住宅ローン滞納時の任意売却と競売にはさまざまな違いがありますが、大きな違いは「債務者の要望が通るか?」と「どれだけ住宅ローン残債を減らせるか?」の2点です。
競売は債務者の要望が通りにくい上、住宅ローン残債の大幅な減額も期待できないなどメリットが少ないので、基本的には競売ではなく任意売却での解決を推奨します。
なぜなら、任意売却を選択すれば、住宅ローン残債を大幅に減らせるチャンスがある上、もし買主が見つからない場合でも結局は競売で不動産を売却できるからです。
この記事では、任意売却と競売の違いをわかりやすく解説します。
任意売却と競売のメリット・デメリットや売却価格の違いもわかるので、任意売却や競売を検討している人はぜひ参考にしてみてください。
任意売却と競売の違い
住宅ローンを滞納した場合、不動産を売却して利益を住宅ローン返済に充てる方法として、任意売却と競売の2種類があります。
住宅ローンの借入金が返済できなくなった場合、売却後も住宅ローンが残ってしまう不動産を金融機関の合意を得て売却する方法です。
担保の不動産を裁判所が差押え・強制的に売却して、売却代金を債権回収に充てる手続きです。
任意売却と競売の違いをまとめると、以下の表のとおりです。
任意売却 | 競売 | |
---|---|---|
売却価格 | 市場価格の80〜90%程度 | 市場価格の50〜70%程度 |
売却後のローン残債 | 少なめ | 多く残りがち |
残債の返済方法 | 分割返済可能 | 原則一括返済 |
債権者との交渉 | 柔軟に交渉可能 | 交渉不可 |
持ち出し費用 | 一切かからない (債権者負担) |
債務者負担が原則 (競売にかかる費用など) |
引越し費用 | 売却価格から捻出できる場合がある | 債務者負担が原則 |
プライバシー | どこの情報媒体にも載らない | 公告されるが一般社会に情報は流れない |
退去・引越し日 | 交渉で決定できる | 自分で決められない |
売却後の居住 | リースバックで可能 | 居住できない |
精神的負担 | 売却活動などの手間はあるが、専門家に相談すれば軽減できる | 売却活動などの手間はないが、強制競売による心労は多い |
任意売却は債務者の要望が通りやすいため自由度が高く、住宅ローン残債を大幅に減らせるので、多少の手間を被っても生活を立て直したい人におすすめの方法です。
競売は債務者が採れる選択肢が少なく、住宅ローン残債の減額も期待できませんが、裁判所と債権者が手続きを進めてくれるので、自分で何もしたくない人におすすめです。
この項目では、任意売却と競売の違いを解説します。
大きな違いは「債務者の要望が通るか否か」
任意売却と競売の大きな違いは「債務者の要望が通るか?」という点で、任意売却は債務者の要望が通りやすいですが、競売は債務者の要望が通りません。
例えば、任意売却は引越しにあわせて物件の引渡し日を調整できますが、競売は裁判所が決めたスケジュールで売却が進むので、指定日までに自宅を退去する必要があります。
他にも、任意売却の場合は交渉次第では売却価格から引越し費用を捻出できますが、競売の場合は引越し費用が出ないので、自腹で引越しをおこなわければなりません。
任意売却では債務者のプライバシーが守られる一方、競売は裁判所の執行官や評価人が現況調査に訪れる上、物件情報が裁判所やネットなどで公表されてしまいます。
任意売却は自分の意思や都合も含めて売却活動ができますが、競売は裁判所と債権者が売却を進めるので、債権者の意思は一切反映されないことを覚えておきましょう。
売却後の残債金額は任意売却よりも競売の方が多く残る
任意売却と競売では売却価格も大きく異なり、任意売却よりも競売は売却価格が安くなるため、売却後も住宅ローン残債が多く残るので返済の負担が大きいです。
任意売却の場合は市場価格の80〜90%程度で売却できますが、競売物件の場合は一般的な中古物件の市場価格に比べて50%〜70%程度まで売却価格が安くなってしまいます。
理由は後述しますが、内覧ができない・買主が明け渡し交渉をする必要があるなど、競売物件は買主に不利な条件が多いため、売却価格が安くなってしまうのです。
加えて、以下のような競売にかかる費用も債務者の住宅ローン残債に上乗せされます。
種類 | 費用 |
---|---|
申立手数料 | 4,000円 (担保権1個につき) |
予納金 | 80万円〜200万円(※1) |
登録免許税 | 請求債権額の1/250 |
郵便切手代 | 84円(※2) |
※1=競売を管轄する裁判所・請求債権額によって異なる
※2=郵便切手代が不要の場合もある
不動産の競売にかかる費用は、数十万円の場合や100万円を超える場合などケースによって異なりますが、最終的に住宅ローンの債務者が負担しなければなりません。
不動産の競売にかかる費用は競売申立て時に債権者が一旦立て替えますが、最終的には立て替えた金額の請求をおこなうため債務者が負担します。
