相続財産の中には「プラスの財産」のみならず「マイナスの遺産」も含まれます。マイナスの遺産とは、故人が残した負債のこと。実は、アパートは相続した時点で、マイナスの遺産に変化してしまっている可能性があるのです。
本記事では、相続した賃貸物件の処分方法と判断基準について解説いたします。相続したアパートを「売るべき」か「経営すべき」か、お悩みの人は必見です!
相続財産の中には「プラスの財産」のみならず「マイナスの遺産」も含まれます。マイナスの遺産とは、故人が残した負債のこと。実は、アパートは相続した時点で、マイナスの遺産に変化してしまっている可能性があるのです。
本記事では、相続した賃貸物件の処分方法と判断基準について解説いたします。相続したアパートを「売るべき」か「経営すべき」か、お悩みの人は必見です!
相続したアパートの処分を考える前に、まずは賃貸業界の現状から知っていきましょう。今は満室御礼でも、いずれ退去者が続けば、維持費を払うことさえ難しくなるかもしれません。不動産賃貸経営は「今後の展望」を踏まえた判断が重要なのです。
参照:総務省
近年、賃貸住宅の空き家率は増加傾向にあります。総務省が集計している「住宅・土地統計調査」によると、全国の賃貸住宅用の空き家率は増え続ける一方で、入居世帯数は減少傾向にあるとのこと。つまり、全国的に「アパートの過剰供給」状態が続いていることがわかります。
この過剰供給が続いている理由は、少子高齢化が原因。内閣府が公表している「高齢化の状況」をみると、少子高齢化が加速している現状が読み取れます。高齢者が増加する一方で、若者が減り続けているのです。アパートは、学生や社会人の単身者、または結婚前後の夫婦など世帯人数の少ない家庭向けがほとんど。「部屋を借りたい」と思う生産年齢世代が減っているのでは、賃貸経営で利益を出すことは難しいと言えます。
だからと言って、高齢者に部屋を貸し出すのも簡単な話ではありません。高齢者との賃貸借契約には「契約上のリスク」「安全上のリスク」「死亡リスク」など、様々なリスクが課題となってきます。収入が低い高齢者は、保証会社の審査が通りにくいという問題があります。連帯保証人を探そうにも、身内がすでに他界していることや子どもがいない高齢者は保証人探しにも苦労します。また、足腰の弱っている高齢者が快適に生活を送れるように、建物のバリアフリー化も必須です。知らないうちに転倒し、そのまま意識が戻らなかったという事態も想定しなければいけません。
また、相続した時点で築年数が経過していた物件には、要注意です。築古アパートには「修繕費」と「賃料減額」の2つのリスクが生じます。
アパートに限らず、建物は新築した当初から劣化し続け、築年数が経過すればするほど修繕費が必要になります。築年数が浅い物件であれば、エアコンやクロス交換のような少額修繕で済みますが、築年数が経過すると水回りの交換や外壁の塗り替えなど、大規模な修繕を行わなければいけません。
コストを重視して修繕を適度に行わないと、入居付けが難しくなります。もし周辺にライバル物件が多いと、入居者を獲得するのが難しくなるうえ、人気の設備があるアパートや築浅物件に既存の入居者が流れていく可能性が高くなります。さらに、空室が増え続けた場合は、空室対策のために家賃の値下げを余儀なくされる可能性もあります。相続後に、修繕費が発生するうえ、家賃が下落する可能性があることから、アパート経営は楽観視できる状況ではないと言えるでしょう。
とは言え、相続は相続人全員の財産。個人の意見だけで売却処分することもできません。売却するか賃貸管理に挑戦してみるかを考えるよりも先に、まずは不動産の状況をハッキリさせておくことが大切です。確認しておくことは以下の通り。
それでは、それぞれの確認方法について詳しく解説いたします。
まずは、遺産相続人が何人いるのかを確認しましょう。「自分ひとりが相続人だ」と思っていても、実は他にも相続人がいるケースが多々あります。基本的に、相続人となる人は「身近な血縁者」ですが、血がつながっていれば誰でも相続人になれるわけではないのです。故人の家族構成ごとに「誰が優先的に相続できるのか」法律で優先順位が決められています。これを法定相続人と言います。
