借地権付き建物はどう売却する?4つの売却方法と流れ

借地権付き建物 売却

借地権付き建物の売却方法は4種類あり「地主に売るか?第三者に売るか?」や「借地権だけ売るか?地主と協力して土地ごと売るか?」など、人によって適切な方法が異なります。

どの方法を選択する場合でも、借地権付き建物の売却には地主の承諾が必要で、借地人が交渉しても断られたり不利な条件で話がまとまってしまうケースも少なくありません。

借地権付き建物の売却は通常物件よりも難易度が高いので、借地権の扱いに慣れた不動産会社に相談して、まずは地主と交渉してもらうことをおすすめします。

この記事では、借地権付き建物の売却方法・流れを4種類すべて解説します。

借地権付き建物を売却する際の注意点もわかるので、借地権に関する法律がわからなくて困っている人もぜひ参考にしてみてください。

借地権付き建物の売却は訳あり専門の不動産会社に相談

借地権の売却許可
借地権付き建物は地主の許可がないと売却できませんが、法律や不動産に関する知識の少ない売主自身が交渉しても地主を説得できないケースが多いです。

借地権付き建物を売却したい場合、訳あり物件専門の不動産会社に相談しましょう。

訳あり物件専門の不動産会社は、一般的な不動産会社に比べて借地・底地の対応実績が豊富なので、土地の所有権をもつ地主との交渉も得意としています。

借地権-交渉

訳あり物件専門の不動産会社に相談すると、以下のメリットが得られます。

  • 地主との交渉を有利に進めてくれる
  • 借地権におけるトラブル解消を手助けしてくれる

訳あり物件専門の不動産会社に相談する最大のメリットは、一般的な不動産会社よりも法律に詳しい点で、過去の類似ケースの解決事例を知っていることも少なくありません。

一般の買主が見つからない場合、借地権付き建物を自社で直接買取してくれる専門買取業者もあるので、まずは訳あり物件専門の不動産会社に相談することをおすすめします。

地主との交渉を有利に進めてくれる

借地権付き建物を地主に売る場合・第三者に売る場合、借地権だけ売る場合・土地の所有権を売る場合、どの方法を選択する場合でも地主の承諾が必要です。

地主が借地権の売却を認めない場合、裁判所に申立てをおこなうことで代わりに承諾を得られるケースもありますが、時間・労力を要するので最終手段と考えてください。

訳あり物件専門の不動産会社は不動産に関する法律知識が豊富なので、法的根拠を提示しながら借地権付き建物の売却に必要な地主との交渉を有利に進めてくれます。

借地人ではなく専門家である第三者が交渉をおこなえば、客観的な視点から冷静に話し合いがおこなえるので、地主側が納得しやすい点もメリットといえます。

借地権におけるトラブル解消を手助けしてくれる

借地権付き建物を売却する場合、地主の承諾が得られずトラブルに発展するケースも少なくありません。

例えば、20年以上前に土地を借りたけれど、リフォームしたばかりで建物自体は比較的新しいので、知人または不動産会社に売りたいと考えているAさんがいたとします。

しかし、借地権付き建物として売却したい旨を地主に話したら「建物を取り壊してから売却してください」と言われてしまいました。

借地権付き建物の売却には地主の承諾が必要ですが、正当な理由なく地主が承諾しない場合は、借地非訟手続きで裁判所から承諾を受けることも可能です。

しかし、借地非訟手続きを起こす場合、裁判所と弁護士に数十万円単位の費用を支払わなければならず、約半年〜1年程度の時間がかかるため非常に面倒です。

訳あり物件専門の不動産会社は弁護士と連携している場合も多く、専門家が交渉すれば裁判をおこなわずに借地権付き建物を売却できる可能性が高いです。

借地権トラブルの解決を弁護士に依頼すると費用がかかるので、費用をかけずに借地権付き建物を売りたい人は訳あり物件専門の不動産会社に相談しましょう。

借地権付き建物の売却方法

借地権付き建物 売却方法
借地権付き建物を売却する場合、売却先は地主または第三者になりますが、借地権を売る方法だけでなく・土地の所有権を取得してから売る方法もあります。

