事業用定期借地権とは?要件・契約期間や公正証書でなぜ締結するかを解説
事業用定期借地権とは、借地権のうち事業専用で使うことを前提とした権利です。普通借地権やほかの定期借地権と異なり、「居住用として使えない「公正証書での締結が必要」といった独自の特徴があります。活用が限定的になる反面、法人や個人事業主からのニーズが見込まれるでしょう。
事業用定期借地権を活用したい地主は、契約期間や契約方法について確認しておくことをおすすめします。以下では、事業用定期借地権の概要を解説します。
- 事業用定期借地権とは「事業をする人への貸出に特化した借地権」
- 契約期間(借地権者が借りられる期間)は10年以上50年未満
- 事業用定期借地権を公正証書でなぜ締結するのかは「脱法的な乱用を防ぐため」
- 契約期間が終わった後は更地返還とする
- 更新はできないが延長や再契約は実質的に認められている
- 売却や相続はほかの借地権と同じようにできる
事業用定期借地権とは「事業をする人への貸出に特化した借地権」
事業用定期借地権とは、1992年に施行された「借地借家法」の第23条にて定められた、事業をする人への貸出に特化した定期借地権です。事業用定期借地権を設定できるのは建物がない更地であり、借地権者は自分の費用を使って事業用の建物を建設する必要があります。
(事業用定期借地権等)
第二十三条専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を三十年以上五十年未満として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
e-Gov法令検索 借地借家法
条文にも「専ら事業の用に供する建物」と付いている通り、事業用定期借地権を設定する土地の建物は、そのすべてを事業用として使う必要があります。少しでも居住スペースがある建物が土地内にあると、事業用定期借地権は原則として設定できません。
一方、借地権者自身が事業を営む必要はありません。地主の許可があれば、借地権者が第三者へ事業用定期借地権を譲渡・転貸した後、その第三者が事業用の建物を建築して所有することは認められています。
事業用定期借地権を設定した土地で具体的にどのような事業をできるのかは、記事内事業用定期借地権は「居住が難しい土地」や「商売がやりやすい土地」で活用しやすいにて詳しく解説しています。
契約期間(借地権者が借りられる期間)は10年以上50年未満
事業用定期借地権で設定できる契約期間(借地権者が借りられる期間)は、10年以上~50年未満です。借地借家法が制定された当時は10年以上~20年以下までしか設定できませんでしたが、法改正によって2008年1月から上限期間が延長されました。
事業用定期借地権の大きな特徴は、契約期間30年を境にして契約内容が変わる点です。そのため、「契約期間10年以上~30年未満の短期タイプ(2項事業用定期借地権)」と、「30年以上~50年未満の長期タイプ(1項事業用定期借地権)」に分けられます。
以下では、短期タイプと長期タイプの違いを紹介します。
【短期タイプ】期間が10年以上30年未満の場合
契約期間10年以上~30年未満の事業用定期借地権を設定すると、普通借地権にて認められた特定の権利の行使が自動的に認められなくなります。特定の権利とは、具体的には以下3つが該当します。
10年以上30年未満の
事業用定期借地権の特徴 |
概要 |
借地借家法第5条に基づく
契約更新ができない |
あらかじめ決めていた契約期間の終了後は更新ができず、終了後地主へ権利を返還する |
借地借家法第7条に基づく
建物の再建築などにともなう契約期間の延長ができない |
・契約期間中に借地上の建物が滅失・再建築となったときでも、地主の承諾の有無に関係なく契約期間の延長ができない
・普通借地権なら地主の承諾があった日または再建築した日のどちらか早い方から20年間延長が可能
|
借地借家法第13条に基づく
建物買取請求権の行使ができない |
・借地権者は、借地権者が建てた建物を地主に買い取って貰う権利を行使できない
・本来であれば、地主は建物買取請求権を原則として拒否できない |
2専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上三十年未満として借地権を設定する場合には、第三条から第八条まで、第十三条及び第十八条の規定は、適用しない。
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上記はいずれも契約にて特約を定める必要なく、契約を締結しただけで適用されます。
【長期タイプ】期間が30年以上50年未満の場合
30年以上~50年未満で設定する事業用定期借地権の場合、短期タイプで必要な「契約更新がない」「建物の再建築などにともなう契約期間の延長がない」「建物買取請求権の行使がない」の特約は、任意設定になります(借地借家法第23条第1項)。
たとえば建物買取請求権について特約を定めないと、事業用定期借地権であっても建物買取請求権を行使される可能性があります。
特約を定めれば、契約期間30年以上の事業用定期借地権であっても、建物買取請求権や更新、延長の行使を防ぐことが可能です。その場合は契約書にて「更新は不可である」「築造による期間延長は不可である」「建物買取請求権の行使は認めない」といった風に、特約についてはっきりと明記しなければなりません。