まずは、現在の家族構成では、誰が相続人となれるのか調べることから始めましょう。もし思い込みで相続人を勝手に決め、権利のある人に無理やり相続放棄をさせた場合は、法律により相続権がはく奪されます。独断で相続人を決めず、相続が開始されたら「誰が相続人になれるのか」を確認しましょう。
家族構成によって、相続人になれる優先順位が異なります。例えば、故人の配偶者と実子がいるときは、故人の親・兄弟に相続権はありませんが、故人に実子がいない場合は、故人の親が相続人となります。
優先順位 | 優先される相続人 |
第一順位 | 配偶者と実子 |
第二順位 | 配偶者と親 |
第三順位 | 配偶者と兄弟(姉妹) |
故人に妻子がいた場合、原則として相続人となれるのは「配偶者」と「実子」です。しかし、故人に実子がいない場合は親が相続人となり、実子も親もいない場合は「兄弟(姉妹)」が相続人となります。反対に言えば、実子がいるのにもかかわらず兄弟(姉妹)が相続人になることはできません。もし、配偶者がなくなっていれば、配偶者以外の相続人が遺産を分配することになります。このように、配偶者は常に相続人となり、兄弟は名字や生まれ順が違っていても平等に遺産を受け取る権利があります。兄弟の取り分は平等で「長男だから取り分が多い」「嫁にいったのだから取り分がない」というわけではありません。
相続人を確認するときは、戸籍謄本を調べます。遺族にとって考えたくないことですが、隠し子がいる可能性もあります。もちろん、認知されていれば、隠し子も法定相続人のひとりです。個人の出生から死亡までの戸籍を確認し、子は何人いたのか、相続関係図を作成しましょう。戸籍謄本は故人の親の筆頭者になるところまで確認しなければいけないときがあります。多いときで、10通ほどの戸籍を確認しなければいけないことも。
もし、戸籍確認が大変と感じたら、相続の専門家である弁護士に依頼するのもひとつの手段です。弁護士は、相続財産の確認や分割方法なども請け負ってくれます。後々相続トラブルを起こさないためにも、弁護士のような専門家と一緒に、誰が相続人になれるのかしっかり確認しておきましょう。
一定額以上の財産を相続した人には、相続税がかかります。遺産には相続税がかかる財産と、かからない財産とにわかれますが、不動産は相続税の対象財産です。そのため、価値の高い不動産を相続した際は、相続税を納めなければいけません。しかしながら、相続税を納める人の割合は、相続件数全体のわずか8%。つまり全体の92%の相続人は相続税を納める必要がありません。そのため、不動産を相続したときは、相続税がいくらになるかではなく「自分は相続税を支払う必要があるのかどうか」を確かめる必要があるのです。
下記ページでは、相続税の支払い対象となるかどうかの判断基準についてわかりやすく解説しています。相続税の基礎知識や相続豆知識も同時に説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。
アパートローンとは、賃貸の建設や購入、修繕資金に使用できる融資のひとつ。事業目的として利用する借入金です。実はこのアパートローン残債も相続財産の対象。アパートローン残債があるときは、遺産分割協議後に債権者である金融機関に承諾を得て、支払人の変更をしなければいけません。もしも支払人の変更を行わないと、法定相続人全員に返済義務が移行してしまいます。つまり、アパートを相続しない相続人もローンを支払い続けなければいけないことになるのです。
アパートローンの支払人を変更するときは、まずは契約している金融機関で審査を受ける必要があります。返済能力があると認められれば金融機関へ「債務引受契約書」を提出すれば、残債を引き継ぐことが可能。その後「債務者変更登記」を行えば、ローンの支払人変更手続きは完了です。
賃貸住宅には、いくつかの契約が絡んでいるもの。アパートに入居者が残っている場合は、「入居者との賃貸借契約」と「管理会社との委託契約」をどうすべきか考えていかなければいけません。経営を続けるのであれば、家賃の振り込みの関係上、入居者や管理会社に「大家が変更しました」という通知が必要です。また、今後売却処分する予定であるときは、新たな大家が見つかるまで、相続人が維持管理をしていかなければいけません。
所有者が亡くなったからといって、賃貸人や管理会社との関係を簡単に解約できないのです。アパートのような賃貸住宅を相続するということは、家賃収入のみならず大家としての責任も受け継ぎます。前大家が亡くなっても、入居者の生活は継続しています。新たな大家が確定するまで、相続人が責任を持って入居者の生活を守ってあげましょう。
