連棟式建物とは、複数の住宅が壁を共有し、一体構造で建てられている物件のことです。「テラスハウス」「タウンハウス」などの種類があり、構造や権利関係によって売却の難易度や取れる選択肢が異なります。
連棟式建物は隣家と構造的につながっているため、解体や建て替え、切り離しを検討する場面では、原則として隣家の所有者全員の同意が必要です。
また、連棟式建物は築年数が古いケースも多く、老朽化や現行の建築基準法に適合しない「再建築不可物件」に該当することもあります。加えて、住宅ローンが利用しにくいことなどから一般的な戸建て住宅に比べて取り扱いが難しく、売却が長期化するケースも少なくありません。こうした制約の影響で、売却価格が相場より20〜30%ほど低くなる傾向があります。
連棟式建物を売却する際は、物件の特性を踏まえた売却方法を選ぶことが重要になります。
- 隣の住人に買い取ってもらえないか交渉する
- 自分で他の部屋を買取して全ての所有権を得る
- 訳あり物件専門の買取業者に売却する
たとえば隣の住人であれば、住戸をつなげて広く使えるため、通常より前向きに買取を検討してもらえる可能性があります。すべての住戸を取得できれば、大型の戸建住宅として売却したり、賃貸併用住宅として活用したりすることも可能です。
なお、専門の買取業者に売却する方法であれば、再建築不可などの条件があっても現状のまま売却でき、短期間で現金化できるケースもあります。
本記事では、連棟式建物の特徴を踏まえながら、売却価格の相場や、実務で選ばれている売却方法、売却が難しい理由を解説します。
連棟式建物・長屋とは2戸以上の住宅が一体になっている物件
連棟式建物とは、2戸以上の住宅がつながって一体型になっている物件のことです。
建築基準法上は「長屋」に該当し、建物が連結している点が特徴です。登記の形態や土地・建物の権利関係は物件ごとに異なり、アパートやマンションのように、各住宅の所有者が異なるケースも多く見られます。
ここでは、連棟式建物の概要について次の2つの項目に分けて解説します。
- 連棟式建物は主にテラスハウスとタウンハウスの2種類
- 連棟式建物は土地を効率よく使うために建てられる
連棟式建物は主にテラスハウスとタウンハウスの2種類
連棟式建物は、大きく分けてテラスハウスとタウンハウスの2種類があります。それぞれの特徴は以下のとおりです。
| テラスハウス |
・複数の住宅が一体になっている
・土地の所有権が1戸ごとに区分されている |
| タウンハウス |
・複数の住宅が一体になっている
・土地の所有権を他の居住者と共有している |
いずれも「複数の住宅がつながっている」という点は共通していますが、建物と土地の権利形態が異なります。
イメージとしては、テラスハウスは一戸建て、タウンハウスはマンション・アパートと権利形態が似ています。
連棟式建物は土地を効率よく使うために建てられる
連棟式建物が建てられる主な理由は、1つの土地を有効活用するためです。
たとえば開口部が短く、奥行きが細長い土地Aがあったとします。この土地Aに複数の家を建てようとすると「手前側の接道している敷地」と「奥側の接道していない敷地」に分かれます。
接道義務を満たさない敷地には原則として建築ができないため、土地Aに2つの建物は建てられません。そこで土地Aに連棟式建物を建築すれば、条件を満たすことで、1つの土地に複数の住宅の建築が可能になり、土地を有効活用できます。
連棟式建物の売却価格相場はいくら?
