不動産に限らず、賃貸借契約には必ず借主の他に「連帯保証人」が必要になりますが、「保証」においては「連帯保証人」のほかに、ただの「保証人」の2種類があり、この2つには大きな違いがあります。
この記事では、連帯保証人と保証人、それぞれの役割や権利の違いについて説明していきます。
不動産に限らず、賃貸借契約には必ず借主の他に「連帯保証人」が必要になりますが、「保証」においては「連帯保証人」のほかに、ただの「保証人」の2種類があり、この2つには大きな違いがあります。
この記事では、連帯保証人と保証人、それぞれの役割や権利の違いについて説明していきます。
保証人とは、債務者がその債務を履行できない場合に、代わりに履行することを保証する人です。そのため、保証人は担保の一種である「人的担保」と呼ばれています。
具体例を挙げると、例えば「Xさんが銀行から1,000万円を借りて、その保証人にYさんがついた」という状況があったとします。もしXさんが1,000万円を返済できなくなった場合、当然銀行は保証人であるYさんにそれを求めてきます。この時、Yさんは保証人としてXさんの代わりに、1,000万円の返済に応じなくてはいけません。つまり保証人とは「お金を借りた人と同じ義務を負う」人のことを指します。
これが不動産だった場合、保証人が債務者の代わりに支払わねばならないものの多くは「滞納している家賃」となります。もちろん保証人には、債務者に対し代わりに払ったお金を求める権利(求償権)があります。ですから、もしも保証人が立て替えて支払った場合は、立て替えた分を本人に対して支払うよう請求することが可能です。
このように保証人には、契約者と同等の義務が生じますが、その一方で「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」という2つの権利が認められています。それぞれどのようなものなのか、以下にまとめました。
保証人が債務の弁済を求められた時「まずは保証人の自分ではなく債務者(不動産の場合であれば借主)に督促してくれ」と言える権利のことです。ただこの権利は、債務者が破産していたり、行方不明になっているような場合は主張できません。
保証人が債務の督促に対し「債務者(不動産の契約者)が財産を持っていることを証明する。取り立てはそこからしてほしい」と言える権利です。この権利は「債務者がお金を持っていることを証明すれば、まずそちらの財産を差し押さえない限り、保証人に債務の弁済を求めることができない」ということを意味します。債務者に財産があることが証明された以上、貸主は保証人にそれ以上何も言えなくなるのです。また、保証人には「分別の利益」が保証されています。これは「保証人が複数いる場合、保証人一人あたりの保証額は、全保証人の数で割った額が上限になる」という意味です。
具体的な例を挙げてみましょう。もし1,000万円の借金がある債務者に対し、10人の保証人がいたとします。その場合、1,000万円を10で割った100万円が、一人の保証人が負わなければならない保証額の上限になるという事です。保証人にはこのような権利が認められていますが、では、連帯保証人はどうなのでしょうか。
一方、「連帯保証人」は保証人が持つ2つの抗弁権を持ちません。つまり、連帯保証人は貸主から借主の債務の請求を求められても「まず借りた人間に話をしてほしい」と言うことができず、即座にその請求に応じる必要があります。また、前項で挙げた「分別の利益」も連帯保証人には適用されません。このように、連帯保証人は、保証人に比べとても重い責任を負わなければなりません。よって、貸主からすれば保証に関しては、保証人ではなく、連帯保証人と契約を結んだ方が都合がよいという事になります。
貸主は、債務の回収を確実なものにするため、保証人に対し、契約書に実印での捺印を求め、印鑑証明書を提出させる必要があります。保証人が「保証の意思がある」ことを立証する証拠を押さえるためです。これがなければ、保証人に債務の弁済を依頼しても「自分には保証するなどと言った覚えがない」と逃げられてしまう可能性があります。少なくとも「事前に保証人の確認をする」「実名で捺印してもらう」「本人の印鑑証明書を提出してもらう」などの「保証の意思」を示す客観的証拠を作っておくことが必要と言えるでしょう。また、契約書の条文にもあらかじめ、連帯保証人に関する内容を盛り込んでおくことも重要です。
では、実際に賃貸借契約において、連帯保証人と契約を結ぶまでのフローとポイントについて解説していきたいと思います。
不動産会社から入居申込書がファックスなどで届いたら、まずは内容についてしっかりと吟味します。万が一家賃を滞納したときのために、連帯保証人をとることはとても重要ですが、それ以上に、そもそも家賃滞納のリスクがありそうな人に貸さないようにすることも、貸主としてとても重要なポイントです。入居申込書の段階で、特に見るべきポイントは以下の通りです。
入居申込書には、本人や連帯保証人の詳細な内容を記載しなければなりません。入居の意思が強い場合は、すべての項目について漏れなく綺麗に記入されていますが、反対に意思が弱かったりすると、未記入の場所が多いまま、とりあえず送ってくることがあります。未記入の部分が多いと、適切に審査できないばかりか、そもそも入居の意思がまだ固まっていないこともありますので、まずはすべての項目をきちんと埋めてから送ってくるよう、不動産会社に伝えましょう。
