共有持分は自由に譲渡が可能
共有持分とは、2人以上で同じ不動産を共同で所有する「共有名義不動産」における、1人あたりの所有権の割合です。共有名義不動産の所有者は、共有者とも呼びます。
共有持分は、自己持分の範囲に限り、売却や贈与といった譲渡を自由にできます。共有持分は法律上の所有権の一部であり、「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」という民法第206条が適用されるからです。
たとえば、A氏・B氏の2人で不動産の持分を50%ずつ所有している場合、A氏は自分の持分50%をB氏の同意なく自由に譲渡できます。
自分が手放した共有持分は譲渡先に移転し、譲渡先が新たな共有者になります。ここで注意しておきたいのが、第三者に譲渡する場合、他の共有者から見ると「面識のない人と同じ不動産を共有することになった」という状態になる点です。
法律上認められた行為とはいえ、顔も知らない人が共有者になると突然言われても、他の共有者から感情的な反発が起こるリスクがあります。
共有持分を譲渡する際は、譲渡方法や他の共有者への説明も含め、事前にしっかりと準備をしておくことが大切です。
なお、共有持分を自由に譲渡できるのは他の共有者も同じです。共有持分を第三者へ譲渡ときのトラブルや対処法は、以下の記事にて詳しく解説しています。
共有名義不動産全体の譲渡は他共有者の同意が必要
共有名義不動産全体を譲渡する場合は、共有持分とは異なり、共有者全員の同意が必要です。不動産全体の譲渡は、民法第251条に基づく「変更(処分)行為」に該当するためです。
たとえば、不動産全体の売却に共有者10人中9人が賛成していても、1人が反対すれば売却は進められません。理不尽に思われるかもしれませんが、この規定がないと1人の意思で売却が成立してしまい、9人の共有者の所有権が失われるという事態になりかねません。
裁判所の判決でも、変更(処分)行為に該当する行為を実施するには、全員の同意が必要である旨が出ています。以下でいくつか紹介します。
【昭和42年2月23日最高裁判所】
「共有不動産自体の抵当権を設定するには共有者全員の同意が必要になる」と判決が出ています。
【平成10年3月24日最高裁判所】
「宅地造成行為という物理的に共有物に変更を加える行為は、他の共有者の共有持分権を侵害するので同意がない限り許されない」と判決が出ています。
法律および判例・裁判例にある通り、共有者全体を第三者に譲渡するには、共有者全員の同意を得なけれなりません。
ワンポイント解説
売却以外で共有名義不動産に対する変更(処分)行為に該当するものは、以下の通りです。
・不動産全体の贈与
・建物の建て替え、一定以上の増改築、取り壊し
・宅地への造成
・共有名義不動産全体に対する抵当権の設定
・3年を超える長期賃貸借契約
また、共有者全員とは行かないものの、共有者の共有持分の過半数が同意しないと実施できない「管理行為」が民法第252条に定められています。ただし、管理行為は変更行為などとの線引きがはっきりせず、裁判所の判決も明確な基準ができていない傾向が見られます。
これまでの不動産実務や裁判所の判決管理行為に該当するものは、以下の通りです。
・共有物の変更に至らない程度のリフォームや増改築、修繕行為
・共有宅地の整地
・共有物の使用賃借契約の解除
・共有者間の不動産の利用に関するルール作成・変更
・共有名義不動産の賃貸借における賃料の増減額
上記の他にも、他の共有者の同意なく自分の意思で実施できる「保存行為」があります。保存行為には、建物の修繕・メンテナンスなどが挙げられます。
共有持分を共有者や第三者に譲渡する3つの方法
自分が所有する共有持分を、他の共有者や第三者に譲渡する方法として、主に以下3つが挙げられます。
| 共有持分を共有者や第三者に譲渡する方法 |
概要 |
| 他の共有者または買取業者に売却する |
同じ共有名義不動産の共有者や、共有持分を取り扱う買取業者と売買契約を締結して売却する |
| 他の共有者に無償で贈与する |
他の共有者と贈与契約を締結し、金銭的授受なく共有持分を渡す |
