「共有名義」とは1つの不動産を共同所有する状態
共有名義とは、1つの不動産を複数人で共同所有する状態をいいます。共有者はそれぞれが持つ持分割合に応じて所有権を持ち、法律上は不動産の全部を使用できる権利が認められています。これは民法249条から255条で定められている「共有」の仕組みに基づくものです。
共有名義になる主なケースは次のとおりです。
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ケース
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内容
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相続で複数人が不動産を引き継ぐ場合
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親の自宅や土地を子どもが複数人で相続し、そのまま共有状態になるケース
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夫婦で不動産を購入する場合
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夫婦で購入資金を負担しており、持分割合に応じて共有名義にするケース
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親子で住宅購入資金を出し合う場合
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住宅取得のために親が資金を援助し、出資額に応じて共有にするケース
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兄弟や親族で投資用不動産を共同購入する場合
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資産運用目的で不動産を共同取得し、持分を分け合うケース
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共有名義は一見合理的に見えますが、管理方法や意思決定のルールが法律で細かく決まっているため、後から大きなトラブルにつながるケースが非常に多くあります。
これまで多くの共有名義不動産の相談を受けてきた経験から、共有名義は様々なトラブルの原因となり後悔するケースが多いことがわかっています。次の章では「共有名義で後悔しやすい理由」を詳しく解説します。
不動産の共有名義で後悔してしまう主な理由
共有名義不動産では、誰か1人の判断で自由に売却・賃貸・変更ができないため、生活環境や共有者同士の関係性が変化すると大きな支障が生まれます。
共有名義で後悔してしまう主な理由は次のとおりです。
- 共有名義不動産を自由に処分・活用できないから
- 相続の発生で権利関係が複雑化するから
- 離婚時に財産分与でトラブルになるから
- 贈与税が発生する場合があるから
- 住宅ローンの手数料や登記費用が共有者の人数分必要になるから
- 固定資産税・維持管理費の支払いで揉めるから
- 共有名義不動産を占有された場合に共有者を追い出せないから
共有名義は一見平等で便利な制度のように思えますが、実際には「共有者全員の合意」が手続きの妨げになり、売却・賃貸・リフォームなどの重要な判断が進まなくなるケースが多くあります。ここからは、それぞれの理由について詳しく説明していきます。
共有名義不動産を自由に処分・活用できないから
共有名義の不動産では、売却・建替え・用途変更などの「処分行為」「変更行為」を行う際、共有者全員の同意が必要になります。これは、共有物の扱いに関する民法の規定が根拠で、特に民法251条では以下のように定められています。
民法251条(共有物の変更)
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。出典:出典:e-Gov法令検索「民法 第251条」
つまり、1人でも反対すれば手続きは前に進まず、共有者との関係性や状況によっては不動産が長期間放置されてしまうケースもあります。共有者の中に認知症の人や行方不明者が含まれる場合は、さらに手続きが困難になります。
認知症の共有者がいる場合
意思能力が失われているため、売却の同意を得ることができません。この場合は以下の対応が必要です。
- 家庭裁判所に成年後見人の選任を申立てる
- 後見人が本人に代わって同意する
- 売却など重要な行為には裁判所の許可が必要
後見制度は手続きに時間と費用がかかるため、共有名義の大きな負担になりやすい特徴があります。
行方不明者がいる場合
共有者と連絡が取れない場合、次の手続きが必要になることがあります。
- 所在等不明共有者持分取得制度
- 所在等不明共有者持分譲渡制度
- 不在者財産管理人の選任申立て
これらはいずれ<span class="bold">も裁判所を通す手続きであり、時間・費用の負担は大きくなります。こうした事情から、共有者全員の同意が得られず、不動産を活用できないまま放置されるケースも多くあります。
共有名義不動産の管理行為は共有者の過半数の同意が必要
賃貸に出す・契約を更新する・軽微な改装をするなど、不動産の利用・維持のための行為は「管理行為」に分類されます。
管理行為の判断基準は、民法252条で次のように定められています。
民法252条(共有物の管理)前段
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。出典:出典:e-Gov法令検索「民法 第252条」
つまり、共有者全員の一致は不要ですが、持分の過半数の同意がなければ管理行為はできません。共有者間の関係が悪化している場合には、過半数がまとまらず、賃貸化や契約変更ができないケースもあります。
共有名義不動産の保存行為は共有者の同意は必要なし
修繕や老朽化防止など、不動産の価値を維持するための行為は「保存行為」に分類されます。保存行為については、民法252条で次のように規定されています。
民法252条(共有物の管理)
各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。出典:出典:e-Gov法令検索「民法 第252条」
保存行為は各共有者の単独判断で行えますが、修繕費用の負担割合などについては別途話し合いが必要になる場合もあり、実務上はトラブルの原因になることがあります。
相続の発生で権利関係が複雑化するから
共有者の1人が亡くなると、その持分は他の共有者に移るのではなく、相続人へそのまま引き継がれます。こうした承継が続くと、持分だけが細かく分かれ、権利関係が把握しづらい状態になりやすくなります。
たとえば、最初は兄弟3人で共有していた不動産でも、次の世代になれば「配偶者+子ども+孫」など複数の相続人へ権利が分散し、気付けば「顔も知らない親族が共有者の一人になっていた」という状況も珍しくありません。そして、共有者が増えていくほど、実務では次のような問題が起きやすくなります。
