
住宅ローンを組むとき、その購入対象となる不動産を担保に抵当権を設定することが一般的です。一生住み続けようと思って買ったマイホームも、事情が変われば売却しなければならないこともあるでしょう。
このとき、住宅ローンを返済中の抵当権付き不動産は売却できるのだろうか、と疑問に感じていると思います。
結論をお伝えすると、原則、抵当権付きの不動産は売却できません。ただし、引き渡し時に住宅ローン残高を完済できるのであれば、売却できます。
また、住宅ローンは完済していても、抵当権を抹消していなければ、その不動産は抵当権付き不動産のままとなっている点にも注意が必要です。
では、抵当権が付いているかどうか、どのように確認すればよいのでしょうか?そして、抵当権が付いていた場合はどのように対応すればよいのでしょうか?
この記事では抵当権の確認方法から、抹消登記の手続きや費用、抵当権付き不動産を相続したときの対応について詳しく解説します。
これを読めば、抵当権付き不動産を売却するための対応法が理解できるでしょう。
目次
抵当権とは?
抵当権とは、金融機関が住宅ローンなどを融資するときに、担保に取った不動産に対して設定する権利のことです。
不動産に対して抵当権設定登記をすることで、万が一、お金の借主が住宅ローンを返済できなくなったときには、抵当権を実行します。
そして、担保である不動産を競売にかけ、その代金を、借主が返しきれていないローンの弁済に充てることで貸し倒れを防ぐことができます。
抵当権とは、融資した金額を確実に回収するための保険のようなものだと考えてください。住宅ローンでは、土地と建物の両方に抵当権を設定することが一般的です。
抵当権の確認方法
親の自宅を相続することになったときなど、抵当権が設定されているかどうかわからないことがあります。これを確認するには、登記簿謄本を取得することで可能です。
不動産会社や税理士などの専門家に依頼してもよいですが、難しい手続きではないので、自分で取得するほうが安く、早いでしょう。登記簿謄本の取得方法と確認する箇所を順番にお伝えします。
登記簿謄本の取得方法
登記簿謄本は住民票や戸籍謄本とは違い、誰でも取得することができます。その不動産の所有者である必要はありません。
そのため、以下の場合でも、対象不動産の所有者の承諾なく、確認できます。
・次に購入しようと考えている不動産の抵当権設定の状況について確認したい
ただし、登記簿謄本を取得するには、登記記録上の土地・建物の地番と家屋番号が必要です。これらは普段私達が使っている住所、マンションの部屋番号とは異なるので注意してください。
ご自身の不動産であれば、登記完了証や登記識別情報通知書、登記済証などから確認できます。
こういった書類がない場合には、土地・建物の所在地を管轄する登記所に備え付けられたブルーマップという地図から調べます。
調べたい土地・住所の管轄区域が近くの法務局でない場合、直接その管轄の法務局に電話して、住所を伝えることで教えてもらうことができます。
管轄区域は法務局のホームページにまとめられているので、参考にしてください。
参照:法務局
そして、地番・家屋番号まで判明したら、登記簿謄本を取得します。請求方法は下記の3つです。
(2)郵送で請求する
(3)インターネットを利用してオンラインで請求する
また、請求時の書類には「登記事項証明書」とだけ表記されている場合もありますが、登記簿謄本と同じものを指しているので、そのまま「登記事項証明書」を請求していただいて大丈夫です。

(1)法務局の窓口で請求する
請求可能時間は、窓口での業務取扱時間と同じで、平日の午前8時30分から午後5時15分までです。法務局に置いてある不動産用の登記簿謄本交付申請書に必要事項を記入して窓口に提出します。
登記簿謄本には、以下の4種類があります。
・現在事項証明書
・一部事項証明書
・閉鎖事項証明書
そのため、どれを請求すればよいか迷ってしまうかもしれません。
今回の目的は、対象の不動産に現在抵当権が設定されているかどうかを確認することなので「現在事項証明書」を請求することをおすすめします。
全部事項証明書には、抹消された抵当権も記載されていて、登記簿謄本の見方に慣れていなければ読み取りが難しくなるからです。