| 共有持分を放棄して他の共有者に分配する |
共有持分を放棄し、他の共有者に共有持分割合に応じた分だけ帰属させる |
1.他の共有者または買取業者に売却する
| 譲渡方法 |
メリット |
デメリット |
| 売買 |
・お互い納得すればスムーズに手続きが進む
・売買契約が成立すれば短期間で現金を受け取れる |
・相手に購入資金や意思がなければ成立しない
・利益が出ると譲渡所得税が発生する |
共有持分は、通常の不動産と同じように売却できます。筆者が代表を務める企業でも、不動産の資産価値に応じて数百万円〜数億円で共有持分の取引をおこなっています。
売却相手と条件面で合意できればスムーズに取引が進むうえ、売買契約が成立すれば短期間で現金を受け取れます。
ただし共有持分は、不動産仲介業者を介して一般の個人に売却するケースが実務上ほぼありません。なぜなら、共有持分だけを購入しても以下のリスクが懸念されるからです。
- 他の共有者の同意がなければ不動産全体の売却や、大規模な増改築などが自由におこなえない
- 建物の使用や権利関係が原因で、他の共有者とトラブルになる
- 将来的な活用や売却が難しく、投資リスクが高い
- 面識のない方々との共有状態になるので、精神面での負担や感情的な対立が発生しやすい
共有持分を売却できる可能性があるのは、「同じ共有名義不動産における他の共有者」、または「共有持分を取り扱う買取業者」が有力です。この2者にとっては、共有持分を単体で購入してもメリットがあります。
以下では、他の共有者と買取業者に売却する際の傾向をまとめました。
|
他の共有者 |
買取業者 |
| 売却相場 |
共有名義不動産全体の市場価格 × 共有持分割合 |
共有名義不動産全体の市場価格 × 共有持分割合 × 1/2~1/3 |
| 売却先としてのメリット |
・買取業者よりも高値で売却しやすい
・共有者となっている親族が面識のない第三者と共有状態になることを避けられる |
・契約不適合責任免責での取引が基本なので、売却後に契約解除や損害賠償などの責任を負うリスクが少ない
・現況のままで買い取ってくれる
・スピード重視の買取業者なら査定から決済まで数日で完了する |
| 売却先としてのデメリット |
・相手に購入資金や意思がないと売却できない
・親族が相手だと安値で取引するよう迫られるなどのトラブルが多い傾向がある |
・買取後のリフォーム・修繕費用やリスク負担費が反映されるので、他の共有者への売却よりも安値になりやすい
・売却後に共有者となっている親族と買取業者が共有状態になり、感情的な拒否反応がでるリスクがある |
| 共有持分を売却できる理由 |
・共有持分割合を増やして過半数になると、管理行為を単独の意思でおこなえる
・他の共有者全員の持分を買い取れば、単独名義不動産になるので自由に売却などができる |
買い取った共有持分を収益化できるノウハウを持っている |
なお、共有持分を売却して利益が出た場合は、売却益に対して譲渡所得税や住民税が課税されます。確定申告と納税を忘れないように注意が必要です。税金については、記事内「共有持分の譲渡によって発生する税金」で詳しく解説しています。
ワンポイント解説
共有持分を買取業者に売却したい場合は、買取業者に共有持分の取引実績があるかを事前に調べておきましょう。
共有持分は不動産のなかでも特殊性が高く、知識や経験が不足した買取業者だと「適正価格で査定ができない」「取り扱い自体を断られる」といったリスクが想定されます。
一方で、共有持分を専門とする買取業者なら、共有持分を買い取った後の収益性などを加味して、適切な査定のうえで買い取ってもらえます。
とくに、弁護士、司法書士、税理士などと連携している買取業者であれば、共有者同士の争いの仲裁、登記関係のサポート、確定申告の代理など、売買に関するさまざまな実務を一括で依頼できます。
2.他の共有者に無償で贈与する
| 譲渡方法 |
メリット |
デメリット |
| 贈与 |
・金銭のやり取りがないため話がまとまりやすい
・生前贈与として譲渡すれば相続税対策になる |
・受贈者に贈与税が課される可能性がある