なお、50年以上の契約期間の設定が必要な「一般定期借地権」でも、同じ特約を任意で付けられます。
事業用定期借地権を公正証書でなぜ締結するのかは「脱法的な乱用を防ぐため」
事業用定期借地権の契約を公正証書で締結するのはなぜか、その理由は「事業用定期借地権の脱法的な乱用を防ぐため」です。
事業用定期借地権の設定について相手と契約するときは、必ず公正証書にて書面を残さなければなりません(借地借家法第23条第3項)。
3前二項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。
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公正証書とは、公務員である公証人の立ち会いのもと、公証役場で作成する文書です。公正証書は非常に強い証拠力を持ち、交わされた契約が真実だと明確にする効果があります。公正証書遺言を作る際や、金銭消費賃貸契約、不動産売買契約、離婚時の養育費・慰謝料の取り決めなどで証拠を残したいときは、公正証書とするのが原則です。
公正証書にて契約を結べば、公証人によって「本当に事業用の建物としてだけで活用するのか(実質的に居住目的や賃貸目的ではないか)」「土地の利用目的や契約内容に問題がないか」を精査してもらえます。公証人の目が入ることで、脱法的な使い方を抑制できるのです。
公正証書で契約を締結しないと、いくら契約内容に問題がなくても事業用定期借地権自体が成立しません。事業用定期借地権として、まだ効力が生じていない状態になります。ただし契約内容によっては、普通借地権の契約として継続する可能性があります。
契約期間が終わった後は更地返還とする
事業用定期借地権の契約が終了した後、借地権者は借りていた土地を更地返還しなければなりません。
事業用定期借地権が設定された土地に建てた建物は、借地権者の費用で建てたものです。そして契約終了後に更地返還するときも、借地権者は自分の費用で建物を解体します。
なお事業用定期借地権以外の借地権も、契約期間が終わったら更地返還が基本です。
更新はできないが延長や再契約は実質的に認められている
事業用定期借地権は原則として更新が認められていないため、契約期間が終了するとそのまま借地契約は終了になります。
しかし「もともと法律で決まっている50年未満より短い契約期間だった」という場合は、法律における存続期間である50年未満の範囲でなら延長が実質認められています。たとえば「10年から20年に延長する」「30年を45年まで延長する」といった対応が可能です。
ただし「20年から40年に延長」といった、30年の境を超える延長は原則して認められません。30年未満の事業用定期借地権は借地借家法第23条第2項、30年以上は借地借家法第23条第1項が根拠であり、それぞれで成立要件などが異なるからです。
では、最初に30年未満の契約をしてしまうと、同じ土地にて30年以上の事業用定期借地権の契約は永遠にできないかと言われるとそうではありません。事業用定期借地権の契約更新は認められませんが、一旦契約を完全に終了してから同じ契約を再度おこなう再契約は問題なくできます。
更新の禁止は、あくまで「必ず更地で返してほしい」「期限内での土地の返還を求める」といった地主に配慮した制度です。一方で、「この事業者とはできる限り長く賃借関係を継続したい」という地主の意向を曲げてでも、無理やり遵守すべき決まりでもないという解釈があります。
そのため「収益性がよいのでこのまま貸したままにしたい」と思う地主と、「事業が軌道に乗っているから、ここから移動したくない」と思う事業者の思惑が合致すれば、再契約による借地権継続は認められます。
売却や相続はほかの借地権と同じようにできる
事業用定期借地権は、ほかの借地権のように売却や相続の対象になります。
契約中の借地権者が事業用定期借地権を売却(譲渡)するときは、地主の承諾が必要です。もし地主から承諾を得るときは、借地権者が地主に対して承諾料を支払うのが一般的です。承諾料の相場は、借地権価格の5~15%程度になります。
事業用定期借地権の売却価格や相続税は、原則として相続税評価額を基に計算します。計算方法は、後述する「事業用定期借地権の評価額はいくら?相続税評価額を基にした計算方法」をご覧ください。
事業用定期借地権は「居住が難しい土地」や「商売がやりやすい土地」で活用しやすい
「居住が難しい土地」や「商売がやりやすい土地」なら、事業用定期借地権を設定して活用しやすくなります。
たとえば人が住みにくい立地でも、交通量が多いロードサイドや商業地にあるなら事業用定期借地権の需要は高くなるでしょう。逆に少しでも建物に居住部分があると、事業用定期借地権は設定できません。以下で詳細を解説します。
人が住みづらくても商売がしやすいなら需要あり
前提として、事業用定期借地権は少しでも人が生活する部分があると設定できません。
逆に言えば、事業用定期借地権は「そもそも人が住むのには不便な土地」にも設定しやすいとも言い換えられます。騒音が大きい、住宅地から離れているといった土地でも、事業用としてならニーズを期待できるかもしれません。
