夫婦が離婚するとき財産分与で2人が築いた財産を分け合う必要がありますが、家などの不動産の場合、物理的に分けることはできないため、売却して現金で財産分与するのが一般的です。
ただし、金融機関の規約上、住宅ローンが残っていると家は売却できません。
そんなときに使われる売却方法が「任意売却」です。任意売却は金融機関と交渉し、交渉が成功すれば住宅ローンが残ったまま家を売却できる方法です。
任意売却は特殊な売却手続きであり、成功させるには金融機関との交渉にも慣れている、任意売却の経験豊富な不動産会社の協力が不可欠です。
まずは無料一括査定を利用して、任意売却の得意な不動産会社をピックアップしてみてください。その中から、自分と相性のよい業者を見つけて任意売却の相談をすることで、スムーズに住宅ローンのある家を売却し、夫婦それぞれが現金を手にできるうえにお互いに納得する形で財産を分け合えるでしょう。
任意売却とは「住宅ローンの残る家」を売却する方法
夫婦で築いた財産の中にマイホームやマンションなどの自宅がある場合は、財産分与の対象となります。
財産分与をする際、離婚後も自宅として住み続けない限りは家を売却する人がほとんどです。
しかし、住宅ローンが残っている場合、簡単には売却できない恐れがあります。
そこで使われるのが、任意売却という方法です。任意売却をすれば、売却益をすべて返済に充てても住宅ローンが残る家でも売却が可能になります。
住宅ローンの残る家にはアンダーローンとオーバーローンがある
住宅ローンの残る家を売却するときに重要なのが「家がアンダーローンなのか?オーバーローンなのか?」という点です。
アンダーローン | 住宅ローンの残高よりも家の売却価格の方が大きい状態 |
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オーバーローン | 住宅ローンの残高よりも家の売却価格の方が小さい状態 |
家の売却価格が2,000万円なら、住宅ローンの残高よりも家の売却価格の方が小さいので「オーバーローン」になります。
住宅ローン残債が売却益より少ない「アンダーローン」
住宅ローンがアンダーローンの場合は、とくに問題なく売却可能です。
家を売って得た代金から住宅ローンを一括返済し、残ったお金を分与します。
上記の例なら「家の売却価格3,000万円-住宅ローンの残高2,500万円=500万円」を財産分与します。
住宅ローン残債が売却益より多い「オーバーローン」
一方、オーバーローンの場合は家を売却しても住宅ローンが残るため、任意売却をしなければいけません。
このように、住宅ローンの状態によって家の売却方法は異なるため、家の売却を考える際はまず「アンダーローン」と「オーバーローン」のどちらなのかを確認する必要があります。
住宅ローンの状態は、住宅ローンの残債と住宅の売却価格を比較し、どちらの金額が上回っているかを調べることで把握できます。住宅の売却価格は、不動産会社の査定を受けてみるのがもっとも簡単な調べ方です。
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任意売却をすればオーバーローンの家でも「抵当権」を外して売却できる
オーバーローンの場合に任意売却が必要な理由は、抵当権の存在にあります。
抵当権とは「不動産を差し押さえられる権利」で、住宅ローンを組むときは必ず家に設定されます。抵当権の権利者は住宅ローンを組んだ金融機関で、ローンの返済が滞ると抵当権を実行することで、家を差し押さえて融資した資金を回収するのです。
しかし、債務者(家の所有者)が第三者に家を売却してしまうと、抵当権の実行がむずかしくなってしまいます。
そのため、金融機関は住宅ローンの規約で「ローン完済していない家の売却」を禁止しており、違反すると残債の一括返済を請求してきます。また、抵当権がついたままの家は買主側にとってもトラブルのリスクがあるため、需要はまずありません。
任意売却とは、抵当権を外す許可を金融機関からもらい、抵当権を外した状態で家を売り出すための方法なのです。
任意売却の条件
任意売却はいつでもできる訳ではなく、次のような条件があります。
- ローンの滞納があること
- 共有名義人、連帯保証人の許可があること
- 金融機関など、住宅ローンの貸主(債権者)との合意があること
任意売却を考える場合、速やかに金融機関などの債権者(抵当権者)や共有名義人、連帯保証人や保証会社に相談する必要があります。
任意売却をしたからといってローンの残債がなくなるとは限らない
オーバーローンでも家の売却が可能になりますが、任意売却をしたからといって、ローンの残債が0円になるわけではありません。
売却代金でも返済しきれなかったローン残債については、分割して返済していくことになります。
返済義務は住宅ローンの名義人にありますが、離婚の場合はほかの財産分与や慰謝料・養育費などを考慮して、どのように負担していくのか協議する必要があるでしょう。
家を任意売却するなら離婚前がおすすめ
離婚による任意売却では、タイミングをいつにするのかという問題が出てきます。
任意売却は離婚前、離婚後のどちらのタイミングがよいのでしょうか?
