借地権付き物件として建物だけを売る
名義はそのままで建物だけを売却するのであれば、借地権付き物件として売り出す方法があります。
借地権とは、簡単にいうと「土地を借りて建物を建てる権利」のことです。
妻が所有している土地に夫が家を建てるとき、特に借地契約を結ばず妻から夫へ無償で土地が提供されることが一般的です。
このように無償で貸すことを「使用貸借」といいますが、第三者に建物だけ売る場合は「借地契約」を結ぶ必要があります。
借地契約の結び方と契約内容
借地契約は口頭でも交わすことができますが、後から契約内容で紛争になることを避けるために書面での契約が推奨されています。
契約書に記載する主な内容
- 土地を賃貸借した旨
- 土地の使用目的
- 建築に関する条件
- 土地を貸借する期間と地代
- 借地権の譲渡や売買の可否
- 契約違反による契約解除について
- 契約終了後、更地にして土地を返すのか否か
- 契約終了後に土地が返還されない場合の遅延損害金
契約書に買主と売主双方の署名や捺印をすることで正式に契約を発効させることができます。
また、借地権の中でも「定期借地権」に関しては公正証書など書面による契約が必須になります。
借地権に関する詳しい内容は次の項目で説明します。
参照:総務省「借地借家法 第38条第1項」
借地権の種類と内容
1992年8月以降の借地権には「普通借地権」と「定期借地権」の2種類があります。
より買主を見つけやすくするには「普通借地権」を設定するのがよいといえるでしょう。
「普通借地権」と「定期借地権」それぞれの主な特徴と違いは次の通りです。
普通借地権の主な特徴 |
借地権の存続期間は30年以上 |
契約の更新が可能 |
契約終了時に土地の所有者に対して建物の買取を請求できる |
定期借地権の主な特徴
(一般定期借地権の場合) |
借地権の存続期間は50年以上 |
契約の更新はできない |
契約終了後、借地人は更地にして土地を返還する |
土地の所有者にとってメリットが大きいのは「定期借地権」です。
借地権の存続期間が長く長期にわたって安定した地代収入が得られるうえに、契約終了後には更地にして土地を返してもらえるので、不要な建物の処分などに悩むことがありません。
逆に、買主側にとってメリットが大きいのは「普通借地権」です。
正当な理由がない限り土地所有者は契約更新を拒否できません。したがって、借地人は半永久的にその土地で建物を所有することが可能です。
また契約終了後には、土地所有者に建物を買い取ってもらえるので更地にするための解体費用がかかりません。
売却時に気をつけたいこと
借地権付き物件の所有者は土地を自由に利用することができません。
建物を増改築したり売却・賃貸する際には土地所有者の承諾が必要で、場合によっては承諾料の支払いも発生します。
このような事情から、借地権付き物件の価格は相場よりも安くなるうえに、買主がつきづらくなる傾向にあります。
また、離婚を理由に建物の売却をする場合、買主がつかなければ土地所有者である元配偶者に対して毎月地代を納め続けることになります。
底地だけを売る
所有している土地に借地権が設定されると「底地」として扱われるようになります。
名義をそのままにして底地だけ売却することも不可能ではありません。
しかし、底地を購入しても、デメリットが大きいため、買主はなかなか見つかりません。
- 底地を持っている人に土地を使う権利がない
- 固定資産税や都市計画税は払わなければいけない
底地を買取してくれる業者もありますが、低価格で取引されることが多いため、底地だけを売るというのは現実的ではないでしょう。
底地について詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてみてください。
土地と建物の名義を統一してから売却する
土地と建物の名義が夫と妻で別れている場合、夫婦どちらかの名義に統一して売るのがベストでしょう。
名義が統一された物件の方が需要があるため、高い価格で取引されることが期待できます。
ただし、名義変更には法務局にて不動産登記をおこなう必要があり、登記には税金がかかることも覚えておきましょう。
登記の際に納税する登録免許税の他、名義変更の理由によって贈与税などが課税されるケースもあります。
また、名義変更の理由に関しても、その理由が正当なものであると認められる必要があります。
ここでは、夫婦間の名義変更で考えられる理由として「離婚(財産分与)」「贈与」「売買」「相続」の4つのケースを例にして、かかる税金や注意点を解説します。
1. 離婚(財産分与)の場合
離婚をした場合、所有している不動産が婚姻期間に取得したものであれば、「財産分与」をして登記することで名義変更ができます。
財産分与の場合、不動産を譲り受けた人に対しては原則として税金はかかりません。
(※分与された財産が多すぎる場合や、贈与税を免れるために分与が行われたと考えられる場合には贈与税と不動産取得税が発生します)
一方、分与した側には譲渡所得税が課される場合があります。
譲渡所得税は不動産売却で得た利益に対して課税されますが、不動産の購入時の価格よりも分与した時の価格の方が高い場合、その差額部分が利益とみなされ譲渡所得税が課税されます。
