借地権契約の中途解約は原則できない
借地権の中途解約は、借主・貸主どちらにも重大な影響を与えかねないため原則できません。
例えば、貸主の場合は中途解約によって本来契約期間中に受け取れるはずだった収入(受取地代)が受け取れず、不利益を被ります。
借主の場合は、中途解約によって生活が脅かされる可能性があります。住居用の土地であれば住む場所を失いますし、事業用であれば仕事を継続できなくなるでしょう。
中途解約が原則できないのは、貸主・借主どちらの権利も保護するためなのです。
意外と見落とされがちですが、借地権の中途解約で特に問題になりやすいのは「解約権留保特約の有無を確認していなかった」というケースです。契約から数十年が経過し、契約書の原本を紛失している方や、そもそも契約書の内容を把握していない方も少なくありません。弊社へのご相談でも、まず「お手元に契約書はありますか?」という確認から始まることが多いです。
下記は、「借地法」(旧法)と「借地借家法」(新法)における、土地を賃借する場合の契約期間です。
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借地法(旧法)
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借地借家法(新法)
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契約期間を定めない場合
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堅固建物(鉄骨造など):60年
非堅固建物(木造など):30年
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30年
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契約期間を定める場合
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堅固建物:30年
非堅固建物:20年
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最低30年
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契約更新後の存続期間
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堅固建物:30年
非堅固建物:20年
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1回目の更新:最低20年
2回目以降の更新:最低10年
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たとえば、借地借家法が適用されている場合で1回目の更新をして3年経過している場合、最低17年は中途解約できません。
借地権の基礎知識や、「借地法」(旧法)と「借地借家法」(新法)の違いについては、下記の記事を参考にしてみてください。
借地権契約を中途解約できるケース
貸主・借主双方の権利を守るため、借地権の中途解約は原則できません。しかし、下記のように中途解約ができるケースもあります。
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中途解約できるケース
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・貸主・借主が中途解約に合意している
・契約書に中途解約の条項の記載がある(借主側からのみ中途解約の申し出可能)
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例外的に中途解約できるケース
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・災害や老朽化が原因で建物の使用ができなくなった
・地代滞納など借主の債務不履行があった
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貸主・借主が中途解約に合意しているのであれば、契約期間中であっても解約が成立します。
また、契約書に中途解約の条項の記載がある場合は、借主側からのみ中途解約の申し出が可能です。
