
マンションの所有者に対して固定資産税が課されますが、マンションを売却した時はどのような取り扱いになるのでしょうか?
この記事では、マンションに課される固定資産税についてお伝えするとともに、マンションを売却した時に、どのように固定資産税が取り扱われるか、などについても解説していきます。
マンション売却における固定資産税については、特に売主側がよく理解しておかなければ損となるケースが多いです。
この記事を参考に、マンションの売却時にスムーズに損することなく固定資産税を払えるようになりましょう。
目次
マンション売却における固定資産税の取り扱い
固定資産税は、不動産を所有している人に対して課される税金ですが、マンションを売却する時、その取扱いはどうなるのでしょうか?
①マンションの固定資産税
最初に、固定資産税についてお伝えしましょう。固定資産税は、不動産の所有者に対して課税される税金で、不動産の価値が高い程、高い税金が課されます。
具体的には「固定資産税評価額」と呼ばれる、その不動産の評価を表す指標に基づいて納税額が決定されますが、その計算方法は以下の通りです。
※ただし、1.4%は市町村によって異なることがあります
都市計画法に定められる市街化区域内にある不動産に対しては、都市計画税も課されます。
都市計画税を求める計算方法は以下の通りです。
この記事では、都市計画税については触れませんが、基本的には固定資産税と同じように取り扱われます。

固定資産税は3年に1回評価替えが行われる
固定資産税は、不動産の価値に基づいて定められますが、その価値は周辺環境や経済状況によって変わります。
例えば、10年前にはなかった新しい駅や大きな商業施設ができれば、その不動産の価値は高くなります。一方で、10年の間に高齢化が進み、人口がどんどん少なくなっているような地域では不動産の価値は低くなっていきます。
また、建物については時が経つにつれて劣化していきます。
こうした、周辺環境や経済状況の変化、時の経過による劣化などを評価額に反映させるため固定資産税評価額は3年に1度評価替えがなされます。
なぜ毎年でないかというと、それだけ評価に手間がかかるからです。3年も経つと大きく評価の変わる不動産もある中評価替えがなされるまでは、その変化は反映されないまま税金が課されることになります。
そのため、不動産間の不公平をなくすために、固定資産税評価額は実勢価格の7割程度を目安に定められています。

マンションで受けられる固定資産税の軽減特例
土地は更地のままだと高い固定資産税が課されますが、住宅用に利用されている宅地や建物は固定資産税の軽減措置が受けられます。
具体的には、土地については小規模住宅用地(200㎡以下)分までが固定資産税評価額の1/6に、一般住宅用地(200㎡超)分が固定資産税評価額の1/3となります。
■土地に関する固定資産税の軽減特例
面積 | 軽減 |
小規模住宅用地(200㎡以下) | 1/6 |
一般住宅用地(200㎡超) | 1/3 |
マンションの場合だと、200㎡では到底収まりきらない敷地であるケースもありますが、敷地全体の面積をマンションの部屋数で割って面積を求めることができます。
例えば、4,000㎡の敷地に、50戸部屋のあるマンションであれば、1戸あたり80㎡なので、自分の持分については全て1/6の軽減を受けられます。
また、家屋(建物)も固定資産税の軽減を受けられますが、その内容は5年または7年(長期優良住宅の場合)の間、建物の固定資産税を半額にできる(ただし、延べ床面積50㎡~280㎡)というものです。
土地はずっと軽減が続きますが、建物については6年目もしくは8年目以降は軽減を受けられなくなる点に注意が必要です。
■建物に関する固定資産税の軽減特例
建物 | 軽減年数 |
3階建ての耐火建築物 | 5年間 |
上記+長期優良住宅 | 7年間 |
②納税義務者は1月1日現在の所有者
固定資産税を誰が納めるか?という判断については当然のことながら明確に決まりがあり、その年の1月1日時点での所有者が納税することになっています。
マンションを売却すると、売り手(売主)から買い手(買主)に所有権が移転しますが、売却した年の1月1日時点での所有者は売主のため、その年は売主側が固定資産税を納める必要があります。
なお、売主には毎年4月~5月頃に1年分の固定資産税の納付書が、3カ月ごとに納付期限を分け送られてきますが、全て売主を名義人として送られてきます。

③日割りでの分割計算が一般的
そうなると、マンションの売却はできるだけ年末に近い11月や12月にしたほうがよいのかというと、そういうわけでもありません。
固定資産税の取り扱いについては、売主と買主の双方で決めてよいのですが、通常、日割りで分割する方法が取られます。
例えば、6月20日に所有権が売主から買主に移転したのであれば1月1日から6月19日までの分を売主が、6月20日から12月31日までの分を買主が負担します。
例えば、年間の固定資産税が10万円だった場合には、売主の所有していた日数は
1月(31日)+2月(28日)+3月(31日)+4月(30日)+5月(31日)+6月(19日)=170日
となるため、売主の負担分を10万円×170日÷365日=約46,575円と計算することができます。
固定資産税の日割り分については、売却代金と同時に、100,000円-46,575円=53,425円を受け取ります。
この時、買主から売主に支払われる日割り計算分は「固定資産税分担金」と呼ばれます。
④1月~4月の売却だった場合はどうなる?
