入居希望者と賃貸借契約を締結する際には、ほとんどのケースで「連帯保証人」を求めることと思います。ところが最近では、連帯保証人ではなく「家賃保証会社」を利用するよう指定する貸主や管理会社が増えているようです。
そこで今回は、家賃保証会社の役割や貸主および借主にとってのメリット・デメリット、また家賃保証会社を使わない場合のポイントなどについて解説します。今後の賃貸経営にぜひ参考にしてください。
借主の連帯保証人の代わりとなる
賃貸借契約を結ぶ際には、ほとんどのケースで連帯保証人を立てることが求められます。連帯保証人はその名の通り、「家賃等の支払い」という債務を借主と連帯して負うことになります。万が一、借主が家賃を滞納すれば、滞納期間の長短に関係なく代位弁済(契約者の代わりに立て替えて支払うこと)を請求されることになります。貸主側としては、大切な財産を第三者に占有させることになるわけですから、借主の家賃の支払いを保証してくれる存在を必要とするのも当然です。
しかし最近では「連帯保証人になってくれと頼めるような親族はいない」とか、「連帯保証人としての経済力を持つ親族が見つからない」というケースが増えています。かつて連帯保証人は親兄弟に頼むのが一般的でしたが、家族関係の希薄化や個人の自立志向が目立つ現代においては、以前ほど受け入れられない考えとなっているのです。また、長年に及ぶ経済不況により、安定した職に就いている親族がいない場合もあります。
そんな時に、連帯保証人の役割を担ってくれるのが「家賃保証会社」です。借主が万が一家賃を滞納した場合には、家賃保証会社が家賃を立て替えてくれます。貸主と借主、双方のニーズが合致していることから、家賃保証会社への加入を必須条件とする賃貸物件は増加を続けており、現在はかなりの割合で家賃保証会社への加入が義務付けとなりつつあるのです。
家賃保証会社の「保証」範囲はどこまで?
家賃保証会社が保証するのは、原則として物件の家賃です。ちなみに、家賃保証というと、空き室を含めた物件全体の家賃を保証する「サブリース」を連想する人もいるかもしれませんが、ここでいう家賃保証会社とは、あくまで契約者の連帯保証人として、貸主に対して家賃を保証することであり、全く別ですので混同しないようご注意ください。家賃保証会社の数は非常に多く、保証内容もそれぞれの会社が独自に定めています。
例えば、純粋に家賃だけを保証し、共益費や駐車場代は例外としているところもあります。一方で、家賃や共益費だけでなく、万が一の法的手続きの際の費用や、退去後の原状回復費用までをトータルで保証するところもあるなど、会社ごとに保証範囲は様々です。貸主の立場で、どの家賃保証会社と契約しようか迷っているのであれば、各社の保証範囲をしっかり確認してから選考しましょう。
なお、ほとんどの家賃保証会社では、借主の孤独死や自殺、物件内の事件事故や災害などで生じた損害の賠償については非対応としています。心配な場合は、家賃保証会社とは別に損害保険などの加入を検討するとよいでしょう。
家賃保証会社を利用する貸主側のメリット
借主に家賃保証会社を利用してもらった場合、貸主にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。
1.家賃の回収がスムーズ
貸主にとって最大のメリットは、家賃滞納の心配が無くなることです。家賃保証会社には、借主からの入金の有無に関係なく、家賃保証会社が毎月入金してくれるタイプと、借主からの家賃の支払いがなかった場合に、貸主から請求を起こすタイプがありますが、いずれにしても家賃が入ってこなくなることはないため、安心できるでしょう。
家賃保証会社を利用していないと、家賃滞納が発生した場合は貸主が自分で家賃督促を行わなければなりません。平気で家賃を滞納する借主の場合は、連絡をとるのも一苦労です。電話にも出なかったり、訪問しても居留守を使われたりします。本人と連絡がとれなければ、連帯保証人に連絡をとって弁済してもらうことになりますが、連帯保証人にも連絡がつかなかったり、弁済に応じてもらえなかったりすると大変です。連帯保証人が任意に支払いに応じない場合は、最終的に裁判を起こして回収するしかありませんが、その際の費用については貸主が負担しなければなりません。借主が家賃保証会社を利用していれば、このような状況に巻き込まれることなく、円滑に家賃が保証されるのです。