その他にも例外的に借地権の中途解約が認められるケースも存在します。例えば、災害や老朽化が原因で建物の使用ができなくなった場合は、借主側からの中途解約が認められる場合があります。借主が貸主との信頼関係を壊すような契約違反を行った際も、貸主側からの中途解約が認められる可能性があります。
借地権を中途解約できるケースについて詳しくみていきましょう。
貸主・借主の合意があれば解約できる
貸主・借主の双方が中途解約に合意している場合は、契約期間中であっても解約が可能です。貸主・借主のどちらかが解約を要請し、もう一方がそれに合意すれば解約が成立します。
弊社に寄せられる借地権関連のご相談のうち、中途解約に関するものは全体の3割程度を占めます。そのうち、地主との合意解約を希望されるケースがもっとも多いのですが、実際にスムーズに合意に至るのは体感で半数以下という印象です。
合意した場合、後々のトラブルを避けるためにも、合意内容は必ず書面で残しておくことが強く推奨されます。
しかし、必ずしも合意に至るとは限らず、交渉には時間と労力がかかる可能性がある点に注意しましょう。
当たり前ですが、解約の要請が拒否された場合、一方的に解約といったことはできません。
契約書に中途解約の条項(解約権留保特約)があれば「借主から」解約できる
借地契約期間中の中途解約は原則できませんが、契約書に「解約権留保特約」の記載があれば、中途解約ができます。
ただし、解約権留保特約は借主側にだけ与えられた権利のため、借主側からは中途解約を申し入れできますが、貸主側からは申し入れできません。
これは、借地借家法が借地人の立場を保護する特性が強いためです。
事業用の定期借地権の場合は、契約の際に公正証書を取り交わします。この場合、公正証書の中には、解約権留保特約を盛り込むことが一般的のため、問題ないでしょう。
実際に「契約書に解約権留保特約が入っているか確認してほしい」とご相談いただくことがありますが、確認してみると特約が入っていないケースも珍しくありません。特に古い契約書では中途解約に関する条項自体がないことも多く、その場合は地主との合意解約を目指すことになります。
それ以外の場合は、契約書の中に、その旨を記載する必要があります。通常、契約書の中に、中途解約の条項を設け、以下のことを記載します。
- 賃貸借の有効期間内であっても、本件賃貸借の解約を申し入れることができること
- 解約申し入れから、何ヵ月で中途解約できるか
- 違約金としていくら支払う必要があるか
中途解約の予定がない場合でも、念のため契約書には中途解約の条項を記載しておいた方が良いでしょう。
例外的に中途解約が認められるケースもある
貸主・借主の合意解約、解約権留保特約による中途解約以外にも、下記のように例外的に中途解約が認められる場合があります。
- 災害や老朽化が原因で建物の使用ができなくなった
- 地代滞納など借主の債務不履行があった
例えば、災害や老朽化で物理的に建物が使えない場合は、借主からの中途解約が認められる可能性があります。
また、地代の滞納が続くなど、借主が信頼関係を壊すような契約違反をした場合は、貸主からの中途解約の申し入れが認められる場合があります。
建物が使えない場合は「借主から」解約できる可能性がある
借地借家法第8条では、契約の更新後に建物が滅失した場合、借主側から解約の申入れができると定められています。
地震や火災などで建物が倒壊したり、老朽化で居住の安全性が確保できなくなったりした状態が該当し、これを法律用語で「滅失」と呼びます。
契約期間の途中で建物が使えなくなったのに、契約期間の終了まで地代を支払い続けるのは、借主にとっては大きな負担となります。そのため、借主の保護を目的に、災害や老朽化などが原因で建物を取り壊す場合は中途解約できるとされています。
現場の肌感覚では、建物の老朽化を理由とした解約相談は近年増加傾向にあります。昭和期に建てられた借地上の建物が築50年を超え、耐震性や維持費の面から「このまま住み続けるのは難しい」と判断される方が増えている印象です。
更新後に建物が滅失した場合、借主は一方的に解約を申し入れることができ、申し入れから3ヶ月経過すると借地権も消滅します(借地借家法第8条第3項)。
なお、この規定が適用されるのは借地借家法(新法)が適用されている場合であり、初回の契約期間中の建物滅失には適用されません。
なお、借地借家法第8条の「滅失」には借主自身による取り壊しも含まれると解されていますが、もっぱら中途解約を目的とした取り壊しは権利濫用として認められない可能性があります。