固定資産税の納付書は、毎年4月~5月(自治体により異なります)に、1月1日時点での所有者に対して送付されてきますが、1月~3月など、まだ納付書が来ていないタイミングでの売却だとしたら、どのように取り扱うのでしょうか?
この場合も、実際に売主と買主が話し合いをしてどうするか決めてよいのですが、よく利用される方法としては以下のようなものがあります。
- 去年の固定資産税を今年の固定資産税として精算する
- 今年の固定資産税納付書が届いてから振り込んでもらう
固定資産税は築年数の経過による評価減や、3年に1度の評価替えもあるため、去年の固定資産税と今年の固定資産税は異なりますが、近所に駅が開通したなどの出来事がない限り、そう大きく変わるものではありません。
そこで、去年の固定資産税を今年の固定資産税として、固定資産税分担金を計算することがあります。
一方、まだ納付書が届いていない場合は、納付書が届いてから、売主から買主に対して請求書を送付し、振り込んでもらうこともあります。
少し手間がかかりますが、お互いスッキリできるのは後者の方法でしょう。
固定資産税を会計処理するときの起算日は2種類ある
さて、先ほど、固定資産税の納税義務者はその年の1月1日の所有者である旨をお伝えしました。
そのことを前提として、1月1日を起算日として固定資産税分担金の計算をしましたが、実はこの起算日については4月1日とすることもあります。
①関東は1月1日・関西は4月1日を起算日とすることが多い
固定資産税の起算日は慣習により1月1日とする場合と、4月1日とする場合があります。
起算日が2つある理由ですが、慣習の違いと言うしかないのですが、一般的には1月1日の所有者に対して請求されるから1月1日を起算日とする考え方と、会計年度の始まりが4月1日なので4月1日を起算日とするという考え方があるからです。
そもそも、この起算日については法律に何ら決まりがあるわけでもなく、当事者間で決められるものです。
例えば、当事者間で起算日を6月1日にしようと思えばそれも可能です。実際には、当事者間で特に固定資産税に関して主義主張もないから慣習に従うという方が多いでしょう。
②起算日を決めないトラブルが多い
上記のように、起算日については法律に定められたものではなく、売主と買主の合意に基づいて決められるものなので、後々のトラブルを避けるため不動産売買契約書に起算日を明記することが大切です。
例えば、先ほどの例で、6月20日に対象のマンションの所有権が売主から買主に移転したようなケースでは、起算日が1月1日であれば買主は6月20日~12月31日分の負担で済みますが、起算日が4月1日であれば6月20日~翌年の3月31日の期間分まで負担する必要があります。
一方、売主としては、4月1日~6月19日の80日間だけ、10万円×80日÷365日=約21,918円の負担で済みます。
■起算日ごとの売主・買主の負担額(固定資産税額10万円、6月20日引渡しの場合)
起算日 | 売主の負担額 | 買主の負担額 |
1月1日 | ¥46,575 | ¥53,425 |
4月1日 | ¥21,918 | ¥78,082 |
固定資産税が高額になればなるほど、違いも大きくなってくるため、起算日の問題についてはよく覚えておくとよいでしょう。
なお、売買契約書はその約款も含めて売買を仲介する不動産会社が作成するため、過去、不動産流通推進センターに寄せられた同様の問題では、起算日の記載のない売買契約書を作成した不動産会社もその差額の一部を負担する覚悟を持つべきだという見解がホームページに掲載されています。
参照:不動産流通推進センター 固定資産税の分担起算日を定めなかった場合の対応
固定資産税の精算方法