・合意のない一方的な贈与はできない |
共有持分は、売買だけでなく贈与による無償譲渡も可能です。共有者間や家族間で持分を移す手段として利用されるケースもあります。
ただし、無償であっても受け取る側(受贈者)は利益を得たとみなされるため、贈与税が課税される可能性があります。また、売買でも相場より大幅に安い価格で譲渡した場合、実質的に贈与をしたとみなされ、贈与税の対象となることもあります。
無償で共有持分を贈与するメリットは、売買と異なり金銭などの対価が発生しないため、相手との話がまとまりやすい点です。相手は購入資金を準備する必要がないため、話し合いや手続きがスムーズに進みやすい傾向があります。
また、相続税対策として暦年贈与を利用できるメリットがあります。
暦年贈与とは、1年ごとに110万円の基礎控除がある贈与税の制度を利用し、財産を複数年に分けて非課税で渡す方法です。たとえば、1,100万円相当の共有持分を毎年110万円ずつ10年に分けて贈与することで、非課税で相続財産を減らせます。
ただし、暦年贈与を適用するためには、毎年個別に契約書を交わす必要があります。はじめから「10年で1,100万円を贈与する」という契約を結んでしまうと、初年度に全額贈与したとみなされ、非課税枠は1回しか使えず、結果的に高額な贈与税が発生してしまいます。
また、贈与のたびに登記手続きが必要となり、登記費用の負担も発生します。相続税対策として贈与を考える場合は、登記費用と節税効果のバランスをしっかり検討しましょう。
このように、共有持分の譲渡をする場合は税金対策を講じる必要があるため、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。
なお、贈与は契約行為にあたるため、相手の合意を得る必要があります。一方的に持分を贈与することはできないため、まずは他の共有者や親族などへ打診してみましょう。
3.共有持分を放棄して他の共有者に分配する
| 譲渡方法 |
メリット |
デメリット |
| 放棄 |
売買や贈与のような契約行為が発生しないので自分の意思表示のみで効果を生じる |
・移転登記の際は他の共有者の協力が必要
・共有者に贈与税が課される可能性がある |
共有持分を放棄すると、その持分は民法第255条に基づき、他の共有者全員に自動的に帰属します。
贈与のような契約の締結は不要となっており、自分の意思表示のみで行為を始められますが、登記を行う際には他の共有者の協力が必要です。
共有持分の放棄と贈与の違いは、以下のとおりです。
|
放棄 |
贈与 |
| 他の共有者の同意 |
不要(他の共有者への意思表示のみ) |
贈与者と受贈者の契約合意が必要 |
| 共有持分移転登記の申請 |
他の共有者との共同申請 |
贈与者と受贈者の共同申請 |
| 共有持分の譲渡先 |
他の共有者の共有持分割合に応じて分配 |
指定した贈与先 |
| 発生する可能性がある税金 |
贈与税 |
贈与税 |
| 売却時の取得費の計算 |
取得時期と取得費は引き継がれない |
取得時期と取得費は引き継がれる |
放棄された共有持分の受け取りを共有者は拒否できないので、事前に話し合いがなければ「突然押し付けられたうえに、税金まで支払うはめになった」と、トラブルが発生する可能性があります。
最終手段として共有物分割請求という選択肢もある
売却・贈与をおこなうには、取引相手との合意形成が必須です。放棄は自分の意思のみで手続きを始められますが、放棄者側が一方的に進められるため、相手側から納得が得られないまま進み、その後の人間関係に悪影響を及ぼす危険性も無視できません。
そこで、共有者全員と話し合いの場を作りつつ、一定の結論を導く方法として「共有物分割請求」が最終手段として挙げられます。
| 譲渡方法 |
メリット |
デメリット |
| 共有物分割請求 |
揉めている場合でも、法的に共有関係を解消できる |
・共有者同士での合意が必要なため、協議が難航することもある
・裁判になった場合は時間と費用がかかる
・分割方法により、所得税や贈与税が発生する可能性がある |
