都市計画道路予定地は「計画段階」なら売買が可能
都市計画道路予定地とは、都市計画法に基づいた道路の整備が予定されている土地のことです。
下記のような「都市機能の向上」を実現するため、既存道路の幅員拡大や、新しい道路の設置が計画されているのです。
- 人や物の円滑な移動を確保する
- 火災や地震などの災害時の避難路にする
- 火災の延焼などを遅延させ、被害の拡大を防止する
- 人や物の円滑な移動を確保する
- 電気・上下水道・ガス・地下鉄やバスなどの都市施設を設置する空間にする
また、都市計画道路の形成には、以下のように2つの段階があります。
- 計画決定
- 事業決定
計画決定の段階であれば、都市計画道路予定地であっても売却は可能です。
次の項目から、それぞれの段階について説明します。
1.都市計画道路予定地の計画が予定されている「計画決定」段階
都市計画道路予定地の計画が予定されている「計画決定」段階の場合、土地の売買や一定の制限に従って建築・建て替えできます。
計画決定は名前のとおり「計画が決まった」段階です。この段階では、まだ道路整備に向けた土地の買収や工事計画といった「具体的な動き」はありません。
対象の土地に住居を新築・建て替えする際は、一定の制限に従う必要があります。詳しくは以下の項目で解説しています。
都市計画道路予定地の買主が受ける建築制限
すでに対象の土地に住んでいる場合も、計画決定の段階では土地の買収や建築が可能で、立ち退く必要はありません。
2.都市計画道路予定地の収容が確定している「事業決定」段階
事業決定は「決定された計画を実行しても良い」という事業認可がおり「具体的な工事計画」が動き出した段階です。
「事業決定」段階になると、土地の売買や建築はできません。戸建てだけでなく、アパートなどすべての土地が自治体に収用されます。土地収用の対象者へ補償の説明・協議・補償金の支払いなどをおこない、道路整備を進めていきます。
補償金の金額は土地の評価額だけでなく、建築物の取り壊し・移動・再建築や引っ越しにかかる諸々の費用すべてが含まれた金額です。
事業決定となれば、都市計画道路予定地の部分に建築物を建てることは原則できません。
ただし、災害時など緊急事態で建築物の必要があるときは、特例として建設が認められます。
都市計画道路予定地の売却価格は計画の進捗に影響される
都市計画道路予定地を売る場合、計画の進捗状況と道路改築の内容によって「売りやすさ」「売却条件」「売却価格」が異なります。
計画決定の段階では自由に売却できますが、事業決定となれば都市計画道路予定地は収用されてしまうので、売却ができなくなります。
まずは、計画の進捗状況が売却に与える影響についてわかりやすく解説していきます。
計画決定段階であれば土地全体を売却できる
すでに解説したとおり、都市計画道路が計画決定段階であれば、土地全体をそのまま売却できます。
そして、計画決定されたといってすぐに工事が始まるわけではありません。
昭和30年代から40年代の高度経済成長期に決定された都市計画で、もう50年以上経つのに事業決定まで至ってない計画も多くあるのが実情です。
土地収用に向けた自治体の説明や交渉がなければ、自由に土地を売却できます。
事業決定段階になれば収用される土地は売れない
計画が進み事業決定の段階になれば、道路整備に向けた具体的な動きが始まります。この段階では、収用対象の土地は売却できません。
収用される土地は無条件に没収されるわけではなく、公示価格などを考慮して補償額が決められます。適切な金額の補償金が支払われるので安心してください。
もし収用時の条件や補償金などに納得できない場合は、知事から独立して職務をおこなっている「収用委員会」に審理を依頼することになります。
収用される面積が「土地全体に対して一部分だけ」であれば値下がりは少ない
例えば、下図のように都市計画道路予定地部分の面積が小さく、残された土地に建築物を建てるときにも大きな問題がない場合、都市計画道路予定地だからといっても大きな値下がりはないといえます。
土地計画道路予定地が土地全体に対して部分的であれば、仮に事業決定になっっても、その部分だけ分筆して残りの部分を利用or売却できるためです。
土地計画道路予定地の収容に該当しない「残地部分」に十分な面積がある場合は、建築基準法の範囲内で高層の建物も建築できます。
土地計画道路予定地における建築制限にもひっかからないため、買主の探しやすさも通常の不動産売却の場合と変わりません。
収用される面積が「土地全体に対して大きい」ほど値下がりしやすい
一方で、下図のように都市計画道路予定地が大きく被さっていると値下がり幅も大きくなります。
上記の場合、残りの土地が「建物の建築に必要な建築面積を確保できない」「接道義務を満たせずに再建築不可物件となる」といった事態になりやすく、価値も大きく下がります。