借地法(旧法)では、建物の朽廃時に借地権が消滅すると定められています。詳しくは、下記の記事を参考にしてみてください。
借主が契約違反をした場合は「貸主から」解約できる可能性がある
借主が契約違反をした場合は、貸主側からの中途解約が例外的に認められる可能性があります。
具体的には、下記のような内容が契約違反に該当します。
- 契約書に「無断増改築禁止特約」があるにもかかわらず、貸主に無断で増改築する
- 3~6ヵ月と長期にわたって地代を滞納する
- 貸主に無断で借地権の譲渡や転貸をする
- 居住用で契約した土地を別の用途で使う
- 更新後、貸主の承諾を得ずに契約の残存期間を超えて存在する建物を再築する
この場合、貸主側から中途解約を申し出て、解約できる可能性が高いといえます。
弊社が提携する弁護士によると、地代滞納を理由とした契約解除では「信頼関係の破壊」が認められるかどうかが実務上の大きなポイントとのことです。1〜2ヶ月程度の滞納では信頼関係の破壊とまでは認められないケースが多く、一般的には3ヶ月以上の滞納が一つの目安になるとのことです。
契約違反があれば、まずは借主に対して是正を求める催告を行います。借主が催告に応じない場合は、内容証明郵便で通知を行った上で契約の解除と明渡請求が可能です。
ただし、この一連の手続きは貸主側で一方的に進めることが難しく、調停や訴訟により請求するケースが一般的です。
無断での建物の再築に関しては、地主は地上権の消滅請求、賃貸借契約の解約の申し入れができ、借地権を消滅させることができます。
なお、契約更新後に借主が貸主の承諾を得ずに建物を建て替えた場合で、その建物が残りの契約期間を超えて使えるものであるときは、地主は借地権の消滅を請求できます。この場合、申入れから3ヶ月の経過により借地権が消滅します。
借地権契約を解約するメリット
借地権契約解約のメリットには、次のようなものがあります。
それぞれのメリットを1つずつ解説していきます。
良い土地への引っ越しが可能
借地権は、一度契約すると数十年単位で縛られることが一般的です。契約を解消することで、その時々の状況に合わせた最適な土地へ拠点を移すことが可能になります。
事業をしている場合、店舗や工場、オフィスにおいて、立地は収益に直結する重要な要素です。市場環境の変化に合わせ、より集客力の高いエリアや物流効率の良い場所へ移転することで、機会損失を防ぎ、収益の最大化を図れるでしょう。
また、借地を自宅として使用している場合、子育て、親との同居、あるいは自身の老後など、ライフステージの変化によって最適な住環境は変わります。契約期間の縛りがなくなることで、駅近への住み替えやバリアフリー環境への移動などをしやすくなるのはメリットです。
さらに、契約を解消すれば、将来にわたって支払い続ける地代や、数十年ごとに発生する更新料、建替え承諾料などの負担から解放されるという経済的なメリットもあります。
参考までに、更新料は借地権価格の5〜10%程度、建替え承諾料は借地権価格の3〜5%程度が実務上の相場とされています。仮に借地権価格が2,000万円の場合、更新料だけで100〜200万円、建替え承諾料で60〜100万円程度の負担になる計算です。これらのコストを長期で見ると、中途解約の経済的メリットが見えてくるケースもあります。
融資が受けやすくなる
借地権を解消した後に、完全な所有権として土地を取得する、あるいは所有権の物件に買い替えた場合は、不動産の担保価値を高められる点はメリットです。
「借地権があれば、それを担保に融資を受けられるのでは?」と考える方もいらっしゃいますが、実際には借地権付き建物への融資に消極的な金融機関は少なくありません。地主の承諾が必要になるなど手続きが煩雑で、万が一のときに処分しにくいことが大きな理由です。
借地上の建物では、土地を担保にできないため評価額が低く融資額が減ったり、差し押さえ時の手続きの手間を懸念され、そもそも融資を受けられなかったりする可能性があります。
一方、土地と建物の両方を自分で所有していれば土地を担保にできます。そのため、融資を受ける金額が高くなったり、融資自体が受けやすくなったりします。
融資のことを考えると、借地権契約を解除し、土地や建物を購入・建築した方が良いでしょう。
借地権契約を解約するデメリット
借地権契約を解約すると、次のようなデメリットがあります。
それぞれのデメリットを1つずつ解説します。
