
住宅ローンの名義を「夫の単独にするか」「夫婦共有にするか」悩んでいませんか?
単独名義にするか共有名義にするかは、家の予算はもちろん、税金やその後の生活にまで影響を与えるものです。
そこで今回は夫婦が住宅ローンを選ぶときの方法や注意点を、元大手不動産会社勤務のライターが徹底解説していきます。

自分の状況に合った住宅ローンは?
住宅ローン選択で名義に関して具体的に考えられるケースは、以下の4つです。
- 夫の単独名義
- 連帯保証型の収入合算
- 連帯債務型の収入合算
- ペアローン
この4つの特徴を押さえることができれば、必ず自分たちにあった住宅ローンが選択できるはずです。
※この記事では夫に安定した収入があると想定して話を進めていきますが、夫が主夫をしていたり、妻の収入の方が多かったりする場合は、夫を妻と読み替えてください。
「単独名義」と「共有名義」
家を購入すると名義人を登記します。購入資金を1人で出したり、住宅ローンを1人の名義で借りたりする場合は、その人の単独名義となります。
一方、2人以上が出資する、2人以上で住宅ローンを組んで購入する場合は、その家の名義はお金を出した人たちの共有名義となります。
妻に収入や資産がない場合は、夫の単独名義にするしかありません。
でも今は共働きの世帯が多く、夫婦でローンを負担し、マイホームを夫婦の共有名義にするケースも増えています。
住宅ローンのパターンを考える前に、まずは家の名義を共有にすることでのメリットとデメリットを見ていきましょう。
共有名義のメリット
購入予算が上がる
共有にするということは、妻も出資したり住宅ローンを負担したりするということですから、単純に考えて購入できる家の予算が上がります。
住宅ローン控除が夫婦ともに受けられる
住宅ローン控除とは、10年間に渡って住宅ローンの年末残高の1%を控除してくれる制度です。ただ控除される額は、一般住宅なら年間40万円、優良住宅なら年間50万円です。
共有にすれば夫婦それぞれに住宅ローン控除が適用されるので、控除される額を引き上げることも可能です。
売却時の3,000万円特別控除も夫婦ともに受けられる
売却時に利益が出た場合、住民税と所得税が課税されます。ただし「マイホーム」の売却に関しては、利益から最大3,000万円が控除される制度があります。
この制度は共有者それぞれに適用となるので、夫婦の共有なら最大6,000万円の利益まで非課税とすることができます。
相続対策になる
あらかじめ夫婦で持分を分けておくと、どちらか一方が亡くなった場合に相続する資産を少なくすることができます。つまり相続税対策になるということです。
共有名義のデメリット
一方の収入が減ったり、なくなったりするリスク
夫婦の共有名義にして妻も住宅ローンを負担するとなると、心配なのが今後も継続して収入を得られるかどうかです。
特に女性は、出産や子育てで離職する可能性もあります。「出産後も働く」と今は思っていても、妊娠中や産後の体調、産まれてくる子供の状況によっては、離職を余儀なくされる可能性もあります。
離婚時にもめる可能性がある
家を夫婦共有にすると、離婚時に財産分与やこれからの住まいのことでもめる可能性が高くなります。共有名義の家の売却は、共有者全員の署名と捺印が必要です。
「私はこの家に住み続けたい!」
「いや財産分与するのだから売ってしまおう!」
と話が平行線になれば、売ることができません。売却するにしても、離婚する者同士が協力して売却活動をするのは苦痛になることも考えられます。
また、どちらか一方が住み続ける場合には、贈与とみなされ贈与税がかかることもあります。

相続時に問題になる可能性がある
夫婦に子がいれば、最終的に家を相続するのは子なのであまり問題にはなりません。しかし、子がいない人は配偶者に加え親や兄弟、姪や甥も法定相続人になります。
例えば、夫を亡くした妻は相続によって夫の甥っ子が共有者になるケースも考えられます。
そして妻も亡くなれば、持分は同様に妻の兄弟や姪、甥に相続されます。夫婦の共有にするということは、将来、相続人が増えたり、関係性の薄い者が共有者になったりする可能性もあるということです。

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住宅ローンの4種類の名義パターン
「単独名義」と「共有名義」の違いを説明しましたが、実は住宅ローンを組むパターンはこの二者択一ではないのです。考えられるパターンは、以下の4つです。