また事業用定期借地権がある土地は、商売がやりやすい土地であるほど需要が高くなります。ロードサイド(交通量が多い道路沿い)にある、数百坪レベルの広い敷地がある、周囲が商業地域であるといったケースなら、事業用定期借地権を設定するのに向いていると言えるでしょう。
事業用定期借地権を利用した事業の具体例
事業用定期借地権は、居住をともなう内容でなければほぼすべての事業が対象になります。たとえばガソリンスタンド、コンビニ、スーパー、オフィスビル、製造工場、飲食店、幼稚園、保育園、倉庫などに関連する事業の建物なら建設可能です。
また、事業には収益の発生の有無は問われないため、営利・非営利、民間・公共問わずさまざまな事業用の建物を事業用定期借地権が設定された土地で建設できます。一般社団法人、特定非営利活動法人(NPO法人)や宗教法人の建物でも、事業内容や利用目的に居住がともなわなければ問題ありません。
事業用定期借地権を利用した事業の具体例は次の通りです。
事業用定期借地権でおこなう事業の例 |
本格的な出店前の営業やマーケティングのための拠点として、10年間の契約期間を定めた |
将来的な製造の中心拠点として新工場建設を予定し、45年間の契約期間や、建物買取請求権を行使しない旨を定めた |
一等地でのオフィスビル建設を予定し、30年間の契約期間や、建物買取請求権の行使、滅失・再建築にともなう延長、契約更新をしない旨の特約を付けた契約を定めた |
このように、事業用定期借地権の契約で認められる事業は幅広いと言えるでしょう。
事業用定期借地権が設定できない事業
事業用定期借地権の設定ができない事業は次の通りです。
- 賃貸用アパート・マンション
- 老人ホーム・グループホーム
- 敷地内に社宅があるオフィス・工場
- 自宅件事務所
上記はいずれも、土地内に自分や利用者の居住が発生するため、事業用定期借地権の対象外です。
ホテルや旅館は居住目的ではなく宿泊目的なので、事業用定期借地権が認められます。また居宅介護サービスや病院の建物も、原則として設定が可能です。ただし、土地が属する用途地域にて建設が認められていない建物は建てられないので注意してください。
駐車場や資材置き場など建物の所有を目的としない事業も、事業用定期借地権の対象にはなりません。
参考:国土交通省「用途地域」
そもそも借地権とは?普通借地権と事業用定期借地権の違いや種類などを解説
事業用定期借地権は、定期借地権のうちの1つです。ほかの定期借地権には「一般定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」があり、臨時的な契約としたいときは「一時使用目的借地権」を設定します。
上記に該当しないものが、契約に期限を定めない普通借地権です。普通借地権と定期借地権は、1992年に施行された借地借家法で定められた比較的新しい制度です。1992年7月31日以前に発生した借地権は、旧法である旧借地法が引き続き適用されます。
そしてこれらのすべてが、借地借家法における「借地権」に該当します。以下では、借地権の概要や借地権の種類について簡単にみていきましょう。
厳密には建物の所有を目的にしない「民法上における借地権(第265条、第601条、第605条など)」が存在しますが、特別法である借地借家法が優先されるので本記事では解説を省略します。
借地権とは「借りた土地上に建物を建てる権利」
借地権とは、地主から借りた土地上に建物を建てるための権利です。建物を建てることを目的としない場合、借地権は設定できません。
借地権には、「地上権」と「賃借権」の2種類が存在します。地上権は「地主の承諾なしで土地の貸出、売却などが許される権利」、賃借権は「地主の承諾があれば土地の貸出、売却などが許される権利」です。地上権は借地権者側の権利が非常に強いことから、一般的な借地契約では賃借権が設定されます。
以下では、賃借権での借地契約を前提に解説します。
第二条この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一借地権建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
二借地権者借地権を有する者をいう。
三借地権設定者借地権者に対して借地権を設定している者をいう。
四転借地権建物の所有を目的とする土地の賃借権で借地権者が設定しているものをいう。
五転借地権者転借地権を有する者をいう。
e-Gov法令検索 借地借家法
借地権がある土地では、建物の権利は借地権者、土地の権利は地主と分かれます。借地権における権利関係の基本を以下でまとめました。
- 建物の貸出、売却、建て替え、増改築には地主の承諾が必要になる(協議がまとまらないときは借地非訟となる可能性あり)
- 契約期間が終わったときは、借地権者が更地にして返還する
- 地主は借地権で土地を貸す見返りとして、借地権者から地代(土地を借りるための対価で家賃のようなもの)を受け取る
- 建物の固定資産税(以下、都市計画税も含む)は借地権者、土地の固定資産税は地主が対象になる
- 固定資産税の金額を地代の基準にしているときは、固定資産税が上がると地代も上がる
借地権は、契約内容や契約期間によって「普通借地権」と「定期借地権」に分類できます。また、建設工事や仮住居など一時的な使用のみを目的とする場合は、「一時使用目的借地権」を設定します。
普通借地権は「借地契約が更新できる」