相続できない
借地権は、土地を借りるだけでなく、売却や譲渡が可能です。
契約期間中であれば相続人が引き継ぐことができますが、一度解約して土地を返還してしまえば、その権利は消滅します。
本来なら相続して自分たちが住むことも、第三者に売却して現金化することもできたはずの財産を手放すことになります。
意外と知られていませんが、借地権の相続には地主の承諾は不要です。つまり、中途解約せずに相続させれば、承諾料なしで次世代に権利を引き継ぐことができます。この点を考慮せずに中途解約を進めてしまい、後から「相続させておけばよかった」と後悔されるケースもあります。
たとえば、借地権割合が60%で、更地価格が3,000万円のエリアであれば、借地権の評価額は1,800万円程度です。中途解約するとこの資産価値がゼロになります。一方、相続させた場合は、相続人がそのまま居住を続けることも、第三者に売却して現金化することも選択できます。
借主が存命中に解約手続きを完了させてしまうと、遺された家族は住まいを失うだけでなく、借地権も引き継げません。そのため、借地権契約の解約には、家族の将来の住居や資金計画も考慮した判断が求められます。
地代の保証がない
現在の借地契約は、当時の物価で算定された地代が相場より安く据え置かれているケースが多々あります。
実務に携わる立場から言うと、旧法借地権のご相談者のうち7割近くは、現在の近隣相場と比較してかなり安い地代で借りているケースです。中途解約してしまうと、この「割安な地代」という経済的メリットも失われるため、解約前に現在の地代と近隣相場を比較しておくことをおすすめします。
解約して新しく土地を借りたり、賃貸マンションに移ったりする場合、以前よりも高い地代を支払うことになるリスクがあるため、長期的な費用対効果のことも考える必要があります。
たとえば、旧法借地で月額3万円の地代を支払っていた場合でも、同じエリアで新たに借地契約を結ぶと月額8〜10万円程度になるケースもあります。また、賃貸住宅に移る場合は、毎月の家賃に加えて敷金・礼金・引っ越し費用なども発生します。解約前に「現在の地代」「解約にかかる費用(解約承諾料・建物解体費用など)」「解約後の住居費」を一覧にして比較してみることをおすすめします。
解約後に土地を完全所有せず、同様に借地権を契約する可能性がある場合には、慎重に検討しましょう。
借主側から借地権契約を中途解約する手順
借主側からの申し出で、借地契約を中途解約する手順は以下の通りです。
- 地主に中途解約することを伝える
- 解約合意書を作成する
- 中途解約条項がない場合は解約承諾料を支払う
それぞれの手順を1つずつ解説していきます。
1.地主に中途解約することを伝える
借地権を中途解約するには、まず地主にその旨を伝える必要があります。
通常、中途解約条項には、解約の申し出をしてから何ヵ月で解約となるか記載されています。いつまでに解約したいという期日があるのであれば、その期日に間に合うように解約の申し出をしましょう。
中途解約条項がない場合は地主に中途解約の申し出をし、合意がもらえれば中途解約が可能です。
解約の申し出は、後でトラブルにならないように、口頭ではなく「中途解約の申出書」などの文書で通知した方が良いでしょう。
「地主にどう切り出せばいいかわからない」というお問い合わせは少なくありません。弊社の経験では、まず書面で正式に申し出る前に、電話や対面で意向を伝えておくと、その後の交渉がスムーズに進みやすい傾向があります。いきなり書面を送ると地主が身構えてしまうケースもあるためです。
なお、契約書に解約承諾料の支払いが明記されている場合は、解約承諾料の支払いが発生します。申し出の前に、契約書の確認もしておきましょう。
2.解約合意書を作成する
中途解約の申し出をした後は地主と話し合いを行い、いつまでに土地を返還するのかなどを決定します。
解約に合意した場合は、後でトラブルにならないように解約合意書を作成します。解約合意書の作成は義務ではありませんが、合意内容は書面で残しておいた方が良いでしょう。
合意書には下記のような項目を含めるのが一般的です。
| 項目 |
内容 |
| 土地の情報 |
中途解約する土地の所在地や地番、地目、面積などを記載します。 |
| 契約への合意 |
借地契約の解約に合意するといった内容を記載します、賃貸借契約を結んだ年月日なども含めます。 |
| 土地返却の日程 |
解約成立後、土地をいつまでに返却するのかの年月日を記載します。 |