結論をいえば、任意売却は離婚前におこなった方がよいでしょう。なぜなら、離婚前の方が夫婦間で任意売却の話し合いがスムーズに進むためです。
例えば、家の名義が夫婦共有である場合は、売却に双方の同意が必要です。離婚後に任意売却のことであれこれやり取りをするより、離婚前に売却して、離婚成立とともに関係を清算するのがおすすめです。
オーバーローンの家を放置していると起こり得るリスクとは?
離婚後、オーバーローンの家を放置するとどんなリスクがあるのでしょうか?
住宅ローンが夫婦の共有名義であったり、配偶者の連帯保証人になっていたりすると、相手に家賃を延滞されると請求が自分に回ってきます。
また、相手に新しい家族ができると、相続問題などで権利関係がこじれてしまうかもしれません。
どちらかが住む場合でも、住宅ローンの名義人と家の居住者が違うと規約違反に問われる恐れがあります。
離婚後にトラブルの原因となる可能性が非常に高いため、オーバーローンの家は可能な限り、離婚時に処分した方がよいでしょう。
離婚による任意売却のメリット
オーバーローンの家を売却したいときに有用な任意売却ですが、メリットもあればデメリットもあります。
任意売却を考える際には、そのメリットとデメリットをしっかり理解しておく必要があるでしょう。
まずは離婚時に任意売却をするメリットについて、解説していきます。
財産分与をスムーズにできる
そもそも、なぜ任意売却をおこなうかというと、財産分与をするためです。財産分与をする場合、不動産物件をどう分けるのかが大きな問題になります。
離婚後も住み続ける場合や、事業などで使う場合を除けば、売却し現金化してから財産を分与します。しかし、オーバーローンの場合は不動産の売却ができないため、財産分与はスムーズに進みません。
任意売却の場合は、家を売却して現金化できるだけでなく、事前に住宅ローンの支払い方法などについて債権者も含めて打合せすることができるため、財産分与がスムーズにおこなえます。
競売より高い価格で売却できる
住宅ローンがオーバーローンの場合、家を任意売却せずに返済を滞らせると、債権者によって差し押さえられてしまいます。
差し押さえられた家は、競売にかけられます。競売は現金化のため家を確実に売却することが目的なので、通常の売却価格より安く(7割程度)売りに出されるのが一般的です。
任意売却は通常の不動産売却の相場に近い価格で売り出すことができるので、競売の場合よりも高い価格で売却できます。
引っ越し費用や不動産会社の手数料などを確保できる
競売と任意売却の場合の大きな違いが、家を売却して得た現金をどのように使うかという点です。競売の場合は、家の売却金額の全額を住宅ローンの返済に充てる必要があります。
しかし、任意売却の場合は、債権者との交渉により、売却金額の一部を引っ越し費用や不動産会社の手数料などの売却に係る費用に充てることが可能になります。
差し押さえによる競売より、任意売却をした方が新生活の準備が用意になるでしょう。
離婚による任意売却のデメリット
任意売却のメリットについて解説しましたが、次から紹介するデメリットもよく検討してから任意売却をおこないましょう。
とくに、ブラックリストに載ってしまうと一定期間は借入やクレジットカードの利用ができなくなるので、注意が必要です。
ブラックリストに載る
「ブラックリストに載る」とは、個人信用情報に事故情報が載ることを指します。
個人信用情報は全国銀行個人信用情報センターなどの信用情報機関が管理しており、個人の借入・返済状況(延滞や強制回収なども含む)が登録されています。
任意売却をする場合には、いったん住宅ローンの返済を止め、ローンを滞納している状態にしなければいけません。そのため、個人信用情報に事故情報が載ってしまうのです。
ブラックリストに載ると、一定期間は借入やクレジットカードの発行などができなくなります。
生活に大きな影響が出てしまうため、任意売却は慎重に検討すべきでしょう。
ただし、離婚後に家をオーバーローンの家を残すリスクを考えた結果、離婚による任意売却を選択する人が多いのは事実です。
連帯債務者の責任が残る
任意売却は家を売却してもローンの残債が残るため、離婚後も残債を返済していく必要があります。