共有物分割請求とは、民法第256条に基づき、共有者全員で共有状態の解消について協議することを求める権利です。
共有物分割請求の大きな特徴は、請求すれば他の共有者が原則として拒否できないという強力な法的拘束力を持つことです。また、共有持分の放棄と同じく自分のタイミングで自由に始められます。
ただし、共有物分割禁止特約が結ばれている場合は要注意です。民法第256条では、共有者全員の合意があれば「5年間は分割請求しない」とする共有物分割禁止特約を結ぶことが認められています。この特約は、共有者全員の合意があれば、5年を超えない期間で更新が可能です。
共有物分割請求をおこなった場合は、共有者全員で共有状態の解消について話し合います。全員の合意が得られれば、合意した内容で共有状態を解消します。
しかし、共有物分割請求は拒否できない一方で、協議の内容に納得できなければ無理に合意する必要はありません。そのため、協議がなかなかまとまらない事態も想定されます。
協議がまとまらない場合は、民法第258条に基づいて裁判所に共有物分割請求を提起することも可能です。
共有物分割請求訴訟を起こせば、裁判所での審理を経て、裁判官による判決または裁判上の和解という形で、何かしらの結論を必ず得られるメリットがあります。
とはいえ、訴訟まで進むと訴訟対応に関する数十万円以上の弁護士費用の支払いや、結果が出るまで数か月~数年以上の時間がかかるリスクがあります。
また、判決や和解案が必ずしも自分が望む結果になるとも限りません。親族同士の共有で訴訟まで進めば、人間関係の修復は非常に厳しいものになるでしょう。
そういった意味でも、共有物分割請求は共有持分の問題解消における最終手段と言えるでしょう。
以下では、共有物の分割方法として「現物分割」「換価分割」「代償分割」の3つを解説します。
現物分割:不動産を持分割合に応じて切り分ける
現物分割とは、共有している不動産を分筆によって物理的に分け、それぞれの共有者が単独で所有する方法です。共有者の共有持分割合に応じて分けることが、実務上一般的です。
現物分割の例
1,500㎡の土地を3人、共有持分割合A50%・B25%・C25%で共有しているときに、現物分割によって750㎡、375㎡、375㎡で分け、それぞれを単独名義にする。
単独名義になることで、自分の判断だけで自由に売却したり活用したりできるようになるため、共有関係による制約を解消できるメリットがあります。
ただし、土地は面積で単純に分割するのは難しいのが現状です。
たとえば、同じ面積で分けたつもりでも分割後の土地の形状、立地、路線価によっては、資産価値が区分ごとに大きく変動する可能性があります。分け方によっては、建築基準法上の道路との接道部分が足りなくなり、土地が再建築不可状態に陥るかもしれません。
土地の形状、建築基準法の関係、分割箇所ごとの土地の価値の変化などを考慮し、トラブルがないように分割することが求められます。
現物分割は土地の共有状態を解消する際に多く用いられる方法ですが、建物の場合は構造上分けることが難しいため、適用できないのが一般的です。
換価分割:不動産全体を売却して売却金額を分配する
換価分割とは、共有者同士で協力して共有不動産をすべて売却し、売却代金を共有持分の割合に応じて分配する方法です。
換価分割の例
共有不動産である建物をA50%・B25%・C25%の割合で共有しているときに、3,000万円で共有不動産が売れたら、Aが1,500万円、Bが750万円、Cが750万円を受け取る(別途仲介手数料などの諸経費がかかる可能性あり)。
換価分割のメリットは、共有状態解消後の利益分配がシンプルになる点です。現物分割のように分割後の土地の形状や接道状況などを気にせずとも、共有持分割合に応じた金銭を渡せばトラブルは起きにくいと言えます。
また、換価分割は不動産全体を売却するため、共有者全員が不動産の管理やランニングコストの負担から解放されるメリットがあります。
一方、換価分割によって利益が出た場合には、譲渡所得として所得税と住民税が課せられる点はデメリットです。また、共有状態解消後も不動産を所有したい人にとっては望ましい方法とは言えません。