借地権付き建物の売却方法は全部で4種類です。

建物を解体した上で更地での引き渡しを求める買主もいるため、借地権と建物をセットで売却できるケース・借地権しか売却できないケースがある点に注意しましょう。

ちなみに借地人が借地権を手放す際、地主が優先的に借地権を買取できる介入権が借地借家法で認められているため、地主が買取を希望する場合は地主に売るしかありません。

借地借家法 第19条第3項
裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

引用:e-govポータル「借地借家法」

この項目では、4種類ある借地権付き建物の売却方法と流れを解説します。

借地権を地主に売却

地主が借地権を取り戻したいと考えている場合、借地権を買取してもらう形で借地権付き建物を地主に売却する方法があります。

地主側からすると、土地の借地権を買い戻して完全な所有権とすることで、自分の土地を自由に利用できるようになるメリットがあります。

とはいえ、地主の多くは土地を必要としておらず、借地権を買い取ると地代による賃料収入を失ってしまうので、借地権を地主に売却できる可能性は低いです。

借地権を地主に売却できる場合でも、借地権付き建物ではなく更地での引き渡しを求められるケースが多く、売主側が解体費用を負担しなければなりません。

以下のようなケースであれば、借地権を地主に売却できる可能性もありますが、借地権付き建物として建物ごと売却することは基本的にむずかしいです。

  • 地主と長きにわたる信頼関係がある場合
  • 地主側に別の土地活用の予定がある場合
  • 地主が契約内容を一新したい場合

借地権を地主に売却する流れ

借地権を地主に売却する流れは以下のとおりです。

  • 地主に挨拶・相談する
  • 仲介役の不動産会社に相談・査定
  • 不動産会社を挟んで地主と交渉
  • 売買条件の調整と売買契約の締結
  • 決済と所有権移転登記

借地権を地主に売却するには、借地権を買い取るメリットを伝えて地主の心を動かし、借地権を買い戻す気にさせる必要があります。

  • 地主自身が土地を自由に利用できる
  • 借地人との関係を解消できる
  • 地主自身で新しい借地人を選べる
  • 地代の値上げなど借地契約の条件を見直せる

土地を利用しない地主は「借地権を買い取っても賃料収入がなくなり土地を持て余すだけ」と考えがちですが、より良い条件で次の借地人に貸し出せる可能性もあります。

地主を説得して売買条件が決定したら売買契約を締結した後、地主から売却価格を受け取るタイミングで所有権移転登記をおこない、借地権を借地人から地主に移します。

借地人・地主の個人間で借地権を売買しても法律上は問題ないですが、複雑な手続きを自分でおこなう必要があるため、交渉役も含めて不動産会社に仲介を依頼しましょう。

借地権の売却を不動産会社に依頼すれば、売買条件の調整はもちろん売買契約の締結・所有権移転登記に必要な書類作成など、面倒な手続きも専門家に任せられます。

地主との交渉も専門家を介したほうがトラブルを防げるので、無料査定を利用して借地権付き建物の売買に慣れている不動産会社を探しておきましょう。

借地権を第三者に売却

地主が地代による賃料収入を欲している場合、地主の承諾を受けた上で借地権付き建物を第三者に売却する方法があります。

借地権を第三者に売却すれば、借地人が変わるだけで引き続き地代による賃貸収入が得られるので地主の承諾も得やすいですが、承諾料の支払いを求められるケースが多いです。

法律上の支払義務はないですが、借地権を譲渡する際は地主に承諾料を支払うのが一般的で、承諾料の目安は借地権価格の10%程度とされており、基本的には売主が負担します。

