
「自宅の建て替えを考えているが、セットバックが必要と不動産業者に言われた」「購入しようと思っている土地に要セットバックという表記があった」こういった理由であなたも、セットバックに掛かる費用がいくらか気になっているのではないでしょうか。
「セットバックはお金も掛かって、敷地も狭くなって損しかない」とできることならやりたくないと考える方もいます。
しかし、建築基準法で接道義務が定められている以上、増改築や建て替え時などにセットバックしなければ違反建築物となってしまうので注意が必要です。
この記事では、セットバックに掛かる費用以外に、税金の取り扱いやセットバックにおける注意点、手続きの流れについて詳しく解説します。
目次
セットバックが必要となる土地面積の計算方法
セットバックすると、現在の敷地部分が道路となって使えません。
使える敷地が狭くなると、建て替え時の容積率や建ぺい率の計算に影響があるので、どれだけ後退させなければならないのか、土地面積の計算をしておく必要があります。
そうはいっても、難しい計算ではないです。基本的には次の2段階で求めます。
【{建築基準法で定められた規定の幅員(通常4m) – 実際の幅員(m)} / 2】
(2)セットバックする面積
【(1)セットバックする距離 × 間口(m)】
(1)で【(実際の幅員)/2】とするのは、対象の道路を挟む両側の敷地がセットバックするからです。たとえば「現在の前面道路が3.6m」「間口は6m」だとします。
このときセットバックする敷地面積は次のように求めます。
(2)0.2 × 6 = 1.2(平方m)
つまり、1.2平方mがセットバックによって狭くなる敷地面積です。

道路の反対側の敷地がセットバック済みか要確認
セットバックは道路の両側で行います。そのため、実際にあなたがセットバックする土地面積を計算するときには、反対側の敷地の所有者がすでにセットバック済みかどうか確認することが大切です。
なぜなら、すでにセットバック済みだった場合、原則の計算式である以下の式が当てはまらないからです。
もし、反対側の敷地がセットバックしていた場合、あなたが敷地後退させる距離を求める計算式は次のようになります。
同じく、現在の前面道路が3.6m、間口が6mの条件で考えてみましょう。先ほどの例と違うのは、すでに反対側の敷地がセットバック済みということです。
この場合、セットバックする前の道路中心線の位置を確認します。現時点の道路中心線と異なることに注意してください。
上図だったときには、0.4m後退させる必要があり、土地面積は2.4平方mになります。このように、原則どおりの計算式で求める土地面積よりも2倍の敷地後退が必要です。
間違った計算でセットバックし面積が足りなければ、その後の建て替え時の建築確認申請が通りません。万が一通ったとしても、違法建築物となって不動産の価値は下落してしまいます。
そのため「きっと反対側はセットバックしてないだろう」と思っても、念のため確認するようにしてください。反対側の敷地がセットバック済みかどうかは役所で確認できます。

