
セットバックとは、道路の面積を広げるために自分の土地を後退させる手続きです。
建築基準法で定められた接道義務(通常、4m幅の道路に面していること)を満たしていない建物は、建て替えの際に土地をセットバックしないといけません。
セットバックの費用は、おおむね30万~80万円ほどかかります。
セットバック費用は基本的に自己負担ですが、多くの自治体で補助をおこなっています。まずは役所に問い合わせ、申請手続きと補助制度を確認しましょう。
また、セットバックの費用負担が難しい場合は、現状のまま物件を売却するのも1つの手です。一括査定を利用すれば、接道義務を満たしていない物件でも買い取れる専門業者が見つかるので、ぜひ活用してみましょう。
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セットバックの費用は30万円から80万円が相場
セットバックには、次のような費用がかかります。
- 後退面積を確定させるための土地測量費(境界確定測量・現況測量)
- 宅地と道路用地の分筆登記費用
- 道路用地部分の仮整備(アスファルト舗装など)
隣地との境界が確定していれば現況測量だけで済み、分筆登記費用と合わせて20万~30万円程度です。
一方で、隣地との境界が不明瞭な場合、もしくはセットバックした部分を自治体に寄付する場合に、境界確定測量が必要です。境界確定測量の費用は50万~70万円程度かかります。
また、セットバックした部分は、道路として問題なく利用できるように整備が求められます。このときの整備はアスファルト舗装することが一般的です。
舗装費用はセットバックした敷地面積によって異なりますが、平米(㎡)単価は約5,000円です。また、重機の搬入搬出費用や諸経費が5万円ほどかかります。
上記をまとめると、例えばセットバックする面積が2㎡だったときのセットバック費用は、境界確定が必要な場合は80万円程度、境界確定が不要であれば30万円程度となります。
自治体から費用補助を受けられる場合もある
法律で決まっているとはいえ、自分の敷地を狭くするための工事に、自分が費用を出すというのは納得しにくいものでしょう。
そもそもセットバックは、火災や急病人が出たときに緊急車両が通れるようにすることが主な目的です。
つまり、自分のためではなく、地域社会のための工事といえます。そのため、セットバックにかかる費用は自治体が負担してくれたり、一部補助金を支給してくれたりする場合があります。
ただし、こういった補助の有無は自治体によって異なるので、地域の役所に問い合わせてみましょう。
とくに、工作物撤去にかかる費用の助成金は、解体前に役所側が現地で確認していることが条件です。工事をはじめる前に補助金・助成金などを受け取れるか調べましょう。
【費用補助の例】東京都世田谷区の場合
セットバックが必要な「幅員4m未満の道で一般交通に使われているもの」を「狭あい道路」と呼びます。
例えば、世田谷区の「狭あい道路の拡幅整備工事」には4つの方法があります。
整備方法 | 管理 | 対象道路 | 拡幅整備工事の費用負担 |
---|---|---|---|
無償使用承諾 | 世田谷区 | 区道・区管理道路 | 世田谷区 |
寄付 | 世田谷区 | 区道・区管理道路 | 世田谷区 |
整備等承諾 | 建築主 | 私道 | 世田谷区 |
自主整備 | 建築主 | 区道・区管理道路・私道 | 建築主 |
自主整備を除いて、拡幅整備工事にかかる測量費や分筆費用、道路の舗装費用は区が負担します。
後退部分に塀や擁壁、土間などの工作物がある場合は、所有者が撤去しなければいけません。ただし、撤去費用は原則として所有者の負担ですが、一定の条件を満たせば助成金や奨励金が交付されます。
セットバック部分の固定資産税は非課税にできる
セットバックで敷地を後退させても、自治体に寄付でもしない限りその部分の所有権は変わりません。しかし、セットバック後は道路として使われるため、個人的な利用はできません。
それにもかかわらず、所有権を持っているという理由で、その道路用地部分に固定資産税が課税されるのは非合理的といえます。
そのため、どの自治体も「公共の用に供する道路」として固定資産税・都市計画税は非課税とする制度を設けています。
しかし、非課税とするためには非課税申告が必要です。申告しなければ課税されるため、役所へ忘れずに相談しましょう。申告には、以下のものが必要です。
