共有持分の親族間売買は双方の合意があれば可能
親や兄弟との間で共有持分を売買することは、法律上認められており、双方が合意すれば実行できます。共有持分はそれぞれの共有者が持つ独立した財産権であるため、他の共有者から許可を得なくても自由に譲渡することが可能です。
親族間で持分を売買するメリットは以下の通りです。
- 共有状態を解消して単独所有に変更できる
- 不動産全体を自由に活用・売却できるようになる
- 売却価格や支払い条件を柔軟に設定できる
- 第三者との交渉が不要で手続きがスムーズ
ただし、親族間の取引だからといって口約束だけで進めるのは大きなリスクがあります。後々のトラブルを避けるためにも、正式な売買契約書を作成し、法務局での登記手続きまで完了させることが不可欠です。
親族間売買を円滑に進めるためには、以下のポイントを事前に確認しておきましょう。
| 確認項目 |
重要性 |
| 売買の目的 |
なぜ持分を売買するのか、双方の目的を明確にする |
| 価格設定 |
適正価格で設定しないと税務上の問題が発生する可能性がある |
| 支払い方法 |
一括払いか分割払いか、具体的な条件を決める |
| 契約書作成 |
口約束ではなく書面で正式に契約を結ぶ |
親族間売買では価格や条件面で柔軟性がある一方、税務上の注意点もあります。特に価格設定を誤ると想定外の課税が発生するおそれがあるため、慎重に進めることが重要です。
共有持分の親族間売買を行うメリット
親族が共有者である場合、親族間売買によって持分を統合することで、買い手側には不動産全体を自由に活用できるようになるメリットがあります。
単独名義になれば、他の共有者と相談することなく、売却や賃貸、建て替えといった意思決定を自分だけで行えるようになります。
一方、売り手側にとっては、共有状態から抜け出すことで、維持管理費用や固定資産税といった金銭的負担から解放される点が大きな利点です。共有持分を手放せば、不動産に関する責任や義務を負う必要がなくなります。
また、親族間売買ならではのメリットとして、価格や引渡し時期を互いの事情に合わせて柔軟に調整できる点や、事前に持分を整理しておくことで将来の相続時に共有者が増えて権利関係が複雑化するリスクを回避できる点も挙げられます。
それでは、共有持分の親族間売買には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
価格や引渡し時期等を柔軟に調整できる
親族間での売買で、かつ当事者間で良好な関係が保たれている場合は、互いの経済状況や生活の都合を考慮しながら、価格や条件を第三者との取引よりも柔軟に調整しやすくなります。見知らぬ人同士では難しい細かな配慮が可能になる点が魅力です。
具体的には、以下のような調整がしやすくなります。
- 引き渡しのタイミングを売主の引っ越し準備に合わせて調整
- 名義変更を先に行い、その後ゆっくり転居先を探す
- 支払い方法を分割にするなど、買主の資金計画に応じた設定
- 親族の事情を踏まえた価格交渉
第三者との取引では、契約で定めた引き渡し日を厳守し、買主の入居予定に合わせて進める必要があります。親族間でも契約で定めた期日は守るべきですが、やむを得ない事情が生じた場合には、双方が話し合いで調整しやすいという利点があります。
ただし、価格設定については税務上の注意が必要です。実際の不動産価値よりも極端に安い金額で売買すると「みなし贈与」と判断され、予期しない贈与税が課される可能性があります。この点についてはこちらの章でで詳しく解説します。
相続時の遺産分割で揉めるリスクを軽減できる
親族が共有者である場合、将来の相続に備えて持分を統合しておくことは、共有者がさらに増えて権利関係が複雑になる事態を避けるために有効です。
相続が起きると、亡くなった共有者の持分は配偶者や子どもへ引き継がれます。たとえば、兄弟3人で共有していた不動産で1人が亡くなった場合、その持分は遺族に分散され、共有者の人数が一気に増加します。こうなると、全員の意見をまとめることが極めて困難になります。
| 状況 |
内容 |
| 生前に持分を集約 |
相続時の分割協議がスムーズになり、トラブルを防げる |
| 共有状態のまま相続 |
共有者が増えて権利関係が複雑化し、意見調整が困難になる |
遺産分割の場面では、不動産をめぐって取り合いや押し付け合いが発生しやすく、家族関係に深刻な亀裂が入ることも少なくありません。生前のうちに持分をまとめておけば、こうした親族間トラブルを未然に防ぐことができます。
ただし、持分を統合して単独所有にした後も、その所有者が亡くなれば不動産は相続されます。相続人が複数いる場合、再び共有状態になってしまう可能性があるため、遺言書で不動産の承継者を明確に指定しておくなど、将来を見据えた対策も併せて講じておくことが重要です。
