
「土地と建物の名義が違う家は売却できるんだろうか?」「土地と建物の名義が違う家を売却するときはどんな手続きが必要なんだろう?」このような疑問をあなたも抱えているのではないでしょうか。
不動産を売却するときには、その所有者の意思が必要です。そのため、たとえ親子であっても、子供が親の不動産を勝手に売却することはできません。では、どうすれば売却できるのでしょうか?
この記事では、土地と建物の名義が違う家を売却する代表的な3つの方法と特殊な状況での売却方法、手続きの注意点について解説します。
目次
土地と建物の名義が違う家を売却する3つの方法
土地と建物の名義が違う場合、売却する方法は大きく次の3つです。
(2)土地もしくは建物を買い取り、単独名義にして売却する
(3)土地と建物の名義が異なったまま、同時売却する
(1)土地と建物、単独で売却する
不動産は土地と建物が一体になっているように感じるので、名義が異なっていれば、そもそも売却できないと思われている方もいます。
しかし、土地と建物はそれぞれ単独で存在しているのです。そのため、理論上は土地と建物をそれぞれの所有者が単独で売却することができます。
単独で売却する場合、原則、お互いの了承は不要です。たとえば、親名義の土地の上に子供名義の建物があったとします。
このとき、親は子供の許可を得ずに土地を売却できます。逆の場合も同様です。とはいえ、実際に土地と建物の名義が違う家が単独で取引されることは稀です。
建物を取得しても、敷地が使用貸借だった場合には、土地の所有者から明渡請求を申し立てられる可能性があります。そうなればせっかく建物を購入したのに取り壊して更地にし、別の場所へ引越ししなければなりません。
反対に、使用貸借となっている土地を取得しても、明渡請求をして自由に土地を利用できるわけでもありません。
判例では土地を購入した第三者がそれまで住んでいた建物所有者に明渡請求をすることは、たとえ借地借家法で保護されない使用貸借だったとしても「権利の濫用」として認められないことがありました。
このように、親子間や夫婦間などで土地と建物の名義が異なっていて、使用貸借となっている場合には売却後にトラブルとなる可能性が高いです。
そのため、土地と建物を単独で売却することはめったにありません。ほとんどの場合は次から解説する2つの方法のどちらかで売却することになります。
(2)土地もしくは建物を買い取り、名義を揃えて売却する
土地と建物の名義が違う場合の家を売却するときの代表的な売却方法です。
土地もしくは建物を買い取って、どちらかの名義に統一します。そうすれば買主は土地と建物両方の完全所有権を取得できるので、権利関係のトラブルを抱える心配がありません。
名義を揃える手続きについては後ほど詳しく解説します。
(3)土地と建物の名義が異なったまま、同時売却する
名義を統一するために土地や建物を購入する場合、資金が必要です。
しかし、そのための資金を用意できない場合もあるでしょう。そのときには、お互いに売却の意思を確認した上で同時売却する方法があります。
たとえば、妻名義の土地に夫名義の建物が建っている場合です。名義はバラバラですが、土地と建物を1つの不動産として扱って売却活動ができます。
名義を揃える売却方法と異なる点は、買い手が土地と建物で2本の契約を結ぶことです。それぞれの売買契約は、もう一方の契約が成立して初めて有効に成立するという不可分一体の関係にある特殊なものとなります。
想像しているとおり、手続きが名義を揃えて売却するよりも複雑です。手続きに不備があると売買契約の直前で止まったり、トラブルになったりする可能性があります。
そのため、もし名義が異なったまま同時に売却するときには、同時売却の実績がある不動産会社に依頼するようにしてください。

住宅ローンが残った状態で名義変更するときは銀行の承諾を得ると安心
ここまで解説した売却方法は、名義が違う家を売却するときの代表的な方法です。
しかし、現実はもっと複雑な状況の売却が多いです。たとえば、住宅ローンが残った状態で名義変更・売却をしようとする場合です。
離婚にともなって財産分与をするときによく問題になります。マイホームを購入するときは、将来離婚するなんて思ってもいないでしょう。
「住宅ローン控除を2人とも受けられる」「1人で住宅ローンを組むよりも借入額がアップして希望のマイホームを買いやすい」このようなペアローンのメリットしか頭に入りません。
ところが、ローン完済前に離婚することになると手続きが大変になります。財産分与でスムーズに不動産売却を進めるには、名義は揃えていた方がいいです。
離婚するほど険悪な関係なのに、同時売却で度々やり取りが発生するのは避けたいでしょう。このとき、不動産の名義変更自体はローンの残債とは無関係なので手続きできます。
しかし、住宅ローンの契約に「名義変更する場合には銀行の承諾が必要」という項目が盛り込まれていることがほとんどです。
もし銀行の承諾を得ずに所有権移転登記をしてしまうと、契約違反となって、住宅ローンの残額の一括返済を求められる可能性があります。
もともと売却するつもりで名義変更するから問題ないと思われるかもしれませんが、契約違反としての請求ですから、自宅の買主が見つかるまで銀行が待ってくれるとは限りません。
現金が用意できなければ、自宅その他財産の差し押さえにまで発展することになります。
実際は、名義変更だけが理由で一括返済を求められることはほとんどないですが、万が一の場合にそなえて、売却が前提だったとしても銀行の承諾を得て名義変更した方が安心です。

