遺産相続などで、土地や建物などの不動産を手に入れることになれば、不動産管理会社との付き合いを避けることはできません。管理会社がプロとしてあなたにノウハウを提供し、良きパートナーとなってくれれば何の問題もありませんが、入居者を長期間確保できなかったり、各種トラブルに対し適切な対応をしてもらえなかったりと、パートナーとしての資質に欠ける管理会社に当たってしまったら「こんな業者ではなく、もっとレベルの高い会社に管理をお願いしたい」と望むのは当然のことです。
この記事では、相続に伴う不動産管理会社の変更やトラブルの対処法などについて詳しく解説していきます。
管理会社は2種類あるって知ってる?
不動産の管理会社は、大きく分けて2種類存在します。
1.賃貸管理会社
相続した不動産がアパートやマンションなどの賃貸物件だった場合、賃貸募集や入居者の管理を賃貸管理会社に委託している可能性があります。賃貸管理会社の主な業務は以下の通りです。
契約締結業務
空室になった際の入居者の募集、審査、重要事項説明、賃貸借契約の締結、契約金等の徴収・送金、引渡し等、賃貸借契約に関連する契約業務全般を行います。
管理運営業務
借主が入居したあとの管理の運営に関する業務で、賃料等の徴収・送金、借主との調整・折衝、賃貸借契約の更新・解約手続き、物件賃貸借部分の鍵の保管ならびに管理運営などの業務を行います。賃貸管理会社は必ずしも委託しなければならないわけではなく、大家さん自身で自主管理しているケースもあります。ただ、それなりのノウハウが必要になるため、相続によって賃貸物件を継承することになった場合については、できる限り賃貸管理会社に管理を委託することが好ましいでしょう。
2.建物管理会社
相続した物件が「分譲マンション」だった場合は、建物管理会社が建物全体の管理をしています。賃貸管理会社とは違い、一般的には全ての分譲マンションが、建物管理会社と管理委託契約を締結しているため、分譲マンションを相続した場合については、何かしらの建物管理会社が関わっていることになります。建物管理会社は、マンションのエントランスや階段、エレベータ、廊下などの共用部分のメンテナンス管理や管理組合の運営のサポートを行う会社で、賃貸管理会社のように賃貸募集についてはタッチしません。そのため、投資用分譲マンションを相続した場合については、賃貸管理会社と建物管理会社の2社が共存する形となります。建物管理会社は分譲マンションの所有者全員で組織している「管理組合」からの委託を受けて管理をしているため、建物管理会社を変更する場合については、自分1人ではなく、管理組合の合意も取り付けなければなりません。このように管理会社には2種類が存在します。今回は、相続に伴ってそれぞれの管理会社を変更する場合を想定して、解説していきたいと思います。
こんな管理会社は変更したほうがいい・・・賃貸管理会社の場合
管理会社の変更は所有者の当然の権利ですので、不満があればしかるべき手続きに則って、管理会社を変更することができます。さて、賃貸管理会社を変えようとする理由の代表的なものに「空室を埋めてくれない」「トラブル解決に協力してくれない」というものがありますが、他にもこのような理由で管理会社の変更を決意するケースがあるようです。
・管理料がサービスの割に高額だ
・設備の故障や破損が放置されている
・貸主に対し何の提案もしない
・修繕工事費などの見積もりが1社からしかなく不当に高額である
ご自分の管理会社がこれらの項目に数多く該当していたら、それは変え時かもしれません。
実践編/不動産管理会社変更の流れ・・・賃貸管理会社の場合
賃貸管理会社の変更については、基本的に決定権は物件を相続した相続人自身にあります。ここでは、管理会社を変更するまでの具体的な流れについて解説していきたいと思います。
1.問題点を明確にする
ただ気に入らないからといって、闇雲に管理会社を変更しても問題は解決しません。まずは、現状の管理会社のどこに問題点があるのかについて書き出してみましょう。ただし、問題点の内容によっては、管理会社を変更せずにそのままにしたほうが良いケースもあります。
・担当者とコミュニケーションが取りにくい
・業務に関する報告や連絡がほとんどない
・賃貸募集の客付が遅い
このようなケースについては、管理会社を変更することで問題点が解決する可能性が高いでしょう。一方で、管理料や募集広告費などかかる経費を抑えたいという理由で管理会社を変更する場合については、慎重に検討することをおすすめします。賃貸物件を所有していると、さまざまな賃貸管理会社から勧誘の営業電話がかかってくると思いますが、大半は「今よりも管理料が安くなる」ことを売り文句にしてくるでしょう。確かに管理料については、毎月かかる費用なので安く抑えられたほうがよいのですが、ただ安いだけで管理会社を変更してしまうと、今と同じサービスが受けられなくなり、かえって後悔することになる可能性があります。