普通借地権とは、定期借地権には該当しない借地契約のことです。あらかじめ契約期間を決めるのは定期借地権と同じですが、契約の更新が可能である点に大きな違いがあります。地主は正当な事由なく普通借地権の更新を拒否できないため、借地権者は半永久的に土地を借りられます。
指定できる契約期間は、30年以上です。期間を定めなかったときは、自動的に30年となります。契約を更新すると、最初の更新で20年、2回目以降の更新で10年の期間延長が可能です。地主と借地権者の同意があれば、延長する期間を10年超(最初の更新なら20年超)に伸ばせます。
普通借地権の契約を更新せず満了になると、借地権者は地主に対して建物買取請求権を行使できます。要するに普通借地権は、事業用定期借地権を含む定期借地権だと特約などで行使を止められた各種権利を、借地権者が自由に使えるのが大きな特徴です。
一方で定期借地権は、上記のような借地権者の強い権利を抑制できるようになっています。
定期借地権は「契約期間が決まっており終わったら返還」
定期借地権とは「定期」の名前の通り、あらかじめ決められた契約期間が終わったら土地を更地にして地主に返還する契約です。定期借地権は主に3種類存在し、それぞれ契約期間や契約内容に違いがあります。
|
一般定期借地権 |
事業用定期借地権 |
建物譲渡特約付借地権 |
存続期間
(契約期間) |
50年以上 |
10年以上~50年未満 |
30年以上 |
用途制限 |
なし |
事業用のみ |
なし |
契約更新 |
なし |
なし |
なし |
契約書の書式 |
書面での契約が必要 |
公正証書のみ |
法律上は書面での契約は不要 |
借地借家法の適用 |
第22条 |
第23条 |
第24条 |
以下では、事業用定期借地権以外の定期借地権について解説します。
一般定期借地権は「用途に制限のない契約期間を50年以上」
一般定期借地権は、建物の用途を制限せず、契約期間を50年以上で設定する定期借地権の1つです。事業用定期借地権と異なり、居住用の賃貸や自宅用の建物でも設定できます。一方で事業用定期借地権と同じく、建物買取請求権の行使、滅失・再建築による延長、契約の更新を行使しない特約を任意で定められます。
建物譲渡特約付借地権は「30年以上経過したら地主が建物を買取」
建物譲渡特約付借地権とは、契約満了時に借地権者が建てた建物を地主が買い取る契約をあらかじめ結んでおく定期借地権です。契約期間は30年以上で、地主が建物を買い取った時点で借地権が消滅します。
建物譲渡特約付借地権の契約方法は口頭のみでも問題ないとされていますが、実際は仮登記や契約書の作成をするのが一般的です。なお法定借家権なども絡むことから、ほかの借地権と比較してあまり使われない借地権となっています。
一時使用目的借地権は「臨時的な所有」
仮住宅や工事といった短期間の限定的な借地権としたいときは、一時使用目的借地権が用いられます。
設定するには「一時使用だとわかる建物(取り壊しが容易、移動可など)」「一時使用だと明確にわかる使用目的」「5年以下など短期間の契約」など、一時使用目的借地権の対象になる契約だと証明する必要があります。
1992年7月31日以降に生じた借地権は旧借地法(旧法)の適用を受ける
新法である借地借家法が施行前の1992年7月31日以前に生じた借地権は、旧借地法(旧法)の適用を受けます。旧借地法では「堅固建物(鉄骨造や鉄筋コンクリート造など)」か「非堅固建物(木造など)」かで契約期間や更新期間が変わります。
旧借地法は普通借地権と同じく、正当な理由なく地主側の更新拒絶ができません。しかし旧借地法に定期借地権は存在しておらず、旧法の時代は土地が返還されないトラブルが相次いでいました。そのため定期借地権は、地主側に配慮した内容になった背景があります。
地主が事業用定期借地権を設定するメリット
地主が事業用定期借地権を設定して土地を貸し出すメリットは、主に次の通りです。
- 建物投資の不要と高額の地代で安定した収益を見込める
- 契約期間を10年以上~50年未満の間で自由に選べる(短期間での返還が期待できる)
- 借地権者の撤退が発生するリスクが小さい
- 残存期間に応じて相続税を軽減できる
それぞれの詳細を見ていきましょう。
建物投資の不要と高額の地代で安定した収益を見込める
事業用定期借地権を設定した場合、事業に関する建物や設備にかかる支出や負担は、原則としてすべて借地権者が対応します。地主は建物への投資や資金調達が必要なく、土地を貸すだけで地代収入を得られるメリットがあります。
建物への投資の失敗や建物の固定資産税・保険料・維持管理費の支払いなども回避できるため、非常に低リスクな運用が可能です。
また、事業用の土地に設定できる地代は高めにできるため、居住用の土地より高額の地代収入を期待できます。地代の目安は、「事業用定期借地権の地代相場は「相当の地代」を基にした「土地価格の4~5%」」にて解説しています。
契約期間を10年以上~50年未満の間で自由に選べる
事業用定期借地権は、契約期間を10年~50年未満の間で自由に選べるメリットがあります。一般定期借地権や普通借地権では設定できない、30年未満の短期契約も可能です。「将来的には自分で土地を活用したい」「子どもや孫の代で戻ってくるようにしたい」といったニーズも事業用定期借地権なら対応できます。