売却を検討している都市計画道路予定地について、どの程度の面積が収容されるかは必ず確認しましょう。
収用されずに残る土地の形状が悪ければ大きく値下がりする
都市計画道路予定地の面積だけでなく、その計画道路の通り方も売却に影響します。
極端な例ではありますが、上図のように土地の真ん中を突っ切るような形で計画されている場合、売却価格は大きく下がり、買主もなかなか見つからないでしょう。
都市計画道路予定地を避けて建物を建てられないので建築制限がかかり、事業決定となったときに土地が収用されると残された土地の使い道がほとんどありません。
残る土地の形状が悪ければ、所有権を取得してもその土地に建てられる住宅も限られ、駐車場などその他の活用方法も難しいでしょう。
このような都市計画道路予定地は「事業決定となったときのリスク」が高いため、売却も他の都市計画道路予定地と比べて困難になります。
都市計画道路予定地の買主が受ける建築制限
計画決定の段階であれば、都市計画道路予定地にかかる形でも建物の新築・再建築は可能です。
実際に、価格の安さから都市計画道路予定地を購入し、そこに住宅を建てて居住する人もいます。
ただし、都市計画道路予定地には建築に一定の制限があり、土地の買主もその制限に従う必要があります。
審査の基準は自治体によって異なりますが、多くの都市計画道路予定地の建築制限は以下の通りです。
| 項目 |
内容 |
| 階数の制限 |
地下階を設けない2階建て以下の建物であること |
| 構造の制限 |
主要構造部が木造・鉄骨造・コンクリートブロック造など「容易に移転・除却できる構造」であること |
| 容易に移転・除却できること |
将来の道路整備に備え、建物が容易に移転または除却できる設計であること |
| 道路整備に著しい支障がないこと |
建物の配置や規模が、将来の道路事業(都市計画施設の整備)に支障を与えないこと |
| 知事等の許可が必要 |
建築行為を行う際は、建築確認とは別に「都道府県知事または指定市の市長等」の許可を受けること |
参照:e-Gov法令検索「都市計画法」
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造などの耐久性がある構造の建築はできませんが、一般的な木造住宅であれば建築可能です。
階数も2階以下であれば、一般的な木造一戸建てを建築することに問題はありません。
都市計画道路予定地は建築制限がある
都市計画道路予定地に建築物の建築するには都市計画法第53条第1項の規定に基づき、都道府県知事などの許可が必要です。
市計画法第53条第1項
都市計画施設の区域又は市街地開発事業の施行区域内において建築物の建築をしようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事等の許可を受けなければならない。ただし、次に掲げる行為については、この限りでない。出典:e-Govポータル「市計画法第53条第1項」
前の項目で紹介した制限を守り、土地計画工事において妨げにならない建築であれば、基本的には許可をもらえます。
より正確な許可基準については、売却したい土地の管轄地域の役所に問い合わせて確認しましょう。
都市計画道路の見直しで制限緩和される地域もある
都市計画道路予定地であっても、緩和路線に指定されていれば一般的な土地と同じように売却できるケースが多くなります。
緩和路線とは、長期間事業化の見込みが立たないために建築制限が緩和されている都市計画道路予定地のことです。つまり、すぐに道路整備が行われる可能性が低く、建築や土地利用の自由度が大きく確保されている状態を指します。
そもそも都市計画道路の多くは、高度経済成長期に想定された都市の拡大を前提とされたものです。
しかし、現在は当時の想定と異なり「人口減少」「経済の低成長」が進み、社会経済情勢は変化しています。
そのため、長期にわたって未着手の都市計画道路については見直しによって廃止・存続だけでなく、建築制限を緩和する決定もおこなわれています。
東京都内においては、原則、すべての都市計画道路区域内で3階までの建築を可能とする制限緩和がおこなわれており、具体的な建築制限緩和の基準は以下の通りです。
- 容易に移転、または除去できること
- 市街地開発事業等の支障にならないこと
- 階数が3階以下、高さが10m以下で地階がないこと
- 主要構造部が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造、あるいはこれらに類する構造であること
- 都市計画道路部分と分離できるように設計上配慮されていること
また、このような都市計画道路予定地が緩和路線に指定されている場合、すぐに土地収用がおこなわれる可能性は低いといえるでしょう。