| 解約承諾料 |
中途解約において承諾料が発生する場合は、その金額を記載します。 |
| 敷金残金 |
敷金残金がある場合は、解約承諾料から差し引くのか、返還するのかなどの残金の扱いを記載します。 |
| 損害金 |
土地の返却期日に間に合わなかった場合の損害金について記載します。 |
| 債権や債務 |
建物に抵当権などの債権や債務がない旨を記載します。 |
| 署名・捺印 |
賃貸人(地主)と、賃借人(借地人)の署名、捺印により、契約に合意したことを示します。 |
筆者の体感ですが、合意書の内容で後からトラブルになりやすいのは「建物の取り扱い」と「原状回復の範囲」に関する条項です。「更地にして返す」のか「建物を残したまま返す」のか、その費用負担をどうするかについて、あいまいなまま合意書を作成してしまうと、返還時にもめるケースがあります。
3.中途解約条項がない場合は解約承諾料を支払う
先述した通り、土地賃貸借契約書に中途解約条項がなくても、賃借人と賃貸人の間で合意ができれば、中途解約をすることは可能です。
ただし、解約承諾料(違約金)の支払いが発生するケースもありますし、中途解約条項がない場合の解約承諾料は高額になることが多いです。
なお、借家権(建物の賃貸借)についての裁判例ではありますが、1年分の賃料相当額を解約承諾料としたケースがあります。借地権の場合は契約期間が長く権利の経済的価値も大きいため、借家権とは異なる水準になる可能性がある点に留意が必要です。
借地権の解約承諾料に法的な定めはなく、金額は当事者間の交渉次第です。実務上は更地価格の5〜10%程度で落ち着くことが多いですが、地主との関係性や残りの契約期間によって大きく変動します。交渉が難航する場合は、弊社と連携している弁護士を通じて条件を整理するケースもあります。
中途解約条項がない場合は、解約承諾料の金額に気を付けましょう。
貸主側から借地契約を中途解約する手順
「借主が契約違反をした場合は「貸主から」解約できる可能性がある」で説明したように、借主が契約違反をした場合は、貸主側から借地契約を中途解約できます。
原則「催告解除」によって契約を解除しますが、借地契約に無催告解除を認める特約が含まれていたり、民法に抵触する内容であったりする場合は「無催告解除」にて契約を解除可能です。それぞれの手順について解説します。
催告解除の手続きの手順
民法541条では下記のように定められています。
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
出典:e-GOV(民法541条)
例えば、地代や賃料の滞納などで支払いを求めたにもかかわらず、期間内に支払いが行われなかった場合は契約の解除が可能となります。
催告解除の手続きの手順は下記の通りです。
- 借主に債務不履行状態を解消するように催告する
- 借主に借地契約の解除の意思を伝える
- 借主に土地の明け渡しを求める
それぞれ詳しく解説します。
借主に債務不履行状態を解消するように催告する
地代や賃料の滞納、土地の用法違反などの債務不履行状態を、一定期間内に解消するように借主に催告します。催告は口頭でも法的には有効ですが、後の紛争に備えて内容証明郵便で行うのが実務上の基本です。
内容証明郵便には、以下の内容を明記しておくとよいでしょう。
- 債務不履行の具体的な内容(例:「令和○年○月分から○月分までの地代○万円が未払い」など)
- 履行を求める期限(「本書面到達後○日以内」など)
- 期限内に履行がない場合の対応(「借地契約を解除する旨」)
定める期間は違反の内容によって異なりますが、賃料の滞納であれば1週間〜2週間程度が相応といえます。あまりに短い催告期間は「相当の期間」(民法541条)を満たさないとして、解除が認められない可能性があります。
借主に借地契約の解除の意思を伝える
定めた期間に債務不履行状態が解消されない場合は、貸主に解除権が発生します。この段階で、借地契約の解除の意思を借主に伝えられるようになります。
なお、催告時に送付する内容証明郵便に「期間内に債務が履行されない場合、借地契約を解除します」といった内容を含め、あらかじめ契約解除の意思を伝えておくことも可能です。
実務上は、催告と解除の意思表示を1通の内容証明郵便にまとめて送るケースが多いです。わざわざ2通に分けて送る手間が省けますし、借主に対して「このまま放置すると解除になりますよ」という明確なメッセージにもなるためです。
借主に土地の明け渡しを求める