同じ事業者へ長期間貸し出したいときは再契約ができるため、事業者側の希望にも応えやすい契約だと言えます。
借地権者の撤退が発生するリスクが小さい
事業用定期借地権の契約を結ぶ借地権者は「わざわざ資金を準備して建物へ投資する事業者」であり、「事業を成功させたい」「建物へ投資した分を回収したい」といった熱意・使命感を持っています。
そのため事業用定期借地権を利用する事業者は、契約途中で撤退するリスクが小さいというメリットがあります。とくに大型の商業施設や工場などを建てるときは数千万~数億円以上の投資をしている可能性が高く、途中で事業を投げ出すケースは考えづらいでしょう。
残存期間に応じて相続税を軽減できる
定期借地権がある土地は、契約の残存期間に応じて相続税評価額が低くなります。そのため、事業用定期借地権を設定している土地の相続が発生したときは、普通の土地よりも相続税を軽減できるメリットがあります。定期借地権における残存期間ごとの評価減の割合は次の通りです。
定期借地権の残存期間 |
評価減の割合 |
残存期間5年以下 |
5% |
残存期間5年超~10年以下 |
10% |
残存期間10年超~15年以下 |
15% |
残存期間15年超 |
20% |
参考:国税庁「No.4613 貸宅地の評価」
たとえば相続税評価5,000万円の土地で、事業用定期借地権の残存期間が20年だった場合、相続税評価額は5,000万円×20%=1,000万円の評価減です。土地にかかる相続税は相続税評価額に応じて決まるため、相続税評価額が低くなる分だけ相続税も安くなります。
ただし残存期間が満了に近づくほど相続税対策効果は薄くなるので、相続税対策のためだけに事業用定期借地権を設定するのは判断が難しいところです。将来的な節税効果と運用方法などを十分に検討しておきましょう。
地主が事業用定期借地権を設定するデメリット
地主が事業用定期借地権を設定して土地を貸し出すデメリットは、主に次の通りです。
- 借地権者が経営破たん・夜逃げすると地主に負担がかかるリスクがある
- 地主から一方的に中途解約できない
- 用途が事業用に限られているので貸し出す相手が限定される
- 住宅用地の特例による固定資産税の減税が受けられない
それぞれの詳細を見ていきましょう。
借地権者が経営破たん・夜逃げすると地主に負担がかかるリスクがある
借地権者となった事業者が経営破たんや夜逃げで土地から撤退すると、建物だけが土地内に残るケースがあります。しかし事業用定期借地権にある建物は事業者が建築したものであり、残された建物の所有権は借地権者です。債権者がいない建物が土地に残るデメリットは次の通りです。
- 地主の判断だけで取り壊し、売却、賃貸などができない
- 建物を取り壊すには、建物収去土地明渡請求や建物撤去の代替執行などの法的対応が必要になる可能性がある
- 経営破綻や夜逃げだと資金回収が困難であるため、取り壊し費用は実質地主の負担になる
つまり、事業者が契約途中で事業継続が困難になると、さまざまな負担を地主が被ることになります。事業用定期借地権の契約を結ぶときには、事業者の事業内容、資金力、将来性、競合他社などをしっかりとチェックし、途中で事業が頓挫するリスクを排除しておきましょう。
地主から一方的に中途解約できない
事業用定期借地権の契約は、地主から一方的に中途解約できません。契約途中でほかの人へ貸したくなったり自分で運用したくなったりしても、契約満期になるまでは借地権者へ貸し出す必要があります。
借地権者から中途契約の申し出があったときも、原則として中途解約は不可です。ただしあらかじめ途中解約できる旨を特約で定めた場合は、借地権者からの申し出で残存期間があっても契約を終了できます。
一方で、地主側の申し出で中途解約できる特約はいかなる場合も認められません。しかし借地権者が契約違反した場合に契約を解除する旨を定めているときは、借地権者が契約違反したときに中途解約できます。
用途が事業用に限られているので貸し出す相手が限定される
居住用の用途が認められない事業用定期借地権は、貸し出す相手が限定されるデメリットが存在します。
たとえ住宅地として需要が高い土地でも、事業用定期借地権を設定すればマイホームや賃貸事業用の建物は建てられません。一般的な会社員や自宅兼事務所を拠点にしたいクリエイターなどは、対象外になります。
「居住用の土地には向いていないけど、事業用としても活用が難しい」という場合は、土地の売却も検討するのがよいでしょう。
住宅用地の特例による固定資産税の減税が受けられない
事業用定期借地権が設定された土地は居住用の建物が認められないので、必然的に住宅用地の特例による固定資産税の減税が受けられないデメリットがあります。
住宅用地の特例とは、人が住むために建物(マイホームなど)のために使われている土地(住宅用地)は、固定資産税が最大6分の1になる制度です。事業用定期借地権の土地だと住宅用地の特例は適用されないため、地主は固定資産税の軽減措置がないまま納税する必要があります。
事業用定期借地権の地代相場は「相当の地代」を基にした「土地価格の4~5%」
事業用定期借地権の地代は、相当の地代と呼ばれる基準を用いて決められるのが一般的です。具体的には、土地価格の4~5%が相場だと言われています。
相当の地代を用いた地代はあくまで目安であるため、実際は地主と借地権者との契約内容や、貸し出す土地の特徴などによって地代の金額は前後します。