借地権を第三者に売却する場合、地代や更新料の有無といった賃貸借契約の内容を買主に正しく伝えないと、地主と買主間でトラブルが起きてしまうため注意しましょう。

購入後に買主が地代を払い続ける必要がある上、リフォーム・建て替え・売却時には地主の許可がいるため、借地権を売りに出しても購入希望者が見つかりにくいです。

一般の購入希望者が見つからない場合、専門の買取業者に借地権を売却することも可能で、専門家が地主との交渉をおこなうので売却を認めてもらえるケースも多いです。

参照:日本地主家主協会「借地権の譲渡承諾料について教えてください。」

借地権を第三者に売却する流れ

借地権のみを第三者に売却する流れは以下のとおりです。

  1. 地主に承諾を得る
  2. 不動産会社に相談・査定
  3. 購入希望者との条件調整と売買契約の締結
  4. 決済と所有権移転登記をおこなう

地主に無断で借地権を売ると借地契約を解除される恐れがあるため、借地権の売却を地主に認めてもらう必要がありますが、承諾を得る過程が1番難しく時間もかかります。

借地権を第三者に売却する場合、承諾料の金額や売却方法に関する合意だけでなく、建替え・抵当権設定に関する承諾も地主から貰っておくことをおすすめします。

なぜなら、建替えの承諾がないと借地権を購入しても買主は建物を解体・建築できず、抵当権設定の承諾がなければ借地権の購入時に住宅ローンを利用できないからです。

借地権の売却に関する地主との交渉が難航する場合、専門知識を有しており公平な立場から話し合いを進められる不動産会社を介して交渉することをおすすめします。

借地権の売却を認めてもらったら地主から譲渡承諾書を受け取り、通常の不動産売却と同様に買主を探して、売買契約を締結して決済と所有権移転登記をおこないます。

等価交換で完全所有権を獲得し売却する

借地権-等価交換
地主が土地の一部を手元に残したいと考えている場合、借地権と底地を等価交換した上で分筆した土地の完全な所有権と建物を第三者に売却する方法があります。

借地人は借地権の一部分を地主に返還・地主は底地の一部分を借地人に譲渡する形で、元々の土地を分筆して2つの土地に分けた後、借地人側の土地を売却します。

例えば、100㎡の底地で借地人が60%・地主が40%の割合で等価交換をおこなう場合、借地人は60㎡の土地Aを取得・地主は40㎡の土地Bを取得するイメージです。

等価交換のメリットは、借地人・地主の両方が完全所有権の土地を取得できる点で、分筆後の土地は自由に扱えるので、等価交換前より物件が売れやすくなります。

一方、等価交換は元々の土地を分筆するため、十分な広さがある土地でないと2つに分けることができず、等価交換の割合で揉めやすいなどのデメリットもあります。

例えば、借地人50%:地主50%ではなく、借地人60%:地主40%に等価交換の割合を変更したい場合など、相手に交換差金を支払って承諾してもらうケースもあります。

等価交換の割合は借地人と地主の話し合いで決めますが、交換差金の支払いが発生する場合は譲渡所得税などの課税対象となるため注意しましょう。

等価交換後に売却する流れ

借地権と底地を等価交換して売却する流れは次のとおりです。

  1. 地主に相談する
  2. 交換する物件の価格を調べる
  3. 等価交換の比率を決める
  4. 等価交換後に分筆登記をおこなう
  5. 所有権移転登記をおこなう
  6. 通常の不動産売却活動を開始
  7. 確定申告

原則として、等価交換は等しい価値で底地と借地権を交換する必要があるため、以下の計算式で交換する底地と借地権の評価額を調べておきましょう。

種類 評価額
底地 更地としての評価額×(100%-借地権割合)
借地権 更地としての評価額×借地権割合

借地権割合は土地の評価額における借地権が占める価値を示す割合のことで、国税庁が10%単位で30%~90%の間に定めており、国税庁のホームページから検索可能です。

例えば、更地の評価額が5,000万円・借地権割合が70%の場合、以下のように底地の評価額は1,500万円・借地権の評価額は3,500万円になります。

底地の評価額=5,000万円×(100%-70%)=1,500万円
借地権の評価額=5,000万円×70%=3,500万円

その後、借地権と底地の評価額を参考にして、地主と相手と話し合って借地権と底地権の価値が等しくなるように借地権と底地権の交換割合を決めます。

例えば、借地権割合が70%・土地面積が100㎡の場合、借地権と底地を70%:30%の割合で交換すると等価交換が成立するため、70㎡の土地A・30㎡の土地Bに分筆します。

具体的にいうと、70㎡の底地を地主から借地人に譲渡し、30㎡分の借地権を借地人から地主へ返還する形で等価交換が成立します。

ただし、借地上の建物が80㎡の場合、等価交換後の70㎡の土地Aに収まらないため、交換差金を支払い借地権と底地の交換割合を80%:20%に変更するケースもあります。

