「借地上の建物(借地権付き建物)を建て替えたくても地主が承諾してくれない」「立て替えの承諾料が高額で話が進まない」といった相談は、実務上よく寄せられます。
借地上の建物を建て替えるには、原則として地主の承諾が必要であり、無断で建て替えを行った場合には、契約違反として借地契約を解除されるリスクも否定できません。
また、地主から承諾を得る際には、更地価格の3~5%程度、条件によっては10%前後の承諾料を求められるケースが多く、金銭条件が折り合わず交渉が難航することも少なくありません。
ただし、借地権の種類によって、建て替え時の扱いには次のような違いがあります。
| 区分 |
内容 |
| 普通借地 |
更新を前提とする借地権。建て替えは「増改築」に該当する。増築禁止特約がなければ法的には地主の承諾なしで建て替え可能だが、一般的には地主の承諾を得る。
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| 定期借地 |
契約期間満了時に必ず土地を返還する借地権。契約期間中に建て替えを行う場合は、原則として地主の承諾が必要となります。 |
さらに、建物が既存不適格にあたる場合や、敷地が建築基準法上の接道義務を満たしていない場合には、たとえ地主の承諾があっても建て替え自体ができないことがあります。また、借地権付き建物は担保評価が低く見られがちで、承諾が取れたあとに住宅ローンの審査でつまずくケースも、実際には少なくありません。
このように、借地の建て替えは「地主の了承が取れれば終わり」という話ではなく、契約内容や建築規制、費用面、資金調達まで確認すべき点が多岐にわたります。状況を十分に整理しないまま話を進めてしまうと、後から思わぬ問題が表面化するおそれもあります。
借地の建て替えは、個別事情による判断が欠かせない分野です。借地問題に詳しい弁護士や不動産会社に早めに相談しておくことで、無用なトラブルを避けつつ、現実的な選択肢を検討しやすくなるでしょう。
本記事では、借地の立て替えで必ず知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
借地にある建物の建て替えは原則地主の承諾が必要
借地に建つ建物を建て替える場合は、原則として地主の承諾を得なければ工事を進めることはできません。建物の取り壊しや新築は、借地契約の内容に実質的な変更を加える行為とみなされ、無断で行うと契約違反として解除を求められる恐れがあります。
もっとも、事前に承諾を得ておけば、借地上の建物であっても建て替え後も契約の継続が可能です。
一方で、借地契約の区分によっては、地主の承諾なしで建て替えが認められる場合もあります。まずは、不動産買取の現場で多くの借地案件に携わってきたプロの視点から、「普通借地契約」と「定期借地契約」における建て替え時の扱いの違いを整理して解説します。
普通借地:増築禁止特約がなければ法的には地主の承諾なしで建て替え可能
普通借地契約の場合、賃貸借契約書に増改築を制限する特約が記載されていなければ、地主の承諾なしで建て替えが可能です。
通常、地主から土地を借りるときに交わす賃貸借契約書には、増改築禁止特約が書かれています。増改築禁止特約とは、借地上の建物を増改築してはならないとする契約上の取り決めで、借地人が工事を行うには地主の承諾が必要となるというものです。
もしも、土地の賃貸借契約書にこのような増改築を制限するような特約が記載されていなければ、当然ながら承諾も必要ないということになります。
地主の承諾を得て建て替えを行った場合には、借地権の残存期間が、承諾を得た日または建て替え完了日のいずれか早い方から20年延長されます。これは、借地権の契約期間満了直前に承諾を得たにもかかわらず、地主に正当事由があれば契約が終了してしまい、建て替え承諾の意味が失われてしまうことを防ぐためです。
そのため、承諾を取らずに建て替えを行った場合には、この20年延長が受けられず、契約期間満了時に更新の可否が問題となる可能性があります。
また、承諾が必要となるケースでは、後ほど詳しく解説する「承諾料」が発生します。
地主の承諾不要となるのはあくまで「増改築禁止特約がない場合」に限られ、特約が存在する場合には承諾料を支払って許可を得るのが一般的です。
【注意】承諾不要なのは初回契約期間のみ
普通借地契約で増改築を制限する特約がない場合でも、地主の承諾なく建て替えができるのは借地契約の最初の存続期間のみです。
借地契約を一度でも更新した後の期間では、たとえ特約の記載がなかったとしても、建物を建て替えるときには、地主の承諾が必要なので注意しましょう。
承諾なく建て替えをおこなった場合、借地権の契約を解除される恐れもあります。
定期借地:建て替えには承諾が必須・満了時は返還が必要
定期借地契約では、増改築禁止特約の有無にかかわらず、建物の建て替えには必ず地主の承諾が必要となります。定期借地が契約期間の満了により確実に土地を返還することを前提とした制度であるため、建て替えによって借地の利用価値が増大すると、返還時の調整が困難になることが理由です。