連絡先がわからず、話し合いが進まなくなる
相続によって共有者が広がるほど、「誰に連絡すればいいのか」「今どこに住んでいるのか」さえ不明になるケースが増えます。住所変更をしていなかったり、海外に移住していたりすると、連絡を取るだけで数カ月かかることもあります。
必要書類が揃わず、売却手続きが止まる
売却や管理には、共有者全員の書類が必要です。しかし、相続を繰り返した不動産の場合、戸籍を複数世代さかのぼって相続人を特定する作業が必要となり、手続きが途中で止まってしまうケースが非常に多く見られます。
不動産会社が「権利関係の調査だけで時間がかかりすぎる」として、受託を断るほど複雑化する例もあります。
意思決定できる人がいなくなり、活用ができない
共有者が増えるほど、売却・賃貸・リフォームなどを決めるための合意形成が難しくなります。1人でも反対したり、連絡がつかない人がいたりすると、不動産を動かせない状態が長期間続くこともあります。
このように、共有名義は「いま問題がなくても、代を重ねるほど確実に複雑化する」という特徴があります。相続をきっかけにトラブルが一気に表面化するケースが多いため、共有のまま放置することには大きなリスクがあるといえるでしょう。
離婚時に財産分与でトラブルになるから
夫婦で共有名義にしていた不動産は、離婚時の財産分与で大きなトラブルになりやすいポイントの1つです。特に誤解されがちなのが、持分割合どおりに財産分与されるわけではないという点です。
夫婦の共有財産は、婚姻期間が長くなるほど「夫婦が協力して築いた財産」とみなされやすく、たとえ持分が2:1など偏っていたとしても、婚姻中に協力して形成した財産部分については原則として2分の1ずつに分けるのが一般的な考え方です。
たとえば、夫名義の負担が多かったとしても、専業主婦として家事・育児を担っていた妻の寄与が評価され、「実質折半」と判断されるケースも多くあります。ただし、購入時期が婚姻前か婚姻後か、頭金を誰が出したかなどによって、財産分与の割合は変わることもあります。
住宅ローンの残債が残っていると話し合いが難航する
離婚時の不動産トラブルで特に多いのが、住宅ローンが残っているケースです。近年は、ペアローンや連帯債務型など、夫婦それぞれがローン返済の義務を負う契約が多く見られます。
このようなローンは、離婚しても自動的に解消されるものではなく、離婚後も返済義務が残るため、「どちらが住むのか」「どちらが支払うのか」「連帯保証人はどうするのか」といった調整が難しく、合意形成に時間がかかりがちです。
「居住要件」により一括返済を求められるリスクがある
住宅ローン契約には、「債務者本人がその家に居住すること」を条件としている金融機関が多くあります。そのため、離婚によって夫か妻のどちらかが家を出た場合、銀行から一括返済を請求されるリスクが生じます。
たとえば、離婚後に妻がその家へ住み続けたいと希望していても、住宅ローンの契約者が夫で、夫はすでに別の場所で暮らしているというケースがあります。このような状況では、金融機関から「契約者本人がその家に住んでいること」という条件を満たしていないと判断され、ローンの継続を認めてもらえなかった例も少なくありません。
離婚すると、名義やローンの扱い、居住状況の変化が一気に重なり、不動産の管理が難しくなるケースが多くあります。共有のまま残すほど調整すべきことが増え、負担が長期化しやすいため、どのように整理するかを早めに検討することが大切です。
贈与税が発生する場合があるから
共有名義にする際は、本来「誰がいくら負担したのか」を正確に持分へ反映する必要があります。しかし実際には、出資額と持分割合が一致していないまま登記されてしまうケースも少なくありません。このように実態と異なる持分設定がされている場合、税務上は「出資していない側が財産を取得した」とみなされ、贈与税の対象となる可能性があります。
たとえば、購入費用を夫が全額負担しているにもかかわらず、登記上の持分を夫婦で2分の1ずつにするケースが典型です。この場合、妻が夫から「出資していない分の価値を贈与された」と判断され、思いがけない贈与税が発生することがあります。
ただし、贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、贈与額がこの範囲内であれば課税されません。贈与税は基礎控除を超えた部分に対して税率が適用され、金額が大きいほど税率も高くなるため、「登記後の説明で初めて知った」「申告期限が迫って慌てた」という相談もあります。
こうした思わぬ税負担を避けるためにも、登記前の時点で出資の実態を整理しておくことが重要です。持分の決め方1つで税務上の扱いが大きく変わるため、慎重に判断する必要があります。
住宅ローンの手数料や登記費用が共有者の人数分必要になるから
共有名義で住宅ローンを組む場合、見落とされがちなのが初期費用が人数分かかるという点です。単独名義では1人分で済む手続きも、共有者が複数いる場合は「人数分の契約」が必要になり、そのたびに手数料が発生します。
住宅ローンでは、一般的に次のような費用がかかります。
- 契約事務手数料
- 融資事務手数料
- 印紙税
- 抵当権設定時の登録免許税
- 保証会社事務手数料
共有者の数が増えるほど、これらの費用が累積し、単独名義より初期費用が大幅に高くなることがあります。さらに、登記に関しても同じで、所有者が複数いる場合はその人数に応じて手続きが増え、登録免許税などの負担が上乗せされます。ローンや登記の費用は契約後にまとめて請求されるため、「思った以上に費用がかさんでしまった」と戸惑う人も少なくありません。
こうした点を踏まえ、共有名義を検討する際は、住宅ローンや登記に関わる初期費用の全体像を事前に把握しておくことが重要です。
固定資産税・維持管理費の支払いで揉めるから
共有名義の不動産では、固定資産税や修繕費などの維持管理費を、共有者全員で負担する義務があります。特に固定資産税については、地方税法第10条の2で定められた「連帯納税義務」により、共有者のうち誰か1人でも未納があれば、他の共有者に対しても納税義務が及びます。
そのため、本来は全員で負担すべき税金であっても、「誰がどれだけ支払うのか」「持分割合に応じて負担するのか、それとも均等か」といったルールを決めていないと、支払いをめぐってトラブルになることが少なくありません。
さらに厄介なのが、支払いを拒否したり、滞納したりする共有者がいる場合です。固定資産税は自治体から「共有者全員へ同時に請求が届く」わけではなく、1人にまとめて請求されることも多いため、結果として他の共有者が立て替えざるを得ない状況も起こります。
維持管理費も同様で、
- 外壁や屋根の修繕
- 設備の交換
- 庭木の剪定
- 共用部分の清掃費
といった費用の負担をどう分けるかは、共有者同士で話し合って決めなければなりません。意見が合わずに修繕が進まないまま放置され、建物の状態が悪化するケースもあります。