借地権と底地の交換割合を決めたら、以下の必要書類を用意して借地を管轄する法務局で分筆登記をおこない、登記簿上における1つの土地を2つに分割します。

  • 申請書
  • 筆界確認書(境界確認書・境界の同意書・境界の協定書)
  • 地積測量図
  • 現地の場所がわかる案内図

分筆後の土地は地主名義となっているので、次の必要書類を用意して法務局で所有権移転登記をおこない、建物が位置する土地を借地人の名義に変更します。

必要書類
借地人 住民票
本人確認書類
実印
地主 登記済権利証または登記識別情報
印鑑証明書(作成後3ヶ月以内)
固定資産評価証明書
本人確認書類
実印

所有権移転登記後は一般的な不動産売却と同じく、売却活動で買主を探して分筆後の土地を売却します。

ただし、一定条件を満たす場合は「固定資産の交換の特例」を用いて、不動産の売却益にかかる譲渡所得税を非課税できるので、確定申告をおこないましょう。

「固定資産の交換の特例」の適用条件は以下のとおりです。

  • 交換により譲渡・取得する資産がいずれも固定資産であること
  • 交換により譲渡・取得する資産が同じ種類の資産であること
    (借地権は土地の種類に含まれる)
  • 交換により譲渡する資産は1年以上所有していたもの
  • 交換により取得する資産は交換相手が1年以上所有していたもの、かつ交換のために取得したものではないこと
  • 交換による取得した資産を譲渡資産の交換直前の用途と同じ用途で使用すること
  • 交換によって譲渡した資産の時価と取得した資産の時価の差額が、いずれか高いほうの資産の時価の20%以内であること

「固定資産の交換の特例」の適用条件を満たしていても、自動的に譲渡所得税が非課税になる訳ではなく、確定申告をおこなう必要があります。

確定申告をおこなう場合、不動産売却の翌年2月中旬〜3月上旬までに譲渡所得の内訳書と確定申告書を税務署に提出しましょう。

参照:国税庁「No.3511 土地建物と土地を等価で交換したとき」

地主と連携し借地権と底地権を第三者に売却

地主も土地を売却したいと考えている場合、借地権と底地権をあわせて完全な土地にした上で、土地と建物をセットで第三者に売却する方法もあります。

借地権と底地権を同じタイミングで第三者に売却すれば、土地賃貸借契約に基づく債権と債務が相殺されて完全な所有権となるので、通常不動産と同様に取扱いできます。

借地権と底地権をセットで第三者に売却すれば、買主は購入後の土地・建物を自由に利用できるので、購入希望者が見つかりやすく売却価格も高くなる点がメリットです。

地主に底地権を手放すよう説得する必要があるので、他の売却方法よりも交渉のハードルが高く、地主と売却価格を分け合うため割合で揉めやすい点がデメリットといえます。

借地権と底地権を第三者に売却する流れ

借地権と底地権を第三者に売却する流れは次のとおりです。

  • 地主の意思確認と合意
  • 売却する物件を不動産会社に査定してもらう
  • 媒介契約を締結し売却活動を開始
  • 買主と売買契約を結ぶ
  • 決済・所有権移転登記
  • 賃貸借契約終了の覚書を作成