購入時の価格<分与した時の価格 →差額に譲渡所得税がかかる
購入時よりも土地の価格が上がっているような場合には、譲渡所得税が課税される可能性が高くなるでしょう。
譲渡所得税のことを知らないまま分与が行われると、後で財産分与の無効を主張されるなどトラブルになることがあります。
財産分与の際には譲渡所得税のことも含めてパートナーとしっかり話し合いをする必要があります。
住宅ローンの残債がある場合は要注意
離婚時に住宅ローンの返済が完了しているとは限りません。
例えば財産分与によって、夫名義の住宅ローンが残っている建物を妻が譲り受けたとします。
銀行でローン名義人を変更しなければ、夫は自分が住まない住宅のローンを離婚後も払い続けなければなりません。
ローン名義人を変更するためには審査をやり直す必要があるため、妻の収入が少なかったり妻が専業主婦の場合、名義変更は難しいでしょう。
同じことが連帯保証人に関してもいえます。
例えば夫がローンの契約人で妻が連帯保証人になっている場合、離婚前に連帯保証人の関係を解消しないと離婚後も契約人と連帯保証人という関係が続くことになります。
離婚後に住宅ローンをめぐるトラブルが起きないように、離婚前に夫婦でしっかりと話し合っておきましょう。
2. 相手に自分の不動産を無償で贈与する場合
夫または妻はパートナーに不動産を「贈与」することができます。贈与によって不動産を譲ると名義はどちらか一方に統一されます。
贈与を受けた側は不動産取得税と贈与税を納めることになります。
不動産取得税は原則として不動産価額の4%ですが、2021年3月31日までに取得した土地及び住宅に関しては3%に引き下げられます。
また、贈与税に関しても配偶者控除があり、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与が行われた場合、基礎控除額110万円のほかに最高で2000万円まで控除を受けることができます。
つまり、贈与された不動産の価額が2110万円以内であれば、贈与税はかかりません。
この配偶者控除は夫婦でないと受けられないので離婚をする場合は離婚前に贈与しましょう。
3. 夫婦間で売買する場合
夫または妻がパートナーの不動産を買い取り、「売買」をして登記し名義を変えることも可能です。
第三者との売買と同じように、不動産の買主側は不動産取得税を支払い、売主側は利益が出れば譲渡所得税を支払うことになります。
夫婦間の売買で気をつけなければいけない点は、住宅ローンが組めない可能性が高いということです。
不動産売買は大きな金額の取引になるため、買主側は住宅ローンを組むことが多いでしょう。
しかし親族間の売買においては、住宅ローンが本来の目的以外に使われてしまう可能性が高かったり、物件が融資の担保になり得るだけの価値があるのか銀行側で判断できないため、銀行が融資に消極的になる傾向があります。
不動産会社を媒介して売買契約を結ぶとローンを組める場合があるので、事前に住宅ローンが組める条件などを金融機関に確認しておくとよいでしょう。
売却価格によっては贈与税がかかる
「住宅ローンが組めないなら安く売ろう」「夫婦だから安く売ってあげよう」と安易に売却価格を低くしてはいけません。
著しく低い価格で取引された場合、その不動産の時価と支払った対価との差額に相当する金額に対して贈与税が課せられ、譲り受けた側が納税することになります。
4. 相続して売却する場合
土地や家を所有していた夫や妻が亡くなってしまった場合は、相続として登記し名義を変えます。
登記により、相続をする側には相続税の支払い義務が発生します。
相続税の課税対象となる遺産額は、相続される財産の総額から債務や葬儀費用を差し引いた金額です。
課税対象額=相続される財産の総額-債務・葬儀費用
ただし、相続税には下記の通り基礎控除が設定されています。
相続税の基礎控除額
3000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が1人しかいなかった場合の基礎控除額は下記の通りです。
相続人が1人だった場合の控除額
3000万円+600万円×1人=3600万円
つまり、遺産の総額が3600万円以内であれば相続税はかからないということです。
このように控除額が高額であるため、実際は遺産額よりも基礎控除額が上回り課税されないことが多いようです。
参照:国税庁「No.4152 相続税の計算」
相続登記をおこなうために必要な書類
相続登記の大きな特徴としては、必要書類が多く、登記申請までに時間がかかることがあります。
例えば、遺言書がない場合の相続登記には次の書類が必要です。
遺言書がない場合の必要書類
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の戸籍謄本(出生時から死亡時まで一連の戸籍謄本)
- 被相続人の住民票の除票
- 遺産分割協議書
- 不動産の登記事項証明書
- 不動産を相続する相続人の住民票
- 不動産の固定資産評価証明書
これだけの書類を集めるのは大変な作業になると思います。
負担を減らすために司法書士に代行を依頼するのもよいでしょう。
名義変更の手続きにかかる時間と費用
名義変更の手続きは1日や数日で終わるものではありません。