固定資産税の精算方法については、所有権の移転する日までにその額が分かっている場合には売買代金と同時に、分かっていない場合には分かった段階で売主から買主に支払われるのが一般的です。
ここまでで、何回か計算していますが、固定資産税分担金は以下のような計算式で求めることができます。
また、固定資産税分担金については「引き渡しの日を持って区分する」などと契約書に記載します。
その表現方法にもいくつかパターンがあり、例えば「引き渡しの日から翌日以降を買主の負担とする」といったような記載だと、厳密にいうと
が正しい計算式になります。

固定資産税を精算する際の注意点
ここでは、固定資産税を精算する際の注意点についてお伝えしていきます。
①買主に固定資産税を支払う義務があるわけではない
何度かお伝えしていますが、固定資産税分担金の取り扱いについては、買主と売主の合意によって決められます。
法律では、固定資産税はその年の1月1日時点での所有者が負担するとなっているだけなので、慣習で日割り計算することになっているからといって、買主が必ずしも負担しなければならないわけではありません。
②起算日や精算方法は不動産業者の考えを参考にする
固定資産税は起算日や精算方法についても売主と買主の合意の上で決められるオーダーメイド方式です。
とはいえ、マンションの売買契約では他にも考えなければならないことがたくさんあるため、実際には固定資産税の起算日や精算方法について詳しく打合せする機会などほとんどありません。
固定資産税の取り扱いについては、これまでの慣習に従い、売買契約書に記載された内容通りに進められるのが普通でしょう。
一方で、不動産会社に全てを任せきりでは、いざトラブルが起こった時に自分にその責任が及んでしまいます。
固定資産税の取り扱いについては、これまでお伝えしてきたように、起算日や精算方法でトラブルになることがあります。
起算日や精算方法については、基本的に不動産会社の考えを参考にした上で、売買契約書の記載内容に気になる点があれば確認、修正してもらうとよいでしょう。
③固定資産税の精算業務に費用はかからないの?
固定資産税を含め、マンションの売却では仲介手数料や登記費用の支払いなど精算しなければならない経費が存在します。
登記費用などで、仲介業者を通さず直接司法書士と取引している場合には自分で精算する必要がありますが、そうでない場合、特に固定資産税では場合によってはマンションの引き渡し後、数カ月経ってから精算する可能性もあります。
こうした精算に関する業務に対し、費用は発生するのでしょうか?
この点、不動産会社には仲介に関する手続き時に仲介手数料を支払っているため、それ以外で費用が発生することは原則ありません。
もちろん、固定資産税の納付額が決まるまで待って、数カ月後に分担金を請求するような場合でも特別に事務手数料などを支払う必要がないため、安心してよいでしょう。
まとめ
マンション売却時の固定資産税について、取扱いや精算方法、起算日の違いや注意点などについてお伝えしてきました。
不動産売買において、固定資産税についての取り決めは、「1月1日時点での所有者に対して納付書が送付される」ことぐらいで、その他のことについては売主と買主の合意によって定められます。
とはいえ、実際には固定資産税の取り扱いについて売主と買主、不動産会社で膝をつきあわせて打合せをする機会があるかといえばそんなことはなく、ほとんどの場合、不動産会社の作成した売買契約書の内容に従うことになるでしょう。
しかし、固定資産税の取り扱いについてトラブルが起こることがあるのも事実なので、特に起算日や精算方法についてはこの記事を参考にしていただき、内容をよく理解した上で、売買契約にのぞむとよいでしょう。