居抜き物件の売却では、設備ごと店舗をそのまま買主に引き渡します。
そのため、撤去費用を抑えられる上、うまくいけば、設備の資産価値が売却価格に上乗せされます。
しかし、正しい方法とタイミングで売却しないと、なかなか売れなかったり、トラブルが発生してしまうので注意しましょう。
リスクなく売却するためには、メリット・デメリットについてしっかり学んでおく必要があります。
また、居抜き物件を高額売却できる不動産会社の探し方も重要なので、無料一括査定を利用して、複数の不動産会社を比較してみるとよいでしょう。
居抜き物件とは?売却相場はどうやって決まるのか
居抜き物件とは「すぐに営業できる状況で売買または貸出されている物件」です。
厨房やテーブル、空調などの営業設備を残したまま取引されるため、設備を処分することなく売却できます。
居抜き物件で売却すると、通常物件として売るよりもお得に売却できます。
- 設備の解体費用を負担せずに済む
- 設備の資産価値の分だけ高く売れる
居抜き物件の売却許可と相場について
通常、閉店や営業停止をすると、撤去費用や解体費用がかかってしまいます。閉店作業には、以下のような費用が必要です。
・原状回復工事費用
・空家賃
・保証金の返却
居抜き物件として売却することでこれらの費用を節約可能で、通常よりも100万~300万円ほどお得に売却可能です。
また、買主に設備を買い取ってもらえば、その分の代金も物件単体の売却価格に上乗せされます。
ただ閉店や営業停止で撤収するだけなら費用の持ち出しが必要な物件でも、居抜き物件として売却することで数百万円の利益が生まれる可能性があります。
ただし、店舗が自分の持ち物ではなく貸店舗の場合、大家の許可が必要なので注意しましょう。
具体的にどの程度の価格になるかは、個々の条件によって異なります。オンラインで申し込める一括無料査定を利用して、複数の不動産会社が出した査定価格を比較してみましょう。
売却価格を決める3つの要素
居抜きの価値は以下の3つの要素で決まります。
立地 |
・人通りが多いエリアか ・周辺には多くのテナントが出店しているか |
---|---|
規模 |
・開口が広いか ・適切な広さか |
清潔感 |
・グリーストラップにヘドロはないか ・排水管や排気ダクトに油汚れはないか |
総合的には、店舗としての使いやすさが物件の価値を決めます。駅チカ物件や大通りに面した立地というような「ここにお店を出したい」と思わせる立地にある物件は、例え設備が古くても価値は高くなるのです。
また、必ずしも大規模な店舗が必要とされている訳でもありません。
30~50坪のような広い店舗よりも、10~20坪程度の小規模タイプの方が「少人数で切り盛りしやすい」「開業資金が少なくてすむ」というメリットがあるため、買主がつきやすくなります。
このように居抜き物件の価格は、設備のグレードだけで決まるのではありません。買主に「使いやすさ」をアピールできれば、価値を高められるでしょう。
貸店舗の場合は大家の許可が必要
貸店舗でも、所有権者の許可さえあれば居抜き物件として売却可能です。この場合、建物を売るのではなく、造作(内装や設備)と賃借権(店舗を借りる権利)を売却することになります。
しかし、自分の独断だけでは売却ができません。
貸店舗の所有権者である大家に、居抜き物件として売却する許可を得なければいけません。
賃借人が負担する原状回復義務とは?