借地権と底地権の同時売却では売却益の取り分を決めなければならず、借地権割合を参考に決める場合が多いですが、最終的には地主と借地人の話し合いで決めます。

借地権と底地権の同時売却における取り分に関する法律は存在しないので、地主と借地人間の話し合いがまとまらない場合は不動産会社や弁護士に相談しましょう。

加えて、借地権と底地権の売買契約を結ぶタイミングでは、売却後のトラブルを防ぐため売買契約書に「不可分一体の契約」の特約条文を加えておきましょう。

なぜなら、売買契約書に「不可分一体の契約」の特約条文を加えておかないと、買主は完全な土地を取得したいのに借地権しか取得できない恐れがあるからです。

例えば、売買契約の締結後に地主が契約破棄した場合、借地人の契約は有効・地主の契約は無効という中途半端な契約がされてしまい、買主は借地権しか取得できません。

売買契約書に「不可分一体の契約」の特約を加えておけば、地主が売買契約を破棄すると借地人の売買契約も無効になるので、買主は中途半端な契約をせずに済みます。

借地権と底地権の同時売却が完了すれば、地主・借地人間の賃貸借契約も終わるので、双方が契約終了に合意した旨を示すために賃貸借契約終了の覚書を作成しましょう。

借地権付き建物の売却相場

借地権付き建物が売却できることはわかりましたが「いくらで売却できるのか?」と売却相場が気になる人も多いのではないでしょうか。

結論からいうと「地主に売るか?第三者に売るか?」や「借地権だけ売るか?建物ごと売るか?」といった条件で変わるので、借地権付き建物の明確な売却相場は存在しません。

しかしながら、借地権付き建物の相続税や固定資産税の評価額・借地権割合から、売却価格の目安をある程度予測することは可能です。

借地権付き建物の売却価格はケースバイケースといえるため、正確な売却価格を知りたい人は不動産会社の無料査定で専門家に算出してもらうとよいでしょう。

借地権割合が一つの価格目安となる

借地権付き建物の売却相場は、借地権割合からある程度予測できます。

借地権割合は地域によって異なり、土地の利用価値が高い地域である主要駅の周辺や繁華街は借地権割合が高い傾向にあります。

例えば、東京駅の周辺や中央区銀座などは90%のエリアが多いですが、建物の少ない郊外の地域などは権利として評価されずに借地権割合が定められていない地域もあります。

借地権割合から借地権付き建物の売却相場を調べる手順は次のとおりです。

  • 国税庁の「路線価図・評価倍率表」にアクセス
  • 借地権割合を調べたい場所の住所を選択
  • 住所に記載されている数字・記号を見る
  • 路線価・借地権割合から土地部分の価格を算出
  • 相続税評価額から建物部分の価格を算出

借地権割合は7種類に分かれており、Aが90%・Bが80%というように10%ずつ割合が下がり、Gの30%がもっとも低い数値となります。

記号 借地権割合
A 90%
B 80%
C 70%
D 60%
E 50%
F 40%
G 30%

建物部分の固定資産税評価額は、毎年6月頃に市区町村から発送される「固定資産税の納税通知書」の「価格」もしくは「評価額」の欄に記載されています。

しかし、相続税評価額・固定資産税評価額は実際に不動産売買が成立する価格ではなく、相続税評価額は実際の売却価格の80%程度・固定資産税評価額は売却価格の70%程度と考えられています。

わかりやすいように具体例で解説します。

例えば、路線価図に「400C」と書かれている場合、その道路に面する土地の路線価は1㎡あたり40万円・借地権割合は70%となります。

路線価図の表記が「400C」で土地面積が150㎡の場合、以下のように土地部分の相続税評価額は4,200万円と計算できます。

・40万円×150㎡×70%=4,200万円

固定資産税評価額は売却価格の80%程度と考えられているため、借地権付き建物の建物部分の売却価格は5,250万円程度であると予測されます。

・4,200万円×100/80=5,250万円

固定資産税の納税通知書における建物部分の評価額が700万円の場合、借地権付き建物の建物部分の売却価格は1,000万円程度であると予測されます。

・700万円×100/70=1,000万円

この場合、土地部分と建物部分の売却価格を合計して、借地権付き建物の売却価格は6,250万円が目安であると計算できます。

・5,250万円+1,000万円=6,250万円

ただし、路線価に借地権割合を乗じて算出した借地権の評価額は絶対的なものではなく、売却方法によって実際の価格は変動するので、あくまで目安と考えておきましょう。

参照:国税庁「路線価図・評価倍率表」

借地権付き建物を売却する際の注意点

借地権付き建物は売却こそ可能ですが、どの売却方法でも地主の許可が必要になるなど通常不動産よりも売却が難しく、売却時の注意点が多いです。

借地権付き建物の売却時は次の点に注意しましょう。

  • 借地権が移転されるので売却時に地主の承諾が必要
  • 借地権譲渡の承諾料が高額になる場合がある
  • 地主との契約内容を買主に伝えないと契約不適合責任に抵触
  • 借地権の更新時期は買い手が見つからない事が多い