こうした費用負担をめぐるトラブルは、共有者間の関係悪化にも直結するため、共有名義の大きなデメリットの1つといえます。
共有名義不動産を占有された場合に共有者を追い出せないから
共有名義の不動産では、共有者の1人が勝手に住み続けていても、他の共有者がその人を追い出すことはできません。これは、民法249条で定められているためで、共有者による占有は「権利に基づく正当な使用」と判断されるからです。
民法249条(共有物の使用)
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。出典:出典:e-Gov法令検索「民法 第249条」
そのため、
- 合鍵を勝手に替えられてしまった
- 連絡が取れないのに住み続けている
- 共有者の1人だけが家を事実上独占している
といった状況であっても、法律上はただちに退去を求めることができません。
使用料(家賃)を請求することはできるが必ず払ってもらえるとは限らない
共有者が単独で不動産を占有している場合、他の共有者は「持分に応じた使用料(家賃相当額)」を請求できます。しかし、実際には請求どおりに支払ってもらえるとは限らず、話し合いが難航するケースが多いのが実情です。
支払いに応じない場合は、使用料請求訴訟や明け渡し請求の可否をめぐる法的争いといった手続きが必要になることもあり、時間や費用の負担が大きくなります。
占有が続くほど、不動産の活用が一切できなくなる
共有者が占有したまま動かない状態が続くと、
- 売却の同意が得られない
- 修繕が必要でも話し合いができない
- 賃貸に出すことも不可能
といった問題が起こり、共有名義のデメリットが一気に表面化します。
共有名義では、「他の共有者が勝手に住んでいるから追い出す」というシンプルな解決はできません。法律に基づいた権利が絡むため、占有をめぐる対立は長期化しやすい点に注意が必要です。
不動産の共有名義で後悔している方は今すぐ共有状態の解消を
共有名義で抱える悩みは、話し合いがまとまらない・費用負担が偏る・名義や手続きが進まないなど、生活に直接影響するものが多く、そのままでは状況が改善しにくいのが特徴です。共有状態を続けるほど判断の自由度が失われ、いざ売却や名義変更が必要になったときに身動きが取れなくなるケースも見られます。
こうしたリスクを避けるためには、「いつか何とかしよう」と先延ばしにするのではなく、早い段階で共有状態を見直すことが大切です。共有名義には、合意形成の負担や手続きの複雑化など特有のハードルがあるため、明確な方法を選んで整理しておく必要があります。
共有状態を解消する主な方法は次のとおりです。
- 共有者全員の合意を得て、不動産全体を売却する
- 共有者全員の持分を買い取り、自分の単独名義にする
- 共有者に自分の持分を売却する
- 第三者に自分の持分を売却する
- 持分放棄を行う
- 共有物分割請求訴訟を申し立てる
- 土地の場合は分筆後、単独名義として所有権移転登記を行う
自分に合った解消方法の選び方
あなたの状況に合わせて、最適な解消方法を見つけましょう。
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あなたの状況
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おすすめの方法
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理由
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共有者全員が売却に同意している
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不動産全体を売却
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市場価格で売れて、取り分も公平
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自分が不動産を残したい&資金がある
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他の持分を買い取る
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単独名義になり自由に活用できる
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共有者が買い取ってくれそう
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共有者に持分を売却
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市場価格に近い金額で売れる
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とにかく早く抜け出したい
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第三者へ持分を売却
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単独で進められ最短で解消
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話し合いが完全に決裂している
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共有物分割請求訴訟
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裁判所が強制的に解消してくれる
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土地で形状的に分けられる
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分筆して単独所有
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物理的に共有関係を断ち切れる
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財産的価値は不要
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持分放棄
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自分の判断だけで即座に実行可能
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共有者全員の合意を得て共有名義不動産全体を売却する
共有者全員が同意できる場合、通常の不動産売却と同じ手続きで進められるため、市場価格に近い金額が得られやすいです。