また、地主からの承諾を得て建て替えをおこなう際、借地権の存続期間が延長されるのは普通借地権の場合です。
定期借地権の場合、地主の承諾を得て建て替えしたとしても、存続期間は延長されないため注意してください。
さらに、定期借地契約では、契約期間満了時に、地主との合意による再契約がない場合には、建物の耐用年数がまだ十分に残っていたとしても、取り壊して借地を返還する必要があります。よって、建て替えの可否や承諾の取得に関する判断は、契約満了後の返還義務を踏まえて慎重に行わなければなりません。
定期借地権ですので、建物買取請求権も行使できません。
地主の承諾が合っても既存不適格建築物と接道義務違反物件は建て替え不可
地主から建て替えの承諾を得られたとしても、対象の物件・土地が「既存不適格建築物」「接道義務を満たしていない物件」だった場合は建て替えできません。
これらの建物は、そのままの条件で建て替えしようとすると、建て替え時に必要な建築確認申請で許可を得られないためです。
次の項目から、それぞれ解説します。
既存不適格建築物:現在の法律を遵守できていない不動産
既存不適格建築物は、建築当時は法令の基準を満たしていたとしても、法改正などによって、新しい基準を満たさなくなったものをいいます。
例えば、建ぺい率・容積率をオーバーしている物件や高さ制限を満たしていない物件です。
もしも、既存不適格建築物であれば、現在の法令の基準に適合させた形で建て替える必要があります。
そのため、既存不適格建築物の建て替えの際には「同じ規模では建てられない」「階数や面積を減らさざるを得ない」といった制約が生じるケースが多く、慎重な確認が必要になります。
地主の承諾があっても、法令適合という要件は絶対であり、建築確認が下りない限り建て替え自体ができません。
既存不適格物件に関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
接道義務違反物件:建築基準法で定められた規定を満たしていない不動産
接道義務とは、建築基準法で定められた「原則、幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならない」という規定です。敷地が接道要件を満たしていない場合、その土地は再建築が認められず、たとえ地主の承諾があっても建て替えは不可となります。
そのため、接道義務を満たしていない物件を建て替えるときには、接道義務を満たす必要があります。
接道義務を満たすようにする一般的な対策は、以下の3つです。
- セットバックする
- 隣地を買い取る
- 隣地を一時的に使用する承諾を得る
ただし、借地なので、直接土地に変更を加えるセットバックや隣地の買取は地主と相談して進める必要があります。
地主に確認せず、借地権者のみで勝手に交渉など進めるとトラブルになるので気をつけてください。
「隣地を一時的に使用する承諾を得る」という方法であれば、土地に変更を加えるわけではないので、その交渉に対して地主への相談は不要です。
建て替え工事の間、隣地の必要な部分を使用させてもらう賃貸借契約書を作成することで、接道条件を満たすようにします。
このとき、当事者間での交渉では話がまとまりにくいので、不動産会社に間に入ってもらうことをおすすめします。隣地所有者にとっては、敷地を一時的に使用させること自体に大きなメリットがなく、工事内容の説明も専門的になるため、個人同士では条件調整が難航しやすい傾向があります。
地主から承諾が得られたら建て替え承諾料を支払う
地主から建て替えの承諾を得られたときには、承諾料を支払います。
承諾料の金額は、法律で定められているわけではありません。地主との話し合いで決まります。
ですが、一般的には、更地価格の3~5%が相場です。
借地条件の変更を伴う建て替えの場合、借地条件変更承諾料は更地価格の10%前後になることが多く、実務でもこの水準での提示が一般的です。
もしも、相場を大幅に超える承諾料を要求されたり、請求された金額に納得できない場合には地主との交渉になります。
このとき、当事者同士の話し合いでは金額の妥当性判断が難しく、折り合いがつかないことが多いため、不動産会社に承諾料の算定や交渉を依頼する方がスムーズに進みます。
借地権は住宅ローン審査が厳しい
借地権の建て替えでは、地主の承諾を得たあとにも課題はあります。
一般的に建て替え資金として住宅ローンを利用しますが、借地権は通常の持ち家と比べて審査が厳しくなる傾向があります。
その理由は大きく3つあります。
- 地主による抵当権設定の承諾が必要だから
- 借地上の建物の担保価値が低いから
- 借地契約を解除されるリスクがあるから
次の項目から、それぞれの理由を順番に確認していきましょう。
1.地主による抵当権設定の承諾が必要だから
住宅ローンを借りるためには、地主からの、その建物への抵当権設定の承諾が必要になります。
法律的には、地主からの承諾なく、借地上の建物に抵当権を設定することは問題ありません。
建物は借地人の所有物なので、地主の承諾がなくても、借地上の建物に抵当権を設定すると、借地権にまで効力は及びます。
