入居者から寄せられる苦情は数あれど、最も多いのは「騒音」についての苦情ではないでしょうか。大家の立場の方は、騒音のことで苦情が来た時の対処方法について悩まれることもあるでしょう。
この記事では、自分が保有する不動産で騒音問題が起きたらどうすれば良いのかを説明しています。
入居者から寄せられる苦情は数あれど、最も多いのは「騒音」についての苦情ではないでしょうか。大家の立場の方は、騒音のことで苦情が来た時の対処方法について悩まれることもあるでしょう。
この記事では、自分が保有する不動産で騒音問題が起きたらどうすれば良いのかを説明しています。
保有している物件に管理会社を入れているのであれば、管理会社が対応するはずです。騒音に関するクレームも、大家ではなく管理会社に直接届くことが多いでしょう。管理会社のおもな業務は、物件の維持管理だけでなく、入居者の募集や契約手続き、賃料の入金確認や督促、設備トラブル対応などです。これらに加え、各種クレーム対応も管理会社の業務の一部です。クレームの中でも騒音に関するものは最も頻度が高いとされているため、管理会社が大手であればあるほど対応も手慣れたものとなるでしょう。たいていの場合、クレームを述べた入居者に状況を確認した後、騒音の発生源と考えられる階層の住戸すべてに注意喚起のビラなどが投函されます。どこの誰がクレームを述べたかが分からないよう、文面や投函先は配慮されるのが普通です。その後も騒音が止まないようであれば、共用部分への貼り紙などが行われ、住人全体へ騒音についての注意喚起が行われるでしょう。それでもなお騒音が続く場合の対応は、各管理会社の業務マニュアルによって異なるものになります。騒音を録音したデータが提供されるなどして、騒音の事実とレベルが明らかになれば、対象住戸を直接訪問して調査することにしている管理会社もあります。
管理会社が入っているのであれば、大家自らが何か対応する必要はありません。それでも、親しい住人に話を聞いてみるなどして、管理会社が速やかに対応してくれたかどうか確かめてみることもできるでしょう。クレーム対応が迅速であれば、大切な物件の管理を任せる相手として信頼の置ける会社であることが分かり、安心できます。逆に、いつまでも対応しない管理会社であれば、この機会に他社へ乗り換えることを検討しても良いかもしれません。
物件に管理会社を入れていない場合は、大家としてクレームに対応しなければなりません。大家には、入居者から賃料を受け取る代償として、生活に適した住環境を提供する義務があるためです。騒音問題は、たいていの場合物的証拠が残るものではありません。極めて客観的な視点から、騒音の事実確認と出所の調査、程度の把握などを行わなくてはならないので、対応が非常に難しい問題です。まずは、騒音を訴えている入居者に事実関係の聞き取りをしましょう。その入居者が、騒音の出所は分かり切っていると言ってすぐ相手に注意してくれるよう頼んできても、調べてもいないうちから入居者から言われるがまま行動することは避けます。音は屈折する性質を持つため、必ずしも入居者が認識している方向から出ているとは限らないためです。
例えばある入居者が、騒音は間違いなく自分の隣の部屋からのものだと思っていても、実際には隣の部屋の上階、斜め上の部屋の音である場合もあります。さらに、騒音を感じている入居者が人一倍音に敏感であるために、通常の生活音を騒音と認識している場合もあります。難しいケースでは、脳や精神系の病気が原因で騒音が起きていると錯覚している場合さえあります。いずれの場合も、騒音クレームを述べる入居者の訴えだけを鵜呑みにして行動してしまうと、まったく非のない入居者にあらぬ疑いをかけ、不愉快な思いをさせてしまうおそれがあります。そうなれば、自分自身には非が無いとしても、大家としての評判に傷がつくことでしょう。善良な入居者に長く住んでもらうことが成功のカギである賃貸経営においては、軽く見ることのできない傷になります。最低限確認すべきことは、どんな騒音が・何時に・どこから・どのくらいの時間にわたり発生しているのかということです。
騒音の内容に関する詳細な情報を確認することは重要です。騒音の出所の見当が付いている場合もそうでない場合も、隣人への聞き込みや注意喚起などの際には必要になるためです。さらに、詳細な情報があれば、騒音の発生理由や発生源をある程度絞ることができます。騒音の元と思われる住戸がある程度特定でき、対象住戸に直接訪問して調査できる場合は、「○○といったような音が、毎日夜〇時頃から〇時間くらい聞こえていて気になるという入居者様がおられるのですが、同じような音をお聞きになったことはありませんか?」という風に質問できます。騒音とされている内容について詳細な情報があればあるほど、騒音を出している本人であればすぐに気づくことができます。本人が「多分うちから出ている音です。すみません」と素直に認めてくれるケースはまれですが、大家を前にしては認めないとしても、今度また同じようなことで大家が訪ねてくることのないよう、気をつけてくれる可能性は高まります。結果として、騒音についてのクレームが収まることも期待できるでしょう。大家業をしている以上、そこまで配慮に欠けた大家さんがいるとは思えませんが、間違っても「○○といったような音が、毎日夜〇時頃から〇時間くらい聞こえていて気になるという入居者様が階下に(隣に)おられるのですが、音を出しているのはお宅じゃないですか?」などという思慮に欠けた尋ね方をしないようにしましょう。