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メリット
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デメリット
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・市場価格で売れる可能性が高い
・売却後に共有状態を完全に解消できる
・売却代金を持分割合で公平に分配できる
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・共有者全員の同意が必須
・1人でも反対があると売却が成立しない
・共有者と連絡が取れない場合は手続きが止まる
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売却を進めるうえでの重要ポイント
共有者全員の同意が絶対条件
1人でも反対すると売却自体が成立しません。共有者同士の関係性が良いうちに方針を固めることが重要です。<
市場価格に近い価格で売れる傾向がある
通常の売却と同じ扱いになるため、持分のみを売る場合と比べて価格が安定しやすい特徴があります。
代表者を決めると手続きが進めやすい
共有者全員が不動産会社とやり取りするのは非効率のため、代表者を決めると負担が軽減します。
売却代金の分配イメージ
- Aさん(持分1/2)→売却代金の50%
- Bさん(持分1/4)→売却代金の25%
- Cさん(持分1/4)→売却代金の25%
取り分がはっきりしているため、代金分配のトラブルは比較的起こりにくい方法です。
基本的な流れ
- 共有者全員で「売却するか」を話し合う
- 共有者の中から代表者を1人決める
- 不動産会社へ査定を依頼する
- 査定額・売却方針を全員で確認する
- 売買契約→決済→代金を持分割合で分配
売却自体はシンプルですが、「共有者全員の同意」という条件が最も大きなハードルになります。誰か1人でも反対に回ったり、連絡がつかない共有者がいたりすると、この方法は実行できません。
そのため、この方法を検討する場合は、共有者同士の関係がこじれていない段階で、早めに方針を固めることが成功のポイントになります。
【相続不動産の場合】相続登記が完了していないと売却できない
相続によって不動産を取得した場合でも、相続登記が完了していなければ売却手続きに進むことはできません。買主へ所有権を移転するためには、登記簿上の名義が正しく相続人へ変更されている必要があるためです。
2024年4月からは相続登記が義務化されており、正当な理由なく登記を行わず放置していると、過料(罰則)が科される可能性があります。相続が発生してから一定期間が経ってしまうと、戸籍の収集や相続人の特定に時間がかかり、売却までの手続きがより複雑になる点にも注意が必要です。
相続登記は自分で行うことも可能ですが、書類の準備や相続人全員の確認など専門的な作業が多いため、司法書士へ依頼するとスムーズに進みます。特に相続人が多いケースや代襲相続があるケースでは、専門家へ相談するメリットが大きいでしょう。
共有者全員の持分をすべて買い取って自分の単独名義にする
共有者全員の持分を買い取る方法は、共有状態を最もシンプルに解消できる手段です。不動産を自分ひとりの名義へまとめることで、売却・賃貸・リフォームなどの判断をすべて自分だけで行えるようになり、共有者との調整にかかるストレスから解放されます。
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メリット
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デメリット
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・自分ひとりの判断で不動産を自由に扱えるようになる
・共有状態を確実かつ完全に解消できる
・売却・賃貸・活用の自由度が大幅に向上する
・将来の相続や維持管理トラブルを避けられる
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・全共有者の同意が必須
・まとまった買取資金が必要
・共有者が売却を拒否すると成立しない
・価格交渉で対立が起こる可能性がある
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買取を進めるうえでの重要ポイント
共有者の同意が絶対条件
持分は強制的に買い取れないため、共有者全員の了承が必要です。誰か1人でも反対すれば、この方法は実現できません。
買取には多くの資金が必要
買取価格は協議で決まりますが、不動産全体の評価額を基準に提示されるのが一般的です。資金を住宅ローンで調達する場合は、金融機関の審査も通過しなければなりません。
根拠のある適正価格で交渉することが重要
共有者同士での話し合いは感情的になりやすいため、「不動産会社の査定書」「不動産鑑定士の評価額」といった裏付けとなる資料を準備しておくと、スムーズに交渉できます。
基本的な流れ
- 共有者全員に「持分を買い取りたい」旨を伝える
- 不動産会社へ査定を依頼し、不動産の評価額を確認する
- 査定額をもとに共有者と買取金額を協議する
- 金額・支払い方法などの条件を全員で合意する
- 売買契約を締結し、決済・名義変更を行う
- 自分ひとりの単独名義へ変更され、共有状態が解消される
単独名義にまとめる方法は、共有状態の悩みを根本から解消できる有効な手段です。一方で、資金の準備や共有者全員の協力が不可欠となるため、無理のない範囲で手続きを進める必要があります。
共有者が未成年の場合は「法定代理人」または「特別代理人」を立てる必要がある
共有者の中に未成年者が含まれている場合、その持分を売却する際は、未成年者本人が手続きに参加することはできません。法律上、未成年者の財産に関する行為は、原則として親権者(法定代理人)が代理して進める必要があります。
しかし、以下のケースでは注意が必要です。
親権者自身も共有者である場合
親が「売り手(未成年者の代理)」でありながら「買い手または共有者本人」という立場にもなるため、利益相反が生じます。このような場合は、家庭裁判所に申し立てて特別代理人の選任を受けなければ、持分の売却手続きを進められません。
特別代理人は家庭裁判所が選任する
親以外の第三者(親族や弁護士など)が特別代理人となり、未成年者の利益を最優先に判断します。
手続きには申立書の準備や必要書類の提出などが必要で、一般の人にとってはやや複雑です。誤りがあると手続きが滞るおそれもあるため、スムーズに進めたい場合は司法書士や弁護士へ相談することが望ましいでしょう。
共有者に自分の持分を売却する
自分の持分を他の共有者へ売却する方法は、共有状態を解消する手段として比較的スムーズに進めやすい選択肢です。共有者にとっては持分を集約でき、不動産の管理・活用における自由度が高まるため、双方にメリットがある形で取引がまとまりやすい特徴があります。
