生産緑地は、用途を農地に限定される代わりに税金の優遇制度を受けられますが、建築や利用に制限がかかるためこれを解除したいという方も少なくないでしょう。
ただ、生産緑地は、一度指定されると解除は簡単ではありません。具体的には以下の要件に該当し、自治体へ申請する必要があります。
生産緑地の指定を解除する要件
| 指定解除の要件 |
補足説明 |
| 生産緑地に指定された日から30年経過 |
30年で税優遇が終了するため、解除や特定生産緑地の選択が必要になる。 |
| 主たる従事者が農業をできないほどの障害や病気にかかる |
農業継続が困難と判断されれば対象。診断書と従事実態の確認が必要。 |
| 主たる従事者の死亡 |
亡くなった人が実際に農作業を担っていた場合に限り対象となる。 |
生産緑地を解除するための手順は以下のとおりです。
- 指定解除の要件を満たしていることを確認する
- 自治体に買取の申出をする
- 自治体から「買取を行う旨の通知」が届く
なお、生産緑地を解除する場合、これまで猶予されていた相続税に年間約3.6%の利子税を上乗せした金額を一括で支払う義務が発生します。また、土地の扱いも農地ではなくなるため、固定資産税も高くなる点に注意が必要です。
指定を解除された土地は自治体で買い上げるのが原則ですが、場合によっては買取を拒否される可能性もあります。その場合は農業希望者への斡旋が行われ、それでも買い手が見つからなければ行為制限が解除され、宅地など農地以外の用途で利用できます。
本記事では、生産緑地の指定が解除される要件や指定を解除する手順、注意点などを詳しく解説します。
もし、生産緑地の売却まで視野に入れているなら、訳あり物件に特化した一括査定を利用して、複数業者の査定金額を比較するとよいでしょう。生産緑地のような訳あり不動産に特化した業者を一括比較できるので、ぜひ参考にしてください。
生産緑地の指定が解除される要件
一度、生産緑地に指定されると気軽に解除できませんが、以下の要件のうちいずれかを満たせば認められるケースがあります。
- 生産緑地に指定された日から30年経過
- 主たる従事者が農業をできないほどの障害や病気にかかる
- 主たる従事者の死亡
生産緑地の指定を解除すると自治体がその農地を買い取るのが原則です。
自治体から買取を拒否されて、他の農業したい人への斡旋もできなかったときに、行為制限が解除されて宅地に転用できるようになります。
次の項目から、解除のために必要な3つの要件をそれぞれ解説します。
生産緑地に指定された日から30年経過
生産緑地の指定期間は30年であるため、指定告示日から30年経過すると生産緑地の指定が解除されて買取の申出が可能です。
ただし、30年経過したからといって自動的に生産緑地としての指定が解除されるわけではありません。生産緑地の指定期間が過ぎると、買取の申出か特定生産緑地の指定も受ける必要があります。
特定生産緑地・・・生産緑地の期限(30年)を、10年ごとに延長できる制度です。延長すると今までと同じ税優遇が続き、農地として扱われます。
特定生産緑地の指定も受けず、買取の申出をしなかった場合、その土地は生産緑地のままで税制上の特例は受けられなくなります。固定資産税や都市計画税は段階的に宅地並みの課税へ移行し、相続税の納税猶予も次の相続以降は新たに適用できません。
参照:国土交通省「特定生産緑地指定の手引き」
したがって、営農の義務や新たな建築物の建設や宅地転用の行為制限は受けたまま、税金だけ高くなることに注意しましょう。
主たる従事者が農業をできないほどの障害や疾病
主たる従事者とは、その生産緑地で中心となって農業をしている人のことです。また、主たる従事者には以下の条件を満たす人も含まれます。
- 65歳未満の場合は、主たる従事者の1年間の従事日数の8割以上従事している人
- 65歳以上の場合は、主たる従事者の1年間の従事日数の7割以上従事している人
- 都市農地貸借円滑化法に基づく認定都市農地または特定都市農地貸付けのために利用される都市農地、特定農地貸付法等の特例に関する法律に基づく特定農地貸付のために利用されている生産緑地の場合は、主たる従事者の1年間の従事日数の1割以上従事している人
なお、生産緑地の買取の申出にあたり、障害や疾病にかかった人が主たる従事者であることを証明するためには、農業委員会から証明書の交付を受ける必要があります。
このとき農業委員会は証明書の申請を受けて、買取申出の理由となった人が本当に主たる従事者なのか現地調査をおこないます。
そして「農業をできないほどの障害や疾病」というのは「両目の失明」「腕または足の喪失」「精神の著しい障害」「1年以上の入院を要する病気」などを指します。