共有持分の親族間売買を行うデメリット
親族間での共有持分売買には、通常の不動産取引とは異なるいくつかのデメリットが存在します。主なデメリットは以下の通りです。
- 金融機関の住宅ローン審査が通りにくい
- 税額控除が適用されないケースがある
これらのデメリットを理解せずに取引を進めると、想定外の負担が発生する可能性があります。事前にしっかりと確認しておきましょう。
金融機関の住宅ローン審査が通りにくい
親族間売買では、金融機関による住宅ローンの審査が非常に厳しくなる傾向があります。これは、親族間での税金対策や、融資したお金を別の目的に流用されるリスクを金融機関が警戒しているためです。
実際、親族間売買への融資を一切行っていない金融機関も存在します。そのため、買主は以下のいずれかの方法を選択する必要があります。
| 選択肢 |
内容 |
| 現金での購入 |
一括払いまたは売主との合意による分割払い |
| 親族間売買に対応した金融機関を探す |
対応可能な金融機関は限られるため、事前の調査が必要 |
| 代替手段の活用 |
自己資金の準備、親からの贈与の活用など |
分割払いを希望する場合は、売主である親族に事前に相談し、支払条件について合意を得ておく必要があります。
また、住宅ローンが利用できない場合の代替手段として、自己資金の準備や親からの贈与を活用する方法も検討しましょう。
ただし、贈与を受ける場合や実際の価格に見合わない低価格で売却する場合は贈与税が発生する可能性があるため、税理士への相談をおすすめします。
税額控除が適用されないケースがある
親族間での不動産売買では、通常の取引なら利用できる税制優遇措置が適用されないケースがあります。多くの特例には「生計を一にする親族との売買は対象外」という要件が設けられているためです。
特例ごとに適用条件は細かく定められているため、ご自身のケースで利用できるかどうかは、必ず各特例の詳細を確認してください。
親族間売買で適用が制限される可能性のある主な特例は以下の通りです。
| 税額控除を受けられる特例 |
概要 |
| マイホームを売ったときの特例 |
居住用の不動産を売却した際、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度。親族間売買では原則として適用されません。
詳細はこちら(国税庁) |
| マイホームを売ったときの軽減税率の特例 |
所有期間が10年を超える居住用不動産の売却時に、譲渡所得税の税率が軽減される制度。親族間売買では適用対象外となります。
詳細はこちら(国税庁) |
| 住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税) |
住宅ローンを利用して住宅を取得した場合に、所得税から一定額を控除できる制度。生計を同一にする親族等からの購入では利用できません。
詳細はこちら(国税庁) |
これらの特例が使えないことで、売主・買主ともに税負担が大きくなる可能性が比較的高いです。取引を進める前に、税理士などの専門家に相談し、実際の税負担額を試算しておくことをおすすめします。
共有持分を親族間で取引する際の注意点
親族間で共有持分を売買する際には、いくつかの重要な注意点があります。
具体的には口約束で済ませず必ず書面で契約書を作成すること、市場価格より著しく安い金額で取引すると「みなし贈与」と判断されるリスクがあること、さらに相続で取得した不動産の場合は事前に相続登記を完了させる必要があることなどです。
また、未成年者が共有者である場合には、特別代理人の選任という特殊な手続きが必要になるケースもあります。これらのポイントを押さえておくことで、親族間売買を円滑かつ適法に進めることができます。
親族間売買であっても仲介を入れ、売買契約書は必ず作成する
親族同士の取引だからといって、口頭での約束だけで済ませるのは非常に危険です。後々のトラブルを防ぐためにも、必ず書面で売買契約書を作成しましょう。
たとえば、代金の支払時期や金額について認識の相違が生じたり、引渡し後に不動産の不具合が見つかった際の責任の所在が曖昧になったり、登記手続きを行わないまま放置して第三者に権利を主張できなくなったりするおそれがあります。
売買契約書には、以下のような事項を明記する必要があります。
- 対象となる不動産の正確な表示(所在地、地番、面積など)
- 売買代金の金額
- 代金の支払時期と方法
- 不動産の引渡し時期
- 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の範囲
