
不動産の投資家は、購入した不動産を賃貸に出して収益を得たり、転売して売却益を得たりします。
そして、共有不動産における共有者は、それぞれがもつ持分を各自の判断で自由に売却可能です。
この記事を読んでいる方は、「他の共有者が持分を投資家に売却するかもしれない」と不安に感じているのではないでしょうか?
さらに具体的な悩みとして、
・投資家に無理やり追い出されてしまうのではないか?
・投資家から「そちらの持分も買わせろ」といわれたり、逆に「こちらの持分を買い取れ」といわれるのでは?
といった不安を抱えているかと思います。
この記事では、共有名義不動産の持分が投資家の手に渡ったとき、どんなことが起こるかを不動産のプロが解説します。
内容としては、
・共有持分不動産を投資家が購入したらどうなるのか?
・投資家から購入されやすい、されにくい共有持分不動産の違いは?
・投資家に共有持分を購入されたときの注意点
この順番で、重要なポイントに絞ったわかりやすい解説をしていきます。
この記事を参考にすれば、持分売却後の投資家とのトラブルを防ぐことができるでしょう。
共有持分不動産を投資家が購入したらどうなるのか?
投資家が共有持分不動産を購入する目的は、その持分から利益を得ることです。
しかし、共有持分を購入したとしても、通常の不動産のように自由に活用することはできません。
そのため、共有持分を購入した投資家は主に、次のような対応を取ることが多いです。
- 他の共同名義人に取得した持分を売却する提案をする
- 他の共同名義人の持分を買取る提案をする
- 共有持分不動産が土地であれば分筆を提案する
- 収益不動産であれば、持分に応じた家賃を請求する
他の共同名義人に取得した持分を売却する提案をする
共有持分を相場より安く購入できた投資家がよく行います。仕入れ価格が持分の相場よりも低いので、相場通りに売却できるだけでも利益を手に入れられるからです。
投資家が相場より安く購入できるのは、下記のようなケースが多いです。
- もとの持分所有者に、急にまとまったお金が必要になった
- 共同名義人との関係性が悪く、すぐに共有持分不動産の名義人から解放されたかった
このような場合、売却を提案して受け入れてもらうまでに時間はかかるかもしれませんが、無理に相場以上の価格で売却する必要がないので、交渉も進みやすい点が魅力です。
他の共同名義人の持分を買取る提案をする
先ほどの取得した持分を売却するのとは逆の提案です。
他の共同名義人から持分を買い取って単独名義にして通常の不動産として売却することを目的とした対応になります。
まず、投資家が購入できているように、共有持分不動産は、各名義人の持分のみを売却できます。
しかし、持分のみでは購入した方も自由に利用できないため、売却価格の相場は一般的な不動産売却価格に持分割合を掛けた金額よりも安いです。
たとえば、単独名義の不動産であれば売却価格が3,000万円だったとします。そのうち、3分の1の持分のみを売却しようと思っても、売却価格は3,000万円に持分割合3分の1を掛けた1,000万円にはなりません。
その金額から2割~3割下がることも多く、700万~800万円が相場になります。
そして、投資家は他の共同名義人から、この相場に近い価格で持分を買い取っていくことで単独名義にし、共有名義が解消された通常の不動産として売却しようとします。
先ほどの例の続きで、残りの持分3分の2を取得するために、1,400万~1,600万円かかったとしても、合計で2,100万~2,400万円です。そうすることで、3,000万円で売却できる不動産が手に入ります。
単純に考えると投資家の利益は600万~900万円です。もし持分を取得してからすべての交渉がまとまるまでに3年かかったとしても、年間利回りで考えれば10%近くになります。
不動産投資の一般的な利回りが4%~5%程度なので、投資家にとっても利回りのいい投資対象というわけです。

共有持分不動産が土地であれば分筆を提案する
分筆は、1つの土地を登記簿上で2つ以上の土地に分けることです。
共有持分不動産における分筆は、共同所有者の持分割合に応じた土地評価額となるように分けて、それぞれの持分を単独名義に変えます。
単独名義になることで土地を自由に活用でき、市場価格で売却可能になるので、持分のみで売却するよりも高値で売却できます。
その売却益を得ることが、投資家が分筆を提案する目的です。もちろん土地の分筆は、元の持分の所有者でもできます。