最大の注意点は、借地権付き建物は地主の承諾がないと売却できないことで、地主が売却を承諾する場合でも高額な承諾料を支払わされるケースが多いです。

借地権の賃貸借契約に関する契約内容を買主に伝えないと、契約不適合責任を追及されて売買契約を解除されたり損害賠償を請求される点にも注意が必要です。

4つの注意点を順番に解説します。

借地権が移転されるので売却時に地主の承諾が必要

借地権付き建物を売るには、土地の所有権をもつ地主の承諾を得た上で売却しなければならないと民法第612条で定められています。

民法第612条
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。

引用:e-Govポータル「民法」

なぜなら、借地権を単体で売るにしても借地権と底地をセットで売るにしても、売主から地主または第三者に借地権を移転するので、借地人が変わることになるからです。

例えば、借地人が売主に無断で借地権を第三者に売却したが、次の借地人が地代を支払わない場合、地主は誰に地代を請求すればよいのかわからなくなってしまいます。

土地自体は地主のものなので「勝手に借地人が変わっていて地代を請求できない」などのトラブルを防ぐため、借地権の売却時は地主の承諾が必要なのです。

地主が承諾しないなら裁判所から許可をもらう

借地権付き建物の売却には地主の承諾が必要ですが、交渉をしても地主が承諾しない場合、借地非訟手続きで裁判所から代わりに許可を得る必要があります。

借地借家法 第19条
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。

引用:e-govポータル「借地借家法」

借地非訟手続きをおこなうと、裁判所が借地権の売却に関する許可の可否を判断しますが、売却を認める代わりに地代の変更や承諾料の支払いを命じるケースもあります。

基本的には、地主にとって不利益があるケース・売却に関して正当な事由がないケースでない限り、借地非訟手続きをおこなえば借地権の売却は認められる可能性が高いです。

しかし、借地非訟手続きを起こす場合、裁判所と弁護士に数十万円単位の費用を支払わなければならず、約半年〜1年程度の時間がかかる点に注意しましょう。

借地権譲渡の承諾料が高額になる場合がある

借地権を売却する場合、地主の承諾を得る際に譲渡承諾料を支払うのが慣例です。

譲渡承諾料の支払いは法律で義務化されている訳ではなく、あくまで慣例的に借地人から地主に支払われるものなので、金額も当事者同士で自由に決定します。

借地権を譲渡する際の承諾料は借地権価格の10%程度が目安とされていますが、譲渡だけでなく建替えの承諾も受ける場合は追加で承諾料を請求されるケースもあります。

種類 承諾料の相場
譲渡承諾料 借地権価格の10%程度
建替え承諾料 更地価格の3%程度
増改築承諾料 更地価格の3%程度

既存の建物が非堅固な建物で建て替える建物が堅固な建物だった場合は条件変更に該当するため、条件変更承諾料を別途請求されるケースもあります。

このように、借地権売却時の承諾料に目安はありますが、契約内容によって承諾料の種類・金額は異なるので、最終的には地主と相談して決めましょう。

地主との契約内容を買主に伝えないと契約不適合責任に抵触

借地権の売却時に地主との契約内容を買主へ正確に伝えておかないと、契約不適合責任を追及される恐れがあります。

例えば、地主から建物の建替え承諾を受けていない事実を伝えずに借地権を売却すると、買主は建物を立て替えられずに不動産売買の目的を達成できないケースがあります。

この場合、建替え承諾を受けている借地権を購入したつもりだったのに、建替え承諾を受けていない借地権を引き渡したとして、契約不適合責任を追及される恐れがあります。

買主から契約不適合責任を追及されると、売買契約を解除されたり損害賠償を受ける恐れがあるため、借地権の売却時は地主との契約内容を必ず伝えましょう。

借地権の更新時期は買い手が見つからない事が多い

借地権の更新時期が近い場合、購入後すぐに更新料または権利金の支払いが発生するため、借地権付き建物の購入希望者が見つからないケースが多いです。

前提として、借地権は旧借地権・普通借地権・定期借地権の3種類に分けられ、契約更新ができる種類・できない種類があるほか、以下のように契約期間が異なります。

種類 契約期間 契約更新
旧借地権 20年(木造の場合) できる
30年(鉄骨・RC造の場合) できる
普通借地権 最低30年 できる
定期借地権 最低50年 できない