管理料の相場としては、家賃の3~5%と言われていますが、なかには月額1,000円などという営業を受けるケースもあるようです。実際のところ月額1,000円では、管理会社としては成り立たないため、たとえ管理会社を変更したとしても、あとで値上げになったり、いい加減に管理される可能性があるため十分気をつけましょう。
2.新しい管理会社の選定
変更する新しい管理会社を探します。今ではインターネットで検索すれば、管理会社は簡単に見つかりますので、ここでは選定する際のポイントについて解説したいと思います。賃貸管理会社を選定する際には、以下の条件にあてはまるとよいでしょう。
・インターネット上で、賃貸の募集広告を出している
・店舗が比較的駅前にある
・土日も営業している
管理料の安さだけで管理会社を選んでしまうと、土日が休みで入居者からの電話対応ができなかったり、賃貸募集の営業力がなく、空室が長引いてしまう可能性があります。そのため、管理会社を変更する場合は、上記のような条件に着目して選定するとよいでしょう。
3.現状の賃貸管理委託契約書を確認する
新しく依頼する管理会社が決まったら、現状の管理会社と締結している契約書を確認しましょう。管理会社の変更については、契約書上で解約予告期間や違約金、手数料などが記載されている可能性がありますので注意が必要です。基本的に管理会社は管理を解約されることを非常に嫌がりますので、それなりに抵抗されることは覚悟しておく必要があります。そのため、事前に契約書をよく読み、管理会社を変更するためにはどのような手続き、費用がかかるのかについて理解してから、管理会社に連絡をしましょう。
4.管理会社との解除手続き
管理会社に対していきなり書面で解除通知を送ると、相手も驚いてしまうので、まずは電話で一報を入れたうえで、書留配達記録もしくは内容証明郵便にて契約の解除通知を送付しましょう。また、この際に管理料が高いことが解除の理由であれば、交渉によって下げてもらえる可能性もあります。それなりに引き止められる可能性が高いことを念頭において考えましょう。
5.管理会社の引き継ぎ
既存管理会社との解除と新管理会社との管理委託契約の手続きが無事終了したら、あとは引き継ぎをするだけです。引き継ぎをする主な内容としては、以下の通りです。
・物件の鍵
・過去の修繕履歴やクレーム情報など
ただし、管理を解約された既存管理会社の協力があまり得られない可能性もありますので、実務上は書類や鍵が郵送されてくるだけの場合もあります。以上が、賃貸管理会社を変更する場合の主な流れです。では次に、共用部の管理会社の変更についてみていきましょう。
こんな管理会社は変更したほうがいい・・・共用部の管理会社の場合
次のような場合は、共用部の管理会社の変更を検討したほうがよいかもしれません。
管理費や修繕積立金がどんどん値上がりしている
分譲マンションの管理費や修繕積立金は、新築販売当時に安く見せるために当初の設定金額は低く、その後徐々に値上がりしていく傾向があります。妥当な値上がりであれば納得できますが、2倍~10倍に一気に値上がりしていくことも多いため、あまりに値上げばかりを提案してくるようであれば、管理会社の変更を考えたほうがよいでしょう。
修繕の手配が遅い
共用部の設備の不具合については、管理会社がすべて手配をします。ただ、管理会社によっては、不具合が発生してから業者を手配して修繕が完了するまでのフットワークが重く、居住者が迷惑することがあります。
管理人の対応が悪い
管理人については、管理会社が派遣しているため、態度が悪い、掃除が雑といった場合については、管理会社の変更を検討したほうがよいかもしれません。
実践編/不動産管理会社変更の流れ・・・共用部の管理会社の場合
共用部の管理会社を変更するには、組合との合意形成やマンション適正化法、また管理規約など、守らなければならないルールや法律などが存在します。やるべきことの順番に従い、以下にその手順をまとめてみました。
1.問題点を明確にする
「なぜ業者を変えたいのか」をまずははっきりさせなければなりません。ここで挙げられる「理由」が入居者への説明や臨時総会での議案の基礎になります。さきほどの賃貸管理会社の変更と同様に、問題点について洗い出してみましょう。
2.管理会社募集及び現地調査