以下では、事業用定期借地権の相場を決める相当の地代の概要や金額、事業用定期借地権の地代の計算例などを解説します。
相当の地代とは「権利金の受け渡しがない土地に適用される地代」
相当の地代とは、権利金の受け渡しがない土地に適用される地代のことです。
権利金とは、不動産の賃借権の設定や譲渡などをおこなう際に、不動産を借りる人が貸す人へ支払う礼金のようなイメージです。借地権を設定することで地主は「使える権利が少なくなる」「土地の財産的評価が落ちる」といったリスクを負うため、代わりに借地権者が権利金で金銭的な対価を支払います。権利金の相場は、更地価格×60~70%です。
権利金が発生する不動産を借りるときは、支払われた権利金を考慮して算出した「普通の地代」を基にした地代を支払うケースがよくあります。
普通の地代の計算式は、「土地の価額×(1-借地権割合)×6%」です。とはいえ実際に支払う地代は周辺の地代相場などを調べて決めており、年額は「土地固定資産の3倍以上」「住宅の地代相場は土地価格の2〜3%」が適正と言われています。
一方で事業用定期借地権の契約の場合だと、権利金が発生しないのが一般的です。そのため、権利金を考慮しない地代である「相当の地代」を用いて地代を計算します(別途保証金が発生するケースはある)。
相当の地代は借地権者が権利金が支払わない分を入れるため、普通の地代より高額です。相続税評価における相当の地代の計算式は、「土地価格×6%」となっています。この数値が、事業用定期借地権の地代相場の目安の1つです。そして土地価格×6%は、次の見出しで解説する通り土地価格の4〜5%に近い数値になります。
参考:国税庁「No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂」
事業用定期借地権の実務上の地代相場は「土地価格の4~5%」が目安
事業用定期借地権の年額の地代相場は、「土地価格の4~5%」が目安です。これは相当の地代を算出に用いる土地価格を計算するときに、相続税評価額を利用するケースが実務上多いからです。
相続税評価額は、地価公示価格の80%程度と言われています。そのため、以下の関係が成り立ちます。
事業用定期借地権の年間地代(路線価方式で計算)
=土地の相続税評価額(地価公示価格×80%)×6%
=地価公示価格×4.8%
≒土地価格の4~5%
つまり、地代相場(土地価格×6%)=土地の相続税評価額の6%≒土地価格の4~5%
事業用定期借地権の地代の計算例
以下では、相続税評価額を基にした事業用定期借地権の地代の計算例を紹介します。
- 相続税路線価40万円
- 土地面積1,200㎡
- 補正率は考慮なし
・40万円×1,200㎡=更地価格(相続税評価額)4億8,000万円
・4億8,000万円×6%=年間地代2,880万円
・2,880万円÷12か月=月間地代240万円
上記の計算はあくまで基本であり、地主と借地権者での合意があれば柔軟に金額を設定できます。ただし、適正地代からかけ離れた金額および無償提供したときは、差額が実質贈与とみなされる可能性があります。
参考:国税庁「No.4555 親の借地に子供が家を建てたとき」
事業用定期借地権にまつわる2つのトラブル事例
事業用定期借地権は、ほかの借地権と比較して特殊な契約・運用がおこなわれるため、事業用定期借地権ならではのトラブルが発生するリスクがあります。以下では、具体的なトラブル事例を紹介します。
地主が持つ資産の範囲がはっきりせず工事費用で揉める
更地の貸出・返還が基本となる事業用定期借地権ですが、地主の資産が存在したまま貸し出されるケースが存在します。もし地主の資産範囲がはっきりしないと、意図しない工事費用を地主が支払うはめになる可能性があります。
よくある事例は、土地内にあるアスファルトです。アスファルト舗装費用を地主自身が負担していると、アスファルトの所有者は地主になります。すると、アスファルトは以下の扱いになります。
- 土地を貸し出しているときも、アスファルトの舗装の補修費用は地主の負担になる
- 更地返還時でも、アスファルト舗装を剥がす費用が地主の負担になる(原状回復の範囲から外れる)
たとえば借地権者となる事業者が説明をぼかして工事費用を地主に負担させると、負担部分について地主が補修や原状回復の費用を支払わなければなりません。こうしたトラブルを防ぐためにも、契約時点で資産範囲を明確にして工事の対応範囲を決めておきましょう。
高額の保証金の相続が発生して相続人が返還できなくなった
事業用定期借地権の契約時に預かった保証金が高すぎると、契約の残存期間中に相続が発生したときにトラブルが発生する可能性があります。
事業用定期借地権の契約中に地主が死亡すると、地主が預かっていた保証金の返還義務は相続人へ引き継がれます。もし相続人が保証金を返せるほどの現金を持ち合わせていないと、相続人と借地権者との間で裁判沙汰になるかもしれません。相続人が子どもなら、子どもに自分の負担を押し付けることになります。
事業用定期借地権は、10年~50年未満の長期契約です。契約期間中に相続が発生することは珍しくありません。保証金関係のトラブルを回避するには、保証金の金額を高くしすぎないこと、保証金を安くしても問題ない事業者と契約することなどが大切です。
事業用定期借地権を設定する際の手続きの流れ!登記は必要?