旧借地権・普通借地権の場合、契約更新時に借地人から更新料を支払うのが慣例で、更新料の金額は借地権価格の5%前後が相場とされています。

借地権の売却時に「現在の契約期間を引き継ぐのか?新しい期間を設定するのか?」はケースによりますが、新しく契約する場合も権利金を支払うのが一般的です。

つまり、借地権の購入時は更新料または権利金を支払う必要があるので、更新時期に関係なく初期費用の負担は避けられないことを買主に伝えておくとよいでしょう。

借地権付き建物の買主側のメリット

借地権付き建物は権利関係が複雑なため通常物件に比べて需要が低いので、借地権付き建物のメリットを購入希望者にしっかりアピールすることが大切です。

借地権付き建物を購入すると、買主に次のメリットがあります。

  • 所有権付きの物件と比べて安く購入できる
  • 土地にかかる税金が節約できる
  • 借地権者は長く土地を借りられる

借地権付き建物は所有権付きの物件に比べて価格が安く、土地部分の固定資産税を支払わずに済むため、お得に物件を購入できる点が最大のメリットです。

「地主から立退きさせられるのでは?」と心配している買主には、借地権は基本的に更新可能で土地を長期間借りられることを伝えてあげるとよいでしょう。

所有権付きの物件と比べて安く購入できる

借地権付き建物は建物と借地権のセットを売却するため、建物と土地をセットで売却する一般的な土地付き建物に比べて、さまざまなデメリットを抱えています。

例えば、地主に毎月賃料を支払う必要があり、建て替え・リフォーム・売却時には地主の承諾が必要になるので、借地権付き建物は土地付き建物よりも需要が低いです。

土地の完全な所有権を売却する場合に比べて、借地権の売却価格は60~80%程度まで安くなるケースが多いですが、買主的には安く購入できる点がメリットといえます。

借地権付き建物を早く売却したい人は、条件の近い一般的な土地付き建物の価格相場も調べておき、類似物件よりも安く購入できるメリットをアピールしましょう。

土地にかかる税金が節約できる

借地権付き建物を購入した買主は土地の所有者ではないので、土地部分の固定資産税を支払わずに済むため、土地・建物をセットで購入する場合よりも節税できます。

土地・建物をセットで購入する場合、それぞれに固定資産税が発生するので支払いが高額になってしまいやすい点がデメリットといえます。

しかし、借地権付き建物は建物部分の固定資産税を借地人が支払い、土地部分の固定資産税は地主が支払うので、固定資産税を安く抑えられます。

「借地権付き建物は地代を支払う必要があるのでコスパが悪い」と考えている購入希望者も多いので、土地の固定資産税を支払わずに済むメリットを伝えるとよいでしょう。

借地権者は長く土地を借りられる

普通借地権のように更新可能な借地権なら、正当な理由がない限り地主からの更新拒否が認められないので、借地権者は半永久的に土地を借りられます。

なぜなら、普通借地権は借地人が更新の意思を示すことで賃貸借契約が延長される仕組みで、正当な事由がない限り地主は契約更新を断れないからです。

  • 建物が長期間利用されていない
  • 老朽化が著しく損壊の危険性を及ぼす
  • 契約に違反する行為をしている

よほど逸脱した使い方をしない限り、正当な事由での契約解消が認められることはなく、契約解消が認められる場合でも多額の立退き料を得られるケースが多いです。

契約更新がない定期借地権でも契約期間が最低50年と長いので、契約更新をおこなわなくても1世代で住むには十分な長さでしょう。

借地権付き建物の買主側のデメリット

借地権にはメリットだけでなくデメリットもあるため、購入希望者には借地権付き建物のデメリットも正直に伝えたほうが良好な関係を築けるでしょう。

借地権付き建物を購入する買主側のデメリットは以下のとおりです。

  • 毎月地代がかかる
  • 建て替えやリフォーム、売却などで地主の承諾が必要
  • 定期借地権付きの場合は返却時に更地にする必要がある

購入後も地代の支払いが毎月続くほか、建て替え・リフォーム・売却など地主の承諾がないと自由に扱えない点が借地権付き建物のデメリットです。

加えて、借地権付き建物が定期借地権の場合は契約更新がおこなえず、契約満了時に建物を解体して地主に返還しなければならないため、さらにデメリットが多いです。

毎月地代がかかる

借地の場合は所有権を有する土地とは異なり、借地権を購入した買主が地主に対して地代を毎月支払う義務を負います。

借地権における地代の相場は用途で異なり、住宅の場合で土地価格の2〜3%・店舗もしくは事業用の場合は土地価格の4〜5%程度とされています。

