マンションやアパートなど賃貸経営をおこなっているオーナーの中には、管理業務を自主管理すべきか業務委託すべきか悩んでいる人も多いでしょう。
自主管理であれば管理委託費を抑えられるため、不動産投資によって得られる収入を増やすことが可能です。しかし、自主管理は誰でも簡単にできるものなのでしょうか?
この記事では、自主管理をおこなう際にどのような業務が発生するのか、管理委託を選んだ場合のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
自主管理でオーナーが取り組む2つの業務
不動産経営は、賃貸物件を購入するだけで安定した家賃収入を得られるわけではありません。安定した家賃収入を得るには、賃貸物件の管理をおこなう必要があります。
不動産経営をおこなっているオーナーの中には「時間に比較的余裕がある」「管理委託費を少しでも抑えたい」などの理由で自主管理を選択している人もいます。
しかし、自主管理には支出を抑えられるというメリットがある一方で、賃貸物件の管理を全てオーナーがおこなわなくてはならないというデメリットがあります。
自主管理でオーナーが取り組む主な業務は以下の2つです。
・建物管理業務
それぞれの業務内容について詳しく説明します。
入居者管理業務
賃貸経営をおこなっていても入居者が集まらなければ安定した家賃収入を得ることができません。家賃収入に直結するのが入居者管理業務です。
入居者管理業務として、主に以下の5つの業務が挙げられます。
・賃貸契約の締結や契約の更新
・家賃滞納者への督促や回収
・入居者からのクレーム対応
・解約手続きや退去時の立会い
各入居者管理業務の内容について解説します。
入居者募集や現地案内
賃貸物件を運用して安定した家賃収入を得る上で重要なのが入居者募集です。既存入居者で部屋が埋まっている状況では入居者募集をおこなう必要はありません。
しかし、空室が生じている場合は入居者募集をおこなって空室を埋める必要があります。入居者募集では、不動産ポータルサイトまたは自社サイトに物件情報を掲載するという方法などで入居希望者を集めます。
しかし、不動産ポータルサイトは入居者募集の効果が期待できても、自社サイトは検索順位を上げることが困難なので、即効性のある効果は期待できないでしょう。
そのため、営業力という点では、管理業務を専門的におこなっている管理会社の方が高いといえます。入居者募集によって入居希望者が現れた場合には内覧(現地案内)をおこないます。
入居希望者の都合に合わせて内覧を実施するため、本業が別にある物件オーナーはスケジュール調整が難しいといえるでしょう。
賃貸契約の締結や契約の更新
入居者募集で入居者が見つかった後は、賃貸契約を締結します。
賃貸契約では、賃貸契約書を契約者とオーナーの間で交わすだけでなく、契約時に連帯保証人を立てることができない人は家賃保証会社との契約、家賃や敷金・礼金の支払いなどがおこなわれます。
また、既存入居者で埋まっている不動産物件では、一定期間経過後に更新手続きが必要です。契約は2年契約が一般的なので、2年を迎えたタイミングで契約を更新します。
賃貸契約書の内容に不備があると後でトラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。
家賃滞納者への督促や回収
全ての入居者が支払期日通りに家賃を入金してくれるとは限りません。支払期日を忘れている入居者もいれば、経済的理由で意図的に支払わない入居者もいます。
そのような家賃滞納者には、督促して家賃回収しなくてはなりません。意図的に家賃を滞納している入居者の場合、滞納が常態化する可能性があるため、毅然とした態度で督促に臨む必要があります。
しかし、督促の対応を1つ誤ると入居者に訴えられる可能性があります。また、督促から裁判に発展した場合、手間と時間が増えて本業に支障が生じる可能性もあるので注意しましょう。
入居者からのクレーム対応
賃貸マンションや賃貸アパートのオーナーは、入居者が安心して暮らせるようにサポートする義務があります。
そのため、水漏れの発生や給湯器の故障など設備に何かしらの不具合が生じたまたは騒音や異臭など近隣とのトラブルが生じた場合は、それらのクレームに対応しなければなりません。
契約や内覧の日は、入居希望者にある程度の都合を合わせてもらうことができますが、設備の不具合やトラブルのクレームは早期対応が重要です。
もし仕事中で電話に出られなかったり、連絡が遅くなってしまうと入居者満足度が低下する原因となり、退去に至る可能性があります。
緊急時にも対応できるように24時間365日サポートできる体制を整えておかなくてはならないため、精神的・肉体的な負担が大きいといえるでしょう。
解約手続きや退去時の立会い
一度契約した入居者はいつまでも入居してくれるわけではありません。退去を希望した場合は解約手続きや退去時の立会いをおこなう必要があります。