情報収集が済んだら、相続したアパートの経営を「続けるべき」か「処分すべきか」を考えていきます。相続人全員の意見を聞きながら、収支計算をして利益が出る方を選択すると良いでしょう。しかし、アパートの処分について意見がまとまらないときは、以下の判断基準を参考にしてみてください。
アパート経営を続けた方がいいケースは「立地が良い」もしくは「経営に興味がある」場合です。経営条件が良く運用に前向きであれば、投資を続ける価値があるというもの。それでは、具体的にどのような条件であるかみていきましょう。
賃貸経営は、立地に左右されます。通勤・通学の利便性が高ければ築古物件でも、入居付けには困りません。立地が良い条件は、以下の通り。
上記の条件に当てはまれば、とりあえず経営をしてもいいですし、いずれ売りに出すにしても高値売却が期待できます。
アパート相続を足がかりに、不動産投資を始めてみるのもおすすめです。相続した時点である程度ローンの支払いや入居者付けが落ち着いているため、新規の投資よりはコスパがいいと言えます。経営を開始するときは、収支状況を確認することから始めましょう。賃料収入を調べ、その中から修繕費やローンの支払いをしていけるのか算出してみてください。
反対に、売却処分した方がいいケースは「収入が少ない」「周囲に賃貸物件が多い」ときです。ただでさえ、賃貸経営が難しくなってきている現代。リスクを背負ってまで手を出す必要はありません。将来のことを考え、経営するかどうかを見極めていきましょう。
築年数が古く空室割合が多いときは、今後安定した収益を得ることが難しいと言えます。このまま年月が経過すれば、収益よりも修繕費用の方が高くつくことや老朽化に伴い賃料減額請求される可能性も。年間収支を計算し、利益の方が少なければ、経営を続けていくのは厳しいと思っておきましょう。
周辺に同じような間取りのライバル物件が多い場合、入居者争奪戦が激化している可能性があります。この場合、ユーザーニーズに合った間取りに変更したり、物件の差別化を考えたりするなど、経営戦略を考えていかなければいけません。もし経営にさほど興味がなく、自己資金もそんなに多くなかった場合は、思い切って売却処分してしまった方が得策と言えます。
維持するか売却するかよりも、とにかく相続人で公平に遺産を分けたい場合は、先にどのように分割していくかを考えましょう。不動産を分割する方法は、以下の4通りの方法があります。
では、どのような分割方法になるのかみていきましょう。
遺産をそのままの状態で分けて相続する、現物分割。例えば、長男が自宅を次男がアパートというように、相続人で財産を現物のまま分け合う方法です。現物分割は、手続きが簡単なうえ遺産をそのままの状態で存続させることができます。「建物を残しておきたい」「手軽に遺産分割したい」ときにおすすめです。
代償分割とは、特定の相続人が遺産をもらい、他の相続人には自己資産で対価を補う方法です。たとえば、長男のみがアパートの所有権を相続し、次男や三男には長男の自己資産から相続分を支払うことになります。代償分割は、分けるのが難しい不動産相続に適した分け方です。「アパートの所有権がほしい」「孫の代にまで遺してあげたい」ときにおすすめの相続方法です。
換価分割とは、不動産を売り売却金を相続人で分ける方法です。分け方が難しい不動産を換金して分け合うため、公平かつ平等に遺産を分配できます。また、不動産を手放すため、物件管理費や固定資産税もかかりません。分割方法の中では一番「あと腐れがない分け方」です。「1円でも平等に分け合いたい」「節税対策したい」ときにおすすめです。
共有持分とは、不動産を所有している割合のことです。相続人でアパートの所有権を共有しあう相続方法になります。しかし、共有は相続の中でも、少々複雑な分け方です。所有権を分け合うとはいっても、元はひとつの不動産。相続人ひとりが勝手にアパートを売り払ったり家賃収入を独占したりすることはできません。
法律では、共有物である不動産を処分するときは、他の相続人全員の同意が必要です。また、ひとりの相続人が家賃収入を独占した場合は「不当利得返還請求」という「自分の取り分の家賃を返せ」という訴えを起こすことも可能です。ただし、自分に分け与えられた分の権利を処分する場合においては、他の相続人の許可は必要ありません。
