
マンションやアパートなどの不動産物件を運営していると、入居者の病死や自然死、そして自殺や殺人などの事件や事故が発生する恐れもあります。
このような事故が発生してしまうと、いわゆる事故物件となり、入居者に対して心理的瑕疵が存在することを告知しなければなりません。
特に遺体の発見が遅れたり、殺人事件が発生した場合、室内に血液や体液が飛散して、痕跡が残ることもあります。
そうした場合、大幅にリフォームしないと、新しく入居者を募集することはできないでしょう。
この記事では、事故物件の部屋や建物をリフォームして貸し出すまでの流れやリフォームの相場を解説していきます。
事故物件のリフォーム費用の相場
自分の所有不動産が事故物件となってしまった場合、基本的に大幅なリフォームが必要です。
体液や血液が現場に染み付いていると、女性に限らず、男性にも避けられます。
単純にそのままの状態で貸出しできませんし、体液や血液が残っていると、ウイルス性の感染症が発生する恐れもあります。
美観や外観を維持する目的ではなく、借り手の健康面を守る意味でも大幅なリフォームは必要なのです。
また壁紙や床だけではなく、キッチンやお風呂などの水回り、そしてエアコンなども交換しないといけないケースもあります。
それぞれの設備をリフォームする場合、負担する費用を見てみましょう。

壁紙や床の交換費用は約5~7万円
まず、重要なのは内装の交換です。
体液などが染み付いた壁やフローリング、クッションフロアなどは全面的に交換する必要があります。
天井や壁などの壁紙張り替えする場合の一般的な費用相場は、1㎡あたり1,000円前後となっています。
デザイン性を重視した壁紙に張り替える場合、さらに費用は高くなります。20㎡前後のワンルーム物件の場合、居室部分の壁紙張り替えで3万円から5万円といったところでしょう。
床部分の張り替え費用の相場は、6畳で2万円前後です。
クッションフロアにすれば、費用を抑えられますが、質の良いフローリングにすると、さらに費用が多くかかります。
風呂場の壁紙を張り替える場合、追加で1~2万円かかるでしょう。
20㎡~25㎡の物件で壁紙と床をすべて交換する場合、5~7万円は費用を負担しなければなりません。
トイレやキッチンなど設備の交換費用は約50万円
事故物件をリフォームする場合、壁紙や床の交換だけでは済みません。
高齢者の自然死だと、入浴中の風呂場で発見されるケースもあります。
遺体の状態次第では、風呂やトイレが故障したり、体液や血痕などが残る可能性もあります。
事故物件の設備を交換する場合、交換費用は以下のとおりです。
- トイレの交換:トイレユニットそのものの購入費用は、3万~5万円程度
- お風呂の交換:ユニットバスの価格は、10万~15万円前後
- 洗面所の交換:洗面所の価格は、5万円程度
- エアコンの交換:新品のエアコン本体の費用は、3万~5万円程度
これらは設備自体の費用ですので、さらに工事費としてそれぞれ3~5万円程度の費用がかかります。
その他にも、前の設備を廃棄する費用も負担しなければなりません。
例えば、トイレとお風呂を交換する場合、30万円前後かかると思っておきましょう。
エアコンを交換する時も、最低でも5万円程度はかかると見積りしておきましょう。
キッチンや風呂まで室内全体をリフォームする場合、50万円以上かかるケースもあります。
故人の遺族に原状回復費用を負担してもらえるケースもありますが、自然死や孤独死の場合、遺族と連絡が取れずに負担してもらえないケースもあります。
高齢者に1人暮らし用の物件へ入居してもらう場合、孤独死のための保険へ加入してもらったり、大家自身が保険に加入することも検討しましょう。

事故物件のリフォーム業者を選ぶ3つのポイント
リフォーム費用の相場を確認したところで、次はリフォーム業者選びのポイントを見ていきましょう。
良いリフォーム業者を選べれば、費用も安く抑えつつ、人に貸出できる状態にリフォームできます。
事故物件である事実を伝えても断らない業者
もっとも重要なのは、事故物件である事実をリフォーム業者へ最初に伝えることです。
残念ながらリフォーム業者の中には、事故物件のリフォームを断る会社もあります。
特殊清掃やお祓いを実施すれば、見た目の問題が無くなるので、業者に依頼を受けてもらえる可能性が高まります。
事故物件をリフォームする場合、事前に特殊清掃をしてから、リフォーム業者へ見積りを依頼するとよいでしょう。