地主と借地権者の間で実際に事業用定期借地権を設定する場合、おおまかには以下の流れで進めていきます。
- 地主と借地権者で借地契約の条件を交渉する
- 契約内容について公正証書を作成する
- 事業用定期借地権についての登記をおこなう(任意)
順番に見ていきましょう。
地主と借地権者で借地契約の条件を交渉する
地主と借地権者の間で、事業用定期借地権における借地契約の条件の交渉をおこないます。事業用定期借地権の契約書に記載する内容の例は次の通りです。
- 契約の対象になる土地の概要
- 事業用の建物の所有を目的としている旨
- 契約期間(10年以上50年未満の範囲)
- 借地権者が支払う地代の金額、支払日、支払い方法、増減の条件、遅延損害金など
- 保証金の金額や支払日、保証金の返還についてなど
- 契約期間が終了した際は、原状回復して更地返還する旨
- 建物買取請求権の行使、契約の延長、契約の更新などについて
- 地主の承諾なしの土地の転貸、譲渡、担保権の設定などを禁止する旨
- 土地の使用に関する禁止事項(風俗、暴力団の利用、周辺住民の安全を脅かす利用など)
- 契約違反による契約解除の規定(地代滞納、禁止事項違反、破産・民事手続き開始など)
- 公正証書の作成について
- 紛争やトラブル発生時の解決手段、裁判手続きにおける管轄裁判所
- そのほか決めておくべきもの(契約不適合責任、損害賠償、違約金など)
契約内容について公正証書を作成する
契約内容が決まったら、公正証書にて契約書を作成しましょう。公証役場にて、契約についての合意書などを基に手続きを進めます。
実際に公正証書を作成するときは、原則として地主・借地権者・仲介業者など契約にかかわる全員が公証役場へ赴き、本人確認のうえで手続きしなければなりません(地主・借地権者が指定する代理人でも認められる場合あり)。高齢や病気などで公証役場へ出向くのが難しいときは、公証人が出張対応してくれます。
契約書には、契約金額(借地権者に後日返還されない金額)に応じた収入印紙を貼付して印紙税の納税をおこないましょう。保証金や地代などは、契約金額に含まれません。たとえば地代だけが記載されているときは、収入印紙200円分で問題ありません。
参考:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
事業用定期借地権についての登記をおこなう(任意)
事業用定期借地権の契約が成立したら、事業用定期借地権についての登記をおこないましょう。登記することで、第三者への法的対抗ができます。たとえば借地権者が無断で建物を売却したときなどに、その建物は借地権のものであることを法的に証明できます。
とはいえ事業用定期借地権の登記の必要性については議論されており、登記するか否かは任意です。借地権者が事業用の建物の登記をしていれば借地権の存在が明らかになるので、地主・借地権者ともに事業用定期借地権の存在を主張できるからです。
一方で、事業用定期借地権を登記しておけば第三者からもわかりやすくなるので、「事業用定期借地権なら契約期間が短いし満了後に更地になって返ってくる」と、第三者の売買の判断がスムーズになります。地主にとっても登記は、「借地権の効力が及ぶ範囲を明確にできる」「更地返還請求がやりやすくなる」といったメリットがあります。
事業用定期借地権を登記するときは、以下の書類等を準備し、土地所在地の法務局で賃借権設定登記を地主・借地権者が共同で申請してください。
- 登記識別情報または登記済権利証
- 印鑑証明書
- 登記原因証明情報(公正証書で作成した事業用定期借地権設定契約書)
- 登録免許税(固定資産税評価額の1%)
事業用定期借地権の評価額はいくら?相続税評価額の計算方法
事業用定期借地権が設定された土地でも、売却や相続が発生する可能性があります。売却価格は売手と買手の話し合いによって金額が変動する一方、相続の場合は法的に決められた方法でを基に相続税評価額を算出し、相続税計算の基礎とします。
事業用定期借地権の評価額の計算は、ほかの定期借地権と同じです。定期借地権の評価額の計算は、「自用地評価額×借地権割合」で計算できる普通借地権よりも複雑な計算が求められます。計算が難しいと感じるときは、税理士といった専門家へ計算を依頼するのがよいでしょう。以下では、事業用定期借地権の相続税評価の計算方法の基本を解説します。
自用地評価額を算出する
相続税評価額を算出するには、まず相続開始時点における事業用定期借地権が設定された土地の自用地評価額(事業用定期借地権の底地の評価額)を計算します。自用地評価額とは、他人が使用する権利がない「自用地」の評価額です。
自用地評価額は、事業用定期借地権が設定された土地が存在する地域によって計算方法が変わります。
- 路線価地域:「路線価×地積(㎡)」
- 倍率地域(路線価がない地域):「固定資産税評価額×倍率」
路線価や倍率は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」にて確認できます。地域によっては奥行価格補正率や不整形地補正率といった補正を反映します。