しかし、それをせずに第三者の投資家に売却したということは、当事者同士での交渉が難しくなっている場合が多いです。投資家はそのような交渉に時間や手間がかかるリスクも織り込み済みで購入しています。

収益不動産であれば、持分に応じた家賃を請求する
共有持分不動産が収益不動産として賃貸に出されているものであれば、投資家は取得した持分に応じた家賃を得ることが目的です。
今までも共同名義人の中で家賃は分配されていたはずなので、このとき、他の名義人にとって家賃の分配先が変わる以外に差はありません。
このような収益不動産の持分を取得する投資家は、資産運用の一環として購入しています。
不動産の実際の管理は他の名義人や管理会社が行っていることが多く、投資家が空室対策やリフォームの検討に関わることはあまりありません。
不動産経営というよりも、株式や債券などの金融資産に投資するような感覚です。
あまり投資に馴染みがない方からすると、持分を投資商品のように購入するというのは少し不思議に思うかもしれません。
しかし、最近はマンションやビルなどの大型の実物不動産を小口化して、複数の投資家が出資し、共有する形の投資も一般的になってきています。
実物不動産を対象とした小口化不動産には2種類あり、不動産特定共同事業法で定められた賃貸型の仕組みが一口家主、任意組合型が単純小口化です。
この違いは、空室リスク対策が取られているか、取られていないかが大きいです。一口家主は、事業者が借上げているので、空室リスクはありません。
このように投資家にとっては、持分のみを購入して利回りを得ようとすることは珍しいことではないのです。
また、共有持分の不動産を取得する投資家は、日本人だけでなく中国や台湾などの海外個人投資家も増えています。ですが、その後の主な対応はここまで紹介したものと変わりません。
今、その共有持分不動産に住んでいる方を無理やり追い出すようなことはしないので安心してください。
投資家から購入されやすい・されにくい共有持分不動産の違いは?
ここまで共有不動産を購入した投資家のとる行動についてお伝えしました。そして、投資家が一般的な個人の購入者と異なる点は、住む目的では購入しないということです。
買取業者と同じように、購入した持分を利用して利益を得ることが目的です。
そのため、共有持分不動産という括りでは同じであっても、投資家から購入されやすいもの、されにくいものがあります。次から、それぞれの特徴について解説します。
投資家から購入されやすい共有持分不動産
投資家の目的は利益を得ることなので、投資家が購入しやすい共有持分不動産は、購入後に収益を確保しやすいものになります。
その条件は、共有不動産の立地が住宅地にあることです。投資家は基本的に住宅地にある土地や建物であれば、投資対象とみなします。
国内のどこにあろうと構いません。海外投資家も持分を購入しているように、住むことが目的ではないので、沖縄であろうと北海道であろうと購入されます。
その理由は、住宅地であれば、他の共同名義人の持分を買い取ったり、分筆したりして単独名義にしたあとで、市場価格で売却するときも買い手を見つけやすいからです。
また共同名義人の数も少ないほうが購入されやすいです。相場よりも安い価格で持分を購入し、その持分を他の共有者に売却する方法で利益を得ることもできますが、交渉の手間も考えればあまりいい投資対象ではありません。
投資家にとって利益が大きくなるのは、他の共同名義人の持分も相場程度の価格で買い取り、単独名義にしたあとで売却するときです。
そして、共同名義人の数が多すぎると単独名義にするまでに交渉の手間も時間もかかりすぎます。そのため、目安として共同名義人の数が3人以下であれば、投資家が購入しやすい共有不動産と言えます。
一方、収益不動産であれば、持分を取得することで、その持分割合に応じた家賃を受け取れる権利を得るので、共同名義人の数は問題になりません。
収益不動産の共有不動産は、利回りがどれくらいか、投資回収期間はどのくらいかで購入のされやすさは決まります。
購入されにくい共有持分不動産
次に、購入されにくい共有持分不動産の特徴です。一言にまとめると、収益化しにくい条件のものです。
主に以下の4つの特徴を持ったものになります。
1.市街化調整区域に立地している
市街化調整区域は、市街化を「抑制」すべき区域として指定されている場所です。