任意売却も競売も売却価格を住宅ローン返済に充てる点は同じで、売却価格で住宅ローンを完済できない場合は売却後も残りの住宅ローン返済が必要です。
競売よりも売却価格が高い任意売却のほうが住宅ローン残債を多く減らせるため、住宅ローン完済を目指しやすく、完済できない場合も売却後の返済が楽になります。
任意売却と競売のメリット・デメリットの違い
任意売却と競売のメリット・デメリットを比較すると、以下のようになります。
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
任意売却 | 住宅ローン残債がある状態で売却できる | 個人信用情報に滞納情報が記録される |
売却価格を自由に設定できない | ||
競売よりも高い価格で売却できる | 販売期間を先延ばしにできない | |
確実に売却できると限らない | ||
リースバックなら自宅に住み続けられる | 連帯保証人の同意・協力が必要 | |
持ち出し資金がいらない | 売れないまま競売になるリスクがある | |
滞納した税金や諸費用を売却代金から控除可能 | 任意売却後の残債は返済義務がある | |
競売 | 自分は何もしなくても売却が進む | 売却価格が安くなる |
確実に自宅を失う | ||
強制的に退去させられる | ||
競売手続きや引越し費用等が残債に上乗せされて請求される | ||
自宅に執行官が視察に来る | ||
あらゆる交渉が不可能 | ||
残債を一括返済しなければならない |
※上記の表は法律上における一般的なケースであり、占有し続ければ落札者から引越代を負担してもらえるなどの例外は記載していません。
上記のように、任意売却のほうが競売よりもメリットが多く、競売はほとんどデメリットしかないため、基本的には競売ではなく任意売却を選ぶことをおすすめします。
任意売却を選択すれば、住宅ローン残債を大幅に減らせるので完済を目指しやすく、その後のローン返済も楽になるので、生活を立て直したい人におすすめです。
競売は売却価格が安いため住宅ローン残債の減額は期待できませんが、大半の手続きを裁判所と債権者に任せられるので、自分で手続きをおこないたくない人におすすめです。
この項目では、任意売却と競売のメリット・デメリットの違いを解説します。
任意売却は競売に比べて生活再建がしやすい
任意売却の最大のメリットは、競売に比べて生活再建がしやすい点です。
任意売却も競売も不動産の売却価格を住宅ローン返済に充てる点は同じですが、任意売却のほうが高く売れやすく、住宅ローン残債を大幅に減らせるので返済が楽になります。
自宅を手放したくない場合、競売は家を強制退去しなければなりませんが、任意売却ならリースバックという方法を用いて売却後も自宅に住み続けることが可能です。
不動産を任意売却した後に新たな所有者と賃貸借契約を結ぶことで、賃借人として家に住み続けられる方法です。
任意売却は債権者と交渉の余地があるため、以下のように融通が効くケースもあります。
債権者と交渉の余地があるケース
- 物件引き渡しまで猶予がもらえる
- 引越し費用を売却価格から捻出できる
- 任意売却後の住宅ローン返済スケジュールを再調整してもらう
任意売却なら、自宅を手放さずに住宅ローン残債を大幅に減らすことも可能なので、現在の生活を続けながら生活再建をしたい人は、債権者と不動産会社に任意売却を相談しましょう。
競売は手間が一切かからないというメリットもある
競売はデメリットばかりですが、手間が一切かからないというメリットもあります。
不動産を任意売却する場合、不動産会社を探して契約書を作成したり、買主を探して内見に対応するなど、さまざまな手続きを自分でおこなわなければなりません。
競売の場合、裁判所主導で不動産が強制的に売却されるので、大半の手続きは裁判所と債権者がおこなうため、債務者はほとんど何もせずに済みます。
任意売却した物件に欠陥が見つかった場合、売主の瑕疵担保責任を追及されて損害賠償請求を受ける恐れがありますが、競売物件なら瑕疵担保責任を負わずに済みます。
売却した不動産に欠陥が見つかった際に売主が買主に対して負わなければならない責任です。
例えば、任意売却した物件に雨漏りが発覚した場合、買主に対して雨漏りの修繕費用や損害賠償を支払う必要がありますが、競売の場合は支払う必要がありません。
任意売却は競売よりも売却価格が高くなりやすい一方、期日までに買主が見つからないと結局は競売に進むため、時間や手間が無駄になるリスクも抱えています。
田舎・郊外などの人気がない物件だと、任意売却をおこなっても購入希望者が現れずに競売になるケースもあるため、時間が無駄になるリスクがある点を理解しておきましょう。
なお、任意売却をおこなう流れは以下の記事で解説しているので「具体的に債務者が何をするのか?」を知りたい人はあわせてご覧ください。
任意売却と競売の売却価格はどれくらい違う?
