不動産投資は物件を購入したら終わりではありません。むしろ物件購入がスタートラインで、所有物件をきちんと管理するかしないかによってその価値も変わってきます。しかし実際のところ、管理業務はほぼ管理会社に任せきりという建物オーナーも少なくないようです。「忙しくてそれどころではない」ということもあるかもしれませんが、オーナー側も管理会社の業務内容をある程度把握し、よりよい建物管理につなげていきたいものです。
この記事では不動産管理会社が行うこと、管理会社の選び方や利用する際の注意点をお伝えします。
不動産管理会社の役割は大きく3つ
不動産仲介会社と間違われることもある不動産管理会社ですが、業務内容は大きく異なり、物件を「管理」するのが主な仕事です。不動産管理会社の業務は不動産仲介会社と異なり宅地建物取引業にはあたらないため、宅地建物取引士など専門の資格を有する人材を確保する必要がないという点も異なります。
不動産管理会社は、ただ建物や物件を管理するだけではなく、「賃貸マンション・アパートに住んでいる人たちが気持ちよく生活できるようにいろいろと調整していく」というイメージです。「管理」と一口にいっても業務範囲は多岐に渡り、大きく以下の3つに分けられます。
①入居者の管理
賃貸物件に入居する人との賃貸契約締結や契約更新をはじめ、退去するまでの一連の事務業務やマンション入居者からのクレームやトラブルの対応などをオーナーに代わって行います。
②建物の管理
管理する物件をきれいで暮らしやすい状態にするのに不可欠な定期的な掃除やメンテナンスを行います。また、万が一建物や物件に故障などのトラブルが発生した場合も、オーナーに代わって業者に連絡して工事の手配をします。
③お金の管理
賃貸物件で必要な入居者からの毎月の家賃回収、家賃の滞納が起こった場合など物件のオーナーに代わって管理会社が対応します。
不動産管理会社のサービス①入居者の管理
では、それぞれの業務について詳しくみていきましょう。管理会社の第一の仕事は入居者の管理です。賃貸経営においては、入居者が快適に暮らせるかどうかが経営の良し悪しを左右する重要な要素の一つになります。
入居者募集
入居希望者を募るための第1ステップです。不動産ポータルサイトやフリーペーパー、仲介業務を行っている会社などに客付け依頼を行います。入居率が高ければオーナーはその分家賃収入が増えますし、管理会社も仲介手数料・管理収入が増えるので、さまざまな方法をとって入居希望者を集める必要があります。
内見の対応
入居希望者が実際に物件を見たいというときに案内し、物件に関する説明をします。内見をした上で最終的に入居を希望する場合は入居申込書を提出してもらい、職業や年収などの情報をもとに審査を行う流れとなります。
クレーム・トラブル対応
物件の設備が故障した、水漏れが起きたなどの入居者からのあらゆるクレーム・トラブルの対応も管理会社が行います。特にアパートやマンションなどの集合住宅では、ゴミの出し方や騒音などが原因の入居者トラブルが起こりがちです。そうした問題を入居者同士で解決するのは難しく、さらに事が大きくならないうちにできる限り迅速に対応する必要があります。クレームやトラブルはオーナーにとっても大きなストレスとなります。特に副業で不動産投資をしているなど忙しい方では迅速な対応も難しいため、管理会社が間に入り円満解決となるよう調整します。
退去時の立ち会い
入居者が退去する際に、物件オーナーに代わり部屋の引き渡しに立ち会うのも管理会社の業務となります。退去時の立ち会いは家賃回収などに次いで管理会社の重要な役割だとされています。というのも、退去時の部屋の状況を見て原状回復費が入居者(退去する人)に請求されるわけですが、オーナーが立ち会うと「少しでも自分の利益になるように」と細かいところまで指摘するなど、入居者と揉める事態になることも少なくないからです。管理会社であれば公平な立場での立ち会いが可能なため重宝されるというわけです。
条件改善の提案
空室対策として部屋の設備を新しくする・新たにサービスを導入することなどをオーナーに提案するのも管理会社の仕事です。改善方法の一つとして家賃の値下げを管理会社に提案されることがあるかもしれませんが、値下げをすれば賃貸経営に影響を及ぼす可能性も出てきます。家賃値下げはあくまでも最終手段なので、安易に値下げを提案してくる担当者はおすすめできません。築古の物件であれば物件のリフォームを提案することもあります。
契約の締結・更新
入居希望者が正式に入居すると決まったら賃貸借契約を結びますが、契約書のやり取りなどの事務手続きも管理会社が対応します。また賃貸借契約のほとんどは2年契約となっているため、更新時期がきたら再度更新書類のやり取りなどを行うことになります。契約締結後は、入居時に鍵の受け渡しを行います。