道路の反対側の境界線が動かせないときの計算方法
あなたの敷地の向かい側が崖地や川、線路になっている場合、向かい側の境界線は動かせません。この場合、あなたの敷地だけを後退させて、建築基準法で定められた道路の幅員を満たす必要があります。
そのため、敷地後退させる距離の計算方法は、次のとおりです。
前面道路の幅員が3.6m、間口が6mだったとします。このとき、敷地を後退させる距離は (4-3.6) = 0.4mです。間口が6mなので、土地面積は2.4平方mになります。
以上、セットバックする土地面積を計算する方法は大きく3つに分かれます。どの計算方法があなたの敷地に適用されるかをしっかりと確認しておきましょう。
セットバックの費用はいくら掛かる?
セットバックには次のような費用が掛かります。色々とありますが、大きなものは以下のものです。
・宅地と道路用地の分筆登記費用
・道路用地部分の仮整備(アスファルト舗装など)
隣地との境界が確定していれば現況測量だけで済み、分筆登記費用も合わせて20万~30万円程度です。
一方で、隣地との境界が確定していなければ境界確定測量が必要となり費用が上がります。この場合の費用は分筆登記費用も合わせて50万~70万円程度です。
またセットバックしたあと、道路を自治体に寄付するか、私道のまま使用貸借とするかで境界確定が必要かどうかも異なります。分筆しないのであれば現況測量だけで問題ないことも多いです。
道路用地部分となったところは道路として問題なく利用できるように整備が求められます。このときの整備はアスファルト舗装することが一般的です。
舗装費用はセットバックした敷地面積によって異なりますが、平米(平方m)単価は約5,000円です。追加で重機の搬入搬出費用や諸経費が5万円ほど掛かります。
たとえば、セットバックする面積が2平方mだったときには6万円程度になります。そのため、セットバックに掛かる費用の合計は、境界確定が必要な場合は80万円程度、境界確定が不要であれば30万円程度です。
自治体から費用補助を受けられる場合もある
法律で決まっているとはいえ、自分の敷地を狭くするための工事に、自分が費用を出すというのは納得しにくいものでしょう。
そもそもセットバックは、周辺住居の日当たりを良くする、風通しを良くする、火災や急病人が出たときに緊急車両が簡単に通行できるようにするというような目的でします。
つまり、自分のためではなく、地域社会のための工事です。そのため、セットバックに掛かる費用は自治体が負担してくれたり、一部補助金を支給してくれたりする場合があります。
ただし、こういった補助の有無は自治体によって異なるので、必ずあなたが敷地を所有している地域の役所に問い合わせするようにしてください。自治体による補助の有無については、各自治体のホームページで公開しているところも多いです。
また、自治体ではセットバックが必要な幅員4m未満の道で一般交通に使われているものを「狭あい道路」と呼んでいます。そのためYahoo!やGoogleなどを使って補助制度の状況を把握することもできます。
たとえば、世田谷区の「狭あい道路の拡幅整備工事」には4つの方法があります。無償使用承諾、寄付、整備等承諾、自主整備です。無償使用承諾は、後退した部分の敷地の所有権は移転せず、道路として区が整備・管理するものです。
寄付は後退した部分の土地を分筆し、所有権は区に移転します。整備も管理も区が行います。狭あい道路が私道だった場合で整備等を承諾すると区が整備しますが、管理は建築主です。
私道・公道にかかわらず建築主負担で整備する場合は管理も整備も建築主が行います。
これらをまとめると、下表のようになります。
整備方法 | 管理 | 対象道路 | 拡幅整備工事の費用負担 |
---|---|---|---|
無償使用承諾 | 世田谷区 | 区道・区管理道路 | 世田谷区 |
寄付 | 世田谷区 | 区道・区管理道路 | 世田谷区 |
整備等承諾 | 建築主 | 私道 | 世田谷区 |
自主整備 | 建築主 | 区道・区管理道路・私道 | 建築主 |
世田谷区では自主整備以外、拡幅整備工事にかかる測量費や分筆費用、道路の舗装費用は区の負担です。敷地の所有者に費用は掛かりません。
ただし、拡幅整備工事の前に塀や擁壁、土間などの工作物はすべて撤去しておく必要があります。これらに掛かる費用は原則、所有者の負担です。
しかし、世田谷区であれば一定の条件を満たせば助成金や奨励金が交付されます。角地などで2つ以上の道路に接していて、後退用地や隅切り用地を寄付した場合の奨励金は上限200万円です。
このようにセットバックにかかる費用は自治体が負担してくれたり、補助制度があったりします。セットバックする必要があるときには、こういった制度がないかご自身で自治体に確認するか、不動産業者に確認してもらうようにしましょう。
工作物撤去にかかる費用の助成金は、解体工事の前に役所の担当職員が現地で確認していることが条件です。
過去の写真などがあっても助成の対象外となってしまうので、必ず工事を進める前に補助金・助成金などを受け取れるか調べるようにしてください。
セットバック部分の固定資産税は申告すれば非課税となる場合がある
セットバックで後退させた敷地部分は、建築基準法の道路になります。たとえ、あなたが所有権を持ったままだったとしても、建物を建てることだけでなく、駐車場として利用することも植木鉢や植栽を置くことも認められません。
それにもかかわらず、所有権を持っているという理由で、その道路用地部分に固定資産税が課税されることは納得できないでしょう。
もちろん自治体もそのことは分かっているので「公共の用に供する道路」として固定資産税・都市計画税は非課税となります。
しかし、非課税とするためには、役所に非課税申告をする必要があるので注意してください。申告には、以下のものが必要です。
・セットバック部分が分かる地積測量図
・その他、役所指定の申告書・書類など
提出し忘れると、道路用地部分にも固定資産税・都市計画税が課税され続けてしまいます。
また、私道で夜間は通行禁止にして利用時間の制約を設けていたり、行き止まり私道やコの字型私道で利用者が特定の人数に限定されたりする場合、課税対象となることがあります。
これらの私道部分に対する課税の取り扱い、非課税とする条件は市区町村によっても異なるので、できるだけ早いうちに役所へ確認するようにしましょう。

