。
地積測量図
地積測量図は土地の面積や境界の位置などを示した、法務局保管の公的な図面です。以下の情報が詳細に記載され、土地登記簿に登録されています。
- 土地の形状
- 境界位置
- 面積計算方法
- 地番
- 土地の所在
- 測量実施日
取得する際は、法務局に窓口やオンラインで申請するか、郵送請求が可能です。しかし、なかには法務局に問い合わせても、地積測量図がない場合があります。
地積測量図がない理由のひとつとして、地積測量図が昭和35年に義務化されたことが挙げられます。それ以前の登記では、地積測量図の作成が義務付けられていなかったため、土地の正確な面積や境界が記録されていないことが多いです。
もし地積測量図がない場合、土地家屋調査士に依頼し、新たに作成してもらう必要があります。あくまでも目安ですが、作成には数万円から数十万円の費用と、通常数日から1週間程度の期間がかかるケースが多いです。
作成した地積測量図は、登記申請の際に法務局へ提出することで、正式な登記資料として備え付けられます。
境界確認書
境界確認書は、隣接する土地所有者との間で境界線を確認・合意したことを証明する書類です。作成する際は土地家屋調査士に依頼する必要があり、現地で行った測量の結果に基づいて作成され、関係者が署名・押印することで効力を持ちます。
共有持分の売買に限らず、分筆や相続、単独所有の土地の売却などでも利用します。作成手順は下記の通りです。
- 土地家屋調査士が現地で測量を行う
- 仮杭を設置して境界を明確にする
- 隣地の所有者や関係者と現地で立会いを行い、境界を確認する
- 双方が納得したらコンクリート杭などの永久的な境界標を設置
- 結果に基づいて境界確認書を作成
- 双方の土地所有者の署名・押印をもらい正式に完了
境界があいまいなままだと、買取後に想定していたよりも使用できる土地の範囲が少なかったり、隣地の使用範囲が広くなっていたりなどのトラブルに発展するリスクがあります。
実際に、境界確認書がない共有持分の買取相談を受けた際に、測量を行った結果想定していた所有面積と実際の所有面積が異なるケースもありました。
弊社のような買取業者の場合は買取後に測量も行いますが、共有者間で売買する場合などは、買主に安心してもらうためにも事前に済ませておくのが良いでしょう。
ただし、隣地の所有者の立会いが必要となるため、日程調整や確認作業に時間がかかることも少なくありません。状況によっては数週間から数か月程度を要する場合もあります。
売却を考えている場合は、早めに境界の確認と書類の整備を進めておきましょう。
実印及び印鑑登録証明書
共有持分を売却する際は、売主本人の実印と、その印鑑が公的に登録されていることを証明する印鑑登録証明書が必要です。これにより、契約書や登記申請における本人確認と意思表示の真正性が担保されます。
自分の持分のみを売却する場合は、他の共有者の実印や印鑑証明書は不要です。共有持分の譲渡はあくまで自分の権利部分のみを処分する行為であるため、売主本人の書類だけで手続きを進めることができます。
ただし、共有者全員で不動産全体を売却する場合や、共有者間で同意書や合意書を作成する場合には、共有者全員分の実印および印鑑登録証明書が求められるケースもあります。
なお、不動産取引における書類の有効期限は、発行から3か月以内が一般的なので、事前に確認して準備することが重要です。
身分証明書・住民票
共有持分を売却する際には、売主本人の身分証明書と住民票が必要です。身分証明書としては、以下のような顔写真付きの公的証明書が基本です。
これにより本人確認を行い、契約の正当性を確保します。登記簿上の住所と現住所が異なる場合は、3か月以内に発行された住民票を提出し、住所変更を証明します。
自分の持分のみを売却する場合、他の共有者の身分証や住民票は不要です。事前に有効期限や必要部数を確認し、契約手続きを円滑に進められるよう準備しましょう。
共有持分の売買でかかる費用・税金
共有持分の売却では、契約や登記に伴い複数の費用や税金が発生します。主な項目は以下の4つです。
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費用・税金
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内容
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計算方法・金額の目安
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仲介手数料
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仲介会社への報酬
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(売買価格×3%+6万円)+消費税(上限)