簡便法にて定期借地権の評価額を計算する
定期借地権の相続税評価は、「原則法」と「簡便法」のいずれかを用いて計算します。とはいえ定期借地権における相続税評価のほとんどは簡便法でおこなわれるため、ここでは簡便法での計算方法を紹介します。
簡便法における定期借地権の計算式は次の通りです。
定期借地権の評価額=
自用地評価額×{(定期借地権の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額÷定期借地権の設定時における土地の通常取引価額)×(課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率÷定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率)}
簡便法とは言いつつも、難しい文字列が並んだ難解な式となっています。各要素の詳細な解説は、国税庁の「定期借地権等の評価明細書」にて記載があるため、覚えなくても問題ありません。
以下では参考程度に、計算式の各要素を簡単に解説します。
定期借地権の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額÷定期借地権の設定時における土地の通常取引価額
まず分母となる「定期借地権の設定時における土地の通常取引価額」とは、「土地の通常の取引価格」または「相続税評価額を0.8だけ割り戻した数値」です。
分子である「定期借地権の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」とは、以下3つを合計した金額です。
- 権利金や協力金など、返還の必要がないお金
- 保証金や敷金など、借地契約が終了したときに返還する預託金が無利息または基準年利率未満の支払いがあったときに算出する金額
- 適正地代よりも低い地代が設定されている場合、地主から借地権者への実質的な贈与があったとして、その贈与に相当する差額地代
課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率÷定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
分母の「定期借地権の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率」とは、契約中の定期借地権で設定した契約期間に応じた基準年利率の複利年金現価率です。
分子の「課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率」とは、相続発生時の定期借地権の残った契約期間に応じた基準年利率の複利年金現価率です。
いずれの数値も、国税庁の公式サイトで公表されている基準年利率や福利表を見れば確認できます。
事業用定期借地権の目的となっている宅地(底地)の評価額
事業用定期借地権の目的となっている宅地、つまり事業用定期借地権が設定されている底地の評価額の計算方法も紹介します。
底地の評価額は、「自用地評価額-定期借地権の評価額(簡便法にて定期借地権の評価額を計算するの数値)」で計算が可能です。これを原則評価と呼びます。
ただし、「残存期間に応じて相続税を軽減できる」で解説した残存期間に応じる割合を用いた計算結果と比較したとき、原則評価の価額が小さければ、残存期間に応じた割合を用いた計算結果のほうを事業用定期借地権の底地の評価額とできます。「自用地評価額×残存期間に応じる割合」を、残存期間割合評価と呼びます。
事業用定期借地権の底地の評価額=自用地評価額-原則評価額と残存期間割合評価額のいずれか大きい価額
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まとめ
事業用定期借地権は、建築する建物の用途を事業用に限定した、10年~50年未満で設定できる定期借地権の1つです。貸出相手がほぼ事業者に限られるものの、30年未満の契約期間なら、借地権者の建物買取請求権、残存期間の延長、契約更新の3つの権利を行使させない契約ができます。
また、建物への投資が不要、事業者からの地代による安定した収益、相続税の軽減といったメリットも魅力です。居住用として活用が難しい土地でも、事業用定期借地権の土地としてなら運用できる可能性があります。
ただし、事業者の経営破たん・夜逃げによる法的リスクや、中途解約の不可などのデメリットには注意が必要です。「資産区分が曖昧なせいで工事費用の負担が必要になった」「高額の保証金が将来返せない」といったトラブルも想定されるので、後のいざこざが発生しないよう契約内容はしっかりと話し合って決めてください。公正証書での契約締結が必要な点も、忘れないようにしましょう。
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