なお、換価分割には、「共有者全員で合意して売却する方法」と「裁判所を通じて強制的に売却する方法(形式的競売)」の2つがあります。
共有者全員の合意の下での売却は、市場相場や希望価格で売却しやすい反面、話し合いがまとまらないと実行できないのがデメリットです。一方で形式的競売は、反対する共有者がいても売却を止められない反面、売却価格が一般市場価格と比較して6~8割程度と安くなる傾向にあります。
代償分割:共有者の一人が不動産を単独所有し他の共有者は同等の金額を得る
代償分割とは、共有者の1人が他の共有者から共有持分を買い取り、共有持分を売った共有者へ持分に応じた代償金を渡す分割方法です。
代償金の金額は共有者同士の話し合いで決まりますが、一般的には不動産の評価額に応じた金額になります。共有物分割請求訴訟にて代償分割が決まった場合は、不動産鑑定士による客観的な評価がおこなわれます。
代償分割の例
時価3,000万円の共有不動産の建物をA50%・B25%・C25%の割合で共有しているとする。
Bを最終所有者とする場合、共有持分をAから1,500万円、Cから750万円で買い取れば、Bが3,000万円の建物を単独所有することになる。
代償分割の大きなメリットは、1人の所有者が共有者全員から共有持分を買い取ると、その人の単独所有として自由に不動産を活用できるようになる点です。
また、取引が共有者間で完結するため、第三者への売却とは異なり不動産を売ったことを周囲に知られる心配がありません。
不動産を単独所有したいと望む人、共有不動産に第三者の買い手がつかない場合、できるだけ他人に権利を渡したくない場合などのケースは、代償分割が向いています。
ただし、共有持分を買い取るための資金力がなければ実施が難しいのがデメリットです。また、共有持分を売却した共有者は、売却益に応じて所得税と住民税が課せられる可能性があります。
共有持分の譲渡によって発生する税金
共有持分を譲渡する場合、譲渡方法によって発生する税金に違いがあります。以下では、売却・贈与・放棄・共有物分割請求の4ケースでそれぞれ課せられる税金について解説します。
共有持分の売却で発生する税金
共有持分の売却で発生する主な税金は、主に次の通りです。
- 譲渡所得税や住民税
- 印紙税
- 不動産取得税
- 登録免許税
売主には、売却益が出た場合に譲渡所得税や住民税が課せられます。一方で、買主には不動産取得税が発生します。印紙税と登録免許税は法律上は買主・売主が連帯して納付する義務がありますが、実務慣行として印紙税は売主・買主の折半、登録免許税は買主側が負担するケースが一般的です。
譲渡所得税や住民税
共有持分を売却して利益が出た場合、利益(譲渡所得)には所得税と住民税が課税されます。これは給与などの所得とは別に計算される「分離課税」となります。
まず売却した際の譲渡所得の計算式は以下のとおりです。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除(該当する場合)
取得費は不動産を取得した際にかかった費用のことで、購入代金(減価償却後)、仲介手数料、リフォーム、設備の費用などが含まれます。取得費がわからないときは、売却金額の5%を取得費として計算できます(取得費が売却金額の5%を下回るときも5%で計算可)。
譲渡費用には、不動産を売却する際にかかった仲介手数料、印紙税、測量費、立ち退き料、建物の解体費用などが含まれます。
また、一定の条件を満たす場合には「特別控除」が適用されることもあります。たとえば「マイホームを売ったときの特例(控除額3,000万円)」などがあります。
これらを計算して算出した譲渡所得に、「不動産を売却した年の1月1日時点での所有期間に応じた税率」を乗じれば、所得税と住民税が算出できます。
| 所有期間 |
譲渡所得税率 |
住民税率 |
長期譲渡所得
(1月1日時点で5年超) |
15% |
5% |
| 短期譲渡所得 |
30% |
9% |
※復興特別所得税を考慮したときの合計税率は、長期譲渡所得20.315%、短期譲渡所得39.63%
以下では、共有持分を売却したときの簡単な計算を行いました。