用途 地代の相場(年間)
住宅 土地価格の2〜3%程度
住宅以外 土地価格の4〜5%程度

上記の地代相場はあくまでも目安で、実際の金額は地主と借地人の交渉によって個別に決定される上、計算方法も複数あるためケースごとに異なります。

計算方法 計算式
路線価を基準に地代を算出 路線価×面積×1.25×2~3%
(住宅地の場合)
路線価×面積×1.25×4~5%
(商業地の場合)
公租公課を基準に地代を算出 1年間の固定資産税・都市計画税合計額の3~5倍
(住宅地の場合)
1年間の固定資産税・都市計画税合計額の5~8倍
(商業地の場合)
類似物件の取引価格を基準に地代を算出 類似物件の更地価格の2~3%
(住宅地の場合)
類似物件の更地価格の4~5%
(商業地の場合)
土地の期待利回りを基準に地代を算出 土地の基礎価格×期待利回り+必要諸経費

借地権は購入後も地代の金銭的負担が続きますが、地代の金額には明確な基準がなく地主と交渉して安くしてもらうことも可能なので、買主に伝えるとよいでしょう。

建て替えやリフォーム、売却などで地主の承諾が必要

借地権を購入すれば該当の土地に建物を建築できますが、建て替え・リフォームをする場合や売買によって処分する場合は地主の承諾を得る必要があります。

なぜなら、あくまで借地人は土地の建物を利用する権利である借地権しか所有しておらず、土地に関する残りの権利は所有者である地主が有しているからです。

多くの場合、リフォーム・増改築や借地権の売却時は地主の承諾を得るように賃貸借契約書に定められており、無断でおこなうと借地契約を解除される恐れがあります。

とはいえ、承諾料を支払えば多くの地主はリフォーム・売却を承諾しますし、承諾しない場合も裁判所に申立てをおこなえば代諾許可を貰えるので問題ありません。

定期借地権付きの場合は返却時に更地にする必要がある

定期借地権は契約更新がない前提で契約するので、借地権付き建物が定期借地権の場合は期間満了時に建物を解体して更地で返還する必要があります。

土地を更地にする際の解体費用は借地人が全額負担するのが原則で、解体費用は解体業者にもよって異なりますが、以下のように100万円以上はかかるケースが多いです。

50坪:150~250万円

建物の構造 解体費用の目安
木造 3~4万円/坪
30坪:90~150万円
鉄骨造 4~6万円/坪
30坪:120~180万円
50坪:200~300万円
RC造 5~8万円/坪
30坪:120~210万円
50坪:200~350万円

地主が建物の解体費用を負担するのは、地主側の事情で借地人を立退きさせる場合だけなので、定期借地権の満了時は借地人が解体費用を負担しなければなりません。

定期借地権付き建物の場合、契約満了時に建物を解体するので「契約期間だけ住めれば十分」と考える人にターゲットを絞って売却活動をおこないましょう。

参照:国土交通省「定期借地権の解説 – 建設産業・不動産業」

まとめ

借地権付き建物は建物ごと売却可能で、地主または第三者に借地権を売却する方法だけでなく、地主と協力して借地権を土地に変えてから売却する方法もあります。

4種類ある借地権付き建物の売却方法はすべて地主の承諾が必要で、地主が承諾しない場合は借地非訟手続きをおこない裁判所の承諾を受けなければなりません。

借地非訟手続きは時間的にも金銭的にも負担が大きいので、借地権付き建物の売却時は訳あり物件専門の不動産会社に依頼して、地主との交渉を任せることをおすすめします。

訳あり物件専門の不動産会社は一般的な不動産会社よりも法律に詳しく地主との交渉が得意な上、物件を自社で直接買取してもらうことも可能なので、まずは無料相談を受けてみましょう。

借地権付き建物の売却に関するよくある質問

借地権付き建物の売却を地主が認めない場合、どうすればいいですか?

借地借家法第19条に基づき、借地非訟手続きをおこない裁判所に借地権付き建物の売却を承諾してもらいます。

借地権付き建物が売れない理由は何ですか?

地代を毎月支払わなければならず、建て替え・リフォーム・売却時には地主の承諾が必要なため、借地権付き建物は売れにくい傾向にあります。

借地権付き建物を不動産会社に買取してもらうことは可能ですか?

訳あり物件専門の買取業者であれば、不動産会社が地主と交渉して承諾を得た上で、建物ごと借地権を買取してもらえます。【借地権ごと買取可能】借地権付き建物の無料査定はこちら

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