しかし、ほとんどの金融機関で住宅ローン審査をするときには、抵当権設定を承諾したことを示す書類の提出が求められます。
このとき、地主が抵当権設定に承諾する義務はありません。
地主から建て替えの承諾を得られても、住宅ローン審査の段階で、抵当権設定について地主の承諾が得られず、結果として審査が通らないケースが多いのです。
2.借地上の建物の担保価値が低いから
住宅ローンは、融資を行う際に、土地と建物のセットを担保として確保するのが一般的です。土地は価値が下がりにくいため、金融機関にとって重要な担保となります。
一方で、借地者は土地を所有していないため、担保にできるのは建物と借地権のみです。土地を担保に入れられない分、金融機関から見た担保価値は大きく低下します。
さらに、借地権は住宅ローン審査において土地の代わりに担保評価の対象となりますが、所有権の土地に比べて価値が低く評価される性質があります。これは、借地権には地主との契約条件や更新リスクが伴い、自由な利用が制限されるためです。
住宅ローンの担保価値を算定する際には、更地価格から一定割合を差し引いた金額が借地権の価値とみなされるため、結果として担保価値が小さくなります。
ただし、借地上の建物に設定した抵当権は、担保価値は建物価格と借地権価格の合計となり、借地権価格は更地価格に比べて大きく下がります。
住宅ローン審査では市場価格を基準に担保価値が判断されるため、一般に更地価格の60~70%程度とされる相続税評価額よりも、借地権はさらに低く評価されるケースも少なくありません。実務上、借地権は住宅ローンの審査が通りにくいケースが多く見られます。
3.借地契約を解除されるリスクがあるから
借地権者が地代の支払いを遅延したときには、借地契約を解除される恐れがあります。
もし借地契約が解除されると、建物は「権利がない土地に建っている」状態になります。
銀行が抵当権を実行してこのような建物を競売にかけても、借地権がなければ土地の明け渡しを地主から求められた際に従うしかなく、誰も競り落とそうとしません。そうなれば、銀行も融資した住宅ローンを回収できないリスクが出てきます。
対策として、借地契約解除を避けるために地主から抵当権設定の承諾を提出してもらいますが、それでも絶対に借地契約解除されない保証はありません。
担保としての安全性が著しく低下するため、住宅ローン審査は必然的に厳しくなります。
借地上の建物を建て替えても地代は変動しない
建て替えを理由に、借地権の地代が変動することはありません。地代が変更されるのは、法律や契約実務上、主に次の3つの事情が生じた場合です。。
- 土地の固定資産税・都市計画税の増減があったとき
- 地価の上昇もしくは低下など経済事情に変動があったとき
- 近隣の似た土地の地代と比較して、地代が不相当となったとき
したがって、建て替えそのものは地代改定の理由には当たらず、通常は地代が変動することはありません。
ただし、建て替えのタイミングで地代変更の事情が発生している場合、地代が見直されることがあります。
その際には、地主が提示する地代変更の根拠が妥当かどうかを必ず確認することが重要です。
もしも、地代の改定について地主と意見が食い違ったり、交渉がまとまらない場合には、、不動産会社や弁護士などの専門家に早めに相談するようにしましょう。
地主から建て替えを拒否された場合の対応法
最後に、地主から建て替えを拒否された場合の対応法を私の経験に基づいてお伝えします。
借地権者は裁判所に対し、借地上の建物の建て替えについて、地主の承諾に代わる許可「代諾許可」を求めることができます。
裁判所は代諾許可を認めるか、以下のような事情を考慮して判断します。
- 借地契約の趣旨に違反していないか
- 土地の通常の利用上問題ないか
- 借地権の残存期間がどれくらい残っているか
裁判所が代諾許可を与えるときには、借地権者に対して地主へ「財産上の給付」と呼ばれる、承諾料に相当する金額の支払いを命じます。
財産上の給付の一般的な金額は、承諾料の相場とほぼ同等の更地価格の3~5%です。
裁判所に代諾許可を求めるには、さまざまな法知識が必要になるため、まずは不動産問題に詳しい弁護士へ相談してみましょう。
まとめ
借地上の建物を建て替えるには、原則的に地主の承諾が必要です。承諾料も払わなければいけません。建物を地主に無断で建て替えると、借地契約を解除される恐れがあります。
建て替え承諾料の相場は、更地価格の3~5%が一般的です。借地条件の変更を伴う場合には、更地価格の10%前後を求められるケースもあります。
さらに、既存不適格建築物や接道義務違反物件は、地主の承諾があっても建て替え自体が認められない可能性があるため、事前に法令の適合確認が不可欠です。
また、借地権は担保評価や契約解除リスクの面から住宅ローン審査が厳しくなりやすく、地主の承諾があっても資金がつかないケースも少なくありません。
建て替えを進めるにはまず地主の承諾が必要であり、承諾が得られない場合には、本文で説明したように裁判所へ申し立てて承諾に代わる許可(代諾許可)を得る方法もあります。
わからないところがあれば、専門の不動産会社に相談するようにしてください。