原状回復とは「使用により発生した建物価値の復旧」をおこなうことです。賃借人、つまり店舗を借りている人は、退去時に破損や損傷した部分を修繕しなければいけません。
原状回復義務に関しては具体的な法規制はありませんが、国土交通省が裁判事例や取引実務を取りまとめた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を示しています。
主に賃貸住宅を対象としたガイドラインなので店舗物件にはそぐわない部分もありますが、基本的な考え方として参考になります。
賃借人が負担すべき原状回復は「故意・過失、善管注意義務違反により損傷した箇所」と「通常の使用を超えるような使用による損耗」です。具体的には、次のようなものがあげられます。
- カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ
- 結露を放置してできたカビやシミ
- 落書き
- 引越作業で生じたひっかきキズ
- クーラーからの水漏れを放置して発生した壁等の腐食
- 下地ボードの張替えが必要な穴(釘穴・ビス穴)
- ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ
- 喫煙でクロスに染みついたシミや臭い
- その他、日常の手入れ不足や用法違反による設備の損傷
普通に使用するうえで劣化した箇所においては、修繕せずとも退去できます。
実際は個々の契約によって判断は異なるので、原状回復については不動産会社や弁護士などに相談してみるとよいでしょう。
参照:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインについて」
参照:中小企業庁「賃貸店舗の退去時における原状回復について」
居抜き物件を売却することのメリット・デメリット
居抜き物件は、売り手のみならず買主にもメリットが大きい契約形態です。
しかし、少なからずデメリットも存在するため、双方の視点を踏まえて居抜き売却を検討する必要があります。
居抜き物件を売却することのメリット
居抜き物件は、売却リスクを減らせるという点が最大の魅力です。「すぐに閉店したい」「撤退費用を節約したい」という場合におすすめです。
具体的には、以下の3つのメリットが得られます。
・スケルトン解体工事費用がかからない
・撤退する直前まで営業を続けられる
それでは、それぞれのメリットについて詳しく解説していきます。
メリット1.造作譲渡料を得られる
売主は、居抜き物件を売却すると買主から造作譲渡料を受け取れます。造作譲渡料とは、店舗に設置している設備を譲渡したときに受け取るお金のことです。
厨房設備・エアコン・照明・排気ダクト・椅子・テーブル・看板などすべて造作譲渡に含まれます。
ただし、設備がリース品である場合、譲渡するにはリース会社と交渉する必要があります。まずはリース会社に造作譲渡の可否について確認しましょう。
造作譲渡料を決めるのは、設備のグレードだけではありません。前述したように立地や店舗の規模、集客力も大きく関係します。
造作譲渡する場合は、どの設備を譲渡するか選ぶことも可能です。譲渡したくないものは一覧から外したりできます。
売主買主間で「売る、売らない」とトラブルにならないよう、契約書に造作譲渡物に関する項目を設けましょう。
メリット2.スケルトン解体工事費用がかからない
居抜き物件では、スケルトン解体工事費用がかかりません。クロスや給排水管などすべての設備などを撤去し、コンクリート打ちっぱなしの状態にすることをスケルトン解体といいます。
店舗の場合、スケルトンの状態で契約をして、スケルトンにして退去することが基本です。
つまり、自分が購入した後に内装工事をおこなった場合は、工事する前の段階に戻さなければいけません。
スケルトン解体費用は施工時期や時間、材質や坪面積によって大きく左右されます。
近隣店舗との兼ね合い上、夜間の工事に限定されていたり、アスベスト撤去が必要であったりする場合には、より費用がかかると考えておきましょう。
メリット3.撤去直前まで営業を続けられる
居抜きで売却する場合、買主に譲渡する直前まで営業を続けられます。
通常、売主が撤退してから買主に引き渡すまで、撤去工事がおこなわれます。普通は撤去工事の期間を考慮して、撤去日を計画していかなければいけません。賃貸の場合は、工期中も賃料が発生し続けることになります。
しかし、居抜き物件は撤去工事期間を考慮する必要がありませんので、閉店後すぐに引き渡すことが可能です。
