賃貸物件を所有している建物オーナーの中には、入居者募集や退去立ち会い、賃料徴収や敷金精算、賃貸借契約の締結などの業務を賃貸管理会社に一括委託している方もいると思います。しかし、賃貸管理会社の物件担当者の対応が悪い、管理の質が悪い、管理委託費が高いなど、管理状況に不満を抱いている方も多いのではないでしょうか?そのような現状に対して、今すぐに賃貸管理会社を解約したいと考えているオーナーも多いと思います。しかし、今すぐに賃貸管理会社を解約することはできません。契約を解約するには管理委託契約を締結した際の書類に記載されている「解約条件」に従う必要があります。
この記事では、解約条件にはどのような内容が記載されているのか、解約条件がない場合にはどうなるのかについて、詳細に解説していきます。
解約条件がない場合はいつでも解約できる
賃貸管理会社との管理委託契約は、「2年間」といったように、あらかじめ一定の期間を設けて契約を締結しているのが一般的です。賃貸管理会社に不満を抱いていても契約満了までは解約できないという場合には、オーナーにとって不利な契約内容と言えます。そのため、管理委託契約ではあらかじめ契約書に解約条件が設けられているのが一般的です。解約条件には、「相手方に解約を申し出た場合には3カ月後に契約を解約する」といった内容が盛り込まれています。このように管理委託契約の契約書に解約条件が設けられている場合はその条件に従って契約を解除します。
契約書を確認しても、解約条件が設けられていない場合にはどうすればいいのでしょうか?そのような場合には、民法第651条1項の委任契約の解除が適用されます。第1項には、いつでも契約を解除できると記載されているため、契約条件がなければいつでも契約を解除することが可能です。
不利な解約は損害賠償請求の可能性があるので注意
契約条件がなければいつでも契約を解除できると言いましたが、いきなり契約を解除されると賃貸管理会社は困ります。民法第651条2項では、不利な時期に委任の解除をした場合には、相手の損害を賠償しなければならないとされています。例えば、月の途中で解約に至った場合は日割りではなく月末まで、また新しい賃貸管理会社に引き継ぎが完了するまでの間の管理委託費の請求などが考えられます。解約条件がない場合はいつでも解除できるとは言ったものの、賃貸管理会社に不利にならないように円満に解除することを心がけましょう。
「賠償を請求する」などの引き留めがあった場合
管理委託契約の契約書に契約条件が記載されておらず、オーナーが民法第651条1項に基づいて解約を申し出たものの「民法第651条2項に基づいて賠償を請求する」と引き留められた場合はどうすればいいのでしょうか?賠償を請求すると言われた場合、「損害額がいくらになるのだろう」と不安に感じてしまい、管理委託契約の解約を踏み留まる方もいると思います。しかし、賃貸管理会社に生じる損害は本来得られるはずだった管理委託費程度しかありません。
損害額はそこまで大きいものではないため、民法第651条2項を用いることでオーナーを不安にさせて、解約を踏みとどまらせようとしていると考えられます。また、賃貸管理会社は、国土交通省が作成した賃貸住宅標準管理委託契約書の内容に基づいて契約書を作成しているため、民法が適用されることはほとんどありません。もし、賃貸管理会社の賠償請求に不安を感じている場合は、あらかじめ弁護士に相談してから解約することをおすすめします。
管理会社と契約解除する3つの方法
賃貸管理会社との間で締結した管理委託契約を解除する場合は、以下の3つの方法があります。
・約定解除
・法定解除
合意解除
合意解除とは、オーナーが契約解除を申し出て、賃貸管理会社が合意した場合に成立する契約解除です。しかし、管理業務を遂行することによって管理委託費を得ている賃貸管理会社は、合意すると収入を失うことになるため、まず合意に至るということはありません。そのため、オーナーと賃貸管理会社間で合意解除が行われることはほぼありませんが、契約の解除方法に合意解除もあるということは覚えておくと良いでしょう。
約定解除