登記簿謄本の発行手数料は、1通あたり600円です。手数料は現金ではなく収入印紙・登記印紙を申請書に貼って納付します。
ほとんどの場合、法務局内で販売されているので、事前に準備しておく必要はないので安心してください。
(2)郵送で請求する
申請書に記入するのは、窓口で請求するときと同じです。請求書は以下からダウンロードできます。
手数料が1通あたり600円という点も同じです。収入印紙は郵便局でも購入できるので、あらかじめ用意しておきましょう。
また、郵送時には、収入印紙を貼り付けた請求書のほか、返信用の切手を貼った封筒も同封する必要があります。封筒には返信先となる自分の住所を記載するのも忘れないようにしてください。
(3)オンラインで取得する
登記・供託オンライン申請システムを利用します。
「登記ねっと」・「供託ねっと」の2つのサービスがあり、不動産の登記簿謄本を請求する場合は「登記ねっと」の「登記事項証明書/地図・図面証明書の交付請求」です。
登記ねっとから請求する不動産情報を入力する方法は、オンライン物件検索という機能を使う方法と直接入力する方法の2種類があります。
あらかじめ、地番と家屋番号は調べていますが、オンライン物件検索を使って登記事項証明書を申請することがおすすめです。
直接入力では、入力内容に誤りがあって物件を正しく特定できず、欲しい不動産の証明書を請求できない可能性があるからです。
また、登記ねっとの利用には、事前に申請者IDを取得する必要があるので、申請者情報を登録しておきましょう。登録は無料です。
オンラインから請求した登記事項証明書を受け取る方法は、郵送と窓口受取の2種類あります。窓口受取の場合は、受取場所となる登記所を選択して、手続きを進めます。
登記事項証明書を発行する手数料は、インターネットバンキングのほか、Pay-easyに対応したATMでも納付できます。収入印紙を用意する必要がない点がメリットです。
さらに、手数料も郵送で受け取る場合は500円、最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターで受け取る場合は480円で、窓口・郵送での交付請求に比べて安くなっています。
取扱い時間も、平日の午前8時30分から午後9時までと窓口より長いので、日中仕事で法務局に行けないような方でも利用しやすいです。
詳しい使い方は下記のページからダウンロードできるので参考にしてください。
参照:操作手引書のダウンロード
登記簿謄本で抵当権を確認できる箇所
取得した登記簿謄本の「権利部(乙区)」で、抵当権の設定がされているかどうかを確認します。
登記の目的に「抵当権設定」と記載されていると、その不動産には抵当権が設定されていると分かります。借入金額や抵当権者がどの金融機関かということは「権利者その他の事項」で確認できます。
登記の内容だけならパソコン上で確認できる
ここまで、登記簿謄本の取得方法と確認する箇所を解説してきました。ですが「対象の不動産に抵当権が設定されているかどうかを知りたい」ということであれば、登記簿謄本を取得する必要はありません。
実は「登記情報提供サービス」 を利用すれば、パソコン上で登記内容を確認することができます。
利用可能時間は、平日午前8時30分から午後9時までです。取得できる不動産登記情報は全部事項のみですが、料金は335円と登記簿謄本を取得するよりも安くなっています。
一時利用と個人利用があり、一時利用であれば、事前の申込手続きは不要です。クレジットカードの即時決済ですぐに利用できる点が使いやすいです。請求した情報はPDF形式でダウンロードして確認します。
抵当権付きの不動産は売却できない
ここまで解説してきたように、不動産の登記内容を確認して、現在、抵当権が付いているかどうかが分かります。
そして、もし抵当権が付いている場合、その不動産は売却できません。厳密には、抵当権が設定されていても売却することに法律的な制限はありませんが、買い手が現れません。
たとえば、抵当権付き不動産の所有者で、抵当権設定者となっているAさんが、第三者のBさんに売却したとします。
その後、Aさんが債務を返済できず、債務不履行となったときには、抵当権が実行されて、競売にかけられます。