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登録免許税
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所有権移転登記に必要な税金
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固定資産税評価額×2%(土地・建物)
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印紙税
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売買契約書に貼付する印紙代
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契約金額に応じた税額(例:1,000万円超〜5,000万円以下=1万円)
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譲渡所得税
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売却益に課される税金
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(譲渡価格−取得費−諸経費)×税率(所有期間5年以下:39.63%、5年超:20.315%)
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それぞれでかかる費用・税金について、詳しくみていきましょう。
仲介手数料
仲介手数料とは、不動産会社に共有持分の仲介買取を依頼した場合に支払う成功報酬です。仲介手数料の上限は「宅地建物取引業法」によって次のように定められています。
| 料率の上限 |
計算式 |
| 200万円以下の部分 |
売買価格 × 5% + 消費税 |
| 200万円超400万円以下の部分 |
売買価格 × 4% + 2万円 + 消費税 |
| 400万円を超える部分 |
売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税 |
共有持分を300万円で売却した場合、仲介手数料は次の2段階で算定します。なお、以下では計算式を見やすくするために、消費税の計算を省略しています。
【200万円以下の部分】
200万円×5%=10万円
【200万円超400万円以下の部分】
100万円×4%=4万円
【合計額】10万円+4万円=14万円
したがって、不動産会社に支払う仲介手数料は消費税別で14万円となります。
なお、2024年7月からは流通促進を目的とした特例措置により、仲介手数料の受領上限が設けられています。この特例では通常の計算式ではなく、売買価格が800万円以下の低廉な物件について、最大30万円+消費税まで仲介手数料を受領できると明記されています。
つまり、通常の計算方法では仲介手数料は14万円となりますが、低廉物件に該当し、かつ媒介契約の締結時に金額の説明と依頼者の合意がある場合には、最大30万円まで仲介手数料を設定できるのです。
ただし、この特例は自動的に適用されるものではなく、物件の条件や契約内容、事前の説明・合意の有無によって適用可否が判断されます。
なお、当然ながら不動産会社に仲介を依頼しない場合は、仲介手数料の支払は必要ありません。たとえば、他の共有者に売却する場合や、共有持分専門の買取業者が直接買い取る場合が代表的です。
仲介手数料は売却費用の中でも大きな割合を占めるコストであるため、売主の利益を最大化したい場合は、他の共有者や専門の買取業者に買取を依頼することをおすすめします。
登録免許税
登録免許税とは、不動産の登記を行う際に法務局に支払う税金です。不動産の売買や担保の抹消など、登記手続きを行う際に必要となります。
共有持分の売主と関係が深いのは、抵当権が設定されている場合に行う「抵当権抹消登記」が挙げられます。抵当権抹消登記にかかる登録免許税は、原則として1件につき1,000円です。
一方、買主は取得した不動産の所有権を証明するために「所有権移転登記」が必要であり、手続きの際に登録免許税の支払が必要になります。
共有持分の不動産売買における登録免許税は次の計算式で求められます。
所有権移転登記の登録免許税=固定資産税評価額×2%
住宅用不動産など一定の要件を満たす場合には、登録免許税の軽減措置が適用されて税率が引き下げられる可能性もあります。
- 所有権保存登記:通常 0.4% → 軽減後 0.15%
- 所有権移転登記:通常 2.0% → 軽減後 0.3%
- 抵当権設定登記:通常 0.4% → 軽減後 0.1%
たとえば「住宅を取得して1年以内」などの要件を満たす場合、登録免許税が0.3%に軽減されます。ただし、適用の可否や税率は物件の種類や取得時期、要件の充足状況によって異なります。