約定解除とは、オーナーからの契約解除の意思表示だけで成立する契約解除です。合意解除と異なるのは、賃貸管理会社の合意を必要としない点です。つまり、管理委託契約の契約書に、契約条件が設けられている場合、その条件を満たせば契約を解除できるというのが約定解除に該当します。また、契約条件が設けられていない場合には、民法第651条1項に基づいて解約を申し出ても約定解除になります。
法定解除
法定解除とは、賃貸管理会社が管理委託契約書に記載されている業務内容を履行しない(契約違反)、法律違反などがあった場合の契約解除です。賃貸住宅標準管理委託契約書では、契約違反に基づいて法定解除を行う場合には、猶予期間を設けてそれでも履行しなかった場合のみ解除を認めています。契約違反ですぐ管理委託契約を解除できるというものではありませんが、猶予期間の経過後は契約期間満了や解約条件の期間を満たしていない場合でも解除できるのがポイントです。しかし、法定解除に至ることは合意解除と同様でほとんどありません。そのため、約定解除に至るのが一般的と言えるでしょう。
賃貸管理会社との契約解除手順
賃貸管理会社と締結した管理委託契約は、契約書に解約条件が記載されている場合には、その条件に従って解約できることが分かりました。では、実際に賃貸管理会社の解約を進める際はどのような手順で行えばいいのでしょうか?賃貸管理会社の解約手順は以下の通りです。
・解約条件を確認する
・新しい賃貸管理会社を探す
・解約通知書を送付する
現在の契約内容を確認する
賃貸管理会社を解約する際は、管理業務に対して何らかの不満を抱えているのが一般的です。どの部分に対して不満を抱えているのかが明確になっていない場合には、解約後に新しい賃貸管理会社を探しにくくなります。そのため、まずは現在の契約内容に含まれているサービス内容、管理委託費がいくらなのか、契約終了月がいつなのかなどを確認することが重要です。そうすれば、新しい賃貸管理会社に何を求めているのかが明確になるため、スムーズに探しやすくなるでしょう。
解約条件を確認する
賃貸管理会社の解約は、合意解除や法定解除ではなく約定解除が一般的であると言いました。そのため、約定解除を成立させるには、管理委託契約書に記載されている解約条件を確認する必要があります。
国土交通省の定めている賃貸住宅標準管理委託契約書では、建物オーナーが申し出てから3カ月経過後となっているため、申し出てから3カ月後に契約が解約されるのが一般的です。しかし、賃貸管理会社によっては、賃貸住宅標準管理委託契約書に基づかずに独自の条件を設けている場合には、その解約条件に基づくことになるので、事前にしっかり確認しておきましょう。
新しい管理会社を探す
管理委託契約書の解約条項を確認後、すぐに解約を申し出てはいけません。解約を申し込むと解約条項に定めている期間までに新しい賃貸管理会社と引き継ぎを行う必要があるため、先に新しく契約する賃貸管理会社を選考します。
新しい賃貸管理会社を選考する際は、居室などの専有部に対するサービス内容、エントランスホールや廊下などの共用部分に対するサービス内容をしっかり確認することが重要です。例えば、専有部に対するサービス内容にはトラブルへの対応、家賃を滞納している入居者への督促などが挙げられます。トラブルの対応の遅れは入居者満足度の低下につながるため、管理担当者との電話がつながりやすいかがポイントです。また、督促は定期的に行わないと常態化するため、初期対応をしっかりと行っているのか確認することが重要です。
共用部に対するサービス内容には清掃業務や点検業務などが挙げられます。共用部は入居者や訪れた人が目にする場所なので、廊下が汚い、電球が切れているなど、清掃業務や点検業務が行き届いていないと入居者の不満が募り、退去につながる可能性があります。また、賃貸物件の点検業務が疎かになっていると、建物の劣化が進行して資産価値も低下する可能性があるため、清掃や点検業務をしっかりと行ってくれる賃貸管理会社を選びましょう。
解約通知書を送付する