住宅ローン名義が夫婦になっている場合は、離婚後であっても夫婦の双方に残債の返済義務が残るため、新生活に影響を与える可能性があります。
離婚後も支払いで元配偶者とやり取りをする必要があるため、ストレスに感じる人もいるでしょう。
手間や労力がかかる
任意売却をするためには、不動産会社や弁護士に任意売却の相談をしたり、債権者や連帯保証人との手続きがあったりと、多くの手間や労力がかかります。
一般的に、任意売却は3ヶ月~6ヶ月程度かかります。離婚の協議とあわせて任意売却を進めていくことは、かなりの負担を感じる場合があるでしょう。
とはいえ、離婚時にしっかり家の権利を清算しておかないと、後々さらに面倒なトラブルとなる可能性が高いといえます。離婚を円滑に成立させるために、少しの間だけ我慢してみましょう。
離婚で任意売却する手順
ここまでは、任意売却とはどのようなものかを見てきました。
では、任意売却はどのようにおこなえばよいのでしょうか。
ここからは、離婚により任意売却をする手順や流れについて見ていきましょう。
1.査定を依頼して任意売却の相談をする
任意売却をおこなうためには、不動産や法律に関する専門知識を駆使して、金融機関と交渉しなければなりません。そのため、夫婦のみで任意売却をおこなうことは原則として不可能です。
任意売却を考える際には、任意売却に詳しい不動産会社に相談するのが一般的です。
しかし、任意売却が可能な不動産会社は数が少なく、たくさんの不動産会社から選ぶのは手間がかかります。「なにから調べればよいかわからない」という人も多いでしょう。
そこで、複数の不動産会社に一括で査定依頼を出せる無料サービスの利用をおすすめします。
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住宅ローンの残高を確認する
任意売却が必要かどうかを判断するためには、住宅ローンの残高を正確に把握する必要があります。
金融機関に連絡して、残高証明を取得しましょう。
住宅ローンの滞納をすでにしている場合でも、残高証明の請求は可能です。
2. 債権者や連帯保証人との手続き
不動産会社で家の売却手続きをおこなうと同時に債権者や連帯保証人などとの手続きも進めなければなりません。具体的には、任意売却することに対し了承を得ることです。
複数の債権者などがいる場合は、すべての人の了承を得る必要があります。
この場合、どの債権者にどれだけの配当を渡すのか、売却後の返済計画はどうするのかなど、多くの交渉や調整が必要です。
そのため、任意売却の経験が多い弁護士や不動産会社などが、債権者と交渉を進めるのが一般的です。
3. 不動産会社に売却の依頼をする
不動産会社で売却価格を査定しただけでは、正式に売却の依頼をしたことにはなりません。査定価格に納得できたら、不動産会社に正式に売却の依頼をします。
具体的には、不動産会社と媒介契約を結ぶことになります。媒介契約とは、依頼主と不動産会社の間でかわす、不動産仲介業務を依頼する契約のことです。
媒介契約を結べば、購入者募集の広告や契約書などの必要書類の準備まで、売却にかかるほぼすべてのことを不動産会社がおこないます。
仲介手数料は不動産の売却が成立した場合に支払うことになるため、売却の依頼をした時点では資金を用意する必要はありません。
4. 家を売却する
購入希望者が現れたら、売却金額やいつ家を引き渡すのかなどの打合せをおこない、売主・買主ともに納得できれば、売買契約を結んだ後、家を売却します。買主との売買契約の手続きは、一般的な不動産取引と同じです。
売買契約の締結後、引っ越しの準備などを済ませてから代金の決済と引き渡しをおこないますが、任意売却の場合は期限の設定があるため、売買契約をしてすぐに決済ということもあります。
代金の決済には債権者も立ち会い、ローンの清算もあわせておこないます。
まとめ
結婚期間中に購入した家は、トラブルを未然に防ぐためにも離婚するときに処分するのがおすすめです。
しかし、残債が売却代金で完済できない「オーバーローン」の場合は、任意売却という方法で抵当権を外してもらってから売り出す必要があります。
ただし、任意売却にはメリットとデメリットの両方があるので、実行する前に不動産会社に相談することをおすすめします。
不動産の専門家に適切な対処方法をアドバイスしてもらい、離婚後に悔いの残らない売却をしましょう。