もし契約書の作成に不安がある場合は、不動産仲介業者や司法書士に依頼して代行してもらうと確実です。専門家に依頼することで、法的に問題のない契約書を作成でき、安心して取引を進められます。
さらに、売買契約書を公正証書にしておくと、万が一代金が支払われない場合や受け取れない場合でも、裁判を経ずに強制執行などの法的措置を取ることが可能になります。親族間とはいえ、将来的なリスクに備えた対策を講じておくことが重要です。
相場より安い価格だと「みなし贈与」と判断される恐れがある
親族間での売買において、市場価格と比べて極端に安い金額で取引すると、税務署から「みなし贈与」と判断され、想定外の贈与税が課される可能性があります。
みなし贈与とは、贈与するつもりがなかったにもかかわらず、実質的には贈与したとみなされる行為のことです。
たとえば、市場価格3,000万円の持分を500万円で売買した場合、その差額2,500万円が贈与とみなされ、買主に対して810.5万円もの贈与税が課税されるリスクがあります。
| 項目 |
内容 |
| 市場価格 |
3,000万円 |
| 実際の売買価格 |
500万円 |
| みなし贈与額 |
2,500万円(市場価格との差額) |
| 課税対象者 |
買主 |
贈与税額の計算(シミュレーション)
贈与額2,500万円 - 基礎控除額110万円 = 課税価格2,390万円 × 税率45% = 1,075.5万円 - 控除額265万円 = 贈与税額 810.5万円
このように、安易な価格設定は高額な税負担を招く恐れがあるため注意が必要です。親族間売買における適正な価格設定については、こちらの章で詳しく解説します。
相続不動産は相続登記が完了していないと売却できない
相続によって取得した共有持分を売却する場合、事前に相続登記(名義変更)を完了させておく必要があります。相続登記を済ませていない状態では、法的に売却手続きを進めることができません。
相続登記を放置していると、売却できないだけでなく、他の相続人との権利関係がさらに複雑化するリスクも高まります。たとえば、相続人の一人が亡くなると、その持分がさらに細分化され、権利関係の整理が一層困難になります。
また、2024年4月から相続登記が義務化されており、相続を知った日から3年以内に登記しないと過料の対象となります。違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があるため、早めに手続きを済ませましょう。
相続登記は司法書士に依頼するのが一般的で、費用は5万円〜15万円程度が目安です。専門家に依頼することで、複雑な手続きもスムーズに進められます。
未成年の共有者から共有持分を買い取る場合は特別代理人の選任が必要
未成年者が持つ共有持分を、共有者である親が買い取ろうとする場合、「利益相反」に該当するため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。
利益相反とは、親と子の利益が対立する状況を指します。親が子どもの持分を買い取る場合、親の利益が増える一方で子どもの財産が減少するため、親が子どもの代理人として契約を結ぶことは法律上認められていません。
この問題を解決するためには、家庭裁判所に申し立てて、第三者である特別代理人を選任してもらう必要があります。特別代理人が未成年者の代わりに契約手続きを行うことで、適法に売買を進めることができます。
| 手続きの流れ |
内容 |
| 申立て先 |
家庭裁判所 |
| 手続き期間 |
2〜3週間以上 |
| 特別代理人の役割 |
未成年者の代わりに売買契約を締結する |
手続きには一定の時間がかかるため、未成年者が共有者である場合は、早めに準備を進めることが大切です。
親族間売買における適正価格は「相続税評価額の80%以上」が一般的
親族間で不動産を売買する際、過去の判例から判断すると、相続税評価額の80%以上の価格で売却すれば、贈与税が発生しないと考えられています。これは、実際の取引価格が著しく低い場合、その差額分が「贈与」とみなされるリスクを避けるための目安です。持分の相続税評価額は「不動産全体の相続税評価額×持分割合」で算出されます。
たとえば、不動産全体の相続税評価額が2,000万円で、あなたの持分が2分の1の場合、持分の相続税評価額は1,000万円となります。この80%である800万円以上で売却すれば、税務上のリスクを回避できる可能性が高いでしょう。
土地・建物それぞれの相続税評価額の計算方法
相続税評価額は、土地と建物でそれぞれ計算方法が異なります。正確な価格設定のために、両方の評価方法を理解しておくことが重要です。以下で、それぞれの計算方法を詳しく解説します。
土地
土地の相続税評価額は「路線価方式」または「倍率方式」で算出されます。どちらの方式を使うかは、対象となる土地の所在地によって決まります。