名義人と連絡が取れない場合は不在者財産管理人を選任して売却する
親名義の土地に自分名義の家を建てていて相続が発生した場合、相続人が複数人いると、何もしなければその土地は共有名義になってしまいます。
このときに相続人全員と連絡がつき、遺産分割協議で土地の名義を自分単独にすることに決まれば相続登記をしたあと、今後家を売却するときの手続きは不要です。
ただ、遺産分割協議では相続人全員の参加と同意が必要です。そして、相続人の中には長い間、音信不通で、相続が発生したことすら知らされない方がいることもあります。
「連絡が取れないから」という理由では、その相続人の方を無視して協議を進めることができません。
そのような状況になったときには、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立をして遺産分割協議を進めます。この「不在者財産管理人」とは名前のとおり、連絡の取れない不在者に代わって財産を管理する人のことをいいます。
管理人の権限は原則、財産の保存と管理です。財産を処分することになる遺産分割協議への参加や不動産売却をすることは認められていません。
ですが、家庭裁判所に権限外行為許可を得ることでこれらの行為ができるようになります。つまり、名義人となり得る方と連絡が取れない場合には、以下の流れで売却を進めます。
(2)権限外行為許可を得る
(3)遺産分割協議で名義を自分に揃える、または売却に同意してもらう

土地が親名義で、親が認知症の場合は「成年後見制度」を利用する
「親が高齢で認知症になって介護が必要となったので、老人ホームに入居してもらうことにした。その費用を捻出するために不動産を売却し、自分たちも今のライフステージに合った家に買い替えよう」
このような事情で不動産売却を考えるとき、もし土地が親名義になっている場合は注意してください。たとえ子供でも親名義の土地を勝手に自分に変更したり、売却したりできないというのはお伝えしたとおりです。
もし親に代わって名義変更や売却の手続きを進めるのであれば、委任状を作成してもらい「親の代理人」として進める必要があります。
しかし、親が「意思決定能力がない」と診断されるほどの認知症になっている場合にはこの方法は取れないからです。意思決定能力がない方が行った不動産売買は無効となります。
そこで「成年後見制度」を活用します。成年後見制度は、意思決定能力がない方を保護し、支援するための制度です。
成年後見人には、本人のために必要な保護・支援などの事情に応じて家庭裁判所が選ぶので、親族以外に、法律・福祉の専門家といった第三者や福祉関係の公益法人などが選ばれる場合があります。
成年後見人となった方は、本人に代わって、本人の利益を考えながら、代理として不動産や預貯金等の財産の管理をしたり、契約を結ぶなどの法律行為をしたりします。
ただし、成年後見人の法律行為が認められるのは「本人の利益になること」のみです。
土地の売却代金を本人の生活費や医療費、介護施設への入居費用にあてるというような理由であれば、家庭裁判所の許可を得られるでしょう。
「親ではなく自分の家の買い替え費用に使う」「自分の借金返済のために使う」などの理由では、家庭裁判所から許可を得られません。
また、成年後見の申立てから開始までの期間は約3カ月~4カ月です。時間がかかるので、スケジュールには余裕を持って進めるようにしてください。

土地が借地権の場合、建物単独で売却すると契約違反となるので要注意
ここまで、親子・親戚間や夫婦間などで地代のやり取りがなく、名義が異なっている家の売却方法について解説してきました。
しかし、土地と建物の名義が違う理由が敷地が借地権である場合には、注意が必要です。
最初に、土地と建物の名義が違っていても原則、お互いに了承を得ることなく、それぞれ単独で売却できるとお伝えしました。この例外が借地権です。
敷地が借地権だった場合、建物を単独で売却するつもりでも、実際には借地権も合わせて買い主に譲渡することになります。
借地権の譲渡には地主の承諾が必須です。もし地主に無断で借地権を譲渡すると、契約違反として借地権を解除されてしまう可能性が高いです。
そうなれば買い主は地主からの明渡請求を拒否することができず、建物を取り壊さなければなりません。また、借地権付きの物件を売却するときには、地主の承諾の他に、譲渡承諾料も必要になります。
そのため、借地権が理由で土地と建物の名義が異なっている家を売却したい場合には、不動産会社に敷地が借地権であることを伝えて、適切な売却方法を相談するようにしてください。