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メリット
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デメリット
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・話がまとまりやすく交渉がスムーズ
・持分を集約でき自由度が高まる
・第三者を挟まないためトラブルが少ない
・市場価格に近い金額になりやすい
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・共有者が買い取る意思・資金を持っていないと成立しない
・条件面で意見が割れることがある
・家族間だと感情的対立が起きやすい
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交渉を進めるうえでの重要ポイント
売却金額は持分割合に基づき決めるのが一般的
不動産の評価額(査定額)をもとに、持分に応じた金額を算定する方法が標準的です。適正な価格を把握するためには、不動産会社による査定や不動産鑑定士による評価などを事前に取得しておくと、共有者間での価格交渉がスムーズになります。
共有者に買い取る意思と資金があるかを確認する
買い手となる共有者に共有持分を買う意思と購入資金がない限り、この方法は選択できません。
感情的にならないように注意する
第三者が入らないぶん話は進みやすい反面、結論が出るまでに気まずくなる例もあります。必要に応じて専門家(司法書士・不動産会社)を間に入れると円滑です。
基本的な流れ
- 他の共有者へ「持分を売却したい」旨を伝える
- 不動産会社へ査定を依頼し、不動産全体の評価額を確認する
- 持分価値を算定し、売却価格の提案を行う
- 価格・支払い方法などの条件を共有者間で協議し、合意する
- 売買契約を締結し、決済と名義変更登記を実施する
- 買い手となる共有者の持分が増え、共有状態が簡易的に整理される
第三者に自分の持分を売却する
共有者間で合意が得られない場合や、早く共有状態から抜けたい場合に有効なのが、第三者へ自分の持分だけを売却する方法です。共有者の同意が不要なため、単独で進められる点が大きな特徴です。ただし、持分だけの売却は買い手が限られるため、通常の不動産売却より価格が下がりやすい傾向があります。
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メリット
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デメリット
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・共有者の同意を得なくても単独で売却できる
・短期間で共有状態から抜けられる
・専門業者に依頼すれば成約率が高い
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・売却価格は市場価格より大幅に低くなる
・一般の個人買主はほぼ見つからない
・共有者との関係が悪化する可能性がある
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第三者への売却を進めるうえでの重要ポイント
市場価値より価格が下がりやすいことを理解する
共有持分は、単独では自由に使えないため、通常は不動産全体の評価額×持分割合×30〜50%が相場です。買い手の多くは専門買取業者になります。
共有者の同意が不要なので早期に共有状態から抜けられやすい
全体売却や持分買取のような他の方法と違い、共有者に反対されても進められます。「とにかく早く抜けたい」という場合に最も現実的な選択肢です。
共有持分専門の買取業者を選ぶと成約しやすい
共有持分は一般的な市場で買い手がつきにくい一方、共有持分を収益化するノウハウを持つ専門業者であれば買取可能なケースが多く、売却までのハードルを下げやすいという特徴があります。
基本的な流れ
- 不動産全体の査定を依頼し、持分価値を把握する
- 持分買取に対応している専門業者を複数比較する
- 査定額・買取条件を確認し、納得できる業者を決定する
- 売買契約を締結し、決済を行う
- 買取業者が持分の登記を行い、売却完了となる
第三者への売却は「共有者と協議できない」「できるだけ早く共有から抜けたい」という場合に現実的な選択肢です。価格が下がるデメリットはあるものの、専門業者に依頼することでスムーズに進められる可能性が高くなります。
持分放棄を行う
持分放棄とは、自分の共有持分を手放し、他の共有者へ無償で譲渡する方法です。共有者の同意が不要で「自分の判断だけ」で実行できるため、最も迅速に共有状態から抜けられる手段の1つです。ただし、無償で譲渡される性質上、税務面や登記手続きの注意点もあります。
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メリット
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デメリット
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・共有者の同意が不要で単独で実行できる
・即座に共有状態から離れられる
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・他の共有者の協力がないと登記が進まない
・譲渡を受ける側に贈与税が発生する可能性がある
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持分放棄を進めるうえでの重要ポイント
共有者の同意なしで実行できる
持分放棄は「自分が持分を手放す」だけの行為であるため、他の共有者の同意は不要です。共有者と連絡が取れない状況でも実行できます。
無償で譲渡されるため贈与税の可能性がある
放棄した持分は他の共有者に「持分割合に応じて自動的に帰属」します。この受け取った価値が「贈与」とみなされる可能性がある点には注意が必要です。ただし、贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、この範囲内なら課税されません。
登記には結局他の共有者の協力が必要
持分放棄そのものは単独でできますが、所有権移転登記や必要書類の取りまとめなどは他の共有者の協力が不可欠です。協力が得られない場合、登記が滞り名義が変わらない状態が続くことがあります。
基本的な流れ
- 共有持分を放棄する意思を明確にする(書面化が望ましい)
- 他の共有者へ持分が帰属することを伝える
- 必要書類を準備し、司法書士へ手続きを依頼する
- 他の共有者と協力して登記手続きを進める
- 所有権移転登記が完了し、共有状態から離脱