| 計算方式 |
計算方法 |
| 路線価方式 |
路線価(国税庁が公表する道路に面した土地の1㎡あたりの評価額)×土地の面積 |
| 倍率方式 |
固定資産税評価額×倍率 |
路線価方式は、市街地など路線価が設定されている地域で使用され、路線価は公示価格の80%程度で設定されるのが一般的です。一方、倍率方式は路線価が設定されていない郊外や農村部などで適用されます。
路線価は国税庁のホームページ(財産評価基準書路線価図・評価倍率表)で確認できます。路線価図の見方がわからない場合は、国税庁の説明ページ(路線価図の説明)を参照すると、どの数字が路線価に該当するのか理解しやすくなります。
建物
建物の相続税評価額は、原則として固定資産税評価額と同額です。固定資産税評価額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されています。納税通知書は通常4月から6月頃に市区町村から郵送されるため、手元にある最新のものを確認しましょう。
もし納税通知書が見当たらない場合は、市区町村の窓口で「固定資産評価証明書」を取得することもできます。
価格設定に不安なら不動産会社または不動産鑑定士に依頼する
自分で相続税評価額を計算するのが難しい場合や、より確実な価格設定をしたい場合は、不動産会社に査定を依頼するか、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼することをおすすめします。
不動産会社の査定は無料で受けられることが多く、市場価格の目安を知ることができます。複数の不動産会社に査定を依頼すれば、より適正な価格帯を把握できるでしょう。
一方、不動産鑑定士による鑑定評価は有料(数十万円程度)ですが、税務署に対して適正価格であることを客観的に証明できる公的な書類となります。
税務リスクを最小限に抑えたい場合や、高額な不動産を取引する場合は、費用はかかりますが不動産鑑定士の鑑定評価を取得することが推奨されます。
将来的な税務調査に備えて、適正価格であることを明確に示せる資料を準備しておくことは、安心につながるでしょう。
共有持分を親族間売買する流れ
親族間で共有持分を売買する際は、不動産仲介業者を通じて適切な手続きを進めることで、トラブルを防ぎながら円滑に取引を完了できます。
共有持分の売買に必要な主な書類は以下の通りです。
- 登記申請書(法務局のホームページからダウンロード可能)
- 住民票
- 共有持分売買契約書(登記の根拠となる書類)
- 印鑑登録証明書
- 固定資産評価証明書
これらの書類を事前に準備しておくことで、手続きをスムーズに進められます。以下にて詳しく見ていきましょう。
共有者(親族)と話し合い、合意形成する
共有持分を売買する際は、まず売主・買主となる親族間で、売買の目的や具体的な条件についてしっかりと話し合うことが重要です。
話し合いで決めておくべき主な項目は以下の通りです。
- 売買価格をいくらに設定するか
- 代金の支払方法(一括払いか分割払いか)
- 不動産の引渡し時期
- その他の特約事項
これらの条件を事前に明確にしておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。曖昧なまま進めると、後から「言った・言わない」の問題が発生しやすいため、必ず双方が納得できる形で合意を形成しましょう。
適正な売買価格を算定する
親族間売買では、不動産会社に査定を依頼するか、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼して、客観的な価格根拠を得ることが重要です。
専門家による査定や鑑定を受けることで、以下のメリットがあります。
| 方法 |
メリット |
| 不動産会社の査定 |
市場の動向を踏まえた実勢価格がわかる |
| 不動産鑑定士の鑑定 |
公的な評価として税務署への説明資料になる |
価格設定の根拠を明確にしておくことで、税務署から「みなし贈与」として指摘を受けるリスクを大幅に減らせます。親族間だからといって適当な金額で決めるのではなく、必ず専門家の意見を取り入れましょう。
売買契約書を作成し、売買契約を締結する
価格や条件が決まったら、不動産会社または司法書士に依頼して、正式な売買契約書を作成します。
契約書の作成後は、以下の手順で契約を締結します。
- 双方が契約書の内容を十分に確認する
- 内容に合意した上で、契約書に署名・押印する
- 契約書は売主・買主双方が各1通ずつ保管する
親族間の取引であっても、後のトラブルを避けるため、売買契約書は必ず作成してください。口約束だけで済ませると、後から紛争に発展するリスクが高まります。
