借地権も贈与税の課税対象に含まれます。
例えば、父親が借りている敷地に息子名義の家を建てたい場合、気づかないうちに贈与税が課税されてしまうかもしれません。
ただし、借地権にも贈与税がかかるケース・かからないケースがあるため、本当に課税対象なのか確認しておきましょう。
また、贈与税は税率が高いので、事前に自分で計算しておくことをおすすめします。
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借地権に贈与税がかかるケース・かからないケース
「親の借地に子どもが建物を建てている」
この状態でも、借地権に贈与税がかかるケース・かからないケースがあります。
どういう場合に該当するのか、順番に解説していきます。
借地権に贈与税がかかるケース
まずは、借地権に贈与税がかかるケースです。
あてはまるのは、主に3つのケースです。
- 借地上の建物の名義を変更したとき
- 権利金を支払わずに地代のみを支払うとき
- 親の借地権の底地部分を子どもが地主から買取したとき
それぞれのケースを具体的に見ていきましょう。
1.借地上の建物の名義を変更したとき
借地権の登記に地主の協力義務はないので、借地上の建物を登記することで、借地権も第三者へ主張できるとされています。
そのため、借地上の建物の名義を変更したり、新しく子ども名義で建て替えると、借地人も子どもに変わることになります。
このとき「借地権は子どもに贈与された」とみなし贈与と解釈されて、贈与税の対象となるのです。
ただし、後述する「借地権の使用貸借に関する確認書」を提出することで、贈与税を無くすこともできます。
2.権利金を支払わずに地代のみを支払うとき
贈与税の課税を避けるために、子どもから地代を受け取り、借地権の転貸にしようとするときも注意が必要です。
借地権の転貸をおこなえば、親が借地人のまま、その借地上の建物を子どもの名義にできます。
こうすれば、贈与税がかからないように思えますが、借地権の転貸で又借りした方が借地人に権利金を支払う慣行がある地域では注意が必要です。
権利金の支払いは法律で義務付けられているわけではありませんが、権利金の授受をおこなわなければ、贈与とされて権利金相当額が贈与税の課税対象となる恐れがあります。
権利金の金額は更地価格×借地権割合
一般的に、権利金は更地価格に借地権割合を掛けた金額です。
・5,000万円 × 60% =3,000万円
3,000万円の贈与があったとみなされてしまいます。
また、権利金という名目であっても、相場より安ければ、その差額分が贈与とみなされるので注意してください。
子どもに借地権を転貸する場合、その地域で権利金の授受がおこなわれているか、相場はどれくらいかを確認するようにしましょう。
3.借地権の底地部分を地主から買い取ったとき
地主の財産整理や経済事情などによっては、底地の買取を打診されるときがあります。
このとき、借地人である親ではなく、子どもが買い取ったときには借地権に贈与税がかかる恐れがあります。
分かりにくいので、段階を追って解説します。
本当であれば、親から子へ地代を支払う必要がありますが、地代を支払うケースはほとんどないでしょう。
地代の支払いがなければ、土地の使用貸借となりますが、賃借権である借地権は、地代を支払うことで認められる権利です。
地代の支払いがないため「借地権が子に無償で譲渡された」とみなされてしまいます。
そのため、借地権の贈与となり、贈与税が課税される可能性が高いです。
このような場合でも「借地人の地位に変更がない旨の申出手続」を取ることで、借地権にかかる贈与税を回避できます。
借地権が贈与税にならないケース
続いて、借地権が贈与税にならないケースです。
大きく分けて、3つのケースがあります。
- 相場並みの権利金と地代を支払って賃貸借契約を結ぶ
- 借地権の使用貸借に関する確認書を提出する
- 借地人の地位に変更がない旨の申出書を提出する
先ほどの贈与税になるケースの逆だと考えれば、理解しやすいでしょう。
それでは、1つずつ詳しく解説します。
1.相場並みの権利金と地代を支払って賃貸借契約を結ぶ
親子間だからといって、権利金を受け取らなかったり、権利金・地代を非常に安くしたりするような優遇対応をしません。
第三者に借地権を転貸するときと同じように、相場並みの権利金の授受があり、相場並みの地代を支払う賃貸借契約を結びます。
そうすれば、通常の取引と扱われて、贈与税の課税対象にはなりません。
2.借地権の使用貸借に関する確認書を提出する
親の借地に子ども名義の家を建てると、基本的に借地人の地位は子どもになってしまいます。