- 土地の登記簿謄本
- セットバック部分が分かる地積測量図
- その他、役所指定の申告書・書類など
非課税となる条件は、各自治体が設定します。夜間の通行を禁止にしていたり、行き止まり私道やコの字型私道で利用者が特定の人に限られたりする場合、非課税にならない場合があります。

セットバック部分を個人利用した場合は非課税にならない
セットバック部分は道路して利用されるため、自分に所有権があっても建築や駐車場利用はできません。
セットバック部分を個人用に利用した場合、固定資産税は非課税になりません。車を停めることはもちろん、植木鉢などを置くこともできないので注意しましょう。
また、敷地内に樹を植える場合も注意が必要です。枝やツタが道路側に垂れ下がり、人や車の通行に支障があると、近隣トラブルや事故の原因となってしまいます。
セットバックが必要となる土地面積の計算方法
セットバックをすると、土地の一部が道路となるため、使える敷地が減ってしまいます。
使える敷地が狭くなると、建て替え時の容積率や建ぺい率の計算に影響があります。どれだけ後退させなければならないのか、土地面積の計算をしておきましょう。
基本的には、次の2段階で計算します。
(建築基準法で定められた規定の幅員※-実際の幅員)×1/2
※通常は4m
2.セットバックする面積
セットバックする距離×間口
セットバックする距離の計算で1/2を乗じるのは、道路の両側でセットバックするからです。セットバックによる道路の幅員確保は、原則として「道路を挟む両隣の敷地」が負担します。
例えば「実際の幅員が3.6m」「間口は6m」とした場合、セットバックする土地面積は下記のとおりです。
(4-3.6)×1/2=0.2m
2.セットバックする面積
0.2×6=1.2㎡
道路の反対側の敷地がセットバック済みか要確認
実際にセットバックする土地面積を計算するときには、反対側の敷地の所有者がすでにセットバック済みかどうか確認することが大切です。
なぜなら、すでにセットバック済みだった場合、原則の計算式が当てはまらないからです。反対側の敷地がセットバックしていた場合、敷地後退させる距離を求める計算式は次のようになります。
先の例と同じく「実際の幅員が3.6m」「間口は6m」の条件で考えてみましょう。先ほどの例と違うのは、すでに反対側の敷地がセットバック済みということです。
この場合、セットバックする前の道路中心線の位置を確認します。現時点の道路中心線と異なることに注意してください。
上図の場合、セットバックでは0.4m後退させる必要があり、減少する土地面積は2.4㎡になります。
間違った計算でセットバックすると、その後の建て替え時に建築確認申請がとおりません。セットバックをした意味がなくなってしまいます。
そのため「反対側はセットバックしていないだろう」と決めつけず、念のため確認しましょう。反対側の敷地がセットバック済みかどうかは、役所で確認できます。

道路の反対側の境界線が動かせないときの計算方法
上記のとおり、道路の幅員確保は、両側面の敷地が平等に負担することが原則です。
しかし、敷地の一方が崖地や川、線路になっていると、境界線は動かせません。その場合、自分の敷地のみをセットバックする必要があります。
下図のとおり、自分の敷地のみセットバックして道路の幅員を確保します。
セットバックをするときの流れ
セットバックするときの手続きの流れは、次のとおりです。
- 道路の調査
- 助成金などの交付条件を確認
- 事前協議書の提出と自治体職員による調査
- 協議書の交付と建築確認申請
- セットバックの工事
- 助成金や固定資産税免除の申告
自治体によって流れが異なる場合もあるので、どのような手順で申請すればよいか、管轄の役所でしっかり相談しましょう。
1.道路の調査
最初に、前面道路がセットバックの対象なのかどうかを確認します。2項道路、位置指定道路、協定通路のうち道幅4m未満のものが対象です。
自治体にもよりますが、事前協議書に土地境界確定の有無や後退用地面積、除却物件の有無などを記載しなければならない場合があります。
したがって、事前協議書の提出時に「必要な情報がなにか」を確認し、道路の調査・測量をおこないます。
2.助成金などの交付条件を確認
事前協議書を提出する前に、補助金や助成金、奨励金などの交付条件を確認しましょう。
