旧法では建物の朽廃時に借地権が消滅する
借地権の存続期間内であっても、建物が朽廃しているとみなされた場合は、借地権が消滅するおそれがあります。
旧法(借地法)では「存続期間の定めがない契約においては、建物の朽廃によって借地契約が終了する」 と定められています。そのため、平成4年7月31日以前に借地契約を結んだ場合、建物の朽廃を理由に借地権が消滅する可能性があるのです。
なお、契約時に存続期間が定められている場合は、旧法借地権かつ朽廃した建物であっても借地権は消滅せず、定められた契約期間が満了するまで借地権が維持されます。
新法(借地借家法)では、借地権の消滅を定めていません。特約で「建物の朽廃によって借地契約は終了する」と規定していたとしても、借地権が消滅することはありません。
注意したいのは、法律の改正によって新法が施行された現在でも、旧法で結んだ借地契約においては旧法借地権が適用される点です。自動的に旧法から新法に適用が変わるといったことはないので注意しましょう。
朽廃とは「人が住めないほど傷んだ状態」
朽廃とは、経年劣化や風雨などで自然的な腐蝕状態となり、社会的・経済的効用を失った状態のことです。
わかりやすくいうと、ボロボロで人が住めないほど傷んだ状態の建物です。
具体的には下記のような状態の建物が朽廃とされます。
- 建物全体の柱や土台が錆びたり腐ったりしている
- 壁なども剥がれ落ちている
- 建物が腐敗して倒壊するおそれがある
- 通常の修繕では追いつかず、機能回復に新築同様の費用がかかる
建物の一部の柱や屋根が腐蝕していたり、少し雨漏りしていたりする程度では、住むのに不便があったとしても「朽廃」とはみなされません。
また、建物全体が老朽化し、法定耐用年数も超えていて、市場価値が失われていても、日常生活に支障がなければ「朽廃」ではありません。
「新築後、修繕などのリフォームを一度もすることなく築60年を超えた木造建築」といった建物でなければ「朽廃」と認定されることはないでしょう。
建物の滅失では借地権は消滅しない
「滅失」とは、地震や風水害などの天災、改築のための取り壊しや火災のような人為的な要因で建物が借地上から物理的になくなることを指します。
借地権は建物を建てるために取得する権利ですが、建物の滅失では借地権は消滅することはないので安心してください。ただし、滅失した日より1ヵ月以内に滅失登記を行う必要があり、登記を怠れば10万円以下の過料に処されるおそれがあります。
さらに、建物の滅失があっても、その滅失があった日や建物を新しく建築することを借地の上の見やすい場所に掲示することで、借地権の対抗力も維持されます。
ただし、第三者への対抗力を維持するには、建物の滅失から2年を超える前に新しく建物を建築して、その建物を登記する必要があります。
2年を超えても建物が滅失したままの状態だと、借地権を第三者に主張できなくなるので注意しましょう。
最初の存続期間内なら滅失後の再築に地主の承諾は不要
地震や台風、火事など災害によって建物が一部損壊したり、滅失したりしたときには、当然、急いで修繕しようとすると思います。
借地権において最初の存続期間内であれば、建物の増築・改築を自由におこなえます。
なぜなら、災害で損壊・滅失した建物を修繕・再築することは借地権者にとって生活の上で重要なことなので、建物の再築を理由に、借地契約の解除は認められないからです。
借地契約の違反で借地契約解除となるのは、重大な義務違反に該当して、信頼関係を著しく裏切ったと認められるようなケースのみです。
建物の再築が増改築禁止特約に違反すると解釈されたとしても、滅失後の再築は借地権者に差し迫った事情があると判断されます。
そのため、建物の再築が信頼関係の裏切りにはつながるとはみなされず、借地契約が解除されることもありません。
ただし、承諾なく再築できるのは、借地契約の最初の契約期間内であることに注意してください。
借地契約の違反などで契約解除が起きるケースについては、下記の記事で詳しく解説しています。
借地契約更新後の再築には地主の承諾が必要
借地契約を更新した後、自然災害を原因とした滅失も含めて、借地上の建物を再築するには地主の承諾が必要です。
もし地主の承諾が得られなかった場合には、以下の対処法をとりましょう。
- 裁判所に再築について地主の承諾にかわる代諾許可を申し立てる
- 借地契約を終了して新たな居住地を探す
代諾許可が得られた場合には、承諾料に相当する金額を地主に支払います。一般的な相場は更地価格の3~5%程度です。違反