ケースによるため一概にいえませんが、任意売却と競売の売却価格は市場価格を基準として、最大40%もの差が生じてしまう場合もあります。
売却方法 | 売却価格 |
---|---|
任意売却 | 市場価格の80%〜90%程度 |
競売 | 市場価格の50%〜70%程度 |
任意売却の場合、債権者の許可を得た後は通常の不動産売却と同じ要領で買主を探すため、一般的な中古物件と価格差が少なく、市場価格の80〜90%程度で売却できます。
競売の場合、そもそもの最低入札額が市場価格の40~50%程度なので、一般的な中古物件よりも売却価格が安くなりやすく、市場価格の50%〜70%程度になってしまいます。
同じ条件の物件を売却する前提であれば、任意売却のほうが競売よりも売却価格は高くなるので、住宅ローン残債を多く減らしたい人には任意売却がおすすめです。
競売物件が安くなる理由
任意売却に比べて競売物件が安くなる理由は以下のとおりです。
- 裁判所の定める売却基準価額が市場価格よりも低い
- 内見ができない
- 占有者がいる場合は退去させる費用がかかる
- 買主側のリスクが多いため安価で落札される
競売の入札額には下限があり、売却基準価額の80%以上でないと入札ができない仕組みですが、そもそもの売却基準価額が市場価格より安いため落札額も安価になりやすいです。
裁判所が決める競売不動産の売却目安金額のことで、市場価格の40~50%といわれています。
例えば、不動産の市場価格が1,000万円の場合、売却基準価額は400万円〜500万円程度、入札額の下限は320万円〜400万円程度まで安くなってしまいます。
加えて、競売物件に占有者や残留物がある場合、買主側が対処しなければならない点も手間や費用がかかるため、競売物件が安くなる一因といえます。
競売物件に占有者がいる場合、買主が費用を負担して強制執行を申し立てて立ち退かせるか、占有者と交渉して立退料を渡して退去してもらう必要があります。
競売物件に残留物がある場合、専門業者に依頼して残留物を撤去してもらう必要がありますが、買主側が手間や費用を負担しなければなりません。
競売物件はそもそもの入札額が安い上、買主側の負担が大きいことから入札を避けられやすいため、売却価格が市場価格の50%〜70%程度まで安くなってしまうのです。
まずは任意売却を検討しよう
結論として、任意売却と競売で迷っている場合は任意売却を検討しましょう。
なぜなら、任意売却をおこなう場合は競売の開札日前日までに買主が見つからないと自動的に競売になるので、任意売却が成功しなくても結局は不動産を売却できるからです。
競売は売却価格が市場価格の50%〜70%程度ですが、任意売却の売却価格は市場価格の80〜90%程度なので、住宅ローン残債を多く減らせるメリットがあります。
任意売却を選択すれば、市場価格の80%〜90%程度で売れるチャンスを残しながら、結局は任意売却に失敗しても市場価格の50%〜70%程度で売却できるのです。
競売自体にはメリットがほとんど無いため「任意売却をおこなった結果、期間内に買主が見つからない場合のみ仕方なく競売をおこなう」という方法がよいでしょう。
まとめ
任意売却と競売の大きな違いは、選択肢の自由度と減らせる住宅ローン残債の2点ですが、自由度が高く住宅ローン残債を大幅に減らせる任意売却をおすすめします。
なぜなら、競売は売却価格が安くなりやすく、住宅ローン残債の大幅な減額ができない上、自宅を強制退去しなければならず、競売後の生活への負担も大きいからです。
任意売却は市場価格に近い価格で不動産を売却できるので、住宅ローン残債の大幅な減額が期待できる上、リースバックを用いれば現在の自宅に住み続けることも可能です。
任意売却を選択すれば、住宅ローン残債を大幅に減らせるチャンスを残しつつ、買主が見つからない場合は競売に移行できるので、まずは任意売却を検討しましょう。
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