- 夫のみの単独名義
- 収入合算 連帯保証型
- 収入合算 連帯債務型
- ペアローン
ここから1つずつ解説しますので、それぞれのパターンの違いを確認していきましょう。
①1人で住宅ローンを組む
まずは夫が1人でローンを組むというケースです。当然ながら購入した家は夫の単独名義となります。
ローンの借入額を審査するにあたり、対象になるのは夫の収入だけですから、4つのパターンの中で借入額の上限額は一番低くなります。
単独名義の場合は、基本的に保証人を立てる必要はありません。
また、夫が死亡したり高度障害になったときにローン残債の返済を免除してくれる団体信用生命保険に加入するので、もしものときでも妻に債務は移行しません。
そのため、夫の単独名義の最大のメリットは、妻への負担がないことだといえるでしょう。
後述しますが、他の3つのパターンは、妻が連帯保証人になったり、妻が費用を負担するにもかかわらず妻の団信加入が認められていなかったりするので、債務不履行になったときやもしものときのリスクがあります。
以上の特徴から、夫の単独名義に向いているのは以下のケースだと考えられます。
- 妻が専業主婦、将来、仕事をするかわからない
- 夫の収入が十分にある
- 家の名義を夫の単独名義にしたい
②収入合算して連帯保証型で住宅ローンを組む
夫の収入だけでは予算が足りない場合は、妻と「収入合算」すればローンが通る可能性が高まります。
収入合算は、妻が「連帯保証」を負うのか「連帯債務」を負うのかで大きな違いがあります。まずは「連帯保証型」の説明をします。
連帯保証型の収入合算は、妻の収入を100%とはみなさず、50%ほどが審査対象となるのが一般的です。
例えば年収500万円の夫と、年間のパート収入が200万円の妻が連帯保証型の収入合算をしても、「年収700万円」とはみなされないということです。
妻の雇用形態や金融機関によってパーセンテージに差はありますが、妻の収入の審査対象が50%であれば、このケースの場合は夫婦合算で「年収600万円」とみなされます。
なぜ妻の収入のみなし額が少ないのかというと、「連帯保証人」は共有者や債務者の1人ではなく、あくまで夫の保証人でしかないからです。連帯保証人型の債務者は、あくまで夫1人です。
連帯保証人の役目は、債務者の返済が滞った場合に保証すること。基本的な考え方として、共有者ではないので家の持分はなく、毎月の支払い義務もありません。
ただし夫の返済が滞った場合には、債務は保証人である妻に移行します。また団体信用生命保険は、債務者である夫のみが加入できます。
妻が死亡・高度障害になっても、夫の債務はなくならないので注意が必要です。
以上の特徴から、連帯保証型の収入合算が向いているのは以下のようなケースです。
- 妻が正社員ではない、または正社員を続けていくかわからない
- 「あと少し」夫の収入が足りなくて、ローンが通らない
- 家の名義を夫の単独名義にしたい
③収入合算して連帯債務型で住宅ローンを組む
続いては収入合算の中でも、妻が「連帯債務者」になるパターンです。上記の表は、5,000万円の住宅ローンを「連帯保証型」と「連帯債務型」で組む場合の違いを示したものです。
両者の大きな違いは、妻も債務者の1人になるかどうかという点。
そのため、連帯債務型は夫・妻とも年収の100%まで合算可能です。夫も妻も債務者になりますが、前に「連帯」と付いていますよね。「連帯」とは、「2人で協力して」という意味です。
つまり「ローンを2人で協力して返済していく」というのが、連帯債務型の収入合算の特徴となります。
ローンの契約数自体は1本ですが、夫婦それぞれがローンを負担するので、妻も家の持分を持つことになります。
また負担する分を、両者別々の口座から引き落とすことも可能です。持分が共有になるので、住宅ローン控除も夫婦それぞれ受けることができます。
連帯債務型も連帯保証型と同様、団信に加入できるのは基本的に夫のみです。
(2017年よりフラット35は、夫婦連生団信「デュエット」により連帯債務の夫婦2人の団信加入を開始)
連帯保証型より妻の負担が大きい中、妻が団信に加入しないとなれば、負担割合によってはかなりのリスクになります。
参照:フラット35
もし夫が死亡すれば妻の債務は免除になりますが、妻が死亡した場合には、夫に全ての債務が降り注ぎます。たとえ負担割合が「夫:妻=1:1」であったとしてもそうです。