借地権にある建物の建て替えや更新料については下記の記事も参考にしてみてください。
再築の承諾を地主から得られると借地権の存続期間も延長される
建物の再築について、地主の承諾を得られた場合、借地権の存続期間も延長されます。延長される期間は、建物が滅失した日または再築の日から20年間です。
例えば、2019年1月1日に建物が滅失し、地主の承諾を得て再築し、完成した日が2019年4月1日だった場合、滅失した日を基準に20年間、借地権の存続期間が延長されるということです。
このように借地権の存続期間が延長される理由は、存続期間満了間近で建物が滅失したとき、地主の承諾を得て再築したのにもかかわらず、すぐに期間満了となって、地主の正当事由で借地契約終了となると、承諾を得た意味がないからです。
また、災害によって建物が滅失し、借地権者が地主に対して再築する旨の通知したときに、地主が通知を受けてから2カ月以内に異議を述べなかった場合、その再築について承諾があったものとみなされます。
定期借地権では地主の承諾を得ても存続期間の延長はない
地主の承諾を得た際、借地権の存続期間が延長されるのは、旧法借地権・普通借地権のみです。
定期借地権の場合は、再築の承諾を得られたとしても契約期間満了時には、建物を取り壊して土地を明け渡さなければならず、建物買取請求権もありません。
定期借地権の存続期間が少ない状態で災害などによって建物が滅失した場合、再築するか、借地契約を解除するか、よく考えるようにしてください。
もし、どのように対応するのが良いか迷ったときには、遠慮なく専門の不動産業者へ相談することをおすすめします。
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地代の賃料請求権における消滅時効は5年
地代の賃料請求権とは、地主が地代の支払いを借地人に請求する権利のことです。
この権利にも消滅時効があり、5年の期間を過ぎると、あとから請求しても借地人には支払義務がありません。
例えば、地主が相続で底地権を取得した場合です。
相続手続きに追われ、相続人から借地人への連絡が遅くなり、ある1カ月分の地代の支払いを受け忘れることもあるかもしれません。
また同様に、例えば母親名義の借地権を息子が相続した場合でも考えられます。
当月の地代の支払い時期直前に相続が発生し、遺産分割協議書の作成などに時間がかかり、その1カ月分を支払い忘れてしまうかもしれません。
そして、2010年4月支払い分の地代を忘れて、そのまま2015年5月になると、賃料請求権の消滅時効が成立します。
消滅時効が成立した地代について地主から請求があっても、支払う必要はないです。
ただし、この消滅時効は「支払う必要がない」というだけで「支払ってはならない」ということではありません。
そのため、消滅時効になっていた事実に気づかず、地主の請求に従って支払ってしまうと返金してもらえません。
だいぶ前の地代未払い分が請求されてきた場合、消滅時効が成立していないか確認するようにしましょう。
消滅時効は地主からの請求があればリセットされる
誤解されることも多いのですが、地代の消滅時効は、他の犯罪のように一定期間逃げ続ければ成立するわけではありません。
地主が地代を受け取り忘れていることに気づき、その分の請求をしてきたタイミングで消滅時効はリセットされます。
例えば、2010年4月支払い分を忘れていて、2015年4月に請求があったとします。
このとき、「5月になれば5年経つから、それまで支払いを拒否すれば時効になって支払う必要がなくなる」ということにはなりません。
請求された時点で消滅時効の期間は中断してしまい、支払いを拒否し続ければ、借地権の契約解除事由となってしまいます。
また、地主が地代の受け取りを5年以上忘れて請求しないことも稀なので、消滅時効が成立することはほとんどないと思ってください。
そして、消滅時効が成立しているからといって、地主の請求を頭ごなしに拒否した場合、今後の関係性に悪影響があります。
建替承諾や譲渡承諾、売却時に重要な抵当権設定の承諾をもらえなくなる可能性もあるので、将来のことも考えると、時効成立分も支払っておいた方がよいでしょう。
借地権を返還した場合の課税関係
最後に、土地の賃貸借契約が終了して、借地権を返還した場合の課税関係について解説します。
借地権を返還した場合の課税関係は、以下の要素に応じて異なります。
- 有償返還か無償返還か?