入居申込書は、手書きで書くのが一般的です。パソコンが普及している昨今でも、手書きの申込書が主流なのは、手書きの申込書から、その人の人となりを知るためでもあります。たとえ、綺麗な字でなくても、丁寧に書いているかどうかは、見ていてある程度伝わってくるものです。書きなぐったような字や、やっつけ仕事で書いたような申込書が送られてきたら要注意です。申込書すら綺麗に書けない人が、大切な部屋を綺麗に使ってくれるとは到底思えません。入居申込書の筆跡については、重要な判断材料になりますので、しっかりとチェックしましょう。
連帯保証人の項目で、まずチェックすべきは「年齢」です。賃貸借契約の連帯保証人の場合、基本的には入居期間中は仕事をしていて、安定した収入があることが前提となります。年齢があまりにも上になってくると、そもそも連帯保証人としての保証能力に疑問が出てきます。最低でも70歳以下であることが好ましいでしょう。
賃貸借契約期間中に、万が一連帯保証人が死亡してしまったらどうなるのでしょうか。不動産会社の中には、新たに連帯保証人を見つけないと、誰からも保証をしてもらえないと考えているケースがありますが、実はそんなことはありません。連帯保証人の責任については、「相続」の対象となるため、連帯保証人に相続人がいる場合は、相続人が連帯保証人としての地位を引きがなければなりません。
例えば、本人が契約者で父親が連帯保証人である場合において、父親が死亡したとします。相続人が母親と本人、本人の弟だった場合、相続放棄をしない限り、法定相続分に則って、母親と弟にも滞納した場合に、家賃を支払うよう督促することができるのです。ですから、万が一連帯保証人が死亡した旨の連絡があったら、「相続人は誰なのか」「相続放棄はするのか」の2点について落ち着いて確認しましょう。また、相続人が確定したら、改めて相続人と連帯保証人の契約を結び直しておくことをおすすめします。
連帯保証人の保証能力を検証する上で、重要な要素となるのが、現在の住まいです。自宅が賃貸物件ではなく、持ち家や持ちマンションである場合は、最悪のケースでも、それらの財産を差し押さえれば、滞納家賃を回収不能になることは極めて考えにくいでしょう。また、自宅が持ち家の場合、連帯保証人が引越してしまい、行方不明になる可能性も低くなるため、信頼性も高くなります。そのため、連帯保証人はできる限り、持ち家や持ちマンションなど、自己所有の不動産に住んでいる人を立ててもらうとよいでしょう。
入居申込書を確認したら、実際に連帯保証人に連絡して確認をします。不動産会社に管理を委託している場合でも、できれば自分自身で挨拶も兼ねて連絡することをおすすめします。連帯保証人の中には、契約者本人に断りきれず、仕方なくなっている場合や、責任の重さをよく理解しないままなろうとしているケースが多々あります。そう言った、意思が固まっていない状態のまま、賃貸借契約の手続きを進めていくと、後でトラブルになる可能性があるため、できれば自分で電話をして、意思が固まっているのか確認するようにしましょう。また、勤務先についても必ず「在籍確認」の連絡を入れるようにしましょう。
実際に賃貸借契約書を結びます。連帯保証人については、賃貸借契約書の連帯保証人欄に署名捺印をもらうのが一般的ですが、できれば別途「連帯保証人確約書」にも署名捺印をもらっておくとよいでしょう。ここでのポイントは、必ず「実印」で捺印してもらうことです。実印以外の認印などでは、簡単に偽造できてしまうため、必ず実印で捺印の上、印鑑証明書を添付してもらうことを徹底してください。
賃貸借契約は、書類関係が全て揃って、始めて契約が締結となります。ところが、賃借人にその重要性が伝わっていないと、物件の引き渡し日当日になっても、まだ印鑑証明書の取得が間に合わないケースが出てきます。そのような場合、仕方がないからと、後日印鑑証明書を提出することを条件に、鍵を引き渡してしまうことがあるのですが、それは絶対にやめましょう。一度鍵を引き渡してしまうと、部屋を占有されてしまうため、万が一印鑑証明書が期日までに提出されなかったとしても、簡単には追いだせません。また、賃借人も鍵の引き渡しを受けたことで、印鑑証明書の提出を後回しにしてくる可能性も十分ありえます。そのため、印鑑証明書など必要書類が1つでも揃わなければ、絶対に鍵は引き渡せない旨、不動産会社も含め事前に周知しておくことをおすすめします。以上が、連帯保証人と契約を結ぶまでの基本的なフローとポイントになります。
賃貸借契約期間中に、万が一家賃滞納が発生したら、どのような流れで連帯保証人にアプローチをしていく必要があるのでしょうか。ここでは、連帯保証人に家賃を督促する際のポイントについて解説したいと思います。