そのため、都市計画道路予定地であっても緩和路線であれば気にせず購入する買主も多く、売却価格も通常の不動産と大きく変わらないこともあります。
参照:東京都整備局「新たな建築制限緩和の基準」
都市計画道路予定地を上手に売る3つのポイント
最後に、都市計画道路予定地を売るときのポイントを3つ解説します。
- 1.市場価格から10%割引した価格で売る
- 2.都市計画道路の進捗状況を調べる
- 3.都市計画道路予定地のメリットを伝える
特に都市計画道路予定地はそのリスク・デメリットが気になり、メリットを知らない方も多いです。
そのため、買主へメリットを伝えると、都市計画道路予定地を売却できる可能性が高まります。
1.市場価格から10%割引した価格で売る
都市計画道路予定地を売却する場合、売出し価格は市場価格から約10%割引した価格がよいでしょう。
例えば、市場価格1,000万円の都市計画道路予定地であれば、売出し価格は900万円辺りがベストです。
都市計画道路予定地は市場価格から10%程度割引した価格でも買主は見つかります。
建築制限があることは事実ですが、再建築不可物件ほど厳しい制限というわけではありません。
さらに、都市計画道路予定地が緩和路線になっていれば、土地利用の選択肢がより広がります。
いずれ事業決定したときに収用されるリスクを考慮したとしても、売出し価格は相場の10%下げる程度で十分です。
2.都市計画の進捗状況を調べる
都市計画道路予定地を売るときは、都市計画の進捗状況を調べることも重要です。
事業決定時期が迫っていると、土地が収用されるまでの猶予も短いので売却価格を下げないと買主が見つかりません。
そして、事業決定となれば都市計画道路予定地の部分は売却できなくなります。
そのため、まずは市区町村役場で事業決定の予定があるか聞いてみましょう。
都市計画の進捗状況を調べる場合、以下の点を確認すると進捗状況を把握しやすいです。
- 周辺に幹線道路が新しく作られているか?
- 道路整備に向けた収用が始まっていないか?
どのような形で都市計画道路が計画されているかは「都市計画地図」でわかります。
これは市役所のホームページでも無料で閲覧できるので、所有する土地が収容される都市計画道路がどこからどこへつながっているか、その周辺の整備状況を確認するとよいでしょう。
3.都市計画道路予定地のメリットを伝える
都市計画道路予定地は、買主にとっても税負担が軽くなるというメリットがあります。
税金の基準となる評価額が下がる可能性があるため、不動産取得税・固定資産税・都市計画税などの負担が抑えられる場合があるのです。
なぜなら、都市計画道路予定地にかかっている土地は、税法上「利用に制限がある宅地」として扱われ、評価額を減額してよいという評価ルールが定められているからです。
参照:国税庁「財産評価基本通達」
評価ルールによる減額割合は、売却対象の土地に対して都市計画道路予定地の面積が大きいほど高くなります。同様に相続税評価額も減額されるため、相続税額も少なくなります。
また、事業決定となり幹線道路ができれば、接道条件もよくなって土地の価値が上昇する可能性もあります。
そのうえで、買主側には以下のようなメリットも期待できます。
- 相場より安い価格で土地を取得できる
- 収用される土地部分に対して補償金を受け取れる
- 道路整備完了後に高値で土地を売却できる可能性がある
都市計画道路予定地のリスクだけでなく、メリットも合わせて伝えることで、売却しやすくなるでしょう。
都市計画道路予定地を「高く」「スムーズに」売却するなら専門買取業者に相談しよう
都市計画道路予定地の売却活動がうまくいかず、いつまでも買主が見つからないときは、訳あり物件専門の買取業者に相談してみるのをおすすめします。
訳あり物件専門の買取業者であれば、なかなか買主が見つからないような物件でも現況のまま買い取ります。
訳あり物件を専門に取り扱うので高額査定が可能で、査定価格に納得さえできれば最短数日で現金化が可能です。
まとめ
都市計画道路予定地は事業決定のタイミングで土地が収用されるため「面積が小さくなる」「引越しをしなければならない」といったリスクがあります。
しかし、都市計画の見直しによって計画廃止となる可能性もありますし、事業決定の見通しが立っていない計画もあります。
そうした土地であれば、一般的な土地の10%割引程度の価格でも売却できる可能性があります。
しかし都市計画の進捗状況の確認や事業決定時の影響など、都市計画道路予定地の売却は確認するべき点が多いです。
実際に売るときには確認と手続きを迅速に進めて、買主とのトラブルを避けるためにも、信頼できる不動産会社に相談して媒介契約を結ぶようにしてください。
どうしても仲介による売却が難しいときには、不動産会社による買取という選択肢もあります。なかなか買主が見つからないという場合は、買取を検討するとよいでしょう。