このことを証明するためには、医師の診断書に「農業を継続できない」という旨の記載が必要なので準備を忘れないようにしましょう。
参照:国土交通省「生産緑地法施行規則の一部を改正する省令」
主たる従事者の死亡
主たる従事者が死亡してしまった場合、生産緑地の指定期間が30年未満であっても買取の申出が可能です。また、主たる従事者が2人以上の場合、残された人だけでは農業を続けられないときに買取の申出が認められています。
このとき、申出の理由となった人が本当に主たる従事者であるかを確認するための「主たる従事者についての証明書」と亡くなっていることを確認するために戸籍謄本または除籍謄本が必要です。
主たる従事者の証明書は、申請後に農業委員会が現地調査や聞き取りを行い、死亡前の従事実態を確認したうえで発行されます。
また、要件は「主たる従事者」なので、土地の所有者である必要はありません。仮に亡くなった人が土地の所有者であっても、主たる従事者でなかった場合、相続発生を理由に買取を申し出ることは不可能です。
生産緑地の指定を解除する手順
次に生産緑地の指定を解除する手順についてです。解除要件を満たしていることを確認して、自治体へ買取の申出をします。具体的には以下の手順で進めます。
- 指定解除の要件を満たしていることを確認する
- 自治体に買取の申出をする
- 自治体から「買取を行う旨の通知」が届く
生産緑地は原則、自治体が買い取りますが、予算の都合で買取を拒否されることもあります。このような場合、農業従事希望者へ斡旋(あっせん)がおこなわれます。
斡旋もおこなわれない場合、該当の生産緑地の行為制限は解除され、宅地への転用が可能になります。
それぞれの手順を具体的に説明します。
1.指定解除の要件を満たしていることを確認する
生産緑地の指定解除となる買取の申出をするときには、最初に「自分の生産農地が指定解除の要件を満たしているか」を確認します。
【指定解除の要件】
- 生産緑地に指定された日から30年経過
- 主たる従事者が農業をできないほどの障害や病気にかかる
- 主たる従事者の死亡
生産緑地の指定は申請日ではなく、指定告示日のことです。指定日が分からなければ市区町村の役所に問い合わせることで、自分の農地がいつ生産緑地に指定されたのかを教えてもらえます。
また、各自治体のホームページに「生産緑地地区指定一覧表」が掲載されていることもあるので、確認してみてください。
主たる従事者が故障または死亡したことを理由に指定解除を申し出る際は、農業委員会へ「主たる従事者の証明書」の交付を依頼します。農業委員会が現地調査や聞き取りにより、従事実態を確認したうえで発行されます。
2.自治体に買取の申出をする
指定解除の要件を満たしていると行政が判断したあとは、自治体に買取の申出をします。
その際、必要となる書類は主に以下の通りです。
- 生産緑地買取申出書(実印を押印)
- 同意書(所有権者と申出地に所有権以外の権利を持つ人全員の同意)
- 印鑑証明書(発行後3カ月以内)
- 土地登記簿謄本・公図
- 生産緑地買取申出地の位置図および区域図
- 農業従事者証明
- 生産緑地買取申出に係る確認表(自治体の指定様式)
- 医師による診断書(故障の場合)
ただし、書類の詳細は管轄する自治体や、生産緑地を指定解除によって異なります。
たとえば、主たる従事者の死亡により指定解除する場合は、上記の書類に加えて「遺産分割協議書」や「相続人関係図」が必要になります。
そのため、事前に管轄の自治体へ確認してから買取の申出をおこないましょう。
3.買取する旨の通知が届く
自治体が買取する場合、申出から1カ月以内に買取る旨の通知が申出者に送られます。そのあと、買取価格の協議をおこないます。
買取価格は時価を基準に協議の上、決定されます。ここで協議が成立すれば公共用地となり、生産緑地の指定は解除されます。
買取されない場合もある
市が買取しない場合も、買取するときと同様に申出から1カ月以内に買取しない旨の通知が届きます。
そのあとは、農林漁業希望者への斡旋がおこなわれます。農林漁業希望者への斡旋は2カ月間です。その間に土地の購入希望者が見つかり、価格の協議が成立すれば売却されます。
ただし、価格は生産緑地としての制限が付いた土地としての価格ではなく、宅地並みの価格となることが一般的です。
その結果、行為制限があるのに高額になるので、希望者が見つからない、または、協議不成立となるケースが多いといわれています。
行為の制限解除