共有持分のアパートを売却する方法については、下記ページで詳しく解説しています。共有しているアパートを売りたい人は、ぜひ参考にしてください。
相続したアパートの中には、築年数が古すぎたり維持費の方が高くついたりする物件もあります。このように、あまり価値がないために「いっそのこと取り壊した方がいい」「放置しておこう」と思ってしまうこともあるのではないでしょうか。しかし、相続した不動産を更地や空き家にして放置すると、リスクが大きくなるとご存知でしょうか。相続人の負担が大きくなり、要らぬ負担を背負わされることにもなりかねません。更地または空き家にした場合、懸念すべきリスクは2つです。この2つのリスクについて、解説いたします。
更地にしてしまえば、様々な土地活用もできます。そのため、相続時に価値のない築古のアパートを取り壊して、更地にしてしまおうと考える人は意外と多いもの。しかし、無計画に更地にしてしまうと、かえって固定資産税が高くなるというリスクが発生します。
正確にいうと、宅地として存在していた土地は「小規模宅地等の特例」などの減税措置を受けられますが、更地にするとこの特例を受けられなくなるのです。つまり、これまで安くしてもらった税金分が丸ごとかかるようになるのです。ちなみに、更地にせずにこの特例を適用させたままでいると、更地と比較して最大で400㎡までの土地の約80%の納税額が減額されます。安易に「更地にしてしまおう!」と考えると、固定資産税が重くのしかかってくることになりますので、注意が必要です。
更地にすると納税額が高くなりますが、空き家にするのも要注意。空き家の中でも以下の条件に当てはまる建物は、最大で固定資産税が6倍に跳ね上がってしまいます。
上記の条件に当てはまる空き家は「安全面」「衛生面」「景観面」「治安面」に問題があるとされ、自治体より「空き家をきちんと管理してください」と助言が出ます。その後も放置を続けると、指導や勧告が出されます。さらに、これに従わずに放置しておくと「特定空き家」に認定され、最大で50万円以下の罰金が発生します。さらには、更地同様に固定資産税の減税措置が受けられなくなり、最大で固定資産税が6倍まで跳ね上がることになるのです。これは「更地にして税金が高くなるなら放置してしまおう」という人が増え、結果として危険な空き家が増えたことが原因。空き家にして放置してしまうくらいなら、売却して清算することをおすすめします。
売却するにしろ経営するにしろ、まずは不動産査定を行い、相続するアパートの資産価値を調べることから始めましょう。不動産の価値を調べる方法はいくつかあります。
自身で相続した土地の価値を算出することも可能。それは、路線価図という国税庁が公表している土地の評価データをみる方法です。路線価図とは、相続税や贈与税の算出に必要なデータをまとめているマップのこと。宅地の1㎡あたりの価額が記載されており、確定申告時に活用されます。土地の評価額は一定ではありませんので、毎年7月に最新データに更新されます。路線価図は、国税庁のウェブサイトから誰でも簡単に閲覧できます。無料でアクセスできますので、ぜひ一度土地の評価額を調べてみてください。
参照:国税庁
アパートの価値を把握しておかなければ、どのくらい遺産を分配すればいいのかさえわかりません。また、価値を知ることで「経営は厳しいな」「売却した方が得だな」という判断を下しやすくなります。査定は、不動産会社に依頼すれば無料で出来ます。査定後、どのように土地活用すればいいのか相談にのってもらうことも可能。遺産分割する金額を知りたいときや維持するための判断基準として価値を知っておきたい人は、ぜひ不動産会社の査定を活用してみましょう。
ここまで紹介してきたように、相続したアパートの処分方法は慎重に決めるべきです。処分方法を間違えてしまうと、管理が大変になったり納税額が増えてしまったりすることもあるからです。そして、相続人同士でどう処分すべきか意見が合わないと、判断できずに放置せざるを得ない状況に陥ってしまう恐れもあります。
まずは、相続したアパートの価値を調べ、資産価値がどのくらいあるのか把握しておきましょう。不動産会社の査定であれば、無料で相続不動産の価値を調べられます。処分方法を決めかねているときでも、不動産査定をするところから始めていきましょう!