- 所有期間:売却した年の1月1日時点で7年
- 売却価格:1,000万円
- 取得費:500万円
- 譲渡費用:100万円
- 特別控除:なし
1,000万円-500万円-100万円=譲渡所得400万円
400万円×20.315%=81万2,600円(所得税60万円、住民税20万円、復興特別所得税1万2,600円)
なお、譲渡所得税や住民税の確定申告の期限は、売却年の翌年2月16日~3月15日です。
参考:国税庁「土地や建物を売ったとき」
参考:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
参考:国税庁「No.3308 共有のマイホームを売ったとき」
印紙税
不動産の売買契約書や贈与契約書を作成するときは、収入印紙による印紙税の支払いが必要です。
収入印紙は、法務局や郵便局で購入できます。コンビニでも購入できるものの、原則として200円の収入印紙しか取り扱っていないため、高額の収入印紙が必要になるときは法務局や郵便局で購入しましょう。
必要な印紙税の金額は次の通りです(令和9年3月31日まで軽減措置が適用)。
通常の印紙税
|
1万円未満
|
非課税
|
|
1万円以上10万円以下
|
200円
|
|
10万円を超え50万円以下
|
400円
|
|
50万円を超え100万円以下
|
1千円
|
|
100万円を超え500万円以下
|
2千円
|
|
500万円を超え1千万円以下
|
1万円
|
|
1千万円を超え5千万円以下
|
2万円
|
|
5千万円を超え1億円以下
|
6万円
|
|
1億円を超え5億円以下
|
10万円
|
|
5億円を超え10億円以下
|
20万円
|
|
10億円を超え50億円以下
|
40万円
|
|
50億円を超えるもの
|
60万円
|
|
契約金額の記載のないもの
|
200円
|
軽減措置
|
記載された契約金額
|
税額
|
|
10万円超
|
200円
|
|
50万円超
|
500円
|
|
100万円超
|
1千円
|
|
500万円超
|
5千円
|
|
1,000万円超
|
1万円
|
|
5,000万円超
|
3万円
|
|
1億円超
|
6万円
|
|
5億円超
|
16万円
|
|
10億円超
|
32万円
|
|
50億円超
|
48万円
|
※契約金額の記載がないもの、および贈与契約書の場合は一律200円です。
参考:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
不動産取得税
共有持分を他の共有者に売却する場合、買主側には不動産取得税が課せられます。不動産取得税額、共有持分の評価額(原則として固定資産税評価額)に応じます。
不動産取得税=(固定資産税評価額×共有持分割合)×税率
不動産取得税の標準税率は4%ですが、2027年3月31日までに取得した住宅・土地であれば軽減措置が適用され税率が3%になります。
登録免許税
自分の共有持分を他の人へ譲渡する場合、所有権の移動に伴う所有権移転登記(持分移転登記)が必要になります。共有持分の移転登記も、他の不動産の移転登記と同じく登録免許税の支払いが必要です。
| 登記の種類 |
金額(税率) |
一般的な負担者 |
所有権移転登記
(名義変更) |
固定資産税評価額×2%
(土地は2026年3月31日まで1.5%) |
買主 |
たとえば固定資産税評価額が1,000万円の不動産を譲渡する場合、20万円(土地なら15万円)の登録免許税が発生します。
登記関係を司法書士や弁護士などの専門家に登記を依頼するときは、さらに1件あたり3万円~10万円ほど追加でかかります。
共有持分の贈与で発生する税金
共有持分の贈与で発生する税金は、共有持分の評価額に応じた贈与税、贈与契約書の印紙税200円、固定資産税評価額に応じた不動産取得税や登録免許税です。
いずれの税金も、受贈者にのみ発生します。印紙税、不動産取得税、登録免許税については、「共有持分の売却で発生する税金」にて解説した通りです。
とくに高額になるのが、贈与税です。
贈与税(暦年贈与)の計算式は以下のとおりです。