万が一家賃が滞納したら、まずは契約者本人に督促の連絡を入れます。うっかり振込忘れていた、などの場合であれば、この段階ですぐに入金になりますが、少しでも待ってほしいと言われた場合は、速やかに連帯保証人に督促しましょう。本人や連帯保証人のためにと、少しの間であれば連帯保証人に督促せずに待ってあげる人がいますが、実はそれは逆効果です。連帯保証人には本人の家賃の支払い状況を、できる限り正確に伝えておく必要があります。家賃1カ月程度の滞納であれば、連帯保証人も速やかに支払ってくれる可能性がありますが、何カ月も滞納してから、そこで初めて連帯保証人に督促すると、「なんでもっと早く教えてくれなかったんですか」と言われてしまう可能性があります。家賃滞納は滞納額が少ない方が、回収率が高いため、できる限り早い段階で連帯保証人にも督促するようにしましょう。
連帯保証人に家賃の督促をすると、かなりの確率で「本人から支払わせる」という趣旨の回答をされます。ただ、先ほども解説した通り、連帯保証人には催告の抗弁権や検索の抗弁権がないため、「本人から支払わせる」という言い逃れは通用しません。そのことを理解させるためにも、必ず連帯保証人本人に家賃を立て替えて、至急支払うよう伝えましょう。
賃貸借契約の家賃が遅れた場合、遅延した日数に応じて遅延損害金を請求することができます。大した金額ではありませんが、遅延損害金を連帯保証人に請求することで、至急支払わなければならないという「危機感」が芽生えるのです。実際、遅延損害金を請求している管理会社は、滞納率が低いという傾向があるようです。遅延損害金を得ることよりも、家賃滞納の抑止力として、非常に有効な手段といえるでしょう。万が一家賃が滞納した場合は、これらの点に注意して連帯保証人に督促するとより効果的です。
これまで見てきたとおり、保証人・連帯保証人は「他人の債務を負わなければならない」という非常にリスクが高いものです。他人の保証人・連帯保証人になったせいで、自分だけでなく家族の人生まで狂わせてしまったなどという例は、数えきれないほどあります。だからこそ、「保証人・連帯保証人になることを迫られている」という場合は「そのリスクが自分に負えるものか」「自分の能力で対処できるか」という事を念頭において判断しなくてはなりません。また、保証人・連帯保証人を誰かに頼まなければならないという場合は、誠心誠意相手に向き合い、協力を求めることが唯一の方法です。保証人・連帯保証人になるということはこれだけリスクがある行為ですから「断られて当然」くらいの気持ちでお願いする程度でちょうどよいでしょう。
どうしても連帯保証人になってもらえる人がいない場合は、家賃保証会社を利用するという手段があります。家賃保証会社に、家賃の50~100%を保証料として支払うことで、連帯保証人の代わりに家賃を保証してもらうものです。ただ、家賃保証会社については、どの物件でも必ず利用できるというわけではなく、利用ができる物件が限られています。もしも連帯保証人のあてがない場合は、あらかじめ家賃保証会社を利用したい旨を、不動産会社の担当者に伝えておくとよいでしょう。
どうしても連帯保証人になってほしいと言われて、断れないような場合は、連帯保証人ではなく、保証人であれば引き受けてもよいと答える対処法もあります。また、自分だけではなく、数人の保証人を集められるのであれば、保証人になってもよい、という条件をつければ、万が一家賃滞納が発生したとしても、保証人一人当たりの負担はかなり軽くなります。
アパートの大家の立場から見た場合、家賃保証会社を使ってもらえれば、家賃滞納リスクがなくなるため、すべての問題点は解消されたかに見えます。ところが、家賃保証会社は家賃という金銭については保証してくれるものの、入居者の素行や、緊急時の対応については一切関わってくれません。そのため、入居者が騒音を出して近隣に迷惑をかけたりしたような場合に、保証会社から注意をしてもらうことはできません。
そこで、家賃保証会社を利用する場合は、できるだけ身元保証人や緊急連絡先で、親族の方を立ててもらうことをおすすめします。身元保証人や緊急連絡先は、家賃の債務を負うことはありませんが、入居者に何かあった際に、連絡を取ったり、注意をするといった監督的な役割を果たしてくれます。連帯保証人のように印鑑証明書を提出してもらう必要はないため、親族であれば比較的簡単に引き受けてくれるケースが多いようですので、家賃保証会社を利用する場合は、できる限り、身元保証人や緊急連絡先を確保するとよいでしょう。
昨今、民法の大改革が進められていますが、改正民法が施行されると、連帯保証人に関する義務についても、若干の変更があります。これまで連帯保証人の債務としては、「賃貸借契約に基づいて発生する一切の債務」とするケースがほとんどでしたが、それでは連帯保証人の責任があまりにも重すぎるということになり、保証する範囲を限定しなければならなくなったのです。具体的には、連帯保証人の契約において、保証する限度額を◯円までと明確に設定しなければならなくなったのです。限度額については、今のところ、特段の制限はないようですが、限度額を定めないと、連帯保証契約が無効になってしまうため注意が必要です。
賃貸借契約にまつわる「保証人・連帯保証人」の問題は、トラブルが起こる前から弁護士に助言を求めることが重要です。債務問題は、一度こじれると、自分だけでなく周囲の人々の暮らしを崩壊させる可能性があるからです。もしこのような問題が近い将来起こりそうな場合は、すぐに弁護士を訪ね、適切な方法についてアドバイスしてもらうことをおすすめします。