不動産管理会社のサービス②建物の管理
次に解説するのは、建物の管理です。入居者の快適な住環境を守るため、またオーナーにとって大事な資産である不動産の価値を守るために重要な業務となります。
建物のメンテナンスの手配
定期的なメンテナンスは建物・物件の外観や安全性を維持するのに欠かせません。管理会社はマンション・アパートのエントランスや外壁、駐車場、廊下など共用部分を点検し、修繕が必要だと判断された場合は業者に修繕を依頼します。
定期点検・清掃
建物各所の状況の点検以外に、設置されている消火器の使用期限や浄化槽、エレベーターなども定期的に点検します。また、建物の美観を損なうことがないように共有部分の清掃業務も行います。
水漏れなどトラブル発生時の対応
建物や設備の劣化によって水漏れなどのトラブルが発生した場合、できる限り迅速に対応する必要があります。オーナーに代わり業者に連絡して来てもらったり、入居者に連絡したりといったことを行います。
リフォーム工事
物件も築古になると建物や設備の劣化が目立つようになり、そのままにしておくと新たな入居者募集が難航する可能性があります。そうしたときにリフォームをオーナーに提案し、リフォーム工事を手配します。
原状回復工事
入居者が退去したあと、次の人に貸す前に原状回復を行う必要が出てきます。賃貸経営を圧迫しないようにできるだけ費用を抑えつつ、次の入居者が快適に生活できるように配慮して原状回復工事や修繕を手配します。
不動産管理会社のサービス③お金の管理
管理会社の業務でもっとも重要といえるのが、お金の管理です。入居者やオーナーとの間でトラブルが起こらないようにきちんと計算し、遅滞なく対応しなければならない業務です。
家賃の回収代行や滞納時の督促
賃貸物件の入居者は毎月物件オーナーに家賃・管理費を支払うわけですが、忙しいオーナーに代わって管理会社が回収します。また、万が一家賃の支払いが遅れた場合にも、管理会社が督促を行います。
日本の法律は物件所有者ではなく賃貸入居者を守る傾向が強いため、家賃を一向に支払わない滞納者がいたとしても退去を促すことはできません。そういったトラブルが起こらないよう、管理会社がうまく支払いを促してくれるかどうかがとても重要になるのです。なお、入居者が家賃保証会社に加入している場合、家賃滞納が発生した場合もオーナーは家賃と同額のお金を保証会社から受け取れます。
大家への送金
入居者分の家賃が集まったら、オーナーに送金します。面倒な事務作業を管理会社にすべて任せることになるので、オーナーはかなり楽になるでしょう。
敷金の預かり
入居者の退去時に返還する敷金をオーナーに代わり預かっておきます。入居者にかかる手間と仲介手数料を減らすため、まず入居者が賃貸仲介会社に初回分の家賃と敷金・礼金を一度に支払い、仲介会社が管理会社に敷金を送金するという方法がとられることもあります。
原状回復費用の請求
賃借人の退去時に部屋の状態を見て、修理などが必要な部分があればオーナーに代わって原状回復費用を請求します。入居時に敷金を支払っていれば、費用を計算した上でそこから引かれることになります。
不動産管理会社選びで見る6つのポイント
「大手企業なら安心」というイメージは何においても強いかと思います。しかし、不動産管理会社においては大手だから絶対安心とは言い切れません。「じゃあ一体何を考慮して選べばいいの?」という方に向けて、選ぶ際に重視したい6つのポイントをお伝えします。
1:入居者管理に力を入れているか
賃貸経営を続けていく上で空室率を下げることはとても重要です。管理している物件の入居率、空室率を下げるノウハウや営業力があるかどうかをまず確認しておきたいところです。また、オーナーにとって空室同様避けたいトラブルである家賃滞納にしっかり対応してくれているかも要確認です。入金が確認できなかったときの支払い確認や催促をどのように行っているのか聞いてみましょう。
2018年度下期の第21回賃貸住宅景況感調査「日管協短観」によると、家賃の2カ月以上の滞納率は全国平均で1.4%、首都圏・関西圏で1.1%となっています。管理会社に家賃の滞納率を聞いて、この平均数値より高い場合は注意したほうがよいかもしれません。
2:入居者トラブルの対応は万全か
トラブルが発生してから対応までに時間がかかると入居者にストレスがかかり「もうここには住みたくない」と思わせてしまう可能性があります。そういったことを避けるためにも、トラブルが発生してからできる限り速やかに対応することが望ましいといえます。万が一のときに備えて24時間365日対応できるかなど、トラブルの対応業務に力を入れているかも確認したいポイントの一つです。物件からアクセスしやすい場所にあるかも確認するといいでしょう。