共有持分の売買契約書の作成方法
売買契約書には、以下の重要事項を漏れなく記載する必要があります。
- 売主・買主の氏名、住所、連絡先
- 対象不動産の正確な表示(所在地、地番、面積、持分割合など)
- 売買代金の総額
- 代金の支払時期と方法
- 不動産の引渡し時期
- 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の範囲と期間
以下は、共有持分売買契約書のひな形例です。
共有持分売買契約書のひな形
| 項目 |
記載内容 |
| 契約日 |
令和○年○月○日 |
| 売主 |
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号 氏名:○○ ○○ |
| 買主 |
住所:○○県○○市○○町○丁目○番○号 氏名:○○ ○○ |
| 対象不動産 |
所在:○○県○○市○○町○丁目 地番:○番○ 持分:2分の1 |
| 売買代金 |
金○○○万円 |
| 支払方法 |
令和○年○月○日までに買主の指定口座に振込 |
| 引渡し時期 |
令和○年○月○日 |
| 契約不適合責任 |
引渡しから○ヶ月以内に発見された不適合について売主が責任を負う |
このような形式で、取引内容を明確に記載することが大切です。不安な場合は、専門家に依頼して作成してもらうことをおすすめします。
決済と所有権移転登記を行う
売買契約で定めた支払時期になったら、買主が売主に対して売買代金を支払います(決済)。決済と同時に、不動産会社または司法書士に依頼して所有権移転登記の手続きを進めます。
登記申請には、以下のような書類が必要です。
| 書類の種類 |
内容 |
取得方法 |
| 登記申請書 |
所有権移転登記を申請するための正式な書類 |
法務局のホームページからダウンロード |
| 売買契約書 |
持分を売買した事実を証明する書類(登記の根拠資料) |
契約締結時に作成したものを使用 |
| 登記済権利証または登記識別情報 |
売主が持分の所有者であることを証明する書類 |
売主が以前の登記時に取得したもの |
| 印鑑登録証明書 |
実印が本人のものであることを証明する書類 |
市区町村役場で取得(発行から3ヶ月以内のもの) |
| 住民票 |
買主の現住所を証明する書類 |
市区町村役場で取得 |
| 固定資産評価証明書 |
登録免許税を算出するための評価額を記載した書類 |
市区町村役場で取得(最新年度のもの) |
また、登記手続きには登録免許税の納付が必要です。税額は以下の計算式で算出されます。
登録免許税の計算式は次の通りです。
登録免許税 = 固定資産税評価額 × 持分割合 × 2%
たとえば、固定資産税評価額が1,000万円の不動産の2分の1の持分を売買する場合、登録免許税は以下のようになります。
1,000万円 × 1/2 × 2% = 10万円
この2%という税率は、売買による所有権移転の場合に適用されるもので、親族間であっても売買契約に基づく取引であれば同じ税率が適用されます。
登記が完了すると、買主が新たな所有者として登記簿に記載され、正式に持分の所有権が移転します。
確定申告を行う
共有持分を売却して利益(譲渡所得)が発生した場合、売主は翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行う必要があります。
譲渡所得税の計算は複雑なため、税理士に相談することをおすすめします。専門家に依頼することで、適正な税額計算と節税対策を行えます。
確定申告に必要な主な書類は以下の通りです。
| 書類の種類 |
内容 |
取得方法 |
| 確定申告書(B様式) |
1年間の所得や所得税額を記載し、税務署に提出する書類 |
税務署の窓口、または国税庁のホームページからダウンロード |
| 譲渡所得の内訳書 |
不動産の売却による所得の詳細を記載する書類 |
税務署の窓口、または国税庁のホームページからダウンロード |
| 売買契約書のコピー |
実際の売買金額を証明する書類 |
契約時に作成した契約書を複写 |
| 取得費を証明する書類 |
購入時の価格や費用を証明する書類(購入時の契約書など) |
過去の売買契約書や領収書を用意 |
| 譲渡費用の領収書 |
仲介手数料や登記費用など、売却にかかった費用の証明書類 |
各種支払い時に受け取った領収書 |
確定申告を怠ると、無申告加算税や延滞税が課される可能性があるため、必ず期限内に申告を完了させましょう。
共有持分の親族間売買で発生する税金と費用
共有持分を親族間で売買する際には、買主・売主それぞれに税金や各種費用が発生します。親族間の取引だからといって費用が免除されるわけではないため、事前にどのような出費があるのかを把握しておくことが大切です。