贈与税={(不動産の相続税評価額(※)×共有持分割合)-基礎控除110万円}×税率-課税価格に応じた控除額
※建物の場合は固定資産税評価額、土地の場合は路線価方式または倍率方式で求めた金額が一般的です。
贈与税の税率は、課税価格に応じて10〜55%で設定されます。通常は「一般贈与財産用」として計算しますが、直系尊属からの贈与だったときは「特別贈与財産用」の税率を適用します。
一般贈与財産用
| 基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
| 200万円以下 |
10% |
ー |
| 300万円以下 |
15% |
10万円 |
| 400万円以下 |
20% |
25万円 |
| 600万円以下 |
30% |
65万円 |
| 1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
| 1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
| 3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
| 3,000万円超 |
55% |
400万円 |
特別贈与財産用
| 基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
| 200万円以下 |
10% |
ー |
| 400万円以下 |
15% |
10万円 |
| 600万円以下 |
20% |
30万円 |
| 1,000万円以下 |
30% |
90万円 |
| 1,500万円以下 |
40% |
190万円 |
| 3,000万円以下 |
45% |
265万円 |
| 4,500万円以下 |
50% |
415万円 |
| 4,500万円超 |
55% |
640万円 |
参考:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
「建物の固定資産税評価額が3,000万円」「共有持分割合が1/3」「一般贈与財産」という贈与だった場合、贈与税額は次の通りです。
{(3,000万円×1/3)-110万円}×40%-125万円=贈与税額231万円
共有持分の放棄で発生する税金
共有持分の放棄で発生する税金は、印紙税以外は贈与の場合と同じです。共有持分の放棄は、贈与扱いで各共有者に帰属すると実務上解釈されるからです。
つまり、放棄によって共有持分が帰属した共有者全員に、贈与税、不動産取得税、登録免許税が課せられます。
<共有持分を放棄して贈与税が発生する具体例>
固定資産評価額3,000万円の建物を4人で25%ずつ共有している場合に、1人が放棄して共有持分(750万円)が他の3人に分配されると、1人あたり250万円の利益を得ることになります。
贈与税の課税価格=250万円(利益)−110万円(基礎控除)=140万円
1人あたりの贈与税=140万円(課税価格)×10%(税率)=14万円
共有持分の放棄によって、共有者1人につき「14万円」の贈与税を支払うことになります。
共有物分割請求で発生する税金
共有物分割請求で発生する税金は、分割方法によって変わります。
| 共有物分割請求 |
発生する税金 |
| 現物分割 |
・分筆時の登録免許税
・共有持分割合を上回った部分を取得した場合は、その部分について贈与税や不動産取得税が課せられる可能性あり |
| 換価分割 |
・得られた売却代金に応じた譲渡所得税や住民税
・登録免許税
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| 代償分割 |
・代償金を受け取った側に譲渡所得税や住民税
・共有持分を取得した側に不動産取得税や登録免許税 |
共有持分を譲渡する際の注意点
共有持分を譲渡するときは、単独名義の不動産を譲渡するときとは異なる以下の注意点があります。
- 他の共有者へ事前に相談しトラブルの発生を防ぐ
- 登記簿謄本で自分の持分割合を把握しておく
- 共有不動産の住宅ローンや抵当権を確認する