連棟式建物の売却価格は、同じ立地・面積・築年数の戸建て住宅と比較して、20〜30%程度安くなる傾向があります。
ただし、すべての連棟式建物が一律に評価が下がるわけではありません。物件の条件によっては、相場に近い価格で売却できるケースも見られます。
ここでは、連棟式建物の売却価格が下がりやすい理由と、比較的評価されやすいケースを解説します。
連棟式建物の売却価格の相場は20~30%程度安くなる
一般的に、連棟式建物の売却価格は、同じ立地・面積・築年数の戸建て住宅と比べて、20〜30%程度低く評価される傾向があります。
これは、連棟式建物が次のような構造的・法的な制約を抱えているケースが多いためです。
- 築年数が経過しており、老朽化が進んでいるケースが多い
- 接道義務を満たしておらず、再建築不可となっている
- 建物の切り離しや大規模なリフォームが難しい
このような事情から住宅ローンの利用が難しく、現金購入が前提となるケースも少なくありません。結果として買主が限定され、売却価格が伸びにくくなります。
比較的売れやすい連棟式建物もある
例外的に、すべての住戸が接道義務(幅4m以上の道路に2m以上接する)を満たしている場合は、連棟式建物であっても買主の検討対象になりやすいケースがあります。
たとえば敷地の2面が道路に接しており、連棟式建物を分離した後も各住戸が接道基準を満たすようなケースでは、原則として再建築が可能となります。
このような物件であれば「更地にして新築住宅を建てたい」と考える買主や、買取後に建て替え・再販を想定する不動産業者が購入を検討する場合もあるでしょう。
結果として、一般的な連棟式建物と比べて相場に近い価格で売却できる可能性があります。
連棟式建物・長屋の売却方法3選
連棟式建物は、権利関係や構造上の制約から、一般的な戸建て住宅と同じ方法では売却が進みにくい傾向があります。そのため、状況に応じて売却方法を選ぶことが重要です。
実務上よく選ばれている売却方法は次の3つです。
- 隣の住人に買い取ってもらえないか交渉する
- 自分で他の部屋を買取して全ての所有権を得る
- 訳あり物件専門の買取業者に売却する
それぞれの方法を詳しくみていきましょう。
1.隣の住人に買い取ってもらえないか交渉する
まずは、自分の部屋を隣の住人に買い取ってもらえないか、交渉する方法があります。
隣の住人はすでに物件の住み心地や使い勝手を把握しています。そのため、第三者の買主を探すよりも、購入を検討してもらえる可能性があるでしょう。
また、隣の住人が購入に同意した場合には、2戸を一体的に利用できる可能性があるため、隣の住人にとってメリットとなる場合もあります。購入の意思があるかどうかを早い段階で確認できれば、交渉が進めやすくなるケースもあるでしょう。
ただし、資金面や価格条件が合わず、実際には成立しないケースも少なくありません。
2.自分で他の部屋を買取して全ての所有権を得る
連棟式建物では、所有者が複数に分かれている点が売却を難しくする要因になります。
そこで、他の部屋をすべて買取して、建物全体の所有権を一本化すれば、大型の戸建住宅として売却できる可能性があります。仮にすぐに買い手が見つからない場合でも、各住戸を賃貸に出し、賃貸併用住宅として活用する方法も考えられるでしょう。
また、接道条件や法的要件を満たしている場合には、解体して更地として売却できる可能性もあり、活用の選択肢が広がるケースもあります。さらに、敷地面積が広く最寄り駅にも近い場合には、より買い手や借り手が見つかりやすくなるでしょう。
3.訳あり物件専門の買取業者に売却する
連棟式建物や長屋は権利関係や構造が特殊なため、不動産会社によっては対応を断られたり、売却活動が進みにくかったりするケースもあります。できるだけ早く売却したい場合や、仲介での売却が難しい場合には、訳あり物件専門の買取業者への売却も1つの選択肢です。
専門の買取業者であれば、連棟式建物や再建築不可物件などを前提とした査定・買取の実績があるため、現状のまま売却できるケースが多くあります。また、売主自身が隣の住人と直接やり取りしたり、買主探しを行ったりする負担を軽減しやすい点も特徴です。
隣の住人への売却や所有権の一本化が難しい場合は、訳あり物件専門の買取業者に相談してみるとよいでしょう。
連棟式建物の売却が難しいと言われている4つの理由
連棟式建物は、構造や権利関係が一般的な戸建て住宅と異なるため、売却を進めるうえで制約が生じやすい物件です。
単独の判断では進められない場面も多く、結果として売却が長期化したり、条件が限られたりするケースも少なくありません。