農林漁業希望者への斡旋も不調となった場合、行為の制限の解除通知が届きます。その後、行政側で都市計画審議会が開かれ、生産緑地地区の変更が行われたのち、生産緑地の行為制限は解除されます。
所有者は変わらず生産緑地としての管理が解かれて、宅地への転用や建築物の新築も可能になります。行為制限が解除されるのは、買取申出から3カ月後です。
生産緑地の指定を解除するときの注意点
生産緑地の指定を解除すれば、買取によって現金を得られたり、行為制限が解除されて自由な土地活用ができるなどのメリットがあります。
ただし、以下の2つの注意点があることを覚えておきましょう。
- 高額な納税猶予額を納めなければならない可能性がある
- 固定資産税が宅地並み課税になる
高額な納税猶予額を納めなければならない可能性がある
生産緑地を相続し、相続税の納税猶予の特例が適用されていた場合は注意が必要です。生産緑地の指定を解除すると、猶予されていた相続税額に利子税を加算した額を納めなければなりません。
つまり、農業を続けることを条件に猶予されていた相続税が、生産緑地の解除によって「支払い義務のある税金」になるのです。
利子税は、相続税の申告期限の翌日から年3.6%の割合です。猶予納税額が3,000万円、特例が適用されていた期間が10年だった場合、利子税だけで約840万円になります。
生産緑地の買取は時価が基本であるため、自治体による買取または農業従事希望者への斡旋が成立すれば、納税できない状況は避けられる可能性があります。
しかし、斡旋も不成立となると、行為制限は解除されますが現金は手に入りません。したがって、納税に必要な資金の準備や行為制限された土地の売却などによって現金を用意する必要があります。
納税猶予の特例を受けていた場合、行為制限解除となっても負担が大きいです。買取の申出をする前に、納税合計額がいくらになるかを見積もることが大切です。
固定資産税が宅地並みに高くなる
生産緑地の指定を解除することで「通常の都市計画法上の土地」と同じ扱いになり、宅地への転用も可能になります。その一方で、固定資産税は宅地並みに上がるのが注意点です。
行為制限が解除された状態でそのまま農業を続けることもできますが、その際は宅地並みの固定資産税を支払うことになります。
その差は生産緑地と比較して約10倍あります。急激な税負担を防ぐ「激変緩和措置」が適用されますが、それでも5年後には約10倍以上の固定資産税を納めなければなりません。
生産緑地を指定解除する場合は、固定資産税が高くなることを認識しておきましょう。また、指定解除したあとも農地として利用したい場合は、以下の項目で説明している「特定生産緑地制度」を利用することをおすすめします。
2022年問題への国の対策
自治体が買い取らない場合は不動産会社に相談
自治体へ申出すると、自治体または農林漁業希望者が生産緑地を買取してくれます。
しかし、確実に買取してもらえるわけではなく、買主が見つからずに生産緑地が売れ残ってしまうケースも少なくありません。
申出から3カ月経っても買取してもらえなければ、宅地への転用や建築物の新築も認められますが、その場合は税金の負担が大きくなってしまいます。
ですので、生産緑地の指定解除を申し出ずにそのまま売却したほうが良いケースもあります。
まずは不動産会社に相談し、指定解除をおこなうか、そのまま売却するか、どちらがよいかアドバイスをもらうとよいでしょう。
不動産業者を探すなら一括査定を使おう
生産緑地の売買は一般的な取引ではないため、不動産会社でも知識や経験をもっていない可能性があります。
そのため、一括査定で複数の不動産会社を比較し、生産緑地でもスムーズに売却できるところを探すことが大切です。
「イエコン一括査定」では、1回で複数社の評価を比較できます。生産緑地のような訳あり不動産に特化した業者を一括比較できるので、ぜひ参考にしてください。
>>不動産会社選びで【数百万円】変わる!無料一括査定で高値売却を!
まとめ
生産緑地の指定解除は、指定後30年を経過するか、主たる従事者の死亡または営農できないほどの故障が条件です。
したがって、一度生産緑地に指定されると簡単に解除できるものではありません。また、生産緑地の指定解除は、原則、自治体が農地を買い取ることを意味します。
行為制限が解除されて自由に土地利用できるようになるには、自治体が買取らず、農業従事希望者への斡旋も成立しなかったときです。
生産緑地の指定を解除することにより、固定資産税の優遇措置・相続税の納税猶予が適用されなくなるため、納税するための現金を用意しなければいけません。
そのため、指定解除できる要件を満たしたとしても、本当に解除するかは慎重に判断することが大切です。