- 持分移転登記を必ず行う
- 共有持分の譲渡で得た利益は確定申告を行う
それぞれの詳細を見ていきましょう。
他の共有者へ事前に相談しトラブルの発生を防ぐ
共有持分の譲渡を行う旨は、他の共有者へ事前に相談しトラブルの発生を防ぐようにしましょう。
仮に何も相談せずに第三者へ売却や譲渡を行うと、他の共有者にとっては突然見知らぬ人と不動産を共有することになり、トラブルの原因につながります。
「赤の他人と一緒に不動産を所有している」という状態は、心理的な抵抗を感じる人も多く、信頼関係が損なわれる恐れもあります。
とくに売却先が悪質な買取業者だったときは、他の共有者の共有持分の強引な売却や、共有不動産の無許可の解体工事などを行うリスクも想定できます。
登記簿謄本で自分の持分割合を把握しておく
共有持分を譲渡する前に、登記簿謄本にて自分の持分割合を把握しておきましょう。
持分割合を把握しておけば、売却時の査定や贈与時の交渉などがスムーズに進められます。
共有持分の割合は、不動産登記の中でも基本的な情報の1つとして記載されているため、登記簿謄本を取り寄せれば正しい割合が確実にわかります。
共有不動産の住宅ローンや抵当権を確認する
共有不動産に住宅ローンや抵当権が残っていると、共有者全員の同意があっても共有不動産をスムーズに売却できない可能性があります。
住宅ローンは住宅ローンを組んだ金融機関への問い合わせ、抵当権は登記簿謄本にて確認が可能です。
住宅ローンが残っているときは、住宅ローンを債権者である金融機関の承認を受けて売却する必要があります。売却益は住宅ローンの返済に使い、それでも返済しきれないときは引き続き返済を続けなくてはなりません。
また、抵当権が残っている不動産は、競売にかけられるリスクがあるため買手から敬遠されやすく、売却が難航する原因になります。
売却を進めるためには、原則として抵当権抹消登記を行い、担保権を外す必要があります。抵当権抹消登記を進める方法は以下のとおりです。
- 住宅ローンを全額返済する
- 不動産の売却益を住宅ローン返済に充てて、完済する
- 金融機関の了承を経て抵当権を消してもらい、任意売却を行う(信用情報に登録されるリスクあり)
このように、住宅ローンや抵当権の状況によって譲渡の可否が変わってくるため、必ず事前に確認を取りましょう。
持分移転登記を必ず行う
共有持分を譲渡するときは、持分移転登記を行い、共有持分に関する名義を変更しておきましょう。
売買契約や贈与契約が成立しても、登記上の所有者が変更されていない場合は、元の名義人に管理責任や固定資産税などの納税義務が発生し続けることになります。
持分移転登記を自分で進めるのは難しいため、司法書士などの専門家へ依頼するのが一般的です。
共有持分の譲渡で得た利益は確定申告を行う
共有持分を売却した人、贈与で共有持分を得た人などのうち、課税所得や基礎控除額を超える受贈額が発生した人はその分の所得税もしくは贈与税の確定申告が必要です。
確定申告の申告は、課税所得等が生じた年の翌年にて、以下の期限内に行う必要があります。
- 所得税:2月16日~3月15日
- 贈与税:2月1日~3月15日
期限内に確定申告ができない場合は無申告加算税、本来の納付額よりも少ない金額で申告したときは過少申告加算税が、ペナルティとして課させる可能性があります。
まとめ
共有不動産の共有持分は、主に以下3つの方法で譲渡できます。
上記の他には、法的拘束力によって共有状態の解消を求める、共有物分割請求という最終手段もあります。自分の状況や希望に応じた方法を選び、適切な譲渡を行いましょう。
共有持分を譲渡すれば、複雑な権利関係から解放されるうえ、共有持分割合に見合った利益を得られます。ただし、譲渡に際しては税金や費用などが発生するため、あらかじめ確認しておきましょう。
どの方法で共有持分を手放すか迷ったときは、共有持分専門の買取業者への売却がおすすめです。専門の買取業者は共有持分の取り扱いに慣れており、スピーディかつ高額な買取が期待できます。
自分で判断が難しいときは司法書士や税理士、不動産会社などの専門家に相談しながら、共有関係の解消を図りましょう。