
「この部屋で誰かが殺された」「シロアリ被害がある」などのトラブルを抱えた物件を事故物件といいます。
事故物件の売主には、購入を希望する買主に対してトラブルがある事実を伝えなくてはならない「告知義務」があります。
この記事では「事故物件」の代表例を3つ挙げながら「告知義務」を果たすべきケースついて解説するほか、買主とのトラブルを避ける方法も説明します。
目次
告知義務がある事故物件の例
事故物件とは、瑕疵(かし)のある物件のことを指します。
瑕疵とは、本来備わっているべき性能や機能、品質などが欠けている状態を指す法律用語です。
では具体的にどのような瑕疵があって事故物件となってしまうのか見てみましょう。
1.心理的瑕疵物件
心理的瑕疵とは、殺人事件や火災など、自然死以外で人が亡くなっているような「心理的に住み心地のよくない物件」のことを指します。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 住宅で自殺があった
- 同じマンション内で過去に何らかの事件があった
- 住宅で誰かが亡くなったが、発見が遅れ遺体が腐乱した
- 近隣で事件や事故、火災などがあった
- 住宅で殺人事件があった
心理的瑕疵物件は敬遠されがちなので、相場よりも安い金額で売り・貸しに出ていることがほとんどです。
参考までに、心理的瑕疵物件の割引率の一例がこちらです。
- 自然死や孤独死の場合:相場の10%程度安くなる
- 自殺の場合:20~30%程度安くなる
- 殺人事件の場合:30~50%程度安くなる
このように、心理的瑕疵物件はかなり相場より値引きされる場合が多い上に、物理的な欠陥はほとんどないので、気にならない人にとっては「格安優良物件」となる可能性があります。
なお、物件に心理的瑕疵があるかどうか自分で調べることもできます。その場合は以下のようなポイントに気をつけてみて下さい。
- 物件広告に「告示事項あり」と記載がある
- 家賃が、同条件の類似物件より安い
- 部屋の一部だけがリフォームされている
- マンション、アパートの名称がいつからか変わった

心理的瑕疵における告知義務の期間はケースによって異なる
心理的瑕疵のある物件に関しては、どのくらいの期限にわたって告知義務が果たされるべきなのかという明確なルールはありません。
判例を引用しながら、告知義務の期間についてどのように判断がされてきたのか見ていきましょう。
事件の概要:
全129戸あるマンションの1戸で1年数カ月前に自殺者が出た。このマンションの部屋を貸し出す際に、貸主は借主にその事実を告げなかった。
裁判所の判決:
1年数カ月前に自殺があった事実は、当該建物を賃借して居住することを実際上困難にする可能性が高く、信義則上告知すべき義務があった。
この判例では、1年数カ月前の自殺ならば「契約の締結に影響を与える事項」と認められるので、その事実を告知する義務があるとしました。
事件の概要:
更地の土地について売り主Yと買主Xが平成20年12月1日に売買契約を交わし、平成21年1月30日に決済した。
しかし、実は約20年前の昭和61年、当時その場所に建っていた建物の所有者Aの内縁の妻が息子に殺害され、遺体がバラバラにされて山中に埋められるという事件が起きていた。
更に昭和63年3月には、Aの娘が建物2階のベランダで首つり自殺をしたことが判明した。建物は平成元年に取り壊されている。
Xは決済後にこの事件を知ったが、Yは契約当時、事件について知らなかったものの、決済前日にはその認識を持っていた。
裁判所の判決:
本件建物内の自殺等から四半世紀近くが経過し、自殺のあった建物も自殺から約1年後に取り壊され、売買のときには更地であった。
しかし、マイホームを建築する目的で土地の取得を希望する者が、本件建物内での自殺の事実が近隣住民の記憶に残っている状況下において、他の物件があるにもかかわらず敢えて本件土地を選択して取得を希望することは考えにくい。
よって、Yが本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していた場合には、これをXらに説明する義務を負うものというべきである。
事件後20年が経過して建物自体も現存していないため、通常であれば自殺等の事情は薄まっていると考えられます。
しかし、この件においては「息子が内縁の妻の遺体をバラバラにして遺棄した」という事件のショックが大きく、近隣住民の嫌悪感が未だ薄まっていないと判断されたため、長い時間が経っても「瑕疵物件」と認められたようです。
このように、世間に対して大きな影響を与えた事件の舞台は、何十年経っても「瑕疵物件」と認定される可能性があります。
それとは対象的に、平成19年東京都世田谷区で起きた単身者用ワンルーム物件での自殺に関する東京地裁では以下の判決が下されました。
世間で特に注目を集めなかった自殺事故に関しては、その事件後に初めて入居する人以外には告知しなくてよいとしています。
判例を見てきたとおり、事故物件の告知義務の判断基準には明確なものが存在せず、それぞれの状況で判断されます。
もし事故物件を扱う場合、今回挙げたような判例を参考にするだけでなく、弁護士や事故物件の専門家などにアドバイスを受けることをおすすめします。
2.物理的瑕疵物件
物理的瑕疵物件とは「土地や建物に物理的な重大欠陥がある」物件のことです。
建物と土地、それぞれ代表的な瑕疵の例をご紹介します。
- 建物の物理的瑕疵の例
- 壁にひび割れが起きている
- 建築資材にアスベストが使用されている
- 柱などに使われている木材がシロアリに食い荒らされている
- 家の耐震強度が国の基準を満たしていない
- 床下浸水をしたことがある
- 土地の物理的瑕疵の例
- 土地の境界が曖昧で、周囲の物件が自分の土地を侵食している
- 地盤がゆがんでいる
- 化学物質などで土壌が汚染されている
- 地中に障害物や埋蔵物がある
- 極端に立地が悪い
- 地盤が沈んでいる
この物理的瑕疵は目に見えるものばかりなので、心理的瑕疵に比べると非常にわかりやすい瑕疵です。
自分ではわからなくても、プロに依頼すれば瑕疵の有無を確認できます。
なお、この物理的瑕疵物件の場合、建物や土地そのものに欠陥があり、実害が出る可能性があるので、なかなか借主や買主がつきにくいのが現状です。
また、物理的瑕疵に関しては欠陥が解消されるまで入居者に対しその事実を告知しなければなりません。
3.法的瑕疵物件
「その土地や建物が、法律に違反しているなどの理由で自由な利用が阻害されている場合」の物件を法的瑕疵物件と言います。
ここでいう法律とは、主に「都市計画法」「建築基準法」「消防法」の3つですが、以下のような状態であれば法的瑕疵物件に該当します。
- 建ぺい率が法の基準を満たしていない
- 構造上の安全基準が国の定めた基準に達していない
- 物件が、開発行為を認められていない「市街化調整区域内」にある
- 物件が「計画道路指定」を受けているため、建築制限がある
- 容積率が法の基準を満たしていない
- 火災報知機やスプリンクラーなどの防災設備が古い
- 接道義務を守っていない
法的瑕疵物件は法規定を満たしていないため、融資の対象にならず住宅ローンを利用できません。場合によっては建て替えができないこともあります。
また、建て替えできたとしても、現在の建物より小さく狭い建物になる可能性があります。以上の理由から、法的瑕疵物件を売買することは困難です。
法的瑕疵があるかどうか確認するには、各自治体の建設課や都市政策課など担当部署に問い合わせる必要があります。
なお、法的瑕疵も物理的瑕疵と同じように、瑕疵が解消されない限りは買主への告知義務があります。