連棟式建物は、主に以下のような理由から売却が難しいといわれています。
- 連棟式建物を売却するには他の住人の許可が必要となる
- 解体を行う際にも全員の許可が必要となる
- 連結部の切り離しは認められているが現実的には困難
- 住宅ローンを受けにくいため売却に時間がかかる
それぞれの理由について、詳しくみていきましょう。
連棟式建物を売却するには他の住人の許可が必要となる
連棟式建物全体を一体で売却するためには、住人全員の許可を取る必要があります。たとえば2世帯で構成される連棟式建物の場合、どちらか一方でも反対すれば、建物全体を売却することはできません。
不動産の所有者が1人であれば、売却の意思決定を比較的自由に行いやすくなります。不動産会社に仲介を依頼し、販売価格を自分で決めて売却することも可能です。一方、連棟式建物全体を売却する際には、所有権を持つ住人全員から許可を得なければならず、スムーズに進まないケースも多いです。
なお、売却だけでなく、リフォーム・リノベーションを行う場合も同様に、所有者全員の同意が必要となります。
解体をおこなう際にも全員の許可が必要となる
連棟式建物は所有する名義人全員の許可がなければ解体できません。そのため、古くなった連棟式建物を解体し、再建築が可能な条件を満たしている場合であっても、売却に向けた判断を単独で進めることは難しくなります。
たとえ自分が「土地を売却して引っ越したい」と考えていても、連棟式建物に住み続けたい人が1人でもいれば、同意を得て解体することは困難です。
連結部の切り離しは認められているが現実的には困難
連棟式建物は、それぞれが住宅として機能しているため、連結部を取り壊すことができれば、単独の建物として所有することも理論上は可能です。連結を外し、単独の建物にできれば、個人の判断で家を売却できるようになりますただし、接合部を破壊したり切り離したりすると、建物の強度に影響が生じるおそれがあります。
また、土地の奥側に物件を所有している場合、切り離しによって接道基準を満たせなくなり、自宅が「再建築不可物件」となる可能性もあるでしょう。連結部の切り離し自体は認められているものの、実務上は現実的な選択肢になりにくいケースが多いといえます。
資産価値が低いため住宅ローンを受けにくい
連棟式建物は金融機関からの住宅ローンが受けにくいため、買主から敬遠される傾向にあります。なぜなら、連棟式建物は、再販性や担保評価の面で不利になりやすく、資産価値が低いとみなされることが多いからです。
金融機関は住宅ローンを融資する際、万が一返済が滞った場合に備えて、不動産を担保として設定します。しかし、資産価値が低い連棟式建物では、十分な価格で売却できず、融資金額を回収できないリスクがあるため、融資対象として慎重に判断されがちです。
そのため、住宅ローンを利用できないケースが多く、現金購入が可能な買主に限られやすくなります。
まとめ
連棟式建物は完全な分離が難しく、所有する部屋の位置によって資産価値も変わるため、取扱いが難しい物件です。そのため、同じ連棟式建物内の住人との交渉も、スムーズに進まないケースが多いでしょう。
連棟式建物を長期間所有し続けることで、固定資産税や維持管理の負担がかかり続ける可能性もあります。
連棟式建物がなかなか売れない場合は、訳あり物件専門の買取業者への相談を検討してみましょう。
連棟式建物・長屋の売却でよくある質問
連棟式建物の切り離しにはどの程度の費用がかかりますか?
建物の構造や規模によっても費用は異なりますが、一般的には解体や設備工事を伴うため、100万〜300万円程度、場合によってはそれ以上の費用がかかるケースもあります。具体的には、解体費用や電気・配管の工事費用、外観の修繕費用などが発生します。
連棟式建物の切り離しをする場合には、複数の業者に見積もりを依頼し、費用内訳をしっかりとチェックすることが大切です。
売却前に連棟式建物をリフォームするべきですか?
連棟式建物は基本的にリフォームせずに売却した方がよいでしょう。
一般的な物件であれば、リフォームをすることで物件の価値が上がり、売却価格でリフォーム費用を回収できるケースもあります。しかし、連棟式建物は一般的な物件に比べて資産価値が低く評価されやすい傾向があるため、リフォームをしても買主が見つからず、リフォーム費用を回収できないリスクがあります。
また「購入後に自分好みにリフォームしたい」と考えている買主も少なくありません。
そのため、売却前に連棟式建物をリフォームする必要性は低く、基本的には現状のまま売却を検討したほうがよいでしょう。