管理委託契約書に解約条件が記載されている場合は、解約方法も一緒に記載されているのが一般的です。契約の解約を口頭で申し出ても「言った」「言わない」でトラブルに発展する可能性が高いため、解約条件には書面で解約を通知することが盛り込まれています。解約通知書を作成する際の様式が決まっているわけではありません。しかし、必要な事項が解約通知書に盛り込まれていないと効力が生じないため、以下の3つの事項がしっかり盛り込まれているかを確認しながら作成することが重要です。
・管理委託契約書の第何条に基づいた解約なのか
・いつ契約が解約されるのか
賃貸管理会社の解約・変更でオーナーがやること
現在の賃貸管理会社に解約通知書を送付した後、新しい賃貸管理会社との契約が完了すれば、一通りの変更手続きは終了です。しかし、賃貸管理会社の解約・変更を行う際は、トラブルを未然に防ぐためにも、以下の3つの点はオーナーも一緒に確認しておいた方が良いと言えます。
・保証会社との契約が切れないか確認する
・引き継ぎができているか確認する
入居者への通知を行う
賃貸管理会社を解約して変更する場合には、新しい賃貸管理会社が入居者に対して変更通知を行うのが一般的です。しかし、賃貸管理会社の変更に対して、「管理が悪くなるのでは?」と不安に感じる入居者もいます。
そのような不安を解消するために、オーナーからも入居者に向けて、賃貸管理会社を変更した目的はサービスを向上させるためといった通知を行うことが重要です。また、賃貸管理会社を変更した場合は、賃料の振込口座が変更になるのが一般的です。中には、振込手数料がかかる契約者もいるため、不満が募る可能性があります。
また、連絡先が変更になるため、トラブルが生じた場合の連絡に手間取る可能性も。入居者の負担が増えると、不満から退去へとつながる可能性があるため、手数料がかからない口座への変更を予定している入居者には振込にかかる費用をオーナーが1~2カ月負担するなど、不満が募らないようにケアをしっかりと行いましょう。
保証会社との契約が切れないか確認する
賃貸契約を行う際は、賃貸借契約書に必要事項を記入しますが、万が一賃料を滞納した場合に備えて保証人を立てるのが一般的です。しかし、契約者には、保証人を立てることができない人も多いため、最近は家賃保証会社が保証人代わりになるケースが増えています。
家賃保証会社は契約者が家賃を滞納した場合に入居者に代わって賃料を支払ってくれますが、賃貸管理会社を変更すると契約を引き継ぐことができない可能性があるので注意が必要です。引き継ぐことができない場合には保証人がいないため、家賃滞納のリスクが高くなることに。入居者の滞納家賃を回収できなくなるという事態を防ぐためにも、賃貸管理会社を変更しても契約を引き継ぐことができるのか事前に確認しておくことをおすすめします。
引き継ぎができているか確認する
現在の賃貸管理会社に解約通知書を送付して、新しい賃貸管理会社に契約を申し込めば、後は両社間で引き継ぎが行われます。しかし、両社間で円滑に引き継ぎが行われていない場合は、管理に必要な鍵が見当たらないといったように、トラブルに発展する可能性があるので注意が必要です。
そのようなトラブルを未然に防ぐためには、賃貸管理会社に全てを任せきりにするのではなく引き継ぎが行われているのかしっかりと確認することが重要です。賃貸管理会社はあくまでも代理人で当事者は賃貸人であるため、自分の物件であるという自覚をもちながら不動産経営を行いましょう。
まとめ
ワンルームマンションやアパートなどを購入して、不動産賃貸経営を行っている方の中には、空室が生じた場合の入居者募集業務や清掃業務などの管理業務を賃貸管理会社に委託中の方も多いと思います。賃貸管理会社は管理業務の専門家ですが、賃貸管理会社によっては担当者の対応が悪い、管理業務の質が低い可能性があり、解約・変更を検討している方もいると思います。しかし、賃貸管理会社の解約はいつでもできるわけではありません。
管理委託契約書に解約条件が盛り込まれている場合は、その内容に基づいて解約を進めます。解約をスムーズに進める、解約後のトラブルを未然に防ぐためには、解約の手順をしっかりと理解しておくことも重要です。基本的には賃貸管理会社に任せておけば問題ありませんが、不動産経営を行っている当事者はオーナーです。利益を求めることも重要ですが、入居者の存在を常に考えながら不動産経営を行いましょう。