セットバックにおける注意点
セットバックにおける注意点を解説します。注意点は2つあります。
(2)セットバックをしないで勝手に建て替えると違反建築物として扱われる
(1)セットバック部分を敷地利用した場合は罰則や課税対象となる場合もある
セットバック部分は建築基準法上の道路です。そのため、道路を敷地利用した場合には罰則や課税対象となることがあります。
実際、土地の所有者がセットバックした部分に車をたびたび置いていたために、道路の効用をはたしているとは言えないとして固定資産税・都市計画税の課税対象となったことがあります。
(2)セットバックをしないで勝手に建て替えると違反建築物として扱われる
セットバックすると敷地面積が減少します。だからといって、セットバックせずに建て替えると違反建築物として扱われてしまいます。そのため、役所から工事の中止や建築物の除却、使用禁止などの是正措置が出されます。
また、違反建築物となることで対象の不動産の価値はゼロになります。将来売却することも視野に入れていると、いざ売却しようと考えたときに困ることになるでしょう。
ただ、セットバック違反における罰則規定が弱く、あまり機能していないことも事実です。セットバックをなんとか逃れようとされる方も多くいます。
しかし、セットバックはデメリットばかりではありません。セットバックすることで交通が便利になり、街並みもきれいになることで、不動産としての価値が上がることもあります。
なぜなら、不動産の価値は、敷地面積や築年数といった不動産そのものだけでなく、接道状態や周辺施設、交通の便などの環境要因により決まるからです。
そのため、セットバックの目的を理解して、ここで紹介したような違反がないよう注意しましょう。

セットバックにおける手続きの流れ
最後に、セットバックするときの手続きの流れをお伝えします。一般的には次のような流れです。
(2)助成金などの交付条件調査
(3)事前協議書の提出
(4)現地測量・図面修正
(5)事前協議・協議書の取り交わし
(6)建築確認申請
(7)(寄付する場合)分筆・抵当権抹消・所有権移転登記
(8)セットバック
(9)助成金等の申請・交付
(10)(私道として所有権を持つ場合)固定資産税免除の申請
(1)道路の調査、測量
最初に、前面道路がセットバックの対象なのかどうかを確認します。2項道路、位置指定道路、協定通路のうち道幅4m未満のものが対象です。
そして、セットバックが必要な条件に当てはまった場合は敷地後退が必要になります。また、セットバック工事は、事前協議書を提出して協議によって道路後退線や道路中心線の位置を確定した後に行います。
自治体にもよりますが、事前協議書では、土地境界確定の有無や後退用地面積、除却物件の有無などを記載しなければならない場合があります。
したがって、事前協議書の提出時に必要な情報が何かを確認し、前面道路の調査・測量を行います。
(2)助成金などの交付条件調査
事前協議書を提出する前に、補助金や助成金、奨励金などの交付条件を確認してください。塀などの除却やセットバック工事の前に、役所の担当職員による現地確認が必要になる場合があるからです。
交付条件を1つでも満たさなければ受け取れないので、念入りに確認しましょう。
(3)事前協議書の提出
セットバックするために、役所へ事前協議書を提出します。事前協議が完了するまで1カ月程度かかるので、事前協議書の提出は原則、建築確認申請の30日前までです。
事前協議書には、以下の添付が必要です。
・公図の写し
・土地登記簿謄本
・印鑑登録証明書
・配置図
・後退用地求積図
・境界確定図
・現場写真
(4)現地測量・道路中心線の検討
事前協議書を提出すると、自治体の担当職員が現地測量、協議図面の確認、道路中心線の検討を行います。必要に応じて図面も修正します。
(5)事前協議・協議書の取り交わし
自治体が調査して判断した道路後退線、道路中心線の位置を確認し、セットバック後の道路用地部分の管理方法、整備方法などを協議します。
すべて問題なければ協議書を取り交わして事前協議は完了です。
(6)建築確認申請
建築確認申請では協議書も添付します。そのほか必要な書類は施工業者からも教えてもらえるはずですので、あわせて準備してください。
(7)(寄付する場合)分筆・抵当権抹消・所有権移転登記
道路用地となった部分を寄付する場合、土地を分筆して所有権移転登記を行います。
また、土地に抵当権が設定されているときには、分筆後の土地に抵当権が及ばないように抵当権抹消登記が必要です。抵当権が設定されたままでは寄付を受け付けてもらえません。

(8)セットバック
建築確認審査に合格し確認済証を受け取った後、セットバック工事が行われます。工事完了後には完了検査も必要です。
(9)助成金等の申請・交付
工事完了後、助成金などの交付条件を満たしているのであれば申請を行います。申請のタイミングは工事前の場合もあるので注意してください。
(10)(私道として所有権を持つ場合)固定資産税免除の申請
私道として所有権を持ち続ける場合、道路用地部分は固定資産税・都市計画税の免除対象です。
ただし、自動で非課税となるわけではなく、申請が必要になるので忘れずに手続きしましょう。
まとめ
以上、セットバックにかかる費用と手続きの流れ、注意点について解説しました。
・セットバックにかかる費用は60万~80万円程度
・セットバック工事の費用は自治体が負担してくれるところもある
・塀や土間などの工作物の撤去費用に対し助成金が交付される自治体もある
・セットバックしたあとの道路用地部分は、固定資産税・都市計画税が非課税
・セットバックせずに住宅を建て替えると違反建築物となる
セットバックに掛かる費用の取り扱いは自治体によっても大きく異なります。
そのため、あなたが住んでいる地域でどのような補助制度が整えられているかを確認してから、建て替え計画をたてるようにしましょう。