告知義務を怠ると買主とのトラブルに発展するリスクがある
瑕疵のある物件は価格が下がるうえに買い手がつきにくくなるため、「なるべく瑕疵の事実を伝えたくない」というのが売主の本音でしょう。
しかし、物件を購入した時点で明らかになっていない瑕疵が見つかった場合、売主は買主に対して契約の解除や賠償金の支払いなどの対応をしなければいけません。
このとき売主が負う責任を「瑕疵担保責任」といいます。
たとえ契約時に「隠れた瑕疵につき一切の担保責任を負わない」という特約を設けたとしても、事前に瑕疵があることを告知していなければ瑕疵担保責任を免れられません。

物件状況確認書を作成して買主へ瑕疵を告知しよう
物件状況確認書とは、売主が買主に対して物件の現状を報告する書面です。
契約書の内容や重要事項に関する説明は契約時におこなわれますが、それだけでは買主に物件の詳細状況を伝えきれません。
売主と買主の双方が物件の詳細をきちんと把握していないと、売買契約後に隠れた瑕疵が発覚してトラブルになる恐れがあります。
そのようなトラブルを避けるためにも、売主が物件状況確認書を提出し、雨漏りや騒音などの詳細な状況を買主に報告することが望ましいです。
では具体的に、物件状況確認書にどのような項目があるのか見てみましょう。
建物に関する事項
まず1つ目の項目は、以下のような「建物に関する事項」です。
- 過去に雨漏りがあったか
- シロアリ被害があるか
- 石綿(アスベスト)が使用されているかの調査の有無
- 増改築やリフォーム履歴
過去に雨漏りやシロアリ被害があった場合には、修理工事の有無や修理した年月日についても詳細に記載します。他にも、建物に傾きや耐震診断の有無についての項目があります。
土地に関する事項
2つ目の項目は、以下のような「土地に関する事項」です。
- 隣地との境界線が確定しているか
- 土壌汚染の可能性があるか
- 地盤沈下や敷地内の残存物(井戸など)があるか
土地の境界線が確定していなかったり越境している場合は、隣地の所有者とトラブルになりかねないので記載しておきましょう。
土壌汚染に関しては、自治体のホームページで土壌汚染対策法第6条に規定する「要措置区域」に該当する地域かどうか確認できます。
周辺環境に関する事項
3つ目の項目は、以下のような「周辺環境に関する事項」です。
- 騒音・振動・臭気について
- ラブホテルや暴力団の事務所など周辺環境に影響を及ぼす施設があるか
- 近隣との申し合わせ事項
騒音、振動、臭気に関しては、売主が少しでも気になるようであれば記載しておくべきでしょう。
特に、前面道路が幹線道路で排気ガスがひどかったり建物の地下を地下鉄が走っていて振動や騒音がある場合は記載する必要があるでしょう。
近隣との申し合わせ事項は、敷地内のゴミ集積場所など近所の人と事前に約束事をしている場合に記載する項目です。
他にも電波障害の有無や浸水被害の有無、事故や火災が過去に起きたかを記載する項目があります。
以上が主な記載事項です。
売主としては「あまり細かく説明して買主に購入を断念されたら嫌だな」と思うかもしれませんが、それはそれで仕方のないことです。
伝えずに契約した後でトラブルが起これば、より大きな損害に発展してしまう恐れもあります。
物件状況確認書は「間違いなく告知した」という証拠にもなりますので、できる限り作成して交付することをおすすめします。
まとめ
告知義務には明確な基準がないので、個別の事案に応じて判断しなければいけません。
ただ、忘れてはならないことは、告知義務はトラブルを防止するためにあるということです。売主が少しでも気になった時点で、それは告知したほうがよいでしょう。
正直に告知すれば、後からトラブルになる事態を避けられますし、買主から信頼を得られるので売買契約がスムーズに進みます。
もしも告知するかどうかで迷ったら、「告知する」ことを選択すれば間違いないでしょう。