「閉店ギリギリまで営業したい」「空家賃を支払いたくない」というオーナーにとって大きなメリットといえます。
居抜き物件を売却することのデメリット
一方で、居抜き物件の売却は、考慮すべきリスクもあります。以下のようなデメリットも踏まえながら、売却するかどうかを検討しましょう。
・買主が「前の店のイメージ」を気にして購入をためらうかもしれない
・スタッフに閉店計画を知られてしまう可能性がある
デメリット1.売却できないと営業赤字が長引く
営業赤字が続いていた場合、売却するまで赤字状態が続きます。居抜き物件は同業者にしか売れないことがほとんどなので、買主が限定される点が大きなデメリットです。
転用しにくい内容や設備であった場合は、売れ残ってしまう可能性も高くなります。
このような場合は、次の買主が現れるまで営業を続けるか、居抜き売却を諦めて撤去工事した方が売却できる可能性が高まります。
居抜き物件にこだわって営業を続けることで、赤字がふくらんでしまうケースも予想できるので注意しましょう。
デメリット2.買主が「前の店のイメージ」を気にして購入をためらうかもしれない
居抜き物件は内装をそのまま引き継ぐので、どうしても前の店のイメージが残ってしまいます。
店名や従業員は別でも内装や設備がそのままだと、客側はリニューアルや系列店の開店だと勘違いしてしまうかもしれません。
買主が「前の店のイメージ」を嫌い、購入をためらう場合もあります。居抜き売却ではなくスケルトン解体後の売却を求められるケースもあるでしょう。
デメリット3.スタッフに閉店計画を知られてしまう可能性がある
スタッフへの閉店告知のタイミングが、大きく狂ってしまうことも、デメリットの1つといえます。
スタッフに閉店告知をするよりも先に、居抜き物件売却の募集広告を打ち出してしまうと、経営者と従業員との信頼関係にキズがついてしまうかもしれません。
居抜き物件を売却するにあたっては、広く募集広告を出すことがほとんどですが、閉店告知よりも先にスタッフに感づかれてしまった場合、早期退職や給与の支払いの件で詰め寄られてしまう恐れもあります。
労働基準法では、飲食店舗を閉店する場合、閉店の30日前までに閉店告知をしなければいけないと定められています。
しかしながら、閉店ギリギリまで営業する居抜き物件では、早めに閉店告知をすることで、従業員の士気が下がることも考慮しなければいけません。
また、取引先への告知を怠り、系列店の取引にも影響をおよぼしてしまったケースも多々あります。
買主を探すときは、プライバシーを保護してくれる不動産会社に依頼したり、信頼のおけるスタッフだけに相談しておくなど、綿密に閉店計画を立てていくことが大切です。
居抜き物件を高く売却する4つのコツ
居抜き物件を少しでも高く売却するためには、4つのコツがあります。撤退コストを削減するために、それぞれのコツと注意点をしっかり押さえておきましょう。
コツ1.次のテナントが使いやすい造作がある
次のテナントが使いやすい設備や内装であれば、物件の価値が高まります。汚れが目立ったものや機能的に劣化したものは、買主によい印象を与えません。
清掃が行き届いているものや不具合がなく比較的新しい設備は、売却金額が高くなることもあります。設備は日ごろから丁寧に扱い、隅々まで掃除するように心がけましょう。
コツ2.買主の業種と既存の造作がマッチしている
居抜き物件は同業者に売ってこそ価値が高まると考えられますが、同業者でもサービス内容が違えば需要は低くなります。
例えば、ファミレスとバーでは、同じ飲食店でも椅子やテーブルなど、内装の雰囲気はまったく違うでしょう。居抜きの価値は「いかに前店舗の状況を次に活かすか」に尽きるのです。
できるだけ壊さずに、現状のまま営業するためには、買主の業種と既存の造作がマッチしているかどうかが重要です。
販売活動をおこなうときは、買主の業種やニーズを配慮し、選別しながら慎重に打診していくようにしましょう。
コツ3.貸店舗は買主を見つけてから解約を申し出る
貸店舗の場合は、解約のタイミングを見極めることも高く売るための重要なポイントです。
買主を探すよりも先に解約を申し出ると、買主が決まらないまま退去日が確定してしまいます。さらに、退去日が迫っていることを口実に、買主から値下げ交渉が入るかもしれません。
そのため、閉店予定があっても、売却のメドが立つまでは解約を申し出ないのもテクニックの1つです。