持分放棄は「今すぐ共有状態から抜けたい」という場面で有効な選択肢です。ただし、税務面の扱いや登記手続きには注意しなくてはいけません。手続きが停滞しないよう、必要な工程を事前に把握しながら進めるようにしましょう。
共有物分割請求訴訟を申し立てる
共有者同士の話し合いがまとまらない場合、裁判所に共有状態の解消を求める「共有物分割請求訴訟」を利用できます。協議・調停でも解決できなかったケースでも、最終的に裁判所が分割方法を決定し、強制的に共有状態を解消できる点が最大の特徴です。
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メリット
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デメリット
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・共有者の同意が不要で裁判所が強制的に解消できる
・協議・調停で決着しなくても最終的に解決できる
・法的拘束力があり確実に共有状態を終わらせられる
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・手続きに時間と費用がかかる
・弁護士費用・鑑定費用などの負担が大きい
・裁判所の判断が必ずしも希望どおりとは限らない
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共有物分割請求訴訟では、裁判所が状況に応じて最適な分割方法を選択します。主に採用される方法は「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3種類です。
①現物分割
土地を分ける・建物を区分するなど、物そのものを分割する方法。ただし、不動産の形状や利用状況によっては現実的でない場合もあります。
②代償分割
物は特定の共有者が取得し、他の共有者へ代償金を支払う方法。居住中の共有者が取得したいケースで採用されやすい手法です。
③換価分割
不動産を売却し、得た売却代金を持分割合に応じて分ける方法。実務では採用されやすい分割形式です。
共有物分割請求を進めるうえでの重要ポイント
原則として協議→調停→訴訟の順で進む
いきなり訴訟をするのではなく、まず共有者同士で協議を行い、それでも解決しない場合は家庭裁判所の調停、最終手段として訴訟へ進む流れが一般的です。
裁判所の判断が優先される
分割方法は裁判官が選択するため、必ずしも自分の希望が通るとは限りません。
専門家のサポートが推奨される
裁判費用・弁護士費用・鑑定費用などの負担がかかり、手続きも複雑なため、多くのケースでは弁護士へ依頼して進めることになります。
基本的な流れ
- 共有者間で協議する
- 協議がまとまらない場合、家庭裁判所に調停を申し立てる
- 調停が不成立の場合、共有物分割請求訴訟へ移行
- 裁判所が分割方法(現物・代償・換価)を決定
- 決定に基づいて売却・分割・代償金支払いなどを実行
- 共有状態が強制的に解消される
訴訟は最終手段ですが、共有者の意見が対立してどうにもならない場合には唯一の出口となる方法です。時間とコストはかかりますが、確実に共有状態を整理したいときに有効です。
土地の場合は分筆後に所有権移転登記を行い単独名義にする
土地が共有名義になっている場合は、「分筆(ぶんぴつ)」によって土地を物理的に分け、それぞれを単独名義にする方法があります。土地を複数の区画に分けて登記し直すため、共有の権利関係を根本から分離できる点が特徴です。共有関係を継続する必要がなくなり、各自が独立した土地として自由に利用・売却できるようになります。
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メリット
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デメリット
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・共有関係を物理的に断ち切れる
・分筆後は各自が自由に利用・売却できる
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・測量費用・登記費用が高額になりやすい
・土地の形状や接道条件によっては分筆できない場合もある
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分筆を進めるうえでの重要ポイント
分筆は土地家屋調査士が行う専門手続き
分筆には正確な測量・境界確認が必要で、土地家屋調査士へ依頼して行います。境界確定に時間がかかることもあり、隣地所有者の立ち会いが必要になるケースもあります。
分筆後は単独名義へ所有権移転登記が必要
分筆が完了した後、その区画を誰が所有するのかを明確にするため、所有権移転登記を司法書士に依頼するのが一般的です。
土地の形状・接道条件で実現できないケースがある
分筆後の各土地が「建築基準法上の接道義務を満たしているか」が重要です。奥行が長すぎる土地や旗竿地(はたざおち)の場合、分筆した土地の一部が接道を失うため分筆できないことがあります。
基本的な流れ
- 共有者同士で「分筆して単独名義にする」方針を確認する
- 土地家屋調査士へ相談し、分筆の可否・必要費用を確認する
- 測量・境界確定作業を行う(隣地所有者の立ち会いが必要な場合あり)
- 法務局へ分筆登記を申請する
- 分筆後、各区画について所有権移転登記を行う
- 各共有者が単独名義の土地を取得し、共有状態が解消される
分筆は、共有状態を抜け出す方法として非常に有効ですが、土地の条件や測量の難易度によってはコストが高くなることもあります。実現可能かどうかを判断するためにも、早めに土地家屋調査士・司法書士へ相談しておくと安心です。
不動産の共有名義で後悔しないための事前対策
これから共有名義にすることを検討している方は、後悔しないために事前対策が重要です。共有名義での購入を検討している場合、後々のトラブルを避けるためには最初の取り決めをどれだけ明確にしておけるかが重要なポイントになります。
事前対策としては、次の3つを意識しておきましょう。
- 将来的な不動産の活用方法を事前にしっかりと話し合っておく
- ルールを詳細に取り決めて契約書に明記しておく
- 共有物分割禁止特約の登記をしておく
これらを購入前に整理し、書面として残しておくことで、共有名義のリスクを抑えながら、後悔やトラブルの発生を大幅に防げます。
将来的な不動産の活用方法を事前にしっかりと話し合っておく
共有名義にする前に、まず押さえておきたいのが「この不動産を将来どう使うのか」という大枠の方針です。購入した直後は仲が良くても、数年たつとライフステージが変わり、考え方が大きく変わることは珍しくありません。
たとえば、次のような場面を想定して話し合っておくと具体的なイメージがわきやすくなります。
- 将来売却する可能性があるのか、それとも長期保有を前提にするのか
- 誰かが住み続けるのか、賃貸に出すのか