期間内に債務履行されず、借地契約を解除したら、借主に土地の明け渡しを請求します。まずは内容証明郵便等で明け渡しの期日を定めて通知し、任意の明け渡しを求めるのが一般的です。
借主が任意の明け渡しに応じない場合は、土地明渡請求訴訟を提起します。訴訟から判決までは半年〜1年程度かかるケースが多く、さらに判決確定後も借主が立ち退かない場合は、裁判所に申し立てて強制執行の手続きを行います。
強制執行には予納金(数十万円程度)が必要になるほか、建物の収去を伴う場合は解体費用も含めて高額になることがあるため、費用面の計画も重要です。
無催告解除の手続きの手順
民法542条、612条の内容に該当する場合、借主は催告なしに借地契約の解除ができます。
(催告によらない解除)
第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。出典:e-GOV(民法542条)
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。出典:e-GOV(民法612条)
また、借地契約に「無催告解除特約」が含まれている場合は、債務不履行状態になった際に無催告解除が認められやすいとされます。ただし、地代の1ヵ月の滞納などは、借地契約を解除しうるほどの債務不履行ではないとみなされやすく、無催告解除が認められない可能性もあります。
地代滞納によって無催告解除が認められる滞納期間は、一般的に3〜6ヶ月程度が目安です。
無催告解除の手続きの手順は下記の通りです。
- 借主に借地契約の無催告解除の意思を伝える
- 借主に土地の明け渡しを求める
それぞれ詳しく解説します。
借主に借地契約の無催告解除の意思を伝える
内容証明郵便にて無催告解除の意思を借主に伝えます。無催告解除が可能であることを示すために、民法542条、612条などの法律上の根拠を記載しておくと良いでしょう。
ただし、無催告解除は催告解除よりも法的ハードルが高く、要件を満たしていないと解除が無効になるリスクがあります。特に地代滞納を理由とする場合は、滞納期間や過去の経緯によっては無催告解除が認められないケースもあるため、事前に弁護士へ相談した上で手続きを進めることを強くおすすめします。
借主に土地の明け渡しを求める
借地契約を解除したら、内容証明郵便等で土地の明け渡しを求めます。催告解除と同様に、借主が任意の明け渡しを拒否する場合は、土地明渡請求訴訟、強制執行と手続きを進めていくことになります。
なお、催告解除・無催告解除いずれの場合も、借主が解除の有効性を争って訴訟に発展するケースは少なくありません。その場合、契約解除が有効かどうかが裁判で争点になるため、催告書や内容証明郵便の記録を一式保管しておくことが重要です。
借地権契約解約後の建物の取り扱いについての注意点
借地契約解約後の建物には、下記のような注意点があります。
- 借地契約解約後には建物を取り壊す必要がある
- 原則、中途解約では地主に建物の買取請求はできない
- 建物の解体費用は高額になることもある
それぞれ詳しく解説していきます。
借地契約解約後には建物を取り壊す必要がある
借地契約が終了した場合には、建物を取り壊して、更地にした土地を地主に返還する原状回復義務があります。
そこで、取り壊し業者などに依頼し、借地の返還前に建物を取り壊す必要があります。
また、解体費用も借主が全額負担する必要があるので、資金の用意も必要です。お金だけでなく、解体完了までの期間にも注意が必要です。
業者の選定から建物の解体が完了するためには数ヵ月かかることもあるので、計画的に準備を進めていかなければいけません。
弊社の提携土地家屋調査士に確認したところ、借地返還時には建物の滅失登記も必要になるとのことです。解体工事完了後1ヶ月以内に滅失登記の申請を行う必要があり、申請を怠ると10万円以下の過料が科される場合もあります。解体費用だけでなく、土地家屋調査士への依頼としてかかる登記費用3〜5万円程度も含めて計画しておくと安心です。
借地の返還方法については、下記の記事も参考にしてみてください。
原則、中途解約では地主に建物の買取請求はできない
借主から地主に対して建物の買取が請求できる権利を「建物買取請求権」といいます。
建物買取請求権が認められるのは、借地権の契約期間が満了し、かつ契約が更新されなかった場合に限られます(借地借家法第13条)。つまり、借主と貸主の合意によって中途解約した場合には、原則として建物の買取を請求することはできません。