買主が見つからなかったり、納得する価格で売却できなかったりするときは、そのまま営業を続けることもできます。
コツ4.複数の不動産会社へ相談する
ほとんどの不動産会社で居抜き物件の売却をおこなっていますが、なるべく高く売却したいときは複数の不動産会社に査定をしてもらい、比較するのがおすすめです。
しかし、1つ1つの不動産会社に査定依頼を出すと、膨大な時間と手間がかかってしまいます。なるべく時間をかけず、スムーズに居抜き物件を売りたいという人も多いと思います。
そこで、オンラインの一括無料査定で、複数の不動産会社に査定額を出してもらうとよいでしょう。
一括査定なら、大手不動産会社から地元密着型の不動産会社まで一度に査定可能で、好条件を出してくれるところがすぐにわかります。
下記の査定フォームでは、全国の不動産会社から高額で買取・仲介してくれるところを調べられますので、ぜひ活用してください。
居抜き物件売却の流れ
ここからは、居抜き物件を売却する流れを解説していきます。
業種によって多少違いが出てくるかもしれませんが、基本的な流れを押さえておきましょう。
1.ファーストヒアリングと現地調査
まずは、査定を申し込むことからはじまります。査定日を決め、売却担当者が現地を訪れ店舗状況を調査します。査定額は「売却条件」「立地」「設備状況」「周辺店舗」などを考慮して算出されます。
ほとんどの不動産会社で、査定料は無料で実施されています。
2.売却計画の立案
ヒアリング後は、オーナーと担当者が図面を見ながら売却に向けて打ち合わせをします。貸店舗の場合は、貸主の承諾を得るための話し合いが必要です。
また、従業員への閉店告知・店舗の売上・造作の価格などを考慮しながら、売却戦略を考えていきます。
3.買主の募集
売却戦略を立てたら、店舗の写真を撮影し、募集広告を作成しましょう。どの程度公開するのか、事前に希望を伝えましょう。
ウェブサイトを使い広範囲に幅広く募集するのか、特定の顧客だけに絞り限定的に広告するのか、売主の事情に合わせた募集をおこないます。
4.内見と申込
内見希望者が現れたら、閉店後など営業に支障がない時間帯に店舗の内見がおこなわれます。内見では、造作の確認や価格交渉、入居日の調整を話し合います。
居抜き物件は買主が限定されているため、立地によっては頻繁に購入希望者が現れることはありませんが、いつ内見がおこなわれてもいいように、店舗内は清潔にしておきましょう。
5.契約
買主が決まったら売買契約を締結します。契約書は不動産会社が用意してくれるため、売主は造作の状態や価格が正しく記載されているか確認しましょう。
賃貸物件の場合は、所有権者と新オーナー間で賃貸借契約を交わします。
6.引き渡し
売買契約後はテナントの受け渡しをおこないます。旧オーナーから新オーナーに鍵と売買代金を引き渡し、引き渡しが完了となります。
居抜きにしないで売る場合
売却を進めていくなかで、居抜き売却が難しいと判断することもあると思います。その場合、途中で居抜きにせず売る方向に転換することも可能です。
前述したように、設備や内装を撤去してから売却することを、スケルトン物件売却と呼びます。スケルトン物件として売却するときは、撤去工事が必要です。
設備や内装を完全に撤去することもできますし、空調やトイレだけを残すという一部撤去工事も可能です。売主・買主の希望に合わせて工事をおこなえます。
スケルトン物件は1からレイアウトを考えやすく、以前のテナントイメージもなくなることから、居抜き物件より買主候補者が多い傾向にあります。
一方で、撤退工事が必要になるため、工賃や空家賃などコストがかかるというデメリットもあります。
スケルトン物件の売却に切り替えるときは、退去日から逆算し「いつまでに撤去をおこなえばいいのか」「いつまで店舗を借りていればいいのか」など、しっかりスケジュール調整をしていきましょう。
まとめ
居抜き物件として売却する場合、設備を処分する必要がありません。撤去工事が不要なうえ、買主から造作譲渡料を受け取れることから、うまくいけば一般的な売却よりも100万~300万円ほどお得に売却が可能です。
買主が限定されてしまうことや閉店告知のタイミングが難しいという点を除けば、売主にとってメリットが大きい売却スタイルといえます。
ただし、貸し物件の場合は大家の承諾が必要になりますので、独断で売却しないように注意してください。
居抜き物件の売却は、スケジュール調整・買主と貸主との交渉がとても重要です。専門的なノウハウを熟知する不動産会社と協力して、売却を成功させましょう。