- 転勤・介護・子どもの独立など、生活環境が変わったときにどうするか
「とりあえず今は半分ずつ持っておこう」という曖昧な状態だと、いざ売却や建替えの話が出たときに意見が割れやすくなります。
話し合う際は、感覚的な希望だけではなく、次のようなポイントもセットで確認しておくと認識のズレを防ぎやすくなるでしょう。
- 誰がどのくらいの期間住む想定なのか
- その間の固定資産税や修繕費をどう負担するのか
- 売却・賃貸へ切り替える条件(価格の目安・タイミングなど)
ここまで共有できていると、「状況が変わったら当初の約束どおり見直そう」という共通認識が持てるため、後の話し合いがスムーズになります。
ルールを詳細に取り決めて契約書に明記しておく
共有名義でトラブルになりやすいのは、「誰が、どの費用を、どのくらい負担するのか」「売却や賃貸を決めるときのルールがない」といったケースです。費用負担や意思決定のルールは、口頭の約束だけでは時間とともに解釈が変わりやすいため、覚書や共有契約書の形で書面に残しておくことが重要です。
契約書に盛り込んでおきたい主な内容の例は次のとおりです。
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決めておきたいルール
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具体的な内容の例
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所有割合と権利
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各共有者の持分割合、居住・使用の優先順位など
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費用負担
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固定資産税・修繕費・共用設備の更新費用などの負担割合
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管理・運営
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誰が窓口となって管理するか、連絡方法や意思決定の手順
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売却・賃貸の方針
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売却や賃貸を検討する条件、反対意見が出たときの扱い
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相続・持分の処分
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共有者が亡くなったときや持分を手放したいときの対応方針
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特に費用負担のルールが曖昧なままだと、「片方だけが税金や修繕費を払い続けて不満が溜まる」「どこまでが必要な修繕かでもめる」といったトラブルにつながりやすくなります。費用の種類と負担割合を一覧にして合意しておくと、後々の争いを避けやすくなります。
契約書は、自分たちだけで作成することも可能ですが、内容が複雑になる場合や金額が大きい場合は、司法書士・弁護士・不動産の専門家などにひな形の確認を依頼しておくと安心です。
共有物分割禁止特約の登記をしておく
「しばらくの間は共有名義のまま安定して使いたい」というケースでは、「共有物分割禁止特約」を検討する価値があります。共有物分割禁止特約とは、共有者全員の合意により「一定期間は共有物分割請求をしない」と約束する特約で、民法256条1項ただし書・2項に根拠があります。
民法256条2項では、この特約の期間を「最長5年」と定めており、期間が過ぎた後に改めて合意すれば、再度5年を上限として更新することも可能です。
民法256条2項
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。出典:出典:e-Gov法令検索「民法 第256条」
共有物分割禁止特約を活用すると、次のような場面で役に立ちます。
- 親が亡くなった後、一定期間は誰かが住み続ける前提で相続する場合
- 兄弟でセカンドハウス・別荘として一定期間共有で使いたい場合
- 事業用不動産を共有し、しばらくは売却や分割の話題を持ち出したくない場合
ただし、次の点には注意が必要です。
- 特約は共有者全員の合意がなければ成立しない
- 登記をしておかないと、将来持分を取得する第三者には対抗できない可能性がある
- 期間はあくまで最長5年であり、その後も共有を続ける場合は改めて方針を確認する必要がある
特に、後から新しく共有者が加わる可能性がある相続案件では、特約の内容を登記しておくかどうかで、のちの手続きのしやすさが変わってきます。
共有物分割禁止特約は「一生分割を禁止する」ものではなく、「一定期間は分割の話を持ち出さない」という合意を可視化する仕組みです。将来の見通しと照らし合わせながら、他の共有者とも相談して導入を検討するとよいでしょう。
不動産の共有名義に不安のある方は専門家に相談を
共有名義の不動産は、「売りたいのに共有者が反対して進まない」「相続や離婚が絡んで、何から手を付ければいいかわからない」といった場面で、一気に手続きが複雑になります。登記・法律・税金がすべて関わるため、自己判断だけで進めてしまうと、後から「税金の申告漏れがあった」「登記のやり直しが必要になった」といったリスクも生じます。
こうした負担を減らすうえで有効なのが、「専門家と連携している共有持分の買取業者や不動産会社」に相談することです。司法書士・弁護士・税理士と提携している業者であれば、窓口は業者に一本化しつつ、登記手続きや共有者との交渉、税金の確認までワンストップで進めてもらえるケースがあります。
自分でそれぞれの専門家を探して依頼する手間を省けるだけでなく、「どの順番で何をやればいいか」をプロの視点で整理してもらえるのが大きなメリットです。ここからは、共有名義の場面で力になってくれる3つの専門家と、どのような相談ができるのかを具体的に見ていきましょう。
司法書士:不動産の名義変更・相続登記に関する相談
司法書士は、不動産登記の専門家として、名義変更や相続登記、持分の売買に伴う所有権移転登記などを代理してくれる資格者です。相続登記は2024年4月から義務化され、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料が科される可能性があるため、共有名義の相続不動産をそのままにしている人は、早めの対応が欠かせません。