目的がはっきりしたら、新しい複数の管理会社に声を掛け、見積書の作成を依頼します。ここで重要になるのが「現地調査」です。マンションの状況や設備の現状は、契約書の内容だけでは把握できないので、基本的には現地調査が必要になります。またその際は、管理会社に直接要望を伝え、互いの状況を理解しあいましょう。尚、見積もりは現地調査から約2~3週間後に届きます。
3.提案・見積もりをもとにした管理会社の選考
各社から出された提案や見積もりなどをもとに、管理会社のプレゼンテーションを実施します。ここで、管理会社がどのようなサービスや管理を行うかを吟味していきます。これは納得がいくまで何度でも行うべきです。
4.内定した業者と契約内容・詳細仕様の確認
新しい業者の承認には、マンション管理組合が開く臨時総会で、その旨が承認されなければなりませんが、そこまでに新業者のサービスや管理の内容が確定されている必要があります。そのため、この段階では、「マンションの清掃回数を減らす代わりに管理委託費を下げたい」などの要望を出し、内定管理会社側とすりあわせをします。
5.重要事項の説明・臨時総会の実施
内定した業者が「重要事項説明会」を開き、契約内容の説明を行います。その後、臨時総会で管理会社の変更を決議し、承認されれば変更が正式に決定します。なお、管理会社変更は「業務委託契約の変更」を意味するので、マンション管理適正法に基づく「重要事項説明」が義務付けられています。
6.解約通知
現行の管理会社に解約通知を行います。業務委託契約の解除は原則として3カ月前の通知が必要となります。
7.引き継ぎ
ここが最終段階です。旧管理会社は、理事会立ち会いのもと、管理図面や修復履歴に関する書類、共有部の鍵などを新管理会社に引き継ぎます。
共用部の管理会社を変更するメリット・デメリット
ではここで、共用部の管理会社を変更することによるメリットとデメリットを確認しておきましょう。どちらも考慮したうえで決断しなければ、予期せぬ不利益をこうむる可能性があります。
【メリット】
管理の質が上がる
適切な業者を選べば「管理費が適切で、収支のバランスが取れている」「マンションの清掃や設備メンテナンスが小まめに行われる」「修繕積立金が蓄えられている」などの高いレベルの管理を受けることができます。
管理会社の変更により管理費が下がる
管理費の割合の中で最も大きなウェイトを占めるのが管理会社への「管理委託費」ですが、これは管理会社を変更することで削減が可能です。マンション購入時は管理会社を選ぶことが出来ないため、相手の言い値の管理委託費を払わなければなりませんが、変更の際は他社との「競争の原理」を持ち込むことができるということがその理由です。
管理の意識が高まる
「マンション管理はマンションの資産価値に直結する」と言われるほど重要なものですが、残念ながら住人のマンション管理への意識は高くないことがほとんどです。しかし一度管理会社を変更すれば、住人も多かれ少なかれそのプロセスに関わることになるので、管理意識の向上を促すことにつながります。
【デメリット】
「引き継ぎ」が必要な場合も
マンションの管理規約は、国土交通省が作成した「マンション標準管理規約」に則って作成されているので、どの業者も基本的にその内容が変わることはありません。しかし、マンションと管理会社が個別に交わした約束事があれば、それは個別に引き継がねばなりません。
心理的な不安を誘発する
どんな場合でも「変化」には「恐れ」がつきものです。一度も管理会社を変更したことがなければ、「もし業者を変えたら何かしらの問題が生じるのではないか」という根拠のない不安を感じることがあります。
注意点!特約事項に注意
ここまで「管理会社の変更」について説明してきましたが、必ず注意しなければならないことは「契約時の特約事項」に関することです。この部分に、契約を途中で解消した際には何らかのペナルティが科される旨の文言があれば、思わぬ損害を受ける可能性があります。そうならないためにも、管理会社と交わした契約書をじっくり読み込み、その内容を十分に押さえておくことをおすすめします。
まとめ
不動産会社とトラブルがあった場合、自分一人で立ち向かうのはほぼ不可能です。相手はマンションに対する専門知識を持ったプロなので、下手に戦っても返り討ちに遭うことは目に見えています。そんな彼らに勝つには、法律のプロである弁護士の力を借りることが大切です。弁護士にもさまざまな得意分野がありますが、不動産問題に詳しい弁護士も数多く存在しています。問題が起こる前に、気軽に相談をしておくことがトラブル回避の第一歩と言えるでしょう。