リフォーム費用の細かい内訳を提示してくれる業者
次のポイントは、見積りを出した時にリフォーム費用の細かい内訳を出してくれる業者を選ぶことです。
見積りの明細を作ることを嫌がり、一括で「リフォーム費用」や「職人人件費」などの曖昧な見積を出すリフォーム業者もいます。
そういった曖昧な見積りしか提示してこないリフォーム業者は、工事後に費用を上乗せしてくる恐れがあるため注意しましょう。
細かな内訳を出してもらえば「本当に重要な費用が何なのか?」や「ここは工事の必要がない」といったことが、自分で判断できますね。
事故物件であっても、リフォームは必要最低限にとどめて、できるだけ費用を節約しましょう。
相見積を取ることを了承してくれる業者
リフォームを依頼する時は、複数のリフォーム業者へ相談して、相見積(あいみつ)を取ることも重要です。
相見積を取れば、リフォームの相場を把握しながら値引き交渉などができます。
リフォームを初めて依頼する人は「どの部分の工事がどの程度の費用がかかるのか?」の相場を知らないため、割高な費用で業者へ依頼してしまう恐れがあります。
相見積を取って費用を比較すれば「A社はトイレが安いけど、B社は壁紙が安い」など、比較しながら検討できます。
ただしリフォーム業者に対しては、きちんと相見積を取ることを伝えておきましょう。
相手も仕事でやっているわけですから、いくら見積りが無料とは言え、コストが発生しています。
できるだけ手間を取らせないように、あらかじめ相見積を取っていることを伝え、断る場合は早めに断りましょう。
また、しつこい価格交渉も厳禁です。業者に嫌われるような交渉ばかりしていると、リフォームを依頼しても業者から断られてしまう恐れもあります。
リフォーム業者に依頼してから工事完了までの流れ
実際にリフォーム業者に依頼してから、工事が完了するまでの流れはどのように進むのでしょうか。
リフォーム業者に現地で見積りしてもらう
初回の現地見積の後、精密な見積をもう一度取ってもらいます。
ここで大幅に料金が変わることは少ないですが、初回の見積では確認できなかった瑕疵が発覚するかもしれません。
特にリフォームに慣れている業者ほど、素人では気づけない瑕疵まで見つけてくれる可能性が高いです。
工期を見積りしてもらって工事日時を決定する
見積り費用に問題なければ、次は工期がどの程度かかるかという、時間的な見積りと工事期間の決定します。
工事期間が長くなればなるほど、職人の人件費がかかります。
できるだけ集中して短期間で工事してもらえる日時を選びましょう。
もし自分で立ち会いたい場合、立ち会いできる日時を工期に入れてもらいましょう。
リフォーム会社の忙しさによって、工事可能な日程が変わることもあります。
業者の都合にあわせて工期を調整できれば、リフォーム費用を割引してもらえるケースもあります。
リフォーム工事することを他の住人へ告知する
工事が決まったら、必ず他の部屋の住人への告知しましょう。
リフォーム工事が開始されると、どうしても騒音が発生してしまいます。
基本的には平日日中に工事しますが、日中に在宅している住人もいるでしょう。
また、同じ物件の住人だけでなく、近隣住宅にも騒音や臭いなどの問題が起きることもあります。
そのため、あらかじめ「リフォーム工事をおこないます」と知らせておきましょう。
リフォーム業者が近隣住民へ説明してくれることも多いですが、施主である自分も挨拶に伺った方がトラブルを避けられるでしょう。
決定した工期でリフォーム工事を実施する
他の部屋の住人や近隣住民への説明が済んだら、決定した工期でリフォーム工事が実施されます。
1部屋だけのリフォーム工事であれば、数日程度で終わるでしょう。
ただし「壁紙と床の交換はA社、キッチンやバスの交換はB社」など、複数の業者へ依頼する場合、リフォーム工事が1週間程度かかることもあります。