- 地主か借地人か?
- 個人か法人か?
有償返還
有償返還では、借地人が土地の所有者である地主から立退き料を受け取ります。
このときの課税関係は次のとおりです。
- 借地人・個人
- 借地人・法人
- 地主・個人
- 地主・法人
1.借地人・個人
受け取った立退き料は、譲渡所得の収入金額となります。
課税方法は分離課税で、事業所得や給与所得などの他の所得の金額とは区別して納める税額を計算します。
2.借地人・法人
立退き料を法人が受け取った場合は、益金(借地権の譲渡益)です。
益金とは税務上における、収益・利益と考えて問題ありません。
このとき、借地権の帳簿価額は損金算入されます。
3.地主・個人
地主が支払った立退き料は、土地の取得費です。
本来、自分の土地で貸していただけなのに「取得費」という点に疑問を感じるかもしれませんが、借地は地主が自由に利用できる状態ではありません。
しかし、土地を取り戻すために支払うお金が立退き料のため、取得費になるわけです。
ただし、地主に税金がかかることはありません。
4.地主・法人
個人のときと同様に、土地の取得費に加算されます。
ただし、支払った立退き料が借地権設定時の損金算入額よりも小さい場合には、その損金算入額を土地の帳簿価額に加算するという点に注意しましょう。
必ずしも立退き料を加算するわけではありません。
そして法人では、立退き料または損金算入額を加算したあとの評価額に基づいて決算をおこなっていきます。
無償返還
無償返還は、立退き料なしで借地が地主に明け渡されることです。
このときの課税関係は次のとおりです。
- 借地人・個人
- 借地人・法人
- 地主・個人
- 地主・法人
1.借地人・個人
無償返還したときには、課税されるものはありません。
2.借地人・法人
個人の場合とは異なり、法人の借地人には借地権の認定課税が適用されます。
「借地権相当価格を地主に寄付した」と認定されるため、課税額も借地権相当額を基準に算出されます。
ただし、以下の場合には課税されません。
- 無償返還することが契約で定められていて税務署に届け出ていた場合
- 建物が朽廃したことにより、借地権が消滅した場合
- 物品置き場や駐車場など更地のまま使用していた場合
そのため、法人として借地権を取得して、契約終了時に無償返還することが決まっていれば、忘れずに届け出るようにしましょう。
3.地主・個人
本来支払う必要があった立退き料を支払わずに返還されたので、地主はその分の利益を得たということなので、地主には課税されます。
この場合、借地権相当の価値を無償で取得したとみなされて、借地人が個人であれば贈与税の課税対象となり、借地人が法人であれば一時所得として、その他の給与と合わせて総合課税となります。
4.地主・法人
借地権設定時に、土地の帳簿価額を減額している場合には、その減額した金額を加算します。
有償の場合は、立退き料と比べる必要がありました。しかし、無償返還であれば立退き料がないため、損金算入額を加算します。
ここまで解説してきたように、借地権を返還した場合の課税関係は複雑です。
税金関係は慎重に処理するに越したことはないため、少しでも課税関係に不明点があれば、専門家である不動産業者に相談するようにしましょう。
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まとめ
借地権が消滅するのは、期限のない旧法借地権かつ、建物の朽廃している場合のみです。
滅失では借地権は消滅しないので、最初の存続期間であれば地主の承諾なく建物の再築が可能です。
新法借地権であれば、借地権の消滅が契約書の特約で定められている場合も無効となるので問題ありません。
ただし、こうした仕組みを把握していない地主もいるため、本来あるべき借地権の消滅を要求されてしまうことも珍しくありません。
借地権の権利・税金は専門性が高いので、疑問や不安なことがあれば、不動産業者や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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