市街化調整区域には、農林漁業を営んでいる方の住宅など、一定の条件を満たした建築物以外、原則、住宅を建築できません。
またマイホームを建てられるとしても、建て方や規模に制限もあります。新築だけでなく、増改築や建て替え、リノベーションをするときでも、自治体から開発許可を得る必要があります。
このように制限が多いことから、市街化調整区域に立地している不動産は市場価値が低くなりやすいです。
そのため、持分取得後に交渉して他の共有者の持分も買取り、完全所有権にしても売却価格は安く、投資家にとってのメリットが小さいです。
ただ、最近では各自治体で市街化調整区域内での規制緩和も進められています。地域によっては、市街化区域と同じように誰でも建物を建てられるところもあるので、役所の担当者に聞くことが確実です。
2.田んぼや畑などの農地
次に共有持分不動産が田んぼや畑などの農地の場合です。
農地は、農地法の規定により農業を事業として営んでいる方や農地所有適格法人でなければ購入できません。これは持分のみの購入でも同様です。
したがって、資産運用目的で購入する投資家には購入されにくいです。農地であっても、宅地への地目変更を行うことで投資家の購入できる共有持分不動産となります。
しかし、地目の変更は共有物の変更行為にあたるので、共同名義人全員の合意が必要です。さらに農地から宅地への地目変更は許可制となっており、条件によっては不許可になる場合もあります。
このように手続きが複雑で、持分を取得するときにもスムーズに進まないことが多いので、投資家は敬遠しがちです。
3.持分に抵当権がついている
そのほか、共有持分不動産で、共同名義人の誰かが自分の持分に抵当権を設定しているものも投資家には購入されにくいです。共有持分不動産が土地の場合、分筆して単独名義にする対応を取ることが多くあります。
このとき、分筆後の土地にも抵当権の効力が及びます。
たとえば、300坪の共有持分となっている土地があり、それぞれの持分はAさんが4分の1、Bさんが3分の1、Cさんが12分の5だったとします。そして、Aさんが自己持分4分の1に抵当権を設定してZさんからお金を借りている状態です。
このような状況で投資家XさんがCさんから12分の5の持分を買取り、その後、それぞれの持分割合に応じて分筆して現地分割を行ったとします。
このとき、Zさんの抵当権の効力はAさんの取得部分だけに限定されるわけではありません。Zさんの抵当権の効力は、分筆後のそれぞれの土地でAさんの持分割合である4分の1の割合で及びます。
つまり、分筆してAさんが75坪、Bさんが100坪、Xさんが125坪の単独名義になったとき、Zさんの抵当権はXさんの取得した土地にも、Aさんの持分割合だった4分の1の割合で及ぶということです。
また、抵当権付きの持分も含めてXさんが買い取って単独名義にする場合も、Zさんの抵当権の効力は及ぶ可能性が高いです。もしAさんのZさんに対する返済が滞ると、抵当権を実行されてしまうリスクがあります。
そのため、持分を売却しようとしている方だけでなく、他の共同名義人の持分に抵当権が設定されていると、投資家として購入するリスクは大きくなるので、購入されにくいです。
4.共同名義人の中に行方不明者がいる
最後に、共同名義人の中に行方不明者がいる場合も投資家は購入を避けます。行方不明だからといって、共有持分不動産を全部売却や分筆するときに、同意が不要ということにはなりません。
このとき、行方不明者の代わりに不在者財産管理人を選任して、共有持分不動産に変更を加えるときには、家庭裁判所の許可も取る必要があります。
失踪宣告の制度を利用する方法もありますが、どちらも手続きに手間がかかり、投資家にとって、労力・リスクに対するリターンが小さいです。
そのような理由で、共同名義人に行方不明者がいるときも、投資家には購入されにくいです。

投資家に共有持分を購入されたときの注意点
最後に、投資家に共有持分を購入されたときの注意点をお伝えします。
予めお伝えしておきますが、多くの方が心配する「投資家から住んでいる家を無理やり追い出される」ということはないので安心してください。
ただし、投資家も不動産会社と同じように取得した持分から利益を出すことが目的なので、次のような提案や交渉をしてくるでしょう。
投資家から持分割合に応じた家賃相当の金額を請求される
共有持分不動産に住んでいる場合に影響があります。共有持分不動産は夫婦・親子間での共同購入や相続によって発生するのが一般的です。