自分が騒音を出しているのではと疑われており、その上クレームを述べたのがどこの誰かが分かっているとなると、実際に騒音を出していたにせよいなかったにせよ、疑われた入居者がクレームを述べた入居者と良好な関係を保つことは難しくなります。騒音に心当たりがない入居者であれば、大家に対しても不満や不信感を抱くとしても無理はありません。留意したい点として、騒音クレームを原因とした傷害事件や殺人事件は決して珍しいことではありません。今後も順調な賃貸経営を続けていきたいのであれば、重大事件を巻き起こすこともある難しい問題であることを認め、たかが騒音と思わず時代に則した的確な対応をしていかなければなりません。
ちなみに、クレームを述べた入居者本人に調査した結果、どうにも不可解な点が多い場合は、周辺住戸への注意喚起などの実際的な行動に出るまでに、簡単な推理をしてみるのも良いでしょう。大家として把握している情報も合わせることで、騒音の実態がつかめるかもしれません。例えば、騒音の頻度や程度が「四六時中」「四方八方から」「耐えられないような大音量」などというのであれば、まずはクレームを述べた本人が健常でない可能性を考えましょう。本当にそのような騒音が起きているのなら、他の部屋の入居者からも同じようなクレームが出るはずです。騒音の出所と思われる住戸に隣接する住戸は複数あるにも関わらず、騒音を聞き取っているのが一つの住戸だけ、というのは考え難いことです。最近入居者の入れ替わりがあったなら、それも騒音クレームの一因となることがあります。例えば、以前までは一人暮らしであった部屋に2人以上の入居者が入った場合、足音などの騒音が増える可能性は高まります。騒音の出所に検討がついた場合には、可能なら直接訪ねて事情を話し、防音をしてもらうようにお願いできるかもしれません。
例えば、床に防音効果のあるカーペットやマットなどを敷いてもらったり、夜間は足音に注意してもらうようお願いすることができます。しかし現実には、防音についてのお願いをしても素直に応じてくれる相手ばかりではないでしょう。騒音の発生源である可能性が高いが、費用をかけてまで対応する気がない入居者であれば、カーペット代やスリッパ代など、大家が自腹を切って提供することも検討できます。大家としては、貸している部屋の備品の費用までを負担することには抵抗を覚えるかもしれませんが、ここで考えたいのは「費用対効果」です。クレームや騒音の程度には左右されますが、「カーペットなどの費用を負担することで現状の騒音クレームを収められるとしたら、大家としては支出した費用以上のメリットがあることにならないか」と考えるのです。多少費用がかかるとしても、それで騒音クレームがなくなったとすれば、結果としては大家である自分自身の得になります。騒音問題を解決するために大家としてやれるだけの手は尽くした、と胸を張って言うこともできます。騒音クレームを述べた側も騒音を注意された側も、入居者に誠実に向き合う信頼のおける大家だという認識を持つことになり、今後の賃貸経営においてプラスに働くことも予想できるでしょう。
問題の騒音が「受忍限度」を超えており、騒音の原因である入居者にそれを改める意思が一切ない場合は、賃貸借契約を解除することも検討しなければなりません。受忍限度とは、社会通念上、一般的に考えて我慢するべき程度のことを意味します。音で考えると、洗濯機を回す音や掃除機をかける音、普通に歩く足音などは、集合住宅であれば多少は聞こえるのが普通であり、隣人同士がお互いに許容しあうべき程度の音です。一方で、深夜に大音量で音楽を流したり、床を踏み鳴らすようにして走ったりすることは、隣人として当然我慢するべき音ではなく、騒音となるでしょう。しかし、どの程度の騒音であれば受忍限度を超えるのか、という明確な基準は定められていないため、賃貸借契約を解除できるほどの騒音かどうかの判断は非常に難しくなります。ひとつの目安にできるのは、都道府県や市町村が定めている騒音の環境基準です。環境基準とは、「環境基本法第16条に基づき、国民の生活環境を保全し人の健康の保護に資する上で維持されることが望ましいとされている騒音基準値のこと」です。地域によって異なる基準値が定められており、その数値を超えると「騒音」とみなすことができます。
平均すると、昼間は50~70デシベル以下、夜間は40~60デシベル以下を基準値としている地域が多くなっています。70デシベルというのは、セミの鳴き声やヤカンの沸騰音などを2mくらいの距離にいて聞いている時の音量、と考えることができます。60デシベルは、普通の声量で交わされる会話や、トイレの洗浄音などとほぼ同等です。50デシベルになると、換気扇の回る音を1mくらいの距離にいて聞いているような音量になります。40デシベルであれば、図書館などの静寂レベルとほぼ同等の静けさです。