しかし、建物の名義は子どもに変えたとしても、借地人は親のままとすることができます。
その方法が「借地権の使用貸借に関する確認書」を所轄税務署長に提出することです。
借地権の使用貸借であれば、その権利の評価額はゼロとして取り扱われているので、贈与税はかかりません。
しかし、借地権は登記されていないことがほとんどですから、借地権の贈与か使用貸借か、外からでは判断できません。
そのため、明示的に「借地権の使用貸借である」と申請する手続きが必要になるのです。
また、借地権を転貸するときには地主の承諾が必要です。
ですので、確認書は子・親・地主の3人が連名で作成します。
- 借地権の借受者である子ども
- 土地の借主である親
- 土地の貸主である地主
実際に提出する確認書は、下記の国税庁ホームページからダウンロードできます。
3.借地人の地位に変更がない旨の申出書を提出する
親が借地している土地の所有権を子どもが地主から買取して、親子間で地代の授受がなければ、親から子どもへ借地権の贈与があったとみなされます。
このとき「借地人の地位に変更がない旨の申出書」を所轄税務署長に提出することで、贈与とみなされなくなります。
この手続きは、地代の支払いはないけれども、借地人は親のままであることを申し出るものです。
「借地人の地位に変更がない旨の申出書」は、子・親の連名で作成します。
- 新しく土地の所有者となった子ども
- 借地人である親
借地権の使用貸借に関する確認書と同様に、この申出書も国税庁ホームページからダウンロードできます。
参照:「借地人の地位に変更がない旨の申出手続」(国税庁)
借地権における贈与税の計算方法
それでは、実際に借地権の贈与とみなされた場合の贈与税の計算方法について解説します。
贈与税額の基本的な計算方法は、下式のとおりです。
そして、計算の順番は次のように進めていきます。
- 贈与財産価額を計算する
- 基礎控除の110万円を除く
- 税率を掛けたあと、控除額を除く
1.贈与財産価額を計算する
まずは贈与された金額を求めます。
相続税や贈与税を計算するときの基準となる相続税評価額を使い、土地の評価額に借地権割合を掛けて算出することが一般的です。
例えば、土地の更地での評価額7,000万円、借地権割合が70%であれば、贈与財産価額は4,900万円となります。
また、土地を評価する方法は、路線価方式と倍率方式の2種類です。
路線価が定められている地域では路線価方式、そうでなければ倍率方式となります。
借地のある地域に路線価が定められているかどうかは、路線価図・評価倍率表で確認します。
借地権割合も路線価図に書かれているのであわせて確認しておきましょう。
この路線価図・評価倍率表とその見方は国税庁ホームページから誰でも無料で見ることも可能です。
ですが、借地権の評価額を算出するときには、土地の形状に応じて様々な補正率で補正する必要があります。
また、借地権が旧法借地権や普通借地権ではなく、定期借地権だった場合には贈与の時においての借地人に帰属する経済的利益と借地権の残存期間も考慮して評価額を算出します。
このように借地権の相続税評価額の計算は複雑になりやすいので、実際に贈与財産価額を計算するときには税理士や不動産鑑定士などの専門家に依頼することがおすすめです。
2.基礎控除の110万円を除く
つづいて、算出した贈与財産価額から110万円を除きます。
110万円は贈与税計算での基礎控除額として定められた金額で全員共通です。
そのため、例の続きで、贈与財産価額の4,900万円から110万円を除いた4,790万円が贈与税の課税対象額です。
実際には借地権の他にも贈与財産があれば、それらも全て含めて課税対象額を計算することも忘れないようにしましょう。
3.税率を掛けた後で控除額を除く
税率は、贈与を受けた方の条件に応じて、一般税率と特例税率の2種類が設定されています。
特例税率は直系尊属からその年の1月1日において20歳以上の直系卑属に適用されており、父から息子へ、祖父から孫への贈与のことです。
特例税率が適用されない場合は一般税率となり、兄弟間、夫婦間、父から息子でも息子が1月1日時点で20歳未満だった場合です。
それぞれの税率と控除額は下表のとおりです。
課税贈与財産価額 | 一般税率 | 一般税率における控除額 | 特例税率 | 特例税率における控除額 |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 10% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 55% | 400万円 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 400万円 | 55% | 640万円 |