登記手続きでは、戸籍の収集や相続人の確定、遺産分割協議書の作成など、専門的な作業が大量に発生します。司法書士に依頼すれば、こうした書類の準備から登記申請まで一連の手続きを任せることができ、権利関係を整理したうえで売却や持分買取に進みやすくなります。
たとえば、次のような場面では、司法書士への相談を検討するとよいでしょう。
- 相続した不動産が兄弟姉妹との共有名義になっており、相続登記が終わっていない
- 共有者の1人が持分を第三者へ売却したため、登記簿上の名義を整理したい
- 離婚に伴って、夫婦共有名義だった不動産をどちらか一方の単独名義にしたい
共有持分の買取業者の中には、提携司法書士が登記手続きをまとめて担当してくれる会社もあります。そのような業者に依頼すれば、「自分で司法書士を探して依頼する」「手続きのたびに専門家ごとに説明し直す」といった負担を減らしながら、名義変更や相続登記をスムーズに完了させやすくなります。
弁護士:共有者とのトラブルに関する相談
共有者同士の意見が完全に対立している場合や、「占有している共有者が話し合いに応じない」「費用負担や売却方針で揉めている」といった紛争性の高いケースでは、弁護士への相談が重要になります。弁護士は法律問題全般の専門家として、共有物分割請求訴訟や使用料請求、明け渡しをめぐる争いなど、法的手続き全般を代理・サポートしてくれます。
共有名義で典型的な弁護士への相談シーンは、次のようなものです。
- 相続で共有になった実家について、兄弟の1人が住み続けて費用負担で揉めている
- 売却や建て替えの方針に反対する共有者がいて、話し合いが完全に行き詰まっている
- 共有状態を解消したいが、協議や調停では決着がつかず、裁判所の判断を仰ぎたい
共有物分割請求訴訟は、裁判所を通じて共有状態の解消を求める手続きで、現物分割・代償分割・換価分割などの方法から、裁判所が事案に応じて最適な分割方法を選びます。自分1人で訴訟を進めるのは現実的ではないため、訴訟を検討する段階では弁護士のサポートがほぼ必須といえるでしょう。
また、共有持分の買取業者の中には、弁護士と連携して共有者との交渉やトラブル対応を進めてくれるところもあります。こうした業者を窓口にすると、「自分が当事者として前面に出て家族とやり合う」というストレスを減らしながら、法的に妥当な落としどころを探りやすくなります。
税理士:譲渡所得税や相続税など税金面の相談
共有名義の不動産を売却したり、持分を譲渡・放棄したりする場合には譲渡所得税・相続税・贈与税・不動産取得税・登録免許税など、さまざまな税金が関係します。税理士は税務の専門家として、これらの税金計算や申告、節税の可否について具体的なアドバイスを行う役割を担っています。
たとえば、次のようなケースでは税理士への相談が有効です。
- 共有名義の不動産を売却する予定で、譲渡所得税がいくらかかるか知りたい
- 相続した共有不動産の分割方法によって、相続税や将来の譲渡所得税がどう変わるか確認したい
- 持分の贈与や代償分割を検討しており、贈与税や不動産取得税のリスクを把握しておきたい
代償分割の方法によっては、譲渡所得税や贈与税、不動産取得税など複数の税金が発生する可能性があり、遺産分割協議書の書き方1つで課税関係が変わる場合もあります。「後から大きな追徴課税を受けた」という事態を避けるためにも、分割方法や売却方法を決める前に税理士へ相談しておくことが重要です。
専門家と提携している買取業者であれば、売却や共有解消の相談と同時に税理士への税務相談につないでもらえるケースもあります。これにより、「不動産の出口戦略」と「税金の影響」をセットで検討できるため、共有名義から抜け出す方法をより現実的な数字に落とし込んで判断しやすくなるはずです。
不動産を共有名義にするメリット
共有名義にはデメリットも多い一方で、うまく使えば次のようなメリットがあります。
取得費用や税金を分担できる
購入費用や取得時の税金を複数人で負担でき、1人あたりの資金負担を抑えやすくなります。
住宅ローン審査に通りやすくなる
夫婦や親子で収入を合算することで、単独名義よりも融資額が増えたり、審査に通りやすくなったりするケースがあります。
住宅ローン控除(減税)が適用される
各共有者が要件を満たしていれば、それぞれが自分の負担分について住宅ローン控除を受けられる可能性があります。
3,000万円特別控除の特例が適用される
居住用のマイホームを売却する際、共有者ごとに3,000万円特別控除を利用できる場合があり、譲渡益の税負担を抑えやすくなります。
相続税の節税対策になる
生前から共有にしておくことで、相続時の財産が複数人に分散され、結果的に相続税の負担が軽くなるケースもあります。
離婚時に一方的に家を売却されずに済む
共有名義であれば、原則として共有者全員の同意がないと売却できないため、一方的に処分されるリスクを減らせます。
管理にかかる労力や費用を分担できる
固定資産税や修繕費、日常の管理業務を複数人で分担でき、1人に負担が集中しにくくなります。
相続財産を平等に分割できる
兄弟姉妹などで持分をそろえて共有にすると、「ひとまず公平に分けた」という形にしやすくなります。
共有名義を検討する際は、こうしたメリットと、前後の章で解説しているデメリット・解消方法をセットで比較し、自分たちの状況に合うかどうかを冷静に判断していきましょう。
まとめ
共有名義は、家族や親族との信頼関係を前提に成り立つ一方で、法的にはそれぞれが独立した所有者として権利と責任を負う仕組みです。そのギャップが、「共有名義にしたことを後悔している」「トラブルが怖くて一歩を踏み出せない」といった悩みにつながりやすくなります。
▪️共有名義で後悔する主な理由
- 処分・活用の自由がない→共有者全員の同意が必要
- 相続で権利関係が複雑化→世代を経るごとに共有者が増える
- 離婚時にトラブル→持分割合≠財産分与の割合
- 予期せぬ贈与税→出資額と持分が一致しないと課税
- 初期費用が高い→人数分の手数料や登記費用
- 費用負担で揉める→連帯納税義務で立て替えリスク
- 占有されても追い出せない→共有者の使用権限がある
▪️あなたが今日からできること
◻︎すでに共有名義で後悔している方
- まず自分の持分の価値を知る(複数業者に査定依頼)
- 共有者との関係性を整理する(話し合い可能か?)
- 解消方法を選択する(この記事の判断基準表を参照)
- 専門家に相談する(司法書士・弁護士・税理士)
◻︎これから共有名義を検討している方
- 本当に共有名義が必要か再検討する
- 将来の活用方法を具体的に話し合う
- 費用負担や管理ルールを契約書に明記する
- 定期的に見直す機会を設ける(年1回など)
共有名義の後悔は、黙って耐え続けるしかない問題ではありません。共有者同士で今後の方針を話し合う、自分の持分の整理方法を検討する、専門家や共有持分の買取業者に相談してみるなど、できる対処法はいくつもあります。「いつか何とかしよう」と先延ばしにするほど、状況は複雑化します。
まずは「自分の持分が今どのくらいの価値なのか」「どんな選択肢が現実的なのか」を把握するところから始めてみてください。