物件のある地域の環境基準を確認し、問題の騒音の音量を測定するなどして、環境基本法においても騒音と認められるものかどうかを判断できるでしょう。基準値を超えていれば、受忍限度を超えた騒音とみなすことができます。賃貸借契約においては、入居者に「用法遵守義務」が課されています。これは、契約やその目的物の性質に従って使用収益しなければならないという入居者の義務です。分かりやすく表現すると、近隣の住人や貸主に対する迷惑行為をしてはならないという意味を含んだ規定です。受忍限度を超える騒音を起こす入居者は、この用法遵守義務に違反していることになりますから、これを根拠として賃貸借契約を解除することは可能になります。受忍限度を超える騒音を起こす入居者への対応は、急がなければなりません。何の非もない近隣住戸の住人が、耐えかねて退去してしまう可能性もあるからです。
用法遵守義務に違反する入居者だとしても、大家から「出て行って下さい」と言って退去させることは、簡単ではありません。退去させるために必要なのは「信頼関係の破壊」がなされたという事実です。信頼関係の破壊とは、法理論のひとつです。賃貸借契約のような固い信頼関係を要する継続的な契約は、法律や契約において定めた条項に違反したというだけでは容易に解除できず、貸主と借主の間の信頼関係が破壊されたと言えるほどの明白な事情がなければならない、という理論です。信頼関係の破壊は、背信行為と呼ばれることもあります。賃貸借契約は、借主が毎月賃料を支払い、貸主は物件の維持管理をしていくという長期的で継続的な契約です。そのため一回限りの契約よりも、より強固な信頼関係を基盤とした契約とみなされます。継続的な契約を解除しようとする場合は、信頼関係が失われたことを証明できるだけの正当な根拠がなければ、契約解除は認められません。
騒音問題において入居者との信頼関係が破壊されたことが認められるには、大家が再三の注意や警告を行ったという実績とそれにもかかわらず入居者の側が騒音を起こす行為を改めなかったという事実が証明されていることが必要です。状況にもよりますが、1、2カ月の間に2、3回注意しただけでは、信頼関係の破壊までは認められないでしょう。騒音の程度や時間帯にもよりますが、騒音が起こる度に迅速に注意したり、「改善されなければ契約解除する」という警告を、口頭や書面で複数回行う必要もあるでしょう。ここまで手を尽くしてもなお騒音が止まず、改めようという意思もうかがえないのであれば、もはや信頼関係が破壊されたとして契約解除できる可能性があります。
このように、騒音問題については、騒音の発生源の特定の難しさ、立証の難しさがあるため、なかなか解決できないのが現実です。そのため、管理会社によっては、騒音問題については、貼り紙による注意喚起のみとし、それ以上の対応については、当事者間で解決するようアナウンスしているケースもあるとのこと。賃貸借契約書に、あらかじめ「第三者との騒音等の紛争については、当事者間で解決するものとし、賃貸人はこれに関与しない」などの一文を加えるケースもあるそうです。大家である以上、何も対応しないわけにはいきませんが、このような条文を入れておくだけで、クレームを入れてきた人に諦めてもらうこともできるでしょう。ちょっと酷いように聞こえるかもしれませんが、複数の戸数を抱える大家さんになると、クレーム問題を1つずつ解決することはほぼ不可能ですから、できないものは、ある程度のところで線引きできるような契約書にして逃げ道をつくっておくことも重要です。
騒音については、人によって感じ方に大きな差があります。神経質な人は、少しの物音や振動でもクレームを入れてくることもありますが、木造アパートであればその程度の騒音は本来許容すべき範囲といえるでしょう。あまり騒音問題に対して神経質に対応しすぎてしまうと、他の入居者にとって住みづらい物件になってしまうかもしれません。賃貸物件は「共同住宅」ですから、ある程度の生活音は仕方がないということを、入居にあたって重要事項説明書などに記載しておくことで、事前に理解を求めるようにしましょう。
物件の管理を管理会社に任せている場合も、自分で行っている場合も、騒音の原因である入居者に対応するには辛抱強さと粘り強い努力が必要になります。騒音が収まらない場合には、信頼関係の破壊を理由に契約解除しなければならない可能性もあります。しかし、長期間平気で騒音を出し続け、再三の注意にも関わらずやめようとしない入居者が、一般常識を備えているとは到底考えられません。ですから、常識外れの行動に出てくる可能性があります。
例えば、契約解除は不当だとして大家を訴え、慰謝料などを要求してくるかもしれません。近隣住民や大家への嫌がらせを仕掛けてくる可能性もあります。法律は入居者の権利を擁護することに傾いており、大家の立場は非常に弱いものです。さらに、物的証拠を用意しにくい騒音という問題においては、信頼関係の破壊を証明することも非常に困難になります。弁護士も付けずに戦っても、大家の勝ち目は薄いでしょう。
弁護士は、紛争の仲裁ができる唯一の法律家です。ありとあらゆるトラブル解決の専門家でもあります。弁護士に騒音問題を委ねるなら、事態は早期解決に向けて動き出します。繰り返しになりますが、騒音問題はとにかく早く解決することが重要です。善良な入居者が出て行ってしまい、問題のある入居者が残ってしまっては、散々な事態になるからです。大切な不動産と善良な入居者の平穏な生活を取り戻すためにも、騒音問題は素早く弁護士へ相談しましょう。