3:管理手数料は適切か
管理会社に管理を委託する場合、管理手数料は家賃の5%前後が目安となっています。しかし、手数料がほとんど同じでも業務の範囲は管理会社ごとに大きく異なることもあります。建築会社などの子会社である管理会社の場合、親会社が建てたマンションの管理を任されることが多く、顧客を得るために営業しなくても済んでしまいます。つまり他の管理会社と競い合う必要がなく、管理手数料も高めに設定していることがあるのです。
最近はこうした状況も少しずつ変わりつつあるようですが、複数の管理会社に見積もりを出してもらい、業務内容なども詳しく見て比較するようにしましょう。
4:経営状態は良好か
会社の経営状況は管理の質にも関わってきます。管理会社が倒産して家賃が回収できなくなるなどの事態になったら、オーナーも大変です。少なくとも会社が何年続いているか、近辺で管理している物件があるか(ある場合はどのくらいの数か)は確認しておきましょう。
5:定期的に担当者が訪問してくるか
担当者が信頼できるかどうかは、電話やメールだけではわからないものです。それに、管理しているマンション・アパートの状況も実際に目にしなければわからないことがたくさんあるはず。ほとんど管理物件に来ない担当者があれこれ言ってきても「本当に入居者やオーナーのことを考えて言っているのか?」と思ってしまうのではないでしょうか。
また、いくら人柄が良い担当者でも業務内容を把握しきれておらず、管理が行き届いていなければ管理会社への不満につながります。オーナーとも話し合う時間を持ち、適切な提案をしてくれる経験豊富な担当者が望ましいといえるでしょう。
6:レスポンスが早いか
レスポンスが早いかどうかは、トラブルが発生した場合や空室が出たときに素早く対処できるかどうかに関わってきます。前述のとおり、トラブルが長引くと入居者にとってもオーナーにとっても頭が痛い事態になりかねませんし、空室も長引けば賃貸経営に影響を与えます。メールでも電話でも構わないので、とにかくスピーディーに対応してくれるかどうかは要チェックです。
管理会社を利用する際の注意点
管理会社を利用する際にいくつか注意しておきたいことがあります。選ぶ際のポイントとあわせて、こちらも頭に入れておきましょう。
管理会社にすべてを丸投げしない
「管理会社がいればもう安心!」と管理会社に完全に任せきりにしてしまう管理組合(オーナーたち)も多いようですが、それは絶対に避けましょう。なぜなら、管理組合が無関心だと管理会社の管理も適切に行われなくなるおそれがあるからです。管理がずさんになれば、最悪修繕積立金が不足して大規模修繕ができなくなるなどの事態にもなりかねません。たしかに実際に管理を行うのは管理会社ですが、マンションなどビル管理の主体はあくまで管理組合であるということを忘れないようにしましょう。
契約内容をチェックする
管理会社に業務委託契約をする際には、面倒でも契約内容をきちんと確認して業務範囲を把握しましょう。これも放置して業務内容をあまりよく把握していないと「管理手数料を払っているのに、業務内容に入っているはずのこの業務をやってくれていなかった」などの事態が起こってしまいます。
不満な点は遠慮せず伝える
もし管理において疑問な点や不満に思う点があれば、躊躇せずに管理会社に伝えましょう。伝えても改善されないようであれば、毎月支払う管理手数料をムダにしないためにも、管理会社の変更を検討しましょう。管理会社を変更する場合は数カ月前までに通知する必要があることがほとんどなので、契約書などで確認しましょう。
サブリース契約はデメリットやトラブルも多い
家賃滞納のリスクや空室リスクを避けられるというメリットがある管理会社とのサブリース契約。オーナーが管理会社に物件を貸し出し、管理会社が入居者に貸し出すという形がとられるこの方法ですが、年数経過に伴い家賃の保証額が減額されるなどデメリットも少なくありません。家賃滞納リスクや空室リスクを回避できるのはオーナーにとってはたしかに魅力的ですが、あらかじめ契約書を専門家に見てもらうなどじっくり精査する必要があります。
まとめ
大手の管理会社だからといって安心できるとは限りませんし、「管理会社がいればもう安心!」と丸投げしてしまうのもよくありません。管理会社に払う委託契約費用も不動産投資でかかるランニングコストの一部であり、年単位でみればかなりの額になります。管理会社の業務範囲をしっかり確認し、担当者とも随時話し合い、不動産投資を確かなものにしていきましょう。