2.建物の明け渡しまで対応してくれる
家賃滞納が発生した際に最も困るのは、滞納している家賃の回収ではなく、建物自体の「明け渡し」です。借主が家賃保証会社に未加入で、貸主自身が督促をしているようなケースの中には、なかなか家賃が支払われないまま、半年以上の月日が経過してしまうことも少なくありません。そうなると、貸主心理としては「最悪家賃については諦めるから、1日も早く出ていってほしい」と思うものです。
ところが、家賃滞納者に出て行ってもらうことほど、難しいことはありません。家賃を滞納しても退去しないということは、退去しても行くところがないことを意味しています。また、家賃を滞納するくらいですから、次の物件を借りる資金がないことは明白で、出て行きたくても出ていけないのが、家賃滞納者の実態なのです。そのため、家賃滞納者に建物を明け渡してもらうためには「建物明け渡し請求訴訟」を提起するしかありません。そうなると、弁護士費用や明け渡しにかかる費用は、滞納家賃を上回る可能性も出てきます。
そこで頼りになるのが「家賃保証会社」です。借主が家賃保証会社に加入している場合、建物明け渡し請求訴訟にかかる費用すべてを、家賃保証会社が負担してくれます。貸主としては、書類に捺印するくらいで、裁判所に出向く必要すらありません。また、建物が明け渡されるまで家賃保証会社の保証は続くため、裁判が長引いたとしても、貸主が不利益を被ることもありません。このように、家賃滞納者が建物を明け渡さない場合は、家賃保証会社に加入しているかどうかで、貸主が被るダメージが大きく変わるのです。
3.不良借主を排除しつつ、空き室期間を最小限にできる
賃貸経営における収入源である「家賃」を滞納されてしまえば、貸主にとっては死活問題になるため、家賃の支払い能力のある借主を選ぶことは非常に重要です。とは言え、あまりに厳しい基準を設けていては借主が集まらず、空き室でいる期間も長くなってしまいますし、反対に、借主の受け入れ基準を緩和すれば空き室は埋まりやすくなりますが、今度は家賃滞納のリスクが高くなります。
その点、家賃保証会社は誰でも利用できるわけではなく、保証会社独自の審査を通過した人だけが利用することが可能です。一般的には信用面で難があるとされている自営業者や高齢者、学生や外国人などでも、その保証会社の基準を満たしていれば審査を通過し、家賃保証会社を連帯保証人にして入居することができます。貸主にとっては、ある程度の基準をクリアした人だけを借主として迎えることができる上に、家賃の支払いも保証されるので、安心して賃貸経営に専念できるようになるでしょう。
また、家賃保証会社の利用は、極めて悪質な借主を排除する上でも有効です。家賃滞納に悩む貸主の中には、滞納された家賃の回収可否にかかわらず、とにかく滞納者に出て行ってもらい、一日も早く新しい借主を入れることで、少しでも損失を取り戻そうと考える人がいます。家賃滞納問題については、裁判で争ったところで全額を回収できる見込みは薄いため、貸主が泣き寝入りすることも珍しくありません。中には、貸主側のこのような事情につけ込み、あえて家賃を滞納する非常に悪質な借主もいます。入居しては家賃を滞納し、追い出されたらまた次の物件で家賃を滞納し、追い出されるまで居座るという行為を繰り返すのです。
家賃保証会社では、悪質な借主の情報を共有しています。よって、過去に滞納歴がある人の情報を確認しながら審査をすることが可能になるため、審査の段階で悪質な借主をはじくことができるのです。なお、家賃保証会社での情報共有は、全国賃貸保証業協会に加盟している会員会社の間で行われています。
家賃保証会社を利用する借主側のメリット
家賃保証会社の利用は、貸主にとって大きなメリットがあることはお分かりいただけたかと思います。では、視点を変えて借主にとってのメリットについて見ていきましょう。