そのため、先ほどの借地権の贈与が父親から成人した息子へのものだった場合、特例税率が適用されます。
つまり、納めるべき贈与税額は、「4,790万円 × 55%-640万円 = 1,994万5,000円」となります。
贈与税が高額なときは相続時精算課税の選択も検討する
贈与税の税率は最大55%と非常に高いので、予想外に相続税の評価額が高いと、贈与税の納税も困難になります。
そのような場合には「相続時精算課税」を選択することも考えましょう。
相続時精算課税を選択すれば、特別控除額の2,500万円まで非課税にすることができます。
そして、特別控除額を超えた部分に対しても一律20%の税率となるので、贈与税を抑えられます。
ただし、相続時精算課税を選択するには以下の適用要件を満たす必要があります。
・贈与を受ける人(受贈者)が贈与を受けた年の1月1日において20歳以上であること
・受贈者が贈与を受けたときに、贈与者の推定相続人もしくは孫であること
推定相続人というのは、相続が発生したときに相続人となる可能性が高い人たちのことで、法定相続人とほとんど同じ意味です。
このように、相続時精算課税は、贈与財産価額が高額になるときに効果的です。
しかし、一度選択すると、その年以降、対象となった贈与者から贈与で受け取る財産はすべて相続時精算課税が適用されます。
通常の贈与税である「暦年課税」に変更することはできないのでよく考えて、選択するようにしましょう。
借地権における贈与税の支払い時期や時効
贈与税は納税額の通知が国や都道府県から送られてくるわけではありません。
贈与を受けた人が自分で申告して支払う必要があります。
ここから、贈与税の支払い時期や時効について解説します。
贈与税の支払い時期は翌年2月1日〜3月15日まで
贈与税の納税は自己申告です。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告書を作成し、必要な添付書類をつけて提出します。
必要な申告書一式は税務署に行かなくても、下記の国税庁ホームページからダウンロード可能です。
また、納税期限も申告書提出期限と同じで、もし提出期限が土日祝日であれば、その翌日が期限となります。
また、以下のような場合、本来の税金に追加して加算税と延滞税もかかる恐れがあるので注意してください。
- 申告期限に間に合わなかった場合
- 実際にもらった額よりも少なく申告した場合
借地権の贈与を受けたときには、贈与税が高額になる可能性が高いので、申告書の作成は専門家である弁護士などへの依頼がおすすめです。
贈与税が高額な場合は延納も可能
原則として、贈与税は一括で納めますが、借地権の贈与の場合、贈与税が1,000万円近くなることも珍しくありません。
借地権はすぐに現金化できるわけではないので、支払期限までに必要なお金を用意できないことも十分に考えられます。
そのことを国も理解しているため「延納」という納税方法を用意しており、延納すれば、最大で5年かけての分納が可能です。
ただし、延納を受けるには4つの要件を満たしている必要があります。
- 贈与税額が10万円を超えていること
- 金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
- 延納申請書と担保提供関係書類を期限までに提出すること
- 延納税額に相当する担保を提供すること
また、延納は手続きすれば必ず認められるわけではありません。
延納申請書の提出期限から3カ月以内に審査がおこなわれます。
提出書類に不備があった場合、期限内に訂正できなければ、却下されてしまうため注意しましょう。
そして、延納できることになった税金に対して、別途年6.6%の利子税がかかります。
延納の詳しい手続きについては、国税庁のホームページを確認してください。
贈与税の時効は6年・故意の無申告なら7年
税金にも時効があり、時効が成立すれば、申告せずに納めていない贈与税の支払いはする必要がなくなります。
贈与税の時効が成立する期間は6年です。
贈与税の納税期限が、贈与を受けた年の翌年3月15日までなので、時効期間の開始時点も贈与を受けた年の翌年3月16日からです。
また、6年というのは贈与と知らずに贈与を受けていて、申告しなかった場合です。
贈与を受けたのに、故意に申告しなかった場合の時効は7年になります。