助成金の交付条件が「工事前の道路状況を役所の担当職員が確認する」という場合もあります。
交付条件を1つでも満たさなければ受け取れないので、念入りに確認しましょう。
3.事前協議書の提出と自治体職員による調査
セットバックするために、役所へ事前協議書を提出します。事前協議が完了するまで1ヶ月程度かかるので、事前協議書の提出は原則、建築確認申請の30日前までにおこないます。
事前協議書には、以下の書類も添付する必要があります。
- 付近見取図(案内図)
- 公図の写し
- 土地登記簿謄本
- 印鑑登録証明書
- 配置図
- 後退用地求積図
- 境界確定図
- 現場写真
事前協議書を提出すると、自治体の担当職員が現地測量、協議図面の確認、道路中心線の検討をおこないます。
4.協議書の交付と建築確認申請
自治体の調査結果をもとに、セットバック後の道路用地部分の管理方法や整備方法などを協議します。
すべて問題なければ、協議書を取り交わして事前協議は完了です。
セットバックが家の新築・建て替えに伴うものである場合、建築確認申請をします。建築確認申請では、協議書の提出も必要です。
5.セットバックの工事
建築確認審査に合格して確認済証が交付されれば、工事がおこなわれます。
セットバックが家の新築・建て替えに伴うものであれば、まず建設工事をおこない、それからセットバック工事(道路の舗装など)をおこなうのが一般的です。
通常、セットバック工事は自治体の委託業者が施工します。自治体と委託業者の契約内容によっては、着工日が遅れるケースもあります。
寄付する場合は抵当権の抹消や分筆をおこなう
道路用地となった部分を寄付する場合、土地を分筆して所有権移転登記をおこないます。
また、土地に抵当権が設定されているときには、分筆後の土地に抵当権が及ばないように抵当権抹消登記が必要です。
抵当権が設定されたままでは、寄付を受け付けてもらえないので注意しましょう。
6.助成金や固定資産税免除の申告
工事完了後、助成金などの交付条件を満たしているのであれば申請をおこないます。申請のタイミングは工事前の場合もあるので注意してください。
また、私道として所有権を持ち続ける場合、固定資産税・都市計画税の免除申請が可能です。
いずれも自分から申請する必要があるので、忘れずに手続きしましょう。
未接道のままでも物件は売却できる
ここまで解説したとおり、セットバックで発生する費用や手間は軽くありません。「こんなにお金をかけられない」「面倒なことはしたくない」という人も多いでしょう。
未接道の状態でも売却は可能なので、セットバックをせずに、そのままの状態で物件を売却するのも1つの方法です。
ただし、未接道物件は売れにくい物件なので、売却するときはの買取業者に依頼しましょう。
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まとめ
セットバックすると敷地面積が減少します。だからといって、セットバックせずに建て替えると違反建築物として扱われてしまいます。
違反建築物になると、不動産の価値は著しく下がります。将来的に売却しようとしても、なかなか売れないといった事態が想定できます。
「セットバックは自分が負担を強いられるだけ」と考える人もいますが、実際はそうとは限りません。接道状態が改善されれば交通が便利になり、不動産としての価値が上がることもあります。
セットバックにかかる費用の取り扱いは自治体によっても大きく異なります。そのため、住んでいる地域でどのような補助制度が整えられているかを確認してから、建て替え計画をたてるようにしましょう。
セットバックに関するよくある質問
道路の面積を広げるために自分の土地を後退させる手続きで、建築基準法で定められた接道義務を満たせない土地に用いられます。
土地の面積にもよりますが、境界確定が必要な場合は80万円程度、境界確定が不要であれば30万円程度です。
道路の調査や測量をした後、自治体と事前協議を取り交わしてから、実際にセットバックの工事をおこないます。
「(建築基準法で定められた規定の幅員※-実際の幅員)×1/2」でセットバックする距離を求めた後に「セットバックする距離×間口」と計算すれば、セットバックする面積を計算できます。
セットバック部分を敷地利用した場合、罰則や課税対象となる恐れがあります。またセットバックをせずに建物を建て替えると、違反建築物として扱われる可能性があるので注意しましょう。