なお、登記変更を司法書士に依頼する場合は、登録免許税に加えて、司法書士への報酬の支払も必要です。司法書士の報酬は案件の内容や地域によって幅がありますが、一般的には2万円〜10万円が目安とされています。
印紙税
不動産売買における印紙税とは、簡単にいえば、不動産売買契約書に貼付する印紙代です。共有持分の売却価格が1万円以上の場合は、売買契約書への印紙代の貼付が必須です。
平成26年4月1日から令和9年3月31日までの期間は、不動産売買契約書には以下のような軽減措置が適用されます。
| 契約金額 |
本則税率 |
軽減税率 |
| 10万円を超え50万円以下のもの |
400円 |
200円 |
| 50万円を超え100万円以下のもの |
1千円 |
500円 |
| 100万円を超え500万円以下のもの |
2千円 |
1千円 |
| 500万円を超え1千万円以下のもの |
1万円 |
5千円 |
| 1千万円を超え5千万円以下のもの |
2万円 |
1万円 |
| 5千万円を超え1億円以下のもの |
6万円 |
3万円 |
| 1億円を超え5億円以下のもの |
10万円 |
6万円 |
| 5億円を超え10億円以下のもの |
20万円 |
16万円 |
| 10億円を超え50億円以下のもの |
40万円 |
32万円 |
| 50億円を超えるもの |
60万円 |
48万円 |
なお、軽減措置の適用可否は、契約書を作成した日を基準に判断されます。契約日が令和9年3月31日以前であっても、契約書の作成日がそれ以降の場合は、軽減措置の対象とならない点に注意が必要です。
また、契約書の名称にかかわらず、実質的に不動産の譲渡を証明する内容であれば印紙税の課税対象となります。収入印紙の貼付を忘れた場合には、過怠税が課されることがあるため、契約締結時に必ず確認しておきましょう。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産売却で得た利益(売却益)に課される税金で、以下の計算式で算出できます。
(譲渡価格−取得費−諸経費)×税率(所有期間5年以下:39.63%/5年超:20.315%)
不動産の所有期間によって税率が大幅に変動するため、節税のためにも売却時期を見極めるのがおすすめです。
- 所有期間5年以下(短期譲渡所得):税率 約39.63%
- 所有期間5年超(長期譲渡所得):税率 約20.315%
実際に、あと数か月で所有期間が5年を超える相談者様もいらっしゃったこともあります。
その際は、譲渡所得税の変動についてご説明し、売却時期を見直されたケースもありました。また、譲渡所得税の納付は確定申告とセットで行うのが基本です。
いずれも不動産を売った翌年の確定申告の期間(毎年2月15日〜3月15日)に手続きする必要があります。
なお、譲渡所得税には複雑な計算が必要であるため、自身での手続きに不安がある場合は税理士や不動産会社への相談をおすすめします。
まとめ
共有持分の売却では、契約条件や権利関係を明確化する売買契約書が重要です。単独名義物件と基本構成は同じですが、持分割合や自己の持分のみを売却する旨を記載する点が特徴です。契約書には、契約不適合責任の免責や修復義務範囲、面積差異の責任免除などを盛り込み、トラブルを未然に防ぐ工夫が欠かせません。
また、重要事項説明書や登記識別情報、測量図、印鑑証明書、身分証など必要書類を事前に揃え、費用・税金も把握しておくことがスムーズな取引につながります。
共有持分は権利関係が複雑であり、個人間取引ではリスクも高いため、専門業者の活用が安心です。
共有持分の不動産売買に関してよくある質問
不動産全体を売りたい場合はどうしたらいい?
不動産全体を売却する場合は、共有者全員の合意が不可欠です。共有持分のみであれば自分の判断で売却できますが、
物件全体を売るには、全員が売却に同意し、必要書類(印鑑証明書や身分証など)を揃える必要があります。
さらに、売買契約書には全員が署名・捺印し、契約締結の場に立ち会うことが求められます。共有者間で意思が揃わない場合は全体売却は進められないため、事前に合意形成を図ることが重要です。
共有持分を売却する流れは?
共有持分を売却する流れは、売却方法が買取りか仲介かで異なります。買取りとは、不動産会社が不動産を直接買取する方法です。一般購入希望者を探す時間を省略できるため、スピーディに共有持分を現金化できるのが魅力です。
共有持分を買取で売却する場合の大まかな流れは、次のようになっています。
- 不動産業者の選定
- 査定依頼
- 売買契約
- 引き渡し
- 確定申告
一方で仲介は、不動産会社に共有持分の売却活動を仲介してもらう方法です。不動産会社が一般購入希望者を募り、条件交渉から売買契約締結のサポートまでワンストップで行い、以下の流れで行うのが基本です。
- 不動産業者の選定
- 査定依頼
- 媒介契約の締結
- 不動産会社による売却活動
- 買主との売買契約の締結
- 不動産の引き渡し・決済
- 所有権移転登記
- 確定申告