借地権の贈与を受けたのに、贈与税の支払いが必要だと思わなかったというのは考えにくいので、贈与税の時効は基本的に7年だと思ってください。
贈与税の時効が成立することはほとんどない
贈与税の時効が成立することはほとんどありません。
贈与税の時効が成立するには、贈与が発生したことを証明する必要があります。
借地権であれば、建物の名義を変更した登記簿や借主の名義を変更した土地賃貸借契約書などが該当します。
そして、登記を変更するということは、税務署にも知られるので、その時点で「贈与があったのではないか」と気づかれます。
さらに贈与税の申告がなければ、税務調査の対象になりやすいため、借地権の贈与で、贈与税の時効が成立することはまずありません。
贈与税の無申告が知られると重い税金が課せられる
贈与税の無申告が税務署に知られると、年利8.9~14.6%の延滞税、さらに本来支払うべき税額の40%の重加算税と重い税金が課せられます。
しかも、支払いができないからといって自己破産しても、税金は免除されません。
このように、贈与税の時効成立の可能性は低く、税務署に指摘されたときの罰則は重いため、正しく贈与税の申告をするようにしてください。
借地権を生前贈与するなら抑えておきたいこと
借地権を生前贈与する場合、抑えておきたい3点があります。
- 地主の承諾・名義書換料が必要になる
- 多額の贈与税がかかる可能性が高い
- 特別受益とみなされる可能性がある
それぞれの点について、順番に見ていきましょう。
1.地主の承諾・名義書換料が必要になる
借地権の相続であれば、地主の承諾も不要なので、承諾料や名義書換料も必要ありません。
しかし、借地権の生前贈与は、第三者への譲渡と同じように取り扱われます。
たとえ、親子間の譲渡であっても、地主への承諾が必要ですし、承諾料や名義書換料も必要になります。
そして、借地上の建物の名義変更をすると、基本的には借地権も一緒に譲渡されます。
知らなかったとしても、地主の承諾なく建物の名義変更を行うと借地契約を解除される恐れがあるため注意してください。
2.多額の贈与税がかかる可能性が高い
贈与税は基礎控除額が110万円で、税額が控除される特例がほとんどなく、税率も相続税に比べて高いです。
生前贈与すると、想像以上に多額な贈与税を課せられる可能性があり、贈与を受けた方の負担にもなります。
そのため、以下の点をしっかりと確認しておくことをおすすめします。
- 事前にどれくらいの贈与税がかかることになりそうか
- 納税に必要なだけのお金を受贈者は準備できるのか
- それほどの税金を納めてまで生前贈与する必要があるのか
3.特別受益とみなされる恐れがある
借地権の生前贈与があると、相続が発生したときに特別受益とみなされる可能性が高いです。
特別受益とは、相続人が相続発生前に、亡くなった方から「特別」に「利益を受けている」ことです。
特別受益があった場合、普通に相続財産を分配すると不公平が生まれます。
法定相続人はAさん、Bさん、Cさんの3人で、Aさんが借地権の生前贈与を受けていました。
もし、普通に相続財産を分配すると、それぞれ1,000万円ずつです。
しかし、Aさんは1,000万円分の生前贈与を受けていたので、実質2,000万円分のお金を相続したとも考えられます。
そこで、不公平をなくすために、特別受益を受けた方がいる場合、贈与された価格も相続財産と合算してみなして、相続財産として分配します。
具体的には、次のように計算します。
2.みなし相続財産価額 × 法定相続割合 = 本来の相続価額
3.本来の相続価額-贈与価額 = 相続分の価額
先ほどの例で考えると、特別受益を受けた方の相続分の価額は
【(3,000万円 + 1,000万円) ÷ 3 - 1,000万円 = 約333万円】となります。
ただし、このような分配のされ方は本意ではない場合は「持戻し免除の意思表示」を遺言などで明示的に残しておくことが重要です。
また、遺留分については持戻し免除は適用されないなど様々な規定があります。
このように、借地権を生前贈与するときには注意点が多いため、弁護士などの専門家と相談しながら手続きを進めるようにしましょう。
まとめ
借地権は贈与税の課税対象なので、贈与を受けると多額の税負担となる恐れがあります。
贈与税は自己申告ですが、過少申告や無申告だった場合に税務署から指摘されたときの罰則も重いです。
借地権の相続税評価額を正しく算出する必要もあるので、借地権の贈与を受けたときには、借地権に詳しい弁護士などに相談するようにしましょう。
また、生前贈与をするときにも、期待する結果が得られるように不動産業者などの専門家に相談することをおすすめします。