特に、不動産仲介業者を利用する場合は仲介手数料が発生します。仲介手数料には法律で定められた上限額があり、物件価格に応じて以下のように設定されています。
| 物件価格 |
料率(上限額) |
| 200万円以下 |
5.5%(11万円) |
| 200万円超〜400万円以下 |
4.4%(8万8,000円〜17万6,000円) |
| 400万円超 |
3.3%(13万2,000円) |
仲介手数料は基本的に売主・買主の双方に発生するため、取引価格に応じた負担額をあらかじめ計算しておきましょう。
買主にかかる費用・税金
共有持分を購入する買主には、以下のような費用や税金が発生します。
| 費用・税金の種類 |
概要 |
相場・税率 |
| 不動産取得税 |
不動産を取得してから6ヶ月〜1年程度で都道府県から納税通知書が届く |
固定資産税評価額の3〜4% |
| 印紙税 |
売買契約書に貼付する収入印紙代 |
契約金額に応じて200円〜60万円 |
| 所有権移転登記費用 |
登録免許税と司法書士報酬を含む |
登録免許税:固定資産税評価額の2% |
| 抵当権設定登記費用 |
抵当権を設定する場合に必要(登録免許税+司法書士報酬) |
登録免許税:債権額の0.4% |
| 住宅ローン事務手数料・保証料 |
住宅ローンを利用する場合に金融機関に支払う |
借入額の0.5〜2%程度+保証料 |
| 印鑑証明書や住民票等の発行費用 |
必要書類の取得費用 |
1通あたり300〜500円程度 |
| 司法書士報酬 |
司法書士に登記手続きを依頼した場合 |
5万〜15万円程度 |
| 仲介手数料 |
不動産仲介業者を利用した場合 |
売買価格に応じて最大3.3〜5.5% |
特に不動産取得税は、購入直後ではなく、取得から半年から1年程度経過してから納税通知が届くため、忘れずに納付できるよう準備しておきましょう。
売主にかかる費用・税金
共有持分を売却する売主には、以下のような費用や税金が発生します。
| 費用・税金の種類 |
概要 |
相場・税率 |
| 印紙税 |
売買契約書に貼付する収入印紙代 |
契約金額に応じて200円〜60万円 |
| 抵当権抹消登記費用 |
抵当権が設定されている場合に必要(登録免許税+司法書士報酬) |
登録免許税:不動産1つにつき1,000円 司法書士報酬:1万〜3万円程度 |
| 住宅ローンの一括返済手数料 |
住宅ローンの残債を一括で返済する場合に金融機関に支払う |
1万〜3万円程度 |
| 譲渡所得税 |
売却益が出た場合に課税される(所得税+住民税) |
短期譲渡(5年以下):39.63% 長期譲渡(5年超):20.315% |
| 印鑑証明書や固定資産評価証明書等の発行費用 |
必要書類の取得費用 |
1通あたり300〜500円程度 |
| 仲介手数料 |
不動産仲介業者を利用した場合 |
売買価格に応じて最大3.3〜5.5% |
特に譲渡所得税は、売却によって利益が発生した場合にのみ課税されるため、利益が出なければ支払う必要はありません。ただし、利益の有無に関わらず確定申告は必要になる場合があるため、税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
本記事では、共有持分の親族間売買について解説しました。
親族間での共有持分売買は、双方が合意すれば法律上認められており、持分を統合することで不動産の活用の自由度を高められます。価格や引渡し時期を柔軟に調整できる点や、将来の相続トラブルを防げる点がメリットです。
ただし、市場価格より著しく安い金額で取引すると「みなし贈与」と判断され、想定外の贈与税が課されるリスクがあります。適正な価格設定のためには、不動産会社や不動産鑑定士に査定を依頼し、客観的な根拠を得ることが重要です。
また、親族間であっても口約束で済ませず、必ず書面で売買契約書を作成してください。相続で取得した不動産の場合は、事前に相続登記を完了させておく必要があります。売買の際には、買主・売主双方に登録免許税や仲介手数料、印紙税などの費用が発生する点も忘れずに確認しておきましょう。
もし親族間での話し合いがまとまらない場合や、早急に共有状態を解消したい場合は、共有持分を専門に扱う買取業者への売却も選択肢の一つです。イエコンの一括査定を利用すれば、複数の専門業者から査定を受けて、より有利な条件で売却できる可能性があります。
共有持分の親族間売買を検討している方は、本記事で解説した注意点を押さえながら、慎重に手続きを進めてください。不安な点がある場合は、不動産会社や司法書士、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。