身内に連帯保証人を頼まなくてよい
借主の立場から見たメリットは、親しい人に迷惑をかける心配がないということです。万が一の話とはいえ、身内にお金のことをお願いするのはバツが悪いことですし、冒頭で触れたように頼める相手がいないという人も少なくないでしょう。家賃保証会社なら、一定の手数料を支払うことで自分の連帯保証人として機能してくれます。
不測の事態で家賃が支払えなかったとしても、保証会社が確実に代位弁済してくれるので貸主にも迷惑がかかりません。貸主の立場からしても、個人の連帯保証人よりは保証業務に特化した第三者機関の方が何かと信頼できる、という声が上がっています。今後、個人の連帯保証人を立てる習慣は廃れていくことでしょう。
家賃保証会社を利用するデメリット
このように貸主、借主双方にメリットが大きい家賃保証会社ですが、デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
1.借主の金銭的負担
家賃保証会社と借主が契約を結ぶ際には、借主が所定の「保証委託料」を支払うことになります。保証委託料の金額は、各保証会社や借りる物件の家賃によって異なり、1カ月分の家賃を保証料とする会社もあれば、家賃の半月分が保証料という会社もあるようです。もしも、家賃10万円の物件で1カ月分の保証料が必要だと、初期費用がプラス10万円かかることになります。何かとかさむ初期費用がさらに高額になるため、借主にとっては大きなデメリットになるかもしれません。
またこの問題は、表裏一体で貸主にも悪影響があります。保証委託料分の初期費用がプラスでかかってしまうため、連帯保証人が不要になるというメリットがある一方で、余分な費用がかかることで借主が決まりにくくなる可能性があるのです。この場合は、賃貸の募集条件を緩和することで対処できます。例えば、敷金1カ月、礼金1カ月で募集している物件であれば、保証委託料分礼金を値下げして募集すれば、保証委託料を敬遠して借主が決まりにくくなる事態は回避できるでしょう。
2.業務に問題がある家賃保証会社もある
ニーズの高さから、他業界からの新規参入も多い家賃保証会社には、信頼のおける会社もあればそうではない会社もあります。特に、貸金業やクレジット業界から家賃保証業界に転換した一部の保証会社においては、法に触れるような行為が問題となりました。
例えば、社会的話題ともなった「追い出し屋騒動」があります。賃貸経営においては、家賃の支払いが1、2カ月遅れたとしても、即座に賃貸借契約を解除して借主を追い出すことはできません。貸主側が必要なプロセスを踏んではじめて、借主に出て行ってもらうことが可能になります。
ある家賃保証会社は、家賃の支払いが遅れた借主に対し、留守中に物件内の荷物を運び出してカギを換え、事実上の追い出し行為を行ってしまったのです。また、立て替えた家賃の督促を夜間や早朝に行ったり、扉や窓に貼り紙をしたり、戸口で大声で支払いを要求したりと、嫌がらせ行為をしていたことも明らかになっています。家賃保証会社である以上は、借主の支払いが遅れてしまった場合は家賃を立て替え、その後にしかるべき手順を踏んで借主に支払いを要求するのが筋です。そのような段階を経ていないうちから、自力救済や脅迫ともいえる強硬手段に出ていたことで社会から非難されました。
現在は法規制により、一時期のような違法行為はほぼ無くなったといわれていますが、滞納者に対しグレーゾーンぎりぎりの方法で取り立てを行う家賃保証会社が、ゼロになったわけではありません。業務は健全になされているか、信頼をおける会社かどうかについては、よく調査して確認する必要があるでしょう。
3.家賃保証会社の倒産・破産リスク
家賃を保証してくれるはずの保証会社自身が、倒産や破産をしてしまう場合もあります。一時期は、ニーズの高まりに便乗して家賃保証会社の数が急激に増えました。しかし競争が激化する中で淘汰され、業界大手と呼ばれる立ち位置にいたにもかかわらず、倒産してしまった家賃保証会社もあるのです。