立会いして物件の引渡し確認をする
リフォーム工事の完了の知らせを受けたら、必ず立会いして物件の引渡しをおこないます。
「この部分をこのようにリフォームしました」という報告を受けたら、工事の内訳を見ながら、ひとつずつ細かくチェックしていきましょう。
「リフォーム工事に不備はないか?」と少しでも疑問に思う点があれば、必ずこの場で解決しておきます。
そして、リフォームにかかった工事費用の最終確認をしましょう。
リフォーム後の事故物件を貸し出すときの注意点
事故物件のリフォームが完了すれば、再び物件が賃貸に出せる状態になります。
しかし、心理的瑕疵物件となった以上、そのまま貸出するわけにもいきません。
事故物件となった物件を再度貸し出す場合、以下の点に注意しましょう。
ネット上で物件情報が拡散されているか確認する
「大島てる」というサイトでは、事故物件の情報をインターネット上で公開しています。
そのサイトはインターネットや新聞などで情報を収集しながら「この場所で何月何日に事件や事故があった」という情報を細かく掲載しています。
自分の物件がそのサイトに掲載されているのか、また事件や事故があった場合は報道されているのか、事前に確認しておきましょう。
自分の知らないところで「この物件は事故物件である」と世間に広く知られている可能性があるのです。
物件情報が拡散されているかを自分で把握できているかによって、取るべき対応も変わってきます。
心理的瑕疵物件であることは借主へ必ず告知する
宅建業法で定められているため、心理的瑕疵物件であることは借主へ必ず告知しなくてはなりません。
自分の物件で起こった事故がインターネット上で拡散されている場合、借主側も事故物件であることを知った上で借りるケースが多いです。
「事故物件なので家賃を少し安くしてもらえますか?」と、家賃の値引き交渉を持ちかけられることも少なくありません。
もしインターネット上で情報が拡散されているのに、事故物件である事実を隠していた場合、借主から引越し代や損害賠償を請求される恐れもあるため注意しましょう。

事故内容に応じて不動産会社と相談して家賃を決める
貸出するにあたっては「どのような条件で賃貸契約するのか?」を不動産会社の担当者と相談することになります。
事故物件である事実は不動産会社も当然知っているでしょうから、アドバイスを受けながら、どの程度賃料を割引きするのか、初期費用をいくらにするべきなのか、などを決めていきます。
不動産会社に物件概要を説明する資料「マイソク」などには「告知義務あり」と掲載するだけで、事故の詳細を記載する必要はありません。
ただし、入居希望者から問い合わせがあった時、不動産会社が事故物件の詳細を伝えられるように、不動産会社には物件の状態を話しておく必要があります。
また、事故物件にリフォームやお祓いを施したのであれば、その事実もきちんと伝えておきましょう。
ここで事故物件である事実を隠そうとすると、借主とトラブルになるだけでなく、不動産会社からの信用も失ってしまいます。
不動産会社には、事故物件である事実を包み隠さずに正確に伝えましょう。
「家賃をどの程度値下げする必要があるのか?」という問題ですが、殺人事件や無理心中などの事件や事故があった場合、やはり半額程度まで値引きするケースが多いです。
一方で自然死や病気など、事件性がない死因であれば、10~20%程度の値引きでも入居者が入ってくれることがあります。

まとめ
自分の物件が事故物件となってしまうと、賃貸物件の運営において非常に大きなリスクを抱えます。
賃貸物件として再び貸出できる状態にするには、早急に特殊清掃とリフォームを施さなければいけません。
また、部屋を貸出できないと、修繕費の出費だけではなく、物件を貸出できない期間は家賃を得られないため、収入が激減してしまいます。
オーナーとして収入減の影響を小さくするには、事故物件とする前から特殊清掃業者やリフォーム業者を調べておくとよいでしょう。
もし事故物件が発生した時でも慌てることなく、スムーズに対応できます。
また事故物件の保険に入っていれば、費用が補償されるだけでなく、リフォーム業者や特殊清掃業者の紹介してもらえるので、加入しておくとよいでしょう。