そのため夫と妻の負担割合が近い(1:1や3:2など)場合は、妻が死亡したときのリスクが大きいので、そのような場合は次に説明する「ペアローン」を選択するべきだと思います。
以上の特徴から、連帯債務型の収入合算が向いているのは以下のようなケースだと考えられます。
- 妻に安定した収入がある
- 妻の負担割合が少ない
- 家の名義を夫婦の共有にしたい
④夫婦ペアローンを組む
最後は、夫と妻が完全に別の住宅ローンを組むというパターンの「ペアローン」です。「連帯債務者」ではなく、両者が「債務者」になるということですね。
この場合、連帯保証人はお互いが担うことになります。
収入合算との大きな違いは、契約数が2本になるということ。そのためローン手数料も2倍、契約の手間も2倍となるのは難点だといえるでしょう。
ただしそれぞれが別の契約をするということでのメリットもあります。
それは各々が異なる返済期間でローンを申し込むことができるということです。
「妻は10年後も正社員として働いているかわからない…」というときには、夫の返済期間は最長の35年にしたいけど、妻の返済期間は10年にする、なんてこともできるわけです。
そしてペアローンの最大のメリットは、夫も妻も団体信用生命保険に加入できるということでしょう。
両者ともに債務者となるペアローンは、収入合算と違い妻も団信に加入できます。
つまり夫が死んでも妻が死んでも、債務が配偶者に移行することはなく、お互い自分の債務だけを返していけばいいということです。
持分もお互いが負担に応じて有することになりますから、住宅ローン控除もそれぞれ受けることができます。
ただやはり妻に安定した収入があり、それがずっと続く場合でないと、ペアローンは厳しいといえるでしょう。
そもそも非正規雇用や勤続年数が短い場合には、妻のローン審査は通りません。また妻が離職したからといって、妻の債務を夫に移行させることも簡単にはできないからです。
以上の特徴から、ペアローンに向いているのは以下のようなケースだと考えられます。
- 妻に安定した収入がある、また離職するつもりがない
- 夫婦ともに団信に加入したい
- 家の名義を夫婦共有にしたい
自分たちに合う住宅ローンの選び方
ローンの契約 | 団信 | ローン控除 | |
夫のみ | 1本 | 夫のみ | 夫のみ |
連帯保証型 | 1本 | 夫のみ | 夫のみ |
連帯債務型 | 1本 | 夫○ 妻△ | 夫と妻 |
ペアローン | 2本 | 夫と妻 | 夫と妻 |
4つの住宅ローンの特徴を上記の表にまとめてみましたが、どれがいいというのは一概にはいえません。言えることといえば、住宅ローンは無理のない返済計画をもとに考えるべきだということです。
「妻の収入を合算すればこの家が買える!」などといって、安易なローン選択と借入額を決定することは賢明ではありません。
住宅ローンの名義を考えるときに大事になってくるのは、妻の雇用形態でしょう。
やはり「専業主婦で収入合算」「パート社員でペアローン」などは普通に考えて無理です。
そして住宅ローンは、35年など長期に渡って返済していくものです。
現在は安定した収入がある妻も、将来の収入や雇用形態がどうなるかまで考えてローンを選択すべきです。
ここからは妻の雇用形態別に考える住宅ローンの選び方を説明していきます。
専業主婦
現段階で専業主婦の場合、住宅ローンは夫の単独名義にするほか選択肢はないでしょう。それでも家の名義を共有にしたい場合は、妻名義の住宅ローンは組めないので、妻の資金から現金を出すしかありません。
例えば5,000万円の家を購入するにあたり、500万円の頭金を妻が負担、残りの4,500万円を夫名義の住宅ローンで組むとすれば、家の持分は妻が1/10、夫が9/10として共有にすることができます。
パート社員
パート社員の場合はペアローンの審査は通らないので、夫の単独名義、または収入合算をするケースが考えられます。
パート社員の妻の収入は、多くの場合、夫の扶養内に収めているはずですから100万円前後ですよね。審査対象になる金額は、もっと低くなります。
妻がパート社員で収入合算をする場合は、「夫婦で負担を分け合う」というよりも、「夫の収入の足りない分を補う」という意味合いが強くなります。
「あとちょっと予算が足りない!」なんてときには有効な選択になりえますが、「あとちょっと」のために妻が連帯保証人になったり、連帯債務者になったりすることが賢明な判断なのかは、よく考えるようにしましょう。
契約社員や派遣社員