また、登録免許税など多額の費用がかかることが予想されます。
事前にどのくらいの時間と費用がかかるのか確認しておきましょう。
名義変更は1カ月~2カ月程度かかる
名義変更をするには、まず法務局に提出するための必要書類を揃えます。
必要な書類は名義変更の理由によって違いますが、住民票や印鑑証明書、固定資産評価証明書、売買や贈与の契約書などがあります。
これらの書類を郵送で揃えると、通常1~2週間程度かかります。
必要書類を揃えたら申請書とともに法務局へ提出します。その後審査に1~2週間程度かかり、ようやく名義変更が完了となります。
スムーズに進めば1カ月程度で手続きが終わりますが、書類に不備があれば修正して再度提出するなどして更に時間がかかります。
(※必要書類が多い相続の場合は2カ月ほどかかることもあります)
名義変更の手続きにかかる費用
名義変更の手続きにかかる費用は以下の3種類です。
- 役所で書類をもらう際の手数料
(1通300円~750円ほど)
- 名義変更を申請する際に納付する登録免許税
- 司法書士に代行を依頼した際の報酬
必要書類の数や不動産の価額、司法書士に代行を頼むかどうかでかかる費用は大きく変わります。
司法書士にすべての手続きを任せた場合の費用は20~30万円になることが多いようです。
逆に手続きをすべて自分で行う場合は、司法書士に手続きの代行を依頼するより10万円前後安くなるといわれます。
ただし司法書士の報酬額も登記の内容などにより大きく変わるため、複数の司法書士事務所に費用を確認し、比較してから予算に見合った事務所に依頼するとよいでしょう。
登録免許税は不動産の価額と登記の理由で変わる
登録免許税は不動産の価額と名義変更の理由によって変わります。
贈与 |
不動産価額×2% |
売買 |
相続 |
不動産価額×0.4% |
ちなみに令和3年3月31日まで、土地売買における登録免許税の税率は1.5%の軽減税率が適用されます。
不動産価額は市区町村の役所で発行している証明書で「本年度価格」「○○年度価格」または「評価額」と表記されている価格です。
(※価格が記載されていない場合、登記所に問い合わせれば確認できます)
例えば、不動産価額が1000万円の場合の登録免許税は次のようになります。
贈与 |
1000万円×2%=20万円
(※軽減率適用の場合は15万円) |
売買 |
相続 |
1000万円×0.4%=4万円 |
登録免許税は例外なく納付することになるので忘れないようにしましょう。
参照:国税庁「登録免許税のあらまし」
売却の際は専門家に相談してトラブルを防止しよう
借地権付き物件や底地の売買は、通常の物件の売買と比べてトラブルが多くなる傾向があります。
増改築の承諾条件や地代の交渉などを代わりにやってくれる業者もあるので、自分だけで解決しようとせず業者に相談することも考えましょう。
登記に関しても、知識のない人や時間のない人にとっては非常に大変な作業だと思います。
しかし、登記を怠ると不動産の権利が曖昧になり、場合によっては第三者に不動産を奪われることもあります。
登記に関する相談を無料で実施している弁護士事務所もあるので、積極的に利用して登記手続きをスムーズに進めましょう。
まとめ
「土地は妻名義・建物は夫名義」といった物件を売却する場合、土地と建物を別々に売る方法より、名義変更して土地と建物をセットで売る方法をおすすめします。
なぜなら、名義変更せずに建物だけを売る方法や、底地だけを売る方法は買主が見つかりにくい上、売却価格も安くなりやすいからです。
「離婚」「贈与」「売買」「相続」といった理由があれば、登記によって建物と土地の名義を夫婦間で統一することが可能です。
ただし、名義変更は時間や税金などもかかる複雑な手続きなので、名義変更後の売却も含めて不動産業者にサポートしてもらうことをおすすめします。
まずは「一括査定」を利用して、査定額の高い不動産業者や、弁護士と提携している不動産業者など、安心して売却を任せられる業者を探すとよいでしょう。
土地と建物の名義が違う不動産売却でのよくある質問
土地と建物の名義が違う不動産でも、売却できますか?
借地権付き物件として建物だけを売る方法や、底地だけを売る方法を用いれば、土地と建物の名義が違う不動産でも売却可能です。
また、土地と建物の名義を統一してから売却することも可能です。
借地権付き物件として売る場合、どのような点に注意が必要ですか?
購入しても土地を自由に利用できないため、借地権付き物件の価格は相場よりも安くなり、買主が見つかりにくい点に注意しましょう。
家や土地の名義を変更するには、どの程度の期間が必要ですか?
不動産の名義変更には、通常1カ月~2カ月程度かかります。
家や土地の名義を変更するには、どのような費用が必要ですか?
必要書類を発行する手数料、名義変更にかかる登録免許税が必要です。司法書士に代行を依頼した場合、その報酬も必要になります。
売却トラブルを防止するには、どうすればよいですか?
家と土地の名義が違う不動産の売却トラブルを避けるには、弁護士に相談することをおすすめします。
【無料相談可能】不動産トラブルに精通した弁護士はこちら
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