たとえBさんが住んでいたとしても、抵当権の方が優先され、立ち退かなければなりません。抵当権付き不動産にはこのようなリスクがあるため、抵当権付きの不動産が購入されることはまずないからです。
そのため、不動産を売却するときには抵当権を抹消した状態で買主に引き渡すことが原則となっています。
住宅ローンを完済しても抵当権は消えない
抵当権は住宅ローンを借りるときに担保として設定した土地・建物に登記されています。そして、登記された抵当権は住宅ローンを完済しても、自然に消滅するわけではありません。
完済したあとで、抵当権抹消登記という抵当権設定を抹消する登記をする必要があります。もちろん住宅ローンは返し終わっているので、抵当権が設定されたままであっても、抵当権が実行されることはありません。
しかし、抵当権が設定されたままでは、その住宅ローンが完済されたかどうか、登記簿謄本上では確認できません。
また、抵当権が設定された不動産には新たに抵当権を設定してローンを組むことはできないので、買主が住宅ローンを利用できないということになります。
ですので、もしすでに住宅ローンは完済しているから大丈夫と思っている場合でも、抵当権抹消登記までした覚えがなければ、登記簿謄本を取得して確認しておきましょう。
そして、抵当権が設定されたままであれば、速やかに抵当権の抹消手続きをしてください。
不動産売却時における抵当権抹消方法
先ほど「抵当権付きの不動産は売却できない」とお伝えしました。そして、抵当権を抹消するには、住宅ローンを完済している必要があります。
そのため「住宅ローンの残債がある不動産は売却できない」と思われるかもしれません。ですが、実際には住宅ローンを完済し終わる前に、不動産を売却されている方も多いです。
その理由は、不動産の売却代金を使って住宅ローンを完済し、抵当権を抹消するからです。
つまり、住宅ローンの残債があったとしても「売却代金で完済できる」「売却代金と自己資金または、買い替えの場合は住み替えローンを利用して完済できる」のであれば、問題なく売却できます。
それでは、不動産売却時における抵当権抹消方法について詳しく解説します。
不動産売却時、所有権移転登記と抵当権抹消登記は同時に行う
住宅ローンが残っている不動産を売却するとき、抵当権抹消登記は所有権移転登記と同じ日に行います。同時決済や同時抹消と呼ばれる手続きです。大まかな流れは次のとおりです。
(2)不動産の売買代金の残金決済
(3)売主の住宅ローンの残債の一括返済
(4)売主が融資を受けていた金融機関で抵当権の抹消書類の受取
(5)売主を抵当権設定者とする不動産の抵当権抹消登記
(6)売主から買主へ所有権移転登記
(7)買主を抵当権設定者とする不動産の抵当権設定登記
本来であれば、抵当権が設定されている不動産の購入資金として、その不動産を担保に住宅ローンの融資はおりません。
しかし、例外として、同時決済ができるのであれば、買主は抵当権付きの不動産を購入する場合でも住宅ローンを借りられます。これらの決済と登記の手続きは間違いがあってはいけません。
そのため、決済日には買主が住宅ローンを借りる銀行などの金融機関の店舗に買主、売主、不動産仲介業者の担当者、金融機関の融資担当者が集合します。
そして、一般的には、登記に関する手続きは専門家である司法書士が行うことになっています。また、抵当権抹消登記には、住宅ローンを借りた金融機関から必要書類を受け取る必要があります。
書類などの準備には2週間程度かかるので、問題なく売買契約を完了させるためにも、決済日が確定次第、遅くとも2週間前には伝えておきましょう。

抵当権抹消登記に必要な書類
抵当権抹消登記に必要な書類は以下の4つです。
(2)登記識別情報通知書または登記済証
(3)登記原因証明情報
(4)抵当権者の委任状
(1)登記申請書
このうち、(1)登記申請書は司法書士の方が事前に用意してくれているはずです。それ以外の3つは、住宅ローンの融資を受けた金融機関から受け取ります。
このとき、抵当権の抹消書類の受取も、司法書士に行うことが多いですが、金融機関によっては、住宅ローンの契約者本人の同席が指示される場合もあります。
ですので、金融機関に決済日の連絡を入れるときに合わせて、書類の受け取りは司法書士だけでいいのか、自分の同席も必要なのか確認するようにしてください。