解約手続きと言っても、退去希望者からの申出だけで成立する場合もあり、必ずしも通知書の提出が必要になるわけではありません。
退去希望者から申出があれば、賃貸借契約書の内容に従い解約を進めることになります。退去時の立会いでは、室内の劣化状況を確認するほか、退去者が室内に忘れ物をしていないかなど確認します。
その後、原状回復して、敷金から原状回復の費用を引いて残額がある場合にはそれらを精算することで退去に必要な手続きは全て完了です。
建物管理業務
不動産賃貸では、家賃収入に直結する入居者対応が重要です。
しかし、建物の劣化が進む、建物が汚れているという状況では、資産価値の低下や入居者満足度の低下につながるため、建物管理業務も疎かにしてはいけません。
建物管理業務として、主に以下の4つの業務が挙げられます。
・定期清掃
・建物や設備の日常(法定)点検
・クリーニングやリフォーム
各建物管理業務の内容について解説します。
敷地や共用部分の日常清掃
マンション1室だけの運用の場合、敷地や共用部分の日常清掃は管理会社がおこないます。
しかし、マンション1棟やアパートの場合、敷地や共用部分の日常清掃を賃貸物件のオーナーがおこなわなくてはなりません。
エントランスホールや共用廊下などが汚れていると、入居者満足度が低下して退去者の増加につながる可能性があります。
そのため、賃貸物件の景観を保つためにも、週に1回~2回は日常清掃をおこなうとよいでしょう。
定期清掃
染みついた汚れは日常清掃では簡単に取り除くことができません。そのため、数カ月に1回高圧洗浄や薬剤などで本格的な清掃を実施する必要があります。
また、頻繁に掃除できない部分の清掃なども定期清掃の際におこないます。
たとえば「ポリッシャーなどを使用して共用廊下やエントランスホールをきれいにする」「駐輪場の屋根や外壁の汚れを高圧洗浄で除去する」「照明や各メーターの拭き上げる」などです。
定期清掃は専用の機械や薬剤を使用するため、専門業者に依頼するのが一般的です。
しかし、専門業者に依頼すれば終わりというわけではなく、清掃がしっかりと行き届いているかどうかを確認しなければならないため、オーナーは定期清掃当日に立会わなければなりません。
数カ月に1回と言っても、業者の手配や当日に立会わなければならないのが少し手間といえるでしょう。
建物や設備の日常(法定)点検
建物や設備の一部が劣化したまま放置すると、状態が悪化して修繕費用が大きくなる可能性があります。そのため、少しでも早く劣化に気付くためにも、日常清掃のタイミングに合わせて日常点検をおこなうことが重要です。
たとえば、エレベーターが設置されている物件の場合、1年に1回建築基準法に基づく法定点検を実施しなくてはなりません。
また、消防法に基づく消防用設備点検として「機器点検は6カ月に1回」「総合点検は1年に1回」実施することが義務付けられています。
これらの法定検査がしっかり実施されているか確認しなくてはならないため、オーナーは検査当日に立会う必要があります。
日常清掃のタイミングに合わせて日常点検をおこなうとなると、週に1回~2回は半日程度の時間を確保しなければならない、法定点検時も立会わなければならないことを考慮すると、なかなか本業との両立が難しいといえるでしょう。
クリーニングやリフォーム
入居者退去では、次の入居者が気持ちよく入居できるように、室内クリーニングをおこないます。オーナーがクリーニングをおこなっても特に問題ありませんが、専門業者に依頼した方が早くきれいに仕上がるでしょう
また、設備が古くなっていたりニーズに合っていない場合、退去のタイミングに合わせて畳をフローリングに変更する、水回りを変更するなどのリフォームも有効かもしれません。
しかし、リフォームする際はリフォーム業者との打ち合わせや立会いが必要になります。このように入居者管理業務と建物管理業務は、時間と手間がかかる業務内容が多いので注意が必要です。
管理委託のメリット
自主管理の場合、多くの管理業務をおこなう必要があるということが分かりましたが、管理委託を選んだ場合にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
管理委託を選んだ場合のメリットは以下の4つです。
・遠方の物件を運用できる
・精神的・肉体的負担を軽減できる
・様々な相談ができる
それぞれのメリットについて詳しく解説するので、管理業務を委託するかの判断材料にしてみてください。
本業に専念できる
日中働いているサラリーマンオーナーは本業が中心なので、入居者管理業務と建物管理業務を並行しておこなうのは容易ではないでしょう。
仕事中に電話がかかってくる、仕事を休んで入居者対応しなければならない、休みの日も日常清掃や日常点検に行かなくてはならないため、仕事に支障が生じる可能性があります。