土地と建物の名義を統一する手続きの流れ
それでは、土地と建物の名義を統一するための手続きの流れを解説します。大まかな流れは次の4ステップです。
(2)買取金額を決める
(3)司法書士に名義変更の手続きを依頼する
(4)決済・所有権移転登記をする
(1)土地と建物の名義を統一することに対し合意を得る
まずはお互いに名義を統一することに対して合意を得ます。このとき、どちらの名義に統一するかを話し合います。親子間であれば、子供の名義で揃えることが多いですが絶対ではありません。
名義は家の売却を中心となって進める方にしておけば、今後の手続きがスムーズに進みやすいです。
(2)買取金額を決める
お金のやり取りをせずに不動産の名義変更を行うと「贈与」の扱いとなり、贈与税が課税されます。そのため、親子間・夫婦間でも不動産売買と同じように買取価格を決めて、取引した方がいいです。
ただし、お金のやり取りがあればそれでいいというわけではありません。基本的に売買は当事者で金額に合意できれば成立します。
しかし、あまりに安すぎる価格で不動産売買を行うと「みなし贈与」と扱われる可能性があるのです。買取金額を決めるときの注意点については後ほど詳しく解説します。
(3)司法書士に名義変更の手続きを依頼する
名義を揃えることに合意し、買取金額も決まれば、実際の手続きを進めます。名義変更手続きは自分でもできますが、申請書の作成や必要書類の準備などが必要です。
また、書類に不備があれば何度も法務局へ行くことにもなります。不動産に関する知識があり、時間・労力どちらにも余裕がある方以外は、司法書士のような専門家に依頼した方が楽で、確実です。司法書士に依頼しても費用は約10万円です。
(4)決済・所有権移転登記の申請をする
司法書士に依頼して決めた手続きの日に、決済・所有権移転登記の申請をします。名義変更が完了するのは所有権移転登記の申請をして1週間程度です。
この4ステップで土地と建物の名義を揃えられるので、あとは通常の不動産売却と同じように売却活動を進めます。
安すぎる価格で買い取るとみなし贈与となる可能性がある
無償で財産を譲渡することを一般的に「贈与」と呼び、贈与された財産は贈与税の課税対象です。わずかな金額でもやり取りがあれば、それは贈与ではありません。
そのため、不動産の名義変更をするときは、限りなく安い価格で親から子へ売却する形を取ることで贈与税の課税を避けようと思われる方も多いです。しかし、それはできません。
日本では、相続税法によって「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けたときには、時価との差額に相当する金額が贈与された」とみなされるからです。
たとえば、時価3,000万円の父親の土地を子どもに名義変更しようと考えたとします。このとき、所有権移転登記だけすると無償で財産を譲渡することになるので贈与になります。
そこで、贈与ではなく不動産売買によって名義が変わったことにするため、売買価格を設定します。贈与税を避けようという意図がなくても、親子間だから格安で売却してあげようと思うかもしれません。
そして、時価の半額の1,500万円で売買契約を親子間で結んだとしましょう。ただ、1,500万円は時価の半額ですから「著しく低い」といえます。
その結果、時価との差額の1,500万円に相当する財産が父親から子どもに贈与されたとみなされ、贈与税が課税されることになります。「著しく低い」という基準があいまいですが、目安は時価の80%です。
時価の80%より安い価格で取引すると「みなし贈与」と扱われる可能性が高くなります。贈与税は様々な税金の中でも税率が高いです。
高額な贈与税が課税されることを避けるためにも、買取価格は専門の不動産業者や税理士に相談し適切な金額を設定してください。

まとめ
以上、土地と建物の名義が違う家の売却方法と手続きの流れ、注意点について解説してきました。
・土地と建物の名義が違う家を売却する時は、名義を揃えてから売却活動を始める
・敷地が借地権の場合は土地の名義人の許可なく建物の売却はできない
・無償あるいは格安で不動産を譲渡すると贈与税の課税対象になるので注意が必要
・名義変更のための適切な買取価格は専門家である税理士や不動産業者に相談して決める
土地と建物の名義が違う場合、そのままの状態での売却は難しいです。売却価格が低くなったり、買い手が全然見つからなかったりします。迷ったときは専門の不動産会社へ相談すると適切なアドバイスをもらえるでしょう。