契約社員や派遣社員の場合は、なかなかペアローンの審査は通りません。そのため考えられるのは収入合算ですが、やはり非正規雇用は安定面で不安があります。
パート社員に比べて合算できる収入も多いでしょうが、だからこそ合算して住宅ローンを組んで、妻が解雇されてしまったときの夫の負担増が怖いともいえます。
まとまった収入があるといっても妻の負担はできるだけ少なくし、夫のサポート要員程度に留めておくのが堅実な判断です。
正社員
妻が正社員の場合は、4つのパターンのいずれも選択することができます。
ただ夫の単独名義以外の選択をするときに注意すべきことは、今働いている会社の産休の取りやすさや女性の働きやすさです。
この点が担保されていないと妻にいくら働く意思があっても働くことができなくなる可能性もあるからです。
「産休・育休制度がある」というだけではなく「先輩社員が産休・育休を経て職場復帰をしているのか」など具体的なところも見るべきです。
そして妻自身が本当に働き続けることができるのかも、今一度考えてみましょう。子どもができると「家庭に入りたい」「子どもとの時間を持ちたい」と考えるようになる人も多くいます。
ペアローンを選択したら、妻の収入がなくなるというのはあってはならないことです。収入合算においても妻の負担割合が大きければ、妻の離職によって年収負担率はかなり高まります。
正社員だからといって安易なローン選択はせず、必ず将来性をもって判断すべきです。
住宅ローンを共有名義にする際の注意点
住宅ローンを共有名義にする際は、妻の収入や雇用形態によって今回紹介した4つのパターンを使い分ける必要があります。
その他の注意点としては、次の3つのことがあげられます。1つずつ確認していきましょう。
1、出資分以上の持分にしない
「ペアローンを組んだ」「連帯債務で返していく」等、夫婦それぞれが出資する場合、家の名義も2人の共有にする必要があります。
このときの注意点は、資金の負担割合に応じて登記するということです。
3,000万円の家を購入するケースで考えてみましょう。夫は2,000万円の住宅ローンを、妻は1,000万円の住宅ローンを組んで家を購入したとします。
夫婦ペアローンですね。この場合「夫婦だし、持分は1/2ずつにしよう!」ではいけないのです。
厳密に言うといけないことはないのですが、出資の割合が「夫2:妻1」にもかかわらず、持分を「夫1:妻1」にするような場合、夫が妻に贈与したとみなされ贈与税が課税されてしまいます。
出資の割合が2:1なら、持分の割合も2:1にする必要があります。
2、「年収負担率」が高くなりがち
住宅ローンは、一般的に年間の返済額が年収の35%以内に収まっていないと審査が通りません。
年収に対する年間の返済額の割合は、「年収負担率」といいます。
例えば「夫の収入が足りないから、妻と収入合算する」というケースでは、夫の年収に対して負担率が35%を超える額を借り入れるということですよね。
そもそも理想的で無理のない年収負担率は「25%」といわれています。
共有名義にするからといって、夫の年収に対して負担率が40%、50%となってしまうのはやはりリスクが大きいといえます。
妻が正社員で居続けることが前提のペアローンならまだしも、収入合算なら年収負担率が高くなりすぎないよう気を付けるべきです。
「借りられる額」が「返せる額」とは限りません。
3、妻の収入がなくなった場合、「贈与」とみなされる場合も
連帯債務型の収入合算やペアローンは、妻が離職しないことを前提にしているはずです。
しかし出産や子育てで離職して収入がなくなり、妻が負担しているローン返済ができなくなったとしたら、多くの場合、夫が返済額を負担することになるでしょう。
しかしローンの負担率で家の持分を分けている以上、妻のローンを夫が代わって返済するとなれば、それは「贈与」とみなされてしまいます。
多額な贈与税を課税されないためには、妻の返済能力がなくなった時点で持分を変えるなど対応をする必要があります。
または離職してもなお返済が続けられるよう、妻の退職金や貯蓄を優先的に返済に充てるというのも1つの手です。
まとめ
夫婦共有名義でローンを組むことは「予算が上がる」「受けられる控除が増える」などのメリットがある反面、妻の収入状況や働き方によってはリスクもあります。
住宅ローンって借入額や借入先、金利など、考えることがたくさんありますよね。でもそれは、まず単独名義にするか共有名義にするかを決めてからです。
ここでの判断を間違わなければ無理のない返済計画が立てられますし、家の予算も明確になるでしょう。