しかし、管理会社に管理業務を全てすれば、本業に専念できます。管理会社の連絡に対応するだけで良いため、賃貸経営の業務を大幅に減らすことができるでしょう。
遠方の物件を運用できる
自主管理での賃貸経営であれば、賃貸住宅の日常点検や日常清掃などをおこなわなくてはならないため、自宅からの距離が近い物件に限られてしまうかもしれません。
自宅からの距離が近い物件の立地や利回りなどの条件が良い物件であれば問題ありませんが、条件の悪い物件であれば不動産経営に支障が生じる可能性があるので注意が必要です。
しかし、管理委託では近くの物件だけでなく、遠方の物件も運用することが可能です。
遠方の物件を所有してもその物件近くの管理会社に管理を委託すればいいだけなので、より条件の良い物件を運用しやすくなるといえるでしょう。
精神的・肉体的負担を軽減できる
物件のオーナーには、入居者が安心して暮らすことができるように24時間体制でのサポートが求められます。
何らかのトラブルが生じると、休みの日や深夜でも電話がかかってくるほか、家賃滞納が生じた場合は督促をおこなわなければならないなど精神的な負担が大きいといえます。
深夜のサポート対応によって睡眠時間が減る、休みの日に日常清掃や日常点検のために物件に足を運ぶとなると、肉体的な負担も大きくなるので注意が必要です。
しかし、管理を委託すれば、これらの負担を軽減できます。精神的・肉体的にも余裕を持って不動産投資に取り組めるのがメリットといえるでしょう。
さまざまな相談ができる
自己管理は不動産の専門家である管理会社と比べると営業力が低くなるため、空室が生じてもなかなか埋まらない可能性があります。
しかし、管理会社に管理を委託していれば、営業力の高さが存分に発揮されるため、空室が速やかに埋まりやすくなります。
また、管理会社に空室対策や売却・買い替えのタイミングなど相談できるため、不動産経営の安定化を図ることが可能です。長期的に安定した不動産経営を続けるためにも、管理委託は重要といえるでしょう。
管理委託のデメリット
管理業務を委託することで本業に専念できる、遠方の物件を運用できるといったメリットがありますが、何かデメリットはあるのでしょうか?
管理委託を選んだ場合のデメリットは以下の2つです。
・仲介手数料が発生する
それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
管理委託費が発生する
管理委託費とは、不動産会社に物件の管理を委託した際にかかる費用です。管理委託費は宅地建物取引業法に上限の記載がないため、各不動産会社は自由に管理委託費を設定できます。
上限がないと言っても、管理委託費は家賃収入の3~8%に設定されているのが一般的です。自主管理では管理委託費がかからないので管理委託のデメリットといえますが、管理委託費はそこまで大きな支出とはいえません。
たとえば、1カ月の家賃が20万円であり、管理委託費が家賃収入の5%に設定している不動産会社に管理を委託すると、月々1万円の管理委託費がかかります。
家賃収入が増えると管理委託費も増えますが、大体5%負担すれば精神的・肉体的負担から解放されると考えられます。
不動産投資に取り組みやすくなることを考えると、管理委託費の発生がデメリットになるとは一概にいえないでしょう。
仲介手数料が発生する
仲介手数料とは、不動産会社が入居者募集をおこなって、賃貸借契約の締結に至った場合にかかる費用です。
宅地建物取引業法に上限が記載されており、各不動産会社は上限の範囲内であれば自由に仲介手数料を設定できます。
仲介手数料の上限は、貸主と借主の両者とも家賃の0.5カ月分です。ただし、承諾があれば貸主に1カ月、借主に1カ月など、どちらか一方に家賃1カ月分までを請求することも可能です。
こちらも管理委託費のケースと同様、家賃1カ月分の支出を負担すれば、不動産会社の営業力を利用して空室を速やかに埋めることができるといえます。
不動産を専門的に扱う不動産会社と自主管理では、営業力に大きな差が生じます。
管理委託と自主管理では、空室期間の差が1カ月以上開く可能性が十分にあることを考えると、仲介手数料の発生がデメリットになるとは一概にいえないでしょう。
まとめ
賃貸経営をおこなっているオーナーの中には、自主管理をおこなうべきか、管理委託にすべきか悩んでいる人も少なくありません。
自主管理は、管理委託費や仲介手数料を抑えることができるというメリットがありますが、管理手数料や仲介手数料の金額はそこまで大きいものではありません。
そのため、自主管理における業務量や精神的・肉体的負担などを考慮すると、管理委託費や仲介手数料を拠出した方が負担を大きく軽減できる可能性が高いといえます。
営業力という点でも、自主管理と管理委託では、管理委託の方が不動産の専門家であるため、優れているのが一般的です。
安定した不動産経営をおこなうためには、自主管理よりも管理委託を選択した方がよいといえるでしょう。