家賃保証会社が経営不振に陥ると、絵に描いたような悪循環が発生します。新規顧客の減少で保証料収入が減り始め、保証料収入が減ったために家賃立て替えなどの保証を履行できなくなり、それによって貸主や不動産会社からの信用が無くなって、さらに新規顧客が減る・・・という具合です。家賃保証会社の倒産や破産で実害を被るのは「貸主」です。仮に家賃保証会社が倒産した場合、借主の連帯保証人はいなくなります。貸主にとってこの上なく不安な状況にはなりますが、それを理由に賃貸借契約を解除することはできないので、そのまま住まわせておくしかありません。
家賃保証会社を入れずに借主を募集する場合のポイント
家賃保証会社のメリット・デメリットを紹介しましたが、注意深く選べば、家賃保証会社を利用することは貸主にとっても借主にとっても、大きなメリットになります。しかし、どうしても家賃保証会社を利用したくないと思う貸主もいることでしょう。または借主が、保証委託料がもったいないから、家賃保証会社を使いたくないと主張することもあります。そんな時に、貸主として安心して借主を迎えるにはどうしたら良いのでしょうか?検討できる方法のうちの2つをご紹介しましょう。
1.属性の良い連帯保証人を付ける
家賃保証会社が使えないのなら、その役割を連帯保証人に担ってもらうしかありません。賃貸借契約の連帯保証人になれる人の条件について、法律上の規定は設けられていませんが、身元が確かであり、万が一家賃の滞納があった際に、不自由なく代位弁済ができる経済力があるかどうかがポイントになります。
できるだけ属性の良い連帯保証人を付けてもらいましょう。属性とは、年収や職業、勤続年数など、社会的な地位や信用の度合いを測る物差しのようなものです。年収は、もちろん高ければ高いほど属性が良いことになりますし、公務員や医療従事者、各種士業などの職業は社会的信用が高いために高属性となるでしょう。一般の会社員などでも、正社員として一定の勤続年数があり、一般的な水準の年収があるなら、連帯保証人として十分な属性と見なされるはずです。
加えて、借主の連帯保証人という意味では、借主とできるだけ近い親等であることもポイントになります。一般的には、借主の親族や経済力のある友人などが連帯保証人としてふさわしいとされています。しかし万全を期すためには、できるだけ借主との血縁関係が近い親族を選びましょう。いざという時に、他人事のような対応をされないためです。経済不況の続く近年では、「正社員で、安定した収入のある身内1人探すことすら難しい」という人も少なくありません。
連帯保証人候補の属性が今一つなら、連帯保証人を2人に増やすことで対処することもできます。属性が高くないとしても、連帯保証人の人数が増えることで、万が一の際に家賃その他を回収できる見込みは上がるでしょう。
2.定期借家契約を活用して家賃を前払いしてもらう
契約の更新のない「定期借家」として借主を募集し、入居期間中の家賃を契約時に全額払ってもらうなら、家賃保証会社も連帯保証人も無しで入居させることができます。定期借家は、契約時に設定した期間が満了すると同時に、強制的に賃貸借契約が終了するタイプの契約なので、期間満了後も借主が引き続き住むことはできません。
借主が期間満了後も住み続けたいという場合は、貸主の合意のもとで「再契約」を行う必要があります。定期借家の貸主は、特別な理由がなくても再契約を拒否することが可能です。注意したいのは、必ず定期借家契約書で締結することです。通常の賃貸借契約にしてしまうと、よほどの理由がない限り契約更新する義務が生じますので注意しましょう。
まとめ
以前は、賃貸借契約といえば連帯保証人を立てるのが当たり前でしたが、今後は民法改正などの影響も受けて、家賃保証会社を利用する方がスタンダードになるかもしれません。借主に家賃保証会社を利用してもらうことで、賃貸経営において最も大きなリスクといわれている「家賃滞納」は、ほぼ100%回避することができるでしょう。これまで家賃保証会社を使ったことがない貸主の方は、今後ぜひ検討されることをおすすめします。