(2)登記識別情報通知書または登記済証
抵当権設定登記をしたときに、抵当権者である金融機関に交付されている書類です。
(3)登記原因証明情報
登記の原因となった事実に基づき、権利関係に変化があったことを証明する情報のことです。
抵当権抹消登記の原因証明情報となるのは、金融機関が作成した解除証書や弁済証書などの名前になっています。
(4)抵当権者の委任状
金融機関から司法書士に対して抵当権抹消登記の手続きを委任するための書類です。
これら4つの書類を揃えて、抵当権抹消登記を行います。
抵当権抹消にかかる費用
抵当権抹消にかかる費用は、登記で必要な登録免許税と司法書士への報酬の2種類あります。抵当権抹消登記の登録免許税は、土地または建物1個につき1,000円です。
抵当権は土地と建物の両方に設定されていることが一般的なので、必要な登録免許税は2,000円になります。そして、司法書士に支払う報酬の相場は10,000円程度です。
したがって、抵当権抹消にかかる費用は12,000円程度を見込んでおくといいでしょう。
また、抵当権抹消登記は司法書士に依頼せず、自分で行うこともできます。そうすれば、費用は登録免許税のみで2,000円で済みます。
しかし、当然ですが、書類に不備があると認められません。何度も法務局に行かなければならなくなるので、手間なく確実に任せられる司法書士に依頼する方がおすすめです。
抵当権付き不動産を相続した場合の対応法
通常、抵当権付き不動産を相続するということは、不動産とその不動産を担保に受けている融資も相続するということです。そのため、まずは設定されている抵当権の内容を調べます。
登記簿謄本を取得し、抵当権が設定された時期、金額、お金の貸主である抵当権者を確認しましょう。抵当権付き不動産を相続する場合、次の4パターンが考えられます。
(2)住宅ローンの残債があるが、団体信用生命保険に加入していたため、完済となった
(3)住宅ローンなどの融資を受けるために不動産を担保に入れていて、残債がある
(4)第三者がその不動産を担保に融資を受けていて、残債がある
(1)、(2)であれば、住宅ローンの返済は終わっているので、相続登記と抵当権抹消登記を行えば対応は完了です。
(3)の場合は、登記簿謄本の内容から債権者に連絡して、残債を確認します。
そして、相続する予定の不動産に住む予定はなく、相続する財産の金額よりも、残債を含むマイナスの財産の合計額が多ければ、相続放棄も検討しましょう。
ただし、相続放棄すると、その決定を取り消すことはできません。相続財産のすべてを放棄するという非常に重要な決断になるので、必ず専門家である弁護士に相談するようにしてください。
最後に、(4)のような状況は稀ですが、相続する不動産に対して第三者が抵当権を設定する場合もあります。このとき、債務そのものは相続財産ではないので、債務は相続の対象外です。抵当権付きの不動産のみが相続されます。
ですが、不動産に抵当権は設定されたままです。したがって、その債務者である第三者が借金を返済できなくなったときには、抵当権を実行されて、競売にかけられるリスクがあります。
第三者が抵当権を設定している不動産の評価額をどうするか、遺産分割協議のときにどのように取り扱うか、判断が難しくなるので、弁護士に相談しながら手続きを進めることをおすすめします。
まとめ
以上、抵当権付き不動産の売却について、抵当権の確認方法と抹消方法、相続した場合の対応法について解説してきました。
・抵当権が設定されているかどうかは、登記簿謄本を取得して確認する
・住宅ローンを完済していても、抵当権抹消登記をしなければ抵当権は消えない
・抵当権が付いたままでは原則、不動産は売却できない
・抵当権付き不動産を相続した場合は、抵当権の内容を確認してから対応を考える
抵当権は借金を返済しても設定されたままという点が大きなポイントです。返済したことに満足するだけでなく、抵当権抹消登記まで忘れずに手続きするようにしてください。
住宅ローン残債がある状態で売却するときには、売却代金で完済できるような価格で売却するか、自己資金または住み替えローンなどを利用して完済できるように、資金計画もしっかりと立てるようにしましょう。