つまり、他の共同名義人は法定相続人などの「身内」であることが多いので、そこに共同名義人の1世帯が独占して住んでいたとしても、特に家賃などは請求されなかったかもしれません。
しかし、実際のところ共同名義人は持分割合の範囲で自由に使用する権利が存在します。そして、共同名義人の1世帯がその対象不動産を独占していることは、他の共同名義人が使用できない状態は不平等な状況です。
そのため、事前に当事者同士で単独使用に関して合意する契約が交わされている場合を除き、共同名義人は持分割合に応じた賃料相当額を請求できます。
今までなかった「家賃」が発生するかもしれないということに注意する必要があります。

不当に安い価格で売却を依頼される可能性がある
投資家から他の共同名義人に対して「持分を買い取りたい」と提案があったときに注意したいポイントです。通常の不動産であれば、不動産一括査定サイトなどを利用して査定額から市場価格を把握することはできます。
ですが、共有持分不動産の持分のみの不動産売買の場合、この市場価格が参考になりません。
単独名義であれば9,000万円で売却できる不動産を共同名義で所有しており、あなたの持分が3分の1だったとします。このとき、持分割合をそのまま掛けても3,000万円にはならず、もっと安い価格で取引されます。
しかし、実際の取引額の相場はインターネットで調べられません。そのため、投資家から非常に安い価格で持分を売却してほしいと打診される可能性があります。
どのくらいの価格が適正価格なのか、一般の方には判断が難しいので、不当に安い価格でも受け入れてしまうかもしれません。
そのため、提案された価格が妥当かどうかは、不動産鑑定士に依頼し、適正な評価額を提示してもらうことが大切です。そうすれば、本来受け取れるはずだった金額以下で売却するような損を避けられます。

交渉がまとまらなかったときに、訴訟されて競売にかけられるリスクがある
共有持分不動産を投資家に購入されたときの一番の注意点は、競売にかけられるリスクがあることです。多くの投資家が、他の共同名義人との交渉ありきで持分を購入します。
そして、交渉を進めていくことで、取得したときよりも高く持分を売却したり、全部売却の提案をしたり、他の共同名義人から持分を買い取ったり、分筆したりします。
しかし、投資家が想像する以上に交渉が難航することもよくあります。そのような場合、共有物分割訴訟を起こす可能性があります。
訴訟を起こされると最初に現物分割が検討され、それが難しいときに代償分割か競売かのどちらかとなります。
ただし、現物分割は共有持分不動産が土地の場合を除き、難しいです。建物を現物分割することは難しいので、通常、訴訟を起こされると、代償分割か競売かのどちらかになります。
代償分割は、持分移転・持分買取と同じことを指します。投資家から提案があったときは断ったとしても、裁判の結果、代償分割となれば従うしかありません。
それでも代償分割であれば、持分を適正価格で売却できるのでまだいい方です。
問題は競売となったときです。投資家にも、他の共同名義人にも持分を買取る資金がなかったときには、その共有持分不動産は競売にかけられることになります。
一般的に、競売の落札価格は、共有持分不動産を全部売却するよりも非常に低い価格です。つまり、訴訟を起こされる前に全部売却していれば得られていた売却益よりも少なくなります。
このように、投資家に共有持分不動産を購入されたときには、かなり安く売却させられる可能性があることに注意が必要です。

まとめ
以上、投資家が共有持分不動産を購入したあとでとる行動と、投資家にとって購入しやすい・購入しにくい、共有持分不動産のそれぞれの特徴、投資家に購入されたときの注意点を解説してきました。
まとめると以下のようになります。
- 投資家は共有持分不動産を購入後に、他の共同名義人に提案や交渉をして利益獲得を進める
- 投資家に購入されやすい共有持分不動産は、住宅地にあり、収益化しやすいもの
- 投資家に購入されたときの最大の注意点は、共有物分割訴訟を起こされて競売にかけられること
他の共同名義人の持分が投資家に売却されたと聞くと不安に感じるでしょうし、実際、悪質な投資家であれば交渉もなしに訴訟を起こしてくる可能性もあります。
ですが、この記事を参考に、事前に投資家のとる一般的な行動やリスクを把握しておけば、問題が起きたときに専門家へ相談するなどして、納得できる解決策を見つけられるでしょう。