「中途解約でも建物を買い取ってもらえるはず」と思って相談に来られる方は珍しくありませんが、法律上は合意解約の場合に建物買取請求権は認められないのが原則です。この点を知らずに解約を進めてしまい、想定外の解体費用に直面するケースもあるため、事前に建物の取り扱いについて地主と協議しておくことが重要です。
もちろん、地主が建物を使いたい場合は、地主側から建物の買取を提案してくるケースもありますが、原則として借地契約の中途解約の場合は、買取を請求できないと考えておきましょう。
建物の解体費用は高額になることもある
借地にある建物の解体には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。
建物の構造をはじめとするさまざまな状況や置かれている事情により、解体工事の内容は異なります。
屋根の解体や内装の解体はもちろんのこと、足場の建設などの仮設工事や重機による解体が必要となったり、樹木等の撤去が必要となったりすることもあります。
当然、工事内容で作業員の人数が異なるので、人件費や諸経費なども大きく異なります。
解体費用の相場は、以下が目安といわれています。
| 建物の構造 |
解体費用 |
| 木造の場合 |
3万~5万円/坪 |
| 鉄骨造(S造) |
4万~7万円/坪 |
| 鉄筋コンクリート造(RC造) |
6万~8万円/坪 |
ただし、工事内容によって解体費用はまったく異なります。
解体業者を選ぶ際に法外な見積もりをされないためには、借地権に詳しい不動産業者に確認することをおすすめします。
借地権契約の中途解約以外の選択肢
借地権の取り扱いで悩んでいる場合、中途解約以外に下記のような選択肢もあります。
- 借地権を売却する
- 借地権を相続する
- 借地権を更新する
それぞれ詳しく解説していきます。
借地権を売却する
借地権は地主の承諾を得られれば、第三者に売却・譲渡が可能です。
解約すると建物解体費がかかりますが、売却できれば逆にまとまった現金が手元に残ります。
売却の際は、地主に譲渡承諾料を支払うのが慣行です。金額の目安は借地権価格の10%程度とされており、たとえば更地価格が3,000万円・借地権割合が60%であれば、借地権価格は1,800万円、譲渡承諾料は180万円程度が目安になります。ただし法的な義務ではなく、地域や個別事情によって金額は前後します。
なお、地主が承諾すれば、地主に直接借地権を売却することも可能です。地主にとっては自分の土地が完全な所有権に戻るという大きなメリットがあるため、交渉次第で有利な価格で買い取ってもらえるケースがあります。
建物を残したままにするか、更地にするかなどは地主との話し合いで決めます。
借地権を第三者に売却したい場合は、借地権の取り扱いに詳しい不動産仲介会社に相談する方法と、借地権専門の買取業者に直接売却する方法があります。借地権の売却では、買主がなかなか見つからない場合や、地主との話し合いがうまく進まない場合も考えられます。その点、借地を専門とする買取業者であれば、地主との交渉に必要な手続きのサポートを受けながら、スムーズな売却が期待できます。
借地権の売却方法や売却時の税金については下記の記事を参考にしてみてください。
借地権を相続する
借地権は相続の対象となるため、配偶者や子どもなどに相続が可能です。借主が亡くなった場合、借地権は遺産として家族が引き継ぐことができ、名義変更の手続きを行えば、土地をそのまま利用できます。
誰が相続するか相続人の間で協議し、路線価や固定資産税評価額などを基にして計算された相続税を支払う必要はありますが、借主が死亡したからといって、借りている土地にある自宅や会社がなくなることはありません。
土地に利用価値があるのなら、中途解約せずに相続させるのも一つの方法でしょう。土地を利用する予定がない場合は、相続後も地代がかかって相続人の負担となるため、売却などを検討するのも良いかもしれません。
借地権の相続については、下記の記事も参考にしてみてください。
借地権を更新する
借地契約の中途解約が難しく、売却なども急がない場合はそのまま借地権をもち続け、更新するといった方法もあります。借地権の更新については、借地法(旧法)か借地借家法(新法)かによって内容が異なります。
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借地法(旧法)
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借地借家法(新法)
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更新後の契約期間
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堅固建物:30年
非堅固建物:20年
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1回目の更新:最低20年
2回目以降の更新:最低10年
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契約更新の拒否について
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正当な事由なしに拒否できない
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正当な事由なしに拒否できない
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借地法(旧法)は立場の弱い借地人に寄り添った内容であるため、借地人が契約の更新を希望した場合、地主は正当な事由なしに拒否することができません。ただし、更新の際には更新料が発生します。
借地借家法(新法)には、普通借地権や定期借地権、建物譲渡特約付借地権など、複数の借地権が存在します。普通借地権では、借地人が更新を希望した場合は、借地法(旧法)同様に地主は正当な事由なく拒否できません。普通借地権以外の定期借地権や建物譲渡特約付借地権などは、契約期間の満了と同時に借地権が消滅します。
借地権の更新料については、下記の記事で詳しく紹介しています。
まとめ
借地契約の中途解約は、原則として地主と借地人の双方の合意が必要です。ただし、契約書に解約権留保特約がある場合は、借主側からの申し入れにより中途解約が可能です。「災害で建物が使用できなくなった」「借地人が契約違反をした」といった例外的なケースでは中途解約が可能な場合もありますが、「引っ越したいから解約したい」「土地を返却してほしいから解約したい」といった理由での中途解約はできません。
仮に中途解約の合意が得られた場合は、トラブルを防ぐためにも解約合意書を作成したうえで解約しましょう。借地契約の中途解約の合意が叶わない場合は、売却や相続、更新などの別の方法も検討してみてください。
「なるべく早く借地権を手放したい」といった場合は、まず借地権の取り扱いに詳しい不動産会社に相談してみましょう。仲介での売却が難しい場合は、借地権専門の買取業者に相談するのも選択肢の一つです。また、弁護士や司法書士などと連携をとっている業者であれば、法的な問題などが生じても対処できるでしょう。
借地契約の中途解約に関するよくある質問
「借地法」(旧法)と「借地借家法」(新法)の違いはなんですか?
借地権については「借地法」(旧法)と「借地借家法」(新法)があり、賃貸契約をした時期によって、どちらの法律が適用されるかが異なります。
| 契約時期 |
法律 |
| 平成4年7月31日以前
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借地法
(旧法) |
| 平成4年8月1日以降 |
借地借家法
(新法) |
旧法と新法では、契約期間に違いがあります。
借地法(旧法)
借地法(旧法)での契約期間は、借地上の建物の構造によって異なります。
| 構造 |
契約期間 |
| 非堅固建物 |
20年以上 |
非堅固建物
(期間の定めがない場合) |
30年 |
| 堅固建物 |
30年以上 |
堅固建物
(期間の定めがない場合) |
60年 |
また、契約を更新した2回目以降の契約期間も非堅固建物、堅固建物で異なります。
| 構造 |
契約期間 |
| 非堅固建物 |
20年以上 |
非堅固建物
(期間の定めがない場合) |
20年 |
| 堅固建物 |
30年以上 |
堅固建物
(期間の定めがない場合) |
30年 |
借地借家法(新法)
借地借家法(新法)では、借地法のように非堅固建物や堅固建物の区別はありません。
最初の契約期間は原則、一律30年で、これより長い契約をした場合はその期間となります。
また、契約を更新した場合の契約期間は、1度目と2度目以降で期間が異なり、1度目は20年以上、2度目以降は10年以上です。